ISを改変して別の物語を作ってみた。   作:加藤あきら

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第二章『進化の軌跡 -Zero_Gravity-』《復讐者》

  4

 

 日本時刻で現在は八月五日、午後七時時二三分。現地イギリスでは午前一〇時二三分ということになる。

 セシリアが依頼したLOE社の護衛任務は本日一〇時からとなので、既にイベントは開始している。とてつもないハードスケジュールだが、まぁ、日本に住んでいる一夏と箒にとって、現在は昼の感覚だから今は眠たいことはない。逆に心配なのはセシリアの方だ。日本からイギリスに帰るまでの間に睡眠は取ってはいるが、なにせ一度日本にわざわざ出向いてそれからイギリスにすぐに帰還したわけだ。それに彼女はイベントに関わるスタッフで、今回のLOE社の新IS、ゼロ・グラビティのパイロットして搭乗することになっている。

 さて、現在一夏たちがいるイベント会場は屋外で行われている。LOE社が有するISのテスト会場。飛行機の滑走路のような場所には、特設ステージが設けられており、そこにLOE社の社長であるドゥーガルド・フィリップスが挨拶をしていた。

 晴天の下で行われているこのイベント会場には、様々な人たちが来ていた。企業関連の人たち、マスコミ関係の人たち、そして、一般の人たちなどなど、その総数は一〇〇〇人を遥かに超える。企業やマスコミの人たちにはステージ前に専用の席が設けられているため、混雑してはいないが、問題は一般の人たちだ。彼らには専用の席が設けられていない。よって、この席に座るための整理券が配られていた。その券を取れなかった人たちは後方から見るしかない。

 一種のお祭りのような状態になっている会場。

 一夏と箒の二人はステージの裏側に待機していた。

 

「なあ、箒、なんでセシリアはわざわざ日本にやってきたのかな? 俺たちを呼ぶだけなら連絡すればいいだけなのに」

「うーむ……。まぁ、セシリアなりの理由があるのだろう。あくまでこれは私の予測だが、あそこで私たちに会う事が目的だったのかもしれない」

「じゃあ、のほほんさんがあのタイミングで狙われることを知っていた……?」

「さあな。もしかしたら、セシリアは戦闘沙汰になることを待っていたのかもしれない」

「あくまで推測でしかないな。これは本人に聞くしか真実を掴めない。嫌だね、人間ってやつは。言葉にしなくちゃ、何も伝わらない。何も分からない」

 

 それは一夏にとって春樹との関係に対する皮肉なのかもしれない。自分はどうにかして春樹の事を知りたいが、それを知るには本人から直接真実を口にしてもらうしかないのだ。この人間には、人の思考を読み取るだなんて便利な能力はないのだから。

 

「それにしても、すごい人だな。『アベンジャー』なんていう組織から狙われているってのに、こんなに人を集めて大丈夫なのかよ」

「仕方があるまい。かといってこのイベントを中止にするわけにもいかない。このゼロ・グラビティの完成披露会は結構前に企画され、マスコミ関係の人たちに大々的に宣伝してしまったんだ。それに、そういうときのためのわたしたちなのだぞ」

「まぁ、そうだけど」

 

 そんな会話をしている中、二人の前に、青いISスーツを着たセシリアが現れた。

 

「一夏さん、箒さん、わたくしの操縦テクニック、しっかりご覧になってくださいね。で、もしもの時はお願いいたします」

 

 その言葉に一夏と箒は分かった、頑張れよと一言ずつ。セシリアは二人の言葉を聞き、ニッコリと微笑みとステージへと上がっていく。

 

「さて……では早速、ゼロ・グラビティの機動をご覧ください」

 

 ドゥーガルドの言葉とほぼ同タイミングでゼロ・グラビティを身に着けていくセシリア。

 

 ふわり、とまずはゆっくり上昇。それからの急加速。

 そのスピードに人々は目を疑った。ISに精通している人物でさえも、そのスピードに目が飛び出るかと思うほど驚いた。

 わずか五秒で、目測上空五〇〇メートルは飛んでいっただろうか。

 

 そこから客席へと急降下。

 人々は恐れ大仰、そこから逃げようとする。が、セシリアほどの操縦者が激突するわけがない。しっかりとマージンを取って観客との距離を一〇メートルほど取ってから旋回しつつ再上昇。

 今度は今回の披露会の為に用意した狙撃練習用のドローンが空を舞う。ここからがセシリアの実力を見せるとき。

 まずは目の前のドローンをIS用実弾ライフルを使って撃ち抜く。そのまま体をロールさせて真上のドローンを打ち抜き、体をもとの方向へと戻して右へと旋回。左右にあるドローン一〇個をわずか六秒ですべて打ち抜き、そのまま宙返りの体制にはいる。身体をループさせながら、射線にあるドローンすべてを撃ち抜いていく。

 

 次は身体を右にひねって、少しスライドしつつ一八〇度ターンを決める。

 その次は地上にある特設コースへと一直線に飛び込む。

 この模様はステージに備え付けてあるモニタからライブ映像が流れており、観衆はそれを見つめている。だが、その状態でも拍手喝采は止まらない。

 今さっきセシリアが飛び込んでいった特設コースは、ISを使った公式競技、キャノンボール・ファストの際に使われるコースである。

 

 キャノンボール・ファストとは、ISを使ったバトルレースの事で、そのコースをいかに速く飛ぶかというものであるが、その途中にあるターゲットを撃ち抜くことでタイムにボーナスが入る。スピードを操る操作能力と射撃能力、その二つが要求される競技である。

 

 セシリアはストレートを超低空飛行で翔けていく。

 その最中にある左右にあるターゲット。これはすばやく左右交互に撃ち抜かなくてはいけないが、セシリアは容易くそれをやった。しかも、あのスピードでだ。モニタの情報によると、セシリアの操るゼロ・グラビティは音速を超えた状態で飛んでいる。

 しかも、その状態でコーナーに差し掛かろうとする。しかも、最初は緩やかで最後のRがキツイ複合コーナーであるのだ。

 通常なら、あまりにも早く流れる景色に自分の処理能力が追い付かずにどのようなコーナーで、どのように曲がればいいのか、それが分からなくなってしまう。だが、それはあくまで常人では、の話だ。

 

 セシリアは違う。

 

 その速度のままコーナーをクリア。ラインも完璧だ。

 射撃能力がずば抜けて高い彼女は空間認識能力にすぐれている。これにISのハイパーセンサーが合わされば、ほぼ無敵の狙撃手となるだろう。

 さて、今のコーナーでの出来事は、あまりのスピードのせいか気付いた人は少ないかもしれない。

 だが、気づいた人は開いた口が塞がらないでいた。

 あのコーナーにもターゲットは存在していた。コーナーの入口イン側に一つ。さらにクリッピングポイントとなる場所に一個、最後にコーナー出口に一つあったのだ。

 つまり、あの速度でコーナーを曲がりながらターゲットを三つ、すべてを撃ち抜いていたのだ。

 そんな光景を見ていた一夏と箒は正直驚いていた。

 

「箒……セシリアの奴……」

「ああ、とんでもないことになっているな。セシリアは、私たちの想像を超えるスピードで成長している。彼女をそこまで動かすものは一体なんなのだろうか……?」

 

 もはや、速度の領域が一般人のそれとは違う。普通の人間は、今見せられている映像を見ても何が起こっているのかよく分からないでいた。ただ、物凄いことが起こっている、ということだけは理解していた。

 セシリアが次に攻略するコーナーはS字だ。しかも、二本ともにブラインドコーナーとなっていて、次のコーナーがどういうものかが見えなくなっている。

 それを彼女はあらかじめ身体を横に向けておくことでターゲットを破壊しつつそのコーナーをクリアしていく。

 少々長いストレートの次は左に直角コーナー。また少々長いストレートの次は右に直角コーナー。最後に待っているのはヘアピンコーナーだった。

 しかし、セシリアはそれを難なくクリア。

 LOE社のキャノンボール・ファストコースのレコードを大きく上回る結果となった。

 いつまで経っても拍手は鳴りやまない。それほどすごいものだったのだ。今のセシリアが操縦したゼロ・グラヴィティは――いや、機体だけではない。それを操縦したセシリア・オルコット、彼女の功績も十分に大きいものだ。

 先ほどの高速操縦とは打って変わってゆったりとしたペースでステージ上へと戻ってくる。静かに着地したセシリアはISを身に着けたまま余裕の笑顔で観客を出迎える。

 大量のフラッシュと歓声、拍手。

 

「いかがでしたでしょうか? このゼロ・グラビティはこれでもまだまだ未完成だと思っております。目指すは誰もが望む第四世代IS、それにこのISを育て上げるのが目標でございます」

 

 ドゥーガルドは自信満々に大きく、パフォーマンスを含めた大げさな声で観客やマスコミに言葉を投げかける。

 そして、司会が言う。

 

「続きましては、メディア関係から、質問を承りたいと思います」

 

 だが、その視界の声もかき消されるのではないかと思うような声が響き渡り、落ち着くまで結構な時間を要した。

 

 

  5

 

 

 午後二時二三分。

 すべてのプログラムが終了し、セシリアやドゥーガルドがようやく仕事から解放されていた。あとは会場スタッフの後かたずけという仕事、それが終わればここから撤収して今日の仕事が終わる。

 

「どうでしたか一夏さん、箒さん、わたくしの操縦テクニックは?」

 

 タオルで汗をぬぐい、ペットボトルのキャップを緩めながらセシリアは尋ねる。

 

「凄かったぜセシリア、夏休み前を考えるととてつもない進化だぜ。こんな短時間で何があったんだ?」

「そうだ。セシリア、お前をそこまで動かすものってなんなのだ?」

 

 箒の質問にセシリアはたじろぐ。

 

「はい……。まぁ、そこらへんは、その……まだ早いです。わたくしがここまでする理由、それを教えるにはまだ早いですわ。でも、然るべきタイミングが来たら、いづれ、必ず……」

 

 セシリアはただ静かに、だけど、二人に伝わるように言う。その内容などはまったく分からないが、でも、確かに彼女にはここまで努力する理由がある。それだけは分かったのだ。それに、いづれ話してくれるのなら、まったく問題はないだろう。

 

「分かった。じゃあ、俺たちは周辺の警護に当たる。その時が来たら……必ず教えてくれよ、セシリア」

「はい、分かりましたわ一夏さん」

 

 一夏と箒はセシリアに背を向けてその場から立ち去る。イベント中には、『アベンジャー』とかいう組織の襲撃はなかった。だったら、このイベントが終わった後、この後しかない。一般人が立ち去り、なおかつ油断しているであろうこのタイミングしか――。

 一夏は空を見上げる。空はまだ太陽の光がさんさんと降り注ぐ真昼間。熱く焼けたアスファルトの上に佇む一夏は空を見上げる。太陽の光を遮るようにして掌を額に当てながら。

 その傍ら、黒いISスーツを着る箒は一夏を見つめる。

 昨晩、失礼ながらもセシリアの家で本当の意味で一夏と恋人になった。告白してから一か月余り、恋人としての営みがなかったと言えば嘘になるが、それは正直言って本当の意味で心の繋がりがなかったのかもしれない。

 昨晩はキスだけだった。そんなロマンチックな雰囲気でもなかった。ただ、互いの事を心から許しあっただけ。でも、それは身体の繋がりよりも心が温かくて、互いが互いの事を理解しあって、これが本当の愛なのかもしれないと箒は思った。

 だから、傍らに立つ男を守ってあげたいと思う。

 それは一夏も同じだった。

 だから、傍らに立つ女を守ってあげたいと思う。

 

 絶対に、絶対に――。

 

 一夏の額には、夏の暑さのせいか汗をかいていた。その一滴の汗が、一夏の頬を伝わりアスファルトへと落ちる。

 その瞬間――後方から、耳をつんざくような爆発音が鳴り響く。

 一夏と箒は振り向く。そこには、日本製のバンが数台並び、その中から黒ずくめの人が下りてくる。その黒ずくめの奴は次々とISを展開し、七機のISは目標へと飛んでいく。

 

 奴らだ。

 

 奴らがこのタイミングで来た。こんな青空の下、こんなにも明るい時間に、『アベンジャー』が来やがったのだ。

 一夏と箒はISを展開する。

 白い機体と赤い機体は黒ずくめのISへと接近する。

 

――絶対に、あの機体は奪取させない。させてなるものか。

 

 黒ずくめのISの一機が、ステージ上にある撤去が完了していないゼロ・グラビティに触れる。だが、これで奪われてしまうほど、現実は甘くなかった。

 突然ビームの嵐を食らい吹き飛ぶIS。その少し後ろに、ブルー・ティアーズを身に纏うセシリアの姿があった。

 

「キサマらに、ゼロ・グラビティを差し上げるわけにはいきませんわ!」

 

 セシリアは力強く言う。

 そして、その少し後方、遅れてバンから現れた男。

 

「だから言ったじゃねえか、油断すんなよって。ここには凄腕のIS乗りが三人もいるんだ。お前らごときが真正面から挑んでも勝てねえよ」

 

 良く聞くと、その声には聞き覚えがあった。

 良く見ると、その顔には見覚えがあった。

 一夏は思い出す。七月二日の出来事を。あの、いきなり話しかけてきた男の事を。

 

――もしかして、葵春樹君かな?

 

 絶対に忘れることはないだろう。自分を葵春樹かどうか聞いてきた怪しげな男であり、その後の束の話によってそいつは襲ってきた奴と同じで、レイブリックと名乗る春樹と束の前に現れた強敵。

 束すら知らない――臨海学校研修地から逃げているときに起きた戦闘の結末。春樹があの場からいなくなった状況を知るものがここにいる。

 奴は、それを知っている。

 

「アイツはァ……!!」

 

 一夏は飛び込む、レイブリックと名乗っていたその男の下に。

 だが、その男は涼しい顔で一夏の斬撃を、生身で避けていた。

 

「君は……そうか、あのときの。久しぶりだね、織斑一夏君?」

 

 その男はISを身に着ける。どこまでも黒いそれは、深淵のようで、落ちたら這い上がってこれない恐怖を感じさせる。

 それを見た一夏は確信する。

 あれは間違いなくレイブリックで、束を殺そうとする者だと。

 

「まだまだだな織斑一夏君。お前はあの葵春樹に遠く及ばない」

 

 ほくそ笑むレイブリックにしびれを切らせた一夏は叫ぶ。

 

「俺の一撃を避けたぐらいで、調子に乗んなああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 一夏は零落白夜を発動させ、目の前のレイブリックを斬り付ける。たしかに、そこにレイブリックが見えていて、ISのセンサーにもそこにいると示されている。なのに――斬った感触がまったくないのだ。たしかに目の前にはレイブリックがいるのに。

 

「ふふふ……あははははははははは!! 実に滑稽だよ織斑一夏君。頭に血が上りすぎだ。少し落ち着けよ、このあとお茶でもどうだい? なんちゃって」

 

 声は後ろから聞こえてきた。そこにレイブリックが笑って立っていた。そのあまりにの余裕に一夏はさらに頭に血が上った。

 

「ふざけんな!! 俺はお前に聞きたいことがあんだよ……。それに、お前を止めて拘束するっていう仕事もあるんだ。黙って捕まっていろよ!!」

「まぁ、そんなにペラペラペラぺラと。うるせえなお前。ま、俺もお前の事は言えないか」

「はああああああ!!」

 

 その後ろ、箒はレイブリックに接近して彼を斬り付ける。だけども、当たらない。斬った感触が全くない。煙のように姿を消していく黒いIS。

 

「おやまぁ、因子持ちが二人もご登場か。こりゃ厳しいね……遊んでないでさっさと仕事を終わらせようかな」

 

 センサーに映っていくレイブリックを斬るが、そのたびに空振る感触を味わう羽目になり、また違うところにレイブリックが再び現れる。正直勝てる気がしなかった。あちらはたった一人、こちらは二人なのだ。このような戦いのためにいままで鍛えてきたのに――勝てない。

 

「こちらアベンジャー0、アベンジャー1、2、聞こえてるか? さっさと仕事を終わらせろ。たった一機のISじゃねえか。こっちとら因子二人相手に遊び疲れてきたところなんだ。俺は早く帰りたいぞ」

 

 このレイブリックという男は、どこまで一夏と箒を馬鹿にすれば気が済むのだろうか。

 だが、確かにこのレイブリックという男は強い。目の前の自分たちを馬鹿にするくらいに余裕がありながら、自分たちを圧倒している。

 

「さて、お前らは大事な友達を守らなくていいのかなぁ? ま、お前たちをお友達の下へは行かせないけどな。あーあ、俺に構わずお友達の協力してればよかったのに」

 

 レイブリックは終始挑発をやめる気はなかった。

 そして――レイブリックはビームブレードを構えて言う。

 

「ま、命までは取らないよ。これは俺のせめてもの情けだ。お仲間だものね」

 

 

  6

 

 

 セシリア・オルコットは二機の黒いISと戦っていた。仕様を見る限り、専用機のように特別にチューンしたもの、ということになる。

 彼女は疑問に思う。なぜ、この『アベンジャー』はISをこんなに持っているのかと。七機ものISが、個人の組織に持てるわけがない。

 つまりは……公的なところからの援助がある、ということになるのだ。しかし、そんな事をする奴らとは?

 

「ほらほら、どうしたさっきまでの威勢はよぉ? アハハハハ!」

 

 汚らしい笑い声をあげる彼女は、過去にドイツ軍の基地を襲った生き残りである。あのとき、相方のアベンジャー2は敵に捕まり自決したが、アベンジャー1の方は逃走に成功し、今こうやって任務を行っている。

 ハンマーを振り回す彼女は巧みにセシリアとの距離を詰めていく。これでは、セシリアの力を最大限に発揮することができない。なぜなら、彼女の持つブルー・ティアーズの装備は、そのほとんどが中距離から遠距離に対応する射撃武器だからだ。

 だが、彼女は対策をしていないわけではない。

 セシリアは隙を見つけてショットガンを握りしめる。それをアベンジャー1の腹部に放つ。セシリアが構えたショットガンは拡散範囲が狭く、近距離向けの銃と言える。これがセシリアが考えた接近された時の対策の一つだ。

 

「お前ェ……ッ!!」

「ふふふ、お喋りが過ぎますわ。真の強者とは口数が少ないものですわよ?」

 

 セシリアは合計八基すべてのブルー・ティアーズを解き放つ。四方八方からのレーザーがアベンジャー1を襲う。

 

「おいアベンジャー2よォ! 早く助けやがれ!」

 

 ここにいるアベンジャー2は以前のアベンジャー1の相方とは別人である。だが、使っているISは過去のアベンジャー2と同じものを使っているあたり、やはり公的な組織からの援助があるのだろう。

 

「ふふふ……アベンジャー1、自業自得ですよ? あなたが勝手に先行して攻撃を始めてしまうんだもの。私の協力なんて必要ないのかと思いまして。でも、そろそろ可愛そうになってきました。協力してあげましょう」

 

 しっとりとした口調でそういうアベンジャー2はセシリアに接近する。だが、セシリアはそれを許すわけにはいかない。ブルー・ティアーズを半分、つまり四基をアベンジャー2へと向かわせる。それで四方向からアベンジャー2を攻撃しようとするが……これでアベンジャー1側の弾幕が薄くなってしまったのだ。

 だけど、それでセシリアが圧倒的に不利になったわけじゃない。元々セシリアが扱うブルー・ティアーズは複数機との戦いをも想定して作られたものである。一機増えたところで状況は多少しか動かない。

 

(ですが……一対二はさすがに辛いですわ。一夏さんと箒さんはどうしたのかしら?)

 

 セシリアは知らなかった。すでにその二人は戦闘不能状態になっていることを。

 だが、それを知らないセシリアは応援が来ることを祈って戦う。たとえ、二人が来ずとも、自分ひとりだけの力でコイツらを倒し、その身を拘束する。とある情報を聞き出すために。

 

「さぁ、これからが本番ですわよ。このわたくしセシリア・オルコットとブルー・ティアーズによる円舞曲(ワルツ)(とく)とご覧あれ!」

 

 セシリアは先ほどまでの固定砲台のような、まるで初心者のような戦闘スタイルを止め、機動重視の戦闘へと移行する。逆に考えれば、今までほぼ動かないで戦闘して生き残っているということが、彼女の射撃センスを表しているだろう。

 彼女のブルー・ティアーズには臨海学校研修から新たにストライク・ガンナーという装備を装着している。これは起動性を高めるスラスターパーツだが、それを強化して飛行速度を大幅にアップ。さらに、その他の武器の強化による重量アップを考え、重量の削れる部分はとことん削って軽量化を図っている。

 それによってブルー・ティアーズの速度は今まで以上のスピード域に到達している。

 そして、彼女の手には巨大なライフル、スターライトmkⅣが握られている。

 それで一寸も狂わない正確な射撃を披露していく。

 アベンジャーの二人は四方八方から放たれるビットによるレーザー攻撃と、彼女の手元のライフルから放たれる正確無比な射撃に翻弄される。

 彼女は、特別な力がなくともこうやって裏の世界の強者を圧倒している。しかも、一対二という圧倒的不利だと思われるこの場面で。

 

(これは勝てますわ。わたくしはついに真実に近づけるのかも――)

 

 そこでセシリアの思考が停止した。

 なぜなら、セシリアの真後ろには黒いISがもう一機いたのだから。

 

「お前、顔が完全に油断していたぜ。これは勝てる勝負だ、とも思ったのか?」

 

 どう聞いても男の声。男なのにISに乗れる存在が、織斑一夏と葵春樹以外にいたというのだろうか。

 だが、それを深く考えている暇はない。

 セシリアはビームインターセプターを展開する。これは同じLOE社が開発したサイレント・ゼフィルスに装備されていたものだが、それをブルー・ティアーズ用に再調整されたものを使用している。

 セシリアはレーザーインターセプターで後ろの男を斬ろうとするが、ビームブレードで俺を受け止められる。

 オレンジ色の火花を散らしながら男は言う。

 

「おいおい、俺だけに注目している場合じゃないだろ?」

 

 後ろから何者かの気配。ハイパーセンサーにはアベンジャーの二人がこちらに接近していることを示していた。

 

「まさか、あの弾幕の中を……!?」

「私たちを――」

「なめんじゃねえ!! アハハハハ!」

 

 目の前にはレイブリック、後ろにはアベンジャー1とアベンジャー2、この圧倒的な状況を打開するにはどうすればいい?

 考えている暇はない。セシリアはスラスターをふかして後ろに急加速。見事に二人のアベンジャーの間をすり抜けて距離を取るとすかさずにとある武器を取り出す。

 レールガン――Sir_Lancelot――。

 今回のブルー・ティアーズ改造計画の最終兵器ともいえる代物である。ただ、まだテスト段階でしかない兵器であり、どのような威力なのか、反動はどれだけなのか、砲身は耐えられるのか、電力はどれほどまで持つのか、また、撃った際の危険性など、あらゆる部分でテストがまだまだ足りない兵器。

 だから、ドゥーガルドとは実戦では使わない約束をしていたが――この状況で使わなかったら一生後悔するかもしれない。自分たちは勝利できるかもしれない。自分で考え、最善の選択をするまで。

 セシリアはレールガンのトリガーを引く。

 青白い火花が大量に散り、物凄い磁力が発生していく。投射物が白く発光していき、やがてそれは砲身から飛び出す。物凄い衝撃がセシリアを襲い、そして、アベンジャーの三人もこの衝撃に身を縮ませていた。

 地面が抉れ、クレーターらしきものを作り出す。これほどの威力、もしくらったらシールドエネルギーなど貫通してその身体を撃ち抜いてしまうのではないかと思うほどの高威力、セシリアは勝ちを確信していた。

 だが、

 

「残念。このレールガンには驚いたけど、俺たちはすでに似たようなのと戦闘していたんだよ。この勝負は俺たちの勝ちだ」

 

 セシリアは目の前まで詰め寄ってきた男に対しての恐怖で体が動かなくなっていた。

 ダメだ。殺される。

 そう彼女は思うと、目の前の男は攻撃する前にこう呟いた。

 

「ま、可愛そうだから、お前もアイツらと同じく命だけは取らないでやるよ」

 

 セシリアはレイブリックによってシールドエネルギーをゼロにされ、その身を地面にたたきつけられる。

 その後、『アベンジャー』はゼロ・グラビティを奪取。

 そのまま逃走していった。

 一夏たちの完全なる敗北。大きな力の差を見せつけられ、プライドさえもズタボロにされ、その地に残ったのは荒れ果てた戦場の跡地と、その場に倒れこんだ三人の少年少女だけだった。

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