ボーダー隊員達がガチで塗りあう時が来た?   作:枝久桜

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第6話

「二宮、バイトはじめるってよ」

 

〈2014年3月6日 PM 16:16、ボーダー本部 二宮隊 作戦室〉

 

3月5日、B級ランク戦を終え、当たり前の如くB級1位となった二宮隊だが、最終戦では惜しくも玉狛第二(新人)に負けてしまった。

とはいえ、そこは王者の貫禄ともいうべきか

別段大きく落ち込む様子もなく、隊員達はオフの日ということで作戦室で寛いでいた。

 

「いやぁ、久しぶりに負けちゃったね〜」

 

のほほんとテーブルに顎を乗せる犬飼澄晴が、携帯端末を片手に何やら調べ物をしていた。

その先輩を横目に同じく二宮隊の攻撃手 辻新之助が近所のスーパーで買ってきた食玩の恐竜フィギュアを隅々まで観察している。

 

「負けてしまいましたね」

 

と、同意するように返事して、辻と向かい合わせで座っていたオペレーターの氷見亜季が昨日のランク戦の記録(ログ)を端末画面で見直しながら言う。

 

三雲(みくも)くんの最後の追尾弾(ハウンド)には驚かされましたね」

 

何故か、隊長の二宮が玉狛第二の隊長 三雲修の〝隠し追尾弾(ハウンド)〟を食らったシーンをループで見続ける氷見。

時々、別カメラから捉えた二宮の〝躱しスライド〟も見ながら笑いを堪えている。

 

そこで「そういえば…」と思い出したように犬飼が辻に言う。

 

(つじ)ちゃんは雨取(あまとり)ちゃんの〝砲撃(はじめて)〟をもらった気分はどうだい?」

 

犬飼(いぬかい)先輩 誤解を招くような ことを言わないでください それにはじめてなら 奥寺(おくでら)くんがそうでしょう?」

 

奥寺(おっくん)への爆撃は 狙ってじゃなくて 事故じゃん?やっぱ本場の砲撃は(つじ)ちゃんが初じゃない?」

 

「そうですね……すごく(威力が)大きかったですね」

 

「ごめん(つじ)ちゃん おれが悪かったよ」

 

調子に乗り過ぎた上に辻の返しが〝こんな辻ちゃん見たくなかった感〟がありすぎて途端に元気を無くす。

 

犬飼(いぬかい)先輩のセクハラ 二宮(にのみや)さんに 報告しておきます」

 

涼しい顔で上司への報告宣言をする後輩をまだ死にたくない犬飼が必死に止める。

 

「まってごめん ひゃみちゃん 許して まだ死にたくないんだよ」

 

噂をしていると、作戦室に隊長の二宮匡貴が比較的大きめな紙袋を片手に帰ってくる。毎度毎度タイムリーなタイミングなだけに3人は思わず、吹き出してしまいそうになった。

 

「お前たち 何を笑ってる」

 

二宮(にのみや)さん お疲れ様でーす」

 

「お疲れ様です」

 

犬飼(いぬかい)先輩が(つじ)くんに セクハラをしていました」

 

氷見に慈悲もなく上司へ報告された犬飼が飲もうとして口に含んだお茶を思い切り吹き出した。

 

「げほっげほっ! ちょっと ひゃみちゃん!?」

 

床にぶち撒けたお茶を拭こうと給湯スペースから布巾を持ってこようと犬飼がふと視線を上げると、二宮がまるでゴミ溜めでも見るかのような目で犬飼を見ているではないか。

 

「す すみませ〜ん……すぐ拭きま〜す」

 

そそくさと給湯スペースへ向かう犬飼を尻目に二宮が険しい表情で話す。

 

「お前たち 遊んでいる暇はないぞ…… 今期も1位だったが 俺たちは昨日のランク戦では敗北をした この敗北を糧に次のランク戦では 必ずA級に上がるぞ」

 

今期の結果としてはB級トップを守れた二宮隊ではあるものの、負けは負け。しかも相手は今期かランク戦に参戦した玉狛第二(新人部隊)と来てる。屈辱をバネに二宮は言い放った。

 

「そのため今後の方針だが 今期のランク戦で感じたことは連携の向上……そのために必要な訓練を 中心にやり 来期のランク戦に間に合わす」

 

「連携って具体的にどう強化していくんですか?」

 

今後の方針に対して辻が聞くと、二宮が空いている椅子に座りながら答える。

 

「最終戦では俺の合成弾を囮に (つじ)隠岐(おき)を仕留めた……あのような連携をさらに強化したフォーメーションの考案だ」

 

「じゃあ 選抜試験終わったら始める感じですか?」

 

ぶち撒けたお茶を床に手を付いて拭き続ける犬飼が聞くと、二宮の目の色が変わった。

 

「そうだ そして今回は それに先駆けて お前たちに〝こんなもの〟を用意した」

 

そう言いながら、持参した紙袋から雑誌のようなものを4冊取り出す。

よく見ると、4冊とも全部同じ雑誌のようで、知る人なら幼い頃に何度か見たことのある表紙。国民的キャラクター〝ドラ◯もん〟が大きく載ったその書物を犬飼と辻はよく存じ上げていた。

 

「これは……〝コ◯コ◯コミック〟ですか?」

 

隊の今後の方針について語っていたはずなのに急にゲームの話になって訳がわからなくなる3人に二宮が説明する。

 

「そうだ 〝スプラトゥーン2〟の限定ギアが付録に付いている」

 

真面目な顔をして何を言っているのかと思うところ。まさか、書店に〝コ◯コ◯コミック〟を持って並んでいたとでもいうのか、この隊長は。

 

「しかも4冊もあるじゃないですか どこから仕入れたんですか?」

 

辻の素朴な疑問に二宮はさらりと答えてみせる。

 

(ともえ)緑川(みどりかわ)から1冊ずつ買い取り あとの2冊は〝メル◯リ〟と〝ヤ◯オク〟で競り墜とした」

 

〝メル◯リ〟に〝ヤ◯オク〟だと……!?

 

その時、3人に電流走る——————。

ただでさえ、接点がまるで見られない隊員(しかも歳下)から頭を下げて買い取り、あまつさえショッピングサイトまで駆使して同じ本を4冊揃えた隊長の姿を一瞬にして想像し、3人は気持ち的にお腹いっぱいだった。

 

「まずは全員 この限定装備ギアに変え 効率的なギアのかけらを揃えにいくぞ」

 

そして、いつものように隊服のジャケットの内ポケットからゲーム機を摘み出す二宮。

 

「すみません ギアパワーってナワバリバトルで勝つ以外に どこで手に入るんですか?」

 

「今回、お前たちに やってもらうのは〝サーモンラン〟だ」

 

「サーモンラン……?」

 

サーモンランは、クマサン商会が斡旋する明るく楽しい職場です。あなたもイクラという資源を活用し、みなが豊かに生きられる社会の実現に協力してみませんか?

仕事内容は シャケを撃退し金イクラをコンテナまで運ぶだけ!

がんばればがんばるほど認めてもらえる、かんたんでやりがいのある仕事です!

(pixiv百科事典より引用)

 

真面目な話、3回のWAVEで各WAVE毎に定められたノルマとなる〝金イクラ〟をスタート地点となるコンテナまで運ぶゲーム内のモードである。

敵として〝シャケ〟と呼ばれる生物が襲いかかってくるなどランク〝たつじん〟ともなると、襲ってくる数が尋常じゃなくなるためナメてかかると本当に痛い目を見るモードである。

※書き手(被害者)個人の感想です。

 

「まあ 習うより慣れろって 言うしね まずはやってみようか」

 

と、仲間募集の画面からバトル画面に移り変わり、画面上に〝危険度MAX!〟という悪魔の7文字が表示される。

サーモンランの難易度は参加するプレイヤーの称号の平均によって基本的に決まるのだが、バイト初心者の2人を擁する二宮チームでこの難易度となると、かなり厳しい戦いになるのは間違いないだろう。〝はじめてのお◯かい〟も真っ青な出だしである。

 

二宮(にのみや)さんのランクが たつじん だから平均値的にだいぶ 難易度上昇してるんですけど……」

 

犬飼はバイトをそこそこしたことがあるので一番上のランクである〝たつじん〟より2つ下の〝いちにんまえ〟で辻と氷見は言うまでもなく一番下の〝けんしゅう〟なのだが、驚くべきはさも当然かのようにランクを〝たつじん〟にしてきている隊長の二宮である。難易度が異常に高くなった原因はおそらく……というより、間違いなく二宮がいたからに違いない。

 

しかし、無慈悲な事に1WAVE目がスタートしてしまい、3人は半ばヤケクソになりながら、まずは足元から塗り固めていく事にした。

 

「上陸してきた オオモノシャケは 俺が全て墜とす 氷見(ひやみ)は金イクラの回収 (つじ)はシャケの相手 犬飼(いぬかい)はコンテナ付近を押さえろ」

 

「了解」

 

(つじ) 了解」

 

二宮(にのみや)さん 相変わらず エグいなあ 犬飼(いぬかい)了解」

 

さすがはB級1位の隊長にして元A級1位の隊員である。たとえゲームであろうが指示の出し方が的確である。

そのおかげか辻と氷見が何度か死にかけてはいたものの、二宮の圧倒的な攻撃力と犬飼の慣れたサポートのおかげで〝はじめてのバイト〟はなんとかクリアした。

 

「よし この調子で〝ギアのかけら〟を集め この部隊のウデマエをXにまで引き上げる」

 

(ランク戦終わって 少し遊びたい気分なんだな 二宮(にのみや)さん)

「金さえあれば ナワバリバトルで スロット3つ埋めたギアを クリーニングすれば早いんだけど 2人はまだお金が 心許ないもんね」

 

今回のバイトで得た報酬を見ながら、辻がほっとしたように言う。

 

二宮(にのみや)さんが 一緒なら安全にシャケも倒せますし 俺たちがすぐに強くならなくても ギアパワーがすぐに集まりますね」

 

「それじゃ ぬるい……お前たちには俺と同じレベルまで強くなってもらう」

 

(同じレベル…!? それって何年先になるんですかね……)

 

ランク90を超え、ガチマッチのウデマエX、そしてサーモンランの称号は たつじん と来て、ここまで強くなるのに本当に何年掛かるかわからない。

しかし、それを二宮はわずか100時間以内で成し遂げたのだから、やはりボーダー隊員はすごい。

 

「そういえば 玉狛(たまこま)でも スプラトゥーン2を はじめたって 小南(こなみ)ちゃんがはしゃいでましたね」

 

「そのうち全隊員が スプラトゥーン2を やるんじゃないんですか?」

 

「あ! じゃあ(つじ)ちゃんが 強くなったら 女の子にモテるんじゃない?」

 

「その場合は 犬飼(いぬかい)先輩を真っ二つにした上で 盾にして逃げます」

 

「今日の(つじ)ちゃん なんか辛辣じゃない?」

 

すると、いつの間にか給湯スペースで4人分の茶を淹れ直しに行っていた氷見が3人の前にそれぞれ湯呑みを置いていく。

 

「それにしても ボーダーのスプラトゥーンブームって どこから来たんですか?」

 

「それは犬飼(いぬかい)先輩じゃないんですか?」

 

辻が聞くと、犬飼は大袈裟に手を振って否定する。

 

「まさか〜 おれは知ってる人にスプラ2を渡しただけだよ?」

 

「ですよね……誰からブームに火が付いたんでしょう?」

 

湯呑みを片手にほっと一息吐く氷見。

その隣で同じく湯呑みを片手に床を見つめる二宮が犬飼を途端に睨み付ける。

 

犬飼(いぬかい) 床に水気が残ってる やり直しだ」

 

「え? すいません やり直しますね」

 

「ぬるい掃除しやがって……」

 

その時だった。

二宮隊の作戦室が勢いよく開いたと思ったら、2人の隊員が転がり込むように作戦室に入ってきた。

 

「頼むよ!来馬(くるま)ぁ!レポート見せてくれぇ!」

 

二宮(にのみや)くん 助けて!」

 

なんと鈴鳴(すずなり)第一の隊長 来馬(くるま)辰也(たつや)が足元に太刀川(たちかわ)隊隊長 太刀川(たちかわ)(けい)を引き摺らせながら、二宮に助けを求めに来たのだ。

 

「……ごぼっ!」

 

まさかの来訪者に口に含んだお茶を思い切り吹き出した二宮。華麗に床にぶち撒けられたお茶。床掃除のやり直しを命じられて布巾を絞って戻ってきた犬飼の悲壮な顔。レポートが終わらずこの世の終わりのような顔をする太刀川。

 

二宮は椅子から立ち上がり、布巾を持ったまま立ち尽くす犬飼から無言で布巾を受け取った。

 

「この餅野郎……!来期のランク戦で必ず蜂の巣にしてやるから覚えておけよ」

 

「その前に忍田(しのだ)さんに3枚に卸されるんだけど!?本当に助けてくんない!?」

 

「断る さっさと3枚に卸されてこい」

 

このあと太刀川だけが普通に追い出され、残された来馬は普通にお茶をご馳走になったらしい。

 

to be continued…

 

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