どうぞ。
一夏たちは臨海学校の研修から無事にIS学園へと戻ってきた。
ただ、葵春樹だけは無事にIS学園には戻ってこれなかったのだが……、それでも一夏たちは無事に帰ってくることが出来た。
それは、誇っていいものだと思われる。何故なら、あれだけの事件を解決させてそれでもって無事に帰ってきたのだから。
一夏は寮の方に帰ってくるなり、また新たな問題に直面していた。
そう、シャルル・デュノアの事である。
シャルルは女だということを隠して、男としてこのIS学園で過ごしている。これは彼女の父親の会社であるデュノア社に関連することで、男性としてIS学園に行き、そしてISを動かすことのできる一夏と春樹に近づき、彼らのISについて調べてこい、という命令を受けている。
もちろん、そういう状況から女性であることはバレてはいけないのだが、一夏には偶然にもバレてしまったのである。
それからというもの、そのことは一夏とシャルルの二人の間だけの秘密となっている。
だが、いささか年頃の男と女が同室で寝泊まりするのも、あまりよろしいことではない。
現に一夏は箒に告白し、見事結ばれている。
このことがバレたら箒はどう思うのだろうか……、様々なパターンが考えられるが、良い展開にならないのは確かである。
だから一夏はこうして悩んでいる。このことをシャルルに相談するか否かで……。
一夏が難しい顔をして部屋で悩んでいると、ふと声をかけられる。それこそ悩みの元であるシャルルのものだった。
「どうしたの一夏? そんなに難しい顔して……」
彼女は心配そうな顔で一夏の顔を覗き込む。
やはりあれだけの事があったのだ。疲れているし、何処か体の調子が悪いのかもしれない。彼女が心配してしまうのはしょうがないことだった。
しかし、一夏の体はピンピンしており、そのことについては心配はいらなかった。ただ、シャルルの事についてだけがこんな表情をしてしまう原因だった。
するとシャルルが更に声をかけてくる。
「一夏、もし……、何か悩んでいることがあったら相談してね? いつも一夏にはお世話になってるから、僕も一夏の為に何かしたいんだ」
それが彼女の優しさだ。すぐに何かに気づき、それにすかさず対応してくれる。どことない事で気を使ってくれるのは彼女らしかった。
「ああ……。シャルル、いや、シャルロット。相談が、あるんだ……」
一夏は言葉を吐いている間も本当に相談するのか迷っていたが、最終的には彼女に相談を頼むことにした。
「うん……。なに、かな?」
彼女は少し戸惑ってしまった。一夏が何やら難しい顔をしているのは、春樹の事が関係しているのではないか、と思っていたのだが、シャルルのことをシャルロットとわざわざ言い直したのだ。そこから予測する事は……自分の本当の性別についてのことだと思ってしまうだろう。
それを悟ったシャルルは顔を引き締めた。
「あの……さ、シャルロット。俺さ、箒と、付き合うことになったんだけど……」
彼から放たれた言葉は、彼女の予想していたものとほぼ同じだった。帰りのバスの雰囲気からして、箒と一夏との間に何かがあったのではないか、と思っていたのだ。
心のどこかではこの二人は付き合うことになったのではないのか、と思いながらも、表面上はそれを認めようとしなかった。そこから導き出される彼女の気持ちとは……?
一夏の突然の話に動揺を隠せない彼女。だが、決して泣くことはなかった。
「シャルロットのこと……箒たちにちゃんと説明しないといけないなと思ったんだ。だけど、このことはお前と俺の二人の間だけの秘密だし……。だからそのことについて相談したいんだ」
それが彼の正直な気持ちだった。
「そっか。篠ノ之さんと一夏がね……。おめでとう、一夏」
彼女は若干声を震わせながら言った。自分の動揺を隠しきれなかったのだ。
それに一夏は気づいた。シャルロットの様子がおかしい。この瞬間、一夏はシャルルの気持ちをなんとなくだが悟った。つまり、そういうことだと……。
「無理するなよシャルロット。お前の気持ち、なんとなくわかった。そういうことだろ……?」
彼女は無言で頷いた。つまり、彼女は一夏の事が好きだったのだ。少しでも自分の事を考えてくれて、楽にしてくれた彼の事を。
それから自分が一夏の事が好きになったんだ、ということに気づくまではそう時間はかからなかった。
一夏には箒という存在があることに気づきながらも、彼女は一夏を好きで居続けた。もしかしたら、その二人はそう時間が経たずして結ばれるのではないのか、と思いながらも。
「シャルロット……。俺の事を好きになってくれたその気持ちは本当に嬉しいよ。……でもな。俺は箒を好きになっちまったんだよ。これが俺の選択なんだ。分かってくれ……」
一夏も苦しそうに言った。
彼女の気持ちには今まで気づいていないわけではなかった。薄々には気が付いていたのだ。
だが、見て見ぬふりをしていた……いや、もっと自分が気になる人がいただけなのかもしれない。だから、シャルロットの事を気にかけてあげれなかったのだ。
それほどまで、一夏にとって箒は大きな存在だった。
「うん、わかったよ一夏。でも、僕もうダメみたい……アハハ……」
シャルロットは辛そうに声を震わせ、かすれた声で笑う。
そして、彼女は声を震わせながらも言葉を続けた。
「ねぇ一夏……。最後に、甘えてもいいかな……? ゴメンね、一夏は篠ノ之さんの事が好きなのに、僕って汚い女だよね……」
彼女は声を殺しながら泣き出してしまった。こうなったら一夏も放っておくわけにはいかない。何があったって彼女は一夏の大切な友達であり、先日の事件で共に戦った戦友でもある。
だから、一夏もシャルロットの事を受け止めてあげることにした。つくづく自分が甘い人間だということを自覚して。
「いいよ、シャルロット。思いっきり泣いたって……」
優しい口調で発したその言葉は、シャルロットが我慢していた感情を爆発させた。気が付けば一夏の胸元に飛び込み、声を出して泣いていた。
一夏も、シャルロットのことを今だけは温かく包み込んであげた。
しばらくして……、彼女は一夏の胸元から離れた。
「落ち着いたか?」
一夏が聞くと、彼女は落ち着いた顔で返す。
「うん。ありがとう一夏……いきなり抱きついちゃったりしてゴメンね……」
「いいや、大丈夫だよ。で、どうするか……」
ひとまず落ち着いたのはいいのだが、根本的な問題は解決していない。一夏とシャルロットの関係。それを仲間に打ち明けるかどうか。
シャルルも家の事があるので、そう安直に私は実は女だったんです、などと言えるはずがなかった。
本来ならば、一夏がシャルルの正体が実は女性でシャルロットという名前、一夏や春樹のISについて探ろうとしていたことがバレた時点で、そのことが明るみに出て実家に引き戻された後に酷い仕打ちに合うのは覚悟していたことだった。
しかし、一夏が黙っていてくれたおかげで今は無事にIS学園に通い続けることができている。
だが、それを他の人に打ち明けることは些か気が引けてしまう。だけど、彼女たちなら……、と何処かで思っているのも事実だった。
「一夏……、ひとつ聞きたいんだけど、いいかな?」
「なんだ?」
「篠ノ之さんや、セシリア、鈴にラウラ。みんな信用できる人たちだと思う?」
シャルロットが何をしようとしているのか、一夏はすぐに分かった。きっと、仲間たちに自分の秘密を打ち明かそうかと思っているのだ。
「お前……。ああ、アイツらは俺と一緒に戦ってくれた大切な仲間なんだ。信用してあげなくてどうするんだよ」
一夏は自分の仲間の事を信じていた。自分の知っているアイツらはどんなことでも受けとめてくれるし、秘密は守ってくれる奴らだと。
シャルロットも皆のことは信じたいが、もしこのことで自分が本当は女だということを広まってしまったら、本当に困ったことになる。いや、困ったどころではなくなる。
それが怖くて打ち明けることを戸惑っている。
「うん……それはそうなんだけど。でも、怖いんだ。みんなを信じていないわけではないけど、だけど、みんなを信じ切れていないと言うか、その情報が何処かで漏れたりしないのかとか。あんまりこういうことは拡散すべき情報じゃないから……」
シャルロットの言うことはもっともであった為に、一夏は何も言えなかった。
こういう情報は無駄に拡散すべきものではないことは分かっている。だが、箒たちにそのことを打ち明けるのは果たして無駄なのだろうか。
仮にも命をかけて共に戦った仲間たちなのだ。あまり隠し事はしたくないのも事実。しかし、あまりこういった情報を多くの人に流すべきではないことも事実。
どっちが正解で、どちらが不正解なのか……。それはとても難しい問題であった。
正直な話、どちらが正解とも言えないのだ。
固く考えれば、このことは彼女の家の事情から隠しておいた方が良いに決まっている。
だが、感情論を考えてしまうと、共に戦った一番の仲間たちに隠し事ということも気持ちが良いものではないし、一夏と箒の関係の事もある。
いまこの状況が、この二人の人間関係を壊しかねない要因でもあるのだ。
だからこそ、彼女は悩んでいる。自分が好きになった男性が、確かな幸せを掴もうとしているというのに、自分が原因でその関係を壊してしまうのではないのかと思うからだ。
確かに、好きになった男性が自分の友達にとられてしまったことは確かに悔しいことである。
だが、そのこともその男性が選んだ道だ。自分がどうこう言うことではないと、彼女はしっかりと理解しているのだ。
一夏も大切な仲間の一人である。だからこそ、この関係をどうにかしなくてはいけなかった。
だから、彼女は行動を取る。
「一夏……私、みんなに話してみようかな……本当の事。僕、みんなの事を信じようと思うんだ」
彼女は決心した。自分の事を、真実を仲間に打ち明けることを。
一夏も、彼女が決めたことを尊重して行動を取った。
「ああ。わかった。じゃあ、みんなをこの部屋に呼ぶか……」
「う、うん。わかった」
一夏はメールを打ち、箒、鈴音、セシリア、ラウラの四人に送信した。
シャルロットはしっかりとどう言おうかと考える。変な誤解を与えないように気を付けながら話すために、言葉を選びながら。
これからの事はあまり語らないでおこうと思う。
何故なら、結果はわかりきった事だろうから……。
最高の仲間が、友達を裏切るはずなんて無いのだから――。
「ありがとう。みんな……!」
そのときのシャルロット・デュノアは笑顔だった。
はい、Episode4の後日談でした。
今回の話でシャルロット成分の補給になったかな? 自分の二次創作ではまるで彼女を使えてなかったからね。
ISによる戦闘はなかったけど、一夏の周りの仲間たちは信頼しても大丈夫な奴らなんだよ。ってのを描きました。
次は第二部のプロローグです。
ここからは私の完全オリジナルストーリーです。
乞うご期待!
では。