ガンダムビルドダイバーズ ブレイヴガールフラグメント   作:守次 奏

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第六十九話「赫耀を撃ち落とせ」

 ソルトランザムを起動したニチカの躯体──ゾルヌールガンダムの速度は目にも留まらず、その剣技の冴えも相まって、瞬く間にカグヤとの形成をひっくり返していた。

 目で捉えようにも、真紅を超え、紅蓮を纏い、赫耀と化したニチカの速さは追い切れるものではなく、じわり、じわりとロードアストレイオルタの装甲値は削られていく。

 まだ空蝉という必殺技は残されているものの、あれは撃墜判定を一度だけ免れるのであって、他のELダイバーや、同様のユニークスキルを獲得したダイバーがどうであるかはともかく、カグヤのそれは蓄積されたダメージそのものを癒してくれるわけではない。

 だからこそ、どこでその手札を切るのか、そしてその手札を切った後はいかにしてこの禍つ凶星を撃ち落とすのか、それを考えなければならないのだ。

 一つ考えつくのは、時間切れを待つ方法がある。

 トランザムシステムは強力だが、使用時間に制限があり、尚且つそのリキャストにも膨大な時間がかかるという都合、限界まで逃げて、逃げて、相手のエネルギーが尽き果てたところで攻勢に転じるという戦術は珍しいものではなく、対策の一つとしてメジャーなものだ。

 だがそれは、トランザムを発動している相手から逃げ切れるだけの腕前と、そして性能差が開いていないことが前提条件の作戦だ。

 何より──

 

『何を呆けているのですか、カグヤ? ニチカはこのままでいれば貴女を叩き斬りますよ?』

「ッ……!」

 

 死角から切り掛かってきた斬撃を反射で受け止めると、カグヤはその太刀筋から、本気の殺意と、逃しはしないという裂帛の気合を感じ取った。

 そうだ。そう簡単に逃してくれるのだったら、ニチカと自分の間に聳え立つ壁は存在などしていなかっただろうし、何より。

 

「逃げに回るなど士道不覚悟……! なんとか、なんとか、姉様を正面から迎え撃たねば……!」

 

 一瞬でも、ニチカから逃げるという選択肢を頭の中に浮かべてしまった己を恥じながら、カグヤは静かに唇を噛む。

 この戦いから逃げてはならない。

 ここで逃げれば、たとえ逃げ切ることができたとしても、それ以上に大切な何かを失ってしまうのだから。

 故にこそ、選択肢はただ一つ。

 今も絶え間なく荒れ狂う剣風を轟かせる赫耀を、ニチカを真正面から迎撃する他に道などない。

 ──だが、どうやって。

 目ですら追い切ることが不可能に近いソルトランザムに対して、カグヤは出力系にバフをかけるスキルを何一つ有していない。

 紅蓮の型を取って燃え盛る「無銘朧月」でニチカの攻撃を受け止めてこそいるものの、時折反応を超えたビーム・セイバーの一撃が装甲を掠めることでロードアストレイオルタの外装を焼き、そしてその芯となっているモビルドールカグヤにもダメージを蓄積させる。

 勝てないかもしれないと、弱気な考えがふとカグヤの脳裏に零れて落ちていく。

 ここまでよく戦ったのだから、あとは「ビルドフラグメンツ」の皆に託す形で、あのシャフランダム・ロワイヤルの決着を再現する形での勝利を得るための捨て石になることに、何の問題があるのだろうか。

 ぽつりと浮かんできた、どこまでも消極的なその考えを、カグヤはかぶりを振って破却する。

 ──この戦いは、自分の戦いだ。

 確かに自分の後ろにアヤノとユーナ、そしてメグがいてくれるという事実ほど心強いものはない。

 それでも、この戦いは、この戦いだけは、自分の力で、誰に頼ることもなく幕を引かなければ終わらないし、終われないのだ。

 きっと、不完全な双子のELダイバーとして生まれてきたその日から、これは宿命づけられていることだった。

 ニチカの振るうビーム・セイバーがロードアストレイオルタの外装を捉えて深々と一条の傷を刻んだのを認めると、カグヤは必殺技を発動して、ガンダムに偽装した己の鎧を脱ぎ捨てる。

 完全に何かのデータを参照し、強固な自我を得て生まれてきたニチカと、メグに名前をつけてもらうまでは、そして色々なことを教えてもらうまでは、原始的な衝動しか己を形作るものがなかったカグヤ。

 それは図らずとも太陽と月によく似ていて、今もカグヤは、ニチカという光がなければ輝くこともままならないのだ。

 世界を知った。己を、生きるということを知った。

 モビルドールカグヤが振るう一太刀を回避して、カウンターに蹴りをたたき込んできたゾルヌールガンダムに蹴り飛ばされながらも、カグヤは機体の姿勢を強引に立て直して、涙が滲む瞳でニチカを睨みつける。

 そうしてようやく、わかってきた。

 

『これで終わりにしましょうか。泣かないで、カグヤ。ニチカは貴女が頑張ってきたのを知っているもの。だって、お姉ちゃんですから』

「……終われない……終わらない! 拙は……拙の探し求める道は、貴女を超えた先にこそある、姉様!」

 

 そうだ。きっと自分が今の今まで「武」を探し続けてきたのは、ニチカとの決着をつけるためだ。

 そして、そこから歩き出すためだ。

 それは、マイナスがゼロに戻るだけの話なのかもしれない。

 きっとゼロからプラスに進むのではなく、ただゼロに戻るだけの、虚しい戦いだと、俯瞰して眺める誰かは、訳知り顔で言うのだろう。

 だとしても、それが愛憎入り交ざるものだとはいえ、ニチカという光なくしては輝くことのできなかった自分という存在を、ELダイバー「カグヤ」を本当の意味でこの世に送り出すためには、絶対にこの赫耀を踏み越えて、自分の力だけでその輝きを示さなければならない。

 

『ならば言葉は無用……全て、行動で示しなさい、カグヤ』

「言われずともぉッ!」

 

 思い返す。力だけを求めた果てに、外道に堕ちた男のことを。

 今はもういない、あの「鉄腕」の力強さを。

 彼のやってきたことは絶対に許されてはならないが、それでも彼が道を踏み外さなければ、己の中に灯っている信念の火から目を逸らすことがなければ、或いは結末は違っていたのかもしれない。

 だからこそカグヤには、見失ってはいけないものがある。

 ニチカを超えるだけではない。超えたその先にも一人の武士として、「武」の道を求め続けなければ、きっと自分もまた外道に堕ちてしまいかねない。

 言い換えるのであれば、それはカグヤにとっての「夢」だった。

 初めて己の内側から湧き出てきた感情であり、そしてニチカに照らされて浮かび上がったのではなく、例え不完全だったとしても己が生まれた時に参照した「大好きという気持ち」が与えてくれた、自分だけの天命であることに違いはなかった。

 ソルトランザムによる一撃離脱は、今も尚見切れるものではない。

 瞬間に撃閃を轟かせるニチカの「疾さ」を重視した一太刀と、ソルトランザムの加速力が相まったそれは、並大抵のダイバーに防げるようなものではなく、他のダイバーから見れば、防戦一方であるとはいえ、応じられているカグヤもまた尋常ではない存在であることに違いはない。

 だとして、それがどうしたのか。

 他人がいかに自分を褒め称えてくれようと、負けたとしても健闘したと慰めの言葉をかけてもらおうと、受け取りこそすれどもそれはカグヤにとって関係のないことだ。

 絶対に、何を差し置いても、今この瞬間に、ソルトランザムを発動している間にニチカを倒さなければ、自分は前に進むこともままならない。

 だが、その一手が、逆転に至るための一手が、届きそうなのにどこまでも遠い。

 ぎり、と歯噛みするカグヤのこめかみに汗が滲む感覚がフィードバックされる。

 ふと、脳裏に電流が閃くような感覚が走ったのは、そんな悩みに悶えていた瞬間のことだった。

 目で追い切ることのできないその疾さに対して、どうするのかではない。

 今、自分は何ができているのか?

 それを考えれば、自ずと求める答えに繋がってくる。

 三人が、「ビルドフラグメンツ」の皆が作り上げてくれた「無銘朧月」には、かなりの値がする特殊な塗料によるクリアコーティングと研ぎ出しという加工が施されていて、それは理論上カグヤの腕前と合わせれば、「ビームを斬る」ことができるだけでなく、その先まで行けるはずなのだ。

 そして、ニチカの太刀筋を見切ることこそできなくとも、後手に回らされていても、反応することだけはできている。

 カグヤは深呼吸をすると、再び空に紅蓮の軌跡を描いて襲いかかってくる赫耀の凶星と化したニチカを真正面から叩き落とすべく、撃ち落とすべく、辿り着いた答えを具現化するためにただ、刀を正眼に構えると、彼女が突っ込んでくるその瞬間を待ち続ける。

 目で追うことができないのならば、身体の反射に任せてしまえばいい。

 それが可能かどうかについては、自分を信じることしかできない丁半博打だが、だとしても、そんなスリリングな賭けは嫌いじゃない。

 

『それはやられる覚悟を決めたということ? それとも違う何かかしら? どちらでもいいけれど……ニチカは本気を出させてもらいます』

 

 カグヤが取った奇妙な行動に、僅かな困惑を滲ませながらも、ニチカは宣言通りに機体を全力で加速させて、静止したモビルドールカグヤのコックピットを貫くべくビーム・セイバーを突き出す形で構え直す。

 今までの攻撃は戯れだったとばかりに、ソルトランザムの出力をスラスターに集中させたその一撃は、さながら赫き彗星のようだった。

 

『これで終わり。さあ、往生なさい、カグヤ!』

「……姉様ぁぁぁぁッ!!!」

 

 あの彗星を叩き斬れ。

 あの赫耀を、地に伏せさせろ。

 ──目で追うのではない。ただ、己をここまで運んでくれた「道」が示す標に従って、その太刀を振るうのだ!

 煮えたぎる闘争本能に従って目を伏せると、カグヤはただ迫る気配だけに集中して、その瞬間を待ちわびる。

 一秒がどこまでも薄く、長く引き延ばされていくような感覚の中で、驚異的な速さを誇るニチカの動きもコマ送りになっていく錯覚の中で、カグヤはその好機を掴み取るべく、正眼に構えた太刀を振りかぶった。

 ──来る。

 果たしてその確信通り、ニチカは真正面からカグヤを捉えて突撃してくる。姉が構えたビーム・セイバーがコックピットへと突き立てられようとするその刹那、カグヤは裂帛の気合いを込めて、魂の全てをこの一撃に賭すかのように、声を張り上げていた。

 

「ちぇええええすとぉぉおおおおおおッ!!!」

『おおおおおおおおッ!!!』

 

 ──瞬間、赫耀の光を受けて燃え立つかのように「無銘朧月」の刀身もまた閃光を放ち、光と光が交錯する。

 負けるか、とばかりにニチカも声を張り上げていたが、果たして先に届いたのは、突き出されたビーム・セイバーではなく、その一撃を深々と胴体に受けながらも、己の刀を振り抜いていた、カグヤの一撃だった。

 ビーム・セイバーがコックピットを僅かに逸れて突き立てられたのは、カグヤの気合が、天を貫こうと、星を撃ち落とそうと咆哮したその叫びと、そして今までの戦いで培われた反射神経が、ニチカの全力を僅かに上回っていたからに他ならない。

 故にこそ、その技は型にあらず。

 袈裟懸けに切り裂かれ、纏う赫耀を喪った機体が地面に倒れ伏していく中で、ニチカは口元に微かに自嘲するような笑みを浮かべていた。

 ──強くなったのね、カグヤ。

 きっとそんな言葉さえ、もうとっくにカグヤは踏み越えている。

 ならば、敗者として勝者に送るべき言葉は。

 

『良き戦いでした、ニチカは……悔しいですが、嬉しいです、カグヤ』

「……はぁ、っ、はぁ……っ……姉、様……」

『やっと──「自分だけの戦い方」を見つけられたようですね』

 

 それはきっと、「ビルドフラグメンツ」に加入しなければ、永遠に見つかることがないまま彷徨っていたのであろう、小さくも大きな一欠片。

 ニチカはカグヤが歩んできた道を想うかのように目を伏せると、きっと傷だらけになりながら、泥だらけになりながらもその答えを掴み取ったことに、姉としての誇らしさと、一人の武人としての悔しさから来る涙を一筋だけ零していた。

 生まれた時に参照していた「武士」や「剣士」たちのデータから各々の型を参照することはできても、新しく技を編み出すことができなかった、誰かの上辺をなぞることしかできなかったカグヤはもういない。

 仲間たちと共に歩んできたその日々が鎚となり、金床となり、彼女の中で揺らぎながらも燃え続けていた炎によって、カグヤという一本の刀を鍛え上げるに至っていたのだ。

 

「……姉様……拙は……」

『励むのです。きっと無明の奈落に誘われることもあるかもしれない……だけどその時は、ニチカが止めます。そしていつでもニチカは、カグヤを見守っていますよ』

 

 ──だって、お姉ちゃんですから。

 ニチカの舌先から滑り出たその言葉を、カグヤは初めて真正面から受け止めることができたのかもしれない。

 はらはらと頬を伝う涙は、拭っても拭っても、雨のように零れ落ちていく。

 

「……ありがとうございます、姉様……」

『ふふ……ニチカこそ、ありがとう。カグヤ』

 

 グッドゲーム。

 例え、結末がどんなものであったとしても、相手への敬意を込めて、そしてその試合が決して双方にとって無駄ではなかったことを示す言葉を交わし合って、ニチカとカグヤ、その戦いに幕は下ろされる。

 ブロックノイズ状に解けていくゾルヌールガンダムを見送るかのように、カグヤは暫し佇んでいた。

 そして、ニチカの躯体がセントラル・ロビーへと転送され切ったのを認めて、「無銘朧月」を鞘へと収めるのだった。

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

『どうした、アヤノ! ユーナちゃん! まさかお前たちの本気がその程度ということはあるまいな!』

 

 銀嶺を飾る白雪を全て吹き飛ばすかのような熱量をもって、ヨイチが叫ぶ。

 必殺技と必殺技をぶつけ合った果ての、満身創痍の状態であるにもかかわらず、シャイニングゴッドガンダムが振るう二本の刀に衰えはなく、アヤノとユーナが二人がかりで挑んでいるのにもかかわらず、ヨイチはまるで崩れる気配も見せずに、アヤノたちを圧倒していた。

 

「クジャクは喪失、バタフライ・バスターは一本だけ……ヒートダガーは抜く暇がない、それでも! ユーナ!」

「はい、アヤノさん!」

『む? 何をしようがおれは構わぬぞ! 互いに全力で挑んでこそ、勝負に価値というものは生まれるのだからな!』

 

 ユーナに指示を出したアヤノの行動を妨害することもなく、一度後ずさって距離を取ると、ヨイチはユーナがバックパックの一部を取り外してアヤノへと投げ渡した光景を視認する。

 ハイパーカレトヴルッフ。ウイングゼロ炎のバインダーは四枚のうち二枚が、実体剣として利用できるようになっているため、ミキシングによってそれを引き継いだアリスバーニングブルームもまた、理論上はその剣を利用できるのだ。

 ただ、ユーナにとっては今まで必要がなかったし、剣をうまく扱い切れる自信もなかったから使ってこなかった、というだけの話で。

 ハイパーカレトヴルッフを受け取ったアヤノは、機体に残された出力を振り絞るように「光の翼」を展開すると、トランザムライトには及ばずともその速度を乗せてヨイチを圧倒せんと、己の身体が覚えている一条二刀流の型ではなく、戦いの中で得た予測不能の喧嘩殺法でシャイニングゴッドガンダムへと斬りかかっていく。

 当然の如く、ヨイチはその攻撃を回避してみせる。

 だが、自分たちは一人ではないのだ。

 回避運動によって生まれた後隙を狙って、ユーナのアリスバーニングブルームがその拳を振るう。

 

『うむ! 協力しておれを倒すか……面白い、面白いぞ!』

 

 太刀と脇差を交差させることによってその一撃をヨイチは見事に防いでみせたが、あえて指摘するのであればそれは彼の戦術的なミスだったといってもいい。

 豪胆に笑うヨイチだったが、アヤノは攻撃を外しただけであってまだ「光の翼」が消えたわけでも、そしてカウンターの斬撃をもらって倒れ伏したわけではないのだ。

 きっと彼は、僅かたりとも慢心していない。

 それでも心のどこかで見せた強者としての余裕が、そのミスを招いていたのだろう。

 だが、そんなことを考えるのに意味はない。

 求めるものはそこから導き出される仮説を現実にすることであり、つまりは結果を出して答えなければ、それはミスでもなんでもなくなるのだ。

 生まれた僅かばかりの隙、刹那にも満たないその間を貫き、穿つかのように、アヤノは機体を加速させて、ユーナから借りた剣と、己が持つ剣を交差させ、ヨイチへと再び果敢に斬りかかる。

 

「兄様……これでえええええッ!!!」

『はっはっは! そう来たか、アヤノ!!! だが!!!』

「させません! そのまま行って、アヤノさん!!!」

 

 機体の膂力に任せて、ヨイチが強引に鍔迫り合いを解こうとしたその瞬間、ユーナもまた残されたエネルギーを全て振り絞るかのように、バーニングバースト・フルブルームを一瞬だけ発動すると、くるりと踵を返した、シャイニングゴッドガンダムの背中を羽交い締めにした。

 

『なんとッ!?』

「おおおおおッ、天誅ッ!!!」

 

 叫ぶ言葉などなんでもいいしどうでもよかった。

 それでも、この好機をもたらしてくれたのが些細な偶然であるのなら、天がやれと、そう言ったのだろう。

 だからこそ、天誅。

 交差した二振りの剣を振り上げて、アヤノは迷いなく、ユーナが叫んだ通り、羽交い締めにしているアリスバーニングブルームごと、ヨイチのシャイニングゴッドガンダムを両断する。

 

『ふ……おれもまだまだ、甘かったということだな』

「……一瞬の偶然でした、それに、ユーナも……」

『謙遜は敗者にとって礼を欠くものだ、アヤノ。誇るがいい、お前たちは……「ビルドフラグメンツ」は、キリマンジャロ基地の要衝たるこのおれたちを見事に突破してみせたのだからな!!!』

 

 ──はっはっは。

 豪胆な笑い声を上げると、ヨイチもまた、撃墜判定が降ったユーナと共に、ブロックノイズ状に解けてセントラル・ロビーへと強制送還されてゆく。

 

「ありがとう、ユーナ」

「ううん、わたしこそありがとうだよ、アヤノさん。わたしを信じてくれて」

 

 致し方なかったとはいえ、フレンドリー・ファイアによって巻き添えを喰らっていたユーナもまたロビーへと消えていく中で、アヤノからかけられた言葉にそっとはにかんでそう答えた。

 ここはGBNだ。仮想の海だ。ならばそこに死はなく、何度だって立ち上がって、何度だってやり直せる。

 今は届かなくても、偶然が勝利を手繰り寄せただけだとしても、いつかはヨイチを本当に超えられるように──そこにかつて抱いていた憧れを思い返すように、アヤノは青々と晴れ渡る空を仰ぐと、グッドゲーム、と、誇らしさと少しの悔しさを舌先に乗せて、そう呟くのだった。




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