ISを改変して別の物語を作ってみた。   作:加藤あきら

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第五章『思惑が混じ合う時 -One_of_the_Piece -』《紅》

  1

 

 フランスは夜中の〇時頃を示していた。

 真夜中のそこはとても静かで、ヘリコプターの飛ぶ音しか聞こえなくなっている。

 スコールはセドリックの手足を縛り、そして口を布で縛り、喋ることも動くことも困難な状況にしていた。

 パリから目的地のフォスまで約二時間程かかる。それまでに何もなければいいのだが、スコールは一番見たくないものを目撃してしまったのだ。

 自分のISのセンサーが示したIS反応三という表示。

 これは間違いなく、『束派』の奴らのものだと確信する。

 

(アイツらは暴走したエムにやられたはずでは? 何故まだ動けるの!?)

 

 スコールは驚きを隠せない。モニタリングしていた限りでは、束派のやつらがやられていく様が見ることができた。なのに、奴らは動いてこちらに向っている。

 途中で映像自体が切れて通信も不可になってしまったのだが、束派のやつらがやられたのは確認できた。だから安心できたのに。それなのに――

 スコールはヘリコプターから飛び出してISを展開した。

 目の前には束派の三人、一夏、箒、楯無がいる。

 

「あんたたち、やられてなかったのね。どうやって生き残ったの?」

 

 スコールは不思議でたまらなかったことをストレートに質問した。

 それに楯無は答える。

 

「実は私にも分からないんだよねぇ。まぁ、あのヘリコプターにはおそらくセドリックさんが乗っているんでしょ? こちらに身柄を渡してくれないかな?」

 

 彼女がわざわざヘリコプターで移動する理由はあからさまだ。

 それはISを使用することが出来ない人物がそこにいるという事。そして、『亡国機業(ファントム・タスク)』の奴らがISを使用できない人物をヘリコプターでフォスの方向へと向かわせる人物と言えばセドリック・デュノアぐらいしか思いつかない。

 

「もし彼が乗っていたとしても、私はその人を貴方たちに渡すことはできないわ。それに、貴方たちがやられていないことが分かったのなら、なんとしてもここで倒さなくてはいけない」

 

 そう言ってスコールは一夏たちに襲い掛かったのだ。

 一対三というどう見てもスコールが不利に見えるこの戦い。

 だが、スコールにはもちろん考えがあった。

 ここまできて自分一人なら、殺すことは考えなくてもいいのだ。本来なら消しておきたいのは山々ではあるのだが、ヘリコプターがフォスのIS開発プラントに着くまでの間、出来るだけの時間を稼ぐのが彼女の役目なのだ。

 幸い、スコールのISは防御力がとても高い。装備も防御を意識したものが多く、元々メンバーの中では壁役なのだ。

 口では倒す、とは言っているものの、彼女の本来の目的はそれだった。

 一夏たちは突撃してくるスコールをかわす。

 スコールのISは未だ謎に包まれている状態。唯一分かっているのは防御重視の装備が整えられているということだけ。それなのに禍々しい何かを感じてしまう。

 絶対に隠された何かがあるのだと、一夏たちは警戒を一層強める。

 楯無は少し離れたところから様子見程度にガトリングをスコールへと放つ。だが、その攻撃は金色の繭のようなものが彼女の身を守ったのだ。まるで、その繭は生きているかのように。

 今度は箒が空裂と雨月の二本の刀でスコールを斬りつけようとする。スコールは簡単に接近を許した。この事実を不気味に思いながらも箒はスコールを斬る。

 だが、それも繭によって守られたのだ。

 スコールは特別動いていないのだ。そこにただいるだけ、それでまるで意思があるかのように自動的に繭がその身を守ってくれている。

 

 だったら――

 

 一夏は零落白夜を発動させながらスコールを斬ろうとした。だがそれも繭によって受け止められる。零落白夜の持つシールドエネルギーを切り裂くという能力もその繭には通用しなかった。それはその繭はシールドエネルギーのようなもので出来てはいないという証明。

 次は三人同時攻撃を試してみる。

 三人は息を合わせて別々の方向から接近攻撃を仕掛ける。一夏と箒は剣を振るい、楯無は槍を加速して勢いをつけながら突進する。

 だが、今度は繭の様なシールドが全身を包み込み、三人の攻撃をその身へと届かせることはない。しっかりと攻撃を受け止め、尚且つ貫かすことはない。

 この鉄壁の防御を持つスコールを倒す方法なんてものはあるのだろうか?

 そう思った一夏たち三人はどうすればよいのかと必死に頭を働かせる。

 

(この状況……。なら、スコールを仕留めることは諦めるしかない)

 

 そう一夏は考えた。今、この状況で優先しなくてはならないのはセドリックをなんとしてでもこちら側に持ってくることだ。

 なら、スコールを押さえてヘリコプターを直接追うことが利口な手口というもの。

 

「00、02、こうなったらヘリコプターを直接狙うしかない。コイツを仕留めるのはこの際諦めよう」

 

 一夏がそう提案すると、二人からの賛成の言葉。どうやら同じことを考えていたようだった。

 スコールのこの防御力に特化した装備は三人がかりでも突破できそうにない。しかも、たった一つの装備にすべての攻撃が防がれているのだ。複数人での同時攻撃でも、すべての攻撃が防がれてしまう。

 そう、あの繭の様な膜はまるで意思を持っているかのように攻撃方向に張られてしまうのだ。

 まずは一斉にヘリが向かった方向へと飛び出す三人。同時に行動した場合、どのような行動を取って来るのかを試したいのだ。

 そんな『束派』の行動を見て、何をしようとしているのか悟ったスコールは少し焦りを表に出した。奴らは自分を倒すことよりヘリコプターのセドリックを優先した。

 それは何としても防がなければならない。

 スコールはヘリの方へと向かって行く三人を追いかけ、まずは箒の腕を掴んだ。

 するとどうだろうか。繭の糸が箒のISへと絡みついていく。その糸は紅椿のシールドエネルギーを侵食し、それを通り抜け、箒の身体までたどり着いていた。やがてその繭の糸は箒の頭へとたどり着き……。

 

「ひぃ!? や、やめろ……やめてくれぇぇぇ!!」

 

 箒の絶叫がその静寂に包まれた暗闇に響き渡る。

 いったい何が起こっているのか、このままではマズイ。それだけは一夏と楯無の二人は理解した。

 

「さて、今この子の頭は私のISの能力によって浸食されそうになっている。やりようによっては廃人コースまっしぐらってね」

 

 一夏と楯無の二人は思わず動きを止めてしまう。いくらなんでもエグ過ぎる。人間の脳を直接狙ってくるという、そんなISの武器があっただなんて。

 

「人間の脳ってどのようなものか知っているかしら? それは――」

 

 脳――Brain ――とは動物の頭部にある神経系の中枢で、感情、思考、生命維持、その他神経活動の中心的、指導的な役割を担っている物である。

 脳は大きく分けて、大脳、小脳、脳幹の三つである。

 その中でも大脳は次の構造になっている。

 

 前頭葉――倫理的思考計画情動、言語運動のコントロールを助ける。

 頭頂葉――感覚器の信号を解釈し、その情報を統合する。

 後頭葉――視覚信号を処理する。

 側頭葉――音声を処理し学習、記憶、言動、情動をコントロールする。

 海馬――記憶の形成を助け、蓄積すべき感覚情報を判別し、匂いを識別する。

 

 そしてこの中でも大脳皮質の中の大脳辺縁系に属する海馬は特に重要なもので、これが働かなくなると、新しいものを覚えることが出来なくなるし、昔の事は覚えていても新しい物事は忘れてしまう、といった事になってしまう。

 そして心理的ストレスを長期間受け続けると、コルチゾールが分泌し、海馬の神経細胞が破壊され海馬が萎縮すると、心的外傷後ストレス障害、うつ病になってしまう。

 スコールはISのその繭の力を使って心理的ストレスを受け続けている状態にし、意図的に海馬の萎縮をさせることが出来るという。

 そもそも、人間には神経細胞が一〇〇〇億個はあるといわれており、複数の神経細胞を結んだネットワークが作られている。このネットワークを使って思考したり、想像したり、記憶しているのだ。

 

 では、脳が働くとはどういうことか。

 脳の働きとは、このネットワークに電気が流れることで、脳の働きが良いとは、このネットワークに活発に電気が流れるようになること。ここで大事なことは、このネットワークに活発に電気が流れると質的な変化を起こすことだ。質的な変化とは細胞と細胞をつなぐ線が太くなったり線が増えたりするとのことである。

 そして、逆に活発に電気が流れなくなると線が、切れたり、細くなって消滅してしまう。

 

 これが脳を使わないと衰え、萎縮してしまうということである。

 これによって、脳の廃用症候群が生じるのだ。

 この脳の廃用症候群とは、安静状態が長期に渡って続くことによって起こる心身の低下等を指す。

 しかし、これもスコールの繭の糸によってその電気を流れにくくし、細胞と細胞の間の線が切れたり、消滅したりといった状態に意図的に持っていくことが出来るそうだ。

 つまり、その糸は脳にあるシナプスに干渉し、機能を減衰させてシナプス可塑性を低下させることができるということらしい。

 

「外道め! 人の精神を殺すだなんて!!」

 

 楯無はそう言葉を吐き出した。

 これもヘリコプターを出来るだけここから遠ざけるための時間稼ぎに過ぎない。人質を取ることによって相手を拘束。殺すまで時間をかけることによって、相手が何もできない状態を長く続ける。それが狙いだ。

 

「なんとでも言いなさい。さあて、そこを動かないでね。動いたらこの子の脳の活動を止めて植物人間状態にも出来るんだからね」

 

 沈黙が長く続く。

 

(どうする……? ヘリコプターはどんどん遠くへと行っちまう。セドリックさんが俺らの下から離れていく。箒を見捨てるか? それも手の一つだが、変に動けば箒を犠牲にしただけじゃなく、俺たちまでアイツに捕まって頭を弄らされかねない。どうする?)

 

 一夏がこれからどうすればよいのか、額に汗をかきながら考えていたそのとき、スコールはこのようなことを言い出した。

 

「そうだ。この子の記憶を見てみましょうか? この糸は人間の記憶に関わる海馬に干渉できる。さて、この子はどんなことをしてきたのかなぁ?」

 

 その糸はついに箒の頭に刺さった。するすると、その糸はどんどん頭の中へと入っていく。

 

「が、あ……ぐひぃ!? あ、あ、あ、がぁぁぁあああああああああああ!?」

 

 箒は言葉にならないような声を上げる。目が虚ろになっていき、目頭には涙が浮かび上がってくる。

 やがて、繭の糸はどういう原理か頭蓋骨をすり抜け、そして脳へとたどり着く。

 スコールを小さな笑い声をあげていて、まるでこの状況を楽しんでいるかのようだった。

 一夏と楯無は込み上げてくる怒りはありながらも、ここで変な動きをした途端、より酷い事をやられてしまうかもしれない。とてもじゃないがそこを動くことは出来なかった。

 

 そして――糸が海馬に干渉し、記憶を覗き見ようとしたその時であった。

 

 

  2

 

 

 そこに広がっていたのは血みどろの空間。

 足元には血で満たされていた。

 スコールはいったい何が起こったのかまるで分らない。

 あの『束派』の赤いISの奴の記憶を覗き見ようとした。本来なら相手の記憶がISのコアに流れ込み、その映像を共有し、そしてそれを自分の記憶の一部として覗き見るだけなのだ。

 それなのに、自分はどこか分からない場所に立っており、まるで逆に自分が相手の記憶に飲み込まれてしまったような感覚を覚えた。

 

「いったい、何が起こったというの?」

 

 足元には血のような赤黒い液体、周りはどこまでも真っ黒で、その先があるのか、または壁なのかも分からないような光景が広がっている。

 そして、中央には小柄な少女が一人ぽつんと蹲っており、それ以外には誰もいない。その少女と自分の二人だけの状態であった。

 スコールはぴちゃぴちゃと足音を立てながらその少女に近づいていく。

 その少女は顔を隠して誰なのか全くわからない。彼女は肩を叩いてみるがまったく反応は無い。次は声を出して読んでみるも反応なし。

 業を煮やしたスコールは髪を掴んで無理矢理顔をあげて顔を見た。

 そこにあったものとは――

 

「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!?」

 

 スコールは叫ぶ。だって、そこにあったものは――

 

「ねぇ、返してよ。ねぇ……」

 

 そう呟く少女の顔は、真っ赤で、尚且つ目は虚ろで、何か病的なものを感じる。

 だが、スコールが叫んだ要因はこれではなく、その少女の顔の後ろにあった。

 そこに居たのは、白衣を来た男の人の顔だった。

 

 

  3

 

 

 しっかりと気を取り戻すことができたのはその直後であった。

 スコールが見ていた映像は一夏と楯無にも共有されていた。そう、ここにいる全員がそのおぞましい映像を見たのだ。あの血みどろな世界を。

 そして、あの変な部屋の真ん中に居たのは幼い頃の箒であったのは間違いないと、一夏は確信していた。

 

「う……!?」

 

 一夏は急に頭痛に襲われ、頭をかかえる。

 

「何なのあれ……? あの映像はいったい何なの……?」

 

 楯無も良くわからないこの状況にただ混乱するしかなかった。

 そしてスコールは動揺してしまっていた。ただ、糸は箒の頭に繋がったままで、このまま箒を引き離すことは出来なかった。

 それにしても、今見たあの映像。スコールはあの繭の糸を脳の海馬に干渉させ、記憶を覗き見ることができると言っていた。と、いうことはあれは箒の記憶だという事なのだろうか?

 それとも、あれは何かしらの覗き見てはいけない過去で、無意識に覗き見ること、見られることをブロックしていてあのような映像を見ることになったのだろうか?

 疑問に思うことはもう一つある。

 何故、自分たちが箒の夢を見ることが出来たのか、ということだ。あれはスコールのISとその操縦者が干渉した人の記憶を共有して見ることが出来るものだ。しかし何故か自分たちも見ることが出来たのだ。

 これもISのコアの能力、ということなのだろうか?

 そんな疑問が一夏の頭の中でぐるぐると回っていたとき、楯無は急に大きな声で叫びだす。

 

「……な!? くそっ!! 時間が……一時間も経ってる……。あの映像を見ていた間、私たちは一時間もその場にじっとしていたというの!?」

 

 その事実に一気に青ざめてしまう。セドリックを乗せたヘリコプターがとてつもなく遠くへと行ってしまった。一刻も早くここから追いかけないと、先にヘリコプターが目的地に着いてしまう。

 だが、スコールに囚われている箒を見捨てるわけにはいかない、と思ったその時だ。

 

「な、なんで!?」

 

 スコールはいきなり叫んだ。いったい何が起こったというのか?

 一夏は箒の方をズームインしながら見る。すると、頭に入っていた糸が消滅していくのが分かった。それも魔法がかかったかのようにスゥっと消えていったのだ。

 いったい何が起こったのか分からない。

 それに、箒も意識を取り戻している。

 箒は目を見開きながらスコールの事を払いのける。剣の柄で彼女の腹を殴り、その身を引きはがした。

 

「00、01、ここは私が相手をする。だから、セドリックさんを頼む!」

「けど、大丈夫なのかよ!?」

 

 一夏は箒を心配してそう言った。だが、箒は一夏に向って、

 

「早く行けと言っている! 私は大丈夫だ!」

 

 一夏と楯無は目を合わせると、背を向けてヘリコプターを追いかける。セドリックをIS開発プラントへと向かわせないために。

 一夏たちがヘリコプターを追いかけだしたので、スコールは焦り、そちらに飛ぼうとするが箒はそれを許さなかった。

 

「何所へ行く? 貴様にアイツらを追いかけさせる訳にはいかない。黙って私と戦え!」

 

 箒は背中についているブレードビットを飛ばしてスコールの行く道を塞ぐ。

 

「ちぃ!! 何だよお前は!!」

 

 スコールからは今までの御淑やかな口調が無くなっていた。

 箒はそれに答えずにスコールに接近。二本の刀を振ってスコールを攻撃するが、繭がその刃を止めた。やはり、この糸は攻撃に反応して自動的にスコールの周りに繭の様に糸の壁を作り出すらしい。

 一度距離を取り、これからどうやってスコールを攻めるのかを考える。

 そんな中、スコールは攻撃しようともせず、先ほどの頭の中の光景について聞き出そうとしている。

 

「質問に答えろ! あの光景は一体何なんだよ! お前の頭の中はどうなってやがる!?」

「……分からない。だが、私は何かを忘れているような気がするんだ。前にも、自分の記憶と記憶が矛盾することがあった」

「何? ……なるほど、そういうことか」

「どういうことだ?」

「お前の記憶にはPTSDとなりうるようなものがあり、それをブロックするための記憶があるのかもしれないな」

 

 心的外傷後ストレス障害(Post_traumatic_stress_disorder:PTSD)とは、心に加えられた衝撃的な傷が元となる、危うく死ぬような、または重症を負うような出来事――トラウマとなるような出来事の後に起こる様々なストレス障害を引き起こす疾患のことである。

 心的外傷後ストレス障害は地震や家事などの災害。事故などの人災。監禁、虐待、強姦などの犯罪が原因で起こりうるものである。

 症状としては、精神的不安定による不安や不眠などの過覚醒症状。トラウマの原因になった障害や関連する物事に対しての回避傾向。事故、犯罪、事件の目撃体験等の一部や全体に関わる追体験(フラッシュバック)などがある。

 

「そんな、私にはそんなものが……?」

「まぁ、これはあくまで私の予測だけど……、私に脳をちょっと弄らせてもらえば真実が分かるかもしれないわよ?」

 

 優しい声で箒に語りかけ、箒に近づいていく。

 真実を知りたい、という気持ちは彼女の中に確かにあるし、それを知るのが怖いという気持ちも存在している。

 この矛盾した気持ち。

 だけども箒は恐ろしい記憶を蘇らせたくない気持ちの方が上回った。

 

「や、やめろっ!!」

 

 箒は頭に迫ってくる糸を刀で振り払った。

 

「私の頭の中をこれ以上覗くなァ!! やめろ、やめてくれぇ……」

 

 急に必死になり、更に弱気になってしまう箒。これも彼女の中で思い出してはいけない記憶が存在する証明だった。

 彼女も自分が知らない間にその記憶を思い出さないように避けていたのだ。

 これは先ほどにも語ったように――トラウマの原因になった障害や関連する物事に対しての回避傾向――にあたる。

 今の様な反応を見せたスコールは不気味な笑い声をあげた。

 

「ふふふ……。じゃあ、貴方の頭の中を弄って記憶を蘇らせれば、貴方は本当に廃人コース決定ね」

 

 もはや、先ほど飛び出してヘリコプターを追いかけた二人のスピードに追いつくことは不可能だと判断したスコールは、この目の前にいる『束派』の一人を確実に使い物にならなくする方を選んだのだ。

 必死に抵抗する箒だが、奮戦虚しく、精神の状態が正常ではない箒はまともに戦うことが出来なくなっていた。

 たったあれだけの言葉のゆさぶりでここまでに陥ってしまうとは、これにはスコールも驚いてしまっていた。これはよほど大きなトラウマを抱えているに違いないと考える。

 しかし、心残りであるのはあの時に見えた白衣の男の姿。

 あれは――。

 

「何ビビってんの私……」

 

 スコールはそう呟くと、糸を箒の頭の中へと侵入させた。

 

 

  4

 

 

 すると、再びあの血塗れの光景が広がっている。

 

「なんだよ……。何なのよこれはァ!! いったいこの子の頭の中はどうなっているの!?」

 

 中央には少女。そしてその奥には――白衣の男が立っていた。

 年齢はそこまで歳を取っておらず、二〇代後半といったところだった。

 

「お前は一体なんなんだよ! こんな女の子の頭の中にまで現れて、アンタはこれ以上何をする気なの!?」

 

 ヒステリックになりながらその男に話しかけるも全く反応は無い。

 ただそこに“記憶”として存在しているにすぎなかった。

 と、なれば。

 この女の子の隠された記憶を思い出すスイッチとして考えられるのは、この空間の中央に存在する女の子としか考えられない。

 スコールはその子供の頭に、繭の糸を潜り込ませた。

 これ以上は記憶の奥深くに侵入することになる。それを覚悟したスコールは、繭の糸を記憶を蓄積する海馬に接触させようとしたその瞬間。

 スコールの目の前には見知らぬ男が立っていた。それは彼女が知っているらしい白衣の男などではなく、また新しい赤い衣服を身に着けた男の子だった。

 

「君にこの子の記憶を覗かせるわけにはいかないよ」

「お前は……?」

「僕は彼女を護る存在だよ。彼女と心を通わせている最高のパートナーだ」

 

 男の子はいまスコールが襲おうとした少女を指しながら言った。つまり、この男はあのISのコアだという事だろう。ISのコアは人間と同じように意思があるという話だが、まさか本当に人間と同じ格好をしているとは思わなかった。

 

「貴様はこの子のISのコアだという事?」

「まぁ、そうだね。詳しい事は言えないけど」

「ふん。まぁいいさ」

 

 スコールは鼻で笑うと、再びその少女の頭に繭の糸を沈み込ませようとしたその時、赤い衣服を着た男の子はその糸を握りしめたかと思うと、その糸自体を消滅させた。

 

「だから言ったじゃない。僕はこの子を護る存在だって。この子の抱える闇を蘇らせるのを防ぐのが僕の役割なんだから」

 

 そこでスコールは二ヤリと笑った。

 やはりそうだ。この女の子はあの赤いISのパイロットであり、なおかつトラウマ的なものを抱え込んでいる。だからこそあそこまで取り乱した。

 ならば、ここでやらない訳にはいかない。

 

「ここでは僕がルールだ。君はここから追い出さなくちゃね」

 

 そう言った瞬間。スコールは意識を失った。

 

 

  5

 

 

 再び現実へと戻される。

 相変わらずスコールと篠ノ之箒は空中に佇んだまま。しかし、何かが違った。

 紅椿が戦闘態勢を取っている。だけど、箒は目が虚ろで戦う意思など微塵も感じられない。なのに、戦闘を行おうとしている。

 

「へぇ、あの男の子かぁ」

 

 スコールはなんとなく悟っていた。あのISはあの女の意思では動いておらず、その動こうとする意志はコア自体からだということを。

 紅椿はスコールへと襲い掛かる。二本の刀をスコールへと叩きつけるが、繭によってその攻撃はすべて防がれてしまう。

 そう、これがスコールのISの機能。戦闘能力を犠牲にして防御力を極限まで高め、なおかつ相手の精神に介入して中から崩壊させるということに特化させたもの。

 生半可な攻撃ではまったく通らない。一撃必殺の超高出力の砲撃や打撃などでない限り破られることは無いだろう。

 しかし、そのスコールが知っていた常識は打ち破られた。

 繭に少しずつだが亀裂が入ってきている。

 何回も、何回も、何回も、二本の刀を叩きつけ、エネルギー刃を発射し、休む暇など無く、狂戦士のごとく攻撃を繰り返す。

 そこに篠ノ之箒という意思は全くない。彼女は相変わらず目は虚ろで考えることすら止めて、紅椿というISに身を任せてしまっている状態でしかなかった。

 そして、あの硬い繭のシールドは破られた。

 

「何ぃ!?」

 

 スコールは驚いた声を上げるも、判断は冷静に両腕に取り付けられたビームシールドで紅椿の斬撃を防いだ。

 

「あの赤い男の子は……。ちぃっ、ここは撤退か……」

 

 スコールはこの場から撤退した。紅椿はこれ以上彼女を追うこともなく、静かに下へと降下し、地面へと静かに着地させた。

 周りには人は全くおらず、ここには篠ノ之箒ただ一人だった。

 

――箒。辛いかもしれないけど、君は一夏たちを助けに行かなくちゃいけない。あの人たちを助けたいのが君の願いであることは、僕には筒抜けなんだからね。

 

 そう、紅椿のコアは箒に語りかけた。

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