ソードアート・オンライン プログレッシブ 四人の進道   作:壊緑茶

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さあ初めての投稿!

最初の方は小説から引用、、又は引用して改変。
その後は原作では丸々飛ばされた話を書いていきます。SAOP7も発売されるのでそこらへんまでは似たり寄ったり。

キリトと男主人公(ユージオ的立ち位置)の物語

学生だから定期的に投稿ペースが遅くなるかもしれません。


序章
ソードアート・オンライン正式サービス開始


「ぬお・・・とりゃあ・・・うえっへい・・・!」

正確に空気を切り、盛大に転ぶクラインを見て絶句するのは致し方がないとしか言えない。

転倒しているクラインを直視するレベル1の青いイノシシ《フレンジーボア》の目が光る。攻撃前のモーションだ。

ヴゥゥゥゥウと雄たけびを終えた奴は突進して来た。

ドンッ!と鈍い音と激しく煌めくクリティカル判定のライトエフェクトの後に、クラインのHPバーが2割程度減少する。

 

「おいキリトよ~」

「ははは・・・、そうじゃないよ。重要なのは初動のモーションだ、クライン」

「おっとあぶねえ・・・でもこいつ動きやがるしよぉ、集中できねえ」

「どこのMMORPGでも敵は動くだろ、まあたしかにVRMMORPGのはデカく感じるけどな」

世界初の"フルダイブ型VR" MMORPG・・・ソードアート・オンライン、通称SAO。茅場という天才が実現した夢のハードナーヴギアで初めての仮想大規模オンラインロールプレイングゲームであり、従来のハードとは性質が根本的に異なる。

平面のモニタ装置と、手に握るコントローラという二つのマンマシン・インタフェースを必要とする旧ハード、ス〇ッチやP〇4, 5 などに対して、ナーヴギアのインタフェースは一つだけだ。頭から顔までをすっぽり覆う、流線型のヘッドギア。

その内側には無数の信号素子が埋め込まれ、それが発生させる多量電界によってギアはユーザーの脳そのものと直接接続する。ユーザーは己の目や耳ではなく、脳の視覚野や聴覚野にダイレクトに与えられる情報を見、聞くのだ。それだけではない。触覚や味覚を加えた五感の全てにナーヴギアはアクセスできる。

 

 

ヘッドギアを装着して顎下で固定アームをロックして、開始コマンドである《リンク・スタート》のひと言を唱えた瞬間、あらゆるノイズは遠ざかり視界は暗闇に包まれる。その中央からの広がる虹色のリングをくぐれば、そこはもう全てがデジタルデータで構築された別世界だ。

つまり。                                                         

半年前、二〇三ニ年に発売されたこのマシンは、遂に完全なる《仮想現実—VR》を実現したと言えるわけだ。開発した大手電器メーカー連合は、ナーヴギアによる仮想現実への接続を次のように表現した《完全没入―フルダイブ》、と。

 

まさしく完全の名に相応しい、それは完璧なまでの隔離だった。

 

「Mobが動くのは当たり前だ。よっと・・・!」

青イノシシの角をはじいた『スモールソード』は僅かな火花を散らした。

「ちゃんと構えて、ソードスキルを発動させれば、あとはシステムが技を命中させてくれるよ」

「モーション・・・モーション・・・」

「タメを入れてスキルが発動する感じがしたら、こう・・・ズバーン! て打ち込む感じで・・・」

「ズバーンってよう」

悪趣味なバンダナの下で、剛毅に整った顔を情けなく崩しながら、クラインは曲刀を中段に構えた。

 

すう、ふー、と深呼吸してから、腰を落とし、右肩に担ぐように剣を持ち上げる。今度こそ技前のモーションが検出され、緩く弧を描く刃がぎらりとオレンジ色に輝く。

「りゃあっ!」

太い掛け声と同時に、これまでとは打って変わった滑らかな動きで左足が地面を蹴った。しゅぎーん!と心地良い効果音が響き渡り、刃が炎の色の軌跡を宙に描いた。片手用曲刀基本技《リーバー》が、突進に入りかけていた青イノシシの首に見事に命中し、HPバーを全てを透明にした。

ぷぎーという哀れな断末魔に続いて巨体がガラスのように砕け散り、俺の目の前に紫色のフォントで加算経験値の数字が浮かび上がった。

 

「うおっしゃあああ!」

 

派手なガッツポーズを決めたクラインが満面の笑みで振り向き、左手を高く掲げた。

 

「初勝利おめでとう。でもここまで来るのにお前三回死んだからな、」

「いやでもビギナーが中ボス級のモンスターを倒したんだぜ!?」

「なわけあるか、ド〇ゴンク〇ストで言うスライム相当だぞ」

口をへの字に曲げ、涙目になるクラインを見て笑ってしまった。

「まあこのこの世界でソードスキルを発動させるのに何日もかかるプレイヤーもいるからな、そいつらよりは馴れとかコツを早くつかんでるよ」

「その言葉に感謝するぜ!キリトよ!」

せめてもの慰めに又大きなガッツポーズを掲げるクライン。もう少し続けようと考えたがもう他プレイヤーがここら辺全て狩りつくしてしまった。

「さてと・・・どうするクライン、ちょっと歩いて別のフィールド狩り続けるか?」

「ったりめえよ!・・・・と言いてぇとこだけど・・・」

クラインの端正な目がちらっと右方向に動いた。視界の端に表示されている現在時刻を確認したのだ。

「・・・そろそろ一度落ちて、メシ食わねぇとなんだよな。ピザの配達、五時半に指定してっからよ」

「準備万端だなあ」

呆れ声を出す俺におうよと胸を張り、クラインは思いついたように続けた。

「あ、んで、オレ他のゲームで知り合った奴らと《はじまりの街》で落ち合う約束してんだよな。どうだ、紹介すっから、あいつらともフレンド登録しねえか?いつでもメッセージ飛ばせて便利だしよ」

「え・・・・うーん」

俺は思わず口籠った。

このクラインとは自然に付き合えているが、その友達とも同様に仲良くなれるという保証はない。むしろそっちと上手くやれずにクラインとも気まずくなってしまうという結果の方がありそうな気がする。

「そうだなあ・・・」

歯切れの悪い俺に、クラインは理由を悟ったのか首を横に振った。

「いや、勿論無理にとは言わねえよ。そのうち、紹介する機会もあるだろうしな」

「・・・ああ、悪いな、ありがとう」

引き下がると、クラインはもう一度、今度はぶんぶんと派手にかぶりを振った。

「おいおい、礼を言うのはこっち方だぜ!おめぇのおかげですっげえ助かったよ、この礼ははその内ちゃんと返すっから、精神的に」

にかっと笑い、もう一度時計を見る。

「・・・ほんじゃ、おりゃここで落ちるわ。マジ、サンキューな、キリト。これからも宜しく頼むぜ」

 

「こっちこそ、宜しくな。又訊きたいことがあったら、いつでも呼んでくれよ」

「おう。頼りにしてるぜ」

 

俺にとって、アインクラッド―――――あるいはソードアート・オンラインという名の世界が、楽しいだけ《ゲーム》の世界であったのは、正しくこの瞬間まで。その後、それを直ぐに知ることとなる。

 

「あれっ・・・」

裏返った声を出す主は

「なんだこりゃ。・・・・ログアウトボタンがねえよ」

有り得ないことを口にして、動揺する。クラインに俺は手を止めて駆け寄る。

「そんなわけないだろ、よく見てみろ」

呆れた声を出す俺だが一応自分のメニューを試す。

「ほらあるじゃなっ・・・いや、無い!」

おかしい、初期状態から開いて空白箇所の多い装備フィギアの左横のメニュータブの一番下。もう一度確かめてみる。もう一度。もう一度。しかし本来ログアウトボタンがある場所は文字が消え、綺麗に消滅していた。

 

「無い・・・」

 

俺が一時にログインしたときは、そこにLOG OUTと表示されていた。つい四時間半前。

「ないだろ?」

少々癪だったが実際にはないので、頷くと曲刀使いはまっと頰を吊り上げ、逞しい顎を撫でた。

「ま、今日は正式サービス初日だかんな。こんなバグもでるだろ。今頃GMコールが殺到して、運営は半泣きだろなあ」

暖気(のんき)な口調でそう言うクラインに、癪の仕返しのつもりで言った。

「そんな余裕かましておいていいのか?さっき5時半にピザの配達頼んであるって言わなかったか」

「うおっ、そうだった!!オレ様のアンチョビピッツァとジンジャーエールがぁー・・・」

「まあそんな気にすることないさ、大慌てな運営もそろそろ強制ログアウトさせるはずだしよ」

いい加減喚き続けるクラインに呆れる。右方を見るともうソルスが沈んでいて、仮想世界ながらも感動していると、クラインも諦めがついたのか静かになった。しかし今度も驚かせることを口にするのだ。

「おいキリトよぉ、メニューにGMコールがねえ」

俺は浮かべていた微笑を再度強張らせた。先程までの運営に対する唖然に、遂には理由のない不安のようなものが、ひやりと背中を撫でた、気がした。

ログアウトには二つしか方法がない。メニュー欄からの手動、又は運営からの強制ログアウトだ。

SAOの公式サイトにも細かく明記されていた。

 

「ログアウトには二つの方法が有ります。

一つ目はプレイヤーの皆さんの自発的ログアウトです。

ログアウトの仕方:まず、右手の人差し指と中指を揃えて縦方向に振ります。メニューが開くので右側に表示されている歯車を押しその一番下のオプション押して下さい。

二つ目は運営によるメンテナンスのための強制ログアウトです。

注釈:強制ログアウトが行われる直前、一分前、三分前、五分前、十分前、三十分前、一時間前、三時間前にログアウトをお願いするアナウンス。また、メンテナンスが行われる日、ログインしたときにメッセージが送られます。」

 

と。

 

SAOのマニュアルにもこと細やかに記されていた。

「――――――以上の二つがログアウトの手段となり、これ以外の方法は一切存在しません」

と。

となるとGMにも話せられない。外部との接触は一切ないのだ。・・・ただのバグなのか?俺達がログアウトボタンの消滅に気付いてから、はや五分は経過したはずだ。

 

「GMコールがないか・・・確かに、もう五分は経ったよな、おかしい」

「だろ?こんな重大な欠陥があるのにまだ運営からの一言すらないんだぜ?」

クラインは、ははは・・・とやや切迫した響きのある声を上た。

「自分の部屋に、自分の身体に、自分の意志で戻れないなんてよ・・・・っ!」

するとクラインは、目に見えない帽子を脱ごうとするように額に手を触れさせた。ナーヴギアを剝ごうとしているのだ。

「無駄だ。俺達の脳がいくら命令してもナーヴギアがインタラプトして、このアバターを動かす信号に変換しているんだからな」

ナーヴギアは完全なVRへのダイブを実現するために、脳からの脊髄へ伝わる命令信号を生命維持に必須なもの以外を100%キャンセルし、かわりにこの世界を動かす信号へ変換する。ここでどれほど派手に手を振り回そうと、現実ではできないような跳躍をみせても現実世界で自室のベットに横たわっている俺の本物の体はぴくりとも動かない。従って、机の角に頭をぶつけて、痣を作ったりせずに済む。

しかし、まさにその機能ゆえに、今俺達は自発的にフルダイブを解除できないのでいる。

 

「冷めたピッツァなんてネバらない納豆以下だぜ・・・」

いきなり意味不明なことを発するクラインを黙殺し、俺は言う。

「奇妙な話だな」

ああ・・・

「SAOの開発元のアーガスはユーザー重視の姿勢で名前を売っていたんだ。それなりのゲーム会社だからこそ、初日にあんなソフト争奪戦になった。その信用を失っていいのかな」

「まあ待つしかないかあ、しっかし現実に帰ったらアーガスのヤロウ大炎上だぜ」

 

冷たく乾いた仮想の空気を深く吸い込み、肺に僅かな冷気を感じながら、俺は視線を上に向けた。

遥か百メートル上空には、第二層の底部が薄紫色に霞んでいる。そのごつごつした平面を目で追うと、ずっと彼方に巨大な塔―――上層へと通路となる《迷宮区》がそびえ、さらに最外周の開口部へと繋がっているのが見て取れる。時刻は五時半を回り、細く覗く空は真っ赤な夕焼けに染まっていた。差し込む夕陽が、広大な草原を黄金色に輝かせ、俺は異常な状況にもかかわらず、仮想世界のポリゴンでできた景色に再度、暫く見惚れた。

 

 

直後。

世界はその有りようを永久に又、完全に翻す。

 

 

突如、リンゴーン、リンゴーンという、鐘のような―――あるいは警報音のような大ボリュームのサウンドが鳴り響き、俺とクラインは跳び上がった。

 

「んな・・・っ」

「何だ!?」

同時に叫んだ俺達は、互いの姿を見やり、再び眼を見開いた。

 

俺とクラインの体を鮮やかなブルーの光の柱が包んだのだ。青い膜の向こうで、草原の風景がみるみる薄れていく。

    

これは強制転移(テレポート)だ。

 

 

青の輝きが薄れると同時に、風景が再び戻った。だがそこはもう夕暮れ時の草原ではなかった。

 

広大な石畳。周囲を囲む街路樹と瀟洒な中世風の街並み。そして正面遠くに、黒光りする巨大な宮殿。

間違いなく、ゲームのスタート地点である《はじまりの街》の中央広場だ。

俺達の後に続いて、数々のプレイヤーが青く発光して転移させられる。

数は・・・五千、七千、いや、一万人近くはいる。つまり、SAO初期スロット一万人分の内、現在ログインしている全てのプレイヤーが転移させられたということだ。

その一万人のプレイヤーは口々にこう言う。

「おいGMどうなってるんだ」

「運営よ早く出せよ、謝罪会見か?」

「オレこの後予定入っているのに、なんでログアウトボタンがないんだ?」

「出せよ」

「ふざけんな」

人がごった返すにつれ、苛立ちを、文句を言う奴が増えてくる。不意に、おい!上見ろ!と叫ぶプレイヤーがいた。

俺とクラインは反射的に視線を向けた。

約百メートル上空、俺達は異様なものを見た。第二層を、真紅の市松模様が染め上げていく。よくよく見れば、それに二つの英文が交互にパターン表示されたものだった。真っ赤なフォントで綴られた単語は、【Warning】、そして【System Announcement】と読める。

異様な赤にWarning(警告) だけを見れば一瞬の驚愕だがSystem Announcement(システムアナウンス) となれば、俺はああ、ようやく運営のアナウンスがあるのか、と考え、肩の力を抜きかけた。又、広場のざわめきが終息し、皆が耳を傾けた。しかし、その後起きるのは誰もが望んだ、ログアウトを連想させる現象ではなかった。

空を埋め尽くす真紅のパターンの中央部分が、まるで巨大な血液の雫のようにどろりと垂れ下がった。高い粘度を感じさせる動きでゆったりとしたたり、だが落下することもなく、赤い一滴は空中で身長二十メートルにもなる巨大な人に変化した。

 

いや、人ではない。

 

俺達は地面から見上げているので、そのフードを付きローブの顔の中を視認できるのだ。

顔があるわけでも、赤い悪魔の目があるわけでもない。そこは全くの黒でもなく、ただの空洞。そしてフードの裏地や緑の縫い取りまでがはっきりと確認できる。

そこには、ただ、誰か何かが入っているわけではなかった。

 

しかしこの登場の演出にはそれが一番恐怖を増した。

 

アーガスのGMでもなく、悪魔が死の宣言をするわけでもない。ただ、プレイヤー達は自分たちが『完全に見捨てられた』ということを、その孤独を恐怖と感じた。

隔離された世界で、GMも何もいない。プレイヤーだけになった瞬間だった。

 

そして最後の実体のないただのボイスを出すだけの物体、ローブという音だけが現実世界と繋がる最後の糸も消えることになる。

 

低く、ひどく落ち着いた男の声が遙かなる高みから降り注いだ。

 

 

『プレイヤーの諸君、私の世界へようこそ』

 

 

――――

咄嗟には意味が掴めなかった。

《私の世界》?この声がGMならば、確かに、世界の操作権限は奴にあるはずだ。しかし、なぜそれを言う必要がある?

 

唖然と顔を見合わせたオレとクラインの耳に、赤ローブの何者かが両腕を下ろしながら続けて発した言葉が届いた。

 

『私の名前は茅場昌彦。今やこの世界をコントロールできる唯一の人間だ』

 

な・・・・・っ

驚愕のあまり、俺はアバターの、もしかしたら生身の肉体の喉も同時に詰まらせた。

茅場――昌彦!!

俺はその名前を知っていた。いや、知らないわけがない。

数年前まで弱小企業だったアーガスが最大手と呼ばれるまでに成長した原動力となった、若き天才ゲームデザイナーにして量子物理学者。

彼はSAOの開発ディレクターであると同時に、ナーヴギアそのものの基礎設計者でもあるのだ。

俺は茅場に深く憧れていた。彼の紹介記事が載った雑誌は必ず買ったし、数少ない彼のインタビューはそれこそ暗記するほど繰り返し読んだ。今の短い言葉を聞いただけで、俺の脳裏に、常に白衣を纏う茅場の怜悧な容貌がいやおうなく浮かび上がるほどに。さっき茅場のことを奴と呼んだことに少なからず申し訳ないと思うほどに。

 

だが、今まで常に裏方に徹し、メディアへの露出を極力避け、勿論GMの役割など一度たりともしたことはないはずの彼が―――なぜこんな真似を!?

 

唐突の事に停止しそうになる思考を必死に巡らせ、どうにか状況を把握しようとした。しかし、空疎なフードの下に設けられているであろうスピーカーから流れる茅場の言葉は、理解しようとする俺の努力をあざ笑うが如きものだった。

 

『プレイヤーの諸君は、すでにメインメニューからログアウトボタンが消滅していることに気付いていると思う。しかし、これはゲームの不具合ではない。繰り返す。これは不具合ではなく、《ソードアート・オンライン》本来の仕様である』

 

「し・・・仕様、だと」

クラインが割れた声で囁いた。その語尾に被さるように、滑らかな低温のアナウンスは続いた。

          

『諸君は今後、この城の頂(イタダキ)を極めるまで、ゲームから自発的にログアウトすることはできない』

 

この城、という言葉の意味を、俺はすぐにはできなかった。このはじまりの街の、いったいどこに城があるというのだ?

俺の戸惑いは、しかし、次の茅場の言葉によって一瞬で吹き飛ばされてしまった。

 

『また、外部の手による、ナーヴギアの停止あるいは解除も有り得ない。もしそれが試みられた場合―――』

 

僅かな間。

一万人が息を詰めた、途方もなく重苦しい静寂の中、その言葉はゆっくりと発せられた。

 

『ナーヴギアの信号素子が発する高出力マイクロウェーブが、諸君の脳を破壊し、生命活動を停止させる』

 

俺とクラインはたっぷり数秒間、呆けた顔を見合わせ続けた。

脳、心そのものが、言葉の意味を理解するのを拒否しているかのようだった。しかし、茅場のあまりにも簡潔な宣言は、凶暴とすら思える硬度と密度で俺の頭の中心からつま先までを貫いた。

脳を破壊する。

それはつまり、殺す、ということだ。

ナーヴギアの電源を切ったり、ロックを解除して頭から外そうとしたら、着装しているユーザーを殺す。茅場はそう宣言したのだ。

ざわ、ざわ、と集団のあちこちが騒めく。しかし叫んだり暴れたりする者はいない。俺達を含めた全員が、まだ伝えられた言葉を理解できないか、あるいは理解を拒んでいる。

クラインの右手がもう一度のろりと持ち上がり、現実世界りはその場所にあるはずのヘッドギアを掴もうとした。同時に、乾いた笑いの混じる声が漏れた。

「はは・・・何言ってんだアイツ、おかしいんじゃねえのか。んなことできるわけねぇ、ナーヴギアは・・・ただの家庭用ゲーム機じゃねえか。脳を破壊するなんて・・・んな真似ができるわけねぇだろ。そうだろキリト!」

後半は掠れた叫び声だった。食い入るように凝視されたものの、俺は首肯できなかった。

ナーヴギアは、ヘルメット内部に埋め込まれた無数の信号素子から微弱な電磁波を発生させ、脳細胞そのものに疑似的感覚信号を与える。

まさに最先端のウルトラテクノロジーと言えるが、しかし原理的にはそれと全く同じ家電製品が、もう五十年も昔から日本の家庭では使われているのだ。つまり―――電子レンジ。十分な出力さえあれば、ナーヴギアは、俺達の脳細胞中の水分を高速振動させ、摩擦熱によって蒸し焼きにすることは可能だ。だが。

「・・・・原理的には、有り得なくもないけど・・・でも、ハッタリに決まってる。だって、いきなりナーヴギアの電源コードを引っこ抜けば、とてもそんな高出力の電磁波は発生させられないはずだ。大容量のバッテリでも内蔵されてない・・・限り・・・」

そこまで口にしたところで俺が絶句した理由を、クラインも察したのだろう。

虚ろな表情で、長身の美丈夫は呻くように言った。

「内臓・・・してるぜ。ギアの重さの三割はバッテリセルだって聞いた。でも・・・無茶苦茶だろそんなの! 瞬間停電でもあったらどうすんだよ!!」

と、まるでクラインの叫び声が聞こえたかのように、上空からの茅場のアナウンスが再開された。

 

『より具体的には、十分間の外部電源切断、二時間のネットワーク回線切断、ナーヴギア本体のロック解除又は破壊の試み――以上のいずれかの条件によって脳破壊シークエンスが実行される。この条件は、すでに外部世界では当局及びマスコミ、N〇Kを通して告知されている。ちなみに現時点で、プレイヤーの家族友人等が警告を無視してナーヴギアの強制解除を試みた例が少なからずあり、その結果』

 

いんいんと響く金属質の声は、そこで一呼吸入れ。

 

『―――残念ながら、既に二百十三名のプレイヤーが、アインクラッド及び現実世界からも永久退場している』

 

どこかで、一つだけ細い悲鳴が上がった。しかし周囲のプレイヤーの大多数は、信じれない、あるいは信じないというかのように、ぽかんと放心したり、薄い笑いを浮かべたままだった。

俺もまた、脳では茅場の言葉を受け入れまいとした。膝が笑い、俺は後ろに数歩よろめいて、どうにか倒れるのを堪えた。

既に二百人近いプレイヤーがもう死んでいるということなのか?その中には、俺と会ったことのあるβテスターもいただろう。そいつらが、ナーヴギアに脳を焼かれて死んだだと?茅場はそう言っているのか?

「信じねえ、信じねえぞオレは」

クラインが嗄れた声を放った。

「そうだ・・・全てオープニングのイベントなんだように、あくまでも実務的な茅場のアナウンスが再開された。

 

『諸君が、向こう側に置いてきた肉体の心配をする必要はない。現在、あらゆるテレビ、ラジオ、ネットサービス、ネットメディア、又、緊急地震速報の仕組みを使った全てのスマートフォン、携帯電話においてこの状況を、多数の死者が出ていることを含め、繰り返し報道している。諸君のナーヴギアが強引に除装される危険は既に低くなっていると言ってよかろう。今後、諸君の現実の体は、ナーヴギアを装着したまま病院、その他の施設へと搬送され、国の支援により厳重な介護態勢のもとにおかれる。尚、医療費を負担、又は親族に負担させられない。諸君には、安心して・・・・ゲーム攻略に励んでほしい。』

 

「な・・・」

そこでとうとう、俺の口から鋭い叫び声が迸った。

「何を言っているんだ! ゲームを攻略しろだと!? ログアウト不能の状況下で、暖気(ノンキ)に遊べってのか!?」

上層フロアの底近くに浮かぶ巨大な真紅のフーデッドローブを睨みつけ、俺はなおも吠えた。

「こんなの、もうゲームでも何でもないだろううが!」

茅場昌彦の、抑揚の薄い声が、穏やかに告げた。

 

『しかし、充分に注意してもらいたい。諸君にとって、《ソードアート・オンライン》は、ただのゲームではない。もう一つの現実と言うべき存在だ。 ・・・今後、ゲームにおいて、あらゆる蘇生手段は機能しない。一部を除

いて・・だが。諸君のヒットポイントがゼロになった瞬間、諸君のアバターは永久に消滅し、同時に』

 

続く言葉を俺は鮮やかに予想した。

 

 

 

『諸君らの脳は、ナーヴギアによって破壊される』

 

 

 

『それでは、最後に、諸君にとってこの世界が唯一の現実であるという証拠を見せよう。諸君のアイテムストレージに、私からのプレゼントが用意してある。確認してくれ給(たま)え』

 

それを聞くや、ほとんど自動的に、俺は右手の指二本を揃え真下に向けて振っていた。周囲のプレイヤーも同様のアクションをし、メニューウインドウを開く。馴れた手つきで見つけたのは・・・

『手鏡』。

なぜこんな物を、と思いながら。俺はその名前をタップし、浮き挙がった小ウインドウからオブジェクト化のボタンを選択。たちまち、きらきらという効果音と共に、小さな四角い鏡が出現した。おそるおそる手に取ったが、何も起こらない。覗き込んだ鏡に映るのは、俺が苦心して造り上げた勇者顔のアバターだけだ。クラインを見るなり、彼の剛毅な容貌の侍も、同じ鏡を手に、呆然とした表情をしている。

――と。

突然、クラインの周りを転移のときと同じ青白い光が包み、直後、俺の視界がホワイトアウトした。

ほんの二、三秒で光は消え、元にままの風景が現れ・・・

 

・・・なかった。

 

目の前にあったのは、見慣れたクラインの顔ではなかった。

 

中略




誤字脱字の報告宜しくお願い致します。

最初の方はそのままですが次話以降(キリトくんが旅立つシーン)からはオリジナルキャラをのせていきますのでBANしないで下さい!

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