ガンダムビルドダイバーズ ブレイヴガールフラグメント   作:守次 奏

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グランヴォルカ戦に決着がつくので初投稿です。


第六十四話「誓いのトランザム・ライト」

 ムーンとボーガー、そしてガラナンがやられた。

 レーダーから消失した反応を一瞥して、ヴィラノは小さく舌打ちをする。

 盤面を俯瞰してみれば、まともに動けそうなのは相手の、「ビルドフラグメンツ」の中では残り二機、今対峙しているアヤノとそしてガラナンをほぼ無傷で撃破したメグだけだ。

 そうなると、警戒すべきはメグだろうか。

 光の網でアヤノを絡めとろうと、巧みにドラグーンを手動で操りながらも、ヴィラノは僅かに逡巡する。

 一基ずつ、損耗が激しいものから改修してリキャストを行うことでドラグーン全体の稼働時間を延長するという小技を駆使して、ヴィラノはいい加減に粘り続けるアヤノを仕留め切ろうとドラグーンの出力を引き上げるが、それでも尚クロスボーンガンダムXQは、「光の翼」を広げて己に食い下がってくるのだから堪ったものではない。

 

『しつこいねえ……最初に見た時は感心したもんだが、ワンパターンは飽きるぜ、アヤノちゃん?』

「なんとでも言え……! 私はここでお前を仕留める!」

『ユーナちゃんのために、かい? ハハッ! いいねえ、麗しき友情! 美しき絆! でもいい加減、そういうの飽きたよ』

 

 付かず離れずの距離を保ちながら、時にドラグーンの隙間を掻い潜って、バタフライ・バスターBによる斬撃を繰り出してくるアヤノを嘲笑いながらも、心から鬱陶しそうに侮蔑を前面に押し出しながら、斬撃を外したクロスボーンガンダムXQを蹴り飛ばし、ドラグーンの熱線の中へと叩き込んでいく。

 

「ぐ……うっ……」

『おいおい、誰が誰を仕留めるって?』

「……ソードビット!」

 

 一筋縄ではいかないと、頭の中ではわかっていたものの、それでもこうして現実として突きつけられると、厳しいものがある。

 切り札の一つを切らされたアヤノは同じように舌打ちをしながらも、バインダーから展開したソードビットをバリアにすることで全方位から降り注ぐビームの雨霰から機体を守ることに成功していたものの、バリアを使わされたということは、長いリキャストが完了するまでもう二度と同じ手は使えないということだ。

 焦燥が心臓に早鐘を打たせ、ついついそれに駆り立てられて、攻め手を急いでしまいたくなるが、ここで焦りに飲み込まれて勇み足になってしまえば、全てが台無しになる。

 アヤノは頭の中で、己に残された手札の枚数と、思い描いた勝利への方程式を諳んじると、まだ行けるとばかりにきつく歯を食いしばって、機体のエネルギー残量を確認しながら、退屈そうに佇むタイラントプロヴィデンスガンダムへと、牽制となるバタフライ・バスターBを放つ。

 

『おいおい……やる気あんのか、アヤノちゃん? さっきからワンパターンで、マジでつまらないぜ? やる気ないってんなら……まあいいか、ユーナちゃんから潰してやるとするか』

 

 ヴィラノは飛来する閃光の矢を躱すと、両腕を失って宙域に漂っているアリスバーニングブルームを一瞥すると、ドラグーンの一機を動くことのできなくなったユーナへと向けて放とうとした、その瞬間だった。

 二条の細い閃光がドラグーンの一機を貫いて、虚空から溶け出してくるかのように、一機のロービジリティカラーに染め上げられたガンプラが姿を表す。

 

『ミラージュコロイド……! 隠れてやがったのか、ハハッ! こいつは……厄介だな!』

「厄介でもなんでも、やるっきゃないならなんでもやる!」

 

 まさか卑怯とはいうまいな、とばかりに、姿を見せた主であるメグとG-セルフリッパーは、回収したショートビームライフルをタイラントプロヴィデンスガンダムへと放ち、同時にジャマービットを起動することで妨害を試みようとした。

 だが、そこはヴィラノにもSSランカーとしての意地がある。

 ドラグーンの包囲網を切り崩すと、G-セルフリッパーの死角となる位置からの攻撃を放ってジャマービットを撃墜すると、暴君はとうとうただ佇むことをやめ、GNバスターソードを携えてまずはお前だとばかりにその鈍く重い一撃を叩きつけた。

 

「ぐ……っ……! 高トルクモードは、起動してるのに……!」

『おいおい、笑わせてくれるなよ、メグ。そんなもん、起動したところでなんだってんだ?』

 

 高トルクモードを起動したことで緑色に染まった両腕に保持したビームサーベルで、メグはヴィラノの一撃を受け止めようと試みるが、それさえ無駄だと嘲笑を崩すことなく、「鏖殺の暴君」はその暴君たる本性を現すかのように、G-セルフリッパーを吹き飛ばすと、ドラグーンの嵐によって次々と機体に風穴を空けていく。

 リフレクターモードを再起動するまでは時間がかかる。

 じわじわと嬲られるように装甲値を削られていく歯痒さに、メグはぎり、と歯噛みしながらも、決してその瞳に絶望を宿すことはなく、真っ直ぐにヴィラノを睨み付け、毅然と戦場に立ち続けていた。

 そしてそれは、アヤノも同じだった。

 メグが戦線に合流してくれたことで自身を包囲するドラグーンの弾幕に綻びが出たことを利用して、アヤノは寄ってくるドラグーンを叩き斬りながら、「次の一手」に向けた布石を仕込む。

 ──この戦いは、自分一人じゃ確実に勝てない。

 ブリーフィングフェイズであらかじめメグたちへとそう伝えていたように、いくらクロスボーンガンダムXQが優れた機体であろうとも、そしていくらアヤノのセンスが卓越したものであったとしても、SSランカーという壁はそう簡単に破れてくれるものではない。

 ならばどうすればいいのか。

 その答えは至極単純で、一人でダメなら数人で、できることなら三対一以上が望ましかったが、最低でも二対一でヴィラノを挟撃することでそのリソースを削り、消耗戦に持ち込む。

 幸いにも持久戦に必要なエネルギーという意味では、クロスボーンガンダムXQは両肩に装備されたツインドライヴによってそれを確保していたし、恐らくは一番生き残る確率が高いであろうメグのG-セルフリッパーもまた同じだ。

 それがアヤノの組み立てていた勝利への方程式、その一つであったし、そうなれば予想を上回ってくるのが、SSランカーとしての意地というものなのだろう。

 

『ああ、本当に──本当に、鬱陶しくて仕方がないな、メグ』

 

 明らかな遅滞戦を狙っているアヤノたちにほとほと呆れ果てたのか、ヴィラノは深く溜息を吐き出すと、機体を大きく加速させて、中破状態になったメグのG-セルフリッパーへと、携えたGNバスターソードを叩きつける。

 ぐしゃり、と金属が圧壊していく音が耳朶に触れて、メグはよもやここまでかと歯を食いしばる。

 ──それでも。

 

「それでも、ただで死んでやるつもりなんかないんだかんね! 行け、フォトン・トルピード!」

『やっぱり撃ってきやがったか──っ!?』

 

 パーフェクトパックの天面が淡く輝くのを認めたヴィラノはG-セルフリッパーを両断すると、即座にその対消滅の嵐が吹き荒れる戦域からの離脱を試みるために、必殺技の発動を選択する。

 SEEDセンス・ブースト。

 それはあらゆる行動にバフをかけるというだけのありふれた必殺技ではあったものの、この状況下においては理想的な一手であるといえたし、事実としてそれを発動したタイラントプロヴィデンスは、今までとは全く違ったマニューバによって、メグが悪あがきで放ったフォトン・トルピードの嵐を回避していた。

 ──そう、まったくもって、メグと、そしてアヤノの想定通りに。

 フォトン・トルピードは、いってしまえばただの撒き餌だ。

 当たれば御の字であったものの、そう簡単に引っかかってくれるならヴィラノはSSランカーという、このGBNにおいても上から数えた方が早い位置にはいなかっただろうし、事実として、必殺技という切り札は使わされたものの、トルピードは全て無力化されている。

 だとしてもメグは、アヤノは絶望などしていなかった。

 半身をその暴牙に引き裂かれ、レッドアラートが絶え間なく鳴り響くコックピットの中で、メグは自身にビームスパイクが向けられていながらも、ふっ、と大胆不敵に口元へと笑みを浮かべて、アヤノへと通信を送る。

 

「後は任せたかんね、アヤノ!」

「ええ……貴女の戦い、そして貴女の想い、全て受け取ったわ、メグ!」

『ハハッ、友情ごっこは結構なことだが──必殺技まで使わされたんだ、今の俺は前ほど優しくしてやれないぜ?』

 

 ビームスパイクがコックピットに食い込んだことで爆散し、テクスチャの塵へと還っていくG-セルフリッパーを見送りながら、アヤノは自身に残した最後の手札を確かめるように深呼吸を繰り返す。

 これはいってしまえばぶっつけ本番でのことになる。

 ──それでも。それでも、メグが戦ってくれたから、カグヤが己の道を貫いてくれたから、ユーナが精一杯に頑張ってくれたからこそ、自分は今ここに、戦場に立っているのだ。

 三度目の深呼吸と共に、アヤノは音声入力によってその名を、隠され続けてきた、この日まで、盤面に現れることのなかったジョーカーの名前を叫ぶ。

 

「応えて、クロスボーンガンダム。貴方に私と同じ思いがあるのなら、XPの魂を受け継いでいるのなら──!」

 

 あのア・バオア・クー戦を再現したレイドバトルでは使い道がなかったからこそ、その手の内を曝け出すことには繋がらなかったというその幸運に感謝しながら、しかし躊躇うことなくアヤノはその選択肢を、ヴィラノと同じく「必殺技の発動」という手札を切った。

 刹那、SEEDセンス・ブーストによって強化されたドラグーンによる弾幕が、足を止めたクロスボーンガンダムXQを全方位から包み込んで、絡めとろうとその光条を一つに束ねて包み込んでいく。

 

『何をしようとしていたかは知らないけどな、これでチェックだ、アヤノちゃん。ああ──サヨウナラ。実に有意義で無意味な時間だったぜ、「ビルドフラグメンツ」。ハハッ……!?』

 

 ヴィラノはありったけの侮蔑と嘲笑と共に、クロスボーンガンダムXQが光の雨霰へと飲み込まれていくのを見届けたはずだった。

 SEEDセンス・ブーストによって強化されたドラグーンの弾幕は一発一発がフィン・ファンネルに匹敵するほどの出力を持ち、そんな攻撃が真正面から全弾直撃したのだからひとたまりもあるまいと、アヤノの撃墜をヴィラノは確信していたのだが、レーダーに映る、敵を示す赤い点は今も点滅し続けている。

 雄叫びを上げるかのように、がちり、と音を立ててクロスボーンガンダムXQのフェイスマスクが展開する。

 本来であれば赤熱化していたはずの、ブーストアップ機構は背中のミノフスキードライブから、そして全身の排熱ダクトから炎の揺らぎとなって立ち上り、まるで怒り狂っているかのように、憤怒にその身を染め上げているかのように、クロスボーンガンダムXQは、アヤノは、揺らぐ赫耀を身に纏い、全身全霊でただ、叫ぶ。

 

「これが私の……トランザムライト!」

 

 それは出力を全開にした「光の翼」とトランザムシステムが生み出す膨大な余剰熱を機体がなんとか外に逃がそうとした結果、偶発的に生まれたものだった。

 ツインドライヴからのトランザムによって生まれる熱量に「光の翼」の全力を掛け合わせたなら、通常の機体であればそれだけで自壊するほどのエネルギーが出力される。

 だがアヤノはそれを無理やりGNフィールドによって制御して、「必殺技」の枠に押し込むことで、奇しくもファントムライトと似た原理のシステムを獲得することに成功していたのだ。

 とはいえ、残された時間は三分だけだ。

 必殺技というユニークスキルをもってしても、どれほどの創意工夫が凝らされていたとしても、今のクロスボーンガンダムXQに用意された限界はたったそれだけの時間であり、相手が呆気に取られている今、その好機を逃すわけにはいかない。

 アヤノは一瞬、何が起きたのか理解できずに足を止めていたヴィラノへと一瞬で距離を詰めると、二振りのバタフライ・バスターBをザンバーモードに変形させて振り下ろし、その左腕を強引にもぎ取った。

 

『なるほど、ファントムライト……それに近い性質を獲得したってわけか、だがなあッ!』

「やらせるわけにはいかないのよ……! やられるわけには、いかないのよ……!」

 

 叫ぶ。唸る。そして再び、勝利を掴み取るため宇宙に叫ぶ。

 アヤノはそのGNフィールドの乱流とでも呼ぶべき光の鎧を身に纏ったまま、ビームの雨霰の中を強引に突っ切って、暴君の首を跳ね飛ばそうと、トランザムの出力によって強化された斬撃を放つ。

 それでも相手は必殺技を発動させたSSランカーだ。

 ドラグーンが効かないと分かるや否や、ヴィラノはビームでありながらもバリアを貫通する格闘属性を持つビームスパイクだけを攻撃の中に織り交ぜて、巧みにアヤノを撹乱しながらGNバスターソードを叩きつける。

 だが、アヤノはそれをトランザムライトの強引な機動力によって振り切ると、ブーメランのように手首のスナップを利かせてバタフライ・バスターBの一挺を放り投げた。

 

『おいおい、冗談キツいぜ……いい加減にしろよ、なぁ、お前!』

「……いい加減にするのは貴方の方よ! 自己満足のためだけにどれだけの人を踏みにじってきた! どれだけの人を傷つけてきた!」

『今更そんなもん……数え切れるかよ!』

「何より貴方は……ユーナを泣かせた! それだけで問答無用、即座にその首を叩き落としてやる!」

 

 閃光と閃光が、漆黒の宇宙に新たな星座を刻むかのように、尾を引いてぶつかり合う。

 ただそこにある意地とプライドを剥き出しにして、アヤノはトランザムライトによって大きく加速したことで発生する、強制ログアウト寸前までフィードバックされたGの擬似感覚に歯を食い縛りながら、勝利への細い糸のような可能性を必死に手繰り寄せ続ける。

 腰にマウントしていた「クジャク」をブラスターモードで起動させるとアヤノは、ぶつかり合い、斬り合う中で飛ばされた左腕を置き去りにして、裂帛の気合と共に渾身の一撃を叩き込まんと大きく得物を振りかぶった。

 

「これ、でえええええッ!」

『ハハッ……ハハハハハ! いいぜアヤノちゃん! こんなにムカついたのはいつ以来だ? ああ、全く──鬱陶しいんだ、死ねよ!』

 

 SEEDセンス・ブーストで強化されたGNバスターソードの一撃と、トランザムライトが吐き出す全ての「光の翼」をその刀身へと纏わせた「クジャク」の一撃がぶつかり合い、閃光が爆ぜて、モニターとそれを見つめるアヤノの網膜を焼く。

 だが、決して瞬きをすることなくアヤノは歯を食いしばったまま、荒れ狂うヴィラノの怒りと憎悪が具現化したような荒々しいその一太刀を、とうとう許容出力の限界を超えて自壊した「クジャク」を代償に真正面から押し切って、そしてへし切ることに成功していた。

 ──「クジャク」は壊れた。バタフライ・バスターBは回収できそうにない。

 トランザムライトの展開時間はいつしか残り一分を切り、悪あがきのようにクロスボーンガンダムXQを取り囲むドラグーンからは、強引にその光の衣を剥ぎ取ろうと、熱線が出力される。

 

「ブランド・マーカー展開……! コア・ファイター、脱出……ッ!」

 

 その僅か、刹那にも満たない時間で己がどうするべきかを見定めたアヤノは、ガラ空きになったタイラントプロヴィデンスガンダムのコックピットへと、最後に残されたブランド・マーカーを叩き込んで、機体からのベイルアウトを選択した。

 残り三十秒。ドラグーンから吐き出された光の束は、その制限時間と直結している光の鎧の耐久値を全て剥ぎ取ることだろう。

 閃光の中でぱしゅ、と空気が抜ける音を立ててベイルアウトを果たしたコア・ファイターは、天へと登るように、高く、高く上昇する。

 放たれた光の網はミノフスキードライブユニットを捉え、コア・ファイターの装甲を確かに焼き焦がしていた。

 だが──

 

『ハ、ハハッ……負けた? この俺が? 俺たちが? こんな奴に? ハハッ……ハハハハハ……ハハハハハッ!!!』

 

 悪あがきもそこまでだとばかりに、撃墜判定が降ったタイラントプロヴィデンスはブロックノイズ状に解けて、ヴィラノもまたコックピットの中で光へと消えていく。

 どこか狐につままれたように、何か信じられないものを見たかのようにヴィラノの皮肉な笑みは驚愕と、そして自己嫌悪に歪んでいた。

 狂ったかのように哄笑を上げて、セントラル・ロビーへと強制送還されていくヴィラノだったが、彼が末期の言葉として残したものは、畜生、という短いながらもアヤノへと向けられた怨嗟の、言ってしまえばつまらない、ただの負け惜しみだった。

 

【Battle Ended!】

【Winner:ビルドフラグメンツ】

 

 システムのダイアログが無機質な機械音声で勝利を告げるのを、装甲が溶け落ち、ミノフスキードライブユニットを失って満身創痍となったコア・ファイターの中で、アヤノは確かに聞き届ける。

 

「……やったわよ、ユーナ」

 

 そして、その結果に満足しながらも、どこか一抹のやり切れなさを振り切れないまま、レッドアラートの鳴り響くコックピットの中で、アヤノは一人、静かにそう呟くのだった。




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