サイバーパンク2077 オリ主添えネコミミ仕立てレリック抜き   作:はすむかい

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コヨーテに首輪を

 

 元バレンティーノズ幹部、現ヘイウッドのフィクサー、パドレ。

 ギャングというよりも遥か昔のマフィア・ムービーに出てきそうな古強者だ。

 

 彼に会いたいならベンチュラ・スカイラインの交差点をちょっと裏に入れば良い。

 雑居ビルの山脈の中にポツンと拓けた盆地を見つけたら、そちらへ向かうのだ。

 すると昼は子どもたちの、夜は男たちの、騒ぎ声が聞こえるはずである。

 

 それがパドレのコート。

 パドレが人々の相談に乗ったり依頼を仲介したり裏切り者を血祭りに挙げたりする、宮廷(コート)でもあり法廷(コート)でもあるバスケットコートだ。

 6階建てのビル壁を丸々使った巨大な骸骨聖母(サンタ・ムエルテ)のラクガキ・アートが、金網で囲われた広場をいつも見守っている。

 

 そんな重要な場所だから、パドレを慕うヴァレンティーノズの用心棒が運動がてら警備に当たっていたりして、防御もなかなか硬い。

 中でも特に、ヘイウッドのストリート王者がいるときは問題を起こさないほうが良い。

 細身の伊達男な外見からは想像もつかないほどの怪力が不届き者のクロームをねじ切る場面は、何度も見たくないものだから。

 

 

 

 

「レリー・ハイン?」

「そうだ。ヴァレンティーノズのメンバーで、長髪をオールバックにした……見たことは無いかね?」

「あぁ、あのヤローか。なんとなくだが解るぜ。額に金の十字架クロームを入れてただろ」

「あー! ウチも見たことある! そのレリーを殺せばいいニャ?」

 

 コートの観客席に腰掛けるパドレを、(ヴィー)、ジャッキー、(ザラ)が囲んでいた。

 パドレの右にドカリと腰掛けるジャッキー、反対側はZがホットパンツだというのにあぐらをかいて座り、Vは段差ベンチの柱部分に寄りかかっている。

 

 時刻はちょうどお昼で、それまで遊んでいた子どもたちがスコフィールド通りのカリー・エクスプレスへ昼食を求めて突撃していく時間帯だ。

 そのためコートがガラ空きになって密談に最適なのは良いのだが、ほぼ真上から差し込む太陽光が4人の黄金アクセサリに反射して鬱陶しく、眼球の受光量をキツめに絞らなければならないのだけは勘弁して欲しかった。

 

「Z、話は最後まで聞くものだ。依頼したいのは殺害ではなく捜索だよ」

「捜索ぅ? 拐われたのか?」

「不明だ。何しろヴァレンティーノズの若者はふらりと居なくなることなど茶飯事なのだから」

「それもそうね」

「ウンウン。ウチらもチームの強化前衛(マッスル・ボーイ)が消えちゃって大変な目にあったことがあるニャ」

 

 パドレの言葉にVとZがジャッキーをジト目で睨め付けるも、彼は既のところでそっぽを向いて口笛を吹く。

 この男、チームに連絡を入れずミスティと小旅行に繰り出した前科があるのだ。

 ヴァレンティーノズはほぼ全員が、そうやって愛を求めシケ込むことを突然やる悪癖がある。

 

「そういうわけだから、拐われたというのは確定ではない。だがもう5日ほど音信不通なのは事実で、こうして私のもとに仲介の依頼が舞い込んだというわけだ」

「オーケー、解った。俺は請けても良いと思うぜ」

 

 パドレの言葉に何度か大きく頷いたジャッキーは、すぐさま賛成の意を示す。

 元ヴァレンティーノズの男として何か思うところがあったのかも知れない。

 

「まぁ良いんじゃないかしら。ただもし本当に拐われていて救出までやるハメになったら、そのときは報酬を弾んでよね」

「ウチはエディすっからかんだから何でも受けるニャ」

 

 Vの回答は彼女らしく冷静な条件付きで、Zは相変わらず(おばか)であった。

 

「ふむ、ではこの依頼はお前たちに任せよう。頼りにしているぞ」

 

 パドレが差出してきた右手を代表でVが握り返して、契約成立(ディール)

 

「よし。じゃあまずは腹ごしらえしてから繰り出そうぜ」

「この辺だと、カリー・エクスプレス? 子どもたちに混ざって食べるかニャ?」

「却下。アンタみたいな文字通りのドスケベお姉さん(プッシー・キャット)が近寄ったら、未来ある少年たちの性癖が歪んじゃうじゃないの」

「失礼な! ウチのはドスケベ(エロス)じゃなくてカワイイ(キュート)だニャ!」

「そのデカい乳を仕舞ってから言え!」

「ふへっ」

 

 女性陣の身も蓋も無い応酬に、ジャッキーが小さく吹き出して笑った。

 ぶっちゃけ、Vの心配は既に半周遅れ程度には遅かったりするのだ。

 VもZも知らないが”面倒見の良い年上のお兄さん”であるジャッキーだけはそのことを少年(マセガキ)たちから聞かされていて、何なら頼まれてZの画像を撮ってやったことだってあった。

 野郎の半分くらいは、産まれたときから大きなおっぱいが大好きなのである……。

 

「ほら見なさい。ジャッキーだってドスケベだって思ってる」

「ニャんと!? でも、ジャッキーになら……」

 

 ジャッキーが吹き出した意味を勘違いしたVが勝ち誇り、それを受けたZが妙なしなを作り色目を使う。

 セクシーさを演出でもしているのかゆっくりとジャッキーに近づき、彼のタンクトップに覆われた分厚い胸板を細い指先でカリカリと引っ掻いた。

 

「ジャッキーになら、そういう目で見られてもいいよ?」

「調子にのるな、クソキャット」

「はい……」

 

 そこには、悲しげに返事をする猫獣人の姿があった。

 後ろでパドレが、孫を見るような目で3人を眺め笑っていた。

 

 

 

 

 エル・コヨーテ・コホとエル・ピンチェ・ポヨのどっちが良い?

 そう聞くとジャッキーは必ず後者を選択する。

 やはりソロ・チームの仕事中にママ・ウェルズに会うのはなんだか気恥ずかしいのだろう。

 それに親を知らないVやZに対するジャッキーの僅かな罪悪感も拍車をかけているようだ。

 正直なところ2人にとってはママ・ウェルズこそ母親だという感覚があるので、ジャッキーの気遣いは空回りしているようなものなのだが……。

 そのあたり、やはり本物の息子にとっては理解が及ばないのかも知れない。

 と、まぁそういうワケで、VとZはなかなかママ・ウェルズの美味しい手料理にありつくことが出来なかったりする。

 もちろんそれは、今日も当てはまった。

 

「何を食べようかニャ? うん、クズ肉とジャガイモの炒めもの(キブル・アンド・ポテト)入りでブリトーにするニャ」

「俺は豚皮の揚げ物(チチャロン)入りだな。Vは?」

「なら私も。ポテト、チーズマシマシでね(スイソ・ムーチョ・ムーチョ)

「あいよ」

 

 3人はエル・ピンチェ・ポヨの店内中央、コの字のカウンターに並んで腰掛け、注文を通していた。

 このレストラン兼バーはコヨーテ・コホによく似た雰囲気で、レンガの壁に骸骨聖母(サンタ・ムエルテ)がアートされ、派手な原色のネオンサインだってバチバチと明滅している。

 ただコヨーテ・コホのシンボルであるバッファローの頭蓋だけは見当たらない。

 客層もコヨーテ・コホとあまり変わらないが、裏路地にあるためにコーポの関係者は皆無だった。

 昼の今は3人の他にもヴァレンティーノズの若いのや近所の住民なんかがランチを食べにやってきているようで、店内はそこそこ席が埋まり喧騒に包まれている。

 

「それで、BBSの様子はどうだ?」

「さっぱり。ダメ元だったから良いんだけど」

 

 昨今のBBSは過去でいう掲示板とは違い、フレンドリー・レベルのセキュリティに設定したメッセンジャーである。

 脳を家だとすれば、その門のところに監視カメラ付きの伝言板を設置しているようなものだ。

 グローバル・インターネット時代のBBSは他人の提供する広場に伝言板を設置していたが、そういうタイプは今やセキュリティ的な問題が山積みであり、懐古趣味者かつ腕の良いネット・ランナーくらいしか使わない。

 Vは3人のチームBBSを管理していて、そこで捜索対象の情報を募ってみたのだった。

 

「そんなんですぐに情報が出てくるなら、依頼主がとっくに見つけてるニャ」

「まぁね。念の為よ念の為」

 

 言ってVがグラスに口をつける。まだ昼間だから、中身は酒でなくニコーラだ。

 特にVが良く飲むのはニコーラ・サクラで、そのキャッチコピー「愛だけじゃ足りないアナタへ!」を知ったZが「欲求不満かニャ?」と煽ったところ、最終的に大慌てで逃げ出すハメになった事件は記憶に新しい。

 

「ブリトー3つ、おまちどう」

「お、きたきた」

 

 薄焼きパンで具材を巻き、もう一度温めるよう軽く焼いたものがブリトーだ。

 挟むのではなく巻くタイプのサンドイッチと言えば概ね正解で、もともと100年以上も前からこの辺りで食べられていた。

 それはナイト・シティが出来てからも変わらず、中米の影響を大きく受けている地域では今もポピュラーである。

 しかし残念なことに昔に比べれば具材は貧相であり、巻かれるのは合成食品ばかりになった。

 

「うま~い、ニャ」

 

 Zがそのブリトーを両手で掴んでモグモグやり、指に汁がついたのをペロリと舐めた。

 Vはナイフとフォークでブリトーを切って、皿に流れたチーズをトルティーヤの部分ですくい取るようにして食べる。

 一口かじったブリトーを袋代わりにして中の豚皮の揚げ物(チチャロン)だけつまんでいるのがジャッキーだ。

 

「しかし取っ掛かりすら無いのは困ったもんだ。何から手を付けて良いのかわからねぇ」

「それが問題よね。パドレの話じゃ依頼主は聞き込みくらいは既に済ませているらしいし……」

 

 Vが、もう一切ブリトーを口へ運ぶ。

 

『スキャンされてる』

「っ!」

「?」

 

 咄嗟に声を上げない程度には、ジャッキーもZも場数を踏んでいる。

 それでも筋肉が1000分の1秒(ミリ・セコンド)で硬直し、俄に活気づいたニューロンが神経伝達物質を過剰に放出し始めるのを止めることは出来ない。

 だからジャッキーは誤魔化すように甜茶(ティアン・チャ)を啜ってから、小さく深呼吸する。

 Zは短い時間だけネコミミをピクピクさせていた。

 

『逆探知』

『今やってる……はぁ?』

『どうしたニャ?』

 

 Vが首だけをグリンと廻す。まるで人形が無理やりに動かされたかのような不自然な動き。

 その視線の延長線上に先程ブリトーを持ってきた店員がいる。

 彼もちょうど3人の方を見ていて、慌ててスキャンを切ったのだろう、まだ瞳孔の輝度が下がりきっておらず少しだけ光っていた。

 

「何か用かしら?」

「あ、あぁ……その、口に出したくないんだ、リンクして良いか? 」

「いいけど、私の防壁(アイス)地獄の番犬(ヘル・ハウンド)。変な気を起こしたらアナタの脳が焼けるから」

「わ、わかった。申請を送った、許可をしてくれ」

『はいはい、許可したわよ』

 

 リンクはVを経由してジャッキーとZにも渡る。

 だが現状では4人が形成したリンク・ネットワークはハブ化しているVのコントロール下にあるため、店員の電子音声は3人に聞こえるが、3人の内輪での会話が店員に聞こえることはない。

 ついでに言えば、Vがこっそりと店員の脳に侵入を開始していることも気づかれないだろう。

 

『よ、よし……リンクなんてほとんどしたこと無いから、緊張するな……』

『用件をどうぞ』

『その前に確認なんだが、このBBSで探してるのはレリーだよな?』

『そうよ。それが?』

『直接は関係ないかもしれないんだが……実はレリーに関してちょっと気になることがあるんだ』

 

 降って湧いた手がかりに口笛を吹こうとしたジャッキーを、Vが小さく「シーッ」という素振りで制止する。

 それを見たZがジャッキーを指で突くジェスチェーでからかい出した。

 

「ホント、二人とも子供なんだから……」

『気になることって?』

『あ、あぁ。ちょうどレリーが居なくなった頃から、この辺りでたまにシックス・ストリートを見るようになったんだよ』

『なんでアイツらがこんなとこにいるんだよ?』

『ど真ん中ってワケじゃないけど、グレンまで入り込んでくるなんて無茶するニャ』

『場所は?』

『店の裏を真っすぐ行った、コンクリート隔壁の隙間の向こうだ。今はゴミ捨て場みたいになってて、ウチもゴミを捨ててる』

『ふむ……他に何かある?』

『いや、それだけなんだ。他はない。ただずっと気になってて……ついでに追い払ってくれると嬉しいんだが。そのうちヴァレンティーノズに見つかったらウチの店が巻き込まれそうで嫌なんだ』

『なるほどね。情報提供ありがと。約束はできないけど何か行動はしてみるわ』

『頼むよ』

 

 店員はリンクを切断して、他の客のところへ向かった。

 Vは少々冷めたブリトーに再び手を付けだす。

 

『事実か?』

『ちょっと脳を覗かせてもらった限りじゃ、事実ね』

『じゃあ食べ終わって一息ついたら、行ってみるニャ』

『だな』

 

 3人は再び食事を再開する。

 いつの間にか昼が過ぎ去って、店内の客はまばらになっていた。

 

 

 

 

 ヴァレンティーノズが巣食う小路は、端的に言って汚い。

 収集箱からゴミ袋が溢れ、潰した段ボールが散乱し、紙のコップやパックが隅を埋めている。

 我らがシックス・ストリートの拠点であるアロヨもなかなか酷いものだが、この小路ほどでは無いと思う。

 仲間のクインシー・リバースにそう言ったら「変わんねぇよ」と返ってきたが。

 

 ともかく、そんなゴミに塗れたヴァレンティーノ小路にフェリクスが潜み始めて、もう一週間が経過した。

 正確に言えば、ゴミ置き場の奥にある存在を忘れ去られたアパートのクソ狭い一室だけども。

 ここはビルの基礎内部に作られていて天井はやたら低いし、たまに耐震ダンパーが軋んで心臓に悪い。

 

 そして何より、そんな居心地の悪い空間に居続けなければいけないからストレスがたまる。

 やることと言えば、廃品置き場から引き摺ってきたボロボロのソファーに腰掛け、テレビを眺めることくらいだ。

 

「ただいま戻りました」

「おう」

 

 新兵(リクルート)の部下が戻ってくるのに手を挙げて答え、そのまま手招きしてソファーに座らせる。

 見慣れない顔だが、おそらくクインシーが連れてきた臨時の増員だろう。

 フェリクスは立ち上がって冷蔵庫まで行き、シラス・コーラを出してやった。

 直属の部下じゃないヤツにはサービスも必要だ。

 

「いただきます」

 

 小気味いいカシュッという音がなって、新兵がコーラを呷る。

 

「首尾はどんな感じだ?」

「ぼちぼちですかね」

「なんだそりゃ」

 

 曖昧な表現に首をかしげる。

 とはいえ、そう簡単に進展するものでもないのかもしれない。

 フェリクスはクインシーと違ってランナーではないから、仕事にどのくらいの時間や手間がかかるのかは解らないのだ。

 

「それより、いつまでここに居りゃいいんですか」

「お前らはクインシーがハックを終わらせるまでだ。くそ。俺なんか、その後も計画が終わるまでここに残らないといけないんだぞ」

「その計画って?」

「そりゃあ……教えるわけねぇだろ! 計画を知らねぇなんて、誰だてめぇ!」

 

 フェリクスは腰から拳銃を抜く……いや、抜こうとした。

 けれどもはや、フェリクスの身体は彼のコントロール下に無い。

 エラーを知らせる電子音が脳内でガンガン鳴り響きだした。

 

『なら良いわ。脳に聞くから』

 

 今までシックス・ストリートに見えていた新兵の姿にノイズが走る。

 そうして現れたのは、ヴァレンティーノズみたいな格好をした女だった。

 

「目を……盗み……」

『残念。声も盗んでたわ。コーラ、ごちそうさま』

 

 ……

 …………

 ………………

 

 不審な接続を確認   

 回線を切断できません 

 不審な接続を確認   

 回線を切断できません 

 

 ……

 …………

 ………………

 

 重大なシステム障害  

 回線を切断できません 

 重大なシステム障害  

 回線を切断できません 

 

 ……

 …………

 ……………… 機能を一時停止

 

 ……

 …………

 ……………… 睡眠モードに移行します

 

 

 

 

「焼き切ってないのか?」

「死なせると厄介そうだからね。ハックってことはランナーが来てるんでしょ。生体情報が監視されてたりしたら、バレる」

「んじゃいつも通りかニャ?」

「えぇ。記憶を漁るから、2人は警戒を。生きてるから少し時間がかかるわ」

「まかせろ」

 

 倒れた男をソファーに座らせ、肘掛けに寄りかからせる。

 自分の手首からリンク・ケーブルを引っ張り出して、男の頚椎ジャックに差し込んだ。

 既に制圧下にあったICEを素通りして、記憶にアクセスする。

 

『ん……やっぱりリンクがある……ええと、コイツはフェリクス。階級は軍曹(サージ)ね。下っ端の隊長格。好物はシラス・コーラとスローターハウスのバーガー』

『俺たちも人のこと言えねぇが、もうちょい良いもの食えよなぁ』

『任務はヴァレンティーノズの監視……こんな本拠近くまで潜り込ませて?』

『前代未聞ってワケじゃないけど、ここ最近はそういうの無いはずニャ』

 

 思考にノイズ。

 前代未聞ではない、つまり()()()()()()

 

『いつ? 私はそれ知らないわよ』

『パドレの昔話での事だから、ウチも直接は知らない。パドレがまだ神父だったころ、シックス・ストリートが今のダウンタウンで聖天使教会の護衛をやってた時代の話。アロヨを攻撃する前段階にコイツみたいな監視をバラまいてたらしいニャ』

 

 ダウンタウンはアラサカの再開発計画の際にギャングが一掃された時代がある。

 シックス・ストリートはその時にナイト・シティ本島から叩き出されたのだ。

 

『ってことは、今回もデカいことをやるための下調べってことか?』

『無くはないんじゃないかニャ』

『ダメね。そのデカいことらしき”計画”に関してはハード・コーデックされたチップに入ってて、開けられない』

 

 ハード・コーデックというのは開くのに専用の機械が必要なデータのことだ。

 これはどんなに優秀なランナーであっても、その機械がないとアクセスすることが出来ない。

 つまり強固だが不便というわけで、一般的には使われないものである。

 それが首に差さっているので、抜き取っておいた。

 

『せめて”ハック”の情報だけでも出てこねぇか?』

『そっちは見つけた。目標はコヨーテ……?』

『エル・コヨーテ・コホかニャ!?』

『チンガータ!! マジかよ!? どっから入ろうとしてるんだ!?』

『そこまでの情報がない……実行するクインシーってヤツはハック・プランを話すことはしなかったみたい』

 

 バートモスがグローバル・ネットワークをぶっ壊して以降、オンライン上でも物理的な距離が重要になった。

 だから何かにアクセスするときは現実世界でも接近した方が有利になる。

 つまりエル・コヨーテ・コホの何かをハックしたければ、店の周辺に行く必要があるのだ。

 

『2人はとにかくエル・コヨーテ・コホへ走って! 私はクインシーを釣る!』

『なんだかわかんねぇが任せた! いくぞ、Z!』

『おっけいニャ!』

 

 ジャッキーとZが飛び出していったのを見送り、Vは一度リンク・ケーブルを解除する。

 それからゼータテクのKRASH・バリアを起動して、こんどは無線で潜り込んだ。

 

『さぁクインシー……フェリクスの様子がおかしいわよ? 気にならないかしら?』

 

 わざとフェリクスのクロームを誤作動させ、電気信号を滅茶苦茶にしてやる。

 身体がビクビクと痙攣し、肘関節が720度も回転し、中指だけが手の甲にピッタリと張り付くほど逆反りした。

 それを15秒ほど続ける。

 

『フェリクス!? なんかあったか!? バイタルがすげえ数値になってるぞ!?』

 

 ――釣れた。 

 

 間髪入れずフェリクスを経由してクインシーにピンを打つ。

 カン! と甲高い電子音。

 クインシーの位置情報がアップデートされてきた。

 

『ピンガー!? クソ! 誰だ! 死ね!』

『死ぬのはそっちよ!』

 

 ピンに感づいたクインシーが逆探知で地獄の業火(ヘル・ボルト)を流し込んでくる。

 相手の脳に処理能力を超過させたデータ量をぶつけるとともに、ネットワーク系のクロームを誤作動させて発熱・発火させるデーモンだ。

 VのICE地獄の番犬(ヘル・ハウンド)はその攻勢防御タイプ。全く同じ効果を相手に叩きつける。

 

 こうなると後はデッキ性能と脳の処理能力のぶつけ合いだ。

 まるで大昔のパソコンで行われていたCPU処理速度戦争の如く、パソコン本体である生身の肉体が一気に熱を発生させる。

 それを空気中に逃がすため顔や身体に設置した放熱ハッチが開いて蒸気を吹き出した。

 さらにすべての演算リソースがICEに投入され、コントロールを失った指先がアルコール中毒者みたいに震え出す。

 脳の言語機能が低下して思考が単純化し、呂律が回らなくなった。

 

『しねしねしねしいっししsねんえね』

『おまえええええええっっっががが死ね、死ねっ!!!!!』

 

 血流が増大しすぎたせいでVの鼻から鮮血が吹き出し、同時にクインシーが接続解除(ジャックアウト)

 焼き切ったはずだ。手応えはあった。

 だから後は、ピンで判明した位置情報をジャッキーたちに送るだけ。

 

『おし、すぐ向かう!』

『よろしく……私はすこし、休むわ』

 

 自分の分の仕事を終えたVは、ソファーに崩れ落ちる。

 埃っぽくて最悪な肌触りだった。

 

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