サイバーパンク2077 オリ主添えネコミミ仕立てレリック抜き   作:はすむかい

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レイモンド・チャンドラーの夕べ

 

 薄暗い店内に紫煙が漂い、赤紫のネオンサインがチリチリと音を立て、陽気なノリのチカーノ・ラップが大音量で鼓膜を揺らす。

 壁はそこら中が骸骨聖母(サンタ・ムエルテ)のラクガキアート。

 

 1階の安席は電線ボビンを横倒しにしただけの立飲テーブルを駆け出しの娼婦やギャングの若造が埋めて、2階のソファー席ではコーポ崩れの客が飲んだくれてクダを巻く。

 

 ドラッグ、リカー、フレグランス。

 それらが入り混じった甘い香りが立ち昇る店内、入ってすぐ正面。

 バッファローの頭骨を飾ったバー・カウンターの、合皮が破れボロボロになったスツールに腰掛ける3人の男女がいる。

 

 1人は体格の良い男、ジャッキー・ウェルズ。

 

 もう1人は女性、(ヴィー)

 

 最後の1人も女性だが、こちらは何故か頭上にネコミミを生やした巨乳美少女で、我らがオリ主の(ザラ)である。

 

 3人ともヴァレンティーノズと何らかの関わりがあるのだろう。

 赤や黒、金で着飾ったボディフレームに黄金メッキのクロームを接続し、さらにバラやイバラ、ハート、骸骨聖母(サンタ・ムエルテ)のタトゥーを入れている。

 

 特にZはヘソ出しスタイルの下腹部へ、イバラとハートを組み合わせたジャパンタウンのオタク・テッキーが好みそうなやらしいタトゥーを入れていて、腕利きのソロ二人と話し込んでいなければ娼婦にしか見えなかったかもしれない。

 

「それで、ペペの奴は帰っちまったのか?」

「奥さんのことを疑った状態じゃ手もとが怪しいんだって」

「ギャングの親分みたいな外見なのに、繊細な男だニャ」

「ふっ、言えてる」

 

 クククと笑う女性二人に、ジャッキーがしかめ面で酒を呷る。

 ぷはぁ、と小さく息を吐いた。

 

「……愛してるから、だろう? 俺には解るぜ」

「ここにも繊細男がいたニャ」

「確かに、ジャッキーも同じような状態になりそう」

「ミスティの帰りが遅いとか、最近なんとなく冷たいとか、無いかニャ?」

「おい、よせ! 考えたくもねぇ!」

 

 少々声を荒げ、手酌でもう一杯ショットを呷る。

 ブルーグラスがもたらす幻覚(フラッシュアウト)を振り払うため、そして何より女性二人のせいで気に食わない方向へ流れた会話をリセットするため、ブンブン頭を左右に振った。

 

「それよか確認しようぜ。ターゲットは?」

「シンシア・ナハロ。女性。ピンクのジャケットにブルーのバッグ……カラフルね」

「休日に仕事に行くって出ていったりするし、子供がペペに全然似てないらしいニャ」

「微妙なトコだな……」

「クロというには証拠が足りなさすぎる」

「ペペの言う通り、仕事帰りを尾けるしかないか」

「それで、仕事場はどこニャ? 近所だって言ってたけど」

「ビスタ・デル・レイのスカイライン・イースト」

「ドブ通りか……シックス・ストリートがうろついてなきゃ良いが」

 

 ビスタ・デル・レイはナイト・シティ本島の東部、懐古趣味なアナログ時計で言えば3時から5時くらいに当たる地域だ。

 北と東でアウター・シティと繋がる橋がかかっているため、ジャパンタウンのタイガー・クロウズやアロヨのシックス・ストリートといった他所のギャングが侵入しやすい。

 とはいえスカイライン・イーストはその中では最も西で、グレン――つまりヴァレンティーノズの本拠地――に近いから、さほど心配することはないのだが。

 

「そーいうの”フラグ”って言うんだニャ」

「旗が何かあんのか? カブキ・スラングはよく解らんぜ」

「多分、悪魔の話をすると悪魔が来る?」

「近いニャ」

「なら、そう言ってくれ」

「ウチのデッキ、翻訳性能が低いニャ……」

 

 童顔の頬をぷぅと膨らませて不満をアピールするZに、ジャッキーとVは頭痛を抑えるよう額に手をやった。

 まるで聞き分けのない子供を相手している気分である。

 

「耳と脚にばかり力を入れてるからでしょ。この間の稼ぎ全部突っ込んだって話じゃない」

「全部だと? そこそこ良い金額だっただろ」

猫脚社(キャット・ポー)新型(リンクス)に消音ダンパーとか詰め込んだら一瞬で消えたニャ」

「うへ」

「ま、ペペの支払いでもうちょっと良いデッキを買うのね」

「次はマタタビ・パッケージを買う予定なのニャ」

「3400エディもかけて毛むくじゃらになりたいの? ダメ。却下。禁止」

「ハーフリング・パッケージより全然安いニャ」

「いいから、やめとけ。今のままでも十分、なんだ、カワイイ? だろ」

「おやぁ? ウチの可愛さによーやく気づいたかニャ?」

「調子に乗るな、クソキャット」

「はい……」

 

 そこには、悲しげに返事をする猫獣人の姿があった。

 

 

 

 

 晴れのスカイライン・イーストは、高速の間から差し込む太陽が眩しいほどに煌く。

 幻想的であり、感動を呼び起こすほどに、だ。

 もっともそれは、空を行き交うAV(エアロ・ビークル)の撒き散らす汚染物質やアルミ装甲の粉塵、アロヨの工業地区が上げる排煙残渣の金属粒子がもたらす光景だと知るまでの短い間である。

 

 ついでに言えば、今や運河と化したかつてのモロ湾は排水で汚染されきっていて、ここ50年の間は一度たりとも魚の姿を見ないほどだという。

 もちろん立ち昇る悪臭は相当に酷いもので、何かが腐ったような空気が辺り一面に漂っていた。

 

「で、どうして尾行しているのが私だけなのかしら」

『3人でいたら目立つ。俺はデカくて目立つ。Zはネコミミで目立つ』

『消去法だニャ』

 

 2077年ではほぼ必須となっている内蔵式エージェント――頭蓋骨に埋め込む携帯端末――での通信に、Vは眉根を寄せる。

 聞くまでも無く分かっていたことではあるが、こうも悪びれなく言い切られると腹が立つというものだ。

 

『それに俺は万が一のために車で待機してるんだから良いだろ』

 

 ジャッキーの役目は後方でシックス・ストリートの襲撃に備え、もし本当にそれが起ころうものなら車ごと突っ込みシンシアやVを拐うようにして保護するというもの。

 

「それで、ネコミミのお嬢さんは配置についたの?」

『とっくに。いまターゲットが真下を通り過ぎたニャ』

 

 ではZはというと、ビルの屋上からVたちを見下ろしている。

 そしてVはZの眼球とリンクし、目視と俯瞰の同時監視でターゲットを追うのである。

 これができるのはキロシ社のカイロンを眼球に入れているVとZの組み合わせだけで、ジャッキーでは不可能なのだ。

 だから必然的にこの配置となるのは仕方がない。

 ネコミミさえなければVとZを逆にしても良かったのだが……。

 

「って、アンタいつの間にか猫目オプション入れたでしょ!? 視界が気持ち悪い!!」

『き、気持ち悪いとは何ニャ! 暗視性能は最高クラスなのニャ!』

「今は真っ昼間でしょうが!」

『おい、静かにしろって。いくら知り合いの嫁がターゲットだからって気を抜きすぎだ』

 

 とジャッキーが言うものの、シンシアは後方20メートルほどを空けて着いていくVに気付くこと無く歩いて行く。

 ブレイン・ウォッシュのゲーセンを左手に見ながら、薄暗いメトロの高架下を潜って、セカンド・アメンメントのガンショップがバカスカ鳴らす試射の音を後ろに置いて通り過ぎる。

 そして横断歩道を渡ったところにある雑居ビルの階段を、彼女は登っていった。

 

「1階は飲み屋”暗夜街(ナイト・シティ)”のテナントみたいだニャ」

「2階から上は住居にしか見えないが、ホントに階段を上がっていったのか?」

 

 シンシアが姿を消したのを見計らって、Zとジャッキーが合流する。

 

「えぇ。左のドアが店の入り口、右が階段入口。彼女が入ったのは右のドアよ」

「ふむ……しっかしキナ臭いところにあるビルだ」

「まったくだニャ。あっちには”徒”の字のラクガキ・アート。こっちはサンタ・ムエルテ。そっちが星条旗ニャ」

「最っ低。ギャング三つ巴のホットスポットじゃないの」

 

 タイガー・クロウズ、ヴァレンティーノズ、シックス・ストリートの順である。

 

「ついでに言えば、隣のビルのテナントは胡散臭い格安サイバーウェア店だぜ」

「ジャッキー。そのビル、隣じゃないわ。後ろでつながってる」

 

 ジャッキーの言葉に、一見すると隣に見えるビルとの間を覗き込んだVとZ。

 だが彼と違い、2人はZの猫目で薄暗い路地の奥まではっきりと見ることが出来た。

 

「真上から見たらL字になってるビルを、他のビルに見えるよう別様式で増築して□の形にしてるだけニャ」

「おいおい、どんどん嫌な予感がしてきやがるじゃねぇか」

「そうね……本当に浮気しているならどうせ長々と交尾するでしょ。突入する前に周囲を調べ直す余裕くらいあるんじゃないの」

「そうするか」

 

 今度は連れ立って、スカイライン・イーストを西に入りカレッジ・ストリート方面へ。

 1ブロック歩いたらもう一度曲がって今度は北へ。

 ぐるっと裏へ回り込んだ、ということになる。

 

「足場?」

「外壁の再塗装か?」

「セメント袋が積み上げてあるから、増築じゃないかしら」

 

 右手に見える4階ほどの高さまで組み上げられた足場を、3人がチラリと観察。

 直径5センチほど長さ6メートルほどの鋼管を組み鋼板の床を載せた、ナイト・シティどころか世界中でよくある鋼管足場だ。

 

 その鋼管足場の奥の方で、ヴァレンティーノズと思われる数人のギャングがたむろっているのが見える。

 

「それで、俺達に協力はしてくれないって?」

「あぁ。パドレには失望したよ……偽善者め」

「なら、今度の件を片付けたら次はパドレだな」

 

 パドレ。本名はセバスチャン・イバラ。

 元ヴァレンティーノズの幹部であり、今はヘイウッドでフィクサーをやっている人物。

 彼には3人も世話になっており、多量の恩義とわずかの憎しみを感じる相手である。

 そんなパドレに、あのギャングたちは依頼を断られたらしい。

 

「何か関係あると思うか?」

「わかんないケド、パドレに対して害意があるみたいだし、やっちゃって良いニャ」

「そうね。もし関係なくても小遣い稼ぎにはなる」

 

 NCPD、ナイト・シティ・ポリス・デパートメントは、治安の悪すぎるナイト・シティにおける苦肉の策として民間人に業務を委託している。

 NCPDの機能オプションをインプラントした状態で懸賞金のかかったギャングを殺すか、あるいは無力化すれば、口座に報酬が振り込まれるのである。

 世も末なやり方だが一定の効力をあげている手法でもあるので、批判に晒されつつも廃止される気配は全く無い。

 

「ん~、でも、何人いるんだニャ?」

 

 残念ながら入口は狭いくせに奥の方は広場のようになっていて、ここからでは人数を確認できなかった。

 ……凄腕のソロである彼女を除けば。

 

「V、頼んだ」

「了解。なにこれ安物のICE……兎と言って渡すのは猫、水を怖がるのは猫、蚤がたかるのは犬……オーケー、記憶情報も抜けた……よし、ピンを打つ」

 

 VとリンクしていたZとジャッキーには、甲高い電子音が聞こえた。

 同時に、Vが感知したヴァレンティーノズの男と、彼にリンクしているギャングたちが、一斉に視界に浮かび上がってくる。

 本来は見えない位置にいる壁の裏側の者たちもまとめて、その輪郭がハイライトされ居場所が手にとるように解るのだ。

 

「5人ね。ジャッキーも見える?」

「おう。エージェント感度良好だ」

「んじゃ行くかニャ?」

「そうだな。ちょっくら行ってくるか」

「それじゃ5秒後に”目を盗む”3……2……1……ゼロっ!」

 

 Vのカウントに合わせ、ジャッキーは腰のホルスターから、Zは太ももの側面から飛び出した内蔵式ホルスターから、それぞれ拳銃を取り出すと同時に走り出した。

 

「目がっ!?」

「攻撃を受けている!?」

 

 眼球の機能を一時的に停止されたギャングたちが、大混乱に陥っている。

 そんな彼らに向けZは悠々と銃を構えた。

 

「ウチ22口径だから期待しないでニャ」

「わぁってるよ!」

 

 Zの、男好きのするむっちり系の太ももでも、それ以上のサイズの拳銃をインプラント・ホルスターに収納するのは難しい。

 機能がそれだけなら多少大きい銃でも可能かもしれないが、Zのサイバーレッグの本領は隠密性なので、収納力は最低限でしかなかった。

 とはいえ、フェデレーテッド・アームズ社製の拳銃であるインパクトは、かのモーガン・ブラックハンドも勧める名銃だ。

 それに22口径はライフル弾なので、25口径なんかよりは貫通力がある。

 最初から戦場になると決まっている場合や郊外であれば話は別だが、携行性や隠密性も考慮すると街中での仕事であれば十分以上の選択肢であった。

 

 パン、パン。

 

 そんな気の抜けるような軽い音とともに発射された弾丸が、ヴァレンティーノズの前頭部にヒット。

 当たり前のように身体を強化している昨今、22口径ではこの部位に直撃したところで脳髄をぶちまけるような事態にはならない。

 しかし弾丸は頭蓋で滑りながら皮膚を抉り取り、同時にその運動エネルギーでもって脳を揺らす。

 もちろん一撃で脳震盪を起こさせるようなことはない。

 しかし怯むくらいはする。

 そして、それで十分……。

 

 ぶっ殺すのは、ジャッキーの、50口径の仕事だ。

 

「チンガーダ! マードレ!」

 

 射撃管制眼球を用いたジャッキーの2丁拳銃が、別々の目標に対して一斉に火を吹く。

 強化プラスチックでカバーされた頭に直撃した弾丸は、先端から潰れつつ骨の曲面に食い込むようにして下方へと曲がりながら、突き抜ける。

 その突き抜けた穴からわずかに遅れて衝撃と脳漿が吹き出して、後ろの壁に人肉ミンチ製の花を2輪も咲かせた。

 

『”目を借りる”わ、Z』

『いつでもどうぞニャ』

 

 Vは飛び出さない。

 代わりに、Zの視界を使って一気にデーモンを送り込む。

 

「やめろ、やめろぉっ!」

「あぁ! 俺の脳に入ってくるな!」

「私が……消えちゃうよぉ……」

『気付くのが遅い』

 

 残った3人のギャングが聞いたのは、Vの冷たい電子音声だった。

 首のジャックからほぼ同時に火花が散って、それで人生は終了(フラット・ライン)

 何の感慨も派手さもなく、静かにシナプスが焼き切れる。

 

「終わりね」

「合わせて300エディくらいだニャ」

「小物だったな」

 

 NCPDの賞金リストが自動的に適用され、3人の口座に報酬が振り込まれた。

 といっても、1人頭で100エディではどうにもならない。

 なにせ10エディでピザが6分の1食える世の中だ。

 100エディじゃそれ10枚分でしかない。

 

「さて、私は抜いた記憶情報を詳しく見てみるわ。2人はその辺を調べてみて」

「了解っと……位置的には、ちょうどペペの嫁が入ったビルの裏だな」

「ニャ!? ちょっとジャッキー! コレ見るニャ!」

 

 Zが指差す先にあったのはオレンジ色の乗用車だ。

 後部ハッチにデカデカと”蜘蛛の脚が生えた赤眼ドクロ”がペイントされた車が、通りから見えないような角裏に放置されている。

 

 ”蜘蛛の脚が生えた赤眼ドクロ”はメイルシュトロームのシンボルだ。

 彼らは入団の儀式として顔面の一部を剥がし眼球ごとバイザー式やメガネ式のサイバー・オプティクスに交換することを義務付けているため、それがシンボルに反映されているのである。

 

「おいおい……メイルシュトロームの勢力圏からは遠すぎるぜ」

 

 ジャッキーが言う通り、メイルシュトロームが主に跋扈しているのはナイト・シティ本島から北に渡ったワトソン地区だ。

 しかも、そのワトソンの中でも北部に位置するノースサイドの工業地帯である。

 彼らとナイト・シティ本島の間にはカブキやリトルチャイナにジャパンタウンと言ったタイガー・クロウズやモックスの縄張があるのだ。

 こんなところでメイルシュトロームのラクガキ・アートを見るはずがなかった。

 

「どうなってんだ……?」

「記憶情報の方は終わり。少し面白い事が分かった」

 

 首をかしげるジャッキーとZのところへ、Vが歩み寄る。

 

「お、どうだった?」

「4人は下っ端で、ただのチンピラ。でもリーダー格の男が1人いた。それでコイツの着けてるクロームが面白くてね……ダイナラーのマーク1を積んでる」

 

 ダイナラー社製、サンディヴィスタン・マーク1。

 そこそこ手軽な値段で身体機能を向上させるニューラル・チップである。

 安物故に速度向上以外の性能はほぼ見込めないが、それで十分だと割り切るなら使い勝手の良いチップとして十分に選択肢に入る。

 

「ダイナラーってヴァレンティーノズが良く使ってるニャ?」

「ミドル・エンドより上ならね。でもマーク1はゼータテクのマーク2とほぼ同性能が出るって事が解ってから大人気で、直営ショップがあるノースサイド以外だとまず売り切れ。それどころか入荷すら出来ないことがほとんどらしいわ」

「そのここらじゃ希少なダイナラーのマーク1を、なんでコイツは着けてんだ?」

 

 倒れ伏している件の男の死体を、ジャッキーがつま先でちょんちょんと蹴る。

 

「メイルシュトロームから、引き剥がしたのよ」

「うえぇ」

「本気かよ……」

 

 サイバーウェアは肉体と同期していて、基本的に着用者が死ぬと自壊したり機能がブロックされたりして二度と使えなくなる。

 だから中古のサイバーウェアというのは、全て”生身から取り出したもの”だ。

 機能が生きている状態で着用者情報をハックし書き換えて使うのである。

 もちろんギャング連中は慈悲なんて持っていないから、クロームを抜き取る際は鎮痛剤など投与されるワケもない。

 それどころか苦痛でのたうち回る様を記録しブレイン・ダンスとして売り飛ばすことで更に儲けようとするのが普通なのだ。

 

「で、その実行者の闇リパーがさっきのビルに住んでるってワケ」

「表にある格安サイバーウェア店も関わってるな、こりゃあ」

「おそらく」

「ねぇ、それだとペペの奥さんが危なくないかニャ?」

「……チンガータ! さっさと行くぞ!」

 

 Zの指摘に駆け出したジャッキー。

 それをVとZが追いかける。

 

「ちょ、1人で突っ込まないでよ!?」

「サンディヴィスタンも使ってないのになんであんなに速いニャ……」

 

 ステ振りが肉体反応タイプのジャッキーには、意思技術振りのZも知力振りのVも追いつけそうになかったけれど。

 

 

 

 

「あなたたち、ここで何してるの!?」

「シンシア! あれほど尾行されるなと!」

 

 薄暗く、埃が舞い、ゴミが散乱する雑居ビルの一室に、男女の声が響く。

 そこにあるのは診察台。

 ガーゼや注射器などの医療器具が詰まった棚。

 レンチやスパナなどが引っ掛けられた工具棚。

 典型的な闇リパーの工房である。

 

 結論から言えば、ペペの嫁であるシンシアは無事だった。

 浮気の事実もなかった。

 ただしペペと知り合う前に全身を大幅に美容整形しており、そのせいでペペがイメージする子供と、実際に生まれてきた子供の容姿とが合致しなかったのだろう。

 少なくとも、シンシアの言い分ではそうなる。

 

 ちなみに闇リパーの方は、過去の美容整形で失敗し遺族から訴えられているため、ここでひっそりとモグリ営業しているのだそうだ。

 

「だからその……何と言って良いか、どう伝えてもらって良いかわからないけれど、ペペに説明してほしいの……」

 

 安っぽいスツールに腰掛け、シンシアがうなだれている。

 

「どうするよ、V」

「どうって……どうしようか」

 

 思っていた展開と違って肩透かしになったジャッキーとVが、困り顔で相談している……フリをしている。

 残ったZは2人をよそに店内をうろうろと歩き回る。

 足音どころか衣擦れもサイバーウェアの駆動音もなく、シンシアも闇リパーも見えているのにも関わらずZのことを気にも留めない。

 意識の裏を衝いて行動できるほどの隠密スキルを、新型のクロームレッグがもたらしている。

 そんなZの瞳孔は折につれ輝いて、リパーのデスクトップ端末をスキャンしているらしかった。

 

『Z、どう?』

『ペペの奥さんについては何も出てこないニャ』

『じゃあリパーはどうだ?』

『学歴詐称と医療事故における過失犯……よくあるお肉屋さんだニャ』

『またカブキ・スラングか? 今度は意味は解るけどな。チョップ・ショップってことだろ?』

 

 人間を解体(チョップ)して販売(ショップ)するからチョップ・ショップ。

 ”人体からクロームを回収する”タイプの闇リパーのことだ。

 先程のメイルシュトローム絡みの1件も、やはりコイツが絡んでいるに違いなかった。

 

『それ。そのチョップ・ショップニャ。隠してあるけど床や診察台に血痕もあるし、もいだサイバーアームが余ったっぽくて、棚の中に機械の腕がゴロゴロ転がってるニャ』

『提案』

『V、なんだ?』

『シンシアはこのまま保護して、このリパーが危険なことを教える。ここじゃいつ生皮を剥がされるか分かったもんじゃない』

『ペペの方はどうするニャ?』

『整形のことは伝えて、リパーのことは伝えない。あとは彼の気持ち次第』

『まぁ小心だからなぁ……ビビらせるこたねぇや』

『リパーは?』

『ほっときましょ。良いランナーは下手にアイスをつつかないものよ』

 

 そういうことになった。

 

 

 

 

『俺なりに、シンシアのことをもう一度考えてみるよ。でもバカだなぁ、10年も秘密にしてるなんてな』

 

 ペペはそう言って笑った。

 カイロンを繋いでいるわけじゃないから姿は見えないけれど、憑き物の落ちたような爽やかな顔だったに違いない。

 受け取ったのは1人頭1000エディの合計3000エディ。

 

「浮気調査としてみたら悪くないが、実際はアレだったからな。割に合わねぇなぁ」

「でも割増を要求するには事情を説明しなきゃならないでしょ」

「どれもこれも……そもそも始まりからしてペペが繊細すぎるせいニャ! 結局、浮気じゃなかったしニャ!」

「そういうヤツだからこそ、私達も気の置けない付き合いをしてるんじゃないの」

 

 ブーたれるジャッキーとZを、Vがなだめている。

 場所はさっきの闇リパーが入っているビルの1階。酒処、暗夜街。

 なぜだか昔から各種のヌードルが人気なジャパニーズ・バーで、なんならラインナップをヌードル1本に絞り酒を扱わない屋台や極狭店などもチェーン出店している、本末転倒な店である。

 

「チョップ・ショップの下でヌードル食うのか? 人肉は入ってないだろうな?」

 

 そんな笑えないジョークを飛ばしたジャッキーをVとZでタコ殴りにして(もっとも非力な2人のパンチはジャッキーに通用しなかったが)、夕食を摂りにきたのだ。

 

 普通のスープヌードルの上にプランクトン・サラミを乗っけたのがVのお気に入り。

 ジャッキーは大体の場合コオロギ・ミートとトーフ・フライのチリを食べる。

 

「それでチャーシュー麺とマーボー豆腐って言い張るのは、いつ見ても許せんニャ……」

 

 Zはぶつぶつ言いながらミート・ボールをパクついていた。

 いつも他人の食事にケチを付けるが、最もゲテモノ食いなのはZだというのがVとジャッキー共通の見解である。

 なぜならモノがハッキリしている2人の食事と違って、Zの食べているケブル・ミートには本当に人肉が混ざっているのかも知れないのだから……。

 

 どこにでも罠が潜んでいて、いつ引っかかるかわかったもんじゃない。

 それがナイト・シティの日常であった。

 

 

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