ISを改変して別の物語を作ってみた。   作:加藤あきら

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第三章『崩れていく日常 -Unknown-』《お前は私が守る》

  1

 

 ドイツ軍IS配備特殊部隊、シュヴァルツェア・ハーゼに体験入隊して数週間、春樹は時折足を引っ張ってしまい、連帯責任として隊のみんなに迷惑をかけたこともあったが、春樹はそんな自分を許せず、人一倍頑張っていた。とりあえず持ち前の体力を駆使して隊のみんなに追いつくのが目標である。

 

 ランニング、近接格闘訓練、射撃訓練、等々様々な訓練を続けていた中、意外と春樹が最も得意だったのは以外にも射撃であった。

 春樹はハンドガンを扱うのが非常に上手かった。最初こそ慣れてなくて全然的に当たってくれなかったが、何発か撃っていくうちに段々と正確に且つスピーディーに射撃をすることができるようになっていた。

 

 ラウラもこのことには驚きを隠せなかった。聞けば春樹は剣道をやっていたと言っていたのに得意なのは射撃。

 人間は時折意外なものが得意だったりする。春樹の場合それが射撃だったのだ。

 

 ISの訓練は相変わらず千冬による鬼教導が続けられていた。元々高い能力をもっていたハーゼ部隊であったが、千冬のその教導によって更にレベルアップしていた。

 ラウラはなんと部隊でベスト5に入るんじゃないか、と思うほどの実力の持ち主にたった数週間で成長していた。春樹もこれには驚いた。最初は直視できないほどの下手なISの操縦だったが、あのときの春樹のアドバイスとこの数週間に渡って行ってきた千冬の教導の成果は多大なるものだった。

 

 最近、ラウラは本当に嬉しそうな表情をする。春樹と会ったばっかりの頃は表情があんまりなく、“ドイツの冷氷”と言われるほどの冷たい感情をあらわにするその性格。だが、春樹と会ってから、千冬の教導を受けてから彼女は非常に楽しそうにしていた。

 部隊の人間もこのラウラの変化にはとても嬉しく感じている。葵春樹という人物には本当に感謝したいぐらいであった。ラウラの友達になってくれた事に。

 千冬もラウラのその表情には微笑ましいものを感じていた。春樹が彼女と友達になり、それからISの操縦も上達が早かった。ラウラのこの状態の支えとなっているのが葵春樹その人である。

 

 そう、ラウラは春樹と接しているときが一番幸せそうなのである。

 

 そしてこの今の状況が崩されてしまう事を、彼女はまだ知らなかった。

 

 

  2

 

 

 現在、春樹はISの訓練場で千冬の教導によって(しご)かれているハーゼ部隊を見ていた。この時間帯はこうしているのが習慣である。

 ハーゼ部隊のISを自由自在に操っているところを見て春樹を時々思うのだ、自分もISで空を飛んで、自由自在に操ってみたい、と。

 しかし、それは願わない夢。理由はわからないがISは女性にしか使うことができない。男性はISが使えないのだ。

 

 ISの開発者である篠ノ之束は実は知っているのかもしれない。ISが女性にしか使えない原因を。

 しかし、彼女は今は日本にいる。日本の保護下にあるので、見つけて話すなんてことは不可能に等しい。たとえ見つけてもそのことを教えてくれるのかさえ怪しい。篠ノ之束は結構投げやりにすることが多い。少なくとも自分の興味のないものはそんな風に扱うのだ。それがモノであってもヒトであっても。

 ラウラは順調に成績を上げていた、どんどん成長しているのが分かる。

 

 そして――

 

 一番油断し易いのも、この時期なのである。

 今はISによる模擬戦が一対一のタイマンで行われている。実力が近いもの同士で行われるこの模擬戦は自分が今どの段階にいるのか、目に見えるように示してくれるのだ。だからラウラは次々と対戦相手が変わっていく。段々強い乗り手と戦う事になるのだ。

 ラウラはそれなりの実力者との模擬戦を行っている。今までに受けた指導を思い出し、そしてそれを駆使して戦う。

 

 ラウラはハーゼ部隊に配給されている量産型IS、シュヴァルツェア・ゲーベル(黒い銃)を駆っている。そのISは両肩部にキャノン砲を装備、そこから発射されるエネルギー弾は威力が強い。そして、ナイフが近距離用武装として用意されている。

 ラウラともう一人の隊員はキャノン砲を使い射撃を入れながらも隙を見つけてはナイフで近距離戦を挑む。シンプル且つ実戦的な戦術である。

 このときラウラは成長してきた自分を過大評価しすぎていた。

 

 そして、それを感じ取っていた春樹。今のラウラは非常に危なっかしかった。今にでもミスをして相手にやられそうな感じがしていた。

 ラウラはキャノン砲を撃ちながら距離を詰めるが攻撃が当たらない。しかも、その後の追撃であるナイフの攻撃すら当たらない。流石にここまできたならば相手も非常に強くなってきている。簡単には勝たせてもらえないだろう。

 

 そして――ついにそのときが来た。戦闘場所は遥か上空、そこで戦闘が行われていたがラウラがミスをしたのだ。相手の攻撃を避ける為に機体を無理な方向へ傾けてしまった。それによりバランスを崩してしまう。さらにそこに相手のキャノン砲の攻撃が飛んでくる。それをもろに喰らったラウラのシールドエネルギーは〇になり、なんと、上空から一直線に落ちてくる。なにが起こったのか分からないラウラの対戦相手。

 このときラウラはあまりの衝撃に気を失ってしまったのだ。ISの制御ができない中、機体は一直線に地面へ向けて真っ逆さま。しかもシールドエネルギーはもうない。もしこのまま落下したら……。

 

 危ないと考えた春樹は、ISがそのまま落下してもパイロットの身は守れるほどに頑丈で、安全なものということも、その先のことも考える暇もなく身体を自然と動かした。本当に何も考えずに……。

 

 ラウラの方へ走る春樹。

 

 そして――春樹はあるものに手を伸ばした。

 

 

  3

 

 

 ラウラは目を覚ました。そこには軍の医務室の天井が見える。ラウラはあのときの事を思い出していた。

 自分はあの時、自分の油断からできた隙を突かれてキャノン砲の攻撃を受けたが――その先のことは覚えていない。一体何があったのか、気になるラウラは周りを見渡したが、そこには誰もいなかった。

 なぜ自分が一人なのか、医務室の人が一人二人いてもおかしくないのになぜ……?

 すると医務室のドアが開く。

 そこには織斑千冬が立っていた。

 

「教官!」

「目が覚めたのか、ラウラ」

「教官、いったい何があったのですか? 私はあの時気を失って……あの後どうなったのですか? 誰が助けてくれたのですか?」

 

 しかし千冬から発せられた人物はラウラの予想を大きく斜め上に裏切る人物だった。

 

 

「あいつだ……春樹だよ」

 

 

 ラウラは驚いた。だってラウラはあの時ISを装備していたし、結構な高さから真っ逆さまに落ちていたはずである。

 そんなものを素手では流石に受けることはできない。ではどうやって?

 

「教官、でも私はあのときISを装備していました。いったいどうやって私を助けたんです?」

「――春樹がISを動かした」

 

 今、千冬から信じられない言葉を聴いた。春樹がISを動かした、だなんてはずはない。ISは女性しか反応しない。起動することができないのだから。

 

「きょ、教官……今なんと?」

「だから、春樹がISを動かしたと言ってるだろう!」

 

 千冬の大声にラウラはすこし驚いた。

 確かに今、織斑千冬は「春樹がISを動かした」と言った。どう聞いても間違いない、聞き間違いはなかった。

 

「どういうことか……聞かせてもらえますか?」

「あいつは――」

 

 千冬は説明した、あのとき何があったのかを。

 ラウラが落下しているときに、助けに行こうとした千冬の横を春樹が抜き去る。勝手にISの訓練場に入ってきて、さらに近くにあった空いている予備のISに勝手にさわり、そして起動させた。その時千冬は驚きを隠せなかった。いや、そこにいた隊員全員が驚いていた。

 そして、そのままラウラの方へ飛んで行き、ラウラを受け止めたらしい。

 

「そんな馬鹿な! たとえ動かせたとしても、春樹はISについて右も左も分からないはず。そんな芸当ができるはずは……」

「だが事実だ。今、春樹が尋問を受けている。嘘発見器も持ち合わせて話を聞いているところだ」

 

 千冬はラウラの話を遮り、現状を説明した。

 春樹はなぜISを動かせたのか、ということ。

 目的は何なのか、ということ。

 本当は自分がISを動かせる事を知っていたのではないか、ということなど質問をしていたが、春樹は全て「分からない」と答えていた。自分は何も知らない。気付いたら体が勝手に動いていて、ISを動かしていたらしいのだ。しかもこの答えに嘘発見器はなんの反応もない。嘘はついていないことになるが……。

 

「織斑教官」

 

 するとエルネスティーネ大佐が医務室に入ってきた。

 

「なんです、エルネスティーネ大佐」

「報告です、只今葵春樹の尋問が終わりました。嘘はついていないようですが、念のため営倉に入れることになりました」

「了解だ。で、その期間は?」

「一ヶ月間です」

「分かりました。私もそちらの方へ向かいます」

「了解しました。では……」

 

 千冬はエルネスティーネと共に医務室を出て行った。

 ラウラは絶望的な表情をして、何かを考える事さえできなくなっていた。

 ベットのシーツを握り締める。そして、彼女の顔には涙があった。

 

 

  4

 

 

 葵春樹は営倉にいた。なぜ自分がこんな所にいるのか気持ちの整理がついていなかった。

 あの時、自分はラウラを助けるのに必死だった。気がつけば自分がISに乗っていた。なぜかは知らないが、無意識の中で乗り、そして飛んだのだ。ラウラを受け止めて我に返ったときにはもう遅かった。

 ラウラを助ける事はできたのに、降りてくれば自分は軍の上層部の人たちに囲まれて、そして尋問室に強制連行された。よく分からない装置を頭につけられるし、何がどうなっているのか、全く分からなかった。

 無駄な抵抗はしないほうがいいと思ったから、とりあえず質問には正直に答えていった。そこには織斑千冬もいた。途中でいなくなったが、どこに行ったのだろう。

 

 嘘はついていないことは分かってもらえたのだけれど、何故か自分は営倉にいる。

 恐らく警戒を続ける、と言う事だろう。

 だけど春樹には何の裏もない。自分でISを動かせた理由も分からないし、動かしたからと言って特に何をするってわけでもなかった。だが、営倉に入れられてしまう。確か、期間は一ヶ月だったはずだ。ラウラはその間、どうなるんだろうか、と春樹は心配だった。

 

 するとそこへ、二人の女性が現れた。

 

「春樹、すまないな」

 

 織斑千冬だった、そしてその隣にはエルネスティーネ・アルノルトがいた。

 

「春樹君、君が嘘をついていない、というのは分かるのだけれど、上の決定だからね、どうしようもなかったんだよ」

 

 座っていた春樹はゆっくりと立ち上がり、

 

「いえ、大丈夫です。ああなっちゃったら警戒しない方がおかしいだろうし……」

「ああ、そうだ春樹君」

 

 とエルネスティーネは笑顔で、

 

「君がISを動かした事は世界には公表する事はないから」

「え?」

 

 春樹は驚いた。なぜなら男がISを動かした、という事実がどれだけのニュースになるのか計り知れない。世界の常識を翻した人物がここにいるのになぜ?

 

「考えてみろ春樹、ここはドイツ軍だ。この特殊ケース、未知の存在をまずは自分達のために研究したいだろ?」

 

 この話を聴いた瞬間、春樹は青ざめた。自分が研究材料になる。そのことを考えただけでも不安だった。

 

「そう心配な顔をしないで、春樹君。私達が何とかするから、ね?」

 

 エルネスティーネは笑顔でそう言ってくれた。それがなにより春樹の心を安心させてくれた。

 

「そのための一ヶ月間だ。春樹」

 

 千冬はそう言って、後ろを向いた。

 

「だから、お前は安心していろ。お前は私が守る」

 

 そう言って千冬は立ち去った。そしてエルネスティーネもこっちに微笑み、それから後ろを向いて営倉から出て行った。

 そして、春樹は後悔したのだ。今、ラウラの事を聞けばよかった、と。

 春樹は営倉に設置されている固いベッドに腰をかける。

 

(千冬姉ちゃんとエルネスティーネ隊長がなんとかしてくれる、か。さて、ラウラの事聞きそびれちゃったけど、大丈夫かな……って過保護すぎかな? アイツは一人でもやっていけるはずだよな、前までのラウラとは違うんだし)

 

 ラウラは春樹と会うまでは一人ぼっちだったらしく、人を寄せ付けない感じがあった……らしいが、そんなものは春樹という友達ができてからはそんな感じは見せなくなっていった。

 今となっては周りの人たちと和解して、みんな仲良くやっている。そこからは笑いが絶えなかったし、悔しさだって分かち合った。悲しさだって分かち合った。

 だけど、この一ヶ月間はそれに春樹は参加することが出来ない。

 

(それは……とても寂しいな……)

 

 春樹はそれにとてつもない寂しさを感じていた。ラウラが心配だし、それでもって寂しさも感じてしまう。

 春樹は感じた。

 ここで一ヶ月間耐え抜いていけるのか、と。

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