ISを改変して別の物語を作ってみた。   作:加藤あきら

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第二章『紅の鎧 -Answer-』《ありがとう、姉さん》

  3

 

 一夏はシャルルと廊下を歩いていた。

 

「一夏、今日のISの練習は?」

「今日は箒とセシリアが二人で練習するらしい。春樹もなんか用事があるみたいでいないし……」

「じゃあ、今日は僕と一緒に練習しない?」

「ああ、いいぜ。シャルルがいて助かったよ。このままじゃ、練習相手がいなくて困るところだった」

 

 シャルルは一夏と一緒に練習する事になって嬉しそうな顔をしていた。

 すると、とある少女数人がアリーナに向かって走っていく。なんか、アリーナで専用機持ちが模擬戦をやっているらしい。

 

 専用機ということは、用事でいない春樹と現在入院している鈴音、そして一夏とシャルルを除けば、セシリアとラウラ、そして四組の四人だけである。一体誰がやっているのか気になった一夏はアリーナへと走った。それについていくシャルル。

 

 そしてアリーナで戦っていたのは箒とセシリア、ラウラの三人だった。

 箒とセシリアは目を合わせると共に頷いてラウラに箒はブレードを持って突込みに行き、そしてセシリアは距離を取って箒を援護する作戦のようだ。

 

 まずは箒のブレードによる一振り、これは勿論かわされる。しかしかわした先には、セシリアのビット兵器、ブルー・ティアーズがあった。そこからレーザーが照射されるが、その攻撃がラウラには届かなかった。

 

 ラウラは余裕の表情である。

 

「なんだ、今のは!?」

 

 箒は驚きの声をあげた。ビット兵器、ブルー・ティアーズから放たれたレーザーはラウラにヒットする直前に消滅したのだ。彼女が右手を前に出すのと同時に。

 

「Directed_Energy_Cancellerか……」

 

 シャルルは呟いた。

 

「なんだ、そのダイレクティド……なんちゃらって?」

「ダイレクティド・エナジー・キャンセラー……通称“DEC”。これは指向性エネルギー兵器の攻撃を無力化する装備。恐らくこの新装備をIS学園でテストを行ってるんだろうね」

「そうなのか……セシリアの装備のほとんどが無効化されちまうってことになるな」

「うん、セシリアさんがラウラ・ボーデヴィッヒに対抗するには残りのミサイルが発射できるブルー・ティアーズ、二基と実剣装備のインター・セプターぐらいしか彼女にダメージを与えられない」

「でも、弱点はあるんだろ?」

 

 一夏がニヤついてシャルルに問う。

 

「うん、もちろん。それを、箒さんやセシリアさんが気付くかどうかにかかってるけどね」

 

 セシリアは今のが何なのか理解していた。ダイレクティド・エナジー・キャンセラーが自分のISと相性が絶望的に悪い事を。

 ブルーティアーズのミサイルを発射するが、弾速が遅すぎてまず当たってくれなかった。

 

 こうなったら近接戦闘用ナイフ、インター・セプターを使用するしかない。そう思ったセシリアは短刀、インター・セプターを展開し、箒とともに近接戦闘を試みる。

 

 しかし、ラウラのISは近距離から中距離を得意としている。セシリアが近接戦闘に加わったところでどうしようもなかった。第一近接戦闘はあんまり得意ではないのだ。やるだけ無謀だって事は彼女が一番分かっていた。

 

 だが、プライドの高いセシリアがあれだけ挑発されて黙っていられるわけがなかった。

 

 そして、箒はISの機体性能の差に絶望していた。

 しょせん量産機の打鉄である。専用機としてチューンされたISの前では歯が立たなかった。

 ラウラのISは機動力、防御力、そして武器の火力をも遥に量産機を上回る。

 箒ははっきり言って基礎が完全に出来上がっており、土台がきちんと出来ている。これも春樹との練習のおかげだ。

 

 しかし、目の前のラウラには勝てる気がしなかった。

 

 勝ち目は無い。そう思ったのだ。

 

 近接戦闘用武器のブレードを握り締め、剣道で蓄積された技術を最大限に活用しても、軽く受け流されて反撃を受けてしまう。

 

 セシリアと箒の二人はラウラの攻撃を前に後方へ大きく吹き飛ばされた。

 そしてラウラはワイヤーブレードを発射。無数のワイヤーがセシリアと箒の方へ飛んでいく。彼女達は受身を取っていてすぐには次の動作に移れなかった。

 

 そして、ラウラの発射されたワイヤーブレードに捕まってしまい、喉元を拘束される。首が絞められる状態だ。

 

 ISの防御機能で息が出来なくなることはないが、苦しさは少なからず感じる。

 

「今度はこっちの番だ!」

 

 ラウラはそう大きく声を出してセシリアと箒の二人を自分の下へ引き寄せる。

 そして、二人をボコボコに殴ったり、蹴ったりしたのだ。しかもその加減は度を越えていた。下手をすれば命が危なくなるほどに。

 二人のISはの装甲は限界であった。このまま行くとシールドエネルギーが0になるどころか、ISに致命的な損傷が起こるし、何より彼女達の命が危険だった。

 一夏はそれを見ていて、憎悪した。これ以上はヤバイと思った。

 

「なんだよ……何やってんだよ……。やめろおおおおおお、ラウラァァァアアアアアアア!!」

 

 アリーナのバリアを叩き、叫ぶ一夏。しかし、アリーナのバリアは素手で叩いたところで割れるはずもないし、ラウラも一夏の発言に耳を傾けることもないだろう。

 

(そうだ、零落白夜でこのバリアを切り裂けば……)

 

 そう思った一夏は右腕の白いガントレットを見つめて、心で念じた。

 

――来い、白式(びゃくしき)

 

 と……。

 

 すると一夏は白式に身を包まれ、そして右手に持っている剣、雪片弐型を強く握り締めて、そして零落白夜を発動させた。

 雪片弐型は半分に割れて、そしてその間からエネルギー系の刃が出てくる。

 

 白式の稼動エネルギーが減っていく中、一夏は目の前のバリアを切り裂き、破壊する。そして、そのままラウラの方へ飛んでいった。

 

「お前はあああああああああああああ!」

 

 一夏は叫んでラウラに斬りかかる。しかし、ラウラのダイレクティド・エナジー・キャンセラーを前に、零落白夜でさえも無力化されてしまう。

 

「なんだ、好きな女が殴られ蹴られしてるうちに頭に血が上ったか? 沸点の低い奴だな……」

「離れて、一夏!」

 

 シャルルがオレンジ色の機体、ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡを身に纏い、そして、一夏がそこから離れた瞬間に実弾系の武器でラウラを狙撃した。

 

 実弾系はダイレクティド・エナジー・キャンセラーでは防ぐことが出来ない。仕方がなく、ラウラはそこから動いてその攻撃をかわした。

 

 ワイヤーブレードの拘束が解け、さらにシールドエネルギーが〇になった為にセシリアと箒の二人はISがその身から外れ、その場に倒れこむ。

 専用機のブルー・ティアーズは量子化され、量産機の打鉄をその場に倒れこむようにして機能を停止、身体を固定する固定具が外れた。

 一夏はその隙にセシリアと箒を回収、そして持ち前のスピードでラウラの砲撃をかわし、先ほど切り裂いたアリーナのバリアへ向かい、アリーナの観客席の中に二人を入れた。

 

「すまないな、一夏……」

「ごめんなさい、一夏さん……」

 

 二人は身体の痛みを我慢しながら一夏に謝った。

 

「大丈夫だって、謝る事はない。お前らはそこで横になってろ。いいか?」

 

 二人は肯定の返事をしてアリーナの方へ戻った。

 その時だった、シャルルがラウラのワイヤーブレードに捕まり、そしてプラズマ手刀の攻撃を受けそうになっていたのだ。

 

「シャルル!」

 

 一夏は急いでシャルルを助けようとその白式を加速させた。しかし、距離的に間に合いそうになかった。

 そのときであった。そこには懐かしきISがそこにあったのだ。

 

 暮桜(くれざくら)

 

 織斑千冬の専用機であり、世界一になった機体。

 

 そしてそこにはもう一人、もう見慣れた……白くて美しい、しなやかな翼がとても特徴的なその機体、葵春樹の熾天使(セラフィム)であった。

 千冬は雪片でラウラのプラズマ手刀を受け止め、そして春樹はシャープネス・ブレードでラウラの首元に押し当てていた。

 

「ラウラ、動くなよ。動いたらこれでお前を斬る」

 

 春樹は小さくラウラに警告した。

 

「きょ、教官……。春樹も……」

 

 ラウラは驚きの声を上げる。

 彼女は諦めたように体の力を抜いた。

 千冬も身体の力を抜き、楽な姿勢に入った。そして、全員に聞こえるように大声で警告をする。

 

「模擬戦をやるのは構わん。だが、アリーナのバリアを壊したり、過度な攻撃を繰り返すその行為は教師として黙認しかねる」

 

 誰もが黙り込んだ。千冬が言っている事は誰もが理解できる。そしてそう指摘され、自分の過ちにようやく気付く事が出来たのだ。

 一夏も二人を助ける為とはいえ、アリーナのバリアを壊すのはちょっとまずかったとは今になって思った。

 

「この戦いの続きは、学年別トーナメントでつけてもらおうか」

「教官がそうおっしゃるのなら……」

 

 ラウラはそう言ってISを解除する。

 

「織斑、デュノアもそれでいいか?」

「あ、ああ……」

「教師にははいと答えろ、馬鹿者が……!!」

 

 一夏はそのときの千冬の目を見ると、いつにもない凄く怖い感じの目だった。その目には一夏、そしてその周りの人でさえ、後ろに一歩下がってしまうほどの迫力があった。

 

「僕も、それで構いません」

 

 シャルルは淡々と返事を返した。

 

「よし、学年別トーナメントまで貴様らは私闘の一切を禁止とする。解散!」

 

 

  4

 

 

 保健室ではセシリアと箒が横になっていた。ラウラの攻撃によって少々の怪我をしたからだ。その怪我はISのおかげでそこまでの怪我はなかったが、痛みは少しあるみたいだが、少し安静にしていれば治るらしい。

 

 だが……。

 

 セシリアのブルー・ティアーズは損傷が酷く、修理しないと使い物にならないらしい。しかもその修理は最低でも一週間はかかるらしく、学年別トーナメントには間に合わない。よってセシリアはそのトーナメントに出ることが出来なくなってしまった。

 

 一応、用意されている量産機を使えば出れない事はないのだが、使い慣れない機体を使っても結果は見えているし、それにより変な感覚を身体に覚えこませてもまずかった。

 

「一夏さん、箒さん、春樹さん、私の分まで、戦ってください。そして、あのラウラ・ボーデヴィッヒを……」

 

 セシリアは弱々しく三人に頼んだ。

 三人は無言で首を縦に振りうなずく。

 そして。

 

「春樹、頼みたいことがある。残り五日間で、出来るだけ私を強くしてくれないか? 前出した春樹の宿題……強くなりたい理由、見つけたぞ」

 

 あの、クラス代表対抗戦の前に皆で練習しているときに春樹から出された宿題。“自分が強くなりたい理由を考える”というものの答えがようやく見つかったのだ。

 

「私は、ラウラのような奴に力の使い方を教えられる強さを手に入れたい。あのラウラに、教えてやりたいのだ」

「そうか、分かった。じゃあ、明日から練習を始めるぞ。だから、早く寝て身体を早く治しておけ」

 

 そう言って春樹は保健室から出て行った。

 そして廊下に出るなり携帯電話を取り出した。電話の相手は――篠ノ之束だ。

 

「もしもし、束さん? 頼みごとがあるのですが。紅椿(あかつばき)を明日までにこっちに届けてくれませんか? コアはとりあえず適当なの積んでくれれば問題ないありませんから――。え? 見つかったんですか!? なら話は早い。予定を早めます。紅椿を箒に使わせようと思います。もちろん、機能制限(リミッター)はかけておいてください。……はい、それでは」

 

 そして、電話を切った春樹は、今日自分の部屋へと戻ることはなかった。

 

 

  5

 

 

 次の日のことだ。

 

 IS学園に一つの贈り物が届いた。それは昨日春樹が束にここまで送っておくよう頼んでおいたIS、紅椿(あかつばき)である。

 

 それを春樹と千冬と箒はこの学園のアリーナのピットの方へと専用の車を使って運び入れ、そのISの金属製の大きなカプセルを開ける。そこから現れたのはどこまでも紅い、真紅のISであった。

 

「これが、私の機体……。紅椿か」

 

 箒はまじまじと目の前のISを、まるでISを初めて見るかの様に細かく隅々まで舐め回す様に見る。箒は正直見とれていた。これが自分の嫌う姉が作ったというのに、そんなことも忘れて目の前のISに惚れていた。その美しいフォルムに。

 

「そう、これが箒のIS、紅椿だ。デザインと機能面の案は俺。実際に製作したのは束さんだ」

「え、春樹もこのISに関与しているのか?」

「ああ。このISはお前の為に用意したものだ。本当はもう少し後、箒がもっと強くなったら渡そうかと思っていたんだが……もう待つ必要なんて無かった。箒はもう強い。立派なIS乗りだと判断したからな。あと、本当に必要なときが来てしまった、っていう理由もあるけど」

 

 箒は昨日、春樹が望んでいた答えを出してくれた。“強くなりたい理由”を春樹が望む形で答えてくれた。それが大きな理由だろう。

 大きな力を手に入れるとき、人はそれをどう使うのか、それによって状況が大きく変わってくる。良いことに使えば、人々に喜んでもらう事もできる。

 

 だが、悪いことに使えば人を悲しませてしまうだろう。だから箒にはその“強くなりたい理由”を聞いた。

 

 そして、箒は誰かの為に大きな力を必要とした。だから春樹は急ピッチで紅椿という大きな力を用意させた。箒によってラウラを止めてもらう為に。

 

「さて、篠ノ之。早く紅椿を装着しろ。フォーマットとフィッティングを終わらせて、お前の機体にしなくてはならないからな」

 

 千冬は箒にISを早く装着するようせかせる。千冬にしても、ラウラのやっている事を止めてやりたいのだ。

 

 だが、彼女がやっている事は春樹や千冬が直接説教しても解決にはならないだろう。なぜなら、千冬と春樹は過去にドイツ軍基地でその自身の強さを見せ付けている。だからこそ、自分達の事は無視されてしまうだろう。

 

 しょせん、力ある者の話でしかない。それに彼女は勝利を求めている。異常なほどに。その理由は恐らく三年前に自分の隊の隊長が殺されたからだろう。

 だから、春樹や千冬がラウラをISでボコボコにしたとしても何の解決にもならない。ここはラウラ自身も初めての相手に叩きのめしてもらうしかないのだ。

 

 それにラウラは個人的に一夏を恨んでいる。その原因である千冬が何をやったとしても更にラウラは一夏への憎しみが増すだけだろう。

 

 ラウラがどんな理由で一夏を恨んでいるかはわからない。一応理由は話してくれたのだが、それだけが全てではないと思われる。何せ、あの言葉だけでは彼女の奥底の気持ちは分からない。

 

 箒は紅椿を身につけると、網膜投影された画面を凝視する。この機体のスペックを確認しているようだったが、彼女の顔は驚愕にかわるまではそう長くはかからなかった。

 

「これは……こんな高性能な機体……」

「誰が作ったと思ってんだよ、俺とお前の姉だぞ。今回ばかりは姉に感謝しなくちゃなぁ、箒?」

 

 春樹は箒の疑問に答える。

 箒は流石に春樹の言う事に賛成せざるを得なかった。今回ばかりは自分の姉、篠ノ之束に感謝しなくてはならない。正直、自分の夢を断ち切った姉は許せない存在だが、仮にも実の姉、家族なので本当のところ嫌いでもないかもしれなかった。

 

「そうだな、姉さんには感謝せねばなるまい。春樹、今度姉さんに会うことがあったら言っておいてくれないか? 妹が感謝していたと」

 

 すると、春樹はニヤリと笑って、

 

「いや、その必要は無いだろう。自分で言うんだな」

 

 すると、春樹の持っている携帯端末の画面を箒に見せ付ける。そこには篠ノ之束が映し出されており、画面の向こうの束は箒を確認するなり、

 

『やっほ~、箒ちゃん久しぶり。元気してた~?』

「姉さん!?」

 

 やはり箒は驚いた。春樹は予想通りの反応ですこしニヤケてしまった。

 

『あまり長くは話せないから、手短に説明するね。箒ちゃんの専用機、紅椿は私と春樹の二人で製作したんだよ。まぁ、実際のところ他にも協力者である整備士の人たちに手伝ってもらったりしたけどね。っと、そこは置いとおいて。その紅椿は“第四世代IS”なんだよ』

「え……今、何と言いましたか?」

 

 これまた箒は予想通りの反応を示した。

 ISは現在、第三世代ISの研究が主流となっている。

 

 第一世代とは一番最初に、篠ノ之束が開発した、いわゆる雛型のISの事を指している。

 

 次に第二世代とは、そこから進化して後付けパーツによって多様化が可能になったISを指している。

 

 そして、現在研究されている第三世代のISとは、操縦者の思考による操作――イメージ・インターフェイス――を使ったISの装備開発が主となっており、詳しく言うと、これはISのコアを最大限に使用した装備の開発ということだ。

 

 例を挙げるとすれば、セシリアのブルー・ティアーズだろうか。

 あれは操縦者の思考によってビットを操作するようになっている。端的に言えば、そういった思考による攻撃を可能にするのが、第三世代ISの研究である。

 

 このような、まだまだ研究の余地ありという状態で、第四世代ISの存在はあってはならないものだろう。それなのにここには第四世代のISがある。そう聞いて驚かない人などいないだろう。

 

 実のところ、箒のフォーマットとフィッティングのサポートをしている千冬も驚いているのだから。

 

『ふふふ……驚いてるねぇ、ちーちゃんも良い顔してる。まぁ無理も無いよ、まだ第三世代を研究している最中に第四世代だからね――』

 

 その第四世代IS、紅椿は、全ての距離、攻撃・防御・機動。全てにおいて即時対応、つまり、装備の換装なしで対応できるように製作されたのが第四世代ISであり、それが紅椿である。

 

 しかし、問題点がいくつかある。それは世界中に第四世代が作られたと知られれば、篠ノ之箒の身が危うくなる。どの国に属すのか、それを巡って争いの火種になりかねないのだ。そしてその製作者は誰なのか解答を求められるだろう。

 

 篠ノ之束が命を狙われていることが分かっている今、表舞台に彼女を出すのは非常に危険である。

 箒もそのことは前に話しているので、紅椿の製作者については解答できないだろう。そうなれば、箒の存在はどうなるのか……。IS国際委員会に目をつけられ、身を拘束されてしまう危険性もある。

 

『だから紅椿には機能制限(リミッター)が設けられているんだよ。そのスペックでも結構性能を落としているんだよね』

「これで性能を落としているんですか? 信じられない……」

『それでも結構性能が高い専用機程度だから、目をつけられる事は無いと思うよ。詳しく調べられない限りはね。だからあんまり目立ちすぎないように』

 

 すると、春樹はそこに口を挟み、

 

「束さん。それ、これからやること分かってて言ってます?」

『まぁ、箒ちゃんも専用機手に入れたのかぁ、お姉さんが関与してるのかな? って思われる程度にしておいてねってこと。分かった?』

 

 春樹と箒は「はい」と返事をする。すると、フォーマットとフィッティングが終わり、箒の網膜投影された画面には『フォーマット・フィッティング完了』の文字が表示されていた。

 

「よし、これで終わりだな。では篠ノ之、春樹と模擬戦形式で試合をしてこのISに慣れて来い」

「了解」

 

 箒はそう言って、ハンガーから出ようとすると、春樹は箒を呼び止める。

 

「箒、早く紅椿を動かしたい気持ちは分かるが……ほら、お姉さんに何か言うことは?」

 

 箒は嫌というよりは少し恥かしい感情を抱き、顔を赤らめる。彼女は春樹が持っている携帯端末に映し出された束をチラッと見ながら、

「ありがとう、姉さん……」

 

 と、ボソッと言って、顔を赤くしながらハンガーを出て行った。

 その反面、束はとても嬉しかったらしく、物凄い笑顔になっている。春樹はそのまま画面を自分の目の前に持って行き、束との会話を再開する。

 

「束さん、とても嬉しそうですね」

『当たり前だよ。離れ離れで嫌われていた妹に感謝の言葉を言われれば、そりゃ嬉しいよ!』

「やっぱり……家族って良いですね……」

『春にゃん…………

 

 春樹は両親を失っている。過去に事故死、という風に聞かされている彼だが、実際にその事故現場を見たわけでもなく。ただ、警察の方から事故死ということを聞いただけだった。

 

 それが事実かどうかは分からない。ただ言えることは……春樹は両親の愛情を短い時間しか注いでもらっていないということ。春樹の両親が死んだのはほんの五歳の頃であり、ものごころがついてきて親に甘えたい時期。そんな頃を彼は両親なしで生きてきた。

 

 さらには彼には親戚筋というものがいなかった。

 だが、そんなときに手を差し伸べてくれたのは、お隣の織斑家の織斑千冬と織斑一夏だった。織斑家の二人も同じような境遇で両親がいない。だから同じような境遇同士、協力し合って生きていこう。という事になり、それからは一夏と一緒に暮らしてきた。

 

 春樹が織斑家にお世話になる際、それを維持できる程の経済力など、五歳児にはなかったので、家を売り払った。

 

 だから、春樹には実家というものはない。いや、織斑の家が実質の実家ということになるだろう。千冬も一夏も、春樹のことは家族だと思ってくれている。それだけで春樹は嬉しかったのだ。

 

「いや、ごめんなさい、なんかこんな空気になっちゃって。それから、その春にゃんってのやめてくださいよ」

『うん…………。でも、やめない!』

「まったくもう……。じゃあ、俺はこれで。箒と模擬戦に行ってきますから」

『うん。じゃあね』

「はい」

 

 春樹はテレビ電話の通話を切り、携帯電話をポケットにしまう。

 そして春樹は制服を脱ぎ、下に着ていたISスーツの姿になり、春樹は自分のIS、熾天使(セラフィム)を展開。そこには特徴的な美しい白い翼が広がっている。

 

 春樹は千冬に挨拶をすると、ピットから飛び出し、そのまま近くのアリーナに飛んでいった。

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