8
モニタルームにいた山田先生、織斑千冬、篠ノ之箒、セシリア・オルコットはたった今不法侵入してきたISを確認していた。
山田先生はすぐさま一夏と鈴音にこれから先生達による制圧部隊を送るから、すぐさま逃げるように言ったが、一夏はまるで言う事を聞こうとはしなかった。アリーナに取り残されている生徒達が逃げるか、その制圧部隊が来るまでは持ちこたえると言っている。
山田先生はその一夏の答えに猛反撃、駄目だと強く言う。もしかしたら命か危険に晒されるかもしれないこの事態で、そんなものを生徒に任せるわけにはいかない、と。
しかし、千冬はその一夏の申請を渋々許可した。本人達がやると言っているなら、やらせる。どの道、このままでは戦おうが戦わなかろうが、一夏たちに頑張ってもらわなければIS学園が最悪な状態になる可能性が高いからだ。
あの黒い謎のIS。
学校のアリーナのエネルギーバリアをも壊すほどの威力を持っているエネルギー弾に謎の頭から足まで装甲を身につけたフルアーマーのIS。
異常事態。
その場にいた四人はそう思っていたのだ。
しかし、この場で表情を一切変えない人物がいた。
葵春樹だ。
彼はモニタをじっと見つめ、表情一つ変えずに真剣な表情で何かを考えていた。
そして、これだけの異常事態に動じない春樹を他四人の女性達は不審に思ったのだ。
普通はこれだけの大騒ぎになれば、少しでもパニックになってもいいだろう。
あの謎のISが現れたとき、箒やセシリアは当然の如く驚き、山田先生、千冬までもが焦りを見出していた。
今まで先生をやってきて、色んな事を経験してきた先生二人でも、こんな事態は初めてなのだ。普通は焦る。
しかも千冬は大事な弟がその謎のISを目の前にしているのだ。
「先生、なぜ動かないのです! こうなったら私が出ますわ。先生、ISの使用許可を!」
「却下する!」
セシリアの申し出を、すぐさま却下した千冬。
これには訳がある。セシリアと一夏は今まで特訓してきたものの、連携訓練はしてきていないし、そもそもセシリアのブルー・ティアーズはビットを使った全包囲攻撃が一番の特徴である。
しかし、この武器は複数の敵と戦う場合非常に有用であるが、一体の敵に対し、複数で相手にする場合、セシリアのブルー・ティアーズの武装はむしろ足を引っ張ってしまうからだ。
千冬はそう説明すると、セシリアはおとなしく引き下がった。今は自分の出番ではないことを理解したのだろう。そして千冬は話を続けた。
「それに、この通りだ」
モニタを指さし、
「これでは救援も送れない。アリーナ内に入れずじまいで、中に入るにはそれなりの時間が要する」
モニタには『LEVEL_4』と書いてある。これはIS学園が何らかの緊急事態に陥ったときの防災機能である。しかし、アリーナの観客席を守る為の遮断シールドが完全ロック。さらに全ての扉にロックがかかっていた。
この状況下において、ふさわしくない対応。
それは何者かが、外からこのIS学園をハッキングして、この防災機能を発動させたのだろう。しかも『LEVEL_4』防災機能の最高レベルであるが、これだけのレベルははっきり言って、よっぽどの事がない限りこれだけのレベルになる事はない。『LEVEL_4』は最終手段。外からの操作はおろか、内側からの操作でさえ解除する事が不可能になる。最後の砦だ。これを発動するとなればIS学園の一大事であろう。
これを解除するには特別な措置が必要である。専用の解除ソフトが入ったディスクが必要なのだが、そのディスクもそれを操作する装置も、今は使うことが出来ない。今は全員身動きが取れない状態にあるため、何もする事ができないのだ。
「そんな……」
セシリアはそう呟く。
そんな中、一人でこそこそと電話をしている人物がいた。
それは葵春樹。
なにかとぶつぶつつぶやいているが、少し離れた場所で電話をしているため話している内容は聞こえてこない。
だが、その顔はとても真剣で、重要な話をしていることは雰囲気だけで分かってしまう。
「よし――」
春樹のその言葉を聞いた瞬間、彼はISを起動した。
9
一夏と鈴音の二人は謎のISと戦っている。
白式のスピードを生かして謎のISの攻撃をかわし、一夏は攻撃のタイミングを見計らっていた。
零落白夜で攻撃する為に、あまり動き続けるのはよくない。白式は短期決着型であり、長期戦になれば稼動エネルギーの問題でISが停止してしまう危険があるのだ。
だからこそ、ここぞというときのために零落白夜を温存して戦うしかない。一秒でも長く零落白夜を使っていたい為、稼動エネルギーの管理を忘れなかった。
「一夏、どうすんのよあれ!」
鈴音は焦っていた。正体不明のISは声をかけても全く反応しせず、ただ私達を襲うだけ。しかも奴の攻撃は遅いながらも重さを持っていたためにこれこそ当たったら最後だろう。もしかしたら命の保障はないかもしれない。
「どうするも、アイツを停止させるしかないだろ!」
謎のISは地面まである腕には超高出力ビーム砲を装備しており、その重量のあるボディで格闘攻撃をしてくる。
格闘攻撃をしてくるときは、素早く回転しながら殴ってくる。まるでコマのように高速回転しながらこちらに向かってくる攻撃は絶対に当たるわけにはいかない。
それを受けたならば絶対防御なんてものはお構いなしに叩きつけられるだろう。ISの機能も絶対ではない。そのISの耐えうる限界を超えたならば命の保障はできなくなる。
鈴音は龍砲を発射するが、たとえ当たっても何事もなかったように接近してくる。相手はのけぞるというものを知らないのか、というぐらい硬かった。
そして一夏は思う。零落白夜でも切り裂けなかったりするのだろうか、と。
「なんなのよアイツ! あんなの倒せるの!?」
「分からない。でもやるしかないだろ!」
一夏と鈴音はこの絶望的状況に対し少しイラついていた。それは不安というものからできたものであり、それはこの二人を衝突させてしまう。
「ちょっと、何してんのよ!」
一夏は零落白夜を起動させ、無理やり謎のISに近づこうとする。
が、
謎のISはその大きな腕で強烈なパンチを放ってきた。
一夏はそれを回避するが、追撃としてビームが飛んでくる。
「っ!?」
一夏はそれ避けるが、無理な軌道でISの動きを乱してしまう。そこに更にビームを打ち込まれる一夏。彼は正直もう駄目だと思った。
しかし鈴音が一夏を庇い、体当たりで一夏を吹き飛ばす。
一夏を吹き飛ばした矢先、鈴音の目の前にはビームが向かってくる。なにか考える暇もなく、鈴音にそのビームが直撃。
鈴音はシールドエネルギーがゼロになってしまった。鈴音の
「な!? り、ん……? う、うわああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
一夏は叫んだ。こうこれ以上は出ないぐらいに。
鈴音が、やられてしまった。自分を庇って、あの高威力のビームをくらってしまったのだ。
彼は絶望する。自分の無能さに。
(なんだよ……アイツ……化け物かよ……)
一夏の顔には本当に絶望しか感じられなくなっていた。
10
「何をしている! 葵、説明してくれるんだろうな?」
いきなりISを展開しだした春樹に向って千冬は怒号する。
だが、春樹はそんな声にはまったく怖じ気る素振りをみせなかった。ただ、真剣な表情をしながらブレイドガンの銃口を千冬に向けた。
「悪いですが、どういうことかは言えません。私にはその権限がありませんから」
と言って熾天使セラフィムの武器の中で一番威力があるバスター・ライフルを取り出した。強力なビームライフルを握りしめて――。
するとモニタルームはスピーカーから流れてきた一夏の叫び声で包まれた。凰鈴音の名前をこれ以上とないぐらいの大声で。
「一夏!?」
箒はずっとこの雰囲気に押しつぶされて黙り込んでいたが、一夏の叫び声を聞くなりモニタに駆け寄った。そこには凰鈴音が撃墜され落下している光景だった。
「凰……鈴音……?」
箒は信じられなかった。鈴音は左腕の辺りが血まみれになったように見える。出血しているのだろうか、ISはここまで危険なものになってしまうのだろうか……。
そう思った箒は束のことが頭に浮かんだ。
姉がインフィニット・ストラトスなど作らなければ、こんな事になるなんてことはなかったのではないのか。もうどうしようもない現実を否定したがる箒だった。
「…………みんな、離れてろ」
春樹はいつもより低く、ドスの利いた声でそう言った。
しかし、突然の事で誰も動けなかった。
「離れろって言ってるだろ!!」
怒り狂ったような声で四人を脅した。山田先生はモニタの前でビクッと身体を強張らせ、箒とセシリアは黙ってゆっくりと後ろに下がった。そして千冬は内心どうなのか分からないが、外見はいつも通りのクールな彼女だった。
そして、バスターライフルの引き金が引かれた。その瞬間ビームが発射され、開かなくなっていたドアを丸ごと吹き飛ばした。
そして、彼はモニタルームから出て行った。
(春樹、お前は今何をしているんだ? まさかとは思うが――)
千冬は春樹が破壊した扉の向こう側をずっと見つめていた。
11
一夏は、撃墜され気を失って落下している鈴音を受け止める。
そして鈴音を見ると彼女の左腕が血まみれになっていた。
「な、なんで……。なんでこんな!! 鈴がこんな目に遭う必要性がどこにあるっていうんだよォ!!」
さっきよりも大きな声で一夏は叫ぶ。さっきの自分の何も考えていない行動で鈴音を大怪我させてしまった。
自分のせいで、自分のせいで、自分のせいで、自分のせいで…………。
一夏の頭の中ではもうそれしか考えられなかった。
小学校三年生から中学校二年生までずっと仲がよかった鈴音。
そして、ここで再会できて、大いに喜んでいた鈴音。一夏の頭の中にいままでの鈴音との思い出が蘇ってくる。そしてついに一夏は泣き出してしまった。
しかし、目の前にはまだ謎のISがいる。悲しんでいる暇などなかった。そのISは右手を一夏の方に向けてビームを撃とうとしていたのだ。
チャージしているのか、銃口に光が集まっているように見える。
そして――発射された。
一夏は鈴音を抱きかかえながら、ボロボロに泣きながら、それに気付きビームを回避した。
(そうだよ、こ、ここで、負けるわけには……いかないんだよ! 鈴が俺を庇ってこんな大怪我を負ったってなら、絶対にアイツをぶち殺す!)
一夏の目は涙は流しているものの、目の色が違った。目の前にいる敵をぶち殺す。そういった殺気が溢れていたのだ。
ビーム攻撃をかわしている一夏。しかし、鈴音を抱きながら戦闘を行えるはずもなく、ただかわすだけしか出来なかった。
敵は接近して格闘攻撃をしてくるが、白式の持ち前のスピードで距離を取る。
(くっ、これじゃあ攻撃も出来ない……。でも鈴を適当なところに置いてくるわけにもいかないし……どうすればいいんだよ!)
このままじゃジリ貧だ。いつまでもかわし続けるなんてことは出来るはずもない。
一夏も今まで鍛えてきたとはいえ、限界はあるし、ISにだって稼動エネルギーを失えば動かなくなる。
正直、一夏は気を張る戦闘が続いて集中力が失いかけてきているのがわかる。
このままじゃ、死ぬ。
そう思った矢先の事だ、何度距離を取ろうが接近して格闘戦に持ち込もうとする謎のIS。そしてちょっとした気の緩みで奴のパンチを食らいそうになった。とてもごつく、大きな拳。それをくらうという事は――。
一夏は目の前に巨大な拳が見えた時点で、一夏は覚悟した。俺はここで死ぬのだと。
その瞬間、一夏の目の前にオレンジ色の一閃が上から下へと貫いた。そして、目の前の謎のISの腕が若干溶けていた。
「すまんな、一夏。遅くなった」
一夏の頭上には葵春樹が白い翼を広げてそこにいた。彼の手には大型の黒いビームライフル、バスターライフルが握られていた。
「じゃあ一夏、お前は休んでろ。鈴のことよろしくな。で、出来ればでいいが、俺の戦い、よく見てろよ」
春樹はバスターライフルを量子化し、剣であるシャープネス・ブレードを取り出した。そして、一夏の武器も長刀である。
(ま、まさか、良く見てろって……そういうことなのか?)
春樹がシャープネス・ブレードを取り出した理由。それは一夏には近接戦闘のやり方を見ていろということだ。
彼は謎のISにシャープネス・ブレードを握り締めて向かっていった。
敵は大きな拳で反撃に出ようとするが、その拳のところにはもう春樹は居なかった。どこにいるのかといえば敵ISの下にいたのだ。
パンチが当たる瞬間、推進剤の噴射をやめて翼をたたみこむ。そうする事で自身の身体は急降下。その行動で敵ISの攻撃を回避して、下から敵ISを切りつけた。
しかし、その攻撃は大したものにはならなかった。
実体剣・実弾の武器はあまり効かないのではないか、と思った春樹はシャーネス・ブレードのエネルギーを展開し、レーザーブレード化した。
これにより、切り裂けなかった謎のISのボディも切り裂けるはずだ。
「よし……。じゃあ、お前を破壊する」
謎のISはビーム攻撃を右、左へとかわし、敵ISに近づく。そして接近戦闘をする。という同じパターンが続いているのだ。
しかし、それは全く持って無駄がなく、強いのは確かな事であるが、そこからチャンスは廻ってくる。
もう春樹は何をするべきなのか、もう分かっていた。
右腕のパンチを最小限の動きでかわし、剣を勢いよく振り、右腕を切断した。
(なんだよ、あれ……シールドは? ISって操縦者の安全は確保されるんじゃないのかよ……? 何なんだよ、この状況は!?)
通常、いや、ISというものはすべてシールドエネルギーと呼ばれる不可視のエネルギーによってその身体を守られている。
そのエネルギーがなくならない限り、そのパイロットは無事でいられるのだ。
だが、あの謎のISにはそれがない。一夏と鈴音はあのISに攻撃を全く通していない。なら、シールドエネルギーは存在するはず。それがある限り、腕を切断することなんて不可能なはずだ。
何かがおかしい。
そう思いながらも一夏は鈴音の事を地面に下ろして鈴音の事を見守りながら、同時に春樹のことも見ていた。
そして、また一旦距離を置き、さっきと同じ動きで左腕も切断した。
この謎のISは同じ事にひっかかっていた。全く同じ事をされて左腕を切断されたのだ。何かがおかしい。一夏はそう思っていた。
(もしかしたらあれ、人が乗ってない? いや、それはありえない。AIで動いているISだなんて聞いた事がない。じゃあ、そもそもあれはISではない?)
そして、春樹はついに敵ISの両足を切断したのだ。また、同じ事に引っかかる敵IS。そして最後の仕上げに敵ISのスラスターなど、推進剤を噴射するものを全て破壊していき、敵ISは全く動けなくなってしまった。
人が乗っているとしたらあのような単純な動きではないはず。しかもIS学園を襲ってきたような存在だ。単純な動きしかできないような素人がそのような事をするはずがない。
では、やはりあれは人が乗っていないのだろうか。またもやISではない別のなにかなのだろうか?
一夏は色々と思いこんでいた。この不思議な光景を目に焼き付けながら。
(あ、あれ……もう……だめだ……)
そして一夏は体から一気に力が抜けて行くのを感じ、眠ってしまったのだった。