ISを改変して別の物語を作ってみた。   作:加藤あきら

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第一章『渡航 -Empty_Fight-』《コンバット・モード》

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 七月二三日。午前九時〇〇分。

 一夏と箒は更識クリエイティブの地下施設に来ていた。ちなみにこの地下施設は一般のエレベーターでは来ることはできない。たった一本だけ、この地下に繋がるルートが存在する。それは複雑で、偶然にも迷い込んだ、なんてことは起きないようにしている。

 モニタリングルームで束、千冬と共にしている一夏と箒。

 ここに呼ばれたのは良いが、いったい今から何が始まるのかは分かっていなかった。遂に任務の話が来るのだろうか、それともまた別の話なのか、二人はそれぞれ想像しながら束が喋りだすのを待っている。

 

「まぁ、一人足りないけど……時間だしまぁいいか。じゃあ、ブリーフィング始めるよ」

 

 束が役者が一人不足していることを言いながら、ブリーフィングの開始を宣言したが、箒はそれでいいのかと言葉を出す。

 

「待ってください姉さん。楯無会長は待たなくていいのですか?」

「まぁ、彼女が居なくてもこれから話す内容は問題ないよ。流石に任務の話となったらいてくれないと困るけど……」

 

 それに千冬は補足するように、

 

「更識楯無については、今は一人で任務に向かう準備をしている」

「これから任務……会長一人で……ですか?」

 

 一夏は驚いた。流石にたった一人で任務を行うとは信じられなかったからだ。

 

「このあとすぐにあるんだ。ま、我らがIS学園の会長様はそれほどまで強く、そして忙しいということだな」

 

 ちなみに楯無は以前、春樹と共に共闘していた。普段は楯無と春樹のコンビで任務に赴いていたのだが、今はその春樹が居ない為、彼女一人で任務に向っている。

 だが、彼女一人だけでも十分な程の力量を持っているし、そこまで危険な任務でもない。だが、彼女が現在向っている任務を一夏一人で出来るのか、と言われれば答えはNOである。つまりは、更識楯無は今の一夏を優に超えるほどまで強いということだ。

 

「さ、本題に入るよ。いっくんと箒ちゃんにそれぞれのISを預からせてもらっていたけど、それを返す時が来たんだ」

 

 実は、一夏と箒はつい二日ほど前に束にISを預けていた。その間は、量産機での基本的な事を楯無から教わっていた。

 しかし、束がわざわざ二人のISを預かる……ということは何かしらの新要素がそこに含まれるということは分かったのだが、それが何なのかまでは流石に分からなかった。 

 束は両手にそれぞれ、ガントレットと鈴の付いた紐を持っていた。一夏と箒のISの待機状態の姿がこれである。

 ガントレットは一夏に、鈴の付いた紐は箒に渡される。

 

「よし、じゃあ早速起動させてみようか。ついてきて」

 

 束の一言でここにいた全員が練習場へと向かう。このビルの地下はいったいどれだけ広いのか、と思うだろうが、それも世界的にも有名な大企業だからこそできた事であろう。

 

「あの……束さん。いったいどんなことをしたんですか?」

 

 一夏は問う。すると束は鼻を高くしながら、

 

「それは練習場に着いてからのお楽しみだよ。でも、きっとビックリすると思うから」

 

 一夏は流石にそんなことを言われてしまって更に期待してしまった。いったいどんな改良が行われているのか、どんな武装があるのか、形状はどんな感じになっているのか、気になってしょうがないのだ。

 それは箒も一緒だった。物静かな箒ではあるのだが、それは気になってしょうがなくなってしまっている表れだ。

 

「なあ箒、いったいどんな事になってんだろうな、俺たちのISは」

「さあな。でも、とても期待してもいいんじゃないか? 私の姉がわざわざ私たちのISを預かるほどの事だ。とんでもない変化が起こっていても不思議じゃない」

「そう……だよな……」

 

 そんな一夏と箒の会話を聞いてニヤついてくる束の表情を見ると、それほどまで期待してもいいのかと思ってしまう。

 練習場に着くと、IS学園のアリーナほどの広さは無いが、それでも十分に暴れられるほどの広さをもった場所がそこには広がっていた。

 一夏と箒は上に来ていた服を脱いで、束が作り上げた特製のISスーツの姿となる。

 ISスーツとは、着ているとISは肌表面の微弱な電位差を検知することによって、操縦者の動きをダイレクトに各部位へと伝達できる。また、耐久性にも優れ、一般的な小口径拳銃の銃弾程度なら完全に受け止めることができるという優れたフィットスーツである。

 

「じゃ、早速起動させてみて。解説はそれからするから」

 

 束がISの起動を促すと、二人を息を飲んでそれぞれのISの名前を心の中で呟く。一夏は白式、箒は紅椿、と。

 すると、二人の身体はISの装甲で覆われていく。

 

 インフィニット・ストラトス――通称ISと言われている。一つここでその機能等をおさらいしたいと思う。

 ISは篠ノ之束が作り上げた、現状の兵器では最強と言われている存在で、それは過去に起こった『白騎士事件』で証明されている。

 この事件は、簡単に言えば全世界の軍事施設が原因不明のエラーを起こし、日本へ向けてミサイルが撃ち込まれてしまった。それを第一号のIS、白騎士が、圧倒的なスピードと防御力を見せつけて、そのすべてを撃ち落とした、という事件である。

 

 パイロットがISを装着している状態であれば、数百メートル上空から落ちてもパイロットの身の安全は保障される程の防御力を持っている。

 その防御力を実現しているのが、シールドエネルギーという不可視のバリアであり、そのエネルギーが無くならない限り、すべての衝撃や熱などを遮断するシールドだ。このシールドは体全体、しかもそのバリアはISの表面ギリギリに展開している。

 これは稼動エネルギーとまた別のエネルギーであり、共有はしていない。

 その稼働エネルギーは、固体高分子形燃料電池の事である。フルチャージで四八時間の連続稼働が可能だ。 

 

 さらにISにはハイパーセンサーと呼ばれるセンサーが装備されている。それは全方位に視界を広げる役割を持っていたり、ISの情報を読み取ったり、位置情報を手に入れたり、操縦者の生命反応(バイタルサイン)も知ることが出来る。

 

 それと、ISは常に空中を舞うことが出来るが、それはP(パッシブ・)I(イナーシャル・)C(キャンセラー)で慣性の法則を無視することが出来るからである。これと併用してISのスラスター等で推進力を付けることによって、自由自在に空中を舞うことが出来るのだ。

 

 武器については、拡張領域(バススロット)といわれる機能を使い、量子化して収納することが出来る。これによって容量の限界まで複数の武器を持つことも可能なのである。

 

 そして……、今までの機能だけでも十分だというのに、他のパワードスーツを凌駕する所以は、ISの心臓部であるコアにある。

 それはパイロットの遺伝子に強く反応し、同調する事で動くという結論が出ているが、何故か女性にしか同調は起きないのか、それは分かっていないし、織斑一夏と葵春樹、レイブリック・アキュラというイレギュラーも少なからず存在していることについても不明だ。

 

 しかも、コアは自己進化という能力を持っており、今までそのパイロットと同調してきたそのデータを下にISは自己的に進化を始める。

 最初の進化を一次形態移行(ファースト・シフト)と言い、二度目の進化を二次形態移行(セカンド・シフト)と言う。

 

 もちろん、宇宙空間の運用を目的として作られたものなので、酸素がない空間であってもISの起動中は呼吸が可能になっている。

 

 『白騎士事件』を切っ掛けに、ISという存在は軍事的に使われれば危険なものという認識に変わった。軍事利用を避けるために『国際IS委員会』を立ち上げ、各国から代表を選抜。

 そして、各国のISの開発や所持数などの管理及び監視を行っている。

 さて、ISのおさらいもこの程度にしておこう。

 一夏と箒が身に纏ったISは……あの、葵春樹と同じような仕様となっていた。

 以前の白式と紅椿の面影を残しつつ、とてもスリムな形になっている。それは、以前のものから要らないものをすべて取り除いたようなものとなっており、分厚い装甲なんてものは一切なかった。

 

 以前は一般的な、体の部位ごとに装備されていた装甲と、無線で繋がれており、P(パッシブ・)I(イナーシャル・)C(キャンセラー)の力によって空中に浮いているスラスターがあったのだが、そんな見た目重視なものは一切なくなっている。

 

 まず、薄い装甲は顔以外をすべて覆うように作られており、白式の大型のスラスターは装甲に直接繋げられている。まったくもって無駄をそぎ落としたようなそのISは、以前から使っていた春樹の熾天使(セラフィム)と形状はほぼ同じだった。

 箒の紅椿も同様に、顔より下は薄い装甲で全部が覆われており、紅椿の元々あった大型のスラスターとビットを組み合わせた物が、背中に直接繋がれている。

 

「これは……!?」

 

 箒は自分のISを見て呟く。

 

「箒……これって、あの春樹のISと同じじゃあ……」

「あ、ああ。そうだな……。姉さん、これは?」

 

 箒の質問に鼻をふふんと鳴らして胸を張って説明を開始した。

 

「そう。あの春樹と同じ仕様のISだよ。ISのパイロットの安全を守るような構造をすべて取り外し、戦闘力を極限まで高めた姿がこれ。ああ、それから今までいっくんのISのシールドエネルギーを極限まで減らしていたけど、あれは春樹の熾天使(セラフィム)とは目的が違うんだ」

「どういうことですか?」

「春樹の熾天使(セラフィム)は、シールドエネルギーに使う容量部分をギリギリまでブースターとジェネレーターに注ぎ込んだ結果がアレ。いっくんは意図的に減らしていただけなんだよね」

 

 つまり、春樹の熾天使(セラフィム)はシールドエネルギーを犠牲にしてパワーとスピードを手に入れていたということだ。

 ここで一夏は気づいた。春樹の熾天使(セラフィム)が今の所最高速度と加速力が全ISの中でナンバー1を誇っている。しかし、自分の白式には零落白夜があり、基本それでケリを付ける。それなら、シールドエネルギーに使う容量部分を全てブースターに注ぎ込んでいれば、最高速度と加速力が熾天使(セラフィム)を超えないのがおかしい話だ。

 

「気づいたようだね。そう。白式の仕様上、シールドエネルギーの容量部分をスラスターだけに注ぎ込んでいるのに、熾天使(セラフィム)を超えないのはおかしい。装甲の重さの差もあるだろうけど、それを考えてもエネルギー量を考えれば少なからず勝てるはず……。そう考えているんでしょ? 大正解だよ。意図的にシールドエネルギーを減らした理由は、常にギリギリの状況を作って、いっくんを強くするための私たちの計画だったんだ」

 

 やっぱり一夏の予想は大正解だった。意図的にシールドエネルギーを減らされていた。だけど、このおかげで高度な回避術を手に入れることが出来た。今となっては、してやられた、と思ってしまう。

 

「今のこの形態の白式は、春樹の熾天使(セラフィム)とスペック的にほぼ同じになってるよ。まぁ、最高速度と加速力については春樹の熾天使(セラフィム)を越えてるけどね」

 

 つまり、今この形態の白式は装甲が薄くなって軽量化し、ISのエネルギー配分を変えたことによって更なるスピードを手に入れたということだ。

 

「ははは……すげーや……。春樹以上のスピードか……」

「ただ、シールドエネルギーを失った場合、その装甲の薄さから命を守るものは一切なくなってしまうから。一夏は今まで通りに攻撃を受けないことを前提に戦闘してね」

「分かりました」

 

 次に、束は箒の方を見て、

 

「箒ちゃんの紅椿は以前の仕様とほとんど変わっていないよ。ただ、IS自体の軽量化を行っただけ。だから、スペック的には最高速度と加速力がアップしただけで、何も変わっていないから。ていうか、基本設計は私が出来る限りの完成品だから、変えようもないんだけどね」

 

 箒は自分のISを見た。妙に体のラインを映し出すそのISのボディ。それを見て分かるようにとても装甲が薄いのは見て分かるレベルだ。

 自分が着てみて初めて分かる。こんなものを着て戦うなんて狂気の沙汰だと。

 シールドエネルギーがある内は大丈夫だと分かっていても、パイロット自身を不安にさせてしまう。こんなものを着ていて、攻撃を受けたらどうなってしまうのかと、つい考えてしまうからだ。

 一応、シールドエネルギーという存在がある限りは身体に致命的なダメージは及ばないのだが、そんなもので今までの戦闘に赴いていたとは、葵春樹という人物がどれだけこのようなISで任務をしていたのか、計り知れない。

 同じく一夏もそのことを思っていた。こういった極限まで軽量化し、パイロットの安全性を全く考えないような、戦闘のみを考えたISを着てみて初めてわかるこの狂気を感じていた。

 ここで、一夏はあることを思い立った。

 

「待てよ……、じゃあ春樹は熾天使(セラフィム)をIS学園に来る前から使っていた……!?」

 

 間髪入れずに束は答える。

 

「いいや、春樹はIS学園に入学する前は違うISに乗っていたんだ。あの熾天使(セラフィム)が完成したのは本当に最近の事なんだよ」

 

 正確に言うと、春樹が以前使用していたISは言わば熾天使(セラフィム)の雛型と言っていいだろう。元々はあんな薄い装甲で戦闘だけを考えたものではなく、一般的なISの形状をしていたのだ。

 今一夏と箒が装着していて、現在の春樹が使用しているだろう熾天使(セラフィム)の様なカタチが生まれた経緯はこうだ。

 束は春樹のISの操縦センスは良い意味で異常だと思っていたのだ。それは共に仕事をこなしていた更識楯無も感じていたのである。

 戦闘ログを見ていた束は気が付いたのだ。今のISではISの方が春樹に追いついていないことを、それ程まで春樹の操縦センスは常識を脱しているいるということを。

 そこで制作したのが、操縦者を守る部分をそぎ落とし、戦闘の事だけを考えたISである。それがクラス代表を決定する戦いのときに登場した熾天使(セラフィム)だ。

 このISを春樹に渡すかどうか、束は最後まで悩んだ。

 だが、今後IS学園に何かしらの不幸がやってくると悟った束は春樹にこの熾天使(セラフィム)を渡すことを決意したのだ。

 そして、春樹は見事乗りこなしていた。

 これまた戦闘ログを見たときは、開いた口が元に戻らなかった。

 初めて乗るISだとは到底思えない。絶対に、見慣れない、そして乗り慣れないISを身に着けて、それでもって性能を最大限に使用するとは春樹のセンスはやはり凄まじかった。

 それから束はこの熾天使(セラフィム)と同じフレームをより実践向けになるように改良を続けた。それで一応完成品となったのが一夏と箒が身に着けてる白式と紅椿ということになる。

 

「あと、バイザーを頭にかぶってね」

 

 と束は注意を呼びかけた。

 一夏と箒はISの設定の欄から武装についての欄へと向かう。そこには『Visor 』という項目があり、それを選択すると一夏と箒の頭部に、顔が隠れるように仮面の様なバイザーが現れた。

 

「な、なんだこれ……?」

 

 一夏は思わず言葉を漏らしてしまう。

 

「今つけているバイザーは、顔を隠すことはもちろん、網膜投影される視界より鮮明で、より多くの細かな情報を見ることができるものなんだ。どう? 情報量と視界は網膜投影と比べものにならないでしょ?」

 

 一夏と箒ははい、と呟くように言った。あまりにも画面が鮮明で情報量が多いため、あっちゃこっちゃと様々な方向を見ながらバイザーの調子を調べている。

 

「さて、じゃあ早速動かしてみようか。ちーちゃん、暮桜を装備して~」

「分かった」

 

 千冬は上着を脱いでISスーツの姿になり、暮桜(くれざくら)を装備する。とてもシンプルな装備がそこにはあった。剣が一本、腰にハンドガンが装備されているだけだった。

 それもそうだろう。千冬の暮桜には一夏と同じ零落白夜というワンオフ・アビリティを持っているからだ。それは一撃必殺の能力で、それに特化した仕様となっている。

 

「さぁ、二人で織斑千冬を倒してみよう!!」

 

 そう束が言うと、モニタルームへと姿を消す。

 

「ふ……。さあ、来い!!」

 

 一夏と箒の二人は千冬の声を合図にISを加速させた。

 

(うっ!? 速い……。このスピードが白式、お前の速さか!!)

 

 一夏は予想以上の加速力に驚いていた。あまりにも急激な加速に、周りの景色が歪んで見えるが、見るのは一点、千冬のみだ。

 一方箒は一度距離を取り、ビットを展開。一夏は一気に千冬との距離を詰めて接近戦を挑む。

 箒が射出したビットからビームが発射され、それは千冬へと向かう。もちろん、千冬はこれを回避するが、目の前には一夏が居た。

 そう、今の箒はあくまで一夏のサポートでしかない。一夏が有利に動くために、遠距離からビットを使い、千冬を一夏の攻撃範囲へと誘導する。

 一夏は目の前に現れた千冬に向って雪片弐型を振るうが、千冬は同じく刀である雪片で受け流した。

 二体一では流石に分が悪いと判断した千冬は標的を箒へと向け、箒が居る方向へと一気に加速する。

 だが、箒もただつっ立っているだけではない。

 本来、箒の紅椿は、追加装備をせずに全距離に対応できるように開発されたものだ。

 無論、急に接近されたからといって、ただ斬られるだけの箒ではない。素早く雨月と空裂の二刀を展開し、千冬の剣を受け止める。

 

「流石だな。私の強襲を受けとめるとは。入学当初のお前とはまるで別人だ」

「私は……、守りたいものを決めてからずっと練習を続けてきました。だから、今の私と一夏が組めば、千冬さんだろうと負けませんよ!」

 

 と、箒が言った瞬間、一夏が千冬の背中を攻撃しようとした。しかし、千冬はその攻撃を察知し、箒を押してその一夏の斬撃を回避したのだ。

 

「やはり、私一人で今のお前たち二人と戦うには荷が重いな……」

 

 もはや、この二人の強さには敵わないと今身を持って感じた千冬。気が付けば、自分が知らない強さを身に着けていた。人を育てる身としては、この二人の成長を喜びたいものだが、素直には喜べないのが正直なところだった。この強さを身に着けた理由が理由だからだ。

 

「じゃあ、私がお手伝いしましょうか。織斑先生♪」

 

 と軽い声で登場したのは水色のISであった。

 そのISの操縦者こそ更識楯無。一夏、箒と同じく、『束派』の戦闘要員の一人である。

 彼女の操るISは、一夏と箒が扱っているような特殊なものではなかった。

 霧纏の淑女(ミステリアス・レイディ)、それが彼女の操るISの名だ。

 ボディーのカラーは水色。アーマーは面積が全体的に狭く、小さい。それをカバーするように透明の液状フィールドが形成されており、水のドレスのようになっている。

 彼女のIS、霧纏の淑女(ミステリアス・レイディ)は、ISのエネルギーを伝達するナノマシン制御によって水を自在に操ることが可能である。その機能によって、空気中の水蒸気も彼女の味方となる。

 彼女の周りには、アクア・ナノマシンの製造プラントである、アクア・クリスタルと呼ばれる左右一対の状態で浮遊しているクリスタルのようなパーツがある。そこから水のヴェールを展開し、マントのように操縦者の体を包み込むことで射撃武器を無効化する能力を持つ。 

 そして、彼女の手には巨大な槍があった。

 その名を蒼流旋(そうりゅうせん)

 表面に超高周波振動の水を螺旋状に纏っていて、先端部分がドリルのように回転し、内部には四連装ガトリング・ガンを内蔵している。近距離から中距離に対応する武装だ。

 

「会長!? なんで……これから任務なんじゃ?」

 

 一夏が驚きの声を上げると、

 

「いやぁ……ISの最終確認が終わったと思ったら、なんか面白いことやってるからさ。ISの調子を確認する為にそのまま劣勢の織斑先生の味方についちゃった」

 

 と楯無は軽い声で返し、言葉を続ける。

 

「さてと、その新フレームのテストでもしてるのかな。じゃあ、私もそれでお相手しよう。コンバット・モードに変更!」

 

 と楯無が宣言した瞬間、ISは一瞬で一夏たちと同じく、頭にはバイザーが。そして、フレームはスリムな形状へと変化した。

 

「束さん、俺たちのISもあんな風に従来のものと、今のこの……コンバット・モードと呼ばれるやつに変更出来たりするんですか?」

 

 彼女は通信を使ってその疑問に答えた。

 

『うん、もちろん。暗部の仕事の時にはその形態、コンバット・モードの状態で任務をこなしてもらうから。機体情報の漏洩と個人の特定を防ぐためにIS自体からはジャミングがかかる様にしたしね』

 

 見た目に変化が起こるから、それを元々のISだとは思わないし、コア等の情報からそのISを調べようとしても、ジャミングがかかるから調べられない。一夏たちがこの暗部にかかわっていると分からなくするためだ。

 

 このコンバット・モードはギリギリまで装甲を薄くした事によってIS自体の軽量化をしたものだ。それによって燃費の向上とボディの小型化、より高速な戦闘と細かいトリッキーな動きが出来るようになっている。

 

「さぁ、話はそれぐらいにしていくよ!!」

 

 楯無は槍を片手に箒の下へと突っ込んだ。

 箒は剣を振るってビーム状の斬撃を生み出して楯無を攻撃するのだが、それはアクア・クリスタルが生み出す水のヴェールで防いだ。

 

「そんな真正面からの攻撃が当たるとでも?」

「ちぃ……!!」

 

 箒は一直線に突っ込んでくる楯無をその場から離れることで回避する。あの大型の槍が直撃すればひとたまりもない。

 

「ふふ……逃げなさい。とことんとね。攻撃を受けないことが生き残る為に必要な事だから」

 

 楯無は槍に付いている四連装ガトリング・ガンを逃げていく箒に向って放つ。無数の弾が彼女を襲うが、ここでの一夏の対応が早かった。

 すかさず一夏は楯無に接近して、攻撃を止めて回避行動を取らざるを得ない状態へと持ち込む。しかし、ここでもう一人の存在を忘れてはならなかった。

 そう、千冬の存在である。

 楯無が避けた時、一夏の目の前には剣を振ろうとしている千冬がいた。

 マズイ。

 一夏がそう思った矢先、箒の雨月から放たれたと思われる対単一用の極めて範囲の狭く、それでもって鋭いエネルギー刃が千冬を目掛けて飛んできた。

 千冬はそれを回避しようとするが、かすかにヒット。シールドエネルギーが少々減少した。

 

(当たった!? 箒の奴、私に攻撃を当てるとはな。そこらの代表候補生より強いんじゃないか?)

 

 千冬は驚いた。過去に日本代表の選手としてISを操っていた身であるし、戦闘スタイルからいっても、射撃系の攻撃に関しての回避行動については我ながら自信があったのだ。

 しかし、この箒の攻撃が当たったとは……。国の代表選手となってもおかしくない力を身に着けているのではないか、と思ってしまう。

 そう千冬が思っているのも束の間、楯無は箒のサポートを無くすべく攻撃を続けていた。

 千冬もその攻撃に参加しようと箒の下へと加速する。

 一対一を二か所で繰り広げるよりも、二対一を二回やった方が良いのは、基本中の基本である。まぁ、それも状況によってまた変わるのだが。

 

「千冬姉!? くそっ、待ちやがれぇ!」

 

 一夏は千冬の後ろを追う。このままだと、箒は二体一で袋叩きになってしまう。それだけは回避したかったのだ。

 箒は楯無の猛攻をなんとか凌いでいた。一対一だからなんとか凌いでいるものの、ここに千冬という存在が来てしまったらどうなるのか。

 流石に箒一人だけの力ではどうすることもできない。ここは一夏の力がどうしても必要だった。

 

「もらった!!」

 

 千冬はそう言いながら雪片を振りかかろうとする。

 その瞬間――楯無と千冬のISは吹き飛ばされ、シールドエネルギーが完全に失われていた。

 そこに立っていたのは、零落白夜を発動させている一夏であった。

 箒はキョトンとした顔で一夏を見る。同様に、楯無と千冬もキョトンとした顔で一夏の事を見ていたのだが、束だけは違ったのだ。

 束は誇らしげな顔をしながらこちらを見ている。

 

「はい、練習終了。お疲れ様、みんな!!」

 

 そう言ってから束はモニタルームからその姿を現した。

 ゆっくりと千冬の下へと歩いていく束。だが、誰一人としてそこから動く者はいなかった。否、動けなかった。いったい何が起こったのか、それを頭の中で整理するだけで精一杯だったのだ。

 

「あれ~、どうしたのみんな? もしかして、一夏のスピードに驚いちゃったぁ?」

「おい……束。何を、いや、何が起こった?」

 

 千冬はゆっくりと言葉を出した。

 

「いや、何がって言われても……。いっくんがあのスピードを使ってケリを付けただけだよ。ねぇ一夏、君が望むスピードを与えたけど、どうかな?」

「ええ。ありがとうございます。申し分ないですよ」

 

 一夏は最初から知っていたのだ。詳しくは分からなくとも、超絶スピードを手に入れることを。何故なら、これだけのスピードを望んだのは一夏本人なのだから。

 春樹と並べるほどの、いや、春樹を超えられるだけのスピードを望んだ。それを束は実現させた。それだけの事である。

 しかし、そんな周りの人が分からなくなるほどのスピードを操れるのか、ということなのだが、それについては問題はなかった。

 彼は剣道をしているときに感じていたことがそのキーである。

 その感じていたこととは、時折ものがゆっくりに見える、ということである。

 これは、おそらく一夏が『因子の力』を持ったことによって生まれた力だろうと束は言っている。その力は『因子の力』を開放することによってその力は完全に開花したのだ。

 故に、これだけのスピードを自信を持って操ることが出来る、ということだ。

 

「待て一夏、じゃあ……お前は……」

「皆まで言うなよ箒。俺は自分で望んでこのスピードを手に入れた。シールドエネルギーを犠牲にしてな。でも、心配はいらないぜ。攻撃が当たるなんてことは絶対にしないからな。じゃあ、俺はシャワー浴びてくるから。また後でな」

 

 そう言って、一夏はその場を後にしてシャワールームへと向かった。

 その場に残される一同は、一夏の覚悟にただ息を飲むことしかできなかった。

 するとここで束は楯無を呼び出した。これは前もって予定されていた作戦を確認するためのものである。

 モニタリングルームに戻った楯無、束、千冬の三人。本日二本目の作戦の概要を千冬が説明している。

 

「じゃあ更識、連投ですまないのだが、これから――」

 

 その内容とは――。

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