「そりゃあみんな那須さん選ぶよね」
〈2014年3月8日 PM 17:30、ボーダー本部 本部長室〉
B級ランク戦も全日程が終わり、
遠征選抜試験を控えたボーダー本部。
その準備に向け、今日はボーダー本部長の
連日の徹夜に次ぐ徹夜。
「ノーマルトリガー最強の男」と呼ばれる忍田も流石に眠気には勝てないのか、デスクに山のように積み上がった書類達一枚一枚に目を向けながら時折、デスクに頭をごつんとぶつけながらも何とか眠気と戦い続けている。
(うーん、眠すぎる やっとB級ランク戦が終わって次は遠征選抜試験も控えている こんなところで 眠るわけにはいかない)
あともう少しで区切りの良さそうなところまで処理が終わると思われたその時だった。
いつの間にやらデスクの前でワクワク顔で立っていたボーダーの女性職員が1枚の書類を差し出してきた。
「あ、
あと数枚で一区切りだったのに……。
もう少し別なタイミングは無かったのだろうか。
意識を保っているのも限界に達しつつある。
忍田は差し出された書類をさらっと読んでから条件反射的に判を推す。
「こ、これで全部か……?」
「はい!ありがとうございます!それでは失礼致します!」
そう要件を済ませた女性職員は、業務の邪魔はせんと、さっさと本部長室から退散してしまう。
残りの書類にも判を押し、忍田は少しだけ休憩を挟むことにした。
本来ならこの程度の業務はトリオン体に換装すれば眠気など問題ないはずなのだが、トリガーを持っていると、弟子の
(眠気が……ますます酷くなる いっそのこと仮眠してしまうか?いや この後は大事な会議が控えて………)
視線の先には来客用の長椅子が……。
タオルケットもある、時間はほんの少しだけある。
このまま会議に出て居眠りをするなどという失態だけは何としても避けなければならない。
(5分、寝るか……いや 駄目だ 弛んでいるぞ!しっかりしろ
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———
「………ぐぅ……ぐぅ……」
数秒後、そこにはソファという名のベッドの上で、アイマスクにタオルケットを掛けて、ぐっすりと眠っている
何もかもを手放し、ただ
誰が本部長を責め立てることができよう。
そんな本部長室が寝てる
そいつは黒のロングコートに顎に蓄えたヒゲが特徴的な青年。
お餅の食い過ぎで目に七輪を刻み込んだ伝説?を持つこの男。
そう、皆様ご存知のNo. 1
「
そんな太刀川の後ろから同じ隊の出水がひょっこりと顔を出して部屋の中を覗き込む。
「本当ですね よっぽど疲れてたんじゃないんですかね?」
師匠が寝てるのは好都合だったのか、
太刀川は持参していた紙の束を持って不敵な笑みを浮かべた。
まるで小学校の夏休みの宿題を忘れた子供が、宿題をやっていなかった理由を思いついた時のように。
「ここんところ忙しそうにしてたからな レポートだけ置いて帰るぞ」
「思ったんですけど、なんで
「馬鹿野郎、このクオリティで出したら受付の段階でやり直しくらう可能性高いだろ だから
(この人、いつか本当に
太刀川は、ぐっすりと眠っている忍田を起こさないよう、
慎重に、慎重に足を進め、忍田の眠るソファの後ろを通ってデスクの前に辿り着いた。
「よし、これで数日は大丈夫……なはず」
そして、脱兎の如く、
忍田の眠るソファの前を通ろうとしたその時だった。
がしっ!と不意に太刀川の左腕が強烈な力で掴まれてしまう。なんとアイマスクをしてまでぐっすりと夢の中にいるはずの忍田が太刀川の腕を引いているではないか。
「け、
深淵の底から蘇ってきたかのような怨念の籠った一声。余程、書類仕事に疲れたのか、そんな時に睡眠を邪魔しよう者が現れるなら誰だってこうなる。蛇に睨まれた蛙とはこのことで、腕を掴まれた太刀川はその場から一歩も動くことができない。
アイマスク越しからでもわかる〝威圧感〟。これが「ノーマルトリガー最強の男」だとでもいうのか。
「ひっ!?ば、化け物ッ!?」
あまりの恐怖に思わず声を上げてしまう太刀川。
もう駄目かと思われた……が。
「…………すぅ…」
すぐに太刀川の腕を掴む力が弱まり、
またすぐに睡眠モードへと切り替わるように寝息を立て始める忍田。
間一髪のところで命拾いした太刀川は入り口で待っていた出水の下へ駆け寄り、血走った目で言い放った。
「
「
◆◆◆◆◆
〈2014年3月8日 PM 19:25、ボーダー本部 ラウンジ〉
「えー……マイク音量大丈夫…?」
時刻は7時半を回る少し前。
ラウンジにはまだ数人の訓練生とソロのB級隊員、そしてランク戦でもお馴染みなB級隊員達が割と多く残っており、
ブースの中央ではマイクを持って立っている黒髪メガネの女性職員がマイクチェックを敢行していた。
「んじゃ、始めよっか……」
すぅ。と息を吸って、
目を見開いたと思えば、
「〝フェス〟の時間の話だァ!!!コラァッ!!!」
びりびりと空間を震わせるほどの爆音で
その場にいる隊員達の鼓膜を破壊しにかかった女性職員だが、
「うおおおあああああおおおおおああああああーーーーー!!!!!」
何故か隊員達は大盛り上がりしているようで、
中にはウェーブするものまでいるではないか。
「えー、日々の防衛任務および訓練、お疲れサマンサ!」
「…………」
一瞬にして空気が凍りついた。
女性職員が〝良かれと思って!〟と口にしたギャグのつもりが。
あれだけホットだった空気をマイナスにまで引き戻された気分である。
「えー、昨年度は本部の予算の都合上、開催できなかったスプラトゥーンのフェスでございますが……」
女性職員はすっ、とメガネを外すと
〝1枚の用紙〟をばっ、と上に掲げた。
「今年は、〝本部長からの承認〟を得たので開催することになりましたぁあッ!!!」
「うおおおあああああおおおおおああああああーーーーー!!!!!」
「お前ら、ガチで塗り合う覚悟できてんだろうなァ!!!!」
「うおおおあああああおおおおおああああああーーーーー!!!!!」
「ランク上げは十分かァ!!!」
「うおおおあああああおおおおおああああああーーーーー!!!!!」
「ギアと装備はちゃんと揃えてきたんだろうなァ!!!!」
「うおおおあああああおおおおおああああああーーーーー!!!!!」
「うるせええええええええええ!!!!!」
自分からコールアンドレスポンスしておいて、
この理不尽っぷり、完全に情緒不安定である。
女性職員は「こほんっ」と咳払いをしてから説明に入る。
「今回のフェスですが、なんと
「うおおおあああああおおおおおああああああーーーーー!!!!!」
「うるせぇ!はしゃいでんじゃねぇぞ!このクソどもがッ!」
「……………」
自分を差し置いての騒ぎは許さない。
なんだかんだ一番はしゃいでいる自分を棚上げしている女性職員。強すぎる。
「はい、というわけで。今回のフェスはボーダーオリジナルのソフトを使ってやりますが……ルールはちゃんとあります!」
と、女性職員は正面のモニターを操作するリモコンをぽちぽち押しながらモニターにルール説明の画像を映し出した。
◆◆◆◆◆
【どっちにやられたい?】
那須隊長の〝鳥籠
▫️開催期間は3月9日0時から3月11日11時59分までとする。
▫️バトルは4人1チームの3〜4チーム戦(最大16名対戦)で行うものとする。
▫️チームメンバーは同じ部隊同士でなくてもOK
▫️ナワバリバトルはより多くの陣地を塗っているチームの〝1人勝ち〟とする。
▫️その他、リーグマッチルールは別途説明とする。
▫️総合的に〝塗り部門〟と〝キル部門〟と〝アシスト部門〟において優れた成績を収めたチーム及び隊員には成績に応じて個人ポイントを付与する。
▫️ルールは主催者(という名の書き手)の都合上、追加される場合がある。
◆◆◆◆◆
………え?
その場にいる誰もがそう感じただろう。
究極の2択といっても差し支えはない。
那須の鳥籠
どちらを選んでも地獄のようにしか思えない。
まず、那須の鳥籠
最悪、食堂のメニューに「加古特製
かといって、加古の
ならば、加古の
「尚、今回のフェスには武富オペレーターの人選の下、〝風間隊長〟と〝加古隊長〟と〝真木オペレーター〟と〝三上オペレーター〟が解説及び実況に来てくれる予定でーす」
三上以外ボケが通じないような奴らばかりである。冗談抜きでふざけたら何をされるかわからないメンツばかりではないか。
なんなんだ、このフェスの主催者は隊員達に恨みでもあるのだろうか。
「塗らないイカはただのイカ……いいですか!戦わなければ生き残れないのです!!」
どこかで聞いたようなセリフを吐き散らす女性職員の言葉など最早、隊員達の耳には届いてはいない。今はただ、〝どちら側に付くべきか〟の損得勘定で頭が一杯である。
俺たちの戦いは終わらない。
今日もボーダー隊員達は元気にスプラトゥーン2で遊んだのだとさ。
おしまい
「まだ終われませんよ!?次話からが本編開始ですから!!」
次回、『もしもスプラトゥーンでボーダー隊員達がガチで塗り合う時が来たら(略称:もしプラ)編』始まります。
to be continued…