凰鈴音は上海へとやって来ていた。
上海は中華人民共和国の直轄市である。また、世界有数の世界都市で、商業・金融・工業・交通の中心の一つである。市内総生産は首都の北京を凌ぎ同国最大だ。
いま彼女がいるのは、甲龍を生み出した中国の企業、上海無限的那兒開發公司(上海IS開発会社)である。
そこのとある一室で、鈴音は一人で担当者が来るのを待っていた。その担当者というのは、鈴音が操る
彼女は、まだかなぁ、と暇を持て余していた。こんなところでスマートフォンを弄ったり、本を読んでいるわけにもいかず、頭の中でスケジュール管理をやっているくらいしかやることがなかった。
「ごめんね
鈴音は、やっと来たか、という気持ちを表に出さないように配慮しながら、座っていた身を起こして立ち上がる。
「いえ、大丈夫です」
「そう言ってくれると助かるよ。で、早速本題なんだけども、ついこの間日本に送ったパッケージについてのレポートはまとめてある?」
「はい、ここに」
鈴音がまとめたレポートの内容は、先日の臨海学校研修においてテストを行った
一発一発の威力は小さめだが、見えない弾丸、という存在は良い撹乱攻撃となる。そして、威力の小ささは撃つ砲自体の数を増やすことで克服しようという魂胆である。
だが――
「ふむふむ……。四門にしても火力不足は否めないと」
開発主任の女は鈴音が書いたレポートをパラパラと見ながら呟くように言った。
「はい。龍砲の見えない砲身と弾丸、そして限度がない砲身の可動角度。これほど撹乱に適した装備はないでしょう。でも、火力不足が目立つ。例の白式のようなシールドエネルギーが極端に少ない相手ならともかく、一般的なISとの戦闘では四門にしたところで火力が全然足りない。青龍刀で、かつ投擲武器の双天牙月はその重量から重い一撃を放つことができますが、如何せん攻撃速度が遅すぎます。だから――」
「射速がある高威力の銃器か、素早く触れるビームブレードのような高威力の剣が欲しいと、言いたいんだね?」
「はい」
鈴音はいつものような雰囲気は出さず、あくまで仕事、目上の人と話す態度を持ってして話す。
「でも、それは難しい話だね。現時点で甲龍の
「そうですか……」
「大丈夫! そこらへんはわたしたちに任せて! 凰ちゃんの要求はできる限りやってみせるから。それと……、例の男の子二人。えっと、凰ちゃんが日本で暮らしていた頃の幼馴染なんだって? で、どうだった?」
「そうですね……二人の操縦技術の向上は異常でした。特に織斑一夏の方が。たった三か月で代表候補生に渡り合えるか、それ以上の技量を持ちました」
「へぇ……なるほど……」
開発主任は意味深に、少しかすれた声で呟いた。
鈴音は、この時の開発主任の表情を見逃さなかった。たった一瞬だったが、非常に悪い人間に見えたのだ。これが見間違いでなければ、この開発主任は何を企んでいるのだろうか? 鈴音は思わず額に少々の汗をかいてしまうが、表情はできるかぎり変えないように頑張った。
「よし、今日はこの辺にしておこうか。甲龍の改良が終わるまでは凰ちゃんは例の男についてのレポートをまとめておいてね」
これにて、本日の鈴音と開発主任の面談が終わった。
彼女は裏でなにかとてつもないことが動いているのを感じながら、この会社を後にした。
(いったい、何がどうなってんのよ……!?)