ガンダムビルドダイバーズ ブレイヴガールフラグメント   作:守次 奏

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絶賛スランプ中なので初投稿です。


第八話「ためになるとは限らない」

 思わぬところに壁が聳え立っていた射撃訓練フェーズを無事クリアして、アヤノとユーナは次のウェーブである格闘訓練フェーズへと移行していた。

 格闘訓練といってもやることは単純で、棒立ちになっている敵に対してビームサーベルを振ってみようだとか、パンチやキックを浴びせかけてみようだといったそういう動作確認的な趣が強いため、元より格闘戦の素養があるユーナは言わずもがな、アヤノも──と、いうよりこれに苦戦するダイバーがいるのだろうかと首を捻りたくなるほど簡単に、ミッションは進行していく。

 

「せりゃあああっ!」

 

 威勢の良い雄叫びを上げたユーナのアリスバーニングガンダムが棒立ちになっている敵機、【リーオーNPD】の土手っ腹へ、振り抜いた健脚で風穴を穿つ。

 リーオーNPDという機体そのものはGBNの運営班が用意したチュートリアル、ミッション用のガンプラといった趣が強く、基になったリーオー同様に多種多様な装備を施されたものが登場するミッションも存在し、それなりにダイバーたちを苦しめるのだがそこはそれ、チュートリアルに登場するような敵がスモークグレネードやEMP攻撃といった搦手を使ってきたらそれはただのクソゲー或いは死にゲーだ。

 そしてGBNがそういった「死んで覚える」高難度を売りにしているのではなく、初心者から上級者までカジュアルに遊んでほしい、という旨を開発班がコメントしている通り、このチュートリアルミッションに出てくるリーオーNPDは、基本的なドラムガンとラウンドシールドというリーオー同様の武装が施され、AIのレベルも最低ラインに設定されているものでしかない。

 棒立ちの的を斬る、或いは破砕するといった行為で練習になるのは、精々基礎の基礎の基礎、ぐらいの操作感覚を身につけることぐらいだろう。

 バタフライ・バスターBをザンバーモードに変形させたアヤノは、それをシザー・アンカーの先端に接続することで簡易的な鞭として、棒立ちのまま何も仕掛けてくる気配がないリーオーNPD三機をまとめて薙ぎ払った。

 ビーム・ザンバーの高出力に、チュートリアルミッションに配置されるような機体が耐えられるはずもなく、さながら熱したナイフでバターを切るように軽い感触で、棒立ちになっていた三機は爆散する。

 鎧袖一触とはこのことか、というには味気ない絵面と感触だが、別に一体一体丁寧に処理しなければ失格というルールが設けられている訳ではない以上、この方がスマートなはずだ。

 ふぅ、と、アヤノは小さく息をついて、バタフライ・バスターBを回収しながら、最後の一機に、レバーとボタンでキャラクターを操る時代の格闘ゲームが如く華麗なコンボを決めているユーナを一瞥した。

 

「せいっ、やあっ、たあああっ!」

 

 通信ウィンドウに映るその表情はどこまでも楽しそうで、そんなユーナの感情を汲み取ったかのように、軽快な動きで標的を滅多打ちにしていくアリスバーニングガンダムの挙動はどこまでも、弾むように軽やかだ。

 ユーナはチュートリアルだというのにどこまでも楽しそうで、きっと何事も全力で笑って、そして全力で楽しめるところが彼女の美点なのだろうな、と、淡々と取り分を終わらせてしまった自分を俯瞰しながらアヤノは静かに自嘲する。

 何事も楽しんだ人間が一番勝つ、というのはどこかで誰かが呟き続けたことで陳腐化してしまった言葉だが、案外ユーナを見ているとそれは間違いじゃないのだと思う。

 そんなユーナを見ていると、どこか唇の端が緩んでくるようで、アヤノは胸の内に湧き上がってくるその感情に疑問符を浮かべるが、どこかすとんと落ちてくるように、まるで欠けていた部分にぴたりと嵌るように、思いが、虚な血液を送り出す心臓を満たしていくようだった。

 

「すごい! アヤノさん、GBNってすっごく自由に機体が動くんだね!」

「ええ、操縦桿を併用してはいるけれど、思考補助システムも使っているという話だから、ダイバーが考えていることはある程度機体に反映されるらしいわ」

 

 調べたばかりの話だから、自信はないけれど。

 天真爛漫に目を輝かせて、最後の的を屠ったユーナが呟いたその言葉に、少しだけ自信なさそうに補足を付け加えてアヤノは答えを返す。

 と、いっても実際に調べたばかりだからなんともいえないというより、GBNの操作系統に関しては企業秘密ということでほぼ完全にブラックボックス化されており、思考補助システムも組み込まれている、ということは公にされていても、それがどれほどのものなのか、いかほど作用しているかに関しては闇の中なのだ。

 だとしても、遊んでいて何か身体に悪影響があるとか、そういう症例は今のところ表立って報告されていない以上、それが危険性を及ぼすようなものではない、ということは確かなはずだろう。

 最終ウェーブへとミッションが移行して、実戦フェーズを迎えたことでアヤノたちに差し向けられたのは先程と同様に、ドラムガンとラウンドシールドで武装したリーオーNPDだった。

 

「ここからは実戦訓練よ、と、いっても簡単なものだから警告するまでもないと思うけれど」

「わかりましたっ、全力で頑張りますね! アヤノさん!」

「……まあ、なんでもいいのだけれど」

 

 いつも通りに元気いっぱいなユーナの返事に口元を綻ばせながらも、アヤノは一応とはいえ襲いかかってくる相手を前に身構える。

 リーオーNPDの割り当ては一人頭三機の計六機、十字砲火や闇討ちといった常套戦術が思考ルーチンに組み込まれていないためにその攻撃は散漫であり、おもむろにドラムガンを放ってみたり、わざとらしい大振りのビームサーベルで切り掛かってきたりと、意図的に設けられているその「隙」を攻撃のチャンスにしてくれというのが運営の意図するところなのだろう。

 手引き通りに従って、アヤノは実弾相手には意味がないABCマントを脱ぎ捨てると、ガンマンの早撃ちの如く、腰にマウントしていたバタフライ・バスターBを放ち、瞬く間に二機のリーオーNPDをテクスチャの塵へと帰せしめる。

 

「……なるほど、こういうことね」

 

 バタフライ・バスターBの感触はアヤノの手に馴染み、その思考通りに敵機のコックピットを撃ち抜いていたが、ユーナに貸したときにそれが上手くいかなかったのは、恐らく彼女の思考回路が射撃戦に適合していなかったため、マーカーは正確にロックしていても微妙に手先がブレるという事態が起きていたのだろう。

 とはいえそれは、そこまで悪いことではない。

 これでユーナが射撃戦を志しているならば致命傷だが、彼女はその道をすっぱりと諦めて得意な格闘戦を行っている。

 ドラムガンから吐き出される無数の弾丸を舞い踊るように回避して、射撃を放っていたリーオーNPDの右手を蹴り飛ばすと、そのまま流れるように左脚での回し蹴りでコックピットを破砕していく。

 我流とは思えないほど板についたその格闘術にアヤノは一角の感心を覚えながら、残された一機である、どこかまごついたような動きでドラムガンを構えたリーオーNPDに足裏から射出したヒート・ダガーによる一撃をお見舞いして、自身の取り分を全て終わらせる。

 

「すごいです、アヤノさん! こんなに早く終わるなんて」

「使っている武器が違うだけよ、貴女の格闘術も十分に凄いものだわ」

「そうですか? えへへ、ずっと頭の中で考えてたんですっ!」

 

 我流の格闘術を考える──その理由にきっと触れてはいけない部分があるとアヤノは薄々ながらも察しをつけると、そうね、と、毒にも薬にもならない相槌を返して、ユーナが残りを片付けていく様を見守っていた。

 

「えっと……わたし、キーック!」

 

 そのネーミングセンスは壊滅的であるものの、ガンプラの出来に裏打ちされた破壊力は健在だ。

 踵にアーマーシュナイダー……「機動戦士ガンダムSEED」シリーズに出てくる対装甲ナイフを仕込んでいるわけでもないのに、切断面が生まれるような蹴りや殴打を浴びせられるのは恐らく、基になった機体の特性を十二分に引き出しているからなのだろう。

 この電子の海において最も重要だとされるのは、イマジネーションである。

 そう言ったのはどこの誰かはわからないが、GBNをプレイするにあたってその金言が間違っていないのは事実に変わりない。

 想像力はガンプラを作る発想に繋がるだけでなく、戦場において今自分がどういう状況に置かれていて、敵がどう動くのかだとか、或いは味方の動きにどう合わせていくかだとか、そういった重要な心得を体得するセンスに直結している。

 要するに、漫然とゲームをプレイするのではなく、自分なりのロジックを構築してプレイする方が強くなれる素質はある、と、そういう話だ。

 流石にチュートリアル役のリーオーNPDでは、いかに初心者であったとしても、そういったセンスを持ち合わせているユーナを止められるはずがない。

 背後からのドラムガンによる弾幕砲火をハンドスプリングで回避すると、そのまま勢いをつけた飛び蹴りで二機まとめてリーオーNPDを破砕するという荒技を披露したユーナは、それを誇るでもなく、純粋にその表情を明るくし、笑顔で通信を開く。

 

「わあ! やりました、アヤノさん!」

「ええ、凄いわね。ユーナ」

「そうですか? そんな……わたしなんてアヤノさんに比べればまだまだですよっ!」

 

 妙に謙遜してこそいるが、そんなユーナと素手で殴り合いをしてくれといわれれば、正直圧倒して勝つことができるかどうかアヤノは怪しいと踏んでいる。

 少なくとも彼女は一流のインファイターになれるだけの素質を持ち合わせているのだ。

 謙虚でいることは美徳だが、あまり謙遜しすぎてもそれは嫌味と受け取られかねないのだから人間社会というのはままならない。

 とはいえ、ユーナのことだから本気で謙遜しているのだろう。

 ミッションクリアの通知を受けて、あとは帰還するのを待つだけだと、アヤノはコックピットの中で深く息を吐いた、その時だった。

 

「あれ? なんですかこれ? フリーバトル申請……?」

「っ!? ダメよ、ユーナ! 承認したら……」

「あ、ごめんなさい……!」

 

 クリアから、ロビーに帰還する選択肢に割り込んでポップしてきたフリーバトル申請の通知。

 それは紛れもなく、今この瞬間を虎視眈々と狙っていた誰かがいるということだ。

 そしてそれは大体ろくでもない。

 アヤノは慌ててABCマントを拾い上げるとそれを機体に纏わせて、起きてしまったことは仕方ないと、これから現れるのであろう襲撃者の攻撃へと備えを固める。

 

『ハッハー! まさか古典的な手に、見事に引っかかってくれやがったバカがいるとはなあ!』

「……古典的な初心者狩りをしている人が未だにいることに私は驚いているわ」

「わ、わわ……どうしよう……!?」

 

 それは、初心者狩りの合図だった。

 ミッションクリアまでの空白期間を利用してフリーバトル申請を上書きする形で出すことで無理やり同意を取らせ、初心者を自身のダイバーポイント、その養分とする悪徳プレイヤーは第二次有志連合戦を経て尚、未だにこのGBNにしぶとく根付いている。

 それは挫折がそうさせるのか、喜悦がそうさせるのか。

 考えたくもなければわかりたくもない戦いの理由をアヤノは唾棄するように振り払って、フリーバトルを申し込んできた赤い点──レーダー上における敵機を示すそれを一瞥する。

 襲撃者が乗ってきたのは、アルケーガンダムに基となったガンダムスローネシリーズの武装を全て載せたような機体──【ヤークトアルケーガンダム】だった。

 オールレンジにおける戦闘を可能として、かつ一対多数に対応するために重武装化されてこそいるものの、GNドライヴによって、大気圏下においてもその機動性をあまり損なわずに猛進してくるその機体は、確かに初心者を潰すという点においては適しているのかもしれない。

 

「初心者狩り? なんですか!? どうしてこんなことを……!」

『どうして? 決まってらぁな、楽しいからだよ!』

 

 ユーナの純粋な問いかけを嘲笑うように答えを返したヤークトアルケーのダイバーは、さながら元の搭乗者である、アリー・アル・サーシェスの如く猛り吠えるが、言っていることはただみみっちいばかりでろくでもない戯言でしかない。

 楽しい、とろくでもないことを公言したダイバーが何やらトリガーを押し込むと、真紅の機体が更に赤く染まっていくのをユーナは見届ける。

 

「な、なに? これ……なんですか、アヤノさん!?」

「トランザムね」

『おうともよぉ! そしてお前ら初心者に教えてやらぁ、このGBNではな……太陽炉が人権なんだよォ! トランザム!』

 

 人権。それは時に、ゲームを行うにあたって必須のファクターを指すのに使われているスラングだ。

 そして太陽炉……GNドライヴは確かにあのヤークトアルケーのダイバーが言う通り、GBNにおいては極めて強力なパーツとして位置付けられている。

 

『GNドライヴも積まねえ機体じゃ先に行ったって意味なんかねえぜ! ビルドなんとかの誰かさんだってなあ、太陽炉があったからチャンプに食い下がれたんだよ!』

 

 トランザムシステム──機体の出力を一時的にブーストアップさせるその機構を起動して、背部のGNメガランチャーから毒々しい、赤い粒子のビームを吐き出しながら、低く身をかがめて迫ってくるヤークトアルケーの動きは、確かに初心者を相手取るにしては熟練したものだろう。

 そして無断で襲いかかってきたのでなく、事前に無理やりとはいえフリーバトル申請を通している以上、エマージェンシーアラートに期待することもできない。

 ならば、とアヤノは小さく溜息をついて、機体を跳躍させる。

 

「ユーナ、私に合わせられる?」

「え、えっと……はい! やりますっ! やってみせますっ!」

「いい返事ね、それじゃあ、やるわよ」

『念仏は唱え終わったか!? だったら──』

「悪いけど、死ぬのは貴方の方よ」

 

 ヤークトアルケーを駆るダイバーの言い分が全て間違っている、というわけではない。

 だが──いかに御託を並べようとも、講釈を垂れようとも、最後に物を言うのはダイバーの腕前とイマジネーションに帰結する。

 もし本当にGNドライヴが必須のパーツであったなら、チャンピオンの機体にも、そして続くランカーたちの機体にも全てそれらが搭載されていることだろう。

 だが、実際には非太陽炉の機体で上位に食い込むダイバーが数多い以上、あの初心者狩りの言い分は所詮、戯言でしかない。

 アヤノはヤークトアルケーが二本のGNバスターソードを振りかぶるのを確認すると、シザー・アンカーに纏わせたABCマントをヤークトアルケーにぶつけて、その視界を遮断する。

 

『な、何だぁ!?』

「今よ、ユーナ! 思い切り……蹴り抜きなさい!」

「はいっ、アヤノさん! おおおおおっ! 炎、キーック!」

 

 その爪先に粒子が形作る炎を纏わせて、アヤノに合わせて跳躍したユーナのアリスバーニングガンダムは、視界を奪われて狼狽するヤークトアルケーの土手っ腹に容赦なく風穴を穿ち、そして、テクスチャの塵へと帰せしめていく。

 

『ば、バカな……テメェら、一体……』

「残念だけれど、参考にならなかったわね」

 

 咄嗟の事態に弱い辺り、このダイバーはヤークトアルケーという機体のスペックだけに頼って初心者狩りを繰り返していたのだろう。

 だからこんな単純な目眩しに引っかかるし、相手を侮っているから思わぬ反撃を貰うことだって想定していない。

 

『畜生、この俺がああああっ!?』

 

 GBNをやってきた長さだけでは相手の方が上回っているのかもしれない。

 だが、それだけで参考になるとは限らない。

 太陽炉が人権かどうか、そしてビルドなんとかこと「ビルドダイバーズのリク」とやらについてもwiki以上の知識などアヤノは持ち合わせていないが、そんな卑怯者の戯言など、聞くに値しないことぐらいはわかっていた。

 

「……と、いうわけよ、ユーナ。話半分どころか全部聞く必要もないわ」

「わわ……ごめんなさい、でもありがとうございますっ、アヤノさん!」

「フィニッシャーは貴女でしょう? それは誇るべきよ」

「えへへ……はいっ!」

 

 そうして、今度こそ全てのタスクを終えたと判断して、システムがアヤノとユーナを形成する仮想の躯体をロビーに転送するために、ゆっくりと、ゆっくりと解いていくのだった。




環境機はただ使えば強いわけではない
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