ISを改変して別の物語を作ってみた。   作:加藤あきら

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第一章『再会と邂逅 -Evolution-』《夢への一歩》

  1

 

 剣崎結城(けんざきゆうき)という男は、七月二四日に布仏本音(のほとけほんね)という女の子と出会った。彼女は結城の夢を聞いてくれて、そして協力してくれると言ってくれた。命の恩人なら恩を返さないといけないと思ったからだそうだ。

 そして、それから時は四日ほど経ち、七月二八日。結城は更識クリエイティブに出向いていた。本音の計らいで、更識信鳴(さらしきのぶなり)社長に結城の事を紹介したら、ぜひ会いたいと言ってくれたそうだ。

 そして、今日がその対面の日。結城は緊張しながらエレベーターに乗り、最上階の社長室へと向かって行く。

 隣には布仏本音と、その友達である更識簪(さらしきかんざし)がいた。

 更識簪は信鳴社長との対談が決定したときに、本音が連れてきた友達だ。それこそ信鳴社長の娘さんであり、彼女もIS学園に通っている一人である。

 彼女は更識クリエイティブに於いてIS部門の開発に関わっている一人であり、今回、結城に随伴してくれる人物でもある。

 そんな女の子と何故本音は友達なのか疑問に思う結城だったが、布仏家は更識家に仕える身なのだそうだ。だからこそ、IS産業に関しての融通はほんのちょっと利くらしい。

 簪とはつい二日前に会ったばかりだ。だけど、彼女は結城の事を知っていた。何でも本音が知らせていてくれたそうだ。しかも、ISの事を知りたいという事まで伝えていてくれたという話だそうで、簪もISを開発する仕事をしているということで、結城という存在はちょっとばかし嬉しかったようだ。

 男なのにISが好きで、なおかつISに詳しくなって弄れるようになりたいという彼の願いは、自分の気持ちに近くて仲間が出来たみたいだったそうだ。

 だからこそ、結城について本音から色々と聞いていたらしい。

 

「あー。ゆっきー緊張してるぅ。ほらほら、りらっくすして、りらっくす!」

「あ、ああ。でもよ、あの更識クリエイティブの社長さんだろ? 緊張しない方がおかしいだろうがよ」

 

 そんな額にじわっと汗をかいて緊張しまくっているのとは対照的に、すごく冷静で結城に対して呆れた顔をしているメガネの少女、簪が言う。

 

「大丈夫ですよ。私のお父さんはそこまで厳格な人ではありませんから。それに今回の対談はそんな肩っ苦しい話ではありません。ちょっとした顔合わせ程度のものですから、そこまで緊張する必要はないんですよ」

「あ、うん。でもさ、簪さん。社長さんの娘である君はそんな風に思えるだろうけど、俺はそんなわけにもいかないんだよ……」

「大丈夫だって! 緊張のピークは始まる前までで、始まってしまえばどうってことないよ!」

 

 などとフォローしてくれる本音の事をありがたく思いながら、遂にエレベーターは最上階へとたどり着いた。

 扉がゆっくりと開き、社長室までゆっくりと歩いていく。

 

「お父さん、剣崎結城をお連れしました」

 

 と簪はドアをノックして言った。

 中から入っていいよ、という軽い声が聞こえてきた。ドアを開けて中に入った結城は、更識信鳴の姿を確認する。白髪混じりの髪をオールバックにして、夏だというのにビシッとスーツを来ているダンディなおじさん。見た目に反して声はとても優しく、口調もとてもフレンドリーだ。親しみやすく、とてもいい人という印象を受けた結城は、少しずつだが緊張がほぐれていく。

 

「君が本音ちゃんが言っていた剣崎結城君か。はじめまして、更識信鳴だ」

 

 そう言って手を差し出して握手をしようとしていた。結城も少し焦りながらそれに応え、手を握り握手を交わす。

 

「ど、どうも。こちらこそはじめまして。剣崎結城です」

「うん、結構。じゃあ、早速だが座りながらお話でもしようか。多少なりと本音ちゃんから話は聞いているが、ちゃんと本人からお話を聞きたいからね」

 

 二人はソファに向かい合って座る。その隣に本音も座り、簪は信鳴の隣に座る。

 

「じゃあ、聞かせてくれないか、君の夢の話をね」

「はい……。俺は、空を飛ぶことに憧れていました。小さい頃の夢は鳥になることだって、言ってた記憶もあります。だからこそ、ISという存在は、俺の中での希望という名に等しい物でした。だけど、ISは何故か女性にしか使えない。じゃあ、男である俺はどう思ってこの世の中を暮していけばいい? そう思っていました」

 

 彼は真剣な眼差しで語る。自分がどういった想いで今まで過ごしていたか、そして、自分の今後の夢を語る。あの布仏本音と出会う事なる数日前、妹と交わした約束を。

 

「夢を諦めかけていたある時、ほんの数日前の事です。俺は、妹とある約束を交わしました。自分はISに乗って空に羽ばたくことは出来ない。なら、女である妹に、自分の夢を叶えてもらおうと思いました。その時に妹からあるお願いをされたんです。兄ちゃんが作ったISに乗りたいって、そう言ってくれました。これが、俺の想いが固定化される要因になったと思います。そして、このような状況に至っている――」

 

 だからこそ言う。この舞い降りてきたチャンスを逃さないためにも。

 

「自分に……ISのなんたるかを教えて欲しいんです。欲を言えば、ISの開発にも携わってみたいんです。このような場を設けてもらった本音には感謝してもしきれません。どうかお願いします!」

 

 結城は自分の想いを出来る限り語った。そんなに喋り上手でもなかった。緊張していた。だけども、そんなことは話している途中で吹き飛んでいた。想いをすべてぶつけるために、心からの言葉を勢いに任せて言い放った。

 すると、信鳴の口から驚くべき言葉が放たれた。

 

「そんなこと、決まっているだろう? お願いされる前から、こうなる事は決まっていたよ、結城君。君の想い、確かにこの心に響いた。じゃあ、作ろうじゃないか、その妹さんの為にも、そして、空を駆け回りたいと思う人たちの為に、ISの開発を一緒にしていこうじゃないか」

 

 結城はまさかの展開に言葉を失ってしまった。こんなにも簡単に事が運んで良いものなのだろうか。世の中は厳しいと言われているが、時には甘い一面もあるのだと、結城は思う。

 

「ふふ、驚いているね。無理もないだろう。こんないきなり共にISを開発しようなんて言われると誰も予想できないだろうさ。だけどね、私たちにとっても君の勧誘は利があるんだよ。君は空に関してはだいぶ執着心があるようだからね。ISに詳しくない人物からの視点が欲しいんだ」

 

 なるほど、と結城は思う。モノづくりというのは、時には詳しい人物だけでは行き詰まる事があり、それを解決してくれるのが案外素人からの言葉だったりすることがある。灯台下暗しという言葉があるように、突破口は熟練者には見なくなったようなところにあったりもするものなのだ。

 

「じゃあ、簪。早速、結城君を開発部のみんなに紹介してきてくれないか。少しISについての専門的な勉強も必要になるだろうし、やることは早くやった方が良い」

「分かりました。じゃあ、結城さん一緒に来てくれますか?」

「あ、ああ……。はい、分かりました」

 

 まだ頭の中が整理できないまま事が進んでいく。そんなことも吹き飛ばしてくれるのは、彼女の存在が大きかった。

 

「よかったねゆっきー! じゃあ、私は帰るから。頑張ってね! 終わったら色々とメールで感想を教えてよぉ?」

 

 本音のその無邪気な笑顔で、頭の中はリフレッシュされる。結城にとって、彼女はまさしく光の様な存在だ。悩みがあったとしても、悲しい事があったとしても、彼女が笑顔でいてくれれば、そんなちゃちなことは吹き飛ばしてくれるだろう。本音の笑顔に、結城も思わず笑顔になってしまうのだ。

 

「ああ、うん。しっかり感想を書いてやるよ。文字でびっしり埋めて読むのが疲れるぐらいにな。あははは」

 結城は笑う。

 

――こんな事で頭を抱えてどうする。しっかりとチャンスをものにすることが出来たんだ。これを生かさないでどうする。前を向いて突き進むしかない。勇気を持って、突き進むしかないんだ!

 

 彼は夢に向かって突き進む。いかなる障害があろうとも、それを乗り越えてでも達成するんだと誓って。

 

 

  2

 

 

 それから一日経ち、結城が本格的にIS開発に取り掛かる状態になったのだが、簪は正直驚いてしまって頭の中が混乱状態にあった。

 そんな彼女の前に現れたのは、少しハイテンションで、実際は年上だが、年下の様にも感じられてしまうようなISの生みの親だった。

 

「ねえ、簪ちゃん。ちょっと」

「なんですか?」

「昨日来てたあの男の子誰? 簪ちゃんの彼氏さん?」

「ち、違いますよ! 何を言っているんですか!」

「冗談だってぇ! で、どうなの彼は?」

「はい……。尋常じゃないですよ。飲み込みが速すぎます。知識量も、昨日専門的なテキストを渡したばっかりの人物とは思えません。まさしく、ああいう人を“天才”っていうんでしょうね。まるで貴女みたいです」

「褒めるでない! いや、もっと褒めよ褒めよ!」

 

 ――そう、そのような事を目の前で目の当りにした簪は驚いてしばらくの間、言葉が出ない状態が続いてしまっていたのだ。

 そして、こんな調子を見せる年上の彼女も、その話が本当なのかどうか知りたくなってしまっていた。

 ISの勉強を始めてたった一日。それなのに、生まれる前から弄っていたかのような飲み込みの速さと、とてつもない記憶力を見せつける剣崎結城という存在。彼女は思わず興味深さで自分の責務を忘れそうになっていた。

 

「ま、貴女と違って結城さんはもう少し真面目な方でしたよ。仕事に懸ける熱心さは誰よりもある。みんなに見習って欲しいくらいに」

「ほほぅ。随分と高評価だねぇ。でさ、簪ちゃんに頼みがあるんだよね」

「な、なんですか?」

「それはね――」

 

 

  3

 

 

 八月三日。

 結城が更識クリエイティブのIS開発に携わることになって六日ほど経った。

 今は今日の仕事がひと段落したということで、簪と結城の二人は休憩所でお話をしていた。

 簪は思う。はっきり言って、剣崎結城の知識量、技術、考え方、どれを取っても良い意味で異常だ。常人では考え付かないような発想をしでかす。そして、それが確実に良い方向へと導いてくれるのだから驚きだ。

 整備学はまったくミスなどする気配もないし、発案だってそうだ。今まで誰も考えなかったような、次世代に繋がるような、そんな事を言い出してくる。

 

「ねえ、剣崎さん。なんでそんなにISに詳しくなったの? ここに来てから一週間も経っていないっていうのに、こんな……」

「さ、さぁ? なんていうかさ、自然とアイディアが浮かんでくるんだよ。それに、ISに関しての知識は自然と自分の中に入って来る。自分でも驚きなんだ。どうしてISのいろはすらも分からなかった俺がここまでみんなの役に立てるのか」

 

 事実、簪の疑問は結城自身も思っていることなのだ。今の自分が不思議でたまらない。六日前にもらったISのマニュアルもスラスラと読んでいき、たった二日程度で読破し、理解し、更に応用まで出来るようになっていた。

 自分が何者なのか恐ろしい、とも思えてくる。

 だけど、そんな自分の力は、誰かの役に立っていると思えるし、自分の夢に一歩でも早くたどり着くことが出来るというなら、生まれ持った能力のような、このISに関する技術などを有効活用するのみだ。

 そのおかげか、第四世代ISという代物が、現実味を帯びてきた。

 結城が来てからまだ日が浅いが、彼が来てからこの第四世代ISの開発という課題が物凄く発展したのだ。

 ただ、世間一般には公表されていないが、篠ノ之束が制作し、現在は篠ノ之箒が操っている紅椿が、その第四世代ISと呼ばれるものだ。つまり、開発には成功している。

 現状ではISの制作者である篠ノ之束しか成し得なかった第四世代ISの制作は、剣崎結城という人物によって、それが開発されようとされていた。ごく一般家庭で育ったただの男子高校生が、それを成し得ようとしていたのだ。

 

「それにしても、第四世代かぁ。装備を変えることなく攻撃、防御、機動の全てを即時対応できるISか。しかも、攻撃に関しては距離を選ばない。本当にそんな都合の良いような、ゲームの終盤に手に入るようなトンデモ装備が現実のものにしようとしてるなんて」

「なに言っているんですか結城さん。結城さんがこれを考えたんでしょう? 他人事みたいに言わないで下さいよ」

「あはは、そうだね。でも、自分でも驚きなんだよ。俺ってこんな才能あったのかぁ、ってさ」

「うわ、自分で才能とか言っちゃうんですか……」

「……そんな露骨に引かないでくれるかな。こっちとしてもジョークで言っただけなのに」

 

 すると、休憩所の扉が開く。二人は扉の方へ視線を向けると、そこには更識信鳴が立っていた。

 

「こんばんは。いい仕事をしてくれてるじゃないか剣崎君」

 

 突然の事にテンパりながら剣崎は座っていた身を起こして礼をする。

 

「いえ、そんな……」

「そんなに謙遜するんじゃないよ。第四世代ISの開発。各国が血眼になって開発しているものを君が作ろうとしているなんて。君を呼び入れてよかったよ」

 

 結城は何とも言えない喜びに襲われた。こんなにも感謝されるだなんて、生きた中では指が余るほどしかない。不可思議にも思える今の自分が、こんなにも人の役に立つことが出来るのなら、よろこんで協力するしかないと、そう思った。

 

「まぁ、今はそんなことを伝えに来たんじゃない。明日、結城君の地元の神社でお祭りがあるのは知っているかな?」

「あ、ああ。あの篠ノ之神社のお祭りですね。明日……なんでしたっけ?」

「そうだ。そこでだね、簪と一緒にお祭りにでも行っておいで。休憩がてらにね。剣崎君の友達を簪の友達にしてくれないかな? 人間の輪を広げるってのはとても重要な事だからね」

「ちょっとお父さん!」

「いいじゃないか。時には気を緩めて心を落ち着かせるのも人間の責務だ。剣崎君、お願いしても良いかな?」

「はい。分かりました。じゃあ、簪さん。明日一緒にお祭り回ろうか。友達もつれてくるからさ。女の子もちゃんといるし、安心しろよ」

「う、うん……。じゃあ、明日行きましょうか」

 

 その時の簪は、顔を少し赤く染め、恥ずかしそうにしていた。

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