「やべぇ……
〈2014年3月4日 PM 19:53、ボーダー本部 三輪隊 作戦室〉
ひょんなことから二宮からスプラトゥーン2の射撃を教わる事になった三輪。その補佐として半ば強制的に参加させられた出水と里見がアバターのギアを慣れた手つきで変更していた。
一方、三輪と同じくスプラトゥーン2は初挑戦……それどころか、ゲーム機すらまともに触ったことが無いのでは?と思いたくなる程の高嶺の花こと月見蓮が急遽開発室から借りてきたゲーム機にスプラトゥーン2をセットして起動した。
「ゲームなんて触った事が ないのだけど 面白いのかしら?」
ゲーム機を色んな方から見て、初めて触る娯楽物にちょっとだけ心が躍っているように見える月見に米屋が陽気な様子で答える。
「大丈夫すよ
「いざとなれば おれたちがカバーすれば 大丈夫ですから」
まさにお姫様を守る騎士の如く、
隊員達からの言葉を貰って微笑みを返す月見。
「あら 頼もしいのね」
そして、隊長不在の三輪隊(隊長抜き)チームに立ち塞がるは、スプラガチ勢にして世界ランク2位 二宮匡貴率いる即席チーム。
しかし、即席チームを率いる二宮のイカの装備は相変わらず、〝芸術〟であった。
メインギアパワーに〝イカダッシュ速度アップ〟を持ったギアを豪快に2つと〝イカニンジャ〟を持ったギアも装備、さらに他のギアも〝インク効率アップ(メイン)〟〝スペシャル増加量アップ〟〝インク効率アップ(サブ)〟をこれまた綺麗に並べたスタイリッシュな装備である。
「
「69時間だ」
即答されようが、この装備の付け方は出水から見たら若干引くレベルである。仮にも明日はB級ランク戦最終戦だということを忘れてはないだろうか、この人。
(この人マジで 防衛任務と大学関係以外の 全ての時間でスプラしてたな スプラ廃人に片足突っ込んでるんじゃね?)
「よくギア そこまで 綺麗に揃えましたね」
「何事も効率だ そういうお前たちの
「〝トリガー〟と書いて〝ギアパワー〟って 言うのやめましょう!? 片足どころか両足どっぷり 浸かってるじゃないすか!」
駄目だ この人は もう手遅れだ……。
出水が心の中で嘆いている隣では、
二宮ガチ勢の里見が興奮気味に二宮のギアに食い付く。
「ゲームもスタイリッシュにこなすなんて
〝スタイリッシュさ〟からは かけ離れているような気がするが最後までやらないと後味が悪い気がして出水も仕方なく、ゲーム機の画面に視線を戻した。
「里見 本当に この人の信者で よくやっていけるよな」
(まぁ 面白そうだから最後まで やるけど)
「
逃げる選択肢を潰された三輪は抵抗する気も失せて、与えられたゲーム機に視線を戻した。
(今すぐ この部屋から 逃げ出したい…!)
さて、そんなこんなで
ステージが決まるところまで進み、
8人がバトルするステージが決まる。
『モンガラキャンプ場』
所謂、〝裏取り〟がしやすいマップで
上手く立ち回れば、敵の背後に回ってキルを取るなんてこともできるステージで、頑張れば、敵の復活地点前に張り付くなんてこともできなくはないが、突出すれば当然集中攻撃を受けるのでリスクはあがる(どのステージにも入れることだろうが)。あと、中央付近の対岸同士での〝撃ち合い〟がエグい。チャージャーがメチャ強い気がする。
※書き手個人の感想です。
「『モンガラキャンプ場』だと……?」
発表されてステージに眉間に皺を寄せる二宮。
それを意外そうな表情で出水が問いかける。
「なんかありました?
考えてみれば、二宮チームのブキはリーダー 二宮が〝クラッシュブラスターネオ〟、出水が〝ヒーローマニューバー〟、里見と三輪が〝わかばシューター〟である。
対する三輪隊チームは奈良坂が〝リッター4K〟、古寺が〝スプラチャージャー コラボ〟、米屋が〝ホクサイ ベッチュー〟、月見が〝わかばシューター〟だった。
「チャージャー持ちが2人もいる 特に
先程のバトルの反省を活かして、
仲間達に的確な指示を出す二宮。
(100時間未満でギアを そこまで集めたあんたが 言うか!?)
〝2秒に4キル〟も人間業では無いのは間違いないのだが、それ以上にプレイ開始から100時間未満でそこまでギアを厳選できる二宮の気力が凄過ぎて、本当に明日がB級ランク戦最終戦なのを忘れてしまいそうになる。
そうこうしているうちにバトルが始まり、8人は各々塗りを進めようとしていた……はずだった。
「
なんと、月見のイカがスタート地点から真っ直ぐに進めず、真横の壁にひたすらぶつかっているではないか。
開幕早々の珍事に思わず米屋が吹き出してしまう。
「ぶふぉ!?
元々は人数合わせのつもりだったのだから、初めての操作で壁ゴンは仕方のないこと。
米屋は両隣にいる奈良坂と古寺とアイコンタクトを取る。
(とりあえず負けてもいいから
言葉にせずとも3人の結束は偉大である。
初心者狩りだけはさせないように米屋が早速、ステージ中央まで駆け抜ける。
『
『り 了解です!』
『
『わかりました!
トリオン体による内部通信機能をフル活用した連携によって、素早く行動に移った三輪隊チーム。
一方の二宮チームも負けてはいない。
「よし まずは浮いてる駒から叩くぞ
「わかりました じゃあ
「もうどうにでもなってくれ……」
始まったばかりなのに早速ネガティブ発言を咬ます三輪に、出水は同情しつつ二宮のイカについて行く。
「じゃあ おれらはこっちで気楽に塗ってよう〜」
と、里見が全く塗られていない自陣を塗ろうとしたその時だった。
側面からインクレール(レールを伝って空中を移動できる便利なレール)で敵陣まで攻めてきた米屋が自慢のホクサイの攻撃で一気に里見を撃破してしまう。
「よっし! まずは1キル!」
「やっば! やられた!?」
「悪いな
その勢いで三輪も撃破しようするも、
その前の一瞬で微かに「コロンッ」と何かが転がる音がする気がした。
米屋がそれをよく見ると そう、〝スプラッシュボム〟が足元に綺麗に転がっているではないか。
「あ やべ オレ死んだわ」
ぼぢゅんっ!!!と炸裂した〝スプラッシュボム〟によって撃破された米屋を前に何が起こったのか全くわかってない様子の三輪がどことなく動揺していた。
「なぜか知らないが
「いいぞ
二宮の褒め言葉に三輪はさらに何が起こっているのかがわからなくなり、くらくらと目を回してしまう。
「うぅ……
「やべぇ!
「仕方ない
「やった!
バトルも残り1分を切って
そろそろ塗られていない地点が無くなってきた
ステージだが、それでも両チームのイカは互いの陣地を己がモノとするべくひたすら塗り合う。
戦況としては二宮チームが目算で60パーセントほどのフィールドを塗り尽くしており、
キルは取れているが中々敵陣地に踏み込めないでいる三輪隊チームが劣勢になっていた。
「まぁ こんなもんだよな〜 しゃあないしゃあない」
米屋もこの状況ではどうしようもないと諦めモードに入ってしまい、至上命題ともいえる〝
やられないように少し引き気味で戦っていると、不意に月見が表情を曇らせた。
「いいのかしら?そんな弱腰になっていて」
「でも ここまで塗られたら もうさすがに勝てねえすよ」
たかが遊び……。
そんな気持ちで最早勝負を投げてしまっている後輩達を見て、月見はゲーム機を握りしめて途端に饒舌に指示を出し始めた。
「
月見からの予想外の指示に3人は一瞬固まってしまうが、すぐにゲーム機を持ち直して威勢よく返事をする。
「り、了解す!」
「
「了解です!」
急に三輪隊チームが持ち直してきたことでほとんど勝ちを確信していた二宮チームも警戒を少し強める。
「今さら抵抗してくるだと……?」
「でも中央付近は大体塗り終わりましたよ? さすがにそれはないです」
「
里見が言った瞬間、前線でさらなる塗りを求めて突き進んでいた出水のイカが思い切り弾け飛んだ。
「え……?」
咄嗟のことで誰にやられたのかわからなかった出水だが、やられた相手の確認画面を目にした瞬間、出水は全てを察した。
「
「悪いな 勝ち目が薄いからって 逃げるわけにはいかないらしい」
そこから先の奈良坂の怒涛の反撃が始まった。
視界に捉えた敵を的確に撃ち抜き、弾け飛ばすその光景は〝必殺仕事人〟も真っ青な地獄絵図へとあっという間に変わっていった。
残り時間は34秒。
その勢いに乗って、米屋もラストスパートとして敵陣まで〝ホクサイ〟で一気に駆け抜ける。
「ほら こっちだぜ!」
囮役を任された米屋のあからさまな挑発にも二宮は乗る様子もなく、ただ残り時間を塗りに集中しようとしていた。
「
すると、マップの全体図を確認した出水がより効率が良さそうな方法を提案する。
「いや、中央付近には
「……時間がない
二宮と出水がインクレールを伝って、古寺に接近しようと試みる。
「
「了解……」
◆◆◆◆◆
結果、最終的に多くの陣地を取ったのは
三輪隊チームであった。
残り1分からの怒涛の塗り返しの効率が良く、月見の指示通りに動いた結果、最後の最後で勝ってしまったのだ。
「私たちの勝ちよ」
これが東の正統後継者の実力だとでもいうのだろうか。
勝負を捨てかけていたメンズの戦闘力をその采配で見事に引き上げ、世界ランク2位が率いるチームに勝ってしまったのだから。
(やべぇ……
一方、最後の最後で予想外の反撃によって敗北を喫した二宮は、申し訳なさそうに三輪に頭を下げた。
「すまない
「いや……謝罪とかはいらないので……とりあえず帰ってください」
こうして、三輪隊(隊長抜き)チームと二宮チームの壮絶?な戦いが幕を閉じた。
◆◆◆◆◆
〈2014年3月5日 PM --:-- ランク戦室〉
次の日、B級ランク戦の最終戦は文字通り、白熱したものとなった。終始、優勢だった二宮隊だったが、〝人が撃てない狙撃手からの狙撃〟や〝威力の低い射手の隠し弾〟といった予想外の展開に二宮隊は敗北した。
「……いやー これ 二宮隊が負けたの おれのせいの 可能性あるな」
ランク戦室で一部始終を見ていた出水が言った。
その隣で見ていた玉狛支部のA級隊員
「……何だって そういうもんじゃ ないすか? すべての状況で 完璧にやれる 人間なんて いないでしょ」
確かにそうなのだけども……。
少なくとも出水には〝心当たり〟かあったのだ。
昨日のバトルでもし〝力押し〟でやってたら、
今日の試合も力でゴリ押して勝っていたのかもしれないと。
「いや……たぶんそういう ことじゃ ないんだ」
(今度、
「………?」
そんな罪悪感に項垂れる出水を烏丸は不思議そうに見ていたのだった。
to be continued…