1
四月二〇日。
ついに、クラス代表を決める日が来た。
一夏と春樹、そしてセシリアの三人はアリーナに集まり、戦う相手の組み合わせを決めるためのクジを引く。
その結果、一戦目に春樹とセシリアが戦う事となった。次いで一夏と春樹、一夏とセシリア、と言う順番で行われる。
「あら、まずは春樹さんとですね。よろしくお願いしますわ」
「そうだな。正々堂々、よろしく頼むよ」
「当然ですわ。では後程」
そう言って、セシリアはこことは向い側のピットへと歩いていった。
このとき、一夏、春樹、セシリアが着ていたタンクトップとスパッツをくっつけたような服は、ISスーツと言われる――いわばISを装着するときに身に着けるものだ。
別に着なくても一応ISは装着できるのだが、ISスーツは肌表面の微弱な電位差を検知することによって、操縦者の動きをダイレクトに各部位へと伝達、これにより、より俊敏で細かい動きを可能にする。また、耐久性にも優れ、一般的な小口径拳銃の銃弾程度なら完全に受け止めることができるものだ。
そして、未だ解決していない問題がある。
一夏と春樹に届くはずだった専用機がまだ届いていないのだ。
「織斑先生、俺たちの専用機はまだですか。もうすぐで試合開始予定の時間だっていうのに」
「慌てるなよ一夏。大丈夫だ。もし来なくても量産機を使えばいい。勝てる自信は一気になくなっちまうけどな」
春樹が一夏をなだめたその時だった。山田先生がISを運び入れるときに使う専用エレベーターから姿を現した。二つのISと共に。
色は二つとも白く、一つは今まで見てきたようなデザインであったが、もう片方は今まで見たこともないようなISだった。
本来、ISは重量を感じるような、ある程度ごついボディをしているのだが、そのISは違った。
ISと言うにはとてもスリムで、マルチ・フォームド・スーツとはかけ離れていたのだ。
「織斑先生、これってISなのか?」
一夏は、そのスリムなISを指さして言った。
「あ、ああ。IS……の様だな。私もこういうISを見るのは初めてだ」
あのISに関しては世界的に有名は織斑千冬でさえ、この特殊なISには戸惑ってしまった。今までISと関わってきて、このような薄っぺらい装甲をしたISがあっただろうか。いや、ない。あるわけがなかった。
元々、宇宙開発を目的として作られたISは現在、競技として確立した。だからパイロットの安全を確保するためにもある程度の装甲の厚さはあるはずなのだ。
しかし、そのISにはそれがない。パイロットを守る機能は一応あるものの、万が一の事を考えた場合、これでは危険なのではないか、と疑問をも抱く。
「えっと、こっちのちょっと特殊なISはですね……、葵君のISとなります。名前は
「はい」
春樹は
そのISは、装甲がとても薄く、背中には少し大きめのスラスターがついている程度。装甲が異常に薄い以外は何の変哲もないISだった。
そして、山田先生は続けてもう片方のISの説明に入った。
「それと、こっちの方が織斑君のISです。名前は
「はい」
一夏の専用機となるIS、白式は、春樹の
「では葵、さっそく準備をするぞ。だが、フォーマットとフィッティングをしている暇はないな。仕方がないから、それは試合をしながら何とかしてくれ」
と、千冬が何やら無茶な欲求をしてくる。
フォーマットとはその名の通り、
そして、フィッティングというのは、その操縦者を正規の所持者として登録させることだ。それに従い、操縦者に合わせて中身ソフトウェアと外見ハードウェアを一斉に書き換えて、表面装甲を変化、成形させること。
それをせずに、イギリスの代表候補生と戦ってこい、と千冬は言っているのだ。
思わず春樹は溜息を吐いてしまう。
「はぁ……分かりました。なんとかやってみます」
それでもやらなければならないのが、なんとも痛まれない。
「ISの装着の仕方は分かるな?」
「はは、分かってますよ、それくらい」
「ふ……、そうだな」
二人は笑い、そして春樹はISを装着する。
胴の部分が裂けているので、そこに体を合わせる。すると、自動的に裂けていた部分がキッチリと閉まり、春樹の体はISに包まれた。
『Access.』
というISから音声が再生されると、目の前に様々な画面が表示される。春樹はとりあえず機体のスペックデータを閲覧した。
ISを装着すると、ISが捉えた視界をそのまま網膜投影させる。これによって、ISの操縦者は視界をズームイン・ズームアウト等が可能だ。
さらに、ISのデータ情報も合わせて網膜投影されているので、特に別紙の解説書を見る必要もないし、難しい操作を行う必要もない。頭で何を見たいかをイメージするだけで、データの閲覧は可能なのだ。
春樹は
(武器がたくさんあるし、いろんな距離に対応できるのはいいけど、このシールドエネルギーの少なさは……)
普通に攻撃を一撃食らっただけで撃墜されるほどのシールドエネルギーが少なかったが、それを補うかのようにこのISのトップスピードと加速力は、ISでトップレベルと言ってもいいほどのものだった。
もしかすると、いや、もしかしなくても、これは攻撃が当たらないことを前提にして作られたISなのだろう。
「フォーマットとフィッティングはISの方で自動的にやってもらうとして……、よし、準備OKです。いつでも出れますよ」
「分かった。では、そのままアリーナへ出ろ。オルコットが待っているぞ」
「はい!」
春樹はそのままアリーナの方へと歩く。するとそこに一夏が駆け寄り、
「春樹、負けんなよ!」
「安心しろ一夏。俺は負けねえよ」
春樹は外へと飛び出すと、そこにいたのは青いIS。
そのISの名はブルー・ティアーズ。
これを開発したのはイギリスのLOE社である。正式名称はLocus_of_Evolution社――日本語に訳すと“進化の軌跡”――が開発したレーザー兵器を複数装備した中距離射撃特化型のISで、六七口径特レーザーライフル、スターライトmkⅢが主力武器である。
そして、このISの一番の特徴と言えば、空中を舞うレーザー砲――自立機動兵器であるビットの装備――だろう。
LOE社は、この装備をBT兵器と呼んでおり、セシリアのブルー・ティアーズはそのBT兵器を装備した試用機第一号である。
そのことから、機体の名前は装備の名前そのままブルー・ティアーズとした。
現在のISではこういったビット装備を使用しているものはごく僅かだ。その理由としては、中々安定したものが作れないことなのだ。もっと単純に言えば、開発・研究中であるということ。
つまり、セシリアのブルー・ティアーズは先ほども述べたようにビット兵器の試験も兼ねている機体だということだ。
LOE社はIS学園にそれを持ち込み、どういった改良をすればいいのか研究し、より良いものにするのが目的。
「今日この日を楽しみにしていました。お互い、悔いが残らぬよう、全力でぶつかり合いましょう」
「ああ、俺も楽しみにしていたよ。さぁ、楽しい戦いにしよう」
「はい! ですが、楽しいだけでは終わらせませんよ?」
「分かっているよ。オルコットさんはイギリスの代表候補生、俺は突然現れたISを動かせる単なる男。だけど、俺は強いぜ?」
「期待しておりますわ」
試合のゴングが鳴り響き、その瞬間に二人は動き出した。
セシリアは春樹との距離を置き、射撃の体勢に入る。セシリアのISは中距離射撃特化型で、距離を取らなければ射角が制限されてしまうのだ。
だからセシリアは素早く距離をおいた。
しかし、春樹はそんなことは分かっていた。セシリアのISの情報を聞けば、こうなることは簡単に予想できる。ただ、この春樹のISはまだフォーマットとフィッティングが終わっていない機体だ。思うように動いてくれないし、動きが多少ではあるものの危うく感じるところもある。
「あら、フラフラじゃありませんの。それでこれは避けることができます!?」
セシリアは小手調べと言わんばかりにスターライトmkⅡの銃口から青白い光が放たれる。これは、レーザーを照射するためにエネルギーをチャージしているのである。
春樹はそれを照射直前にスラスターを吹かせることで間一髪で回避し、そのままセシリアに接近。ブレイドガンという、銃に刃がついている武器を展開し、斬りつけようとする。
セシリアのブルー・ティアーズのような中距離から遠距離に特化しているISは、接近されてしまうと攻撃も防御も難しく、その対処が難しい。
よって、一気に優位に立ちことができる。それを狙っての接近だ。
しかし、流石代表候補生だけあって、そのような簡単な戦術には引っ掛かるわけがなく。彼女は巧みに後方へとブーストして攻撃をかわすと同時に、春樹から距離を置いた。
セシリアはこのタイミングでビット兵器であるブルー・ティアーズを展開。四機のビットが春樹の方に向っていく。
四つのビットはどれだけ動こうと春樹の事を囲むように動き、そこからレーザーを照射する。
これまた照射の瞬間にスラスターを吹かして急激な加速でかわすが、これがいつまでも成功するわけがない。
その証拠に、ビットの射線上から外れることができたかと思えば、目の前にはスターライトmkⅢを構えたセシリアがいたのだ。
彼女は容赦なくレーザーを照射。この攻撃は回避したくても、フォーマットすら終わっていないISにはこのタイミングで違う方向に動くことは難しかった。
だが、春樹は無理やりにでもスラスターを動かして直撃を回避する。
(ははは、冗談じゃねえぞ。こっちはフォーマットもフィッティングも終わってないんだ。こんな状態で専用機とマトモに戦えるわけねえだろうが。くそっ、千冬姉ちゃん……!!)
そんな春樹に当然のことながら休む暇などはやってこない。セシリアのビットがすぐに春樹の事を追尾してくるのだ。
春樹はそれから逃げることで精いっぱいだった。無数のレーザーがビットから照射される。それをマトモに動かない
これはもう奇跡と言ってもおかしくなかった。
「ふふふ……、春樹さん。そんな動きでここまで耐えれるとは、褒めて差し上げますわ。でも、もうこの遊びも終わりにしましょう」
ビットの動きが変わる。春樹を囲むような動きから、追い込むような動きに変わった。
春樹にとってはランダムな射撃。だが、それは着実に春樹を追い詰めるものであり、レーザーを避ける度に春樹は逃げ場を失っていく。
ビットの攻撃を避けたと思えば、もう一つのビットの攻撃。それを避けてもさらにもう一つのビットからの攻撃。それによって、春樹はアリーナの壁際へと追い込まれていく。
「さて、そろそろフィニッシュですわ!!」
ついに春樹が壁際まで追い込まれた。
そして、セシリアが持っているスターライトmkⅢの銃口が青白く輝き始めた。それは、レーザーが放たれようとしていることを指す。
その光線が春樹に向って直進する。春樹は周りのビットからの攻撃も回避しなくてはならないし、セシリアから放たれた正面のビームも対処しなくてはならない。
まさに絶体絶命。
そして……、着弾。土煙が巻き上げられる。
セシリアが放ったビームは、間違いなく春樹にヒットした……かと思われた。
しかし、レーザーが当たったと思われた場所に春樹はいなかった。下を見ても春樹は見当たらず、墜落したわけではなさそうだ。
では、どこに?
セシリアはそう思ったその瞬間である。
「あぶねぇ……勝負はこれからだ、オルコットさんよォ!!」
その声は、セシリアの後方から聞こえた。
セシリアは振り返ると、そこには先ほどとは形が違うISに乗っている春樹の姿があった。
「まさか、第一形態移行ファースト・シフト!? 貴方はまさか……、初期状態で戦っていらしたっていうの!?」
「ああ、時間がなかったしな。でも、フォーマットとフィッティングが少しでも遅れたらそのまま負けてたよ。さて、これからが本番だ!」
春樹のIS、
それと同時に発動したものがある。それがワンオフ・アビリティである。
これは、ISとその操縦者の相性が最高になった時に発生する特殊能力で、その能力はあらかじめISに記憶させて、それを発動させる場合と、未知の能力を発動する場合とツーパターンある。
それは、常に発動するもので、移動速度が飛躍的に上昇するものだ。
それだけでは地味だ、と思ってしまうかもしれないが、このアリーナに来ていた生徒、及び教師は春樹のISに見とれてしまっていた。
そう、このワンオフ・アビリティーの名の通り、純白の翼が春樹のISから生えており、それは金属とも思えない程のしなやかさを持っていたのだ。
「すこし、メルヘンチックですわね……」
現に対戦しているセシリアでさえ、そうつぶやいてしまうほどのものだった。
しかし、そうしている間に春樹は接近し、ブレイドガンでセシリアの事を射撃した。
「惚けている場合じゃないぞオルコットさん。今は試合中だ。あと、メルヘンチックだろうが気にしないぞ!」
多少だが、ダメージを負ってしまったセシリアは、目の前の春樹にこう言われてしまって少なからず悔しかった。ぼー、としてしまった自分にだ。
「すみません。ですが、そちらの準備もできたようですし……、お互い本気でやりましょう!」
「ああ、そのつもりだ!!」
二人はお互いに宙を舞う。
セシリアが春樹を狙撃しようとするが、予想より春樹のスピードが速く、標準を定めるのに戸惑いができてしまう。
(は、速すぎますわ……なんですの、あのスピードは……)
セシリアは偏差射撃を試みようとするが、中々春樹には当たらない。レーザーのチャージの状況を鑑み、照射するタイミングを見計らって、その瞬間に更に春樹は加速しているのだ。だから、春樹には中々当たらない。春樹のISがどこまでのポテンシャルを秘めているのか、まだ不確定なのだ。
だから、セシリアは戸惑った。これまでスピードの速いISとは戦ったことがない。いや、これだけのスピードを出せるのは全ISの中でもナンバー1なのではないかと思うほど。
そのセシリアの予想は見事的中している。もう一度言うことになるが、確かに春樹のISである
これももう一度言うことになるが、弱点はもちろんある。それは
だからこの試合は、春樹はいかにセシリアの攻撃を避けながらシールドエネルギーを削りきるか、セシリアが強力な一発を春樹に与えられるか、という勝負だ。
(このままじゃジリ貧だ。かわしているだけじゃ駄目だ。攻撃に移行しないと。武器は、他に武器はないのか!?)
春樹は網膜投影されている画面を見渡す。このISのスペックデータの欄から、武器のデータを引っ張り出す。
そこに表示されていた武器の種類は、まずは現在春樹が使っている拳銃に剣がついたブレイドガン。
次に、近距離用の武器はシンプルなものが二つと大型のものが一つある。短刀が一本に、実体剣として、さらにレーザーブレードにもなれるシャープネス・ブレード。そして、複数の敵に囲まれたとき用に鎌形のレーザーブレードが用意されている。
最後に、遠距離用武器である大型の荷電粒子砲(荷電した粒子を磁力で投射するもの)、つまりビームライフルであるバスターライフルの五つの武器からなる。
この五つの武器はすべて量子化しており、IS本体には取り付けていない。これは加速力をできる限り高めたいことからくるものだろう。できるだけ軽量化して、スピードアップを図る。それがこのISの特徴だ。
春樹は接近戦を仕掛けるために、一度ブレイドガンを量子化し、シャープネス・ブレードを展開する。
エネルギーを展開させ、実体剣からレーザーブレードに変更。セシリアの射線から外れるように接近し、セシリアに斬りかかろうとする。
セシリアも春樹を接近させまいとビット攻撃で対抗しようとするが、春樹はその攻撃を縫うように避けていく。
(少しキツイけど……これなら……!!)
少々苦戦しながらも、ついにレーザーブレードが当たる距離まで詰めた春樹はセシリアを斬ろうとした。だが、ここでセシリアは緊急時の短刀であるインター・セプターを取り出した。
「ここで負けるわけにはいきませんわ!!」
セシリアは春樹の斬撃を避け、インター・セプターで反撃に出る。
しかし、インター・セプターは所詮緊急用の短刀でしかない。リーチの長さでは長刀である春樹の方が勝っているので、距離さえ気を付けてしまえば断然春樹の方が有利なのである。
そんな希望的観測が、油断を生んだのだろうか。
セシリアは長刀の斬撃をその身で受け、その握っている剣の根本を短刀で力強く突く。
春樹はセシリアの行動に驚きながら、弾き飛ばされた長刀を諦め、ブレイドガンに再び武器をチェンジする。この距離では近距離武器で、なおかつ振りが早い武器をチョイスするしかない。
だが、そんなことをしている間に春樹の周りをビットで囲む。
正直、セシリアがその身を挺して攻撃にシフトするとは思いもしなかった。
「さすがだよセシリア、今回は俺の負けかな」
「ええ。ですが、春樹さんはとても強かったですわ。あの時、とっさに身で防御しなければ負けていたのはわたくしでした」
「この状態じゃ、勝敗は決したようなものだ。降参だ」
春樹の目の前にはビットが四基囲むように設置してあり、逃げ道をふさいでいる。もはや逃げるタイミングなぞ与える距離ではない。よって、春樹のISの仕様上、この状況は詰みなのだ。
試合終了のゴングが鳴る。
春樹対セシリアは、セシリアの勝利で決着がついたのであった。