サイバーパンク2077 オリ主添えネコミミ仕立てレリック抜き   作:はすむかい

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密売人たちの夜

『ランナーは焼いたから、残り3人よ』

 

 Vの電子音声がエージェント経由でジャッキーたちを誘導する。

 目標地点はコヨーテ・コホからロス・ロボスの通りを挟んで反対側。

 裏路地から屋外非常階段を駆け上がって、集中排気のエアコン屋外機をよじ登り、隣のビルへ飛び移る。

 そのまま滑り込むようにして太陽光発電の受光機の影に身を潜めた。

 後ろから着いてきたZも受光機の逆端から覗き込める位置取りで隠れている。

 

 2人とシックス・ストリートたちの間にはゴミ収集箱や何かのコンテナ、水道水の屋上タンクなどがあって、隠れるところには困らなさそうだ。

 

『見つけた。かなり泡食ってるな』

 

 屋上の総合通信設備からは3本の八木アンテナと1基のパラボラが突き出していて、そのメンテナンス用らしきアクセスポイントのところにランナーが倒れている。

 周囲ではショットガンを手にした男2人が警戒をしていて、大ぶりのナイフを胸のハーネス・スリーブに収めた女がランナーを介抱していた。

 もう死んでいるから無意味な気がするのだが、気づいていないのだろうか?

 

『V。Zのカイロン経由であいつらをハックできないか? 遠すぎるか?』

『ちょっと難しい。カイロンで送られてくる映像データの時点でロスとノイズが酷い。スキャンが精一杯よ……それより気を付けて。女の方、軍用グレード・クロームの無許可使用で良い額の懸賞金がかかってる』

『パッと見てナイフ使い(ブレード・エッジ)。腕や足は生身っぽいから……サンディヴィスタンかニャ?』

 

 酒場の用心棒によくいる強化傭兵(ハッスル)みたいなのだとバーサーク使いが多いが、あれは人工的に火事場の馬鹿力をだすようなもので、鈍器との相性が良い。

 刃物なら思考や動作が速くなるスポーツでいうゾーンのような状態を起こすサンディヴィスタンの方が向いている。

 

『ってことはゼータテクのマーク3より上かよ……ツイてねぇな』

 

 おおよそ10秒前後の間、常人の2倍以上の速度で動くナイフの達人だ。

 驚異以外の何物でもない。

 

『銃の方もイグラじゃなくてサタラよ。マックス・タックの正式採用銃。ジャッキーの皮下装甲もブチ抜く逸品』

『嬉しくないニュースだぜ』

 

 サタラがぶっ放すのは鉛玉ではなく、鋼鉄製の釘みたいなスパイクだ。

 しかも火薬によるガス膨張で押し出すような旧世代メカニズムは使用しておらず、電磁加速(レールガン)

 ショットガンにあるまじき高初速で発射されるスパイクは、コンクリート壁の向こう側にいる敵にすら致命傷を与えるモンスターなのだ。

 

『とにかくショットガンの一発が怖いニャ。先に男共をどうにかしないと』

『Vの眼球盗み(オプティクス・ハック)が無いのが痛いが……代わりにグレネードでいいか』

粘着式(くっつき虫)でよろしくニャ』

『手前の男でいくぞ……2……1……そらっ!』

 

 デッキとグレネードのリンクを介して信管をオン。

 アンダースロー気味に放る。

 

「なんだ……!? グレネードッ!?」

「粘着式だ! くそ!」

「まかせな!」

 

 おそらくサンディヴィスタンを起動したらしい女が、もの凄いスピードで男に接近。

 そのまま胸に逆さに吊るしたナイフを抜き打ち様に斬り付けて、ジャケットのグレネードが張り付いた部分を器用に切り抜いた。

 さらに女は男二人を脇に抱えると地面に倒れ込みながら伏せる。

 

 ジャッキーの手榴弾は、誰にも被害を与えること無く虚しく爆ぜた。

 

『ウソだろ……』

『呆けてる場合じゃないにゃ!』

 

 防がれたものの、状況は2人が有利だ。

 サンディヴィスタンは吐かせてクールダウン中だし、シックス・ストリートはまだ状況を掴めていないハズ。

 

「チンガータ!!」

 

 飛び出したジャッキーは50口径を乱射。

 シックス・ストリートの三人はバラバラの方向に転がって回避し、弾丸がコンクリ・パネルで跳ね返って細かいセメント粒子を撒き散らす。

 

「残念だったニャ」

 

 ところが回避した男の1人がちょうどZの前まで転がってきて後頭部を晒した。

 すかさず22口径をぶち込むも威力が足りない……ことはない。

 前回の反省を活かして対ボーグ用の高速徹甲弾(アンチ・ボーグ・カートリッジ)を入れてきたのだ。

 通常弾の4倍も価格の張る弾丸は、ごく至近距離だったこともあり、その効果を非常に高く発揮した。

 脳殻強化でもしていたのか赤い血でなく白い人工髄液を撒き散らして男が死ぬ。

 

「このっ!」

 

 残った男が仰向けの体勢で上体を起こし、ショットガンをぶっ放す。

 その先にいたジャッキーは仰け反ってなんとか回避。

 そこへ反動を用い跳ね起きた女が勢いのままに飛び掛かる。

 晒された喉笛を切り裂くように飛来するナイフを、バク転に移行することでさらに避ける。

 逃しはすまいと女が突進をかけ、体勢を崩していたジャッキーがタックルで押し倒される。

 

「覚悟しなっ!」

 

 逆手で振り下ろされるナイフを、手首を掴むことでなんとか止めるも、全体重(前衛が良く入れている皮下装甲は200キロ近い)を乗せて捩じ込んでくるものだから、今にも突き刺されそうだ。

 

「このアマァ!」

 

 ジャッキーはバイオダイン・バーサークのマーク1を起動。

 増設神経系からパルスが送られて、普段は使われていない筋肉が目を覚ます。

 押し負けていたナイフを一気に押し返し、そのまま勢いよくブリッジ。

 前のめりになっていた女がバランスを崩して前方に投げ出され、ジャッキーはマウント状態からの脱出に成功した。

 

『Z、そっちはどうだ』

『もうひとりのショットガン男と千日手ニャ』

『おし、3秒待て』

 

 バーサークが切れるまでのタイムリミットだ。

 軽く前傾姿勢になって隙を伺う女に対し、突撃。

 突き出されたナイフをジャケットに縫い付けた装甲板で防ぎながら、首を圧し折らんと体ごとぶつかるように肘を叩き込む。

 廃車を解体するときみたいな機械の悲鳴がして、女の頚椎が断絶した。

 首が折れた人形のように、背中あたりで頭をぶらぶら揺らしながら崩れ落ちた。

 

『まだ生きてるか』

『早く援護してニャ!』

 

 ダッシュで拳銃を回収し、Zのところへ。

 突然現れた形になったジャッキーに対応できなかった男へ、3発もぶちこんでやった。

 

「これで終わりか」

「た、助かったニャ……」

『お疲れ様』

 

 戦闘自体は30秒もかからなかったが、残された疲労感は大きいものだった。

 

 

 

 

「ゼータテクのパラライン5750……骨董品じゃない」

「50年前の普及品だっけか」

「ウチらじゃ規格が合わなくてチップだけあっても手出しできない……ある意味で最強のハード・コーデック。良く思いつくモンだニャ」

 

 Vの合流を待ち3人でシックス・ストリートの持ち物を漁ったところ、嫌な予感を感じさせるものがゴロゴロ出てきた。

 まずはフェリクスのチップを解凍(デコード)できるパラライン5750。

 それから男たちの使っていたサタラ・ショットガンも簡単に手に入るものではない。

 女の振り回していたナイフだってケンダチの単分子結晶ナイフ(モノ・ナイフ)だし、サンディヴィスタンもゼータテクのマーク3で入手ルートは少ない。

 どれもこれも、鉄砲玉に持たせて良いものではなかった。

 

「とにかく、デコードしてみようぜ」

「まって。ちょっと使い方が難しい」

 

 パラライン5750は過去のパーム・トップ(ハンディ・ノートパソコン)型で、まだ小型化が進んでおらず人体に埋め込めなかった時代の外装式サイバーデッキである。

 Vも変換アダプタを使えば有線で利用することができるが、もう何世代も昔のデッキなのでどう扱って良いものか不明なのだ。

 そのためおっかなびっくりで解読を進めていく必要があった。

 

「ん……計画は……何段階かに分かれてるものの一部だけしか記録されてない。肝心のメイン計画に関することは全部不明。用心深いヤツらだわ」

「それよかコヨーテのことニャ」

 

 急かすZに眉根を寄せながら、Vはもう一段階深く潜る(ダイブ)

 現代のデッキが急流ならパラライン5750は淀みのようにデータ処理速度が遅い。

 ダイブやサーフィンと称されるようにサイバー空間は液体のような感覚があるのだが、ここまで遅いとまるで泥や粘液みたく身体にまとわり付いて不快だった。

 

「そうね……コヨーテはヴァレンティーノズを監視するのに丁度いいから選ばれただけで、コヨーテ自体をどうこうする目的ではないみたい」

「たまり場だからな。俺がヤツらでもコヨーテを選ぶぜ」

 

 安心したという様子のジャッキー。

 

「それから、単分子結晶ナイフ(モノ・ナイフ)の出処はアロヨのケンダチ工場。正確にはその横流し品で、もともとはヴァレンティーノズが受け取るはずだったもの」

「アロヨはシックス・ストリートの足元なのに、なんでヴァレンティーノズが取引してたのかニャ?」

「それは実行したヴァレンティーノズのアルマ・マリアかケンダチのマテウスに聞いてみるしか無いわね」

 

 言いながらVは解読を進めていく。

 規格の古いチップに現代のデータ量を詰め込むためか、圧縮率が異常に高くデコードが中々すすまない。

 パラライン5750の処理速度は、現代の格安エージェント(スマホ)にも劣るのだ。

 

「問題はその取引の日時。5日前よ」

「5日前……? レリーの失踪時期と重なるな」

「調べてみないと解らないけど、レリーもその受取に参加していたんじゃないかしら」

「詳しい場所は解るニャ?」

「アロヨのコンテナ置場ね」

「行ってみるしか無いか」

 

 NCPDの委託プログラムで死体の処理を要請し、3人はアロヨへ向かう……前にコヨーテで時間をつぶした。

 作業員が働いている時間帯にコンテナ置場に行くほど頭の悪いことは、そうそうないのだ。

 

 

 ――深夜。

 

 アロヨの工業地区は、昼間の工作機械が上げる作業音や重トレーラーのエンジン音とは無縁となって、薄気味悪いほど静かだ。

 また闇の中にオレンジやライムの色をした常夜灯が浮かび上がって、ある種の美しさを醸し出す時間帯でもある。

 

 ペペの嫁シンシアを尾行したビスタ・デル・レイから東へ橋を渡ってすぐ。

 トレーラー用のコンテナ置場がアルマ・マリアたちの使っていた取引現場だ。

 集積場や埠頭は搬出用コンテナに紛れ込ませた横流し品を取り出しやすいから、こういった裏取引では定番となっている場所なのだった。

 

「さすがに事件のあった日のままってワケはないニャ」

「もう通常業務に戻っているでしょうしね」

 

 コンテナ移動用のガントリークレーンはキッチリと初動位置に戻され、コンテナ自体も白線に沿って整然と積み上げられ、フォークリフトだってトタン屋根の下に揃えて駐機されている。

 そんな状態ではもちろん、諸々の証拠となるような品は残っていないだろう。

 

「綺麗なもんだ……どうする?」

「NCPDの世話になった様子はないから、押収はされていないハズ。管理事務所あたりに何かあるんじゃない?」

「ってなると、ウチの出番かニャ?」

 

 自らに隠密特化のチューンを施したZが、出番が来たと張り切りだす。

 準備運動のつもりなのかボクサーのようなステップを踏んでいるにもかかわらず、一切の足音や関節駆動音がしない様子は、気持ち悪いほどの静粛性だった。

 

「そうね。無駄飯喰らいに、たまには働いてもらいましょ」

「ウチの実力が発揮される依頼が少ないのが悪いニャ……」

「はいはい、愚痴らないの。私はドアのハックと、あれば監視カメラのコントロール権を奪う。ジャッキーは私の護衛をお願い」

「おし、任せろ」

 

 管理事務所は、モロ運河を陸橋で超えてくる上水道の建屋に併設して建てられた、安そうなプレハブ小屋だ。

 管理事務所というよりは仮設の休憩小屋と言った方がしっくりくる。

 横にはトイレやちょっとした水道の使用だけでキャパが一杯になりそうな小さな貯水タンクがあって、入り口は正面に一つだけ。

 そしてその正面の黄色いドアの上側に、監視カメラが一台設置されていた。

 

 この一台からリンクを辿れば、仮に中にカメラがあっても、それが独立していない限りは無効化することが出来そうだった。

 

「カメラはあるわね。私とジャッキーは外周フェンスの縁石に座って、話し込んでいるフリでもしてましょ」

「ついでにニコーラでも飲んで一休みしてようぜ」

「ズルいニャ!」

「Zが帰ってきたら、かえりにどこか寄ればいいじゃない。それまで我慢よ」

「上手くやったらご褒美におごってニャ。ビールでいいニャ」

「「調子にのるな、クソキャット」」

「はい……」

 

『さて、ブリーチ終了。バカなこと言ってないで早く行ってらっしゃい。監視カメラもドアもいつでも制圧できるわ』

『だってよ。早く行って来い』

『んふふ、それじゃ頑張ってくるニャ』

 

 一足飛びで距離にして20メートルを飛ぶ猫耳娘が、一度のチャージジャンプでドアの前に降り立つ。

 ネコミミをピクリと動かしてオーラ・サウンド社のスペクトラム(サイバーオーディオ)を起動。

 これは超音波による音響測位(エコー・ロケーション)まではいかないものの、生身よりは大幅に強化された聴覚で、その真似事くらいはできるシロモノだ。

 ドア一枚、壁一枚くらいであれば、中の様子を確認する程度のことは出来る。

 

『V、カメラはどうニャ?』

『内部は前後に二分割されてる。大部分が休憩所で、奥におそらく管理室。管理室にはカメラが無くて不明だけど、休憩所には誰もいない』

『了解。ドアを開けてニャ』

 

 半分ほど開いたドアの隙間に、Zがスルリと滑り込む。

 内部はパイプ椅子とポリマー板のテーブルが無造作に置かれただけの休憩所で、その間を音もなく歩く。

 そして管理室の壁に張り付くと、もう一度スペクトラム(サイバーオーディオ)を使って中の状況を音響的に偵察した。

 

『……寝息がするニャ』

『泊まり込みで仕事かぁ? ごくろーさん』

『まぁ普通の労働者なら大丈夫でしょ。いけそう?』

『こっちのドアが何事も無ければ、いけるニャ』

 

 Zが心配しているのは、ドアのセキュリティだ。

 開けた瞬間に警報が鳴るとか、入口が開かなくなるとか、列挙したら何十何百という量の商品が出てくるほどにはメジャーなセキュリティである。

 

『カメラ経由でスキャンした感じでは、特に何もない』

『なら侵入開始ニャ』

 

 Vが遠隔で管理室のドアをやはり半分ほど開き、Zが隙間を潜る。

 ここからは監視カメラの視界が届かないのでカイロンのリンクを開始。

 Vの視界の隅にZの視界がオーバーレイで表示される。

 

 管理室の中は、事務机の上にマイクロテック社のパームトップ(ハンディ・ノートパソコン)が置かれ、簡素な椅子に管理人が寄りかかって眠っている。

 その背後には電子書類を入れるキャビネットが2台あって、さらに横に薄型のテレビモニタが吊るされている。

 

『Z、パームトップが見たい』

『はいニャ』

 

 管理人の横からパームトップを手に取る。

 パネルに触れ無線で回路を繋いだ。

 

『ウチ経由で潜れる?』

『大丈夫そう。攻勢防壁どころか普通の防壁も無いみたい。ログインのパスだけ総当たりで……よし潜れた……あらかたぶっこ抜くのに少しかかる。その間、後ろのキャビネットを漁って』

 

 キャビネットは使い古された硬質ポリマー製で、引き開けてみると、手のひらより少し大きいサイズのチップホルダーが二列になって差し込まれている。

 

『全部持っていくのかニャ?』

『スキャンで日付情報が読み取れる。1週間分、7枚くらいをコピーしたい。持ち出してデータを抜かれたことを知られたくない』

『Vと違ってあんまり良い防壁積んでないからニャア……』

『パームトップに防壁を入れてないレベルのセキュリティ意識よ? 大丈夫でしょ』

『それもそっか』

 

 引き出しを何回か開けて、左のキャビネットの最上段で今日の日付を発見。

 伸縮式のチップホルダーからチップを取り出して、自身のコメカミへ差し込んだ。

 接続ノイズが瞬間だけ走って、脳にデータが読み込まれる。

 それをZにリンクしたVが覗いている。

 

『コピー完了。次』

『ニャ』

 

 チップを戻し、一日前の日付のチップをコピー。それから一昨日の、三日前の……。

 全部終わるまでに3分ほど。

 

「うぅん……」

『!?』

 

 身じろぎして寝言をつぶやく管理人に驚かされたシーンもあったものの、何とか必要そうなデータを抜き出すことに成功した。

 

『それじゃ、さよならニャ』

『アンタが出たらドアをロックしなおすわ。お疲れ様』

 

 猫娘が脱出して、全ての痕跡が消去される。

 今夜起きたことを知っているのは、3人だけだ。

 

 

 

 

 コンテナ置場から戻った3人は、酒処・暗夜街へ向かった。

 例の闇リッパーの下に入ってるテナントで、単に一番の近場だったからである。

 食事をするような時間でもないので軽く酒とおつまみを頼み、それをつつきながらの今後に向けた作戦会議だ。

 

「結論からいうわ。5日前、レリーはあのコンテナ置場にいた」

「いいねぇ。だいぶ繋がってきたじゃねぇか」

「でもヴァレンティーノズが受け取るはずのものをシックス・ストリートが持ってたってことは、やっぱり何かあったニャ?」

「えぇ。ガントリークレーンの作業カメラに写ったらしい映像が、パームトップから抜き出せた。いまリンクで見せる」

 

 視界にオーバーレイした映像を拡大し、視聴を始める。

 

 暗闇を常夜灯が照らしていることから、深夜らしい映像だ。

 クレーンから見下ろすように撮影されているため、頭上からのアングルになる。

 下をド派手に塗られたヴァレンティーノズの車が走り抜けた。

 視界外で、わざと鳴らしたらしいブレーキ音。ドアが開く音、閉まる音。

 

「レリー! そのコンテナを開けて! 他はフォークを拝借してきな!」

 

 響く声は首謀者のアマラ・マリアのものだろう。

 名前を呼ばれたレリーも、おそらくVたちの探しているレリーに違いない。

 というのもラテン系や中米系に多い聖人の名前を拝借したものとは違っているから、ヴァレンティーノズでは少し珍しい部類の名前なのだ。

 

 ガコン。おそらくコンテナ扉の開く音。

 それからフォークリフトが動く音。

 しばらく作業音と雑談が続く。

 

「ものはあったか!?」

「ネイルガン、パルスガン、単分子結晶刀(モノ・カタナ)単分子結晶ナイフ(モノ・ナイフ)……あります!」

「それじゃ積み込んでズラかる……!?」

 

 ヘッドライトらしき光が、クレーンの見下ろす地面を白く染める。

 そして走りこんでくる車らしきエンジン音。

 

『これ見て』

 

 車がクレーンのカメラ真下を通る瞬間に一時停止。

 ジャッキーとZの目にはちょうど車の屋根が見える位置だ。

 

『シックス・ストリートに嗅ぎつけられたのかと思えば……赤目ドクロじゃねぇか』

『なんでメイルシュトロームがこんなところに来てるニャ?』

 

 また再生。

 

「おい、なんで俺らのブツを宗教野郎どもが盗んでるんだぁ? あぁ!?」

「何言ってやがんだい! これはアタシらのだよ!」

 

 メイルシュトロームのリーダー格らしき男とアマラ・マリアが言い合いを始め……すぐに銃撃戦に移る。

 どちらもアサルトライフルのような連射できる銃は少ないらしいが、代わりにショットガンらしきやたら大きい発射音が幾度も響く。

 

『おいおい、シックス・ストリートの足元でこんなことしてる暇あんのか?』

『無かった見たいね』

 

 目まぐるしく状況が変わる。

 今度は第三勢力の突入で、こちらは装備の整った退役軍人どものギャング。

 メイルシュトロームやヴァレンティーノズではあり得ない、アサルトライフルによる銃弾の雨を降らせている。

 

『こうなるとシックス・ストリートはこえぇぜ』

『まったくだニャ』

 

「くそっ! アロヨくんだりまで出向いたってのに……ズラかれっ!」

「ヴィニー! 宗教野郎を何人か拐え! アレに使うぞ!」

 

 続く銃撃戦、叫び声、走り去る車。

 少しして現場は静かになる。

 

 映像停止。

 

「かくしてヴァレンティーノズは全滅し、横流し品はシックス・ストリートが手に入れて、レリー・ハイン他何名かがメイルシュトロームに拐われましたとさ……電子書類で死体の顔を確認できるけど、そっちにレリーはいなかったから間違いない」

「チンガータ……なんてこった」

「いやぁ、レリーって人、生きてるかニャ?」

 

 揃ってグラスを呷る。

 幻覚(フラッシュアウト)での気分リセットを狙ったが気は晴れない。

 

「でも何かに必要みたいなことをメイルシュトロームが叫んでいたから、それまでは生かされているんじゃないかしら」

「でもよぉ、あいつらが拐ったギャング相手にやることなんて、決まってるだろ」

「生皮剥がされるニャ……!!」

 

 想像してしまったらしいZが、自分の体を抱えてブルリと震えた。

 彼女はクローム率がかなり高いので、もし仮に拐われればすぐさま解体(チョップ)され、残るのは内蔵と脳の一部に両腕くらいだろう。

 いや、もしかすると残ったそれらさえオールフーズのクズ肉(キブル・ミート)工場で精肉され、出荷されるかもしれない。

 

「まぁその辺りは賭けなんだけど……どうする?」

「正直、シックス・ストリートにメイルシュトロームまで絡んできて問題が大きくなりすぎてるニャ。パドレと一度話し合って、仕事を続けるなら報酬を多くしてもらわないと割に合わなさすぎるニャ」

「それは言えてるな。なんなら人も借りなきゃいけねぇかも知れねぇ」

「私も賛成。明日またパドレに会いに行きましょ」

 

 もう一度グラスを呷って、3人は家路に着いた。

 ナイト・シティの闇に飲まれるようだった。

 

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