ISを改変して別の物語を作ってみた。   作:加藤あきら

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第二章『初動 -First_mission-』《死への恐怖》

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 作戦開始時間が迫る。束派の人々は着々と出撃準備を整えていた。

 戦闘班の織斑一夏、篠ノ之箒、更識楯無。

 他にも物資回収班など、バックアップする人たちが存在している。

 そして束派の一番大きなバックは国際IS委員会という存在だ。失敗さえしなければ怖いものは無い状態になっている。この状況を作ったのは何よりも篠ノ之束と葵春樹が懸命に動いてきたということが最大の要因だ。

 そんな中でいきなり動ける一夏と箒はある意味幸せなのかもしれない。

 都内の地下施設がその違法なISと武器を製造している場所となる。その地点へ車で移動している一夏たち三人。

 こういう仕事にもう慣れてしまっている楯無はある程度リラックスできているのだが、問題は一夏と箒だ。この二人は初出撃ということもあってガチガチに緊張してしまっている。

 先ほどまでISと会話したり、ご飯を食べたり、みんなと話したりしてリラックスしていたはずなのだが、作戦開始直後になってまた緊張しだしてしまった。

 

「ははは、あんまり緊張しないの。いや、ある程度の緊張は必要だけど、過度な緊張は作戦の失敗に繋がるからね。もうちょっと肩の力を抜いて……。そうだ、ガムでも噛んで落ち着きなよ。はい、一夏」

「あ、ありがとうございます」

 

 楯無が取り出したガムをひとつ頂こうとする一夏。板ガムに手を伸ばし、それを取ろうとした瞬間――バチン!! という音とともに一夏の指が挟まった。

 

「痛てえええ!? なんじゃこりゃあ!!」

「あははははははは!! 一夏ったらそんな古臭い悪戯に引っ掛かるなんてマジウケる。あははははは!!」

 

 隣でその一部始終を見ていた箒も思わず笑みが漏れてしまっているし、一夏もなんだかんだで笑ってしまった。先ほどまで言葉も出てこなくなるほど緊張してしまっていたのに、今ではこの様だ。

 

「ふふふ、よかった。君たちの笑顔が返ってきて。さっきまでの君たちの顔といったら、もう傑作。あー、写真撮っておくべきだったな。タイトルは緊張する学生たち」

 

 と、いい加減この会長のからかい様にムカついてきた二人はこう言った。

 

『もうやめてくださいよ会長!!』

 

 一語一句、さらにタイミングまで揃った二人。それに対しても楯無は二人をからかう。

 

「二人とも仲良いよね。いいなー、相性抜群だねぇこのお二人は。はぁー熱い熱い」

 

 恥ずかしがりながら何も言えなくなってしまう一夏と箒。ただ、この二人の緊張は少しばかりか解れていた。楯無のこのトークで気持ちが少し楽になっていた。

 このことをいま理解出来た一夏と箒。気が付けば、先ほどまで緊張してガチガチだった自分はもうここにはいない。

 適度に緊張がほぐれ、戦うことに向けて気持ちが楽になった自分がいる。流石は先輩更識楯無だろうか。いくつもの修羅場を潜り抜けてきた人物だろうから理解できる初陣のときの心情。

 春樹もそんなときがあったのだろうか、と考える一夏。

 すると、楯無が二人に声をかける。

 

「さて、目的地に着いたよ。作戦開始まであと二〇分。他の班も着々と準備をしているはずだから、私たちも早く」

『わかりました』

 

 二人は声を揃えて返事をした。三人は車から降り、目的地へ徒歩で向かう。

 人々、そして車が行き交う道なり。本当にこんなところに違法なISを製作する施設があるのだろうかと疑問に思ってしまう。

 何よりもここは東京、日本の首都である。そんなところで堂々とする方がおかしい。いや、灯台下暗し、という言葉があるように、こんなところでやるからこそ意味があるのではないのだろうか。

 不自然な様子にならないように、あくまで男子高校生と女子高校生として街中を歩いていく三人。ただし、何も考えないで歩いている訳ではなく、周りをきちんと見ながら歩いている。

 何者かにつけられてはいないのか、その施設の周辺を見回りしている人間がいるのかいないのか、道行く若者に交じって普通に歩いている様に見せながら着々と目的の施設に近づいている。

 ただ、少々問題があった。それは、後ろから誰かに監視されているということ。一直線に施設へと向かって行ったのがまずかったようだ。

 三人はアイコンタクトでそのことを確認し、楯無は一夏と箒に小声で命令を下す。

 

「(ねぇ、一夏、箒。あんたら目的地の地下歩道に入って恋人らしいことしてなさい。いいわね?)」

 

 一瞬、楯無が何を言っているのか理解できなかったが、冷静に考えれば彼女の意図を理解できた。目的地の地下歩道に入って恋人のやるようなことをやれば、誤魔化せるかもしれないと踏んだのだ。

 一夏と箒は他人には分からないほど小さく頷いて、恋人繋ぎで手を握る。そのまま自然に楯無とは別れて地下歩道へと入っていく。

 ある程度人目のつかないようなところまで来た二人は、お互い見つめあった。

 

「箒……。こんな形だけど……」

「何も言うな。どんな形だろうと、私は一夏のすべてを受け止める」

 

 顔を赤らめる箒。それを見た一夏は気持ちが高ぶった。あまりにも可愛すぎると思ったからだ。

 どちらからということもなく二人は唇を重ねた。最初はフレンチキス程度の軽いものだったが、次第にお互いは強く求めあっていく。

 だんだん激しく、舌を絡め合うようになる。体の温もりと、口に溢れる二人の唾液。それを二人は感じ、しっかりと味わうように堪能する。

 二人の吐息が段々と荒立たしくなっていき、気分が高まってきたのか、一夏の手はついに箒の胸元へと向った。

 最初は優しく、時に激しく。彼女の胸を弄る。

 箒も段々と興奮してきた。大好きな男性に、こんな屋外で体を弄られる。だがそれも興奮する要因となった。

 

「ちょっと~。作戦中なんですけど……」

 

 いきなり声を出したのは更識楯無だった。

 ハッと我に返った二人は顔を真っ赤にして顔を俯かせてしまう。

 

「いや、恋人らしいことをしろって言ったのは私だけどさ……。何もそこまでやれとは言ってないじゃない……。あんたらどんだけ溜まって……。もういい、これ以上は悲しくなるから言わない……。あ……写真を――」

『撮るな!!』

 

 二人は間髪入れずにツッコんだ。

 そんな事よりも確認しなくてはいけないことがある。一夏は楯無に確認した。

 

「跡をつけてきた奴はもう?」

「ああ……君たち二人を見て居なくなったよ。あんなもの見せられちゃあね、誰だってコソコソっと立ち去るよ……。って、君たちはそこまで読んで……」

 

 確かにそういうことを考えていなかったわけではないが、七割ほどはお互いに純粋に求めあっていたというのは隠しておくことにした。これ以上、楯無が自分たちをからかわないようにするために。

 

「ま、まぁ……」

「ふん……。ほんじゃまあ、気を取り直して行くよ」

 

 一夏と箒は楯無の指示に従って、地下歩道を歩いていく。

 更識の命令で、ISの機能である網膜投影で施設内の情報を確認していく。この情報は事前に潜入捜査の専門家がこの施設に侵入したときに手に入れた情報だ。これは作戦が始まる前に一夏たちに配布されたものであり、一応この中の情報は頭に叩きこんである。いま網膜投影で見ているのはあくまで確認の為だ。

 

「いいかい? 施設に入る前にこれに着替えて。この施設の研究員が着ている制服だよ。今着ている服はここに置いておいて大丈夫。回収してくれる人が来るから」

 

 と言って楯無が渡してきたのは少し地味な白衣とその中に着るこれといって特徴の無い黒い服だった。これも事前に潜入捜査を行った人物が回収したものだろう。

 三人はこの場で着替える。人目が付きにくい場所でこそできることだ。ただ、一夏にとって目を逸らすことを強要されたのは、箒も楯無もこの場で着替えるということ。ただ、二人はあまり気にしていないようだった。楯無はこういうことを何回かやってきたから、箒は元々一夏に見られたところでもはや関係ないからだろう。

 着替え終わった三人は、施設へとつながる隠し通路の下へと進んでいき、何の変哲もない壁の前に立った三人。そして後方から現れた物資回収班の人たち。いよいよ作戦が本格的に開始される。

 壁の一部に良く見ると僅かな隙間があった。それをドライバーでこじ開けると、ナンバー式のロック装置があった。楯無は事前に調べてあった番号を入力してその扉を開ける。

 

「じゃあ、みんな。焦らずに、慎重に、そして速やかに行うよ!」

 

 網膜投影で映されたマップを頼りに三人は施設へと入っていった。回収班はここで待機。一夏たち三人が動き次第、回収班も行動を開始し、物資やデータを回収する作業に入る。

 三人は上手い具合に距離を取りつつ、お互いの視界に入るように施設内を歩いていく。なるべくこの場所の研究員と顔を合わせないようにして、予定の場所まで移動する。そこは、この施設の一番重要な場所。そう、この施設の武装を保管している場所である。

 目的地はすぐそこなので、楯無はとても小さな声で連絡を入れる。

 

「00から回収班へ。行動開始。01と02はそのまま私にこの距離を維持しつつ目的地に向かう」

 

 二人からの了解、という声と同時に警報が鳴りだした。回収班が正面から突入したからだ。

 ちなみに、00とは更識楯無を示し、01は織斑一夏を示す。そして02は篠ノ之箒を示す。これもこの三人の本名が流出しないようにするための物。その時によって偽名を使ったりするのだが、今回の場合、各人員にナンバーが渡され、それによってやり取りをする方式を取っている。

 一気に研究所は騒がしくなる。それと同時に一夏たち三人はISを装着した。顔にはあのバイザーも装着され、顔は完全に隠されている。これも身元がばれないようにする為。なんたってこの三人はまだ高校生だ。顔がばれたことによって、生活に支障が出る可能性がある。そうなれば、暗部での活動にも支障が出る可能性があるからだ。

 

「行くよ、01、02!!」

『了解!!』

 

 その言葉と同時に目の前にあるIS及びその他の武装を破壊する。一夏の斬撃と、箒の斬撃、そして楯無が放つガトリングガンによる弾の嵐。それらの攻撃によって倉庫内の武器は無残にも使用できるようなものではなくなっていた。

 施設内は大混乱だ。一夏たちがいきなりIS等を保管している倉庫に現れ、しかもその中の物を破壊しつくしたのだから。

 

「次、行くよ。離れないように!」

『了解!!』

 

 逃げ狂う力を持たない、いや、力を奪われた研究員たちは、様々な言葉が飛び交っていた。中には、どうしてこうなった、ここの施設はこんなにもザル警備なのかよ、という言葉もあるくらいだ。

 確かにこんなにもあっさり攻略できてしまうのは、警備の方が弱いせいだろう。ただ、この施設のカモフラージュはとても良くできていたことは認めらざるを得ないようだ。この施設の足を発見するのにはだいぶ時間がかかってしまった。

 ただ、その足が掴めた時点でこっちの勝ちは確定したも同然なのかもしれない。何故なら、武力をほとんど持たない施設なのだから、施設の場所とその構造の情報がこちらに渡った時点で攻略はとても簡単だ。

 施設内の武力を持たない研究員は逃げ惑う。ここに残っているこの施設の関係者はおそらくISか何かの武力を持っていることになる。

 一夏たちの前にはISを装着した人物が現れた。そのISはどこの国の物なのかはわからない。ただはっきりしていることはこのISを行動不能にしなくてはいけないということ。

 目の前に現れたISは三機。これからまだまだ出てくる可能性がある。まだ数が少ないときに倒しておかないと後々厄介なことになる。

 

「何なんだ、お前たちは。何者だ。それに何だそのISは!?」

 

 ISを装着した一人がそう三人に問うた。

 

「答えると思っているのか、それに質問が多いぞ。01、ヤれ」

 

 楯無の命令に一夏は小さく頷くと、零落白夜を発動し、超絶スピードで敵ISに一気に接近。これこそ、一夏が防御力を捨ててまで手に入れたスピードと瞬間加速(イグニッション・ブースト)が織り成す言わば瞬間移動に近い現象。

 そんな一夏に敵勢力は動くことが出来なかった。気が付けば白いISが目の前にいて、気が付けばシールドエネルギーを失っていて、そして気が付けば水色のISが目の前にいて、トドメを刺すようにして腹部に槍が突き刺さっていた。

 目の前のIS操縦者は即死だった。目の前には残り二機。一夏は凄いスピードで次のISを斬ったと思うと、三機目のISを斬っていた。この間約五秒ほどしか経っていない。

 

(……人が、死んだ。俺は……、くそっ!! くそっ!! くそぉぉぉ!! 分かってる。分かってるんだ。人を殺さなくちゃいけなくなることぐらい。分かってたんだ。今は会長が止めを刺してくれている。だけど、いずれは俺も……っ!!)

 

 一夏はいまにも泣きそうな顔をしていた。だが、その顔をバイザーに隠れて他の人には見えない。ただ、心が痛かった。人としてやってはいけないことをした罪悪感が彼の心を満たしていく。事実、殺したのは一夏ではないのにだ。今は敵ISのシールドエネルギーを零落白夜の力で消失させるだけ。

 だが、人を殺める行為に加担しているという事実はどうしても拭いきれない事実。いずれは今の会長のポジションを自分がやることになるだろう、と想像する一夏は恐怖していた。人に直接手を下して人を殺すことに恐怖していたのだ。

 そのとき箒はその光景をただ見ていた。目の前の敵三人が死んでいく様を。楯無が突き刺した操縦者からは尋常ではない程の血が流れ出ていた。いや、流れる、というよりは、噴き出る、という表現の方が正しいのかもしれない。

 

「02、見ていたね。これが私たちの仕事。そう……悪党だよ、私たちはね。貴方もこの世界で生きていくことを決意したのだったら、さっきの一夏のようにヤるんだ。いいね?」

 

 一夏と楯無は次の目的地へと向かった。

 箒は理解できなかった。何故人が死んでいくのか、ということにではない。一夏が何故、躊躇なくこんなことが出来るのか、ということにだ。

 一夏と箒がこの世界に入ってきたのは全く同じタイミングだった。なのに、何故こんなにも決意の差が生まれてしまっているのか、それをすぐには理解できなかった。

 箒は思い出す。今日の昼ごろに一夏と話した内容を。彼はこう言っていた。春樹を超えるためにこのスピードを手に入れた。男の子には意地があり、目の前に壁があるならよじ登るだけだ、とも言っていたのを覚えている。

 

(駄目だ一夏。私にはお前のそういうところを理解できそうにない……)

 

 箒は少しばかり苦悩していた。

 一方一夏も、全く苦悩していないわけではなかった。

 それもそうだろう。たかが一六歳の男子高校生が人を殺めているのだ。平気なわけがない。寧ろ彼はこんなことは本当は嫌なのだ。人を殺めることなど、本当はあってはならないこと。だが、自分はこの選択肢を取ってしまった。こうなることを自分自身で決めたのだ。もう後には引けない。春樹との再会を望む彼にとって、これは必要な事だと割り切るしかなかった。

 そんな一夏の心情を悟ったのか、楯無は目的地に向かいながら、一夏に話しかける。

 

「01、君も辛いよね。何が簡単な仕事だってね、人を殺める必要性も出てくるというのに……。いいかい、この仕事をやっていれば、必ずと言ってもいいほど人を殺めなくてはいけない場面に直面する。だけど、絶対に人を殺すことに慣れてはいけない。こんなことを平気でやるようになったら、もう人間ではなくなっている。わかった?」

「……はい」

「さて、次に破壊するのはここ! 派手にやるよ!」

「了解!」

 

 次に破壊するのは、違法なIS用の武器を作っているプラントだ。ここには特に回収するものは無い。思いっきり使用不可能になるように破壊をするだけだ。

 

「こんな事をするだけなら楽なのにね……」

 

 そう楯無が呟くと、後方から敵の増援がやってきた。楯無は回収班の安否を確認し、そろそろ合流する必要があると判断。

 そうするには、まず目の前のISを蹴散らさなければならない。

 

「01、02、やれるね? 大丈夫、トドメは私がやってあげるから……」

 

 一夏は頷くと、目の前のISに接近する。

 この狭い空間にもかかわらず、混戦状態になっている。こんな場所でマシンガンやガトリングといった連射武器を放たれたら逃げる場所もなかった。

 だから、目の前の銃系の武器を持っているISをまず狙った。まずは一機目。零落白夜の攻撃によって強制的に絶対防御の機能を発動させてシールドエネルギーを奪う。

 そのISは確かに戦闘を続けられる状態ではなくなった。だが、他のISはそうではない。一夏が攻撃する為に止まった一瞬を敵は見逃さなかった。

 人一人は確かにやられてしまった。だが、この目の前のISを落とすには十分な隙を作ることに成功した。接近武器を装備したISが一夏を襲う。

 だが、それを――楯無が――防いだ。

 

「何やっているの02!! 動きなさい。それじゃ敵の良い的だ。お前のフォローをするこっちの身にもなってみろ!!」

「――――せん……」

 

 楯無は激怒した。その箒の態度に……。彼女はなんて言ったのか、彼女はこう言ったのだ。こんなことできません、と。

 

「ふざけんなあああああああああああああああああああ!!」

 

 一夏によってシールドエネルギーが消滅したISたちを叫びながら大きな槍を振り回してぶっ放す。しかも、一夏がまだ交戦していないISものとも吹き飛ばしたのだ。

 一夏たちの目の前には敵ISがいなくなっていた。

 だが、楯無の動きは止まることは無かった。その足は箒の方へと向かって行く。

 楯無はじっと箒の顔を見続けていた。だが、一向に箒は楯無の方を見ようとはしなかった。

 この箒の態度、それを見た楯無は次の決断をした。

 

「……わかった。私が前にでるから、02は後ろでバックアップ。それでいいかな?」

 

 箒は無言で、頷いて返事を返した。

 

「じゃあ、回収班と合流次第、一気にこの施設の破壊を開始する。いいね?」

 

 それに返事をしたのは一夏だけ、いや、小さな声だったが箒もキチンと返事を返していた。

 この後、一夏たち三人は回収班と合流した。これより、二チームに分かれて物資の回収と破壊活動を開始することになる。

 一つは一夏一人のチーム。そして楯無と箒のチームだ。

 もうほとんど施設内に武力が残っていないのか、敵の動きがもう見られない。こうなってしまえばもうこっちのものだ。自由に暴れまわって物資を回収した後一気に施設を破壊する。これで今回の任務は終了である。

 その作戦は速やかに行われた。物資回収班により、物資を量子化して運び出す。この技術も篠ノ之束からのものだろう。

 回収が終わった個所は完全に使い物にならない程になるまで破壊しつくす。

 その姿はまるで……、悪魔そのものだった。

 やがて一夏の担当するエリアはすべて回収と破壊が完了した。それと同タイミングで楯無から連絡が入った。どうやら向こうも全てが終わったらしい。それは回収班が突入してからたった七分の出来事であった。

 一夏がここから立ち去ろうとしたとき、逃げ遅れた研究員が物陰から現れた。そしてその研究員の男はこう言ったのだ。

 

「悪魔か……」

 

 すると一夏はこう答えた。

 

「悪魔で……構わない」

 

 そう言って、一夏は楯無に作戦完了の連絡を入れながら立ち去った。

 しかし、先ほどの研究員が言っていた、悪魔か、という言葉には一夏も再考をせざるを得なくなっていた。確かに、自分たちは彼らから見たら悪であり、それは悪魔のようにも見えただろう。

 自分たちは決して正義の味方だなんてものではない事を身を持って沁みた。一方からの見方をすれば自分たちは善なのかもしれない。だが、先ほどの研究員からすれば自分たちは悪。立場と見方によって自分たちは善にも悪にも変わってしまう。

 

 結局の所、何が正義で何が悪なのか、この世界においてその境界線は存在しない。誰しもが自分のやっていることは善であり、それに相対する輩は悪になる。全てのこの世界で生きる人々は自分自身のやっている事が善であることを信じて戦っている。

 自分たちがやっていることによって、誰かが死ぬ可能性がある。それによって誰かが悲しむかもしれない。恨みの対象は当然のことながら自分たちだ。

 だが、そんな事を気にしていたら前に進めない。他人の事など気にしているわけにはいかないのだ。その考えが、たとえ人として道が外れた事であっても。それを理解しながらこの世界で生きる人たちは戦っている。

 

 しかし、箒にはその世界はまだ認めたくないところがあるようだった。いや、一夏にだって認めたくない部分がある。

 先ほど自分がやった行為、それにたいしても何所にぶつけたらいいのか分からない悲しみがある。今ここで泣いてもいいのかとも思ってしまう。

 バイザーの下には泣きかけの顔がある。だが、それは誰にも見て欲しくない。それは自分が男だから、男という(さが)が誰かに泣いているところを見られるということを拒否していた。

 施設の出入り口に戻ってきた一夏は楯無と合流した。

 

「一夏、これより帰投するよ。ISを解除して着替えて。迎えが来てるから、順次車に乗って」

「分かりました……」

 

 一夏はISを解除する。当然、バイザーも同時に外れることになる。その時の一夏の顔はどことなく暗かった。だが、先ほどまであった泣き出しそうな顔は今はしていなく、ただ単に暗い顔をしていた。

 一夏はさっさと着替えを済まして迎えが着ているというところに戻っていった。

 

(一夏、君も辛いんだよね……。一夏も箒も似たようなもんだね。この世界で生きるということを心の底では認めていない。君たちの覚悟はまだ雛の様に未熟みたいだね)

 

 そう思って楯無は横で着替えている箒の方を見た。

 彼女の顔色はとても悪く、目は死んでいた。目尻からは涙が流れている。この二人の精神状態はとてつもなく最悪な状態にあった。

 

(私も、最初はこの二人の様になったことを覚えているよ。辛いよね。悲しいよね。でも、この世界で生きることを決めたのなら、その定めには従わないと駄目なんだ。……ねえ、春樹、私は、貴方の代わりにこの子たちにものを教えることになる。いいかな?)

 

 楯無は決意する。春樹が以前自分を導いてくれたように、今度は自分がこの二人を導いてあげることを。

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