ISを改変して別の物語を作ってみた。   作:加藤あきら

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第四章『新たなる影 -Golem-』《夢は儚く散った》

  5

 

「みんな!? ねえ、返事をしてよ! 誰でもいい、誰でもいいから返事を返して!!」

 

 そう叫んだのは束だった。

 戦闘を行っていることは三人のISのカメラから映し出されている映像で分かっていた。だが、途中何の生き物かもわからない様な雄叫びを聞いたかと思えば、一夏の呻き声が聞こえた。すると……映像がそこで終わってしまった。すぐさま他の二人のカメラの方を確認するが、それもすぐに映像が切れ、そして音声も聞こえなくなった。

 現在、その三人の生存が確認できない状態である。

 

「落ち着け束! お前が泣き喚いたところでどうにもならん!」

「そんなこと分かってる! 分かってるけど……! だって……箒ちゃんが、箒ちゃんが……!!」

「そんな事、私も同じだ。私だって一夏の事を心配していない訳がないだろう!?」

 

 この今の現状を冷静に受け止められる人物などいなかった。自分の何よりも大切な家族を失ったのかもしれない、という恐ろしさに二人はひれ伏していた。

 楯無だってそうだ。束にとっては家族同然の扱いだし、このことを信鳴が知ったらどんな顔をするのか、妹の簪がどのような顔をするのか、想像もしてしまう。

 とにかく、この事を信鳴に知らせなくてはいけない。

 束は通信の回線を開き、更識信鳴に繋げる。

 

「あ……あの……の、信鳴さ、ん……」

『ど、どうしたんだ篠ノ之!? 何があった!?』

 

 束があまりにも落ち着きが無いように話すものだから、信鳴も何事なのかと驚きを隠せないでいる。

 

「あ、の……一夏と、箒ちゃんと、楯無ちゃんが、さっきの戦闘で、あの……敵にやられて、連絡も取れない状態で、あの……」

 

 束はあまりの事態に冷静さを失ってまともに喋れなくなってしまっている。こういう裏の世界で生きていて、なおかつ戦闘をしなくてはいけない三人はいつこうなってしまってもおかしくないのは分かっていた。分かっていたはずなのに、いざこういう事態に陥っても冷静な態度を取れなかった。

 それは信鳴も同じ。

 自分の娘の安否が心配になってしまう。この世界で生きていくことを許したのは親である自分だ。そして、娘は敵に襲われ、そして敗北した。考えたくないことを考えてしまう。

 娘が死んだ。

 

『ふむ……そうか……。いつかはこうなってしまうと分かっていたはずなのに……。私は親失格の様だ……。すまない、篠ノ之。それから千冬さん。貴方たちの家族を奪うようなことになってしまって……』

 

 信鳴はこう言うしかなかった。自分の娘の不甲斐無さでこんな状況になってしまった事を。

 

「何を言っているんですか信鳴さん! それはこちらも同じです! そんな話をするのは辞めましょう。そんな事を言っても何の解決にもならない。単なる気休めでしかない……」

 

 そう千冬は言った。

 もう仕方がないのだ。連絡がつくのをひたすら待つしかない。彼ら三人が生きていることを祈りながら。

 大切な家族を死んだと思いたくないのだ。

 それに千冬は家族同然の人物である葵春樹も行方不明で失っている。もしこれで一夏が帰って来なかったら……。

 

「一夏、絶対に生きていろ……。この私を一人にする気か……!?」

 

 そう千冬は呟いた。

 

 

  6

 

 

「エム!? どうしたの!? エム!!」

 

 そう叫んだのはスコールであった。

 最悪の事態が起こった。

 そう理解したのはそう叫んでから数秒後の事だった。

 あのとき、シャルロットを旅客機でセドリックの脅し材料にしようとしたときの束派との戦闘の時、エムがやられた時に早々に撤退したのはこの暴走があったからだ。

 原因不明で彼女は暴走を始めてしまう。それはISを装着し、敗北感を味わったときによく起こる現象だ。

 彼女が出所はまったく不明で、顔がかの織斑千冬に似ていることが特徴的である。

 エムには何かがある。それはスコールだけでなくオータムとも話していたことで、この三人がチームになった時から考えていたことである。

 暴走したエムはもはや人間の域を超えてしまっている。人間ではない何かに変化しているとしか思えない状態に陥るのだ。

 

「スコールからオータムへ、緊急連絡です」

 

 スコールは通信でオータムに連絡を入れる。オータムは現在、シャルロットの件で一人で別行動している。

 

『なんだ、スコール?』

「エムが暴走を起こしました。良くない状況です。それに、『サイエンス』の奴らは最初から裏切る気でいたようです。ゴーレムが敵味方見境なく攻撃を開始しました」

『…………そうか。その事については後々どうにかする。スコール、お前は自分の仕事を続けてくれ。エムがああなったからといって自分の仕事を放棄することは出来ない。一応、束派の奴らの足止めには成功したのだろう?』

「はい。その通りです」

『ならそれでいい。アイツは一応仕事をこなした。だからスコール。お前も自分の仕事をしっかりとやれ』

「了解……」

 

 オータムの方から通信を切った。

 通信を終えたスコールは拳銃を腰のホルダーにしまい、部屋を出た。

 これから行うのはセドリック・デュノアの拘束だ。

 彼女は既にデュノア社に潜入済みである。何故、こうも容易くデュノア社に潜入できているかというと……。

 

「セドリック様……」

 

 スコールは普通にデュノア社の社長室にノックして入る。

 

「おお、どうしたんだ?」

 

 セドリックも普通の反応である。

 何故、このような反応をセドリックがするのか……。

 

 その理由とは――彼女は……シャルロット・デュノアのお世話係だったからである。

 

 そう。シャルロットがデュノア社に帰ってきてからもう、誘拐する準備は整っていたのだ。

 スコールはお世話係に化けて侵入していた。本物のお世話係は今頃この世にはいないだろう。

 つまり、殺したのだ。シャルロットの誘拐を確実のものにするために。

 故に、セドリックの考えは『亡国機業(ファントム・タスク)』に筒抜けだったのだ。セドリックが束派を頼ってフランスへ呼んだのも、すべてが。

 

「どうしたって――」

 

 スコールは素早く拳銃を取り出してセドリックに突き付けた。

 

「こういった理由ですよ」

 

 セドリックは言葉が出なかった。ただ、額から汗を流しながら黙り続けるだけ。何が起こっているのか分からないからだ。

 

「私と一緒に来ていただきますか? 来ていただけなければ、娘さんの命は……分かっていますよね?」

「お前は……『亡国機業(ファントム・タスク)』か……!?」

「まぁ、そんな感じですよ。さて、御同行いただきましょう。共にデュノア社のIS開発プラントに行くのです」

 

 予告された時間より四時間ほど行動が速かった。いや、わざわざ一二時間の猶予を与えますよ、という言葉自体おかしいのだ。

 こちらの準備が整った時点で行動を開始するのは当たり前で、あとは相手の油断したところを襲えばそれでいい。特に待つ理由など何もない。

 

「さて、屋上にヘリを用意してあります。そちらで向かいましょうか」

 

 スコールは銃を突き付けたままセドリックに動くよう強要した。

 セドリックとスコールは屋上へと向かい、ヘリコプターに乗り込んだ。そのパイロットはおそらく『亡国機業(ファントム・タスク)』の人員か何かだろう。

 二人はデュノア社IS開発プラントへと飛び立ったのだった。

 

 

  7

 

 

 オータムはデュノア社IS開発プラントへと来ていた。スヤスヤと眠っているシャルロット・デュノアと一緒に。

 

(さて、あとはここでセドリックの到着を待って脅して、ISを奪って、こいつらを殺して任務終了か。予定より遥かに遅くなってしまったが、まぁいい。問題はエムについてだ)

 

 ここまでは恐ろしい程に順調で、予定通り。『束派』の奴らをおびき出して戦力を奪い、そしてデュノア社のISを奪う。ここにセドリックが到着すれば何の問題もなく任務は遂行されるのだ。

 だが、一つ問題がある。

 先ほどもオータムが気にしたエムの事だ。

 エムはちょいと特殊である。まず顔があの織斑千冬にそっくりな点。ISの適正が異常な数値を叩きだしている点。そして、暴走して自我を失うことがある点。この三つだ。

 そしてエムの過去をチームメンバーであるオータムとスコールでさえ知らないのだ。何故、こんな人物なのかということも分からないでいる。

 エムには何かあるのだと、考えているのだ。

 一つ予測を立てて考えた結果、オータムとスコールはドイツの代表候補生の様な試験管ベイビーなのではないのか、という考えに至った。

 だが、これもあくまで予測であり、正しい事とはわからない。何故なら、これは二人の勝手な予測であって、エム本人から聞いたわけではないからだ。

 

(スコールには気にするなと言ったが……アイツは今一人で行動している……。まぁ、戻って来なかったらそのときはそのときだ。諦めるしかない)

 

 もはやこう言った裏の汚れた仕事をしている身分なだけあって、どういった扱いを受けているのか、オータムはこれまでの経験上、分かっているのだ。

 所詮、自分たちは使い捨ての駒のようなものでしかないことを。

 他の人員など拾ってこようと思えば拾えるのだ。女性なら誰でもいい。ISを動かすことが出来ればそれだけで問題がないのだ。

 まぁ、ISに乗れるというのがただ一つの問題点なのだが、そこは適性のある者をキチンと調べたうえでスカウトするのだから問題ないだろう。

 

 オータムもこうならざるを得なかった人物の一人である。

 

 ISが発表された頃、彼女はまだ中学生であった。

 そのときオータムは、今までの常識を覆すほどのものがこの世の中に出たという事実に胸を躍らせていた。いつか自分もアレを身に着けて宇宙に飛び立ってみたい。そんな夢を抱いていた。

 だが、それも叶わず、ISというものは軍事活用することになった。

 そのときは夢をへし折られた思いだった。何の夢を持てなかった彼女にできた初めての夢と言えるようなものが、なくなりかけたのだから。

 だが、ISというものが競技として扱われるという話が出たときは再び胸を躍らせた。自分にも、ISを動かせる可能性が大きくなったからだ。宇宙開発に使用される、という話だけでは自分がISを使える可能性が低かった。だが、競技としてISが使われるのなら……自分にもチャンスを作ることが出来るかもしれない。

 そんな希望を持った直後、その希望が、夢が、現実のものになるかもしれない声がかかったのだ。ISの操縦者として研究させてくれる人物を募集しているという。

 オータムは歓喜し、その声に快くハイと返事をしたのだ。そして、適性試験も高ランクでクリア。あとは研究に協力するだけだったが……。

 その研究が人間のやる事ではなかったのだ。あの時の研究員は悪魔か何かだと思ったほどだ。あのマッドサイエンティストは現在、どこで何をしているのか分からない。

 薬漬けに監禁。奴隷的扱いを受けていた。一部の女性は男性の性欲処理機として使われていた者もいた。

 これがISの操縦者を生み出す研究とは思えなかった。

 不思議だったのが、研究道具にされた人の中に男も数人混ざっていたことだ。

 おそらく男性にもISを使うことが出来るようにする研究も同時進行で行っていたのだろう。

 

 そして、事件は起こった。

 とある女性が自我を失って暴れだしたのだ。

 薬の副作用なのか、それは分からない。ただ、大変なことが起こった。それだけは分かった。死ぬかもしれないという恐怖心もあった。

 案の定、そこの研究所は血の海と化した。

 研究員は頭を砕かれ、腕や足がもぎ取られ、真っ二つに体が裂けている者もいた。あれを見たものは一生のトラウマになるだろう。

 しかも、研究員だけでなく研究の道具にされていた人たちまで、その暴走した人物か化け物かは襲い始めたのだ。

 一体どれだけの人が生き残ったのかは分からない。ただ分かることは自分がその惨劇の生き残りの一人だという事。事の詳細は自分でも思い出さないようにしているのか、思い出せないでいる。

 そして、その事件の後、オータムは人間ではなくなった。精神が完全に崩壊して、立ち上がる事すらままならなくなったのだ。

 そんな彼女を救ってくれたのが『亡国機業(ファントム・タスク)』のボスだった。

 

(もしかしたら……エムはあの時の……。いや、そんなことはどうでもいいさ。私はあの人の為に働くだけさ)

 

 オータムはスコールの到着を待つ。

 

 

  8

 

 

 一夏と箒、そして楯無は何処かの山に倒れていた。ただし、死んではいなかった。息はあるし、まもなく意識を取り戻そうとしている。

 一夏は静かに目を開けていく。ぼやけている視界が段々と鮮明になっていき、青空が広がっていく。

 近くには箒と楯無が倒れている。離れ離れにならなかったのは不幸中の幸いか。あとはしっかり息があるかを確認し、生きていれば一安心だ。

 

(生きて……いるのか? どうして……あれで生きている? シールドエネルギーなしであの高さから落下したんだぞ? 何が……起こった……?)

 

 その時、一夏の頭に過ったのは、意識を失いかけたときに見た正体不明のISだった。

 いったいアレは何者だったのだろうか? そして、アレは何のためにあの場に現れたのか。それは全く分からない。

 現在、上空にはISの反応は全くなく、戦闘を行ってから三〇分ほど経ってしまっている。エムの姿も、最後に見たISの姿もない。

 白式が示しているISの反応は二つで、箒と楯無だけだった。

 一夏は箒と楯無に駆け寄り、体をゆすりながら意識の確認をする。

 

「おい、しっかりしろ! 生きているか!? 生きているなら目をあけてくれ! 頼む……」

 

 一夏は必死に声をかける。出せるだけの大声をだして、二人が目を覚ますのを願っている。

 すると、箒が目を覚ました。周りを何度もキョロキョロと見まわして、自分が生きていることを確認する。自分の身体も隅々まで自分で確認する。あのとき、自分たちは負けて意識を失って落下したはず。シールドエネルギーがない状況でそんなことが起きたならば、自分の体が無事であるはずがない。彼女は一夏と全く同じことを考えていた。

 

「一夏……私たちは……生き残ったのか……?」

「ああ。その通りだ。それに、会長も外傷はほとんどないし、バイタルチェックも特に問題はない。これなら生きているはずだ。時機に目を覚ますさ……」

 

 一夏がそう言ったとき、楯無が目を覚ましたのだ。

 彼女も一夏と箒がそうしたように周りをキョロキョロと見まわして今の状況を確認している。

 そして、自分が置かれている状況を理解して、それから一夏に話しかけた。

 

「私たち……生き残ったの?」

「ええ、そうですよ。これで俺たちはまた戦場に戻らなくちゃいけない。今すぐにね」

 

 一夏は少し嫌味ったらしく言った。あれだけの経験をしておいて、またあのエムという化け物と戦わなくてはいけないかもしれないのに、本当は行きたくないという気持ちがあるのに、それなのに、戦場に戻って戦わなくてはいけない自分たちの責務があるからだ。

 

「…………。あ、そうだ、連絡を!!」

 

 楯無は思い出すようにISの通信機能を開き、篠ノ之束に連絡を入れる。

 

「こちら00。HQ応答願います。HQ応答願います!」

 

 そう楯無が声を出した瞬間、光のような速さで通信が繋がった。スピーカーからは、安堵や驚き、興奮、様々な感情がごちゃ混ぜになった声が聞こえてきた。

 

『あ、あぁ……。あ、あの! みんな無事!?』

「ええ。01も02も大した外傷はありません。このまま作戦も続行できます…………え?」

 

 ここで楯無が言った言葉に彼女自身が疑問に思った。何故、何故作戦続行が可能なのか? 先ほどの戦闘でシールドエネルギーも失って作戦続行も不可能に近い状況だったのに、シールドエネルギーが復活していて、ISの機能自体もどれもが正常に動いている。

 

『ど、どうしたの……?』

「い、いえ……。ただ、少しばかり不思議な事が――」

 

 楯無はいま起こっている不思議な現象について話した。

 先ほど戦闘を行い、敗北。シールドエネルギーを失い、ISの機能もいくつかは使えなくなっていたはずなのだ。なのに、現在、ISはシールドエネルギーは全快とは言えないが回復しており、ISの機能もすべて復活している。

 それは何故か。

 

『……どういうことなのかな? 私も見当がつかない。そんな前例なんて全くないし……。そうだ、01と02、ISに何か聞けないかな? 何かわかるかもしれない』

 

 一夏と箒は、何かを思い出すようにハッとした。そうだ、自分たちはISの声が聞けるんだ。白式と紅椿は何かを見ていたかもしれない。

 

(なぁ、白式。何か知らないか……? 俺たちが負けて、そのあと、何が起こったのか)

 

 一夏はそう白式に尋ねた。すると、白式はこう答えたのだ。

 

――あの人が、助けに来てくれたの。一夏も箒も知ってるあの人。

 

 そして、紅椿が続ける。

 

――だけど、知らない人が二人ほどいたよ。

 

 それを聞いた一夏と箒は胸がバクバクして張り裂けそうになった。

 一夏も箒も、白式も紅椿も知っている人物で、助けに来てくれるような人は一人しかいない。

 そう、葵春樹だ。

 おそらくそうだ。今はそれしか考えられない。そう考えたい。

 それを聞いた束も、言葉を失って胸が張り裂けそうな思いになった。

 

『春樹は……生きているの……? でもなんで!? なんで私たちの前に姿を現してくれないの!? 私を守ってくれるって言ったのに……なんで側にいてくれないの……!?』

 

 束はそう叫んだ。これは通信で、一夏と箒、楯無も聞いているというのに、それを忘れたかのように悲痛に彼女は叫んだ。

 

『落ち着け束!! 今お前がそんなことを叫んでいてもどうにもならん。今やるべき事だけを考えろ!』

 

 通信機の向こうから聞こえてきた千冬の声は尋常ではないような声と音が混じりあったものであった。この音から察するに、暴れているようにも感じられる。

 それをただ聞いているだけの一夏たちは、とりあえず束が落ち着くのを待つしかできなかった。

 しばらくして、通信機の向こう側から雑音が消えたと思えば、冷静を取り戻したような声で束は喋る。

 

『ごめん、みんな。取り乱しちゃって……。もう大丈夫だから、安心してね。……で、これからやるべきことなんだけど――』

 

 

  9

 

 

 束はGPS機能を使って一夏たちの居場所を確認すると、そこはスウェーデンのオンダールスネスの付近だということが分かった。周りは低い山々で囲まれている場所で、ここから目的地であるフランスのフォスのIS開発プラントまでは約一五〇〇キロメートルほど離れている。

 そこでISの最高速で目的地まで飛ばしても一時間ほどかかる。

 しかし問題はそこではなく、どうやってフランスに入国するか、である。

 本来ならあのジェット機でフランスに正式に入国した後、違うジェット機に乗り込んでフォスへと向かうはずだったのだが、そうも言ってられない状態になっていた。

 もはやフランスへ行く為の足はISしかないし、タイムロスも大いにした。このまま何もせずに過ごす時間が惜しかった。

 そこで、束は困った時に利用する国際IS委員会へ連絡を取る。やはり、世界ぐるみの組織を味方につけるというものはとても便利な事だと一夏たち、そして千冬も束も思っていた。

 

「まず私は国際IS委員会に交渉を取るから。フランスへ向かうための各国へのISによる飛行の許可と、入国の手続きについてね」

『わかりました。話が付くまでは待機……でいいんですね?』

 

 一夏はそう確認を取った。

 束はそれを肯定し、一旦通信を切る。

 今度は、国際IS委員会へ通信を繋げると、前回と同じ人物が通信に出てくれた。

 

「先ほど連絡したばっかりなんですけど、お願いがあります」

『今度は何だ? あれだけ協力してもまだ足らんと言うのか?』

 

 男口調の女性がそう訪ねてくる。たしかにあれだけ協力しておいてまた何かお願いされると思わないだろう。

 だが、しかし。

 

「緊急事態です。貴方たちに用意してもらったジェット機は敵の襲撃に遭って大破。作戦メンバーは既に無事を確認しています。そこでまたお願いがあるんです。現在はスウェーデンに作戦メンバーが待機中。ここからフランスへと一気に行きたいのですが、ドイツとフランス上空の飛行許可を頂きたく……」

 

 束の口からはそんなことが発せられた。

 通信の向こうの女性の声が震えていることがコチラからも窺がえる。

 この声の震えはジェット機を大破させたことに対する怒り……ではなく、相手にしている『亡国機業(ファントム・タスク)』の行動に対する震えだ。

 

『まさか、「亡国機業(ファントム・タスク)」がここまでやるとは……。一体何が……?』

「それについてなのですが、こちらは新たな勢力に関する情報を入手しました。その新しい勢力は全く新しい技術でISに匹敵する無人兵器を作成に成功したもようです。実際に私の組織のメンバーが交戦しましたが、結果は敗北。やつらの技術力には驚かされます」

『次々と新たな勢力が動き出したということか……。飛行許可については了解した。出来るだけ早く許可できるように努力はする。入国の件だが、そればっかりはこちらの手におえない。だから、素早く作戦を終わらせてくれ。帰りの足はこちらで用意するから、それに乗って帰国するといい。では、「亡国機業(ファントム・タスク)」の奴らをひっとらえてくれ。殺してはいけない。わかったね?』

「わかりました」

 

 国際IS委員会側が亡命企業の奴らを殺してはいけないと言ったのは、もちろん様々な情報を聞き出すためである。今回のこの事件で動いている奴らは、『亡国機業(ファントム・タスク)』のほんの一部でしかない。組織という単位では潰していないのだ。したがって、オータム、スコール、エムの三人には詳しい情報を喋ってもらう必要がある。『亡国機業(ファントム・タスク)』という組織の破壊の為に。

 束は通信を切ると、

 

「ふぅ……。何とかなったねちーちゃん。やっぱり、バックに国際IS委員会というものが付いていると何かと楽だねぇ。春樹と二人だけで行動していた頃が懐かしいよ……。アハハ……」

 

 このときの束の顔はフランスにたどり着けるという安心した表情ではなく、とても悲しげな顔をしていた。それを近くで見ていた千冬は嫌でもわかった。

 

「……なあ、束」

「ん? なにちーちゃん?」

「春樹は一体何をやっているのだろうか? 一夏たちを助けたのはおそらく春樹だろう。白式と紅椿もそう言っていたしな」

「たぶん……、春樹は昔の仲間と行動しているんだと思うよ。ほら、言ってたじゃん。他に二人、知らない人がいたって」

「それってやはり――」

「うん。あの子たちだと思うよ」

「お前はそれでいいのか?」

「あはは……。さっきは取り乱しちゃったけど、あの人がやらなくてはいけないことをやっているんだって、冷静になってから気づいたの。だから、今はいいの。すべてが終わってから、それからあの人とお話をしようと思う」

「……そうか」

 

 そんな会話を二人がしていると、連絡が入った。

 それは、国際IS委員会であり、通信の相手も先ほどと同じ、男口調が特徴的な女性の声だった。

 

「はい、こちら篠ノ之束」

『篠ノ之か。飛行許可がでたぞ。結構無理をしたがな……』

「ありがとうございます。お仕事が早くて助かりました。必ず作戦を成功させてみせます」

『期待しているよ。では、作戦の成功を祈る』

 

 そんな短い会話を済ませるとすぐに通信を切った。

 あまりにも速い飛行の許可。それから考えるに、とてつもない無理をさせてしまったことが窺がえる。もしかしたら、自分の身を滅ぼすことになるかもしれない。

 だったら、その無理をさせてしまったその女性の為にも、必ずこの作戦は成功させなくてはいけない。

 だから――

 

「HQから00、応答願います」

 

 篠ノ之束は更識楯無へと今後の行動を知らせる。必ず、この作戦を成功させるために。

 

 

  10

 

 

 篠ノ之束から連絡が入った。一夏たちはそれに耳を傾ける。

 飛行許可が出た。これでここスウェーデンからバルト海を渡ってドイツへと行き、それを抜ければフランスへとたどり着くことが出来る。

 コンバットモード時のISの最高速度は、個体差があれど平均時速一二〇〇キロメートルまで加速することが出来る。ここからフランスのフォスまでたどり着くのにだいたい一時間。距離にして約一五〇〇キロメートルほどだ。

 

「わかりました。すぐにフランスへと向かいます」

 

 楯無は束にそう一言言うとすぐに通信を止め、ISを装着する。それに続き一夏と箒の二人もISを装着する。

 

「いくよ、01、02!!」

「「了解!!」」

 

 三人は一気に上へと飛び立ち、高度を取り、ある程度の高さを取ると束の下から送られたルート情報を頼りに真っ直ぐに加速する。

 どんどん速度が上がっていく三つのISだが、パイロットの視界は段々と狭まっていく。

 そんなことも気にせず加速を続ける三人。速度は時速一〇〇〇キロメートルまで到達したが、加速はまだ終わらない。

 もっともっと、加速をする三人だが、ここらへんで機体の性能差が出てきてしまっている。一夏が先頭を飛び、その後ろに箒、そしてその後ろに楯無、という具合に。

 だが一夏は加速を止めない。

 

「もっとだ。もっと! 白式、お前の力だけが頼りだ。俺の友達を助けるためにはお前の力が頼りなんだ。俺に力を貸せ……白式!!」

 

 そのとき、白式はスペック以上の速度を出したのだった。

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