サイバーパンク2077 オリ主添えネコミミ仕立てレリック抜き   作:はすむかい

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通過儀礼

 

「とまぁ、以上が途中報告ね」

「ふむ、メールシュトロームが……」

 

 パドレのコートはいつもの昼下がりと同じで、子供たちと彼らの面倒を見るヴァレンティーノズの用心棒たち、それから母親たちで埋まっている。

 ゴール下ではヘイウッドのストリート王者が5人もの子供に纏わりつかれて、バスケットボールを取られないよう手加減しながら遊んでやっていた。

 

「だとすると、ノースサイドの調査を依頼せねばいけないな」

「でもよパドレ。さすがにワトソンは遠いぜ。ヤバいことになったときにズラかるのが難しい」

 

 いつもの観客席にやっぱりいつものようにドカリと腰かけたジャッキーが、そう言って右手にぶら下げたニコーラ・ブルーをグイッとやった。

 少年たちに10何本か使い走りさせて、そのうちの1本だけを取り、残りは奢ってやったという経歴を持つニコーラである。

 

「確かにそれもあるけど、でも、もっと大きい問題があるのよ」

「そう。そもそもノースサイドは私の影響力の及ぶ範囲ではないのだ」

「あ~、確かにそれは大問題だな」

 

 ワトソンを縄張りにしているフィクサーは何人かいる。

 

 まず何といってもナイト・シティのレジェンド、ローグ・アメンディアレス。

 アフターライフの女王。

 中世で言うならパドレの宮廷など地方豪族の館程度のもので、本物の王宮とはアフターライフのことを指す。

 とはいえ、その歴史の古さと影響力の大きさから、ローグはワトソンの支配者として見なされることはほとんどない。

 彼女のシマはナイト・シティ全域なのだから。

 

 そんなローグに次いで挙げられるとしたら、デクスター・デショーン。

 かつてナイト・シティ第二位のフィクサーとして名を馳せた、ファット・ワン(太っちょ)

 けれども統一戦争終了後に下手を打って逃亡していたという噂が囁かれ、実際のところ活動を再び聞くようになったのは最近のことだ。

 デクスターはまだ大物として扱われており、彼もワトソンでなくナイト・シティが縄張りだと目されている。

 ……今のところは。

 

 ここ何年かで頭角を現してきたのがレジーナ・ジョーンズ。

 FTFラジオの記者という経歴を持っていて、そのときの人脈を基にフィクサーとして活動し始めた。

 現在はワトソンで勢力を伸張させてはいるものの、特殊な条件を伴う彼女自身からの依頼が多いともっぱらの噂だ。

 

「ローグとデショーンは、ノースサイドを少々うろつく程度では気にも留めないだろう。しかし、レジーナ嬢は子犬のように吠えかかってくる可能性が高い」

 

 フィクサーとしてはまだ経歴の浅いレジーナは、己の勢力圏に他人の駒が入ってくることに対し敏感に反応するだろう。

 もしそうでないなら近いうちに死ぬか、そうならなくともフィクサーとして彼女の名前を聞くことは無くなる。

 

「じゃあ、どうするニャ?」

「幸いにして私とレジーナ嬢は険悪な仲ではない。それにお前たちもそろそろ1つステップを上がる頃合いだ。私からの手土産を持って彼女に挨拶に行け。ついでに顔を売ってくると良い」

 

 Vはパドレが懐から出したエディのチップを受け取る。

 現金と違っていくら入っているのか見た目では解らないが、どこか金塊のような迫力を感じるチップだ。

 

「これ、もし無くしたら?」

「V、最近は臓器摘出用人間貯蔵庫(ボディ・バンク)にも空室が多いのだ」

「……肝に銘じておくわ」

 

 ヘイウッド住民の多くからお爺ちゃんだとか神父さんだとかで慕われるようなパドレだが、彼もやはりギャングやフィクサーとしての側面はしっかりと持ち合わせているのだ。

 Vは掌を湿らせる冷たい汗を、自分の服で拭い去った。

 

 

 

 

 ジャッキーの住処から出てすぐの小さな広場。

 自販機や屋台、かっぱらって来たコンテナが並ぶそこに、Vたちの姿がある。

 ついでに言えば1台のライトバンも。

 

「Zよう。いつも言うが、いい加減もうちょい良い車を買えよなぁ」

 

 車載AIを用いた呼び出しシステムでやってきたライトバンを見て、ジャッキーがいつものように項垂れた。

 マーヒア社製、スプロンFS3。

 断頭台(ギロチン)肉挽機(ミンサー)の子供、バスタブとゴミ箱をダクトテープで繋いだ車、インド製の走るダンボール箱……色々な呼ばれ方をする車だ。

 ちなみに最も酷いのは”マイマイと同レベルの何か”だというのはユーザー間で共有された意識だ――マイマイよりはほんの僅か少しだけマシ――という意味で。

 

「6人と荷物を乗せてギリギリ100キロ出る。十分ニャ」

「他が何一つ考慮されてないだろ」

「文句があるなら一人だけバイクで行くが良いニャ」

「まぁまぁ。私がヘラを買うまでの付き合いよ」

「ヘラはヘラで古すぎるのがなぁ」

「40年前の車はちょっとニャ……」

「何? 何か文句あるの? ねぇジャッキー。ミスティとドライブってことになったときスプロンとヘラのどっちがマシ?」

「さすがVだ。ヘラを買うの、楽しみにしてるぜ」

「裏切り者ニャ!!」

 

 そんなバカ話をしながらライトバンに乗り込む。

 もちろん、図体のデカいジャッキーが後ろの席なことは言うまでも無い。

 それにジャッキーには諸々の装備を後部の荷室に運び込む仕事もある。

 

「ライトマシンガン、携帯式の外装デッキ、アドレク社の蜘蛛(タランチュラ)? V、とっておきだろ。持っていくのか?」

「パドレがレベルアップだって言ってくれたワケだしね。その最初の仕事で下手こけないでしょ。万全の態勢で臨む」

「だってよZ。うっかり事故って壊したら、Vに殺されるぜ」

「スプロンだから、Vに殺される前にウチぺしゃんこになってるニャ」

「大丈夫よ。脳殻さえ無事ならどうとでもなる。そのくらいならエア・バッグが助けてくれるわ」

「せっかく助かっても焼かれるニャ……」

「今度の整備でエア・バッグは取っ払うべきだな。少なくとも苦しまずに死ねる」

 

 荷物を載せ終え、スプロンが走り出す。

 重たいジャッキーに合わせて(皮下装甲を含めると300キロを超えている!)後ろにはガチガチのサスペンションを入れてあるが、それでも僅かに後傾したまま道を行く。

 

 スカイライン・イーストに出たら北東へ真っすぐ。

 ジャッキーがマカロニ・チーズが食いたいとか言い出しても無視して進み、橋を渡ってジャパンタウンに入る。

 そうしたら運河沿いに更に北上。

 通り過ぎる景色の中で右手後方にメガ・ビルディングH08が流れ、前方にHOテルのネオン・サインが見えたら、もう一度橋を渡る。

 そうしたらそこはワトソンの玄関口、カブキだ。

 

「こっちの方はあまり来ねぇが、ヘイウッドよりは近代的だな」

「でもヘイウッドより汚いニャ」

「大して変わんないわよ」

 

 誰しも自分の故郷はちょっと特別なのかもしれない。

 

「あとはこのまま道なり」

「駐める場所、あるのかニャ?」

「リジーズに駐めさせてもらおうぜ。チップを弾めば断られやしないだろ。昼間だから営業もしてないしな」

「ずいぶんと詳しいのね?」

「こんなところに来るくらいなら、ウチに言えば良いのに」

「「それは無い」」

「ですよね……」

 

 猫娘が項垂れると同時に、車はリジーズに滑り込んだ。

 

 

 

 

 レジーナ・ジョーンズが指定したのは、彼女の本拠地らしい。

 娼婦ギャングのモックスが営業するリジーズ・バーのすぐ裏手にあり、何らかの密約が結ばれていることは想像に難くない。

 また、彼女のビルの前では縄張り争いが行われているのだろう。

 通りを挟んでモックスの娼婦ラインダンスのラクガキ・アートとタイガークロウズの漢字のラクガキ・アートがせめぎ合っていた。

 

「おうおう、結構な鉄火場(ホット・ゾーン)じゃねぇか」

「モックスは店の自警団みたいなものだからね、勢力圏は大きくない」

「タイガークロウズは人数だけならヴァレンティーノズとタメ張るしな。手を出すと反撃が痛いが、その気になれば潰せなくは無いってトコか」

 

 ”24 間営業”の1文字欠けたネオンを背にレジーナのビル入口へ。

 インターフォンを押すと僅かだけカメラが動きこちらを確認した。

 すぐに入口が開きエレベーターがやってくる。

 

「この構造のビルで正面から入りたくないニャ……」

「仕方ないでしょ。レジーナが手加減してくれてると良いわね」

「せめて壁に張り付いとくか」

「思い付いた。ジャッキーを盾にしましょ」

「それニャ」

「俺は紳士だからな。レディ・ファーストは譲らねぇ」

 

 ピンポン。13階に到着。

 エレベーターのドアが開いてセキュリティ・タレットがお出迎え。

 

「ミリテクのイージス!」

「勘弁してくれよ……」

「あー! 大丈夫! 撃たれないよ、入ってきて」

 

 フィクサーと聞いて想像したのよりは若そうな女性の声が響く。

 同時にタレットの電源がオフになってお辞儀した。

 

「心臓が止まるかと思ったぜ」

「文字通りの鋼鉄心臓(クローム・ハート)が何か言ってるニャ」

「どこのクロームだか知らないけど、驚きで止まったらさすがに回収騒ぎになる」

 

『乗っ取れなかったのか?』

『スキャンだけ。ネットの住人(サイバースペース・ドゥエラー)がいると思うから、こっちも椅子(ランナー・チェア)か、最低でも氷風呂がなきゃ勝負にならない。敵対してるわけでもないし、行きましょ』

 

 レジーナのオフィスは酷いものだった。

 まず壁紙やら床やらが全部剝がされてコンクリートが剥き出しだ。

 更にその上を束になったケーブルが這い回って、おそらく中古品だろうサーバーやディスプレイが蜘蛛の巣のように雑然と接続されている。

 そして、そんな散らかったオフィスの窓際で、カブキを一望の下に収めるようレジーナ・ジョーンズが佇んでいた。

 

「はじめましてね。Vよ。こっちの大きいのがジャッキー。ネコミミがZ」

「よろしく頼む」

「はじめましてだニャ」

「私がレジーナ・ジョーンズよ。なるほど、アナタ達がパドレの言っていたソロ・チームなのね。これからは私の依頼も受けてくれると嬉しいわ」

 

 レジーナにはガツガツとしたところはなかった。

 どちらかと言うと縄張りの拡大よりも維持を重視し、同時に人脈を充実させたがるある程度年季の入ったタイプに近い。

 もしかすると、噂通り金や権力以外の目的があるのかもしれなかった。

 

「ふうん。これがレジーナ・ジョーンズ」

「えぇ。腕利きソロのお気に召しまして?」

「さすがに1回は組んでみないとわからないわね。はい、これ。パドレからの手土産」

「確かに受け取ったわ……となると、とりあえず1回はお願いできるワケね」

「今の件が終わればね」

 

 それを聞いたレジーナは、ひきつめ髪の尾を揺らしカブキの景色に目をやった。

 窓に手をかざし遠くを見つめる。

 その後ろ姿のまま、Vに声をかけた。

 

「アナタ達の追ってるヴァレンティーノズの……手掛かりになるとしても?」

「どういうこと?」

「私の依頼したいのはメイルシュトロームからあるデータを盗むこと。そしてそのデータには、おそらくヴァレンティーノズの情報も含まれる。アナタ達はある意味で報酬の二重取りができる形になるわね」

 

『受けても良いんじゃないか、V。どっちにしろその情報が無いとしらみ潰しにノースサイドをうろつくハメになるぞ』

『まぁ取っ掛かりがあるに越したことはないニャ』

『それもそうね』

 

「そういうことなのだけれど、受けてもらえるかしら?」

「良いわ。受けましょう。これで私たちの求める情報が有るか無いかでレジーナ・ジョーンズの腕もわかるってことだし」

「そこは信用してもらって良い」

 

 そんなふうに追加の依頼を受けつつ、レジーナとの会談を終えた。

 いよいよノースサイドに乗り込む時が近づいていた。

 

 

 

 

「やってほしいのはパパラッチの真似事。ヘブン・メドっていうクリニックでメイルシュトロームの入団儀式や解体(チョップ)が行われているという情報をつかんだの。ヤツらはBDの販売のために映像データを残しているハズだから、そのデータを……チップでもサーバーから盗むのでも良いから手に入れて欲しい」

 

 それがレジーナの依頼だった。

 確かにそれなら、メイルシュトロームに拐われ、恐らくクロームを剝がされただろうレリーのデータが残っている可能性は高い。

 もし無かったとしてもその後にどう処理されるのかが解れば、次の手を打つことに繋がるだろう。

 

「で、アレがそのヘブン・メドか」

 

 プレハブ工法で建てられたらしい二階建ての建物だ。

 広さは縦横30メートルほどで、上から見るとL字型になる。

 入口はLの右上部分で、そこに見張りが立っていた。

 

「なんでこんなトコに診療所があるニャ?」

 

 Zの疑問はもっともなもので、周囲は埠頭と工場にコンテナ集積場くらいしかない辺鄙な地域なのだ。

 こんなところにある医者にかかりに来る人はそうそういないだろう。

 あまりに何もなさ過ぎて車を駐めると怪しまれそうだったため、周囲を軽く流した後はわざわざ大通りまで置いてくる必要があったほどだ。

 

「見た感じ元々は医者じゃなかったようね。ミーティ・フィッシュって看板がかかってるから、食堂だったんじゃない?」

「近くにはオールフーズ工場と汚染された海。肉と魚? ……実際は何を出してたんだろうな?」

「考えちゃいけないやつだニャ」

 

 3人はヘブン・メドから離れた燃料タンクの上に陣取っている。

 距離にして100メートルより少し遠い程度だろうか。

 アイ・ウェアを8倍ズームにしても見張りの表情を読み取るのは不可能だった。

 

「それじゃ確認するわ。まず目的のサーバーだけど1階には無い。これは私が監視カメラに潜って見た情報だからほぼ確定」

「なら2階か」

「ウチが潜入するかニャ?」

 

 コテンと首を傾げるZにVは頭を振って答える。

 

「メイルシュトロームが中にかなり居るから、いくらZでも行かせたくない」

「しかしよぉ、それだと正面突破もキツいんじゃねぇか」

「ええ、多分こっちが殺されるわ……そこで蜘蛛(タランチュラ)の出番ってワケ」

 

 アドレク・ロボティクス社製、蜘蛛(タランチュラ)

 15センチ径の円盤から4本の脚が生えた形状で、およそ20メートルの有効半径を持つ各種センサーを搭載した機械仕掛けの蜘蛛である。

 足先からは最大30メートルまで伸ばせるポリマー製の糸(液状で保存され射出と同時に固まり始める)が装備され、自重を支えたりその粘着性を活かして物を引き寄せたりすることも可能だ。

 注射器を空気圧で発射するシリンジ・ガンも装備していて、様々な薬品を強制的に投与することだって可能である。

 ただしフラット・ヘッドのような光学迷彩は無い。

 

「Zが行くのは建物までで良い。そうしたらこの子を起動して。私が操作して忍び込ませる。窓とか換気口の1つや2つくらいはあるハズ」

「俺は?」

「ジャッキーはここからライトマシンガンでカバー。万が一Zが見つかったら、バラ撒いて撤退の支援ね」

「りょーかい」

「それじゃ、行ってくるニャ」

 

 Zはケースから蜘蛛(タランチュラ)を出して抱えると、一気に跳んだ。

 Vたちがいる燃料タンクの脇を埠頭へと向かうパイプラインのガイド部分に跳び乗るつもりらしい。

 果たしてそれは上手くいって、ネコミミ娘は幅30センチも無いような足場の上を音もなく駆けていく。

 

『そんなに走って大丈夫? Zは落ちても良いけど、蜘蛛(タランチュラ)は落とさないで。マイマイより高いのよソレ』

『まかせろニャ』

 

 そのまま何事もなく走り、ヘブン・メドの屋上へ5メートルほどダイブ。

 ジャッキーほどではないにしろそこそこ重いクローム・ボディなのに、やはり音も振動もほぼ無く着地した。

 それから裏の方へ向かい下をのぞき込む。

 

『カイロンで見えてる? たぶんこの下に窓があるニャ』

『そこの窪んだ部分ね。よし、蜘蛛(タランチュラ)を起動して』

『スイッチオンだニャ』

 

 地面に置かれた蜘蛛(タランチュラ)は何度か屈伸するように体を上下させると、健気に脚を動かして歩き出した。

 足先から粘着物質を分泌する機械の蜘蛛(タランチュラ)は、垂直の壁だって何の問題もなく通行可能だ。

 蜘蛛(タランチュラ)のカメラにリンクしたVは、そこから更にヘブン・メドの窓に備え付けられたローラーシャッターにリンクし、開放した。

 ガラガラという音と共に窓が外部に対して無防備になる。

 蜘蛛(タランチュラ)に命じて内部をうかがえば、1台の監視カメラがこちら側へ向けて警戒の目を強めていた。

 

『どうだV? いけそうか?』

『えぇ。とりあえず内部には侵入できた』

 

 カメラをハックで黙らせ、ついに蜘蛛(タランチュラ)は店の中へ。

 見つかりにくいよう天井に逆さまで張り付いてから、内部を観察する。

 そこはサーバー室らしく薄暗く冷涼で、デスクトップにはモニターが4つも5つもあってニュースを映したりサーバー状態を表示したりと忙しい。

 

『サーバー管理用のコンピュータを見つけた。これから潜ってみる』

『急いだほうが良さそうだぞV。車が二台、店の前に止まった。メイルシュトロームが3人下りてくる』

 

 ジャッキーの言葉に慌てて蜘蛛(タランチュラ)を操作する。

 器用に足を使ってパーソナル・リンクのケーブルを有線した。

 

『有線で繋がってても、蜘蛛(タランチュラ)自体とは遠隔だから回線が遅い……』

 

 焦るVの脳に、送られてくるデータがゆっくりと蓄積される。

 断片化されたデータは、ある程度のサイズで一塊になるたびに意味を復活させ、有意の情報へと変化していった。

 

『あぁ……レリーを見つけた……これは酷い……』

 

 もちろんその”酷い様子”はリンクでジャッキーとZにも渡る。

 

『こいつは……』

『まるでメイルシュトロームだニャ……』

 

 映像データの中で手術台に乗せられたレリーは、元は両腕だけがクロームだったのを、四肢全てをもぎ取られてメイルシュトローム風の工業型クロームを接続された。

 腕はクレーンアーム、脚はトラクターのよう。

 さらに半ばまで顔面の皮を剥がされ、赤く光るアイ・ウェアをぶち込まれた。

 その上、アゴのあたりにやはり赤いライトアップ・パーツまで組み込まれている。

 もはやヴァレンティーノズのメンバーには少しも見えなかった。

 

『そして、改造が終わると運び出された。日付は失踪日の翌日ね』

『ん、窓が開いてんのか?』

『やばっ』

 

 蜘蛛(タランチュラ)のマイクがメイルシュトロームの声を拾う。

 ほぼ同時にデータの抜き出し作業が100%を表示した。

 

『Z、窓の下に下りられる!? 蜘蛛(タランチュラ)を飛び出させるから受け止めて!』

『了解ニャ! ……準備おっけい!』

 

 Zが屋上から飛び降り、蜘蛛(タランチュラ)が窓枠に乗ってスタンバイ。

 

『ああ!? ボットが忍び込んでるぞ! どこ見てやがった!?』

『ちゃんと受け止めてよね……今っ!』

 

 蜘蛛(タランチュラ)が空中に飛び出す。

 視界がリンクしているから、まるで自分が飛び降りたようだ。

 そのままZのクッション性抜群の胸に吸い込まれるようにして受け止められる。

 

『Z、走って!』

『言われなくてもニャ!』

『V! 俺たちもだ!』

 

 ジャッキーとVは燃料タンクの階段を駆け下りる。

 同時にヘブン・メドに向けて銃を乱射し少しでもZの支援を行った。

 特にジャッキーのマシンガンは延々と火を吐いて、銃身が焼けてきているのが見るだけでも解る。

 

『撃たれてるニャ~!!』

 

 下の車道で合流して、大通りに駐車したスプロンまで走る。

 

『お前も俺ほどじゃないにしろ装甲入れてるだろ! 大丈夫だ!』

『ウチのはケブラー! ライフルで撃たれたらほぼ無意味なのニャ!』

 

 幸いにしてメイルシュトロームの銃に軍用ライフルは少ない。

 貫通に優れるショットガンのサタラも遠距離では大したことはない。

 とはいえ耳元を掠めた弾丸の飛翔音は精神の余裕をガリガリと削っていく。

 

『メイルシュトロームってクローム率高いのよね、そういえば!』

 

 首だけで振り返ったVの瞳孔が真っ赤に染まる。

 ブリーチとアップロードに3秒。

 突然、メイルシュトロームがそろって転倒した。

 

「なんだぁ!?」

「足が!?」

 

『足の機能を停止させた! 即効性重視だからすぐに起き上がってくるけど、これで逃げ切れるでしょ!』

『さっすがVだニャ!』

 

 3人が道路を走る。

 脳内リンクでは盛んに会話を繰り広げているものの実際に口には出していないため、外から見ると黙々と走り続ける徒党である。

 こんな奇妙な光景もまた、ナイト・シティを彩る日常なのだ。

 

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