「スプラやろうぜ!お前ら弾除けな!」
〈2014年3月9日 PM 12:00、荒船宅〉
「ファイアァトルネェェェドッ!!!」
「エクス…カリバァァァァ!!!」
「ハンターズネットッ!」
休日の真昼間からご近所さんへのご迷惑も省みず、小学生が考えたような必殺技を大声で叫ぶ高校3年生男児3名。
おでこ全開のツンツン頭、ボサボサの黒髪、鶏冠付きの黒髪。
3人並んで懐かしのDSの下画面にこれでもかと言わんばかりにタッチペンを叩き込む。
「お前ら……何してんだよ」
キッチンから4人分の飲み物を用意して戻ってきた黒の鍔付き帽子を被った男性
「イナ◯マイレブンだよ」
「イナズ◯イレブンに決まってんだろ」
「イナズマイレブンだ」
男児3人は悪びれもなく、なんとも息ピッタリに答えてみせる。おでこ全開のツンツン頭こと村上とボサボサの黒髪こと影浦は配慮的な意味でまだ伏字を使っているからいいとして鶏冠付きの黒髪こと穂刈にいたっては伏字を使う気がさらさらないらしい。
「そういうことを聞いてんじゃなくてだな」
そう、小学生男子を中心に一時期日本中?に大ブームを巻き起こした超次元サッカーRPGをしていることが問題なのではない。その問題は……。
「なんでうちでイナズマイレブンしてんのかを聞いてんだよ!」
荒船の怒号が部屋に響き渡る中、村上は荒船の部屋を見渡しながら、壁の本棚に置いてあるアクション映画やゲームソフトに目移りしてしまう。
「荒船の家にはなんでもあるな オレも昔は初代の帝国初戦で勝てずに無駄に絶望したものだよ」
※書き手個人の感想です。
「あれ負けイベントじゃねぇか……んなこと言ってんじゃねぇんだよ」
と、荒船はテーブルの上に置かれた自分のSwitchを手に声高らかに言う。
「今日からスプラトゥーン2のフェスが始まった この意味がわかるな?」
が、ゲームに夢中の影浦は荒船には一切の視線も寄越さずに答えた。
「チームなら組まねぇぞ ただでさえ
「…………」
荒船が ぷくっ、と頬を膨らませて
「そんな感情ブッ刺しても 組まねぇもんは 組まねぇからな」
「もし組んだら 犬飼を優先的に ブッ倒す手助けくらいは してやるよ」
「生身の方は?」
「駄目に決まってんだろ トリオン体にしなさい」
(トリオン体なら 良いと思ってるのか)
(良いと思ってるのか トリオン体なら)
「チッ」
宿敵とも言える犬飼を屠る事も叶わず、露骨にやる気を失う影浦だが、荒船は影浦の肩を組んでしたり顔で言った。
「それにバトルに勝てばチーム全員に個人ポイントが贈呈されんだから参加して損はねぇだろ?」
ボーダースペシャルフェスにおいては
通常の個人ランク戦と違い、
特に負けたチームが個人ポイントを奪取されるということは起こり得ない。
勝てば勝っただけ上層部から個人ポイントが贈呈されるのみである。
尤も、ゲームで個人ポイントを得るというのに抵抗を覚えるという声もあるのは事実ではあるが。
「ゲームなんぞでぶんどるよりも直接八つ裂きにしてぶんどった方が気持ちがいいに決まってんだろうが」
影浦は間違ったことは言ってない。
間違ってはいないのだが、言ってることは悪鬼そのものである。
そもそも勘違いして欲しくないのは、
ボーダースペシャルフェスで貰える個人ポイントなんぞ雀の涙程度でしかない。
大規模侵攻なら数百ポイント貰えるだろうが、
フェスで全勝したところで貰えるポイントはせいぜい100ポイントが積の山。
つまり、参加してもデメリットはないが、大きなメリットもないのである。
「物騒なこと言ってるけど 理論は間違ってはない……のか?」
「鋼!穂刈!おめーらはどっちだ?ゲームなんぞでポイントが欲しいのかよ」
すると、穂刈はSwitchをテーブルに置いて頬杖をつきながら気怠げに答える。
「オレは普通に欲しいな
一方、村上も武士系男児にあるまじき慈愛の眼差しを影浦に向けながら言った。
「ポイントが貰えるとかは置いておいてカゲ達と一緒にゲームはしたいな」
これが嘘や建前でなく、本心で言っているということは影浦自身がよくわかってる。が、
「うっぜえわ!そんなほわほわした感情をブッ刺してくんな!」
村上の向けてくる感情に体の底から震え上がる影浦の意思を躱して荒船が自前のSwitchの電源を入れた。
「そうと決まれば 始めようぜ!」
◆◆◆◆◆
さて、毎度のことながら。
4人が最初に向かったのはロビー。
ボーダー仕様のスプラトゥーン……通称「スプラトリガー」は通常のスプラトゥーンと違う大きな点は〝三すくみ対戦〟ができると言うこと。
通常のスプラトゥーンは2チーム対抗の塗り合いに対し、スプラトリガーは1度のバトルに最低2チームから4チームまで参加できるのだ。
勝敗の付け方は通常のスプラトゥーンと変わらず、
プログラミングを監修した宇佐美氏は語る。
———「これはゲームであって遊びではない」と。
間違いなく、どこかで聞いたようなセリフだし、スプラトゥーンもといスプラトリガーは別に命がけのデスゲームでもないのでボーダー隊員達にとっては遊び以外のなんでもないのだが、三日三晩の徹夜で完成させた文字通り宇佐美の命を削って完成させたゲームだ。言葉の重みが違う。
そして、4人が向かったのは
「レギュラーマッチ」「ガチマッチ」「リーグマッチ」の3つのうち「レギュラーマッチ」。
スプラトゥーンにおいてフェスは基本的に「レギュラーマッチ」のみとなるが、スプラトリガーには「ガチマッチ」も「リーグマッチ」も一応、機能としては存在している。
尤も、本来2チームでやるべきモードを3~4チームでやるのだからその分、ルールは複雑にはなっているが。
ともあれ、まずは「レギュラーマッチ」。
高校3年生男子4人が正座で大人しくマッチングしていると、対戦相手2チームのプレイヤーネームが ぽんっ、と表示される。
そして、表示されたプレイヤーネームは村上にとって驚きが隠せない名前ばかりであった。
「まさかと思うが……これ相手にゾエがいないか?」
「いるな
まず目を引くのは「ゾエさん」である。
スプラトリガーは現状、ボーダー隊員にのみ配布されたアプリケーションである。
一般人が間違って入り込む余地などない。
そして、ボーダー隊員で「ゾエさん」と呼べそうな人間の心当たりは4人の中では現在2人。
スプラトリガーは訓練生にも配布されているため、他にも「ゾエさん」という名前の人は居そうなのだが、他3人の名前を見た時、その仮説は淡くも崩れ去る。
「ゾエさんとゆかいな仲間たち」とチーム名からして知り合いしかいない予感しかしない。
「名前からしてユズルもいんじゃねぇか あいつらまとめて
「緑川のヤローもいるあたり 最後の1人は巴か?」
もはや「おれがじんゆういちだ」「Yuzuru」「ザキさんかっこいい」の3人は疑いようがない。中学2年男子組で決まりだろう。というかこの名前でもしもこの3人以外なら是非会ってみたいくらいである。
「もっとヤバいぞ こっちのメンバーは」
しかし、さらに目を引くのは
彼らとはまた別のチーム「我、嵐ぞ?」。
チーム名からしてわけがわからないのだが、プレイヤーネームを見るとその由来がひしひしと伝わってきた。
「二宮さんに嵐山さんに三輪に烏丸……ボーダーイケメントップスターズが何をどうすればスプラトゥーンでチームを組むという発想になんだよ」
おそらく、チーム名の「嵐」は嵐山と二宮がチームにいるためなのだろう。気になる人は是非、「ボケて」でこのチーム名を調べてみるといいだろう。きっと面白い。
チーム名はともかくもしもプレイヤーネームから推測した中の人が荒船の言っていたメンバーならば、威圧感とイケメン度は間違いなく最強。
なんなら雰囲気だけでボーダースプラ界を席巻できること間違いがない。
もしもこの4人が黒スーツでお茶なんてしながらスプラしようものなら通りすがりの女子隊員は全員がぶっ倒れることだろう。
しかし、村上はこれほどまでに個性豊かな対戦相手を見ただけでは勝負を諦めていない様子で、荒船の肩にそっと手を乗せるや決意の眼差しで荒船を見つめる。
「荒船 気にしてはいけない 相手が誰だろうと手を抜かない そして勝つぞ あとお前はイケメンだ荒船」
「いや 相手の色が濃すぎて 脳内処理が追いついてねぇんだよ 察してくれ」
「そ、そうか……うっ!」
そんな中、村上が突如、腹を押さえてその場に蹲って苦しみだしてしまう。
「どうした?鋼」
荒船が心配そうに村上の背中をさすってやると、村上はその場から立ち上がり、覚束無い足取りで部屋から出て行こうとする。
「すまない ちょっと 手洗いを 貸してくれ……」
「マジか!もう始まんだぞ!」
対戦開始まであと数秒のところ。
こんなところで村上が抜ければいきなり3人でのバトルスタートになってしまう。
スプラトリガーやスプラトゥーンにおいて人数の差がどれだけ勝敗を左右するのかということを荒船は知っている。かのドズル・ザビ中将は言った。戦いは数である、と。
だが、村上の腹も限界に達しつつあるようで
聞き迫る顔で荒船に全てを託す。
「荒船なら……1人でも4キルできると信じてる……!」
言い終える前に手洗いに向かって走り始めた村上に荒船は叫んだ。
「俺 今回パブロなんだが!?」
おそろしく射程の短いブキで
この戦術お化け達にどう勝てばいいと言うのだろうか。たとえ相手が二宮たちではない素人達相手であっても3人というデメリットを抱えた上でパブロで4キルするのは至難の技だろう。
※悲しいまでに書き手個人の感想です。
かくしてエースアタッカーを失ったまま始まったバトル。
荒船率いる「ムラカミイレブン」は序盤劣勢に追い込まれてしまう。
「ゾエさんとゆかいな仲間たち」は4人とも自陣から丁寧に塗り潰しているのに対し、「我、嵐ぞ?」に至っては丁寧なんて2文字は完全に捨てた相手陣地の総取りへと動き出していた。
特に「我、嵐ぞ?」の「ニノミヤ」は動きが初心者どころではない。比喩かもしれないがプロの動きである。無駄がない。
敵チームのイカを次々と葬り去り、味方チームの塗りをサポートしている。
「くそっ!やっぱ3人じゃ向こうの相手になんねぇんだけど!?」
荒船の怒りももっともである。
しかし、肝心な村上は何故腹を下してしまったのだろうか。
「大体なんで鋼は急に腹壊してんだよ!何食ったんだよ!あいつ!」
荒船の怒りに穂刈が心当たりを述べる。
「原因は不明だが 賞味期限ギリギリの米粉パンなら オレが食べさせた」
「お前マジなにやってくれてんの!?間違いなくそれじゃん!原因わかりきってるじゃん!?」
村上の大好物である白米に掛けたのだろう。賞味期限ギリギリだろうが過ぎてないのならば、さぞかし村上も美味しく召し上がったと思われる。それなら腹を下すのも無理はない。タイミングは最悪だが。
「つってもあいつ半分しか食ってねぇよ。残りは俺と穂刈で食べた」
「お前らもお前らで胃が頑丈じゃねぇか!」
突如、会話に割り込んできた影浦に荒船が盛大にツッコんだ。
村上が腹を下す米粉パンを食べて何ともないとは流石は飲食店の次男坊?である。そんな中で穂刈は何故、腹を下さなかったのだろう。
すると、スタート地点からいつまでも動かなかった「むらかみんぐ」が突如、動き出したのだ。
そして、荒船家の一階にある手洗い場よりこれまた大きな声が部屋にまで響き渡ってきた。
「待たせたな、荒船!」
村上の声である。
どうやら手洗いに一緒に行く時にSwitchも持っていっていたらしい。動きがかなり軽快だ。
しかしまぁ、残り時間は1分を切っている。
本当に遅過ぎである。
それでもエースアタッカーの帰還はチームにとってはまさに暁光。
勝ちの目は薄いかもしれないが、最後の最後まで徹底的に抗戦ができる。
「いつも遅いんだよ、お前は!」
「すまない!手洗い場の窓を開けたらご近所のおばさんが井戸端会議をしていて、つい話が弾んでしまった!」
「お前 本当に人んちのトイレで何してくれてんの!?というかトイレにSwitch持っていったんなら最初から戦えただろうがッ!」
———全くその通りである。
to be continued…