ISを改変して別の物語を作ってみた。   作:加藤あきら

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※注意
この第二章の内容には『CHAOS;HEAD』の演出を真似たものがあります。
ご理解のうえ、ご覧になっていただければ幸いです。


第二章『自覚なき暴力が襲い掛かる -Trauma-』《極悪》

  5

 

 ――八月八日、午前一一時四分。神奈川県横浜市にて。

 

 葵春樹は街に出ていた。

 それは、さらわれたという凰鈴音の捜索のため。

 

(うちのリーダー、いつも以上に不機嫌だった。どういうことだ?)

 

 春樹が所属する組織『トゥルース』は彼の他に戦闘要員のブルーノとキャシーがいる。

 そしてそれを統括するリーダーが存在する。

 そのリーダーの命令を受けて春樹は行動に出たのだが、いつもとは違って焦りの色が見えた。普段は達観したように、まるですべてを知っているかのように振舞っているというのに、今回は完全に焦りの色を見せていた。

 

(不可解すぎる。鈴音の誘拐があまりにも想定外の事なのか?)

 

 リーダーが考えていることなど理解できないものの方が多い。だが、確かな信念を持ってこの世界を変えたいと願っているのは確かだ。世界の均衡を崩すような要因は徹底的に排除し、平穏をもたらそうとしている。

 だが、心の底ではどうなのだろう。

 春樹は臨海学校の事件でブルーノとキャシーに出会い、そしてリーダーと出会った。

 命を救ってもらい、そして新たな力を授かった。

 それは世界を変えれるあまりにも行き過ぎた力。正直、使用したらどんな影響が出るかもわからない代物。

 安易には使えない。

 

(なんでリーダーは俺にこんなものを……俺に何をさせたいんだ)

 

 分からない。

 初対面のはずなのに、あまりにも信頼されていて、力も渡された。

 まるでその力を使って反逆されることなど考えていないみたいに。

 

「今はそれで悩んでいる暇はないよな」

 

 結城はそうつぶやき、とある雑居ビルの前に立つ。

 この地下施設にとあるISに関する研究所があるという話だ。その情報源は我らがトゥルースのリーダー様。どこから仕入れたかも分からない信憑性に欠ける言葉ではあるが、今までリーダーの情報が間違っていたことはなかった。

 その積み重ねがリーダーを信じる理由となった。

 

「さて、ここに鈴はいるのか?」

 

 コツコツと足音を立てながら階段を下りていく。

 薄暗い階段を降りると、次に続いていたのは人気のない不気味な廊下。

 情報によれば、一番奥にあるトイレの横にある扉を開ければ、次に広がっているのはパソコンなどの機械が並ぶ研究所らしい。

 こんなところに本当にそんな場所があるのか不安になるが、リーダーが言うのだから間違いないはずだ。

 オートマチックの拳銃を片手に扉をゆっくり開ける。

 周りに警戒しながら、春樹はその光景を見た。

 そこには残念ながら誰もいなかったが、確かにパソコンなどの機械が並んでいた。

 ここは研究所であったのは確かであるみたいだが、なぜ誰もここにいないのだろう。しかも鍵も何もかかっていなかった。誰でも入れるような状態になっているのが不思議でたまらない。

 

「罠……なのか?」

 

 春樹はその可能性を十分に考えながら、周りを見渡す。

 ふと、一つだけパソコンの画面が発光しているのに気が付く。

 

「不穏な雰囲気だぜまったく。嫌な予感が俺の体に纏わりついてくる」

 

 春樹はそのパソコンの画面を確認する。そこには何やら映像が映し出されていた。その映像の右上には『LIVE』という文字が表示されていることから、これはリアルタイムの映像なのだろう。

 それに、誰かが映し出されていた。が、解像度が低くて誰なのかまでは判断できない。

 ただ一つ、それは女性らしき人物なのだと言う事だけは分かった。

 

「これは、鈴……じゃないよな。あいつは黒じゃなくて栗色の髪の毛だから」

 

 春樹は考える。この映像はどこから配信されているものなのかということに。

 パソコン上に表示されている情報をもとに、春樹はそれをたどった。

 この研究所の地図らしき図面が表示されていて、そこには赤い点が点滅している。

 きっとそれは、ここから映像を映しているという事を表しているのだろう。

 

「こんなあからさまな状況、罠だと言っているようなものじゃねぇか。鈴をさらったやつは一体何を考え――」

 

 そのつぶやきが途切れる。

 なぜなら、その画面に映し出されたのは巨大な丸鋸(まるのこ)

 それが高速で回転しながら、段々とその女性に迫ってきているのだから。

 当然、その女性は暴れる。だが、その場でもがくだけで動こうとしない。

 ということは、この画面が荒くて確認はできないが、何らかの方法でこの女性を拘束しているのは間違いない。

 

「おいおいおいおい。ふざけんなよ、無理やりにでも俺を動かそうとしてやがる!!」

 

 春樹は点滅されている部屋の位置をしっかりと確認し、その場所に走る。

 その道中でさえも、誰一人としてすれ違う事はなかった。

 春樹は目的の部屋の前に立つと、ドアを開けようとする。だが、それは鍵がかかっているのか開くことはなかった。

 

「クソが!!」

 

 春樹は手に持っている拳銃でノブを撃ち、破壊する。鍵もろとも破壊した春樹は、急いでその部屋の中に入る。耳に入ってきたのは高回転のモーター音と、空気を切り裂く音、そして、口をふさがれ必死に声を上げようとしている女性の手に付けられているチェーンがガチャガチャとぶつかり合う音。

 

「助けに来た!! 安心しろ!!」

 

 結城はISを身に着け、丸鋸をブレイドガンで叩き切る。そして、女性の腕首に着けられた手錠と、足に着けられた針金を切ってやった。

 春樹はISを解除し、生身に戻る。

 女性の口に張られたガムテープをはがし、素顔を見た瞬間、この女性が何者なのかが分かった。

 涼宮瑞希(すずみやみずき)

 IS学園一年二組の女生徒であり、鈴音の友達でもある。

 

「あ、あ……なんで、葵君が、ここに、いる、の?」

「お前、涼宮瑞希だな? そうだな!?」

「う、うん。ありがとう、助けに来てくれて」

「ここに来たのは偶然というかなんというか、まぁいい。とりあえず俺と一緒に安全なところまで行こう。話しはそこで聞く」

「……分かった。でも、どこに行くの?」

「信頼できる仲間の元に。一夏や箒がいる場所だ」

「織斑君と篠ノ之さん……?」

「ああ、そうだ。――ん?」

 

 何か、電子音のような音が聞こえる。ピ、ピ、ピ、ピ、という何かが。

 こんな一律の間隔で鳴る電子音はアレの可能性が高い。

 春樹は再びISを身に着け、涼宮瑞希の事を抱きしめて覆いかぶさる――その瞬間。

 その場は爆炎に包まれた。

 

 

  6

 

 

 ――八月八日、午前一一時一〇分。織斑家にて。

 

 織斑一夏はしばらく帰っていない家に一度帰り、掃除をやっておこうと考えていた。

 今は千冬も一夏も、更識クリエイティブの地下基地で寝泊まりしているため、ずっと空き家状態だった実家を綺麗にしてあげることも必要だ。

 しかも、春樹が帰ってきたのだ。そりゃあ家を綺麗にして出迎えをしなきゃダメだと言う使命感に煽られるのも無理はないのかもしれない。

 

「結構ホコリ溜まっちゃってんなー。はぁ、ずっと掃除できていなかったもんな」

 

 春樹の部屋に入りながら、溜息を吐く一夏。これまでずっと綺麗にしていたのに、束の組織に入ってから忙しすぎて手が付けれなかった。この休日を使ってパパッと綺麗にしちゃおうと思った一夏は、気合い十分で家の大掃除に挑む!

 掃除機をかけ、クイックラワイパーで拭き掃除をし、窓ガラスを磨き、(さん)のゴミや汚れを落とし、机なども拭き掃除で汚れを取る。それを家中に行った。

 もう二時間以上も動き回ったが、終わる気配がしない。家全てとなれば、それなりの時間と労力が必要になってくる。

 だが、一夏は折れない。

 春樹がここに来るのなら、ピカピカの完璧な状態で帰って来て欲しい。

 そういう思いが先行する。

 

「でも、いい加減疲れたな。一度休憩を挟もう」

 

 と、独り言を言いながらリビングに降りてコップに水を一杯いれてそれをグイっと飲み干した。疲れた体にその水は全身にしみわたるくらいに美味く感じた。ただの水道水だというのに。

 

「やっぱ働いて極限まで喉が渇いた後の水は美味しさが全然違うなぁ……」

 

 ふぅ、と一息つく一夏。

 その時だ。

 ピンポーンというインターフォンが鳴り響く。

 

「はいはーい。今開けますよ~」

 

 一夏は玄関まで小走りで歩き、ドアを開いた。

 だが、そこには誰もいない。

 

「なんだよ、ピンポンダッシュかよ。たちの悪いいたずらだな。今どき流行んねぇよ」

 

 ふと視線を下に向けると、そこにあったのは白い箱。

 家に帰ってきたときはこんなものがなかった。と言う事は、さっきのインターフォンはこれを置いていった事を伝えるモノだったのだろうか?

 しかしそれでは不自然だ。

 なんで姿を眩ます必要がある? 荷物があるなら面と向かって渡せばいいではないか。

 

「爆弾とかじゃないよな、コレ……」

 

 もしかすると、暗部の人物が織斑の家を破壊するために爆弾を置いていった可能性がある。ならば、すぐにでもこの小包を何とかしなければならない。

 まずは中身の確認を――。

 

「ん?」

 

 一夏のポケットから電話の着信が鳴り響く。

 こんなときにと一夏は思ったが、これは重要な連絡の可能性もある。

 電話の着信を確認すると、画面に表示されていたのは山田麻耶という名前。

 なぜ山田先生が電話をかけてくるのか、その理由をパッと思いつけない一夏は、とりあえずその電話に出た。

 

「もしもし山田先生? どうしたんです――」

『織斑君!? そこに凰さんはいますか?』

「おちついてください! 一体どうしたんですか?」

『す、すみません。今日の一〇時くらいに凰さんの部屋へ行ったんですが、そこはもぬけの殻で、しかも窓ガラスが割られていて……もしかしたら誘拐の可能性もあると考えたんです。織斑君なら何か分かるかもと思って電話したんですが……』

「待ってください。鈴が、誘拐された……?」

『ええ、織斑君は何か分かりませんか?』

「あ、あの、その……俺には何も……。一度、千冬姉と束さんに聞いてみます」

『はい、よろしくお願いします』

 

 そして通話を切る。

 一夏は少しだけ放心してしまった。

 あれだけの温かい存在が、自分の前から消えてしまった事を実感して、それは嘘だと否定したくても、そんな現実逃避はしてはいけないと自制心が働く。

 とりあえず、まずは鈴音に電話をかけてみる事から始めよう。

 そう思った一夏は連絡先のリストから凰鈴音の名前をタップする。

 

(頼む、出てくれ!!)

 

 その願いは、予想もしていなかった形で一夏にのしかかる。

 一夏が電話をかけたそのタイミングで、小包の中から音楽が流れだした。

 しかも、その音楽を一夏は知っている。

 

(まさか、そんなはずがあるわけ……。でも、これって鈴の携帯の着信音……!?)

 

 そう、この音楽は凰鈴音が愛用していた着信音であり、一夏は何度かそれを耳にしていて覚えていた。

 この小包の中身は鈴音の携帯電話だというのだろうか?

 一夏は恐る恐るその小包に手をかけ、開封していく。

 ビリビリと包装紙を破り、ダンボール製の箱が姿を現す。

 

 心臓が跳ねる。何かを警告するかのようなその鼓動は、一夏の動きを鈍らせた。

 箱のふたを中々開けられない。

 恐ろしく、そして(おぞ)ましい何かがそこに入っているような気がしたから。

 

(そんなはずあるわけない……。これは何かの間違いだ)

 

 そう思わないと、この手を動かすことが出来なかった。

 そして――一夏はそれを見てしまった。

 

「…………ッ!?」

 

 言葉に詰まった。そして、凄まじい吐き気に襲われ、その場で胃の中のモノをすべてその場に吐き出してしまう。

 目の前にあるそれは、この世の極悪を詰め込まれたような何か。

 

 あまりにもグロテスクに赤黒く光る生々しい肉。

 

 そして、(だいだい)色の輪。

 

 軽やかな音を奏でる電子機械がそこにあった。

 

「あ、あ、あ、ああああああああああああああああああああああああああああ!!」

 

 怨嗟にも似た叫び声を外であるというのに上げてしまう。幸いにも、今外には誰もいなかったので奇異の目を向けられることはなかった。

 だが、そこに誰かが居ようと居なかろうと、一夏は声を上げていただろう。

 

「ウソだ! ウソだ!! ウソだッ!!!! そんなわけあるはずが……」

 

 しかし、現実は非情だった。

 再びそこに目を向けると、そこにあったモノは――。

 

 鈴音の物らしきパンダのストラップを付けた携帯電話。

 

 鈴音にプレゼントしたはずのオレンジ色のバングル。

 

 そしてそれらを身に着けている――右手。

 

 この瞬間、一夏の視界が歪んだ。

 この現実を受け止められなくて、どうしても逃避したくて、そして逃げ出した。

 視界がブラックアウトする。

 

 これが、夢であればどれだけ良かったか。




とても短いですが、これにて第二章は終了。
きっとこの展開は賛否両論……いや、否定的な意見しかないかもしれない。
でも、一夏にはもっともっと、苦しい目に合ってもらう必要があります。
自分の身ではなく、周りに被害が及ぶという、精神的に追い詰められる必要が。
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