ソードアート・オンライン プログレッシブ 四人の進道 作:壊緑茶
「《名釣り》・・・ね。——このスキル相当強そう。バフも見逃せないけど、基礎値がアップするのは信じられない」
「おお!強いなんて言葉ナギナが使った。これはレコードしなければ。心に」
「心?・・・そういえば訊いてなかったけど録画とか、せめて録音とかできるの?ウインドウ見たところそういうのは無かったと思うけど」
録画は番外だがSAOでは撮影と録音はできる。
「SAOでは写真と、ボイスレコードは残せるよ。でもゲームの機能としてじゃなくてゲーム内のアイテムとして。まあ俺自身それ使ったことないし、公式が発表しただけでまだ誰も使ったことないと思う。十一層以降なのかもな」
βでは十層の迷宮区まで俺は行けた。そこまでには、言った通り撮影ができたり録音ができたりするアイテムは無く、第一、フィールドで写真を撮っていたりするのは攻略中は無理だろう。使う場面は下層の思い出巡りとか、街中に限られる。
「へーでも一応在るんだ。けど十層って現状だと一か月では行けなそうだよね・・・暫くは考える必要はなさそう、ということで」
進行速度が明らかに遅い正式サービス版。進捗が遅くなる理由は十二分に頷ける。リスポーンできないという事情があるのはゲームがクリアされるまで付いてきそうと朧げに認識した。
まだ朝早いが報酬が豪華なクエはめんどうくさい上、時間がかかる。早く始めないと今日中にコンプリートできないかもと、足の交差速度を速める。
本日お世話になる滞在場所は昨日の池、ナギナと倒した毒スライムの心臓を浸けたその池は原形に戻り釣りができる所謂釣堀になった。
今回のクエストで俺達は、数値面でも技術面でも成長しただろう。例えば、新しく追加されたスライムを倒すまでに大いにパリィ技術が上達したことだ。
砂漠の東隣の、高低差の多い草原フィールドでマツリに会った俺達は沙漠を縦断してはじまりの街に戻った。そこでパーティー申請をされたが、あの時は断って今は北東側を攻略している。
現在の宿は北東にある町、《コウゼン》だ。なんとなく日本にも中国にもありそうな名の町の規模は《ファルベカ》と同等。ファルベカと対になる位置に在るコウゼンは、名釣り獲得クエストを持ち出してきたおじさんと初めて会った処の湖の町、港町ではなく湖町だ。
一層の中でも一、二を争う透明度の、あの湖の
その上町は傾斜していて、中心を通る主要通りに向け斜め方向に家が並んでおり、透明な湖に相応しい洗練された町だ。
家々の中、町の一角に佇むひときわ大きな家は実は民家ではなく民宿で、俺達はそこの最上階である五階を借りている。
湖の外周から百数十メートルはのどかな草原が広がっており、町は西に昨日の森は東にある。そろそろ森に入りかけるところ、俺達は早歩きから駆け足に変えた。
14の男子に踏まれて、土と雑草共は擦れさっと鳴く。動物が歩けば植物はいずれその場所から消えてゆく。どうやら視線直線上に人が多く歩く道はない。
森のすぐ隣で村にも近いのだから手入れしないのかとも思うが森に入ると険しい山を縮めたような岩々が入り組んで、人間が森での仕事を済ませるためにここを整備する必要はないだろう。
岩と岩の隙間に根が張り、木が立っているのは黄山の斜面に似ている。高低差は小さいから写真で見たような壮大さも連想される危険もないけれど、此処にはコケが生息していた。
滑らないよう十分弱ジャンプを続けると池に着く。
おじさんは小屋の中で道具を漁っていた。話しかけてクエストを進行させ、頭上のマークを変えた。
「これは初心者向けの釣竿だ。初心者向けといっても私が使う竿と何も変わらないけどね。色がついていないだけ。・・・どうぞ」
「————ありがとうございます」
「使い方は君達も知っていると思う。針に餌をひっかけて池に垂らす。浮きが沈んだら竿を引っ張って魚を釣る。難しいのは竿を引っ張るときで、そのタイミングを誤ると魚は逃げてしまうよ」
実物を指で指しながら説明するおじさんに、これはもう使い方を言っているのではないのかな・・?と突っ込んどいた。
「はい。分かりました」
同時に竿を頂戴してその質感を感じる。・・・んーいったって普通。
木の枝に糸を垂らしただけ、のような簡素過ぎる見た目でもなく、それなりの堅い棒であり弧状にも曲がる、つまり弾力性もある。
とはいえ大きな魚の反発には耐えれそうにはない。硬すぎるのだ。
あちこちベタベタ触って確かめたが、まあ普通だと思う。
「さーてと、どれぐらい釣れるのかな。出現率はどれくらいかな。逃げられる確率はいくらかな・・・透明だから魚の数も見れて、引っ掛かっても分かりそう。釣れば釣るほど熟練度もがっぽがっぽだよね。・・上でやったときより簡単そう」
「見た目はねーでも案外つれないかも、こういうのって大抵そうじゃん」
その線も考えられるな。いくら視覚的に簡単でも魚が手ごわければ釣れない。
「もしかしたらそれをさらに裏返してめちゃくちゃ釣れるかもしれないだろ」
「キリト、そのさらに反対の可能性は?」
「その反対も?」
思ったより笑っていたみたいだった。
「その反対も?」
「もうキリがないよ。いつまで続ける気?」
さすがに苦笑いになっていた。
「まあまあ、喋ってHPが減ることはないから」
☆ ☆ ☆
絶賛、焦っていた。
おじさんは「焦るな焦るながんばれがんばれ」と激励してきたが、がんばれと応援されてどうにかなるものではない。いや、最早声援で魚が逃げていた。
浮きが沈むと、水が音で知らせる。それに視界から消えるから、分かる。
俺達のような初心者には実際よりも忙しく感じた。ナギナは、自分のもので忙しそう。忙しいというよりかは筋力的にキツイものがある。
極端に大きくないし、極端に早いペースでかかるわけでもないが、どちらかと問えば大きく、前の魚をバケツに入れたりなんやらかんやらしている内に新しい魚がかかる。自分が想像していたよりも抵抗は強くて水の中では魚は釣り上げられまい食べられまいと必死に尾びれを振っているであろう。
小さい生き物の体に対する筋肉の量は、人間よりも少ない比率でその体を動かせると聞いたことがある。虫はあの細い足でも問題ないのは、小さいからだ。もし魚が人間並みのスケールなら、単純に体を倍にしただけでは肉は乏し過ぎて、筋肉の体積をさらに多くしなければならない。
羨ましいなあと呟きながら、尚も頭を半分ぐらい空にしていた。
おっと!
さすがに何十匹目にもなり脳死で手を動かしていると、しばしば今行っていた事の手が止まる。
竿が描く弧は二つ合わせたら楕円形になる。腕を上げ、引くと少し丸に近くなった。俺は後退し、網を取る。もう一度水面の殆ど真上に顔を置き、糸と網を握っている手で抓んで引っ張って魚を近づけてみた。
らあっ!
「・・・これで50匹目だ。」
バケツが十数個いっぱいになった。後この魚飽和水(魚入りバケツ)が倍必要である。攻略サイトで見た時のクリア条件は100匹だった。
☆ ☆ ☆
「お!」
かなり大きめの魚がかかった。強いな。
「よっと」
魚・・・?が上がった?
魚かモンスターか半信半疑になりつつ針先を近づけた。池の中央近くに糸を垂らしたので水深の深い所に住む大きい魚か、あるいはそこに住む捕食者かを確かめるべく近づけたそれには・・・巨大おたまじゃくしが引っ掛かっていた。
体長50センチはあるおたまじゃくしは、そのヌメヌメした身体を風に揺られる鯉のぼりみたくはためかせる。かなり、というか相当奇怪で、つまり気色悪い。
間髪入れずに彼岸で立っているナギナを呼んだ。
「・・・なんか成長したらかなり大きなカエルになりそうだよね」
突っ込むところそこかと心の中でツッコミつつ確かに成長されたら厄介だなと思い剣でバッサリ斬った。
その後は特筆すべき事は無かった。100匹の魚を釣り終えて(顔は違うが)お馴染みのおじさんに魚を渡したところでクエスト完了、同時に俺達のメニューウインドウに《名釣り》スキル取得のメッセージが表示された。取り敢えずなんでもすぐに戦闘に入るSAOはその度にいちいち疲弊するので1ミリメートルぐらいはホッとし、1ミリメートルぐらい死に近付かなかったことに感謝をしただけだった。
早速その《名釣り》とやらの効能を確認するため、ウインドウを開き数少ないスキルから名釣りをタップする。
『※名釣りは釣りの上位互換である。』
丁寧にもその御書きから始まる説明欄にはβ時代の情報と大体同じ内容が記されていた。
『名釣り
熟練度0
このスキルを使って釣った全ての魚は以下のボーナスが追加される。
HPの回復量及び回復速度+30%
Bランク以上の魚を食べた場合に基礎ステータスが上昇。
(Bランクは筋力攻撃型(攻撃力)・筋力耐久型(防御力)・敏捷度のいずれか+0.1。Aランクの場合いずれか+1。Sランクの場合+5)
尚、熟練度上昇により以上の値が上昇する。』
基礎値の上昇量はもう一つの浮遊城と変わらない。ステータスが5ポイントも上がれば僅かだが実感できるほどの変化だ。これが名釣りで獲得できる全ての魚に適用されればゲームバランスを崩しかけないが、生憎Sランクのアイテムなんてそもそも会えないので突出してこのスキルは強くないだろう。それでもステータスの底上げへの貢献が著しいこのスキルはこれから人気が出てくるだろうということを改めて、認識した。
「早速使ってみようか、ナギナ」
ナギナを催促して池に連れる。針にエサを引っ掛け糸を下ろす。竿を引き浮きを水面に向かって投げた。
ちゃぽんと水が言った。直後浮きが揺れた。三度振動すると浮きが完全に沈む。間もなく竿を持ち上げる。
《名釣り》一匹目!名釣りスキルは何気にβの時から楽しみにしていたのだ(とゆうより妬ましげに取得者を見ていた)。中二・厨二ゲーマーの一人として最強並みのバフ効果を備えるスキルを試してみたいのは普通であろう。心の中で某サメ映画のデンデンデンにじゃじゃーんと、脳内再生をしながら魚をタップすると、そのBGMに相応しい効果が付与されていた。
『HP回復+300
HPリジェネ+1000』
今の俺達のヒットポイントがおよそ2000。レベル1の治癒ポーションの回復量は1000だからHPポーションより少し強いといったところか。ただ俺の知っている限りではSAO内の治癒ポーションは全て時間回復型で、即時回復ができる結晶はもう少し上の層からしか入手できない。
HP回復300は数値的には微妙だがこの即効性は貴重だ。もしかしたら現時点では、この名釣りで捕獲した魚でしかHPを即時回復できないかもなどと思いながら俺はそれを検証するためにナギナに提案する。
「あのーナギナさん、HPを自ら減らすという自虐に・・・・」
「自虐(笑)?それ自分で言うんだ。気になるなら試してみたら?ちなみに僕は君がイエローになってもポーションあげないしモンスター湧いても助けないから」
「・・・そうすか。あれまってさすがにイエローになったら・・・」
一応ソロのときはHPバーが黄色になったら即撤退をすることになっている。
「ん~じゃあ黄色になったらね」
「は、はいお願いします。ナギナさん」
「・・・ヨシいくぞーおー」
検証の結果、これにはマジでHP即時回復効果があるらしい。語尾が「らしい」なのは未だに半信半疑だからだ。
ベータテストからSAOのみならず全てのゲームにおいて仕様が変わるのは重々承知しているつもりだったけれど、あのほぼ完成形を一ヵ月もプレイした身としては少しの変化にも驚きがある。
本心ではこの後、レア度がBランク以上の魚が本当に基礎ステータスを上昇させられるのかも実験したいところだが、残念ながら俺達は攻略をサボれない。
三層のとあるクエストから結成可能になるギルドのようなノルマがあるわけではない。単にカンの問題だ。だらけていると、そろそろ抜かされそうだなあーというあれ。
そろそろ抜かされそうだからがんばろーというかなり楽観的な原動力を元に、その後四日間は《ホルンカ》と《ファルベカ》《コウゼン》にあるクエストを片っ端から終わらせた。レベルは10に上がり、又真のアインクラッド開始から21日が経過した。
———そして今は攻略開始22日目、11月27日。SAO第一層は八割以上マッピングされ、残りの二割は迷宮区とトールバーナとその周辺だ。そして今、第一層迷宮区に最も近い町《トールバーナ》に続く道を歩いている。
「やっとここまで来た」
まさにその言葉が相応しかった。ベータテストではおよそ二週間でクリアしたこの層は今やっと二層へ物理的に繋がる地上二十階の迷宮区タワーを始点として攻略されようとしている。死者は物凄い量だった。黒鉄宮に在る金属製の巨大な碑《生命の碑》に無慈悲にも横線が引かれた数は現時点で1500だ。22日で1500人死んだ。日当り68人が死んでいる計算である。すなわち毎時2.8人が命を落としているのだ。
直径十キロ、高さ百メートルの円柱という狭小な空間。しかも老死や病死は存在しない。これは単に超絶治安が悪い場所とか、海外の局所的なスラムとは違うのだ。それが一つの都市を形成している。どこへ行ってもひったくりではなく強襲に備えなければいけない。死は常に迫ってくる一方、助け合えば防げることでもあった。殆どが運である病気と、最大限気をつけていれば死なないSAO。そしてパーティを組み連帯的に行動したり、情報を持っているプレイヤーが教えれば助かった命。
俺は毎日の死者約68人を無くすことは叶わずとも減らすことは可能だったのだ。こうして誰とも触れ合わずコンビで行くと決めたからには、そういう人達へ償う義務がある。俺は、あの迷宮区を少しでも早く突破しないと。
「そうだね」
短い返事が聞こえた。
正直、ナギナには本当に感謝している。デスゲームが始まったあの日、俺はソロでひたすら自己強化のために戦うつもりだった。もしコンビを組んでいなければ死んでいたかもしれないなどというほど自分に自信が無いのではないし、これから迷宮区攻略やいつかは解放されると信じている二層やもっと先の層で倒れるという失望的観測をしているのでもない。
・・・ソロ攻略の限界を俺は知っている、それだけだ。どれだけ安全マージンを取っていても死ぬ時はあっさり死ぬ。
ソロ攻略での死は運なのだ。
だからこそ不運を実力でかき消せるコンビやパーティは安全なのである。そういう意味で俺は感謝していた。
トールバーナに行く途中はモンスターと何度かエンカウントしただけで済み、どうやら一番乗りで到着したようでプレイヤーは一人も居ない。プレイヤーが居ないと微妙に寂れているなあと思いながら一先ずここで補給休憩を済ませ、直ぐに片っ端からクエストを受けておいた。簡単なやつは今日中に終わらせて他のも順次進行させていこうとナギナといつも通りの確認をして、おらァと稲妻のごとく街を出る。
勿論目的は《逆襲の牛》クエストだ。何のアイテムのために受けるのかは未だナギナに伝えていないので、何気にサプライズを企てつつ最速(二時間)でクリアする。目的のクリームが一つかもと心配したが、幸いなことにパーティメンバー全員にそれぞれ一つずつ貰えて心配ご無用だった。
「クリーム・・・?」
無駄なことは極力したくない派らしいナギナは微妙に顔を傾ける。
「・・なんでこんなクエスト受けたの?いくらなんでも経験値少な過ぎない?」
(別に引っ掛けようとはしていないが)見事に引っ掛かった。
「・・んーなんでだろう」
などと誤魔化しておく。
「まあまあこれはね。その、えーと・・・」
えーと言い訳考えていなかった。
ん〜・・・
「あっそうそうあれだよアレ。完全マッピング主義者なう全クエスト完了主義者だよ」
言って直ぐそもそもあっそうだよあれアレとか弁解している時点で死んでいる、なんて悲し言い訳なんだろうと自滅して、これからサプライズ仕掛けるときは口実の一つや二つは作っとくべきだなあと反省した。
肩を落としながらナギナを見ると特に変わりない様子だったのでこれはギリギリ切り抜けた、ということにする。
その後もしつこくどうして?なんで?と問われながらアイテム収集クエストと魔獣討伐クエストの目標数値を埋めた。クエスト六つ分を集めたところで丁度陽が最も明るくなる。昼だ。仮想の空腹感の巻き上がり覚える。
「そろそろ飯食いに行こうぜ!」
遠くに居るナギナに届く声で叫んだ。この後はトールバーナに戻ってご飯を食べる。寄ってきたナギナはさすがにもうクリームのことは忘れているのだろう、何もと問い詰めずただ疲れた〜とボヤいていた。
「よしよし食べよ食べよ。ところでキリト、この町にはあの白い一コルのパン以外で安くて美味しい食べ物ってある?」
「残念〜一コルで買えるパンはこれ以外ないんだなそれが。次の層だと二コルであのパンよりマシなやつがあるけど」
「そうだよね。仕方ないかあ節約のために」
そうそう節約節約にと半ば反射的に返事した。
《トールバーナ》に至った後NPCショップで激安(値段相応)パンを二つ買った。このパンの長所は安価である事と安すぎるが故(攻略組は)イチイチ割り勘が不必要である事だ。例えパーティメンバーでなくともあれの一つや二つ、容易い出費である。とは言ったもののSAOでは料金は基本的にパーティメンバーで自動割り勘されるので今は案じなくともいいが。
そんなほぼほぼ安い事しか取り柄がないパンをナギナに渡す。適当に座って食べようとするのを制止して早速「あれ」を実体化した。
「クリーム・・・?」
無言でクリームを「使った」俺に、ナギナは少々関心を持ったようだが結局何もしずに控えめに開口したので再び制止してクリームを「使う」のを促す。
「これ、塗ってみろよ」
「・・・・・」
それでもやや迷い気味だったので痺れを切らしてクリームの壺を投げる。ナギナはスっとキャッチするとようやくそれを塗ってくれた。以外と新しいもの興味ないヒトなのかなあ、知らなかったなあと考えていると東方から期待通りの反応が返ってきた。
「おいしい・・・!あの味気ないパンがなんというかデザートみたいに・・・これらもうケーキだよ!」
疲労が溜まっていていつもより元気がないというか静かだったが、今の彼にその面影は欠片もない。
「使った方がいいだろ。ベータの時は空腹を無視できたからうまいメシを探したりしなかったけど、それでも最初食べたときは驚いたよホント。そこら辺で売っている中途半端に高いご飯よりも絶対うまい」
「うん。そう思う」
ナギナはゆっくり味わって食べ完食した。クリームパンの余韻に浸っているらしく、未だ顔がニヤけている。俺も久しぶりに食べたあのクリームパンはやはりかなり美味しかった。味は色褪せていないようだ。
調子を取り戻したところでクエスト報告・補給・休憩、今回は武器のメンテもしてもらい《強靭なアニールブレード》から発される所謂強い剣オーラが復活した。ぎらりと輝く剣身を一瞥して鞘に戻す。
「じゃあ、午後の攻略開始だな。ここで受けられる一部のクエストは、迷宮区で湧くモンスターの討伐依頼も含まれているから・・・・」
「から迷宮区攻略に行く・・・?」
「そそ。さっき迷宮区タワーが見えたけど、あれに上る」
ここから見えないかとタワーがある北北東方向を向くが、建物が邪魔して視認できなかった。探すのを諦めナギナを振り向く。
「迷宮区はそこいらに居るMobとは全然違う。ゴブリンとかオークとか一層のフィールドやダンジョンでポップしない亜人系モンスターが出る。奴らは《ソードスキル》を使うから本当に気を付けないとな」
そう。第一層迷宮区はSAO初のソードスキルを使う敵がいる。
「・・・ソードスキルって敵も使えるんだ」
意外半面想定内だろう。
「勿の論だよ」
「ついでに言っとくと、ソードスキルを使う敵と戦うときに最も重要なことは冷静なのは勿論だけど、相手のプレモーションを見極めることだ。ソードスキルは速いしダメージが大きい。でもソードスキルを使う敵は特殊攻撃をあまり使わないんだ」
「というと?」
「殆どか剣と盾が通常装備。つまり手を使った特殊攻撃は少ない上にブレスは吐かない。体が人の背と一緒なのが多いから、スタンプ攻撃もないし防御不可の超攻撃も少ない」
「ということはパワーでゴリ押したりしない?」
「ああ。その剣技を生かした色んな攻撃をしてくる。他のMobと決定的に違うのが盾を使った防御で・・・」
うんうんと頷いているのを確認して続ける。
「動物系とか植物系は、高度なAIを持っていても避けるぐらいのことしかしないけど亜人系は違う。盾で防御してくる。これがウザくてさ、ダメージは入るんだけどほぼ相殺されて」
「ああそっか確かに。言い換えれば甲羅を纏っているようなものだよね」
「そうそう。他のモンスターで表現するなら防御力と攻撃力両方とも高い群れのリーダー的なやつが標準湧きって感じ」
あれ今の説明分かりにくくない?と自問しつつ考えた。
亜人系又は人型モンスターの特徴は防御されることである。単に防御力が高いとかではなく盾を動かすことで《防御》をしてくる。
突進系ソードスキルならダメージが入らなくても、ノックバックが与えられるのは不幸中の幸いだが、斬撃系、刺突系では良くてチャラ、しばしばこちらにディレイが課せられるのだ。
「つまり盾には気をつけてっということ。それとさっきも言ったけどソードスキルを避ければ相手は技後硬直でこちらが圧倒的に有利になるから、プレモーションを見極めて」
その日、迷宮区攻略一日目は塔二階まで踏破した。午後から始めてに二階まで攻略できたから、明日は四つか五つは進むだろう。まだ一層迷宮区の一二三階は馴れのため・・・というか体験版みたいなものでまず死なないようになっているが四階以降・・・いわゆる正規版は数種類だった攻撃バリエーションが段々と増え十数個になってくるので安全マージンはより十分に取らなければならない。
「当たり前だけど階が上がれば攻撃バリエーションは増える、言い換えれば普通なら死なない敵でも必殺技で死にかけることがあるから注意」
「うん。・・・ところで必殺技ってどういうのなの?」
「それはまあ・・・秘密かな。その都度言うよ。結構大事なことだからしっかり覚えておかないといけないよ。・・・・あえーとここで言って、言葉で覚えて誤解していると、本番本当に危ないっていうこと」
それだけ伝えて、迷宮区に向かった。