ISを改変して別の物語を作ってみた。   作:加藤あきら

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第四章『新たなる影 -Golem-』《化け物の目覚め》

  1

 

 一夏、箒、楯無の三人は羽田空港に到着し、専用のジェット機に乗り込んでいた。

 とても狭い室内で、快適さは一切ないが、その分通常のジェット機より高速で飛行することが可能だ。旅客機で一二時間半ほどかかってしまうフランスまでの空路だが、この専用のジェット機ならば八時間半ほどで着いてしまうだろう。時速にして約一二〇〇キロメートルほどの速度が出ていることになる。

 とてつもない加速が行われるため、三点式シートベルトで体をガッチリとホールドする三人。

 ジェット機はエンジンを始動し、キィィィィィィィンという凄まじい音を出しながら滑走路を進む。

 直線に入ったジェット機は一気に加速を開始する。それと同時に飛行機に乗っている三人にはGがかかった。内臓が押しつぶされそうになるのを感じながら、ジェット機は加速していく。

 そして、ジェット機は空へと舞った。

 そのまま飛行機が安定するまでしばらく待たなくてはいけない。それまでは、三人は黙ったまま、沈黙が続いた。

 しばらく飛んでから飛行機が安定状態になったのだが、物凄い速度で進んでいるため、シートベルトを外して立ち上がることは厳禁だった。

 とりあえず、この沈黙を破ろうとしたのは楯無

 

「ふぅ、ようやく安定したね。いやぁ、あいかわらず空に飛ぶ瞬間のフワッとする感じは慣れないねぇ。ISだと慣性の法則を無視して空飛んでくれるからそんな感じはしないのに」

 

 それに答えたのは箒だった。

 

「確かに、あの感覚は慣れないですよね。と、言っても飛行機に乗るのなんて今回で三回目なんですけど。まぁ、これから八時間……少しゆっくりできる。フランスに着けばもうゆっくりできないので、少し寝ときます」

「それが良いと思うよ。もし何かあればちゃんと起こしてあげるから」

 

 楯無のお言葉に甘えて、箒は目を閉じて眠りについた。先ほどまで戦闘を行っていたのだ。体力的にも精神的にもまだ疲れている。だから、この移動時間で休むしかなかった。

 しかし、眠ろうとも、話そうともしない人物がここに一人いた。この場には三人しかいないから、必然的にその人物が残る。

 そう、織斑一夏だ。

 彼は真剣な表情でひたすらフランスの情報を集めていた。役に立ちそうな情報を、掲示板等から引っ張っているのだ。だが、中々良い情報は見つかってくれない。やはり、簡単にそんな情報が出て来るはずがなかった。

 

「精が出るね、一夏。でも、そんな張りつめた状態でいるのも問題だと思うな、私は。そんな精神状態じゃ、ちょっとしたミスをたくさん犯してしまい、やがてそれが取り返しのつかない大きなミスになる。そんな事をしてしまえば、自分の身に起こる事はおそらく……死だろうね。だから、もう少し肩の力を抜こうか」

「…………会長」

「何かな?」

「俺は……春樹を俺の下に取り戻したい。それだけの理由で俺は今動いているはずなんです。でも、俺はシャルロットの為に必死になっている。こんな俺って、やっぱり甘い奴なんでしょうか? すべてを守りたいなんて、叶うはずもない戯れ言でしかないことを……」

 

 そんな一夏の言葉に、楯無は目を閉じて真剣に考えた。

 過去に自分も一夏と同じような事を考えたことがある。それは、自分が何故こんな事を、暗部という汚れた仕事をしているのか、という行動理由について考えたことがあった。

 この仕事を行い始めたときは、自分の父親の会社を護りたいという気持ちだけだった。だが、そうも言ってられず、様々な仕事を行わなければならない。段々と人を殺すことに躊躇しなくなっていく。そんな自分が怖くなり、目的も見失ってしまった。

 だが、そんなときに手を差し伸べてくれたのは自分よりも一つ年下で、なのにどことなく大人びていて、ISが何故か動かすことのできる男性だった。

 そのときにその男性は言ってくれたのだ。

 誰かを守りたいと思う気持ちを持っていればそれでいい、と。それだけで立派な行動理由になるのだと。

 楯無の守りたいと思う存在は父親とその妹、信鳴と簪だ。その二人を守ることが出来ればいい。そして、もう一人……、彼女には守りたいと思う者ができたのだ。

 その人物の名は葵春樹。

 自分と共に戦ってくれる者。そして、自分を守ってくれて、導いてくれる者でもある。だから、彼女は彼を守りたいと思った。彼が自分を守ってくれるなら、自分は彼を守りたいと、そう思ったのだ。

 彼女の戦うという行動の理由はそこにある。大きな目的として家族を守るというものがあるが、それとは別に身近な目的として、共に戦ってくれる人を死なせないという目的があるのだ。

 そう、だから――

 

「一夏。いや、箒もだね。箒、起きて」

 

 楯無は目を瞑っていた箒を起こした。

 

「眠ろうとしていたところをごめんね。でも、これから話すことは箒にも聞いておいて欲しかったんだ。本当ならもっと早く話した方がよかったんだろうけど……これは私の失態だね」

「会長……。一体何を話そうと……?」

 

 一夏はそう尋ね、箒はこの空気を感じ取って固唾を飲んだ。

 

「これから暗部で仕事をする際に、どういった目的を持って仕事をこなしていくのか、っていうお話。一夏、箒、君たちはどんな目的を持って暗部の仕事をするの? 聞かせて欲しいな」

 

 この楯無の質問に最初に答えたのは箒だった。

 

「私は、姉さんの命を救う為に戦います。今までは春樹が姉さんを守ってくれていた。春樹が居ない今、その役目は私がやるんです。もちろん、春樹を私たちの下へと取り戻すのも目的の一つです」

「なるほどね。箒、君は確かな目的をしっかり持ったようだね。その目的を忘れないように」

「はい!」

「で、一夏はどうなのかな?」

 

 今度は一夏に話を振った。だが、一夏はそれに答えようとはしなかった。いや、出来なかったのだ。

 彼は自分が何故、どういった理由で動いているのかが分からなくなってしまった。

 最初はISを悪用する奴らを倒すつもりでいた。だけど、それは春樹の行方不明により、彼を自分の下へと取り戻す、というものに変わった。だけど、今回はなんだ? シャルロットの為に自分は動いている。結局自分は全てを守ろうと動いてしまっている。

 

(それが許せないんだよ……俺は……。とんだ甘ちゃんだよ……。何が成長してる、だよ。俺は何にも成長なんかしていない。出来ないようなことをやろうとして、そして失敗するんだ)

 

 そう思った一夏だが、その考えていたことが筒抜けていたかのように楯無は言葉を出した。

 

「それでいいと思うんだ」

 

 その楯無の一言は、一夏の心を大きく揺るがした。自分の考えていることが分かっているかのように言葉を投げかけてきたのだ。

 

「一夏は、そういうところが私と似ている。目的を見失いそうになって、今度は自分を責めて、自分で自分を追い詰めている。昔の私を見ているみたいだ。一夏、いいかい? 目的は大きく持っていいだよ。君のやりたいことは、親友を全員守る事でしょ? それでいいじゃない。君の親友は箒をはじめ、シャルロット・デュノアにセシリア・オルコット。凰鈴音(ファン・リンイン)にラウラ・ボーデヴィッヒ。それに織斑先生や篠ノ之束。そして……葵春樹でしょ? ふふ……そこに私も混ぜてもらえたら嬉しいんだけど、まぁいいや」

 

 そうだ。もっと素直に、もっと単純に考えればよかったのだ。一夏が望むことは楽しかった日常を取り戻すこと。一時期は春樹を自分の下へと取り戻すことだけを考えてしまっていた。それほどまで自分の下から彼が居なくなってしまったのは大変ショッキングな出来事であったのだ。

 だが、落ち着いて、それでもって自分に素直になったらどうだろうか。

 そうだ、一夏が望むもの。それは楽しかった日常を取り戻すことなのだ。平和で楽しい学園生活。春樹に箒、鈴にセシリア。そしてシャルロットとラウラ。それ以外にもクラスメイトのみんなと楽しい学園生活を送りたかったのだ。

 最初はあんなにも嫌だったIS学園だが、今となってはISと触れ合っていること。仲間とともに学園生活を送ることが、何よりも幸せな事だったのだ。

 

「そうか……。俺が望んでいること。それは、みんなと楽しく過ごす日常だったんだ……。それを取り戻したいから俺はいま戦っているんだな。ありがとうございます会長! もちろん、会長も俺たちの親友の一人ですよ。なんたって、IS学園の生徒会長なんだから!」

 

 楯無は嬉しかった。こんなにも汚れた仕事を行ってきた、人助けも、人殺しも、色んなことをしてきた。だけど、そんな自分を知っている人物からも“IS学園の仲間”として一夏は受け入れてくれたのだ。

 

「ふふふ……。生意気なこと言うなぁ一夏は!!」

 

 楯無は泣きながら微笑んだ。そして、それを見た箒も微笑んでいた。

 フラフラと危ないほど揺らいでいた一夏の決意が固まった瞬間であった。

 これで一夏と箒、両名の戦う理由(わけ)はガッチリと定まったのだ。これで戦う事についての不安要素がまた一つ取り除くことが出来た。

 また一歩、一夏と箒が成長した瞬間であった。

 

 

  2

 

 

 そして――時は過ぎ、一夏たちがフランスへ飛び立ってから七時間半が過ぎようとしていた。

 三人は先ほどまで交代で仮眠を取っていたが、それも終わり現在は全員が起きている。

 フランスに着くまであと約一時間ほど。順調にフランスへと近づいていた。

 

「さて、もうすぐだね。準備はいいかな?」

 

 楯無の言葉に一夏と箒は、はい、と返事を返した。

 とは言ってもあと一時間ほど時間があるのだ。

 箒は目を瞑って精神統一を行い、楯無は音楽を聴きながらリラックスしていた。一方一夏は外を眺めていた。下には山々がうっすらと見える。どうやら、今日は雲が薄いらしい。とても見晴らしは良かった。

 この時一夏はISの能力を使い、遠くまでの景色を眺めていた。これによりズームイン、ズームアウトが自由になるので、地上の景色まではっきりと見ることが出来る。

 そんなリラックスさせるための一時間は急に失うことになる……。

 

「!?」

 

 一夏はISの能力を使い、より遠くまでを眺めていた。そのとき、一夏の目に映り込んだのはISであった。しかも、あれは――

 そのISは猛スピードでこちらに向っている。どう考えてもあれはこちらを狙っているとしか思えなかった。

 

「箒、会長、敵襲だ!! 急げ、こちらに向っている!!」

「何!?」

 

 箒は驚きの声をあげ、一夏は焦りながら彼女らに危険を伝える。

 楯無も同じく驚きの声をあげ、急いでシートベルトを外しISを展開する準備に入る。

 

「機長、敵襲です! こちらはドアを開けて外へ飛び出します。ご注意を!!」

 

 楯無は機長に連絡を取り、一夏と箒はジェット機のドアを開く準備に入っていた。

 ドアを開けた瞬間、吸い出されるように三人は外へ放り出される。そして、ISを展開し空へと舞ったのだ。

 刹那――遠くで何かが光ったかと思うと、気付けば飛行機の一部が溶けて消えてなくなり、その断面が真っ赤に光っていた。バランスを崩したジェット機は拉げ、真っ二つになったと思うと爆発して落ちて行った……。

 一夏、箒、楯無の三人は冷や汗を流し、もう少し敵の発見が遅れていたらここで人生というものが終了していたと理解した。

 目の前にはISが数機……一つはビット装備がある機体。それは、楯無が良く知るものだった。

 それこそエムのサイレント・ゼフィルスであり、BT兵器を持つISだった。つまりこれはイギリスの『LOE社』の機体であることを証明している。BT兵器はそのイギリスの『LOE社』という企業しか開発していないのだから。

 そして、その後ろを飛ぶISは……いや、ISというのも怪しい代物だ。

 鈴音に重傷を与え、あのときの一夏には倒すことすらできなかったフルアーマーのISらしきもの。

 そう……あのクラス代表決定戦のときにIS学園を襲った奴と同じだった。

 

「アイツはァ……!!」

 

 一夏は怒るようにそう呟いた。

 彼にはあの謎の無人機の兵器に因縁がある。

 鈴音と共に戦って手も足も出ず、最終的には春樹に助けてもらってピンチを脱出することが出来た。あのとき男として情けないと思ってしまったのだ。ISを動かせるという特殊な能力を持っていながら、女一人を助けることも出来なかった。

 

(アイツは……アイツだけは俺がぶっ殺してやる!!)

 

 今こそその恨みを晴らす時。おそらくあれはIS学園を襲ったものと同じもののはず。だったら、あのときの自分自身で戦った経験と、春樹が倒した事を参考にして倒すことが出来るはずだ。

 

「01、落ち着いて。あの謎のISに恨みがあるのは分かる。だけど、こういった戦いは熱くなった方が負けだよ。とりあえず私はあのビット装備を付けた奴を相手にするから。01と02はあの謎のISの方をお願い」

 

 一夏と箒は了解、と声を出すと、楯無は一気に加速してサイレント・ゼフィルスに接近を試みた。それの後ろに一夏と箒が付いている。こちらは無人機らしきISを担当することになるだろう。

 

「おい、そこの『亡国機業(ファントム・タスク)』さん。今日は何なの? そんな物騒なものを持ち出して……」

 

 楯無は煽るようにエムに対して言葉を放った。

 

「ふん……。何がとは……。先ほどの一撃で分かったはずだ。そして、私たちはお前たちがここに来ることが分かっていた。つまりそういうことだ……!」

 

 エムは楯無に向って大型レーザーライフルでビームを放った。それこそ、戦闘開始のゴングと比喩してもよいものであった。

 エムとその周辺にある五機の名称不明のISらしき兵器も動き出す。

 楯無はそれが何かということをエムに問う。

 

「その後ろのアレは何だ!? アレはどういった!?」

「ふん……貴様たちですらコイツの正体を掴んでいないとはな……。コイツの名はゴーレムという。これがどういったものなのかは……身を持って体験しろ!!」

 

 そのゴーレムはエムの一言で動き出した。

 一夏、箒、楯無の三人は一度散らばり、まとめて標的になってしまうのをまず防ぐ。

 最初は相手の動きを伺うところから始める。エムの機動特性は楯無は良く分かっているのだが、一夏と箒の二人は知らない。

 そして、何よりも怖いのはあのゴーレムと呼ばれる兵器の事だ。

 IS学園を襲ったのは確かにアレである。形状は少々の違いはあるものの、良く見ないと分からないレベルであり、全くと言っていいほど同じである。

 だが、性能の面は外面だけでは図ることは出来ない。襲撃の日から二ケ月ほどが過ぎているのだ。そのときは春樹がAIの未熟な部分を突いて破壊することが出来たが……今でもそのような性能とは言い難い。寧ろ、性能がアップしていると考えないと駄目だ。

 

「01、02はあのゴーレムっていう奴の相手をお願い。私はあのサイレント・ゼフィルスの相手をする!」

 

 一夏と箒は予想通りの指示に不安ながらも自分の気分を上げるためにニヤつきながら、了解、と言った。

 楯無は自分で出した指示の通り、エムとの戦闘を行うことになる。

 

「昨日ぶりだね。なあ、エムとやら?」

「ふん、飛んで火に入る夏の虫という日本のことわざがあるが……まさにお前らだな」

「どういうこと……?」

「自分で考えるんだなぁ!!」

 

 エムは六基ビットを展開して、楯無を攻撃する。

 このエムが使用しているサイレント・ゼフィルスの装備は以下の通りである。

 まずは、第三世代型BT兵器。これが六基である。これにはレーザー・ガトリングが装備されており、無数のレーザーを発射できる。だが、それだけではない。このビットは傘状のエネルギー・シールドをも展開し、攻撃だけでなく防御にも転用することが出来るのだ。

 次は、レーザーインターセプター。これはセシリアのブルー・ティアーズのインターセプターと同じく近接ショートブレードであるが、こちらはエネルギーを展開し、更なる攻撃力を得ることが出来るようになっている。

 最後にエネルギー弾と実弾の両方を扱うことが出来るスターブレイカーという名称の大型ライフルであり、先端には近接用の銃剣も取り付けてあるので近接戦闘も一応可能である。

 無数のビームを避けながら楯無は考える。

 

(飛んで火に入る夏の虫……ってことは、まさか!?)

 

 この時、楯無は気が付いたのだ。

 これは罠。

 しかも、立場上絶対に回避不可能な質の悪いものだ。

 『亡国機業(ファントム・タスク)』は分かっていたのだ。あのフランス行きのフライトのとき、シャルロット・デュノアの護衛任務に当たっていたのは『束派』である……と。シャルロット・デュノアを誘拐すれば、必ずセドリックは娘を助けるために『束派』を頼るだろうと、そう予想していたのだ。

 そして、実際に『束派』をセドリックは頼った。思惑通りに事が進んだ。あとは、シャルロット・デュノアの救出の為にフランスに向かう『束派』を襲撃するだけ。この……ゴーレムという謎の兵器を利用して。

 シャルロットを誘拐することにより、セドリックの会社からISを奪うことが出来る――それはいいのだ。問題はセドリックに与えた猶予時間。明らかに一二時間は多すぎる。

 最初から『束派』を誘い出し、今後邪魔になるだろう勢力――束派――を潰しておく。これが『亡国機業(ファントム・タスク)』が考えた今回の作戦だ。

 

(こんな、こんなの……どうしようも……。こうなったら、戦って勝つしかない……!)

 

 楯無がそんな事を考えて、一瞬気を散らした瞬間だった。

 

「戦場で油断するとは、ルーキーかよ!!」

 

 そのエムの一言。それを聞いた時には目の前には二機のゴーレムが楯無を襲おうとしていた。

 ゴーレム。

 それはIS学園を襲った謎のISである。いや、正確に言えばISではない。ISの心臓部となるコアと呼ばれるものは、それのコアとは全く別物を使用していることが分かった。

 つまり、パワーの源は全く別物を使用している。

 ISのコアの存在意義というものは、その現実離れした機能を現実にするためにある。慣性の法則を無視したP(パッシブ・)I(イナーシャル・)C(キャンセラー)という機能、シールドエネルギーと呼ばれる不可視のパイロットを守るシールド、武装の量子変換、それらの機能はISのコアなしでは機能しない。

 一応言っておくが、稼働エネルギー――電気エネルギー――が別に存在しているのだが、そのエネルギーはあくまでISを起動し、電子制御の部分を動かすエネルギーでしかない。

 

 ともかく、ISのコアというものは、ISの生みの親である篠ノ之束ですら理解できていない代物である。

 だが、目の前で動いているゴーレムはまるでISと同じように動いていることがまず理解できない。空中を舞う姿はP(パッシブ・)I(イナーシャル・)C(キャンセラー)の機能を使っているとしか思えないのだから。

 全身を包むように存在する装甲。大型で、そのまま鈍器にもなってしまうような腕。そしてその腕にはビームを発射する銃口。体中には姿勢を安定させるための推進剤の噴射口。

 その中に人間は存在しない……はずだ。あれがIS学園を襲ったものと同じであるならば。

 それが楯無に接近する。楯無の一瞬の気の緩みが一転して生死を決めてしまう状況になってしまった。目の前の大型の腕が楯無を襲おうとしている。

 ゴーレムの腕は先ほども書いたように太く、そして重い。ISを殴る事で、それだけでも大きなダメージを与えられるだろう。

 ド素人でもあるかのようなミスでこうなってしまう。それは経験が豊富あろうか無かろうかは関係ない。その原因が何であれ、生きる奴は生きて、死ぬ奴は死ぬ。戦場に出て生き残ればそれ相応の人間という評価を受けるし、死ねばそれまでの人間だったという評価を受ける。

 楯無が死ねば、やはりそこまでの人間だったという評価を受けることになるだろう。

 ――だが、彼女はその評価を受けることはない。

 何故なら、彼女には仲間がいる。

 そう、先ほどまでゴーレムを相手にして生き残っている仲間が。

 

『甘い!!』

 

 そういう言葉が楯無の耳に入った。それは二人分あった。

 気が付けばゴーレムは目の前から消えていて、違うISが目の前にいた。

 

「01……02……」

 

 目の前には二人がいた。ゴーレムを後ろに吹き飛ばして。

 二人の目は先ほどまでとはまるで違う。雰囲気すら違う。これが……『因子の力』の覚醒というものなのだろうか。

 

「00、絶対生き残りますよ。それが、私たちの仕事です」

 

 箒は楯無に言葉を贈る。だが、ゆっくりしている暇はない。エムのビームによる攻撃が三人を襲うのだ。

 だが、その攻撃に当たることは無い。エムは二人の死角から攻撃を行ったというのに、まるで後ろに目が付いているかのように攻撃をかわしたのだ。

 

(一夏、箒、それが君たちの力なの?)

 

 楯無は初めて見るのだ、一夏と箒が『因子の力』を使って戦っているところを。研究所の襲撃では『因子の力』を使わなかった。だからこれが初めてなのだ。

 そして、エムは正直焦っていた。

 なぜならこの戦い、楯無さえ落としてしまえば残りはここ最近組織入りしたルーキーだけになり、ほぼ戦闘要員の撲滅に成功したと言ってもいいことになるはずだったのだ。

 しかし、現実は違った。ルーキー二人は楯無と同じ、いや、もしかしたらそれ以上の力を持っていた。これで計算が狂ってしまった。

 が……、負けたとはまだ言い難い。コチラにはまだ五機のゴーレムがある。この兵器の実力は未だ分からない。ゴーレムとサイレント・ゼフィルスの力を合わせればまだ勝算がある。

 

「ゆけ、ゴーレム! 奴らに絶望を見せろ!」

 

 エムはゴーレムに命令を送る。

 するとどうだろうか、それは先ほどと打って変わって動きを変えた。

 

 

  3

 

 

 とあるところに男が三人いる。

 

「さぁ、ここからが本番ですよ……フゥハハハハハハハハ!!」

 

 と高笑いをあげたのは小波充(こなみみつる)である。そしてその傍らには木明信也(きみょうしんや)という男と鍋田夏樹(なべたなつき)という男。

 この三人はモニタを見ていた。

 そこに映っているのはISである。見えるだけで四機のISがいる。一つは暗い青と黒のIS、一つは白色のIS、一つは赤色のIS、一つは水色のISだった。

 

「小波さん、やるんっすね、アレを!!」

 

 そう言ったのは木明である。

 

「そうだ、ゴーレムの本当の強さはこんなものではないのはお前たちも分かっているだろう? なぁ、木明、鍋田よ!」

「もちろんっすよ! ささ、早くやっちまいましょうぜ」

「まぁ焦るでない……。ここは高らかに宣言してから行こうではないか。さぁ、鍋田よ、アレを持ってこい」

 

 鍋田は何も言わずにノートパソコンを取り出した。その画面には『Golem』という名前が表示されている。

 

「さあ、どうぞ……」

 

 と鍋田が静かな声でそう言うと、小波は両手を天高く上げて宣言する。

 

「皆よ聞けぇ!! ただいまを持って、ゴーレムの本当の力を解放する。これこそ我々の望む世界への第一歩だ。ここに小波充は、今から一〇秒後にスイッチを押す。さぁ、皆の衆よ、共にカウントダウンを!!」

 

 この宣言はこの男たちが潜んでいるとある研究所のいたるところに流れているのだ。そして、そこの研究員たちはともに高らかにカウントダウンを開始する。

 そして――

 

「全ては……平等なる世界の為に!!」

 

 小波充は、エンターキーを押した。

 

 

  4

 

 

 ゴーレムの動きが急に変わった事に気が付いたのは、ここで戦闘を行っている四人すべてであった。一夏、箒、楯無はもちろんのこと、なんとこのゴーレムを投入したエム自身も驚きを隠せないでいた。この反応を見る限り、そいつの動きは予想外のものなのだろう。

 

(なんだ……? 何が起こっている……?)

 

 一夏は注意深く散らばった五機のゴーレムの動きを見る。

 そして……腕の発光を一夏は見逃さなかった。

 

「00、02、散れ!! ヤバいのが来るぞ!!」

 

 一夏の注意で散開した三人。その瞬間、五機のゴーレムすべてから何もかもをなぎ倒す極太ビームが乱射された。腕を振り回しながら、ビームを発射し続けるそれに、一夏たちは攻撃を避けることしかできなかった。

 それはエムも同じだった。彼女もゴーレムの攻撃を受けていたのだ。それを見た一夏はこう判断した。

 

(アイツもあのゴーレムの攻撃を受けている……? ということは――)

 

 つまり、また違う組織の陰謀か何か、ということになる。ISとは別物ということが発覚し、ISを見境なく攻撃をするということは、おそらく反IS派の行動だということが分かるだろう。

 

「おい、01! お前はあのゴーレムと戦ったことがあるのだろう? 何か突破口はないのか!?」

 

 箒は焦りの声をあげる。あれは人の心を持たない無人の兵器だ。躊躇することも、同情することもない冷徹な殺人マシーン。あれはISを身に着けた人を確実に殺すためのもの。

 

「って言われても……ッ。あの時のゴーレムとはまったく違う物だ。同じなのは外見だけで」

 

 このゴーレムの行動パターンはIS学園を襲った時のものとは全く違うものになっていたのを一夏は感じていた。実際に戦った一夏が感じたのだから間違えないだろう。

 ビームの嵐が終わった瞬間に、一夏はゴーレムに接近を試みる。彼が何をしようとしているのか悟った箒と楯無は一夏のサポートの為に他のそれの足止めを開始した。

 一夏はあの重量級のボディにビビることなく接近し、剣を振るう。もちろん、零落白夜を発動して……。だが、ゴーレムには殆ど効かなかった。なぜなら、このゴーレムにはシールドエネルギーという概念が存在しない。いくらシールドエネルギーを切り裂き、ISの機能を逆手に取って絶対防御を発動させ、一気にシールドエネルギーを奪い去る能力だからといって、その相手自体がIS以外では何の役にも立たないのは当たり前だった。

 このゴーレムは超硬合金のボディで作られており、そう簡単には貫けない。ビーム系の武器を使わないと、そのボディを切り裂くことは難しかった。

 だからこその零落白夜なのだが、これは本来の使い方ではなく、ゴーレムにダメージを与えるための苦肉の策だった。

 その事から、白式(びゃくしき)と、このゴーレムの相性は凄まじく悪いことがわかる。手に付けられているビームガンも牽制用のもので気休めにしかならないし、雪片弐型も通常は実体剣で、零落白夜を発動したときのみビーム系の武器に変わる。だが、それを使うには白式の稼働エネルギーを消費する必要があるのだ。

 よって――

 

「01から00、02へ。俺はあの『亡国機業(ファントム・タスク)』の奴の相手をする。二人はゴーレムの対処を頼みたい。俺の白式と、あのゴーレムは相性が悪すぎる!」

「02了解。気を付けろよ……」

「00了解。本当に大丈夫だね?」

 

 楯無は一夏のメンタル面を心配していた。ISと戦えば、死人が出るかもしれない。特に『束派』が用意したコンバットモードのISは、公式大会のレギュレーションにそぐわない仕様となっている。特に武器関連の出力が大幅にあげることが出来る。人を殺すことも出来るほどに。

 

「大丈夫です……。上手くやります」

 

一夏はエムに向って一直線に加速したが……目の前にはゴーレムが立ち塞がる。エムの接近も許してもらえない。三人で五機のそれと、加えてエムを相手にしなくてはいけないのだ。

 一気に畳み掛けられればひとたまりもないのは分かっているのだが、どうしようもできない。やはり、三人バラバラに行動しようとしたの失敗であったのだろうか。

 

「邪魔だ、消えろ!」

 

 一夏は零落白夜を発動させてゴーレムを斬る。しかし、致命傷という致命傷を与えられない。ボディに多少の傷はつくのだが、それだけだ。しかもゴーレムの硬く、重い拳で殴られれば下手をすれば死んでしまう。

 やはり、IS学園を襲ったときから大きな進化をしていた。あの時は動きも甘く、ボディの剛性もそれほどではなかった。恐らく、今回はもっと頑丈な素材を採用したのだろう。しかし、そのせいで機動性はIS学園を襲ったものより落ちていた。

 今の白式と一夏であれば、ゴーレムの近距離攻撃を簡単に避けることが出来るが……、それ止まりだ。

 

(どうする……? 『亡国機業(ファントム・タスク)』に対しての攻撃も出来ない。箒も会長も二人で一機ずつ相手にするのが精いっぱいだ……。あのエムってやつもゴーレムと戦っている。だけど、ここで共闘してゴーレムを倒すこともできないだろうな。ここでゴーレムを失えば、アイツは俺たちを殺すことが難しくなる……)

 

 結局、一夏たちはここでエムとゴーレムを共に相手にしなくてはいけないということに変わりは無い。

 エムもゴーレムを相手にしては隙を見つけてビットによる攻撃で三人に攻撃を行ってくる。

 一夏はその攻撃を避けると、目の前には二機のゴーレムが接近してくる光景が広がっていた。

 一つはその超重量の拳で殴りかかろうとしており、もう一つは腕に装備しているビーム砲で一夏を狙い撃とうとしている。

 この状況を考えると、一機の攻撃を避けた瞬間、その避けた方向にビーム砲を撃とうとしていると予想できる。IS学園に投入させたゴーレムより遥かに賢くなっていた。

 

(く、どうする……? 俺の武器じゃ――いや、そうか! その手があった)

 

 一夏は接近してくるゴーレムを避け、ビーム砲を発射しようとしているそれの射線上を飛ぶ。そして、後ろには接近攻撃を仕掛けようとしたゴーレム。これが意味するものとは?

 接近してくるISを確認したゴーレムはビーム砲を発射する。目標は織斑一夏……だが、ビームの発射を確認した一夏は、その瞬間に瞬時加速(イグニッション・ブースト)を行ったのだ――後方に。

 一夏の白式は元々高速型のISであり、そのIS自体を更に軽量化したコンバット・モードと篠ノ之束本人が直々に超高速仕様にチューンしたのが合わさって、とてつもない加速と速度を手に入れている。それは発射されたビームより早く動いているほどなのだ。

 一夏は先ほど接近攻撃を仕掛けようとしていたゴーレムの前に出る。そのとき、白式の雪片弐型は零落白夜を発動していた。

 その剣で思いっきりゴーレムの右の横腹を斬る。だが、これは“斬る”こと自体に意味は殆どない。問題は一夏の振るった剣はゴーレムのバランスを崩させ、右横に吹き飛ばされる程の衝撃だったということだ。

 一夏に斬られたそれは、一夏に対して右へとバランスを崩して吹き飛ばされる。

 そして、その吹き飛ばされた場所には……先ほど別のゴーレムが発射したビームが通過する直線上であった。

 一夏に接近攻撃を仕掛けようとしたゴーレムは、同じゴーレムのビーム砲の餌食となったのだ。そいつが持っている高出力の極太ビーム砲を背中に諸に受けてしまう。その攻撃力は絶大で、装甲が思いっきり壊れていくのが分かる。

 

(俺の武器がゴーレムとの相性が悪かったとしたら、敵の装備を利用するまでだ。どうやら今回も仲間撃ちしてしまうほどの低能AIだったようだな……!!)

 

 これで逆にわかったこともあるのだ。あれほどの強度をもっていたゴーレムの装甲をも破壊するほどの攻撃力があのビーム砲にあることを。あんなものをくらったら、装甲が薄いコンバット・モードのISはその操縦者もろとも焼き尽くすであろう。

 しかも、確かにゴーレム一機にダメージを与えた。だが、それも決定打とはなりえなかった。ビームをくらったそれは未だ動いている。

 それは一夏へと攻撃を行う。操縦者などいないのに、まるで先ほどの攻撃の恨みを返すかのように。

 

「まだ動くのか!? これでも駄目なのかよ!!」

 

 一夏は思わず叫んでしまった。彼はゴーレムから逃げ、エムへと目標を変える。とにかく、襲撃してきたエムも何とかしなくてはならない。

 彼女たちの思惑はこちらにも当てはまる。邪魔な組織を早めに潰しておくのは、今後の活動を円滑にするのに必要な事だ。

 だからこそ、エムを倒さなくてはならない。そしてそのあと、自分を守るためにゴーレムを倒さなくてはいけない。やることはたくさんある。

 後ろから追いかけてくるゴーレムだが、その機動力の低さから打撃攻撃を受ける心配はない。しかし問題は強力なビーム砲にある。そればっかりは避けるしか対処方法がない。

 後ろを追いかけてくるゴーレムの差は広がるものの、それは射撃をやめることはない。ひたすら一夏を狙ってビームを発射してくるし、目標としているエムからも数々の射撃武器によって接近を許してはもらえない。

 

(くそっ! しつこい奴だな……ゴーレムにエム!! いや、これもさっきと同じようにすれば……)

 

 一夏はまたひらめいたのだ。自分の攻撃はゴーレムには効かない。そして、エムは数々の遠距離武器で接近を許してくれない。こちらには接近武器しか相手に致命傷を与える武器がない。

 ならば――

 一対一のドッグファイトなら勝ち目は無かったかもしれない。一夏との相性は最悪だからだ。だが、この場には五機のゴーレムと箒と楯無もいる。これが、勝利の為のカードとなる。

 

(さぁエム。こちらの思う通りに行動してくれよ!?)

 

 一夏はエムに接近を試みる。もちろん、エムはこのISの装備から考えて接近させてはいけないのは分かっていた。

 だから彼女はビットを一夏の下へと向かわせレーザーガトリングで攻撃を、そして、スターブレイカーで遠距離射撃を一夏に攻撃をするが、一夏は毛頭当たる気はない。

 そのレーザーの雨をかわしながらエムを中心として周りを飛び回る。その一夏の後ろには一機のゴーレムがいる。

 箒と楯無とエムはそれぞれ一機ずつ対処してくれているから、残り二機のゴーレムが自由な状態だ。

 この三機を箒と楯無の方へと向かわせないようにしながら、一夏はわざとゴーレムの近くを通過してこの二機を自分の下へとおびき寄せる。

 この一夏の不穏な動きに警戒心を抱き、どんなことが起きてもいいように構える。現在、二機のゴーレムが一夏を攻撃しているのだ。

 つまり、エムはまた別の一機と相手をしている。だが、エムは違うことに気を逸らそうとしていた。

 一夏は二機のゴーレムを引く付けながらエムに接近する。

 エムはこの一夏の行動で考えていることを悟ったのだ。このゴーレムを自分の下へと接近させてゴーレムを利用して攻撃をしようとしている……と。

 しかし、一夏の考えはそれでは不正解だ。今のエムの考えでは半分しかあっていない。

 

(さぁ、エム。地獄への切符は切られた)

 

 一夏はゴーレムを後ろに連れながらエムに接近する。

 エムは接近させまいと、ゴーレムを一瞬のぞけらせ一夏に砲撃をするが、大した数は砲撃できない。装備をフルに活用した射撃は避けることが出来なくとも、この程度の射撃ならかわせる。そして……、一夏はさらに加速した。

 気が付けば一夏はエムの後ろにいた。

 そしてゴーレムは一夏を追いかけ、一直線に加速し続ける。これを意味するものは何か? このままではエムがゴーレムの体当たりをくらうことになる。

 そうはさせまいと、エムは瞬時加速(イグニッション・ブースト)で上へと回避する。

 だが――

 その動きがエムの運命を左右させた。

 回避した先には、発動させた一夏がいたのだ。

 そして、目標を見失ったゴーレムは近くにいるエムと一夏を補足、こちらに向ってくる。

 

「さて、エムとやら。覚悟しろ?」

「なぁ!?」

 

 エムは驚愕し、その瞬間に嫌な汗が額からにじみ出てくる。

 一夏は零落白夜を発動させ、後ろからエムにその刃を向ける。

 

「死に晒せ!!」

 

 一夏はそう叫んだ瞬間、零落白夜でエムを斬った。その効果により、シールドエネルギーを切り裂いて本体に直接的なダメージを与えようとする。すると、ISの機能として操縦者を守るために大量のシールドエネルギーを消費する。

 一夏はその後、瞬時にその場から回避する。

 エムの目の前には三機のゴーレムが一直線に飛んでくる。

 

「うわあああああああああああああああああああああああああああ!!」

 

 エムの絶叫が聞こえたかと思うと、サイレント・ゼフィルスはゴーレムの大きな腕が直撃していた。

 シールドエネルギーが少々残っていたせいか、死ぬまではいかなかった。

 しかし、もう戦闘が出来るほどの力はもはや残っていない。このまま戦線を離脱するのが得策だと思われるのだが……。

 エムは違った。

 もはやサイレント・ゼフィルスにはシールドエネルギーは無く、もう身を守ってくれるものは何もない。次の攻撃を受ければ直接身体にダメージが入る。つまり……死に直結した攻撃となる。

 しかし。

 

「ふざけるな……。ふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなァァァ!!」

 

 どうやら様子がおかしい……。彼女にいったい何が起こっているというのだろうか……?

 

「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ーーーー!!」

 

 エムはなんて言っているかも分からないような雄叫び上げたのだ。

 そのとき、彼女に変化が起きた。

 エムはゴーレムの腕を掴んだかと思うと、胴体とその腕を引き千切ったのだ。まるで、紙を破いているかのように軽々と。

 

(な、なんだよアイツ……。何なんだよ、あのパワーは……。本当に人間なのか……?)

 

 続いて、もう一機のゴーレムの頭を掴み、もう一機のゴーレムにぶつける。すると、ゴーレムの頭は二つとも砕け散り、続いて胴体もグシャグシャに拉げていく。

 ものの一〇秒たらずで三機のゴーレムを破壊したエム。次の目標は……一夏である。

 

「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ーーーー!!」

 

 もはや人間とは思えない声をあげて一夏に襲い掛かる。

 

「ひぃ!?」

 

 そのエムから放たれる恐怖は尋常じゃないものだった。

 恐ろしい。恐ろしすぎてここから逃げ出したい。だが、どうやって逃げ出す? わからない。いや、無理なのだ。

 死ぬ。死んでしまう。死ぬのは嫌だ。春樹にも再会していない。いや、もはや春樹などどうでもいい。今はとにかく生きたい。生きて、未来を生きたい。

 気が付けば目の前にはエムがいた。顔はバイザーで隠れていてどんな表情なのかは確認できない。だが、恐ろしさは伝わる。

 エムは一夏の頭を掴んで握り潰そうとする。元々少ないシールドエネルギーが減っていく。このままシールドエネルギーを失えば頭がグシャグシャになって胴体だけがこのまま見知らぬ地に落ちていく。

 

(嫌だ……死ぬのは嫌だ…)

 

「うわああああああああああああああああああああああああああ!!!!」

 

 一夏は雪片弐型をエムに向って振るうが、エムはその刃を片手で受け止めた。シールドエネルギーは無いはずだ。なのに、実体剣を血を流しながら素手で受け止めている。

 

(な、なんだよコイツ……)

 

 一夏は死を覚悟した。もう駄目かもしれない。助からない。死んでしまう。

 そんなネガティヴな思考に陥ったとき、仲間の声が聞こえた。

 

「その汚い手をどけろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

 

 その声は篠ノ之箒のものだった。

 箒は剣を振るう。今ならエムは両手がふさがっている。片手は一夏の頭を押さえ、もう片方の手は雪片弐型を受け止めている。これ以上防ぐ手立てはないはずだ。

 するとエムは一夏を箒に向ってすごい勢い投げ飛ばした。一夏は箒と激突してバランスを崩す。

 そして、箒が相手をしていたゴーレムがこちらに向ってきたのだ。

 だが、それもエムが軽々と捻り潰してしまった。

 圧倒的なパワーを見せつけられる一夏と箒。そして、その隙を楯無は後ろから襲撃をかけるのだが……。

 エムは楯無の顔面をスターブレイカーで殴ったのだ。もはや、武器の使い方すらも分からなくなっているのだろうか? そこまで彼女の自我は崩壊してしまっているのだろうか?

 

「はぁ……はぁ……何なのよアイツ……」

 

 楯無は息を切らしながらそう呟いた。

 そして、一夏は落ち着かず、混乱気味にこう答えた。

 

「化けモンだよ。アイツは化け物になっちまったんだ……」

 

 その様子を見た箒は一夏を正気に戻そうと、必死に声をかけた。

 

「一夏、落ち着け。いいか? 落ち着くんだ」

 

 だが、一夏は正気に戻る気配すら感じられない。それもそうだ。一夏は彼女に殺されかけたのだから。

 楯無が相手にしていたゴーレムも、自分たちを追ってこちらに向ってきたのだ。もちろん、今のエムに叶うはずもなく、胴体を引き裂き、腕をもぎ取ったのだ。

 もうゴーレムは存在しない。ここにいるのは一夏と箒と楯無とエムの四人だけ。情勢は三対一で数ではコチラに分があるはずなのに、勝てる気がしなかった。

 『因子の力』を発動させている一夏と箒でさえも、勝てるとは思えなかった。

 

「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ーーーー!!」

 

 エムは再び雄叫びをあげて、コチラに向ってきた。

 彼女の腕にはゴーレムからもぎ取った超硬合金製の鈍器が握られている。先ほどの戦いでシールドエネルギーは限界にきている。この攻撃を受けたらひとたまりもない。

 一夏たち三人は逃げ惑う。とにかく、落ち着いて、この状況を、なんとか、しなくては、ならない。

 エムは欲望のままに動く獣の様に三人を追う。

 まずは更識楯無をゴーレムの腕で殴り、シールドエネルギーを完全に奪い去り、殺すまで殴り続ける。

 気を失った楯無はそのまま下へとまっさかさまに落ちた。下は山々。海などの水ではない。したがって、その衝撃を緩和しきれずに……。

 次の目標は篠ノ之箒だった。

 後ろから頭を掴まれて投げ飛ばされ、気が付けば目の前に居て、そして殴られる。動けなくなっても殴り続ける。

 

「や、や、や、やめろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

 

 一夏はエムに接近して、零落白夜を発動させた雪片弐型で後ろから斬りかかろうとした。

 しかし、エムは後ろに目が付いているかのように振り向いて一夏を殴り飛ばしたのだ。先ほどのエムの攻撃によってシールドエネルギーをほとんど失っていた一夏は、そのたった一回の攻撃で白式の装甲を破壊したのだ。

 一夏の横っ腹に衝撃が伝わり、血を吐きながら落下していく。

 

(あぁ……。無理だった……。会長……。箒……。シャルロット……。セドリックさん……。ゴメン……。ゴメンナサイ……)

 

 一夏と箒、そして楯無は敗北した。

 意識を失いかけながら落下していく三人。

 すると、上に更に一機、新たなISが現れたような気がした。

 だが、はっきりとは見えない。意識を失いかけているせいか、視界がぼやけているのだ。

 

 そして……、一夏は気を完全に失い、目の前が真っ黒になった。

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