「セミはけたましく叫び、先輩は嘘に踊らされる」
〈2014年3月3日 PM 19:06、ボーダー本部 食堂〉
「何故、A級1位のこのボクが、焼きそばパンを買ってこなければならないんだ!」
※一応あの後、太刀川達からお金は貰ってます。
太刀川達のパシリで食堂までやってきた唯我は、数ある売店から焼きそばパンが売っていそうな店を探す。
「人権団体だ……いや、弁護士を呼ぶべきか…?」
ぶつぶつと呪文のように独り言をしていると、
背後から聞き慣れた〝後輩〟の声が聞こえてくる。
「あの……
「その声は……
振り返るとそこには、
唯我の唯一の心の拠り所といっても過言?ではない愛しき後輩
「あ、お疲れ様です……えぇと、何をされてるんですか?」
「聞いてくれたまえ!
ここまでの経緯をざっと説明しつつ、唯我は自販機で購入した缶コーヒーを修に1つ手渡してやる。修も「ありがとうございます」と言ってからおそるおそるコーヒーを口にする。
「はぁ……なるほど ゲーム対決を
「そうなんだよ!ところで
「いえ 聞いたことはないんですが……」
「今、ボーダー隊員の間で人気だそうだよ!この機会に君もどうだい?」
ボーダー隊員に人気のあるゲーム……。
正直、今の修はそんなことをしている場合ではないし、そもそもゲーム自体そこまで得意ではない。しかし、折角の先輩からの誘い。
上手く断るためにランク戦を引き合いに出すことにした。
「さすがに明後日はB級ランク戦の最終日ですし、今日も
「そ、そうかい……それは、そうか……」
露骨に落ち込む哀れな先輩?に修もどう言えば、しっかりと納得してもらえるのか必死に頭を巡らせて考える。
(と、とても落ち込んでる……)
「それにぼくのボーダー隊員としての給料は全て母に管理してもらっているので、自分で買うのは難しいですね」
ウソはついてない。
修のボーダー隊員としての給料はまだ自分の事に使わず、母である 香澄に管理してもらっている。
これならさすがの先輩も納得してもらえるはずだった。
「なに?ということは、ボクが君に〝プレゼント〟すればいいんじゃないか!?」
途端に目の色を輝かせて修に擦り寄る唯我。
さすがにプレゼントされるだけのことをした覚えはないし、何より今はランク戦のことを考えたいのでゲームをしている暇はない。
「そ、それは悪いですよ…!それにB級ランク戦が終われば、すぐに遠征部隊選抜試験が始まりますし……!」
「終わってからでもいいから是非やらないかい!?」
それでも諦めずにしつこく勧誘を続ける唯我に、駄目押しと言わんばかりの理由を叩き付ける。
(ぐいぐい来る……失礼だけど 本当になんでこの人がA級1位部隊の隊員としてやっていけてるんだろうか……?)
「しかも、その話を聞く限りだと1チーム4人編成なんですよね?1人でやるには限界がありますのでやっぱり他の人を誘ってみたらどうです?」
「なら、
駄目だ。この先輩、何を言っても止まらない。
困り果てていたそこに、もさもさの白髪に背の低い少年と、ボサボサの黒髪に背の高い青年がやってくる。
「おい あそこで絡まれてんのオメーのとこのメガネじゃねーの?」
「オサムどうした?」
「
自分の信頼する隊長に詰め寄る不届き者?に警戒心MAXで遊真は唯我に話しかける。
「あんた うちの
唯我も唯我でいきなり警戒心を持って接してきた相手に一応の警戒をしながら一歩後ずさる。
「君は確か……〝
「知らんけど オサムに手を出すならまずはおれと戦いなよ」
ここで、唯我と遊真に解釈の相違ができてしまった。唯我自身は修とは〝スプラトゥーン2〟の話をしていた。逆に遊真は隊長が変な奴に絡まれたと思い、彼を守る為に〝模擬戦がしたい〟という話をしていた。
錯綜する思考の中、唯我の脳内では〝遊真がスプラトゥーン2でボクと戦いたいのか?〟という結論に辿り着いたのであった。
「君もこの機会に〝スプラトゥーン2〟を始めてみたまえ!ソフトは全員分買ってあげるから!」
「ん?〝すぷらとぅーんつー〟?なんだそれ?かげうら先輩知ってる?」
突然、話題を振られた影浦が面倒臭そうに答えた。
「ゾエが
「かげうら先輩 おもしろいウソつくね ゾエさん達とやれて楽しいんだ」
「うるせー八つ裂きにすんぞ」
影浦の照れ隠しも遊真のサイドエフェクトを前にすれば、お見通しなのである。
続いて、遊真は唯我に尋ねる。
「それで?なんでオサムまで勧誘するわけ?寂しがりやか?」
「それはだね……」
ここでもまた唯我はここまでの経緯を話した。
すると、何を勘違いしてしまったのか、
遊真が物凄い納得した表情で言った。
「なるほど ニノミヤさんもハマるおもしろさ……オサム プレイすればニノミヤさんの強さの秘密がわかるかもしれんぞ」
※ゆうま自身は真面目に言ってます。
「……は!そういうことか!戦術について学べるゲーム……それが〝スプラトゥーン2〟!」
※オサムは普通に寝不足です。
2人の掛け合いを隣で見ていた影浦は呆れ返って物も言えなかった。
(んなわけねーだろ 揃いも揃ってバカかこいつら)
そして、唯我は修のやる気を見てすぐに表情を明るくしながら、携帯端末を取り出す。
「そうとわかれば、今日中に手配しよう!届け先は〝
その勢いでそのまま作戦室へと帰っていった唯我。話がとんとん拍子で進んでしまったが、修は最終戦のヒントを得たと思って誠心誠意のお礼を先輩の背中目掛けて言った。
「ありがとうございます!
「ありがとう ゆいが先輩?」
(バカだ……バカしかいねー。この組織)
◆◆◆◆◆
〈2014年3月3日 PM 19:48、ボーダー玉狛支部〉
その数十分後、玉狛支部には段ボール4つが送られてきていた。
最初に対応したのは、支部長の林藤で、あまりの大荷物に支部に残っていた隊員達が全員玄関先にまで出てきてしまう。
「修宛の荷物……?しかもなんでこんな大荷物なんだ?」
林藤支部長が突然送られてきた荷物に疑問を持っていると、後ろから付いてきていたA級隊員
「
珍しい贈り物にはしゃぎ倒す小南に、同じくA級隊員の
「
唐突に明かされた情報に小南は慌てて段ボールの蓋を閉めて、背後にいる大柄の男性に質問する。
「え!?ここにあるゲーム機って1ついくらくらいするわけ!?」
屈強な肉体を持つこの男性
「メーカー小売希望価格で29,980円(税抜き)だ」
補足するように烏丸が暗算で大体の金額を提示する。
「12台あるんで36万円くらいですね あ、ソフト込みだと40万円超えるかも……」
いきなり聞かされた大金に小南はどうしようもない様子で慌てふためいてしまう。
「払えないわよ!そんなの!ねぇ とりまる!なんとかする方法はないの!?」
「……すいません 嘘です」
「……へ?」
「だから嘘です」
数秒の沈黙……。
誰もが分かっていた烏丸の嘘。
そして今しがたまで慌てふためいていた小南すらも険しい顔でその場に固まってしまう。
そして全てを完全に理解した小南は、怒り心頭で烏丸に詰め寄る。
「……あんた ねえ!先輩をなんだと思ってるのよ!このこの!」
ぽかぽかと烏丸の腕を叩き続ける小南だが、烏丸は全く効いてないといった様子で小南を宥める。
「嘘でも 人宛に届いたものを勝手に開けるのはやめましょうよ」
すると、今度はカピパラに乗ったヘルメットがよく似合う幼児
「うむ、これはいまわだいの〝すぷらとぅーん〟か てれびでやっていた」
送られてきたパッケージを手に取って、「ふむふむ」と頷く陽太郎に支部長と同じ疑問を持った宇佐美が首を捻った。
「でもなんで修くん宛にこんな大荷物が?」
◆◆◆◆◆
〈2014年3月3日 PM 19:30、ボーダー本部 太刀川隊 作戦室〉
時は少し戻って太刀川隊の作戦室では、焼きそばパンを買い損ねた唯我が地面に正座させられていた。その前で腕を組んで顔を顰める出水が唯我に問う。
「で?結局、焼きそばパンはどうなったんだよ」
「すみません……
「バカか!メガネくん達は明後日 大事な最終戦なんだぞ!これで負けたら お前一生訓練呼ばねーからな!」
「ひぃ!それだけは勘弁してくださ〜い!」
次に出水は、ソファでゲームを続ける太刀川と国近の方を向く。
「
出水の怒りを余所に太刀川と国近は酷く気の抜けた返事をした。
「ん?焼きそばパンねぇの?」
「大丈夫だよ〜〜さすがに
どう考えても、唯我のやったことは非常識の範疇に入ると思っていたのだが、周囲の様子に呆れ果ててしまった。
(楽観的すぎるだろ……このチーム)
to be continued…