ISを改変して別の物語を作ってみた。   作:加藤あきら

19 / 79
【9月30日】
時系列整理を行いました。
設定のミスが発覚。
ラウラに関する事件について、“三年前→二年前”に変更。

【13年9月29日】
ブルー・ティアーズの武器をビーム兵器からレーザー兵器に変更。
原作通りにしました。
ラウラのシュヴァルツェア・レーゲンの装備『チャージド・パーティクル・キャンセラー(オリジナル)』はセシリアのレーザー攻撃を無効化できるのと噛み合わなくなってしまうので、エネルギー系の攻撃を無効化する『ダイレクティド・エナジー・キャンセラー(オリジナル)』に変更。
箒の紅椿のビームの斬撃を、原作通りエネルギー刃という表現に変更。


第三章『赤と黒 -Correction-』《お前は間違っている!》

  1

 

 学年別トーナメント当日。

 今、箒と春樹はトーナメント表を見ているが、それを見た瞬間、二人の表情は驚愕に変わった。

 

 なんと、第一回戦、箒のその相手は――ラウラ・ボーデヴィッヒであったのだから。

 

「なんという組み合わせだ……。だが――」

「好都合だ、ってか?」

「ああ、そうだな」

 

 箒は今日の学年別トーナメントのために必死に練習してきたのだ。箒の専用機、紅椿(あかつばき)と共に。

 

 その練習はとてもつらいものであった。たった五日間で箒を現役の軍人相手に対等に勝負できるほどに鍛え上げなくてはいけないからだ。

 早朝に練習をし、授業を受け、そして放課後周りが暗くなり、アリーナが使用禁止になる時間まで練習を続けてきた。

 ちなみにこの練習は極秘に行われてきた。箒たちが使っていたアリーナは千冬が監督し、他の生徒達をそのアリーナには入れさせなかった。だが、これも箒の専用機の事を他の生徒達に知らせない為で、あまり“噂”という形で紅椿のことを口外して欲しくなかったということもある。

 

 いずれ見せるときは来るのだが、噂という形で広まれば、変な間違った情報 まで流れてしまう可能性も無きにしもあらず。

 

 さらに、箒が専用機を持った、という情報が流れれば、アリーナには人だかりが出来てしまうだろう。そんな状況で練習もあったものではなく、真剣な練習が駄目になってしまう。だからこそ、春樹と二人だけの空間で時間をめいいっぱい使ってもらっていた。

 

 千冬は職権乱用ではないのか、と言われるだろうが、それも束との協力関係にあるからであり、そうでなければここまではしないだろう。彼女もラウラの事は心配なのだ。だからこそ、箒にはラウラを倒して欲しい、そしてラウラに本当の力の使い方を見せ付けて欲しい、と、そう思っているのだ。

 

「しっかし、一回戦からとは……。千冬姉ちゃんが裏から手を回してたりして」

「ははは、考えられるな」

 

 箒は笑い、そしてすぐ近くにはラウラ・ボーデヴィッヒの姿がある。それを確認した春樹はこう思った。

 

(ラウラ、なぜこんな風に……。エルネスティーネさんに隊長と認められ、専用機を授かったのに……なんでこんな……)

 

 彼女は間違った道を進んでいる。確かに、春樹は自分が正しいと思うことをやれとは言った。だが、たとえそれが自分が正しいと思ったとしても、他の人がそれを認めなければ正しい事とはならない。逆に言えば、他人に認められて、ようやくその自分で考えた事が正しくなるということである。

 

 しかし、彼女の考えを正しく思う人などいない。彼女は勘違いしている。恐らく口で言ってもわからないだろう。

 

 だから、この学年別トーナメントを利用して、自分の正義をラウラにぶつけてもらうことにした。力とはどうあるべきなのか、どういう風に使えばいいのかを教えるために、箒には頑張ってもらわなければならない。

 

 箒も春樹の目線に気がつき、ラウラ・ボーデヴィッヒの姿を確認した。箒が彼女に目を向けると、それを察知したのかラウラは箒にニヤリと笑って人ごみにまぎれて何処かに行ってしまった。箒は舌打ちをして、春樹に話しかける。

 

「春樹、ラウラ・ボーデヴィッヒとは昔知り合ったんだったな。そのときはどんな奴だったのだ?」

 

 春樹は言っていいのかと、少し悩んでから、

 

「ラウラは……、アイツは最初は落ちこぼれだったよ。隊の中でも最弱のな」

 

 箒はその言葉を受けて衝撃を受けた。でも、よくよく考えてみると当たり前の事である。誰だって最初は弱いものだ。だが、“人は99の努力と1の才能”とはどこかで聞いたようなフレーズだ。それもそのはずで、人は誰だって弱いところから努力して這い上がっていく。そして、その努力で何かが出来てこそ、その努力は意味のあるものになる。

 

 だが、ラウラ・ボーデヴィッヒは違った。彼女はその“99の努力をその1の才能(ひらめき)”で水の泡にしようとしている。

 

 あれが、彼女なりの正義だったとしても、周りの人間は誰一人として彼女の行いを認めていない。完全にラウラは一人歩きをしてしまっている。

 

「どうしてあんな風になってしまったのか、何か分かっているか?」

 

 箒の質問に、またしても春樹は良く考えてから言う。

 

「ただ言える事は、ラウラは今、復讐心と嫉妬の両方がごちゃごちゃに混ざり合って何が良くて何が悪いのか、その判断が出来ていないということ。だから箒、アイツを目覚めさせて欲しい。それが、俺が今箒にできるお願いだ。やってくれるか?」

「ふん。春樹、私たちは何の為にいままで練習してきた? やってみせるさ、その願い、必ず叶えてやる。だから春樹は安心して待っていればいい」

 

 そのときの箒の表情はとても頼もしく、春樹は箒に任せても大丈夫だとそう確信したが、逆に不安も覚えた。もし、ラウラとの戦闘中に何らかの襲撃があったらと思うととても不安になる。

 

 この前の鈴音と一夏との試合中に起きた謎のISの襲撃によって鈴音は大怪我をしてしまい、今は入院中だ。そんなことがもし箒やラウラの身に迫ったらと思うととても不安になる。

 そんなこともあったからか、春樹はとても不安だった。なにか、いやな予感がして……。

 

「箒、俺は織斑先生のところに行ってくる。箒は試合前だし、一人で精神統一でもして気持ちを落ち着かせたりしてなよ」

「うん、分かった」

 

 春樹はその場から立ち去り、箒とはいったん分かれることになった。

 そして、春樹はそのまま千冬がいるであろう、試合が行われるアリーナのモニタルームへと向かう。生徒が続々とトーナメント表を見に、アリーナの方へと歩いていくのに対して、春樹は逆方向へ向かう。

 

 春樹は階段を上り、一般生徒の観客席とは少し高いところにあるアリーナのモニタルームへと訪れた。

 ドアをノックし、入室の許可を貰うとそのモニタルームに足を踏み入れる。そこには千冬一人しかいなく、目の前にいる千冬に挨拶をする。

 

「織斑先生、少し話したいことが……」

「なんだ、葵。急用か?」

「そうですね、急用と言っちゃ急用です」

「話せ」

「はい。この後の箒とラウラの試合、もし何かがあれば……すぐに俺をアリーナに乱入する許可を与えてくれますか?」

 

 千冬は春樹の顔をじっくりと見てから。

 

「何か起こるのか?」

 

 千冬は少し小さめに声を発し、春樹に尋ねた。

 

「いえ、まだ何か起こるのかはわかりません。ただ、専用機持ちがこのタイミングで二人もこの学園に来るなんて不自然にも程があります。俺の見る限り、ラウラ・ボーデヴィッヒ、またはシャルル・デュノアの両名に関わる事には何かが起こる可能性があり、先日の鳳鈴音と一夏の試合の事から、この試合で何かが起こる可能性は大いに考えられます」

 

 千冬は右手を顎へと持っていき、考えるポーズを取る。

 

「確かに、その可能性は否定できないな……。よし、分かった、許可しよう。ただ、迅速に対処をお願いしたい」

 

 すると、ドアがいきなり開き、春樹と千冬の二人は慌ててドアの方を見る。そこには山田真耶がそこにおり、春樹と千冬は安堵した。

 

「あのぅ……何かマズイところに私来ちゃいましたか?」

 

 千冬は微笑して、

「いや、大丈夫だ。では、春樹はいつでも出れるところに待機していろ」

「分かりました」

 

 春樹は山田先生に挨拶をしてから、モニタルームを後にする。

 

(もし、この試合で何かがあったとすれば、暗部組織の仕業に違いない。ただ言える事は、何故このIS学園を狙うのか、だ。あのときの奴らは束さんの命を狙っていた。なのに何でわざわざこのIS学園を狙う? 狙いは両方なのかあるいは……束さんの命を狙う奴らとまた違った組織なのか、だ)

 

 春樹はそのままアリーナの選手待機のピットの方へと向かった。

 

 

  2

 

 

 第一回戦第一試合。

 

 ラウラ・ボーデヴィッヒ対篠ノ之箒、その火蓋が切って落とされた。

 そして、会場は箒が装備している専用機に驚きの声をあげていた。その真紅の機体、紅椿(あかつばき)に対し、なぜ彼女が専用機を持っているのか。やはり、篠ノ之束の妹だからなのだろうか、と騒ぎ、それをズルイと言う人までいた。まぁ、世の中は平等ではない、ということはどうしようもない社会の姿である。

 

「なんだ、私に勝ちたいから姉にでも泣きついたのか?」

 

 ラウラはあからさまに箒の事を煽るが、箒は表情一つ変えずにラウラに言い返す。

 

「確かに、お前に勝ちたいのは否定しないが、この紅椿はそんな理由で用意してもらったわけじゃない。その強大な力の使い方を間違っている……そんなお前を修正する為だ! 歯を食いしばれぇ!」

 

 試合のゴングがアリーナに響き渡る。

 箒は紅椿の装備、日本刀の形をした雨月と空裂を握り締め、ラウラに突っ込んでいく、箒は叫び、一気に距離を詰める。

 

「っ、速い!?」

 

 ラウラは驚いた、予想外の速さ。見た目の速度では春樹の熾天使(セラフィム)ぐらいは出ているのではないのか、と思うラウラ。

 ラウラはプラズマ手刀で箒の剣を受け止めるが、彼女はもう一本剣を握っており、もう一本の剣でラウラを斬る。

 

 二刀流。

 

 それは剣道において、非常に扱いが難しいとされている。下手な奴が使えば逆に弱くなってしまう技術で、大抵は威嚇目的で使われている。これを威嚇目的ではなく、まともに扱える奴は指で数えるほどしかいないだろう。だが、箒は幼少期から剣道を続けており、基本的なことから応用までしっかりと出来ていた。

 

 そしてこのトーナメントまでの四日間、箒は春樹と共に二本の剣を同時に扱う“二刀流”というものを練習していた。

 やはり、二本同時に扱うのは難しく、最初は中々上手く戦えなかったが、何回も春樹と模擬戦を行っていくうちに何かコツを掴んだようで、動きが段々とよくなっていたのが春樹も、そして彼女自身も感じていた。

 

 流石は今まで剣道を続けてきただけはある。基本的なことから応用方法まで理解している彼女だからこそ、この短期間で二刀流をものにしたのだ。これも、ISというアシストがあったからこそ、実戦投入できるほどの戦力になっているのを忘れてはいけない。

 

(なんだこれは……こんなことが……)

 

 ラウラはひとまず距離を取り、ワイヤーブレードを発射。無数のエネルギーワイヤーが伸びて行き箒を襲うが――箒は縫うようにそれをかわしていく。

 だが、ラウラも諦めない。レールカノンで箒を狙撃しながら、ワイヤーブレードでなんとか箒を拘束しようとする。

 そしてそのラウラの攻撃を潜り抜けて箒はまたラウラに接近し、斬る。

 着実にシールドエネルギーを減らしながら、何度も何度も、ラウラを斬る。

 

「くっ……ここで負けていられるかああああああ!!」

 

 ラウラはプラズマ手刀で箒の攻撃受け止めつつ反撃に出る。ラウラのプラズマ手刀も両腕に装備されている。相手が二本の剣を使うなら、自分も二本の剣を使う。目には目を歯に歯をというようにラウラも接近戦を試みる。

 ラウラの両腕に装備されたプラズマ手刀と箒の雨月と空裂がぶつかり合い、火花を散らす。

 

(私は……ここで負けられない。死んでいった仲間の為にも、エルネスティーネ大佐のためにも。このシュヴァツツェア・レーゲンが負けるわけにはいかないんだ、どんなことがあろうとも……!)

 

 ラウラは二年前にあったドイツ軍基地襲撃事件の犯人の奴らを許しはしない。だから、この力を使って奴らを倒す。その為にはこんな奴に負けてなどいられない。そんな気持ちが彼女の中にあった。

 

 ラウラは『レールカノン』を彼女に向け、発射する。こんな近距離で使うなど狂気の沙汰である。暴発すれば、自分にだって危害が加わる。

 箒は焦った。こんな至近距離で当たるわけにはいかない。だから一回攻撃をやめて『レールカノン』の砲弾をかわす。

 

 その時だった。箒の目の前には無数のワイヤーブレードが――

 

「なっ!?」

 

 箒はつい言葉を出した。ワイヤーブレードが箒の足を掴み、空中へ足を拘束しながら飛んでいく。そして、ラウラは宙吊りとなった箒に、対ISアーマー用特殊徹甲弾をレールカノンから発射される。砲弾は真っ直ぐ箒に向かって飛んでいき、やがてそれは箒の目と鼻の先にまでたどり着く。

 

 箒にヒットしたかと思われたそのとき、箒の空裂の斬撃によって、その砲弾は真っ二つに割れる。割れた砲弾は推進力を失い、その場から地面に落ちたその瞬間――ラウラの目の前にはエネルギー弾が飛んで来た。

 

 それはまるで、斬撃が形になったかのようなものだった。

 それもそのはず、紅椿の持つ刀、雨月と空裂は刃からエネルギーを放出し、飛ばすことができるのである。雨月は打突に合わせてエネルギー刃を、空裂は斬撃に合わせて帯状の攻性エネルギーを放つ。

 

 ラウラは慌ててD(ダイレクティド・)E(エナジー・)C(キャンセラー)を発動、その攻撃を無力化する。

 なんとか防いだと安心したその瞬間、目の前には彼女がいた。そう――二本の剣を握った篠ノ之箒が。

 

「お前のダイレクティド・エナジー・キャンセラーは――」

 

 箒は空裂で斬る。

 

「エネルギー系の攻撃を無効化する――」

 

 今度は雨月で斬る。

 

「だがそれを発動している間は……身動き出来ない!」

 

 箒はラウラに連続で切り込む。まるで格闘ゲームのコンボを決めているかの様に何度も何度も何度も、ラウラを斬っていく。

 

「お前は間違っている! その力のあり方を……その力が何のためにあるのかを!」

 

 箒はフィニッシュだと言うかのように空裂と雨月の攻撃によりラウラの事を吹き飛ばし、そして二本の刀から放出されるそれぞれのエネルギー刃をラウラに向けて放った。

 

(何を……お前に何が分かる!)

 

 ラウラはその攻撃を諸にくらった。

 

 ラウラのシールドエネルギーが一気に削られ、アリーナの端まで飛んでいき、そして、アリーナのバリアに叩きつけられた。

 

(私はこんなところで、負けるわけには……!)

 

 その時だった。ラウラのISに異常な変化が起こった。

 

 

  3

 

 

 ラウラ・ボーデヴィッヒは遺伝子強化試験体として生み出された試験管ベビーであり、戦うための道具としてありとあらゆる兵器の操縦方法や戦略等を体得し、優秀な成績を修めてきた。

 

 しかしISの登場後、ISとの適合性向上のために行われたヴォーダン・オージェという処置の不適合により左目が金色に変色し、能力を制御しきれず以降の訓練では全て基準以下の成績となってしまう。

 

 この事から軍で出来そこない扱いされ存在の意味を見失っていたが、突然現れた少年、葵春樹のアドバイスとISの教官として赴任した千冬の特訓。そして、春樹がISを動かした後、営倉に入れられてからは戻ってきた時に、今度は自分が春樹にISの事を教えようと思い必死に練習していた為に部隊最強の座に再度上り詰めた。

 

 だがその後、ある奴らによりその願いは砕かれた。

 

 『アベンジャー』と名乗る謎の奴ら。それにより大切な仲間を失った。そして、春樹もその直後いなくなってしまった。“またね”という言葉を残して。

 

 その後、必死でISの訓練を続けていた。かの織斑千冬のような強く、凛々しく、そして堂々としている彼女に憧れて。あの謎のISと戦っていたような強さに憧れて。

 

 しかし、あの織斑一夏の事を語ったときの織斑千冬の表情を思い出す度に胸がムカムカして、イラついてくる。

 だからその原因となる織斑一夏の事が許せなかった。自分が憧れる織斑千冬をあのような優しい表情にする織斑一夏が。

 

 そして、ドイツ軍基地を襲った奴らを倒すという、願望を叶える為にも。エルネスティーネが自分に託したシュヴァルツェア・レーゲンを使って負けるわけには行かなかった。

 エルネスティーネ隊長を殺した、奴らを倒すまでは……。

 

 

――願うか? 汝、自らの変革を望むか? より強い力を欲するか?

 

 

 何処からこの声が聞こえてくるかは分からない。だが、ラウラにははっきりとこの声が聞こえていた。

 

 

 よこせ、力を。この私の信念を貫き通す――その力を!

 絶対に、あいつらをこの手で倒すそのときまで、私は負けられない!

 

 

 Damage Level ...... D.

 Mind Condition ...... Upleft.

 Certification ...... Clear.

 

 Valkyrie Trace System ...... boot.

 

 

 

  4

 

 

 

「うわああああああああああああああああ!」

 

 ラウラは叫んだ。そして、シュヴァルツェア・レーゲンが見るにも無残にドロドロに溶けて、そしてラウラを包んでいく。

 

「なんだ、これは!?」

 

 箒は驚いた。ISがこんな風になるとは知らない。聞いたこともない。目の前で起こっている未知なる現象をただ見ているだけしか出来なかった。

 この現象は第一形態移行(ファースト・シフト)第二形態移行(セカンド・シフト)とも違う。別の何かの現象であった。

 

 そしてサイレンがアリーナ全域に響き渡る。

 

『非常事態発令。トーナメント全試合は中止。状況をレベルDと認定。鎮圧の為、教師の部隊を送り込みます』

 

 アリーナの観客席の緊急用隔壁が下り、完全に観客席が防護された。

 そしてラウラを包み込んだドロドロに溶けたISは段々と形を作り固まっていく。

 それはまるで……織斑千冬の専用機、暮桜(くれざくら)を真っ黒に染めたようなものだった。

 

「私はこれを無力化できるのか? しかし、教師がこちらにやってくるはず……」

 

 箒は一度目の前のおぞましいものから目を背けるが、何やら考え事を数秒間した後、もう一度ラウラを取り込んでいるおぞましい黒いISを見る。

 

「でも……彼女を正しき道に戻してやる為に、助ける為に、私がやるしかない!」

 

 箒はそう言って暮桜を模したそのISに向かい、剣を振った。

 しかし、その攻撃を軽々かわし、そのISは箒に向かって剣を素早く振った。その剣筋は箒も見えないほど速く、かわすことなど出来なかった。

 箒は地面に叩きつけられ、シールドエネルギーが一気に削られる。

 

「くっ……! なんだ、これは……。この剣筋、まるで昔千冬さんに剣道を教えていただいたときにやってもらったものに似ている?」

 

(なるほど、何から何まで織斑千冬だな。そんなにあの人に憧れるか……。だが、それはお前の強さじゃない!)

 

 ラウラに向かって箒は叫ぶ。

 

「これがお前の望む強さか!? それがお前が求める強さか!? そんな偽りの強さはお前の強さなんかじゃない! そんなことをして……、お前の憧れる織斑千冬を汚す気か、ラウラ・ボーデヴィッヒ!」

 

 だが、ラウラは何のアクションも取らない。まるで話を聞いていないようだった。そして箒は奴に更なる攻撃を行う。

 だが、その攻撃は簡単に避けられてしまう。これが、織斑千冬の動きだというのだろうか。織斑千冬という存在はそれほどまでに強い存在なのだろうか。今の箒ではまるで歯が立たない。

 

 何度攻撃しても軽々避けられ、攻撃されたと思えばその刃は自分の目の前にある。攻撃の瞬間を捉えることが出来ない。だから避けることもできない。偶然剣で受け止められたとしても、その重い一撃にバランスを崩されてしまう。そうなれば、更なる重い一撃が箒を襲う。

 

 まるで織斑千冬をそのままコピーしたかのような存在に、箒も何も出来なかった。ただ攻撃をくらうしかなかった。

 

(くっ……流石千冬さんだな。しかし、本物はもっと凄いはずだ!)

 

 箒は一度距離を取る。紅椿のシールドエネルギーは残り少ない。この状態のまま戦い続けても負けてしまうだろう。

 だから、今度は遠距離からビームによる攻撃を仕掛ける。近距離では歯が立たないなら、距離を置いて戦えばいい。武士道など糞くらえ、今は――ラウラ・ボーデヴィッヒを救うことの方が重要なのだ。

 

 だからこそ、空裂と雨月による弾幕の様な連続射撃によって黒いISを攻撃する。

 

「止まれ、止まれ、止まれ、止まれ、止まれよぉ――この偽物がぁぁぁああああああ!!」

 

 箒は残りのエネルギー残量を使い果たすかのごとく、その振りを休めることはない。剣から放たれるエネルギー刃は、地面ごと抉り土煙を巻き上げる。

 

 視界が悪くなる。

 だけども、紅椿のセンサーはシュヴァルツェア・レーゲンを確かに捉えていた。

 だから、そこに箒はひたすら剣を振ってエネルギー刃を放つ。当たっているか、当たっていないか、そんなものは関係なくなっていた。

 

――奴を止める。

 

 それだけが、箒の思考を支配していたのだ。

 やがて、エネルギーが無くなり、攻撃を放つことが出来なくなった空裂と雨月を振るのを止める。

 

 土煙は未だに巻き上げられて視界が悪く、ラウラがどうなっているのか全くわからない状態だ。

 だけども、未だに紅椿のセンサーはシュヴァルツェア・レーゲンを捉えていたのだ。

 

――まだ、彼女は倒れていない。

 

 そう考えた箒であったが、一瞬の隙を見せてしまったのだろう。

 

「っ!?」

 

 箒は言葉が出なかった。

 土煙から出てきたと思えば、目の前に暮桜を模した黒いISが現れたのだ。

 おそらくこれは千冬の得意技であり、一夏にも受け継がられている瞬時加速(イグニッション・ブースト)であろう。

 

 このままでは、なんとかしなければ負けてしまう。ラウラを助けられない。

 そう考えた箒は、とてつもないスピード域から放たれる斬撃を避けようとする。

 

(これが最後のチャンス。これを避けて、後ろから突き刺せばあるいは……)

 

 箒は黒い暮桜から振られる剣の動きをしっかりと見る。

 人の動体視力を超えたその反応は、剣道で鍛えられた箒の動体視力とISのサポートによってもたらされたものだ。

 箒は完全に避けることが出来ないと判断し、剣で受け止めることを選択。

 相手の剣の動きに合わせてこちらの剣を動かす。

 

 ガキンッ!! という金属音が鳴り響き、黒い暮桜の斬撃を防いだ箒はそこから身体を捻って相手の後ろを取ろうとする。

 

 ISによる滑らかな動きで黒い暮桜の背中を取った箒は、左手に握っている雨月を手放し空裂を両手で握り締める。

 

「目を覚ますんだラウラァァァ!!」

 

 刃が、背中を突き刺そうとする。その鋭い剣先は背中へと吸い込まれるように突き進み、黒い暮桜を――貫くことは無かった。

 

「は?」

 

 箒は意味が分からなかった。

 握りしめていた空裂は空中を回転しながら舞っているのだ。 

 今のはどう考えても避けられるような攻撃ではない。ましてや反撃することなど出来ないはずだ。

 

 目の前を見ると、その腕は通常ではありえない方向へと曲げられていた。

 腕の関節が――逆に曲げられている。

 

 箒はその光景に悪寒を感じてしまった。

 ラウラの体が、ISによって人間では不可能な動きを強制的にさせられているのだ。

 これ以上、ラウラに負荷はかけられない。このままではラウラが死んでしまう。

 

「やめろ。やめてくれ……。目を覚ませラウラ! このままじゃ死んでしまうぞッ!」

 

 彼女の悲痛な叫びは彼女に届くことは無かった。その黒い暮桜は一言も喋らず、禍々しい何かを放ちながらこちらに歩み寄ってくる。

 

――何かがおかしい。

 

 それは今、実際に対峙している箒が何よりも感じていた。

 もしかしたら、ラウラの意識はあの不可思議な現象によって無くなってしまっているのではないか、と悟ったのだ。

 

 なら、助けなくてはならない。

 

 すると、空から降ってきた空裂が地面に突き刺さったかと思えば、それを抜き、黒い暮桜の攻撃を受け止める。

 

(駄目だ。このままでは、ラウラが……。どうすれば、どうすれば彼女を助けられる!?)

 

 これ以上戦いを続けたらラウラの生命が危ない。すぐにでも姿を変えてしまったシュヴァルツェア・レーゲンを止める。それが、今の箒がやらねばならない事であった。

 だが、黒い暮桜の攻撃は鋭く、そして激しい。本来はこんなISの操縦を始めたばかりの奴が敵う様な相手ではないのだ。それがたとえ偽物だとしても、その動きは当時のブリュンヒルデ――織斑千冬そのものなのだから。

 

(このまま、私は負けるのか? 私の想いが、彼女に届かぬまま、終わってしまうというのか!?)

 

 嫌だ。

 

 そんなのはごめんだ。

 

 篠ノ之箒という人物が、この戦いに持ち込んだ想い。それは“力の正しい使い方を教える”というもの。それが説教臭くてもいい。彼女に嫌われても構わない。

 

 だけど、その主張で何か一考することがあれば、それで箒は満足なのだ。

 

 それすらも出来ないままここで終わるわけにはいかない。

 

 絶対にラウラを救い出し、きちんとお話をしたい。面と向かって、一対一で、自分の体験談を使ってお話したいのだ。

 

「ラウラ……お前は、私が、助けてやる!!」

 

 箒がそう言ったとき、後方から男性の声が聞こえた。この声は――

 

「いや、箒だけじゃない。俺も、ラウラを助ける」

「春樹!!」

 

 そう、葵春樹だ。彼が、ここに現れたのだ。

 箒の姉である篠ノ之束と協力関係にあるという彼は、何故かとても頼もしく感じた。一人では攻撃を防ぐことで精一杯だったが、二人揃えば何とかなるかもしれない。

 

「俺も忘れてもらっちゃ困るな。なぁ春樹?」

 

 春樹の後方から聞こえてきた声の主は織斑一夏であった。

 

「なんだよ一夏。お前も付いてきたのか」

「当たり前だ。箒とラウラが危険な状態なんだ。俺が行かなくてどうするよ」

「それもそうだな」

 

 そんな短い会話を終えた二人は、ISを身に着けてアリーナへと飛び立つ。

 まず最初に仕掛けたのは春樹だった。

 射撃武器のバスターライフルを放ち、箒に張り付く様にして攻撃している黒い暮桜を引き離す。

 

「さて、箒は休憩だ。今まで頑張ったな。あとは俺と一夏に任せろ」

「あ、ああ。任せたぞ。必ずラウラを助けてやってくれ」

「言われなくてもやってやるさ、なぁ一夏」

「当然だぜ! 行くぞ春樹。共闘だ!!」

 

 春樹はブレイドガンに装備を変更。黒い暮桜に弾を放ちながら接近し、相手の斬撃を避けつつ胴にひと斬り入れるが大したダメージ量ではなかったらしい。

 その攻撃に動じず春樹に攻撃をしようとしたその瞬間、一夏が目の前に現れてその剣を受け止める。

 

「千冬姉の剣は何度もこの身で受けて来たんだ。そんな攻撃、見飽きてんだよ!! 春樹!」

「言われなくても分かっているよ!」

 

 春樹は一夏が言う前に既に行動に移していた。武器をシャープネス・ブレードに変更し、黒い暮桜に駆け寄っていく。

 このまま斬りつければ、どうなるのか。

 

 答えは簡単だ。

 

 一夏を振り払った後に、春樹の攻撃を受け止めようとする。

 だけど、その行動こそが間違い。春樹の攻撃を受け止めるために一夏をフリーにした事自体が、だ。

 

 なぜなら、一夏の白式(びゃくしき)には、零落白夜というワンオフ・アビリティ―が存在しているのだから。

 

「やっちゃれ一夏! お前のその一撃こそが、彼女を救う鍵になるんだから!」

 

 はっきり言って、この黒い暮桜もとい、姿形が変わってしまったシュヴァルツェア・レーゲンのシールドエネルギーは異常だ。

 あれだけ箒が攻撃を放ったのに、シールドエネルギーが切れるような感じが全くしない。

 

 でも、一夏の零落白夜はそんなものを無視して相手を切り裂く。ISにとって一撃必殺となる斬撃が、今放たれようとしているのだ。

 

「出てこいラウラ! くらいやがれぇぇぇええええええ!!」

 

 一夏は叫びながら黒い暮桜を斬る。

 すると、ISのシールドエネルギーを切り裂いて本体に直接ダメージが通るのだ。それによって、シュヴァルツェア・レーゲンには裂け目が出来た。

 さらにISの機動は完全に停止、シュヴァルツェア・レーゲンは元の形に戻りながらラウラの体を解放した。

 するり、とその裂け目から出てきたラウラを、春樹は受け止める。

 

「たく、この騒がせ者。後で千冬姉ちゃんのおキツイ説教かねぇ……」

 

 そう、春樹は抱きかかえたラウラを見て呟いた。

 その時のラウラの表情はとても安らかで、まるでさっきまでの戦闘とは無関係だったかのようにも感じられる。

 根本的なところでは、ラウラのシュヴァルツェア・レーゲンが彼女を守ってくれたのかもしれない。

 それを見た一夏と箒も、安心しきったように引きつっていた顔がゆるみ、微笑みに変わっていく。

 

 そのとき、ラウラと春樹、そして一夏と箒は何らかの繋がりを感じた。これの感じは何なのかは、春樹でさえ分からなかった。

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