王子系ヤンデレ女子大生に愛されるのでどうにか生き残る話 作:2.36α金属リン
「ついにあの日が明日に来てしまった」
「どうしたんだよマイフレンド」
「お前マイフレンドなんていう柄じゃなかったろ」
ため息をつく。いや本当にどうしよう。
「で、何があったんだ?」
「明日ホワイトデーだからお返ししなきゃいけないんだよ」
「お前そういうとこ律儀だよなー。っつっても適当にお菓子買ってあげればいいんじゃね?」
「1人を除いて手作りを渡されたから困ってんだよ」
「……でも鉤野、お前って家庭科の成績良かったっけ」
「前学期の成績は10段階で9だったな」
「心配ないじゃん」
……何を渡そうか悩んでんだよな。そう言ったら俺の友人は合点の行った顔をする。
「ホワイトデーに渡す菓子にはそれぞれ意味があるって聞いたことがあるな。それ調べて相手によって変えれば?」
「よっしゃお前天才」
俺はそう言うと鞄を引っ掴んで教室の窓から飛び出した。
「えっちょおま……」
「授業始めるぞー……ん、鉤野は?」
「早退しました」
「は???」
「ちわーっす!三河屋でーっす!」
「ちょっと待って何何何」
次の日。学校サボって家で菓子を作ってきたのでそれ引っ掴んで葵依姉ちゃんの家に。見ると燐舞曲勢揃い。丁度いい。
「あ、先月のお返しですどうぞ」
「ありがとう」
「ありがとね」
椿さんと緋彩さんにはクッキー。プレーン、抹茶、ココア、ストロベリーの4色仕様である。
「お前にはこれ」
「ありがとな。どれどれ……なんか凄い出来なんだけど」
渚さんには同じくクッキー。ただし渚さんの顔をデフォルメした感じで完成度が凄いことになっている。
「確かに凄いわね……この黄色どうやってるの?」
「レモンかな」
「ぱっと見本命にも見えるわよね〜」
「本命?」
「やばい緋彩早く撤回してくれこのままだと明日の朝には私が東京湾に浮かんでることになる」
「冗談よ」
「それならよかった」
うん、そう言うなら目元の影消してから言おうか。まだ怖い。
「いやー最初はチロルチョコでお返し要求してきたからグーパンでもくれてやろうかと思ったんだけどな。流石にやめた」
「殺す気か?」
「次点で着色に絵具使ってやろうかと」
「殺す気か?」
あはは。
「絵具ぐらいじゃ死なねーよ。最近のやつはそういう風になってる」
「いやそもそもやったらダメなんだけど?」
まあ気にしないでくれ。
「んじゃ緋彩さん、飯作るの手伝うよ」
「戒矢?」
「あらありがとう。お言葉に甘えさせてもらうわね?」
「戒矢??」
「緋彩さんの料理美味しいんで」
「戒矢???」
「あらお上手」
「監禁するよ???」
「やれるもんならやってみやがれ」
「監禁するよって脅迫何?」
「それに対しての返しもおかし過ぎるのよね」
「じゃあなー」
「また明日、ね〜」
「それじゃ」
夜も更け、もう10時半。3人が帰宅し、俺と葵依姉ちゃんの2人きりになる。
「……ほい」
俺はややぶっきらぼうに包みを差し出す。
「……これは?」
「ほら、バレンタインデーのお返し。ちょっと失敗しちまったけど」
包みを開けるとそこには黒い薔薇。黒蜜を使った立体飴細工だ。
「……失敗?」
「本当なら花だけじゃなくて葉や茎も作るつもりだったんだけど」
「そこまで行ったらいっそ恐怖の領域では?」
馬鹿め。こーいうのはめちゃくちゃ凝るもんなんだよ。
「……ありがとう。嬉しいよ」
そう言って葵依姉ちゃんはかつてないくらいの満面の笑みを浮かべる。ちなみに「満面の笑顔」だと「面」と「顔」の二重表現になって文法的に間違いだから気をつけような。同様に「満天の星空」もアウトだぞ。
「そりゃよかっ「永久保存するね」いや食えよ」
食えよ。欲しいならいくらでも作ってやるから食えよ。
「……せっかくのホワイトデーだしな。言ってくれりゃ可能な限り叶えるぜ」
怪我しない程度とはいえ反撃でちょくちょくしばいてる負い目ががががが。
「じゃあ監k「明らかに犯罪な奴は却下な」しょぼーん……」
クラスメイトが言ってても「死ねやカス」ぐらいにしか思わないのに葵依姉ちゃんが言うと可愛いから困る。
「うーん……じゃあ、今夜は一晩中一緒にいて欲しいな」
「それぐらいなら別にいいが……性的なことは却下だぞ!?」
「戒矢は私を何だと思っているんだい?」
「2つ下の幼馴染を監禁したりするやべーやつ」
「うーん正論パンチきっつい」
事実で殴るしかない。口先三寸でどうにかなる相手じゃないのは俺が誰よりも知ってる。
「……わーった、一緒にいるよ。但し性的な行動含め明らかに犯罪な行動したら俺は即帰るし罰を与える」
「罰の内容は?」
「玄関のドアノブにめっちゃくちゃ精巧なゴキブリのおもちゃ貼り付ける」
黙ってしまった。まあ昔から虫嫌いだしなぁ。ゴキとか見るからにキモいのならまだしもてんとう虫とかハナカマキリとか蝶でもダメだったみたいだし。
「まあ気にすんな。やんなきゃいい話だ」
「理性持つかな……」
「普通理性の心配するのって俺のはずなんだけどな」
何で葵依姉ちゃんが理性の心配してんの。
「さて……夜は長いんだ。何がしたい?何だって付き合うぜ。気に入らねー奴がいるんならそいつん家行って殴りに行こう。欲しいものがあったら買って来てやる。──────日付が変わるその時まで、俺は葵依姉ちゃんの思うがままだ」
彼は──────戒矢は、普段と変わらぬニヒルな笑みを浮かべてそう言った。
昔から変わったようで変わってない、あの笑みで。
戒矢は覚えていない。私との約束を。私は覚えていない。戒矢との約束を。
互いが互いとの約束を覚えていないせいで生まれたすれ違いのバグ。
1つは私が、もう一つは戒矢が覚えていて。互いが互いの約束を覚えていて、それでいて忘れ去っている。それでもすり合わせなんて行わない。今が心地いいから。思い出してしまえば、壊れるような気がするから。
虚無的で、それでいて私への感情は表面に出す、そんな
私以外の一切───最近は椿たち燐舞曲の皆が"内側"に入りつつあるけど───外側の存在を無意味に切り捨て、無価値に吐き捨て、無感動に否定していた戒矢。
今でも私が行動原理で、普段は"平凡"を行動原理にしないとまともに生活を送れない戒矢。
『大丈夫、俺が葵依姉ちゃん 』
私の……社会倫理的には過激で過剰な行動も、自分の身の安全ではなく私の立場のために拒絶する。
「……じゃあ、──────」
「仰せのままに、
私は普段、大学じゃ"王子様"なんて風に呼ばれているけど。
「それじゃあ、おやすみ」
七夕の日。一年でたった1日だけ、私が王子様からお姫様に戻れる日。
だけど今年は、1日だけじゃないみたいだ。
私と戒矢はそっと眠りにつく。戒矢はちょっと躊躇っていたけど、無理を言ってやってもらったこと。
「抱き締めて、一緒に寝て欲しい」。
最後に一緒に寝たのなんてもう12,3年も前の話だ。
ハグしたり手を繋いだりは今でもすることがあるけど、これは違う。
だからこそ、久しぶり過ぎて忘れ去っていた感覚を思い出す。そして、その感覚との違いを強く感じる。
昔は私より小さかったのに、今では私を優に越す身長になって。昔よりもカッコよくなって。
愛してるよ。戒矢。
彼女いない歴イコール年齢には思いつかなかったので雑な上短めでした。
知ってるか?これで付き合ってないんだぜ。
鉤野 戒矢
授業サボって菓子作った。その後10年ぶりぐらいに葵依と一緒に寝た。
ヤンデレによる監禁だったり危害を加えてくるのに抵抗はしているが葵依のことはしっかり大好き。なんなら愛はこいつの方が重い。
青柳 椿
不憫オブ不憫。常識人過ぎてヤンデレ狂人vsそれを平然と受け流す変人の戦いについていけてない。貰ったのは4色クッキー。
矢野 緋彩
最強(頭が上がらない的な意味で)。狂人と変人の戦いは基本傍観、行き過ぎだと判断したら仲裁。貰ったのは4色クッキー。
月見山 渚
戒矢と精神年齢が近いのでよく言い争う。チロルチョコの対価で完成度バリ高の代物を渡されて罪悪感でちょっと苦しんだ。貰ったのはデフォルメ顔イラストクッキー。
三宅 葵依
本命貰えるし一緒に寝られるしで大勝利を収めた。余談だが寝てる間にこっそり18禁ムーブしようとしたが抱き合ったせいで動けなくて断念。貰ったのは黒蜜を使った薔薇の飴細工。
ホワイトデーの贈り物の意味
クッキーは「あなたは友達」、キャンディは「あなたが好きです」