ISを改変して別の物語を作ってみた。   作:加藤あきら

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第二章『青か赤の海 -Romance-』《話したいことがあったのに》

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 楽しい海水浴が終わり、温泉も堪能して、(シャルルはとある事情により、部屋に備え付けてあるお風呂で済ました)今は夕食時。一夏達のクラスのみんなは一つの大部屋で夕食を取っていた。

 その夕食とは刺身やすき焼きといった豪華なものであった。

 

 一夏は箒とシャルロットに挟まれて座布団に座っている。一夏は隣の箒に話しかけて、海になんで来なかったのかと聞くと、気分が乗らなかったからとしか返してこない。

 箒はぶつぶつと何かを言ったような気がした一夏だが、なんだか機嫌が悪そうな感じがしたのでそっとしておく事にした。

 一方、春樹はテーブルを前に椅子に座って夕食を取っていた。左隣にはラウラが、右隣にはセシリアがいる。

 セシリアとラウラは正座に慣れていないので、一緒に食事を取る事になった春樹の彼女達への気遣いだろう。

 

 みんなでわいわいと食事を楽しんでいると、部屋にとある女性が乱入してきた。頭にはウサ耳の形をしたカチューシャのような機械を付けており、浴衣姿の篠ノ之束が。

 いきなりの乱入に箒は驚いてしまう。自分の後ろには行方不明だったはずの姉がいるのだから。

 すると束は春樹の下へと歩いていき、そして春樹に後ろから抱きつきながら、

 

「春にゃん、話があるから、後でロビーで待ってるね」

 

 それだけを残して、この部屋から出て行った。いきなりの事でさっきまでの楽しい雰囲気がなくなってしまっている。とても静かになってしまった。

 春樹は、いまの束にはちょっとしたムカつきを覚えてしまった。せっかくクラスで楽しくしていたのにこんな空気にして帰っていった。いまの行動は何の為だったのか……。そう春樹は考えていると、セシリアがとてつもなく元気なさげな顔をしている事に気がついた。

 

「大丈夫か? 気分優れないのか?」

 

 春樹はセシリアにそう聞くと、セシリアは「大丈夫」と答えるのだが、表情は何一つとして変わっていなかった。

 そして春樹は悟った、今までのセシリアの行動と、束が目の前に現れてからのその態度。もしかしたら……春樹はなんとなく、確信は持てないにしてもそう思ったのだ。

 春樹はセシリアの耳元に顔を持って行き、吐息多めでコソコソと話し始める。

 

「セシリア、あのさ……夕食の後に俺の部屋に来てくれないか? 話したいことがあるんだ」

 

 セシリアはピクッと身体を震えさせ、顔を赤らめて春樹の方にゆっくりと向き直る。そこには微笑んでいる春樹の顔があった。

 彼女は心臓をバクバク言わせながら、「はい」と答えて首をゆっくりと縦に振った。

 この反応から見て、彼女はどのような感情を抱いているのか、それが確信を持てるほどに見てくる。

 

「ありがとう、じゃあ待ってるから……」

 

 春樹は席を立って、この部屋から出ると束が待っているロビーへと向かった。

 廊下には誰もいない。恐らく、他のクラスは温泉に入っているだろうし、それ以外のクラスも、みんな自分達と同じく食事の時間だ。誰とも遭遇するわけがない。ただ、先生は別だが。

 さっき夕食を食べていたところからロビーは非常に近い。歩いてすぐだ。

 ロビーまで出ると、そこには束がさっきと変わらぬ姿で立っていた。彼女は春樹が来たのを確認すると春樹の下へと走って抱きついた。

 

「待ってたよ、春にゃん!」

 

 元気よく、子供らしく言う束。だが、春樹はそんな彼女とは対照的に物静かにぼそりと呟いた。

 

「束さん……なんで……」

「え?」

「なんでみんなで楽しく夕食を食べているときにあなたが来るんですか?」

 

 束は春樹の態度を見てびびってしまい、春樹の身体から離れると、彼の顔を見る。その表情は明らかに怒っているのが分かる。

 

「それは……春にゃんに話があったから……」

「なら、メールで連絡すりゃいいでしょう? わざわざあそこに来る必要性なんてないはずだ」

 

 束は何の言葉も返せない。春樹は続けて、

 

「あなたがあそこに来た事で楽しい雰囲気が台無しだ。この行事はね、重要な高校生生活の思い出になりうるものなんですよ? 束さんがあそこであんな行動をするから、それで楽しい雰囲気が壊れてしまったんですよ」

 

 海のときとはシュチュエーションがまた異なる。あの場は単純に遊びだったし、その場のノリが良かったので特に雰囲気は悪くはならなかった。

 確かに、一部の人の元気がなくなってしまったのは否定できないが、全体の雰囲気はよかったのは事実だ。

 しかし、さっきの行動は……あれは食事中だ。束の行動に食事中ということもあってか不快に思う人も多いだろう。

 

「これは一応IS学園の行事の一つなんです。ISの開発者であるから、俺達の専属メカニックであるからといって好き勝手やってもいいってわけじゃないと思うんです」

 

 束は一歩下がる。やはり何も言えない。

 

「それで、話ってのは?」

 

 束は春樹のその聞き方には冷たさを感じた。いや、いつもより言葉に温かさがない。完全に怒っている様だった。

 束は弱々しく、

 

「明日……暗部が動き出すから……気をつけてね……それだけ」

 

 そう言ったときの束の表情はとても不安に満ちて、本当に春樹の事を想っているのが伝わってくる。春樹はそんな束を見て心臓がバクバクし始める。

 

「分かりました。ありがとう束さん。あと、気を付けるのは束さんもだよ」

 

 春樹はそう言った後、自分の部屋の方へと走っていた。

 そして、そこに残った束は遠のいていく春樹を見て不安な気持になる。もうこれ以上会えなくなる様なそんな気がして。

 春樹は自分の部屋へと走る。自分の気持ちがどうにかなりそうだった。わけがわからない。この気持ちは何なのか春樹には分からなかった。

 

(何だよ、この感じは……こんなの初めてだ……)

 

 すると、鈴音から電話がかかってきた。春樹はその電話に出る。

 

「もしもし、なんだよ鈴」

『なんだよって……あんた忘れてんじゃないわよ! 箒の事、忘れてるんじゃないでしょうね!?』

 

 箒の事とは、今日の海水浴のとき鈴音と話して計画されたことである。名づけて“一夏と箒の距離を一気に縮めてみようぜ作戦”――そのままである。

 要するに一夏と箒が二人きりの状態を作り出していい感じの雰囲気にしようというありがちなものである。

 

『こっちは準備OKだって言うのに……そっちはどうなの?』

「わりぃ、これからだ。大丈夫、上手くやるから」

 

 鈴音は笑いながら、

 

『ちゃんとやりなさいよね、まぁ箒もちょっと緊張しててリラックスさせるまで時間が少しかかるからそんなに急がなくてもいいから』

「了解、じゃあな」

『うん』

 

 通話を切ると、また再び自分の部屋へと向かう。部屋は一夏とシャルロットと一緒の三人部屋である。

 春樹は自分の部屋に戻ると、そこには一夏とシャルルの二人が既に部屋に戻っていた。

 春樹は早速箒と会わせるべく、一夏にむかって言った。

 

「一夏、箒が呼んでたぞ。ロビーまで行ってこい、アイツが待ってるから」

 

 一夏の場合、この際ストレートに用件を言った方がいい。一夏の場合、変にひねって言うと変な誤解を招く可能性が大いにあるからだ。

 一夏は、「そうか」と言って何の疑問も持たずに部屋から出て行く。そして、春樹的にはシャルルもこの部屋から出て行って欲しかった。なぜならこの後セシリアがこの部屋にやってくるからだ。このとき春樹はなんでこの部屋に呼んでしまったのか、と後悔したが、それはもうしょうがないとして済ませた。

 

「シャルル、実はセシリアと重要な話をこの部屋でしたいんだ。だから悪いけど……お願いできるか?」

「ふふ……。いいよ。どれくらい?」

「そうだな。長くて二〇分ってとこかな」

「ちょっと長いね。でもいいよ、その辺ぶらぶらしてるから」

「すまないな……」

 

 そして、シャルルもこの部屋からいなくなる。これでこの部屋には春樹一人だけになった。シーンとする自室。テレビも電源をつけてないので本当に静寂に包まれる。

 

(束さん……なんで、そんな悲しい顔を?)

 

 春樹が真っ先に思い浮かんだのは束だった。なぜ自分が束のことで寂しい気持ちになってしまうのか分からなかった。

 だが、これからセシリアがこの部屋に来る。しっかりとお話をしなくては、と思う春樹。彼はセシリアの好意には気付いていてしまった。

 

 彼女はイギリスの女性らしく、褒めると恥かしがりながら「よしてください」と言って謙遜する。

 

 特に春樹がISで褒めたりすると特に恥かしがるし、この前の買い物だってそうだった。春樹と一緒にお出かけできると思って嬉しがっていた。

 どっちかというと、あの時はラウラにずっと構っていたのだが、でもよくセシリアと視線が合ったのは事実。視線が合うと決まって彼女は自分から視線をそらしていく。

 そして今日の出来事、束と一緒に出てきた春樹……そして束と話していたとき、セシリアはなんだか寂しそうな顔をしていたのを覚えている。

 だから、そのことの確認を取って、そしてその話の決着をつける為に彼女を呼んだのである。

 

 

  6

 

 

 織斑一夏は春樹に箒がロビーで待っていると教えてくれたのでロビーに向かうべく廊下を歩いていると、セシリアに会った。

 

「お、セシリアじゃねえか。どうしたんだ?」

「いえ、ちょっと……」

 

 セシリアは誤魔化すように笑って答えると、彼女も一夏に問う。

 

「一夏さんこそ一人でどうしましたの?」

「まぁ、ちょっとな。箒に呼ばれてんだ」

「そうなのですか」

 

 セシリアはビクッと身体を震わせたかと思うと何事もなかったかの様に話を進める。彼女はふと箒の事を思い出す。

 箒はどう考えても一夏の事が好きだ。詳しく聞けば小学校の頃は一緒だったみたいだし、このIS学園において六年ぶりの再会という事もあってか更に箒は一夏の事を意識してしまったのだろうとセシリアは考察した。

 

「まぁ、なんだ。お互いに人待たせてるみたいだし、これで……」

「そうですわね。それでは」

 

 セシリアがそう言って、一夏とは逆の方向へと向かう。一夏はいったいどこに行こうとしているのか分からないが、とりあえず箒を待たせているので急いでロビーの方へと向かう。

 一夏は色んな生徒とすれ違い、ちょっとした視線を受けながらロビーへと着くと、箒はロビーにある椅子に腰掛けていた。

 箒は一夏がやって来たことに気がつくと、顔を赤く染めながら身体を硬くする。心臓が無駄にドキドキするなか、一夏が近づいて声をかける。

 

「よぉ、箒。待たせたか?」

「い、いや……大丈夫だ」

「そうか。で、なんだよ用事って」

「えっと……とりあえず夜風に当たって散歩しながらでいいか?」

「ああ、いいぜ」

 

 一夏と箒の二人は旅館から出て行く。目の前には月で照らされてこれまた美しい海が広がっている。現在は雲ひとつなく、しかもそれなりに涼しい、というちょうど良い環境。夏にしては凄く過ごしやすい気温だ。

 二人はしばらく歩き、旅館から離れて人の雰囲気も感じられなくなったところで二人は地面に座って海を見ながら黙っている。

 ちょっとの間、この幻想的で美しい海を見ながら、箒は言った。

 

「い、一夏……明日は何の日か覚えているか?」

 

 明日は七月七日――つまり、篠ノ之箒の誕生日なのである。

 箒は期待していた。一夏が自分の誕生日を忘れているはずがない。卑しいかもしれないけど、何かしてくれるだろうとそう思っていたのだ。

 

「当たり前だろ、幼馴染の誕生日くらい覚えているさ。ガキの頃、みんなで祝っていただろ、春樹と一緒にさ」

「そうか……そうだったな……」

 

 一夏が言った言葉は正に箒が望んでいたのと同じ言葉だった。箒は妙に身体が熱くなるのを感じながら、気分が高まっていく。

 すると、一夏は思い出し笑いをしながら、

 

「そういえば、覚えているか? 箒の誕生日のときにさ、春樹がくしゃみかなんかしてケーキのロウソクを消しちまった事」

「ああ、あれか。あの場はみんなで笑っていたな。今となっては良い思い出だ」

 

 箒もそのことを思い出して笑う。そして、落ち着いてくると、箒は髪を留めているリボンに手をやって、思い出に浸るようにした。そして一夏に聞く。

 

「……これの事、覚えているか? 私の一〇歳の誕生日にこれをプレゼントしてくれた」

 

 一夏は箒がリボンの事を言っているのに気付き、

 

「もちろん。忘れるわけないじゃないか」

 

 箒は一夏の顔を見つめながら、

 

「私はな、一夏がこのリボンをプレゼントしてくれたとき、本当に嬉しかったんだ。一生大事に使うんだって、その時に決めた。だから、今でも大事に使っているんだ」

 

 一夏は正直、箒が言ってくれたことはとても嬉しかった。凄く前のことなのに、箒は忘れずに、しかもそのときのプレゼントをずっと使い続けてくれたのだ。大事に使ってくれた。一夏は逆に感謝したい位の気持ちになる。

 

「ありがとう箒。そんなに大事に使ってくれて」

 

 そして箒は黙り込む、一夏の方をチラチラと見ながら、それから息を大きく吸って一夏の方をしっかりと見る。

 

「……一夏。明日、大切な話があるんだ、だからその……明日の夜、時間を空けておいてくれないか?」

「え? いいよ、大丈夫だ」

 

 箒はこのとき決心していたのだ。明日、一夏に告白する事を。

 しかし、正直こうやって真正面から言うのはとても恥かしい。春樹には真正面からぶつからないと一夏を振り向かせるのは難しいと聞いていたのでやってみたものの、やはりこうやって言うのは恥かしかった。

 そして一夏は、目の前の少し顔を赤くしながら恥かしがっている箒を見てドキッとしてしまう。このとき、彼には箒の事がいつも以上に可愛く映っていた。

 彼女が告げたその大切な話というのも変な期待をしてしまう一夏であったが、もしその期待が外れてしまったならば虚しく感じてしまうだろうと思って必死で自分を騙そうと平常心を保とうとしていた。

 

「じゃ、じゃあ、おやすみ。また明日な」

 

 箒はそう言ってその場から立ち去ってしまう。箒はこの場から一秒でも早く逃げたかったのだ。そうしないと自分を保つ事が出来なくなりそうだったから。

 そして一夏はその場から立ち去って行く箒の後姿をじっと見ていた。さっきから変に箒の事を意識してしまう。変な気持ちだ。

 今まで幼馴染だと思っていた箒をこういう風に感じることはこれが初めてだった。

 もはや一夏はこのとき箒を一人の女性として見ていた。

 この感情は何なのか、これが恋というものなのか、これが人を好きになる事なのかと一夏は思う。

 

 そして、ひとまず部屋へ戻ろうとしたそのときだ。とある女性の泣いている声がかすかに聞こえてきた。後ろの木の陰から聞こえてくる。いつからいたのだろうか、そう思いながら一夏はその泣いている声の下へと行ってみる。なんとなく聞き覚えのある声だったような気がしたからだ。

 すると、見覚えのある女性が見えた。その女性は篠ノ之束。すると束は近づいてきた一夏に気付く。

 泣いているところが見られた。もう何がなんだかわかんなくなった束は一夏に抱きつく。

 

「ちょっと、束さん!? どうしたんですか、いきなり……」

 

 束は涙を流して、そして苦しそうに声を出した。

 

「春樹に嫌われたかもしれない……もう、駄目かもしれない。一夏ぁ……私、どうすれば良いと思う?」

「どう、って……」

 

 一夏は何でこうなってしまったのか、よく分からないのだ。春樹に嫌われた、もう駄目かもしれないというのはどういうことなのか、その理由を束に詳しく聞いてみる。すると、束はゆっくりと一夏から離れる。

 

「あのね、さっき……春にゃんに怒られちゃったんだ……。なんで食事中にあんな事をしにきたのかって」

 

 確かに、食事中に束が来てそして春樹と何かを話した後、束は部屋から出て行った。そのときの春樹はなんだか不機嫌だったのを一夏は覚えている。

 たぶん、あの時クラスのみんなが静まり返って雰囲気が悪くなってしまったことに怒っているのだろう。

 

 一夏は束の気持ちは確証は持てないが分かっていた。恐らく束は春樹の事が好きだ。なぜ好きになったのかは一夏には分からないが、海の事とか、食事中に春樹に抱きついた事とか見ていれば一目瞭然である。

 これまでも束と会う機会が多かった様である春樹は何らか事があるのだろう。しかし、この二人は付き合っている。という事ではなさそうだ。

 そして束も、異性を好きになる事はこれが初めてなのである。

 そう、これは初恋。

 初めての恋というものはやはり経験がないせいか上手くいかないものである。しかも相手は春樹。一夏の知る限りでは彼は未だ女性と交際したことがないはずである。

 

「絶対に嫌われたよ……どうしよう……ねぇ、どうしたらいいの!?」

 

 束は若干ヒステリックにそう言った。

 

「束さん。大丈夫ですって。春樹はきっとこの程度で人を完全に嫌うという事は無いと思いますよ。アイツはちゃんと自分のやってしまった過ちを反省したら、何事もなかったかのように次からは接してくれます。春樹はそういう奴ですよ」

 

 この前のラウラ・ボーデヴィッヒのときもそうだった。一度は道を踏み外してしまったが、その後ちゃんと反省し、そして、いまでは春樹とラウラはもう仲良くやっている。そして一夏たちとも友達になれた。もうラウラは一夏達の大切な仲間だ。

 

「……ありがとう、一夏。ちょっと元気出てきたよ、ありがとう」

「いいえ、色々と頑張ってくださいね」

 

 束は自分を励ましてくれる一夏には感謝していた。

 そして、一夏には自分の組織に入ってもらう人物。という事は、今後春樹の事で相談できそうだな、と思っていた。

 更にもう一つ。明日には一夏と箒には重大な責務を負わせる事になってしまうかもしれない事を、申し訳ない気持ちなっていた。

 すると、一夏はあることを聞いてみる。

 

「束さんは結局、春樹のことが好きなんですか?」

「うん!」

 

 一夏の質問に束は笑顔で、そして元気良く、力いっぱいにそう答えた。

 

 

  7

 

 

 箒は旅館へと戻ると、辺りを見回し誰かを探している様子の織斑千冬に出会った。箒がどうしたのだろうかと千冬に近づくと、彼女は箒を見るなり、

 

「ああ、篠ノ之。織斑を知らないか?」

 

 と聞いてきた。箒はさっきまで会っていたので、どこにいるのかはわかる。だから、正直にどこにいたのかを話す。

 

「え……ああ、さっきまで会ってましたよ。一緒に夜風にあたっていました」

「そうか。すまないが、呼んできてくれないか?」

「はい。分かりました」

 

 箒は一夏を探す事になったので、再び外へと出る。さっきまで一夏と一緒にいた所まで歩き、その付近を捜す。

 しかし、見当たらない。もう旅館へと戻ってしまったのだろうか、と思うが、戻ったのなら自分とすれ違ってもおかしくないと思ったので、まだこの辺りにいると予測する箒。

 すると、森林の方から声が聞こえてくる。一夏の声のような気がしたので、もしかしたらと思い、その声のした方へと行ってみる。そこには一夏と、自分の実の姉、篠ノ之束がそこにいた。二人とも身体が妙に近く、そして二人とも笑顔で話し合っている。

 

 このとき、箒は嫌な気持になった。自分の好きな男性が他の女性、しかも自分の姉と、二人きりで楽しそうに話をしている。しかも、人目につきにくいところで。さらに一夏と束の二人は寄り添っているようにも見えた。

 こんな状況であるから、ネガティヴな思考に陥ってしまう箒。

 その原因の一夏の事も別にやましい事でもないし、ただの人生相談の様なものだから責められない。こればっかりは誰も悪くなく、タイミングが悪かった、としか言えないだろう。

 

 箒はそんな光景を見て目から自然に涙が出そうになる。自分の気持ちがモヤモヤしたものになり、自分の感情もわかんなくなる。頭の中は混乱して何を考えていたのかも忘れて思考停止に追いやられてしまう。

 箒はその場から逃げ出す様に旅館へと走る。

 旅館へと戻ると、千冬が話しかけてくる。

 

「篠ノ之、織斑は見つかったのか?」

 

 しかし、箒はこんな状況で言えるはずもなく、

 

「いいえ。すみません、見つかりませんでした」

 

 と答え、すぐさまその場から去る。いまにも涙腺が崩壊しそうで、誰にも涙を流しているところは見て欲しくないからだ。だけど、誰かを頼りたいのも事実。箒はこんなときに頼れる人物といえば春樹か鈴音だが、今回ばかりは女性である鈴音しか頼りに出来る人がいない。人気がいないところ、もうみんなの入浴時間が終わっていて誰も来ないであろう風呂の方へと向かった。そして鈴音に電話をする。

 

「鈴……」

 

 そしてついに涙腺が崩壊してしまい涙が溢れてくる。鈴音は涙声になっている箒を変に思い、

 

『箒どうしたの? ねぇ、いまどこにいるの? 今から箒のところに行くから』

「お風呂のところだ……」

『分かった、お風呂ね』

 

 そう言うと鈴音の方から電話を切った。

 そして箒は近くにある椅子に座り込みあふれ出てくる涙をどうにかしようと必死に涙を押さえ込もうとする。だが、止まることはない。止まってくれない。自分では止まって欲しいと思っているのにも関わらずだ。

 必死に自分の感情と戦っていると、鈴音が来てくれた。鈴音は箒を見るなり駆け寄って箒の事を優しく包み込んだ。

 鈴音の顔の横に箒の顔が来る。ボロボロに泣いていた箒の顔は、せっかくの美人が台無しになるほどだ。

 

「箒、どうしたの? こんなになるまで泣いちゃって……」

 

 鈴音は内心焦っていた。つい先ほどまで“一夏と箒の距離を一気に縮めてみようぜ作戦”とか言って二人きりさせた。そして、いま目の前には箒がボロボロに泣いている。最悪の事態も予測した鈴音は自分のせいで……と思い、深刻に考えてしまう。

 

「一夏が……姉さんと……」

「箒のお姉さん……。一夏と束さんがどうしたの?」

「一緒に……楽しそうに話していたんだ……寄り添いながら」

 

 鈴音は何かの間違いだろうと思った。まさかあの二人がそんな関係になるとは思えないからだ。

 とは思ったものの、束と一夏は小さい頃から知り合っていた様だし、可能性があることは否めない。だが、長い間会ってもいないのに、いきなりそんな関係になるとは考えにくい。

 なんだかんだ言って一夏はそういう恋愛事は真面目に考える人で、そういう色恋沙汰に敏感になる中学生のときも、そういうことは真剣に考えていた。

 はっきり言って一夏は容姿も良いしモテる。だが、いままで一夏は女の子と付き合ったことがなかった。本人曰く、付き合うなら本気で好きになった人にしたいと言っていた。

 

 たかが中学生のお遊びの様な付き合いに対しても良く考えていた一夏。そんな彼がお互いの事をあまり知っていない束の事をすぐさま好きになるのだろうか、と思うと首を捻りざるを得ない。

 そもそも、海水浴での一件を見る限り、篠ノ之束は葵春樹の事が好きだと思う。

 だが、本当に一夏の初恋が束だったとなれば洒落にならない。箒の事を更に悲しませてしまう。

 鈴音はそんなことあるわけない。と自分に言い聞かせて「大丈夫」だと思い込ませていた。

 

(一夏なら、箒の事を真剣に考えてくれているはず……)

 

 鈴音は一夏が箒にプレゼントをちゃんと用意してあることを知っている。前に相談を受けたからだ。だから、一夏は箒の事を想ってくれている。そういった確信を持っていた。

 ただ、このタイミングでそれを言うわけにはいかない。

 だが……。

 

「箒、明日はアンタの誕生日でしょ。もしかしたら、一夏が何かくれるかもね」

 

 プレゼントの内容は言わない。だけど、こんな箒をほっとけるはずもなく、プレゼントの事をほのめかす程度で箒の事を励ます。

 

「そう……だろうか……?」

 

 箒は顔を上げて鈴音の方を見ながら言うと、鈴音は笑顔で言った。

 

「うん。きっとそうだよ。一夏の事だもん、用意してくれていると思うよ。だから、明日になれば……ね?」

 

 その言葉に励まされた箒は少しだが、笑顔を取り戻す。

 

「そう……だな。別に、姉さんとそういう関係になっているという確信はまだ持てないもんな」

「そうだよ、だから箒は安心して明日を待ちなよ!」

 

 鈴音は箒を励まし、そしてしばらくの間、箒が落ち着きを取り戻すまで一緒にいてあげた。

 箒は鈴音という親友を持って本当に嬉しいと、その時思ったのだった。

 

 

  8

 

 

 一方、セシリアは春樹が独りだけでいる部屋にやって来た。その部屋にはセシリアと春樹の二人だけである。

 セシリアはこの二人だけの空間に身体が硬くなる。もし、変なことが起こってもおかしくはない。まぜなら年頃の男女が二人だけでいるのだから。

 

「セシリア……」

「は、はい!」

 

 ふと、春樹はセシリアの事を呼ぶと、彼女は慌てたように返事をする。そして、春樹は単刀直入にセシリアに尋ねた。

 

「お前、俺の事……どう思ってる? いや、もっと直接的に言うかな……。俺の事、好き……かな?」

 

 あまりにも質問が直球過ぎる為か、セシリアは慌て、そして恥かしがりながら、あたふたしてマトモに話すことが出来ない。

 しばらくして呼吸を整えると、セシリアは言う。

 

「わたくしは……その……春樹さんの事が好きですわ。あの最初に戦ったあの日から、ずっと……」

「そっか……」

 

 春樹はセシリアの気持ちは十分に分かってあげたし、嬉しかった。

 だが、素直に彼女の気持ちを受けとることは出来なかった。まだ、自分の中にあるモヤモヤする何かがまだ残っているし、そして、いま自分の置かれている状況が、セシリアと交際することを許すわけにはいかなかったからだ。

 仮にセシリアの気持ちを受け止めてあげて彼女と交際することになったとしても、その当の本人である春樹のせいで彼女を苦しめる事にもなりかねない。

 

 そして、春樹には決意している事がある。それは、「篠ノ之束を命を懸けて守る」というもの。これだけは、あの二年前のドイツ軍基地襲撃事件から、それは決めた事だ。何より、春樹は『束の組織』に入って暗部の活動をしているのだ。彼女を巻き込むわけにはいかない。

 特に『因子』を持たないものが関わったのならば、命はないだろう。だけど、春樹にはその力がある……だから。

 

 だけど、セシリアと付き合ってしまえばその責務はどうなる?

 正直なところ、恋愛などしている暇は無かった。いつ暗部の奴らが束の命を狙ってくるのかも分からない。そんな状況で女の子と遊び惚けているなど言語道断だ。彼は束を命を懸けて守ると決めたのだから。

 だから、春樹は強くならなくてはいけない。春樹がISの操縦が上手く、そして強かったのはそういう理由があるからだ。

 目標があれば人は努力できる。

 その言葉の下、春樹は今まで自分を鍛えてきたのだ。

 

「その気持ちは凄く嬉しいよ……でも、いまの俺にその気持ちを素直に受け止めてあげる事はできないんだ」

「え? どうして……。理由を言ってください!」

 

 セシリアは春樹に詰め寄りながら自分の告白を断った理由を尋問のように聞き出そうとしていた。

 

「俺は束さんを守らなければならない立場にいるんだ。これ以上のことは言えない、セシリアを危険な目に合わせるかもしれないから。でも、もう一度言うけど、セシリアの気持ちは本当に嬉しかったよ」

「春樹さんは……束さんの事が好きですのね」

「……!? 違う!」

 

 春樹はセシリアの言葉を聞いた瞬間に胸の辺りにズキッという痛みを感じた。しかし、こんな感じになるのは初めてだ。

 しかも、「違う」とは言ったものの、本当にそうなのか、と自分のその感情に疑問を抱いてしまう。

 

「嘘ですわね……」

 

 セシリアはそう言うと、春樹は黙り込む。

 春樹はどの感情が正しくて、何が間違っているのかわけが分からなくなってしまう。

 

「じゃあ、俺は……どういう風に考えればいいんだよ! 何が本当の気持ちなんだよ! 教えてくれよ……!!」

 

 春樹は混乱していた。

 そして、ついセシリアに向かって叫んでしまう。女性に怒鳴りつけるというのは褒められたものではない。だが、いまの春樹はそれをもしてしまうほどのストレスを感じていたのだろう。

 今まで辛い訓練に命がけの実戦。数々の辛い出来事、わずか一六歳の男の子が耐えれる精神のマージンを優に超えてしまっているのだ。これまで耐えてきただけでも凄い事だ。

 それが、今回の事も含めて様々な要因が重なり、ついにそれが爆発してしまったのだろう。

 

「そんなの分かりません。それは春樹さんの気持ちなのですから、わたくしが分かるわけないでしょう!?」

 

 その時、春樹はついカッとなってしまい、セシリアの事を押し倒す。セシリアの浴衣が少しはだけてしまうが、春樹はそんな事は気にしなかった。春樹はセシリアの事をまっすぐ見つめながら、こう言った。

 

「そうだよな、お前が俺の気持ちなんて分かるはずがないよな……! 人の気持ちなんて他人に分かるわけねえよな……俺の本当の気持ちが……!」

 

 春樹は八つ当たりをする様にセシリアに言葉をぶつける。自分が出来る最大の事を……。

 しかし、セシリアは極冷静に、真剣に春樹の事を見つめて。

 

「春樹さんは……今までわたくしたちに色んなことを教えていただきました。でもそれは、きっとあなたが目標の為に頑張ってきた事をわたくしたちにも教えてくれたということ。春樹さん……自分の気持ちにもっと正直になりましたら? その目標……本来あなたは何を望んでそうなったのかをまた思い出してみましょうよ」

 

 自分の目標。

 春樹が忘れかけていた、命がけで束を守ることに決めたその原点。それは、一夏が誘拐されたことから始まった。あのときに、春樹は目の前で行われている一夏の誘拐に何のアクションも取る事が出来なかった。それが悔しかったのだ。だから、強くなりたいと願った。自分の大切な人を守る為に。

 だから千冬にお願いして、ドイツ軍基地まで足を運んだのだ。

 そして、その時に……束と……。

 

(そうか、俺は……。でも、それでいいんだろうか?)

 

「セシリア……その……ごめん」

「ええ。それより……この格好をどうにかしてくれますか?」

 

 いまの二人の格好は春樹がセシリアの事を押し倒したかのような状態。まぁ、実際押し倒したのだが……。

 しかし、こんな所を誰かに見られたら……、それを思うと背中がぞっとした。自分だけでなくセシリアまで迷惑をかけてしまうことになる。

 そう思った瞬間だった、部屋のドアが開く。そこに入ってきたのは織斑一夏だった。彼は目の前の光景に驚愕していた。

 春樹は慌ててセシリアから離れるが、その行動が更に一夏に不振感を抱かせてしまう。

 

 この部屋の空気が凍りつく。

 シーンとする中、春樹はセシリアに部屋に戻るように言った。彼女を早くこの空気から開放させる為に。元はといえば自分が悪いのだから。

 セシリアは黙って首を縦に振り、春樹の顔を見てそそくさとこの部屋から出て行く。

 すると一夏は普段より低い声で怒った様に言う。

 

「春樹……お前……何してた?」

「いや、やましい事は何一つない。ちょいと言い争いになっちゃてね。で、俺がキレちゃってああなった」

一夏は春樹を睨みつけながら、

「本当か?」

 

 と問うと、春樹は、

 

「本当だ……」

 

 と言うが、一夏はこの春樹の態度には納得がいかず、信じきる事ができなかった。

 いつもの春樹ではない、と一夏は思った。いつも通りの春樹ならば、こんなテキトウな返事はしない。もっと理性的にものを言うはずである。だが、いまの春樹にはそれがなかった。一夏は何かがおかしいと思いながらも、春樹に先ほどの事を伝える。

 

「そうか、ならいい……。それから、さっき束さんに会ったよ」

 

 春樹は身体を少しビクッとさせた様な気がしたが、何事もなかったかのようにぶっきらぼうに言う。

 

「ふーん……それで?」

 

 やはり、今の春樹は何かがおかしいと思う一夏。彼のテキトウな態度を見て一夏は正気に戻させようとキレる。一夏は畳に座っている春樹の胸倉を掴んで無理やり起こさせる。そして、壁に春樹の体を押し付けた。

 

「それで? じゃねーよ!! 束さんは泣いていたんだ!!」

 

 一夏は叫ぶ。それに身体を震わせて反応する春樹。

 

「泣いていた……?」

「ああ、さっきまで束さんと話していたんだ。束さんの気持ち、沢山聞いたよ……。春樹、お前は束さんに愛されてんだよ、惚れられてんだよ!! お前気付いていないのかよ!?」

 

 春樹はなんとなくだが、自分の気持ちのモヤモヤ感が少しだが晴れた気がする。春樹はこのとき理解した。自分の気持ちが何なのかを。

 

「…………」

 

 春樹は黙り込む。そして数秒の間、二人の入る部屋は静寂に包まれていた。そして、春樹の口から言葉が発せられた。

 

「束さんは……どこにいる?」

「この旅館を出て少しの所、木が沢山生えている所だ」

 

 それを聞くなり、春樹は胸倉を掴んでいる一夏の手を無理やり解き、そして部屋から飛び出る。

 

「きゃ!?」

 

 という声が聞こえてくる。その声の主はシャルル・デュノア――もといシャルロット・デュノアであった。いまの声は凄く女性らしく、シャルロットもマズイと思った。だが、そんなことを気にもせず春樹はどこかへと行ってしまう。

 春樹はロビーへと走る。するとそこには織斑千冬がいた。

 

「どうした春樹、そんなに急いで、何かあったのか?」

 

 と聞くが、春樹はその言葉すらを無視して旅館から抜け出した。

 春樹はひたすら走る。すると、木が沢山生えていて、海が綺麗に見えるところまで出てきた。そこは先ほどまで一夏と箒が話していた場所だ。

 春樹は周りを見回すが、誰もいない。春樹はISを起動させ、ハイパーセンサーだけを機能させる。この付近の人の気配を感じようとするが、反応がない。

 束はどこかへと行ってしまった。

 その事が、春樹の胸に突き刺さる。何か物足りないような、悔しいような、様々な感情が胸の辺りを渦巻いている。

 その後も春樹は束がいそうな場所を何箇所も探したが……見つけることが出来なかった。

 

「くそっ……束さん……話したいことがあったのに……」

 

 春樹はそう呟き、そして彼の夜は更けていった。

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