ISを改変して別の物語を作ってみた。   作:加藤あきら

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第四章『崩れ去る日常 -Raid-』《お世話になりました……!》

  7

 

 襲撃した当人である二人は目標を探す為にドイツ軍基地を探索していた。

 その二人が装着しているISは二つとも黒く、顔まで隠されている。両手には剣が握られており、そこからはビームも発射できるようになっていた。

 

「おい、アベンジャー1」

「なんだ、アベンジャー2」

 

 アベンジャーと名乗るその二人。恐らくコールサインだろう。

 その二人の声は、変な感じがした。これも恐らく声から人物が特定できないようにする為だろう。 

 誰だか分かってはならない、と言う事は暗部の組織に関係するものであろう。顔や声等々絶対にこういった行動をするときには知られてはいけない。普段の生活に支障が出るからだ。

 

「本当にここに篠ノ之と例の男が居るのかよ」

 

 アベンジャー1が問う。そしてそれにアベンジャー2が答えた。

 

「ああ、間違いないよ。情報収集専門の奴らからの情報だ。篠ノ之束とそのISを動かせる男がそこにいる、とね」

「ふ~ん、じゃあ信じていいんだぁ。篠ノ之束と……織斑一夏がここに居る事」

「信じていいと思うんだけどね、でも織斑一夏が牢にぶち込まれてるっていうから行ってみたけど、もうそこは誰も居なかったしね……情報収集する奴を疑うよ全く」

「でも、もしかして篠ノ之束がそいつを既に牢から連れ出していたとしたら……」

「それなら、見つけ出して二人とも殺すまでだよ」

「そうだよな。アハハハハ!」

 

 アベンジャー1が高笑いしてISを加速させてドイツ軍基地の廊下を凄いスピードで駆けていく、アベンジャー2もそれに続いて後ろについていった。

 

 

  8

 

 

 春樹は束と共に隠し部屋の中で身を隠していた。

 

「束さん、これって……」

「…………」

「束さん?」

 

 正直束は焦っていた。もしかしたらこれは自分を狙う奴らの襲撃なのかもしれないと。

 やはり何だかんだ言って篠ノ之束はISを開発した歴史に名が残るであろう人物であり、ISのコアの製造方法を知っているのは彼女だけなのである。

 そして、命を狙われる可能性も無きにしも非ずなのである。

 

「春樹……私の側に……いてくれる?」

「え?」

「お願い……。私の側にいて」

「は、はい……」

 

 春樹は突然の束の要求に戸惑った。そんな事をわざわざ言わずとも側にいるつもりであったが、本人から直々にそう言われるとなんだか変な気持ちになってしまう。

 しかし、束の顔は不安と恐怖でいっぱいであった。

 このとき、春樹は唯一つ、このときに決めた事があった。

 篠ノ之束を守り通す、何があっても、何が来ようとも、彼女を守る。他の事なんて関係ない。今は束を守ることだけを考えることにした。

 

 外からは何やらISが飛び交う音がかすかに聞こえてくる。IS部隊が動いたのか、もしくはこのあたりを敵がISに乗って徘徊しているのだろう。

 こうなったならば敵の襲撃があったのは間違いないだろう。束が怯える理由もこれで良く分かった春樹であった。

 しかし、春樹はこれ以上何をすれば良いのかも分からなかった。

 とりあえず束とここに身を隠して、外の騒ぎが収まるのを待つしかないだろうと、そういう判断を下したのだ。

 

「束さん、安心して。俺がここに居るから」

「うん、ありがとう春樹」

 

 すると束が春樹に身を寄せてきた。ドキッとする春樹であったが、束の怯えた顔を見るとそんな感情など起きるはずもなかった。

 そんな束を見てつい抱きしめてしまう春樹。

 

「大丈夫、どんな事が起ころうとも……俺は……」

「春樹……」

 

 束は春樹の胸に顔をうずくめる。この数ヶ月、軍で鍛え上げられたその胸筋はとても逞しく、そして春樹がとても強く感じられ、束は凄く安心できた。

 しかし、その安心は長く続く事はなかった。

 いきなりの爆音と爆風に身を縮める二人、そして入り口の方には……。

 

「みぃつけたぁ……!」

 

 漆黒の鎧に二つの剣、ISを身に着けた人が一人居た。

 

「こちらアベンジャー1よりアベンジャー2へ、目標の二人を発見、位置を確認次第こっちに向かってくれ」

『アベンジャー2了解』

 

 そしてそのアベンジャー1と名乗ったその顔まであるISを身につけた人はこちらへISの機械音を鳴らしながらゆっくりと近づいてくる。

 

「さぁてぇ、お前ら二人とも殺す……あぁん? はぁ? 誰だよコイツ、織斑一夏じゃねぇじゃん」

 

 篠ノ之束と葵春樹の二人は“織斑一夏”に反応した。彼がこの謎のISを装備した奴らに何か関係があるのだろうか? なぜ彼を殺そうとする? と考えたが、目の前のこの状況をどうするかが問題である。

 

「まぁいいや、そこのお前がなんで篠ノ之束といるか知らないけど、一緒に死んでもらうわぁ、アハハハハ!」

 

 そう言って黒いISがこっちに突っ込んでくる、もう駄目だ、ここで死ぬ、そう確信した二人だった。

 

(おいおい、ここで人生終わりかよ……。ごめん、束さん、一夏、千冬姉ちゃん、ラウラ……)

 

 が、しかし目の前の黒いISは気がつけば横に吹き飛び、目の前には束と春樹の二人が良く知るIS……その名も暮桜(くれざくら)

 彼女が雪片を握って立っていた。

 

「大丈夫か、束、春樹」

 

 あまりにも突然な事で言葉を出せない二人、ただ頭を縦に振りその質問を肯定する。

 

「てめぇ……確か織斑千冬だったな、こうなったら仕方が無い。お前も殺す!」

「ふん、やれるものならやってみろ」

 

 狭いこの研究室で二つのISが動き出す。

 千冬は素早い踏み込みで相手を切ろうとするが、黒いISは軽々それを避ける。もう一度斬り込み、更にもう一回斬り込む。

 しかし、相手はこの連続の斬り込みを避け続け、今度はこっちの番だとも言うように二つの剣を降る。

 その剣筋は千冬にも引けを取らないものであった。鋭く、正確な一閃。千冬はその攻撃には防御の姿勢を取って身を守ることしかできなかった。

 

「どうしたぁ? お前はあのブリュンヒルデだろォ? こんなもんかよ、アハハハハ!」

 

 黒いISに乗っている奴は余裕な感じを出して喋っている。まるで織斑千冬をからかうかのような動きで攻撃、本気はまだまだ出していないぞ、とも言いたげな感じで斬ってくる。

 相手は顔を隠しているので表情までは千冬にまで伝わらないが、それでも喋り方であきらかに千冬を馬鹿にしていることがわかった。

 

「くっ……春樹、束、私がコイツの相手をする。お前らは逃げろ」

「でも千冬姉ちゃん――」

「逃げろと言っている! これは命令だ、教官としてのな……」

 

 春樹はその言葉で立ち上がり、研究室から春樹と束は出ようと出口へ走る。

 

「お前ェら待ちやがれ!」

 

 謎の黒いISは逃げる二人に向けて、剣の先についている銃口を向けたが、風を切るような音がしたと思った瞬間、その剣は真っ二つになっていた。

 逃亡を阻止する為の攻撃を防がれた為、春樹と束の二人はここから逃げ出すことに成功した。

 

「てめェ……」

「ふん。余所見をしている場合か? お前の相手はこの私だ!」

 

 千冬は零落白夜を起動させていた。雪片にはエネルギーの刃になっており、そのおかげでその剣の鋭さは何十倍にも増していた。

 しかしこの攻撃には弱点がある。

 この零落白夜はISを動かすための稼動エネルギーを使用する。その使用量は十秒で一般的なISの稼動エネルギー量の五分の一を持っていく。

 つまり、ゲームのように必殺技を乱発する事はできないのである。

 千冬は素早く零落白夜を解除してここぞというときの為に稼動エネルギーを温存する。

 

「アハハハハ! やっぱりその零落白夜は弱点が多すぎる欠陥品のワンオフ・アビリティーてかァ?」

「言ってろカスがっ……! 私はこれで世界一になった」

「それは世界の代表選手がそれこそカス揃いだったって事だろ?」

「なら、なぜお前はそれだけの力を持って代表選手にならない?」

「こんな事する奴が教えるとでも?」

「思ってないさ、期待はしてない」

 

 二人はまた動き出して斬りあう、黒いISは先ほど二つの剣の内一本は先ほどの零落白夜の一閃で駄目になってしまった為に一本での戦闘になった。

 二人が激しく切りあいが続くが、千冬はじりじりと押されていた。世界一に輝いた織斑千冬が謎の黒いISに、しかも剣術で押されているということは誰かが見ていれば驚愕の事実だろう。だが、この戦闘を見ている者など誰一人と居なかった。

 

(春樹、束……生き残れよ。私もコイツを倒してすぐに追いつく)

 

 千冬はそう思って零落白夜を起動させて黒いISに斬りかかった。

 

 

  9

 

 

 ラウラ・ボーデヴィッヒとエルネスティーネ・アルノルトは営倉の中にいた。

 営倉の中にいるはずの葵春樹を回収する為だ。

 しかしそこには春樹は居なかった。なにやらISが暴れまわった痕跡が残されており、ラウラとエルネスティーネは最悪の事態も想像していた。

 

「隊長、これは」

「もしかしたら、ラウラが見たその春樹は間違いなく本人だった。ということがほぼ確定したことになるな」

「はい。では春樹はどこへ行ったのでしょう?」

「…………なら、ラウラが言っていたその廊下のところまで行ってみるか。何か分かるかもしれない」

「了解」

 

 ラウラとエルネスティーネは営倉から廊下へと移動して春樹が消えた廊下へと向かった。

 二人のISは凄いスピードを出しながら狭い廊下を右へ左へと曲がっていく。やはりこの旋回性能とこの加速力、最高速度など、機動性能だけでもやはり現状の兵器の中でもトップクラスの実力を持つ。やはり、このISという兵器は世の中の兵器の常識を全て覆したものである事が改めて感じられる。

 そして量子化による様々な装備の複数所持が可能。これが反則と言わずなんと言うだろう。

 

 それを使って現在このドイツ軍が襲撃を受けている。しかもたった二機のISに。

 ISを倒せるのはISだけ、と言われているが……あながち間違いではない。機動力と火力、そして距離を選ばない装備を持つことが出来るISが万能に機能するからだ。

 ラウラとエルネスティーネは自分が今操っているISと襲撃者が操っているISに差はない。まったく同じものである。

 ISというものはやはり危険でしっかりと管理しなければ最悪、世界征服などという漫画だけにしかないような事も不可能ではないと思ってしまう二人。

 

「目標の位置まで後三〇メートル」

「了解」

 

 エルネスティーネはISにより表示されたドイツ軍基地のマップを確認してラウラに伝える。ここから一直線で残り三〇メートル。

 二人はさらにISを加速させてそこまで突っ切る。残り一〇メートルといったところでブレーキをかける二人。

 止まると同時に右に曲がり、身を隠す。ここから左に曲がり真っ直ぐ進めば目標の位置である。

 

「ラウラ、準備はいいか?」

「大丈夫です。行けます」

「じゃあ行くぞ。カウント……五、四、三、二、一――」

 

 武器を構えて二人は左に曲がる。すると見覚えのない部屋があった、しかもドアらしきものがない。見てみるとドアが吹き飛ばされていた。

 その部屋にはもう誰もいない。

 

「こんな部屋があったなんて。隊長はご存知でありましたか?」

「いいえ、私もこんな部屋を見たことがない。なんでこんな部屋が……」

「隠れて何かを調べる為……でしょうか?」

 

 ラウラのその発言にエルネスティーネは寒気を感じた。思い当たる節がいくつかある。まずはISを動かした春樹の事と、ラウラたちのことなどだろう。

 

「……とりあえず中を調べるよ」

「了解」

 

 ラウラはエルネスティーネの少し変な間を気にしたが、今はこの場所を調べる事が最優先だ。

 二人は誰もいない部屋の中へと入る。そこはなにやら戦闘したような後がある。そして敵の武器らしい壊れたものが落ちていた。

これはISの武器なのかと手に取ってみると、確かにそれはISの武器だった。剣の先が綺麗に切れており、真っ二つになっていた。

 あまりにも綺麗に折れていた為、これは何かしらのISの武器によって切断されたと予想する二人。

 と、いうことはこの場所で戦闘が行われていたと言う事だ。なら戦闘を行った人はどこへ行ったのか。

 そして、恐らくここにいたであろう春樹はどこへ行ったのか。

 

「隊長……」

「そうだなラウラ少尉、春樹は今、敵から逃げている可能性が高い」

「どうします? 探しますか?」

「そうだな、もし敵から逃げているなら、早く見つけ出して保護しないと」

「なら……」

「ああ。ではこれより葵春樹を保護する為に行動する」

「了解しました」

 

 二人は隠し部屋から出て行き、春樹を探す為にISのハイパーセンサーの反応を頼りに春樹を探す事にした。

 

 

  10

 

 

 春樹と束は廊下を走り続けていた。

 春樹は今まで体を鍛えてきたし、元々体力には自信があったので特に問題はないのだが、束はあまり運動は得意ではないのか息が切れている。

 しかしここで足を止めて休んでいる暇はない。少しでも遠くまで逃げる事が最優先である。一歩でも遠くへ奴から逃げる。

 しかしこれは相手が何人いるのかということを考慮していない危険な行為であったが、春樹はこれに気がついていなかった。

 

(早く……もっとだ。奴から少しでも遠くへ逃げないと……)

 

 息一つも切らさず走る春樹であったが、息をゼェゼェ切らせている束は春樹に要求した。

 

「待って、春樹……もう私……はぁはぁ……体力が……」

 

 春樹は後ろを向いてみると束が息を切らせて汗をかいていた。ヤバイと思った春樹は近くの部屋を見つけてそこに身を隠すことにした。

 束の手を引き、近くの部屋の中に入る春樹と束。ドアをロックして座り込む二人。

 

「ごめんなさい束さん……あなたの事をちゃんと考えていなかった」

「いや……いいよ。こちらこそごめんね、こんな事に巻き込んで……」

「え?」

「だってアイツ言ってたでしょ、篠ノ之束を殺すって」

 

 春樹はその束の発言を聞いて黙り込んでしまう。

 そうだ、束は今命を狙われている。

 理由は分からないが一夏も命を狙われている。

 今一夏は家で一人だ。でもドイツの人が一応監視をしているから何とかなっていると思うが、しかし今回のドイツ軍の襲撃。たった数人の監視の中、先ほどの千冬並みの強さを持った奴が来たら、一夏はどうなるのだろうか。

 一夏が無事な事を祈る春樹、そしてさっき分かれた千冬はどうなったのか、非常に気になる。千冬は無事なのか気になってしまい落ち着けない。

 

「春樹……。大丈夫だよ、ちーちゃんならアイツをきっと倒してくれる。きっとね」

「そんな保障がどこにあるっていうんですか!?」

 

 つい春樹は束に向かって叫んでしまった。明らかにあの戦いは千冬がじいじりと押されていたのだ。あのまま戦えば千冬は負ける。そしたらどうなる?

 

 答えは死だ。

 

 あれだけの事をしでかす奴だ、戦った相手を殺さないわけがない。そこから自分のISの情報が漏洩する可能性があるからだ。だから自分と戦った相手を殺さないわけはないはずである。

 そして春樹は、怒鳴ってしまった事を反省していた。こんな時に……命を狙われている当の本人に向かって怒鳴り散らすなど最低だ。

 

「あ…………。ごめんなさい、怒鳴ってしまって……」

「ううん、こっちこそごめんね、根拠のない事言っちゃって……」

 

 少しの間が生まれる。そして二人は静かに笑い出した。

 

「束さんとこんな風に話すことってなかったですよね」

「ふふ、そうだねー。春樹は正直あんまり好きじゃなかったんだ。私達とちーちゃん達の間にいきなり割り込んできたよそ者だったからね、あの頃は」

「そうですね。そこは否定できません」

「でも、私は……今なら春樹の事認めれるかも」

「そうですか?」

 

 二人がリラックスしきっていたところに、春樹と束の前にうっすらと大きな影が生まれた。

 二人は驚いて後ろを振り向くと、先ほどとはまた形がちがう黒いISがあった。

 

「見つけた。こちらアベンジャー2、目標を発見」

『アベンジャー1了解』

 

 春樹は驚愕した、そして束も……。

 今かすかに「アベンジャー1」とそう聞こえた。

 なら、織斑千冬はどうしたのだろう。さっきまでその「アベンジャー1」という奴と戦っていたはずだ。

 しかし、今はもう大丈夫だ、と言わんばかりの余裕の返事。もしかしたら、織斑千冬はやられてしまったのかもしれない。

 そんな思考が頭をめぐる中、銃口をこちらに向けて放とうとしている黒いIS。

 

「じゃあね、さようなら……」

 

 アベンジャー2は銃口を二人の方へ向けてビームを放つ、春樹は束を抱き寄せてそれを間一髪でかわす。

 

「へぇ~、中々やるねアンタ。篠ノ之束を庇いながらそれがいつまで続くかな?」

 

 もう一回ビームを放った。それを春樹は束を抱き寄せながらそれをかわす。

 

(この余裕、アイツ遊んでやがる……)

 

 春樹はその射撃が本気ではない事を悟った。明らかに銃口を向けてから発射するまでの間が長いのである。それは避ける時間を作ってあげているみたいであった。

 

「さて、遊びはこれ位にして……そろそろ本気で殺しに行きますか……」

 

 その黒いISは顔まで隠れていて表情は分からない。けども、笑っている表情が安易に想像できた。楽しそうに二人に近づいてくる。

 そして、剣を振りかざし、二人は横に真っ二つに――なるはずだった。

 目の前にはもう一つの黒い機体がそこにあった。しかしこれは味方なのだとすぐ分かった。何故なら自分達を庇って攻撃を防いでくれていたからであり、そしてその顔は見慣れた人物であったからである。

 

「危なかったね、春樹。それと……もしかして篠ノ之束さん?」

 

 そこにいたのはエルネスティーネ・アルノルトである。彼女のシュヴァルツェア・レーゲンのプラズマ手刀で相手の剣を受け止めていた。

 そしてエルネスティーネの質問に「はい」と答える束。

 

(また他人に助けられたのか……束さんを守るとか言っておきながら……俺は……)

 

 春樹は自分の誓いも守れないような自身に腹が立っていた。

 ISを操縦できる自分だが、その肝心なISが近くにない。もしISがあったとしてもまともに使用したことがないから、束を守れるかどうかも分からない。

 役立たずな自分だな、と春樹は絶望した。

 エルネスティーネは相手の攻撃を受け止めながら、

 

「まさか、篠ノ之束がここに来ていたとはね。ラウラ!」

「は!」

「春樹と篠ノ之束様を保護していろ。コイツは私がくい止める」

「了解!」

 

 ラウラはシュヴァツツェア・ゲーベルに乗っており、春樹と束に近づいた。

 

「大丈夫か春樹、それに篠ノ之束さんも」

「ああ、ラウラ」

「はい、大丈夫です。春樹が守ってくれましたから」

 

 二人はラウラの後ろへ行き、ラウラのISに身を隠す。

 そしてエルネスティーネはアベンジャー2と戦っている。しかし、この狭い空間で戦うにはシュヴァルツェア・レーゲンは不利すぎる。もっと広い空間でないと武器を有効活用できないからだ。ここで使用出来る物といえばプラズマ手刀ぐらいである。ワイヤーブレードなどこんな狭い場所で使用することなど不可能であるが、相手は違う。メイン武器が剣であり、小回りが利く短刀である。そのことからこういった狭い場所では非常に有利である。

 

 相手もこういった場所での戦闘になるからこういった装備にしているのだろう。やはり場所によって装備を換えるのも重要である。

 エルネスティーネとラウラ。その相手に黒いIS、コールサイン「アベンジャー2」。

 この三人がこの狭い部屋で戦っている。

 ラウラはキャノン砲を使った砲台的な役割、そしてエルネスティーネはプラズマ手刀を使った近接戦闘で戦っている。

 

「ふふふ、あなたの装備じゃ、こんな狭い場所では不利だろうに」

「でも、二対一のこの状況ではそんな事を言ってる場合か?」

「何を言ってるの?  達は二人なんだよ?」

 

 その瞬間だった。もう一機の黒いISがエルネスティーネのISを切り裂く。

 

「アハハハハ! 何油断してるんだよコイツは。軍人だろ? ISの部隊の隊長なんだろ? アハハハハ!」

 

 そこで高笑いしていたのはアベンジャー1だった。

 エルネスティーネは吹き飛び、壁に衝突。あまりの衝撃に口から血を吐き出し、そしてISが解除されていた。

 ラウラは言葉を失っていた。たった一撃、たった一撃でシュヴァルツェア・レーゲンのシールドエネルギーを〇にしたのだ。

 ありえなかった。いったいどんな装備なんだ、とそう思ったラウラはエルネスティーネの方を見る。

 口から血を吐き出し、さらに体の方も血まみれ、そして何より見た目では分からないが骨の方までその衝撃は伝わっており、折れているらしい。

 

「隊長!」

 

 ラウラは驚きのあまり隊長の方へ駆け寄る。ショックのあまり涙を流し、妙にかん高い声になっていた。

 

「あらら、そこのちっこいの。守るべき対象を間違えてるんじゃないのかなァ?」

 

 アベンジャー1は馬鹿にしたようにラウラに話しかける。

 ラウラはしまった、と思った。

 軍人らしからぬ今の行動。ラウラは自分の今の失態に心を痛める。

 そして、アベンジャー1は春樹と束に襲い掛かった。

 そのときである。またアベンジャー1は横に吹き飛んだ。まるで先ほどの隠し部屋のときのように。

 

「おやおや、また同じようにやられたな。お前には学習能力というものはないのか」

 

 そこに立っていたのは織斑千冬だった。雪片を握りながら敵の二人に語りかける。

 

「お前ら、私の大切な人に手を出すとはな……。覚悟はできているか?」

「て、てめぇ……見失ったと思ったらこんな所にまた出てきやがって。殺す。ぜってェに殺してやる」

 

 アベンジャー1は立ち上がるなり興奮状態でそう言った。

 

「殺す、か……さて、お前に私を殺せるか? 今の私は機嫌が悪い」

「アハハハハ! 言ってろ逃げた雑魚がッ」

 

 アベンジャー1とアベンジャー2が並ぶ。そしてそれに立ち向かおうとしているのは織斑千冬ただ一人。

 この三人が戦いを始めた。アベンジャーの二人は春樹と束を殺す為。織斑千冬はその二人を守る為に。

 そして春樹と束、ラウラはエルネスティーネの近くに駆け寄った。

 

「ラウラ……ハァハァ……私、もう駄目かも」

 

 壁に頭を強く打ち付けたエルネスティーネは非常に危ない状態になっていた。

 しかしISには絶対防御というものがあり、操縦者の身は守られるシステムがあるはずなのに、エルネスティーネは今瀕死状態にあった。

 束はこの状態がいったい何なのか理解できなかった。自分が開発したインフィニット・ストラトスを超えるそれをあいつらは造ったのだろうか、絶対防御なんてものが無力と化すそれを。

 

「ラウラ……私のこのシュヴァルツェア・レーゲンを使ってくれないか? 私はもうそんなに長くはない。だから、次期隊長はお前にするよ。異論は認めない。私が認めたIS乗りだからな」

「ですが……!」

「ああ、大丈夫。シールドエネルギーは予備のエネルギーパックで補給されてあるから。問題なく今使えるよ」

「いえ、そんなことではなく……」

 

 段々と声が弱くなっていくエルネスティーネ。ラウラの口元に人差し指を持って行き、喋るな、と目で伝えた。

 そして足についているシュヴァルツェア・レーゲンの待機状態である黒いレッグバンドを取り外し、ラウラに授けた。

 

「後は、よろしく頼むよ。……もう休んでいいかな? 結構この状態を保つのは辛いんだよ」

 

 ラウラは唇を噛み締め、そして顔を上げて敬礼をした。

 

「エルネスティーネ・アルノルト大佐……お世話になりました……!」

「うん、ラウラ。春樹と仲良くね。せっかくの同い年のお友達なんだから」

 

 エルネスティーネはそう言って……静かに目を閉じた。

 

『隊長!!』

 

 春樹とラウラは揃ってそう叫んだ。しかしエルネスティーネから反応がない。このことが何を示しているのか……。春樹とラウラ、そしてそこにいた篠ノ之束も十二分に理解していた。

 篠ノ之束はショックを受けた。ISで人が死ぬ。このことを目の前で体験してしまったのだ。束にとってISはいうなれば自分の子供のようなもの。それによって人が死んだ。このことが何よりショックだった。

 そして、そのISを使いこのような事をしでかす奴らを許せなかった。今千冬が戦っている。黒いISの奴らが。

 しかし今の自分には奴らと戦えるだけの力がなかった。今頼れるのは、織斑千冬とラウラ・ボーデヴィッヒという眼帯の子だけである。

 

「ラウラ、その量産機、俺に使わせてくれ」

「何?」

「ラウラはその隊長からのISを使うんだろ? なら、今使っているISを俺に使わせてくれ。頼む!」

「しかし、春樹。お前はISをマトモに動かした事がないのだろう?」

「……そうだ、否定しない。でも、俺は束さんを守ると決めた。どんなことがあろうとも、絶対に。だから、お前がそれでも駄目というのなら、俺は無理やりにでもお前のその量産機を使わせてもらう」

 

 ラウラは目を閉じて、「ふ……」と笑った。

 

「仕方が無いな。ならシュヴァルツェア・ハーゼの隊長、ラウラ・ボーデヴィッヒが春樹にシュヴァルツェア・ゲーベルの使用許可を出す」

「ありがとう……ございます。ラウラ……隊長殿!」

 

 ラウラはISから降りて、隊長から授かったレッグバンドを身に着けた。そしてISを起動させた。

 新しいユーザー登録など、正式に使えるように再設定し直すラウラ。そして春樹もシュヴァルツェア・ゲーベルの設定をする。

 千冬もその光景をチラッと見て、微笑んだ。ついにこの二人の本気が来ると思ったからだ。

 設定はものの三○秒程度で終わる。そして、そこに立っていたのはシュヴァルツェア・レーゲンを身に纏ったラウラとシュヴァルツェア・ゲーベルを身に纏った春樹だった。

 しかし春樹はISスーツを着ていない為、操縦性は悪くなってしまうが、そんなこともお構いなしに春樹はISを扱う。

 

「いくぞ、春樹!」

「ああ、ラウラ隊長!」

 

 ラウラと春樹は千冬の横に並んだ。これで三対二、数ではこちらが有利になったが、問題はそのISの強さにある。相手は専用機のシールドエネルギーを一撃で〇に出来るほどのふざけた攻撃力を持っている。

 奴らの攻撃の前にはシールドエネルギーの量のなど関係ない。一撃でも攻撃が当たればそれこそひとたまりもない。先ほどのエルネスティーネ大佐のように死を迎えることになる。

 

「お前ェ……お前もISを動かす事が出来るのかよォ!」

「どういうことだ?」

 

 春樹はアベンジャー1の言葉を理解できなかった。()()()と奴は言った。なら奴が言った言葉と組み合わせてみる。

 確か奴らは篠ノ之束と織斑一夏を殺す任務を任されているらしい。なら、その()()()というのは一夏もISを動かせる、ということになるのではないのか? そう考えた春樹。

 

「なら、本当にお前を殺さないといけなくなったな」

 

 春樹の質問を無視し、アベンジャー2は春樹を殺すと言った。

 春樹は素早く束の近くに行き、束を守る状態になる。

 

「束さん、待ってて。こいつらを撃退するから」

 

 春樹はそう言って二人にナイフを持って立ち向かった。

 敵の攻撃を縫うようにかわし、攻撃を入れる春樹。かわされはするものの、春樹は物凄く相手を押していた。

 

(なんだよ、これ……相手の動きが見える。どうすればいいのか分かるし、自然と体も動く……)

 

 春樹は自分の動きに驚いていた。ISのおかげなのか分からないが、体は自由自在に動くし、何をすれば、どういったアクションを起こせばいいのか即座に分かる。そして体は思ったとおりに動いてくれる。

 

 イメージできる。何をすればいいのか、どう動けばいいのか。

 

 頭の中の雑念が消える。

 

 頭の中がクリアになる。

 

 相手の動きが良く見える。

 

「なんだ、コイツはァ!?」

「コイツも、我らと同じ?」

 

 アベンジャーの二人はよくわからないことを話していたが、春樹はそんなことも気にせずナイフで奴らを刺そうする。

 そしてキャノン砲で奴らを砲撃する。

 着実に相手のシールドエネルギーを削っていく。

 そんな戦闘に千冬とラウラは眺めているだけだった。

 何故彼女らは春樹の助けに入らないのか、それはあまりにもレベルが高すぎて自分が入ったところで足手まといなる可能性が高いからだ。

 

 それは千冬でさえそう思ったのだ。自分の武器は雪片という剣が一本のみ、これで近接戦闘に割り込んだところでこのあまりの戦闘スピードには追いつく自信はなかった。

 だから、束の保護をする事にしたのだ。

 

(春樹……お前はいったい……何なんだ?)

 

 千冬はそう思った。

 そしてラウラはワイヤーブレードにより相手を拘束するそのワンチャンスを窺っていた。

 左右からの剣をかわし、キャノン砲をアベンジャー1に打ち込む春樹。

 

「なんだ、何なんだよォ! その強さはァ!」

 

 春樹は黙ったまま、アベンジャー1は吼える。

 アベンジャー2による後ろからの射撃もかわし、キャノン砲』を発射する。

 アベンジャー1は剣を春樹に向かって振り下ろしたが、キックによりその剣を弾き飛ばされる。

 そして――

 

「今だ! 春樹!」

 

 ラウラは叫びワイヤーブレードを発射、アベンジャー2の両手両足を拘束。そこにキャノン砲を撃ち込んで撃ち込んで撃ちこみまくる春樹。

 一気にシールドエネルギーを削られ、後方に吹き飛ぶアベンジャー2、そして、千冬による零落白夜で止めを刺されるアベンジャー2であった。シールドエネルギーは間違いなく〇になった。

 

「最大出力の零落白夜だ。下手をしたら命も危険に晒される危険な攻撃だが、お前らを無力化するにはこうするしかなかったと思ってな」

 

 アベンジャー2は動かない。

 そしてアベンジャー1はこれは非常にまずい状態になった、と感じた。いや、これは間違いなく非常にまずい状態なのである。だって、三対一という状態は弾幕を張られてしまえばたちまち蜂の巣になってしまうからだ。

 

「ちぃ……ッ!! こちらアベンジャー1、作戦続行不可能。これより帰還する」

 

 そう言ってアベンジャー1はとても大きなハンマーを持って床を叩き割った。そこには大きな空洞がある。

 失敗したときのために逃走経路を準備していたのだろう。こうなっては追いかけるのは無謀な事なのである。

 

「やったのか?」

 

 ラウラはそう呟く。

 

「ああ、目標は一体を拘束、もう一体は逃走させてしまった」

 

 そして束は、春樹の事をずっと見つめていた。

 

(春樹……やっぱり君は――)

 

 束はそう思ったが、あまりの疲労感に襲われその場に倒れてしまった。

 

「っ!? 束さん!!」

 

 春樹は驚いてISから飛び降りて束の下へ駆け寄ったが、ISから降りた瞬間、春樹もとてつもない疲労感に襲われてしまう。これだけの緊張感を持った逃走と戦闘。これだけの事があればそうなってしまうのも仕方が無いだろう。

 この二人は二回も敵に見つかり死にかけたのだ。そのたびに誰かかしらに助けてもらっていた。この二人は凄く運が良かったのだ。下手をしていたら死んでいた。

 その現実を直面する春樹。

 そして、春樹はその場に倒れてしまった。ラウラや千冬に何か話しかけられたような気がするが、それが春樹に届く事はなかった。

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