ISを改変して別の物語を作ってみた。   作:加藤あきら

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あけましておめでとうございます。
久しぶりですが第二章を投稿します。
第二章は短いですが、順次投稿していきますので、よろしくお願いします。

※注意
この第二章の内容には『CHAOS;HEAD』の演出を真似たものがあります。
ご理解のうえ、ご覧になっていただければ幸いです。


第二章『自覚なき暴力が襲い掛かる -Trauma-』《目覚め》

  1

 

 ――八月八日、午前七時一七分。更識クリエイティブ、地下基地にて。

 

 朝目が覚めると、そこには春樹の顔。そして体。体温。それを確かに感じ取った束は、その身を起こす。その身は布一つない裸の状態。昨日の夜にやってから、そのまま寝てしまったのだから仕方がない。

 

「春にゃん……うふふ。私幸せだよ。とっても、とっても」

 

 そして春樹の頬にキスをすると、彼はゆっくりまぶたを開いた。

 

「あれ、起こしちゃったね。ごめんごめん」

「別に謝らなくても。まずは挨拶を。おはよう、束さん」

「うん。おはよう春にゃん」

 

 ひとまず二人は服を着る事から始めた。

 このままではまた欲情して事をまたやりかねない。

 

「ねぇ、このまま二人でみんなの前に出たらどう思われるのかな?」

「そりゃあ……二人で出かけて、そのまま束さんの部屋に入って、一晩明かして二人そろってみんなの前に出たら、そう思われるでしょうね」

「だ、だよね。たはは……なんか恥ずかしくなってきちゃった」

「今更何を言っているんですか。そこはドーンと胸を張って堂々としてましょう」

「そだね。ふふふ、みんなに私の幸せを振りまいてあげよう!」

「そうですよ。その意気です」

 

 二人は笑い合い、支度をして外に出る。

 数々の仲間に色んな目線を向けられたが、束は気にしない。

 途中、更識楯無に出会ったのだが、その時の視線が一番堪えた。

 

「あら、束さんじゃありませんか。とっても……幸せそうですね。ふふふ」

「あは、あははは、おはよう楯無ちゃん」

「ふ、ふふふ、おはようございます。ふふふふふ」

 

 不気味な笑い声を上げながら、すれ違った。あまりにも黒いオーラを出していたので、身が縮み込んでしまった。あれが、男に恵まれない失恋した女の子だというのだろうか。

 今は横に春樹もいるから安心できるが、二人きりになって面と向かってちゃんと話せるか不安になる。

 いつもの会議室に着くと、そこにいたのは織斑千冬だった。

 

「おやおや、二人そろって登場とは。昨夜はお楽しみでしたね、とでも言っておこうか」

「ちちちちちち、ちーちゃん!? そ、そんな風に言わないでよぉ!」

「なんだ、違うのか?」

「ち、違わないけどぉ。ってぇ! 何を言わせるのさ!」

 

 ぽかぽかと千冬を叩こうとするが、腕一本で束の頭を押さえつける。残念なことにその攻撃は千冬に届かなかった。

 

「やっぱりそうだったのか。おい春樹」

「なに、千冬ねーちゃん」

「こんな変な女だが幸せにしてやってくれ。お前くらいにしかコイツは扱えん」

「分かってるって。うん、ちゃんと幸せにするよ。約束する」

「にゃっ!?」

 

 突然のプロポーズに顔を真っ赤にしながらその場にうずくまる。頭から湯気が出てきているあたり、本当に恥ずかしくて顔が熱くなってしまっているのだろう。

 

「おはよう、千冬姉」

「おはようございます」

 

 今度は一夏と箒がその場に現れた。

 二人の目に飛び込んできたのはゆでだこのように真っ赤にしている束。

 そして悪い顔をしている千冬だった。

 

「なんで束さんが、こんな事に……」

 

 一夏の疑問にふっ、と不敵に千冬は笑い、

 

「愛だよ、一夏」

「何故そこで愛!?」

 

 箒は思わずそうツッコんでしまった。

 たしかに、そんな単語を一つだけ言われても理解できないのだからそう言うしかない。

 

「ま、一つ言える事は、溜まりに溜まっていた愛情が爆発してしまったってところか」

「あう、あううううう……」

 

 会議室の隅っこで小さくなっている束をしり目に、春樹は一夏に向き直る。

 

「そうだ一夏、昨日は楽しめたか?」

「あ、あぁ。スゲー楽しかった。うん、マジで」

「そっか。そりゃよかった。最近のお前は色々と思い詰めてそうだったから」

「あぁ。色々と考えに耽って、自分で自分を追いつめてた。春樹はこうやって帰ってきてくれたから、俺は次の目標を作ったよ」

「お、なんだいそれは?」

 

 すぅ、と大きく息を吸い込んで吐き出す。その動作が終わると同時にもう一度息を吸い込んで一夏は宣言した。

 

「俺は俺の理想の為に戦う。どっかで妥協しなくちゃいけない部分はあるだろうけど、それでもできるだけ自分の理想に近づけるために戦う」

「ちなみに、その理想ってのは?」

「みんなが笑顔でいられる世界であることだ」

 

 それが一夏が昨日、鈴音と遊んで思った事だ。あんなに温かいものが失われて良いわけがない。だから、みんなが笑顔でいられる世界を作ると決めた。

 

「前みたいに、IS学園でみんなでバカやれるような世界でありたいと思うんだ」

 

 そんな理想を語る一夏に、春樹はやさしい声から少しトゲのある声へと変えた。

 

「だが一夏のその目標は、その理想から遠ざかるような出来事が起きたとしても遂行し続けれるものなのか? こうやって裏の戦いに身を投じている以上、それは絶対に回避できない事なんだ。もしかしたら、関係ない人を巻き込む可能性だってある」

「だからどっかで妥協するって言ったんだ」

「そうか。妥協できるならそれでいいだろう。じゃあ、頑張ろうか。出来るだけ、その笑顔でいられる優しい世界にするために」

「ああ!」

 

 そんな二人の会話を見ていた箒は、どことない不安に駆られていた。

 あまりにも危なっかしくて、また一夏がどこか壊れてしまいそう――いや、もう壊れているかのように見える。それは、最初の目標であった春樹を自分たちのもとに取り戻すという目標が完遂されたからなのだろうか。

 依存の対象が戻ってきたから。だから、一夏はそんな目標を立ててしまったのだろうか。

 なんだか、ちょっと前の甘い一夏に戻ったような気がする箒。

 

(大丈夫なのだろうか……。一夏、何があっても、私はお前の味方だぞ)

 

 今はそう思うしかなかった。

 もしこれ以上なんらかの悲劇が起こってしまったら、一夏は。

 

 

  2

 

 

 ――八月八日、午前一〇時二七分。IS学園学生寮にて。

 

(ファン)さん? いつまで寝ているんですか?」

 

 山田真耶(やまだまや)はIS学園の学生寮の鈴音の部屋の前まで来ていた。

 一度帰国した彼女だったが、諸事情により日本に戻ってきた彼女は、夏休み期間でもこうやって学生寮を使わせてもらっている。大体の学生が地元に帰省しているせいでとても静かなここは、まるで人の気配がまるでしなかった。

 一夏たちと遊んだ翌日、一向に挨拶に来ない鈴音を不審に思ったのか、僚の管理当番になっていた山田先生がこうやって彼女の様子を見に来たのだが……返事がまるでない。

 まさか遊び疲れてしまって寝坊してしまったとは思えない。

 今までIS学園で過ごしていて、そんないい加減な生活を送るような人ではない。

 規則正しい生活で周りの先生方の評判も良かったというのに。

 体調不良だろうか? なら、そういう連絡を入れてもいいはず。

 

「凰さん? 入りますよ?」

 

 マスターキーを使って中に入る山田先生。

 歩みを進めていく内に、その異常性に気が付いていく。

 ベッドは荒れ、窓ガラスが割れている。室内で争ったような形跡があることから、ここで何かが起こったのは確かだ。

 

「何ですか……これは……誰かが、ここに来た? そして凰さんと争った?」

 ということは、何者かがこの部屋に侵入し、凰鈴音を襲ったという事になる。

 しかし、なぜ侵入者に気づけなかったのだろう。

 ここの警備は厳重だ。世界の機密が詰め込まれているような場所に、許可もなく出入りさせる訳にはいかない。もし外部から侵入すれば即座にお縄に着くはずなのだ。ここはそういう風に作られている。

 

「凰さん!? 本当にここにはいませんか!?」

 

 残酷にも返事は帰ってこない。

 ただ、割れた窓から風が吹く音が耳に響くだけ。

 

「なんですかコレは。誘拐だとでもいうのですか?」

 

 もしそうなら、これは非常事態だ。ここIS学園でそんな事があってはならない。

 山田先生は鈴音の携帯電話に電話をかけてみるも、やはり出る事はなかった。

 こうなれば、もうどうしようもない。

 ISに関する事件は、それ専門の人にやってもらうしかないじゃないか。

 

 

  3

 

 

 ――八月八日、午前一〇時四〇分。とある場所にて。

 

 暗い。寒い。痛い。

 そのすべてが一度にこの身に襲い掛かってきた。

 

「何が、起こったの……?」

 

 力が入らず、呟くような形で言葉を発した凰鈴音は、自分が置かれている状況を理解するまで時間がかかってしまっていた。

 一夏と箒と別れ、シャワーを浴びて学生寮で寝たはずだ。

 記憶が混濁していて正しい事は思い出せないが、確かに僚の部屋で昨日の夜は過ごしたはずだ。なのに、こんな薄暗い場所で身動きが出来ないでいる。

 

「!?」

 

 だんだんと覚醒する意識の中で、自分の体が何かおかしい事に気づく。

 その違和感は、今まで至って普通の健康な体を持っていた自分にはないものだった。

 

「え、何これ、どういう……」

 

 理解できない。なぜこんなことになっているのかが、分からない。

 己の知識を超越した何かが今起こっている。

 

「お目覚めになったかな、お嬢さん?」

 

 耳に届いた声はとても渋いものだった。目に見えたのは真っ白な白衣。そして少し皺と、無精髭のある顔の人。少し若くて肌のきれいな人。そして色黒の顔の人。

 この三人の男たちは、一体何を仕出かしたのだろう。

 

「助けに来てくれた……の?」

 

 鈴音は鎖で椅子にグルグルと巻きつけられたその身を揺らしながら言う。

 

「あぁ、助けてあげたとも」

 

 大仰な声で、白衣の男は言った。

 

「この不条理がまかり通っている世界からね! 我らは世界に平等を取り戻す者。そのオペレーションの一つとして、キミにはここに来てもらったのだよ。フハハハ!!」

 

 大きく笑うその男に、気味の悪さを感じる鈴音。

 そして、意識が完全に復活して、彼女は気が付いた。

 

「!?」

 

 その驚きで、逆に声が出なかった。

 自分の身に起こっている恐怖に、失禁してしまった。尿が流れ、涙があふれ、嘔吐感に襲われて胃の中のモノを吐き出してしまう。

 

「う……うぅ……うぇ……はぁ、はぁ、はぁ……ぐ、う、うぅ」

 

 もう言葉も出なかった。

 ただ、泣くだけしかできなかった。

 

「あぁ、悲しいだろうねぇ。だが、それは価値のある犠牲だった。何の問題もない。オペレーションが完遂すれば、君も笑顔でいられる世界が出来上がるのだからね」

 

 目の前の男は何を言っているのか分からない。理解もできない。

 鈴音は振り絞る様に、自分の中にある残った力を振り絞ってその言葉を吐きだす。

 

「返して……私の……私の……」

 

 もうこれ以上の声が出ない。

 もう何もかもが嫌になった彼女は、世界との接点を絶ち切るために、目を閉じる。

 真っ暗な闇の世界で、彼女は意識を絶った。

 

 

  4

 

 

 ――八月八日、午前一〇時五二分。更識邸にて。

 

 剣崎結城は今日も朝早く更識家に出向き布仏本音(のほとけほんね)に会いに来ていた。

 その身が狙われていると知った時から、なるべく彼女と一緒にいるようにしたのだが、やはり家には一度帰らなくてはならない。今やっている活動は秘密裡に行われているため、たとえ家族だろうと本当の事は教えられない。

 だから残念なことに一度本音から離れなくてはならない。

 だけど。

 

「よお、本音」

「あ、ゆっきーだ! よお!!」

 

 この笑顔を見れば不満はどこかに吹き飛んでしまう。この独特なのほほんとした雰囲気は、結城の癒しでもあり、好きな部分でもある。

 

「楯無さんは?」

「かいちょーならさっき帰ってそっちにいるよー。っていうか、はるるんが帰ってきたって本当!?」

「え、何で知ってんの」

「だってさっきかいちょーが言ってたから」

 

 結城は頭を抱えた。葵春樹がこちらに帰って来て合流していることは外部に漏らしてはならない情報だ。まぁ、今回は暗部に近しい布仏家だからギリギリセーフなのかもしれないが、あまりにもずさんな情報管理だと結城は思った。

 

(それでも暗部に身を置き続ける先輩かよ)

 

 楯無に文句の一つや二つでも行ってやろうかと、その歩みを進めようとしたその時。その身が震えた。なぜかは分からない。だが、嫌な予感がするのは確かだった。

 不思議なくらい実感できる。これから、よからぬことが起きると。

 結城は本音を抱きしめた。

 唐突すぎるそれに、本音は顔を真っ赤にしながら恥ずかしがる。

 

「ゆ、ゆっきー……大胆に、なったねぇ」

「あ、いや、なんか、嫌な予感がしたから。本音を守ってやらなきゃって思って」

「ゆっきぃ……」

 

 とろんと、目を緩ませながら本音から結城をさらに強く抱きしめる。

 彼の体温がとても心地よくて、その身に任せようと思える。

 その最中、結城は呟く。

 

「……来る」

 

 それはとても彼らしくない口調だった。とても硬くて、この心がぽかぽかする温かいこの身とは正反対に、その言葉は……冷たかった。

 その違和感に気づいたときにはもう遅かった。

 いきなり更識家を取り囲む黒いワンボックスカー。そして、次々と車の中から出てくる女性が黒いISを身に着けて飛び立つ。

 そしてその中には、前に資料で見た事があるISがあった。

 あれは確か――。

 

「レイブリック、なのか?」

 

 結城は呟いた。

 その声を確かに聴いたレイブリックは高く笑い、そして声を低くしていった。

 

「君のような一般人Aにも俺の名が知れ渡っているのに驚いたよ」

「一般人じゃねぇよ。俺はちゃんとした裏の世界の住人だ」

「そうかい。なら殺されても問題ないよな。裏の住人Aさん」

 

 レイブリックが結城にビームブレードで無慈悲に斬りかかろうとしたその時、目の前には青く透き通ったカーテン状の障壁が現れ、その刀身を受け止めていた。

 アクア・クリスタル。

 アクア・ナノマシンの製造プラントにして、水のヴェールを作り出してカーテンのような障壁を作り出すことのできる武装。

 これの使い手は、ミステリアス・レイディを扱う更識楯無だ。

 

「いよいよ直接的な行動に移ってきたってわね、レイブリック」

 

 その身を水色の薄いフルスキンの装甲に包みながら、大型ランス『蒼流旋(そうりゅうせん)』を構えてつぶやく。

 

「おやおや、これは束派の更識さんじゃありませんか。アナタの言う通り、色々と準備は終わりましたので実力行使に出た次第ですよ。さて、布仏本音ちゃんの身柄をこちらに渡してもらおうか」

 

 ハンマーを担いだISが結城と本音を襲った。

 楯無はアクア・クリスタルが作り出す水のヴェールで結城と本音を包み込んでやる。

 銃弾の嵐からそれに身を守られながら、結城は本音を連れて家の中へと避難した。

 結城は必死にIS戦いから逃げるために本音を抱えて走る。

 後ろは楯無が守ってくれる。だから気にせずに彼は家の中に入って身を隠す事だけを考えた。

 

「逃がすかよォ!! アハハハハ!」

 

 狂気的な笑い声を上げながら、大きなハンマーを振り上げる黒いISの乗り手。

 あれで水のヴェールごと叩き割って結城を殺し、本音を掻っ攫う魂胆だろうが、楯無はそれを許すはずがなかった。

 ハンマーのISがその場から動こうとしたその瞬間――。

 

「ッ!?」

 

 突然ハンマーのISの装甲が砕け散った。その乗り手は思わず攻撃を中止して警戒するために改めてハンマーを構え直す。

 

「何をしやがったテメェ!!」

 

 アクア・クリスタルは防御のためだけに存在するわけではない。

 

「ちょっとおいたしようとした俗物にお仕置きをしただけよん」

 

 楯無はナノマシンの超振動破砕によってISの装甲を破壊した。

 だが、それ自体が目的ではない。

 

「クソが、ならお前からぶっ壊してやるよォ」

 

 ハンマーを振り落そうとしたその瞬間――楯無は呟くようにして言う。

 

「どーん」

 

 そのマヌケな言葉と共に、ハンマーのISがいきなり爆発した。

 耳をつんざき、地を揺らすような爆音がその場を支配した。

 シールドエネルギーによりその身は無事ではあるものの、ISは戦闘不能なほどまでに破壊し尽くされていた。

 

「な、なにを……うッ」

 

 いくらシールドエネルギーが身体を守ってくれたからと言って、爆発に巻き込まれればそれなりの衝撃を受けてしまったのか、彼女は言葉に詰まらせていた。

 

「なに、簡単な事よ。アクア・クリスタルは単に防御の為だけにアクア・ナノマシンを作っているってわけじゃないって事」

 

 ナノマシンを装甲内部に侵入させ、エネルギー転換によって爆発を起こす『ミストルティンの槍』は、楯無が今の今まで隠していた必殺技のようなもの。

 たった一人で五機ほどのISと戦わなくてはならない今だからこそ解禁できる技だった。

 

「アンタが鈍臭いおかげで成功したわ、この必殺技。ありがとねっ」

 

 皮肉混じりの言葉を吐き捨て、楯無は再びただ傍観していたレイブリックを見た。

 その表情はただただ無表情だった。それはもう気持ち悪いほどに。

 

「どうしたのかしら? 大切な仲間を失って言葉がでなくなってしまったの?」

「まさか。私の仲間をそこまで圧倒するその技量、感服したよ。ブラボーブラボー」

「ふざけているのかしら?」

「うん」

「…………」

 

 楯無は言葉を失ってしまった。

 彼はふざけていることを認めた。このような場で、彼はふざけているのだ。

 普通じゃない。

 

「お前さぁ。なんで残り四機のISが動かない事に疑問を抱かないの?」

 

 レイブリックはそんな事を聞きただした。

 だが、そんな質問は不要だ。なぜなら、その違和感は最初から抱いていたものだから。

 

「私の実力でも確かめるためかしらぁ?」

「自惚れんなクソビッチ」

 

 自惚れた言葉だって分かっている。だが、余裕がない事を隠すためには、このような言葉を吐き続けなければ誤魔化しきれない。

 

「じゃ、回答編。後ろをご覧ください」

 

 楯無が後ろを振り向くと、そこには宙づりになっている結城と本音の姿。

 しかし、何によって宙づりになっているのか視認できない。ハイパーセンサーでさえも反応しないそれは、まさか。

 

「光学迷彩……? それにハイパーセンサーを欺くステルスですって!?」

 

 結城と本音の身はISの力によって捕まっていた。

 この五機にも及ぶIS部隊は囮。さっきのハンマーのISも、ステルスのISから注意をそらすための単機行動でしかなかった。

 それらすべては、このステルスのISの為だけにあった。

 

「目的は達した。では、さようなら、更識楯無」

 

 レイブリックを含め、四機のISが一斉に楯無を襲う。

 

(ここまで……なの)

 

 もう無理だ。

 最後まで抗ってはみるが、裏の世界でISを動かしているような精鋭たちにたった一人で立ち向かい、勝てるとは到底思えなかった。

 その時――。

 突如としてISの動作がとても遅くなった。いや、遅くなっただけではない。その装甲の重さに自分の身が負けて押しつぶされそうな状態になった。

 

(ここで、アクチュエータの故障? 運がないな、私も――え?)

 

 そう思った瞬間、目の前に広がった光景は、自分と同じようにISそのモノの重さに耐えられずに地べたに這いつくばる黒いISの姿だった。

 

「お前、一体何をしやがった……!!」

 

 レイブリックは絞り出すように声を出した。

 だが、楯無自身でさえも、この状況を理解することはできなかったのだ。

 

(それは、こっちのセリフよ……)

 

 しかも、ISの解除もできない。きっとこれは、レイブリックたちも同じだろう。

 だからここにいるIS乗りたちは何もできずに、ただISの重量に耐えられず地面に体を押し付けるだけしか出来なかった。

 

「ふぅ、ようやく表に出ることが出来た。結城君、少々君の身体を預からせてもらうよ」

 

 その声は聞いた事のあるものだった。というより、先ほどから聞いていた結城の声そのもの。なのに、その口調も、トーンも、少し違っていてまるで別人のようにも感じる。

 いったい、この声は何なのだろう。

 

「久しぶりだなぁ、小鳥遊亮(たかなしりょう)。七年ぶりか」

「何、言っているんだ、よ……裏の住人A……まて、七年前?」

 

 そのとき、レイブリックこと小鳥遊亮は思い出した。

 七年前に巻き込まれた地獄のような実験の日々を。

 

「そうか、そういう、ことかよ……。お前、き、霧島直哉(きりしまなおや)だな?」

「ご明察。察しが良くてこちらも説明する必要が少なくて済む。さて、私が結城君の人格の乗っ取りも有限でね。単刀直入に言おう、亮君にはこのままお引き取り願いたい」

「なんでテメェの言うことを聞かなくちゃ、ならねぇんだよ!!」

「じゃないと、お前が憎くて憎くてしょうがない奴に復讐すらできないぞ。大丈夫、私の計画は順調に進んでいる。私の言うことを聞かなければ、このままお前のISを操って命を絶たせる事だって可能だ。お前の存在の有無は私の計画にそれほど影響しない」

「分かった! 分かったよ!!」

「良い子だ」

 

 すると、レイブリックたち『アベンジャー』の隊員のISがすべて解除されていく。

 しかしこれ以上の事はせずに、結城の口から発された霧島直哉の言葉に従い、『アベンジャー』はワンボックスカーに乗り、どこかに帰って行った。

 

「そうだそうだ。キミのISも解除してあげないと」

 

 結城の手の平を緑色に発光させると、楯無の体からISが外され待機状態に戻った。

 

「アナタが、霧島直哉、なの?」

「正しくは霧島直哉の()()だけどね。私自身はもうこの世に存在しない」

「剣崎結城君は、どうなったの?」

「結城君は無事だ。ただ単に私は彼の体を借りているに過ぎない。しかも、自由にこの意志を表に出すこともできないんだよ。だから、こうやって話せるのは、もしかするとこれが最後になるかもしれないね」

「じゃあ、聞いておきます! アナタのその計画って何なんです!?」

「それは話せないかな。それと、もうタイムリミットらしい。じゃあね、更識楯無君。この世界を正しく導くために、頑張ってくれたまえ」

 

 そして、霧島直哉の意思は再び剣崎結城の奥底へと沈んでいった。

 結城は気を失い、その場に倒れ込む。

 楯無は悲鳴を上げる体を起こして、気を失っている本音と結城の二人を担いで再び家の中に戻してあげた。

 

「いったい、これは何なの? ISって、インフィニット・ストラトスって何なのよ!!」

 

 その叫びは誰にも届かない。

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