ラウラ・ボーデビッヒが隊員たちと共にISの訓練に励んでいる時、彼はやって来た。
どうやらその男は顔が広いようで、ドイツ軍のお偉いさん方と共に目の前に現れた。
客室まで来たラウラは、席に着く命令を受けてソファに腰かける。
真向いに座るのは見知らぬ男性。顔立ちはよく、俗に言うイケメンの部類だろう。
「はじめまして、俺の名前はエリーアス・マリガン。お会いできて光栄だよ、ドイツ代表候補生のラウラ・ボーデヴィッヒさん」
「恐縮であります」
「はは、そう硬くならないで。俺はそういうのは嫌いだから、ゆるーく、IS学園にいるような感じでいいんだよ」
「了解いたしました」
「さぁ、さっそくお話をしよう。この世界で起こっている事、そして、これから起こる事のお話をね」
ラウラはこの目の前のエーリアスという男は、何を言っているのかすぐには理解できなかった。あまりにも突拍子もない語り方だったからだ。
「ボーデヴィッヒさんは、この世には暗部組織が存在しているのを知っているかな?」
「はい、少しは存じています。過去にこの基地を襲ったのも暗部組織だとか」
「そうだ。あの組織の名前はアベンジャー。その昔、霧島直哉の実験材料にされた哀れな復讐者の集まりだそうだ」
そうは言うものの、なぜ目の前の男がこんな事を教えてくるのかが分からない。
だからラウラは失礼であることを自覚しながらも口を挟む。
「待ってください。なぜ、そのようなことを私に教えるのです? まずその理由をお聞かせいただいてもよろしいでしょうか」
「あぁ、すまない。その理由を話さないと混乱するだけだね。申し訳ない」
そしてエーリアスは一呼吸の間を空けて、再び話し出す。
「近々、そのアベンジャーはこのドイツに戻ってくる。だからこそ、IS部隊、シュヴァルツェア・ハーゼの部隊長を務めるラウラ・ボーデヴィッヒさんに情報を与えようとここに来たんだ」
「……分かりました。話しの腰を折ってしまい申し訳ありませんでした。どうぞ続けてください」
「うん。ISの裏舞台を牛耳る組織は五つあった。まず一つは束派。あの篠ノ之束の組織であり、国際IS委員会直属の組織でもある」
それはラウラも知っていた。
あの臨海学校の研修で、
「そして二つ目。
「壊滅した……? あの
ISのフレーム及び、コアを奪取するテロリスト集団のようなものであり、その実態はいまだに分からない。
しかし、それが壊滅したという情報は耳にしたことはなかった。
「あぁ。だがそれは、予定通りの事でしかない。
「役割……? それはどういう……?」
「ラウラ・ボーデヴィッヒさんは、世界滅亡の大予言を知っているかな?」
目の前の男が言っている事の意味が分からなかった。
いきなり世界滅亡の大予言なんて言われても、ふざけているとしか思えない。
しかし、エーリアスという男は極マジメに、真剣な表情で聞いててきた。
だからラウラはとりあえず自分の知識で言える事を言うしかない。
「有名な所では、ノストラダムスの大予言や二〇〇〇年問題などでしょうか?」
「そうだね。そしてそれらはことごとく外れ、小さな騒ぎで終息した」
そして、一息置いてからエーリアスは言い放った。
「しかしそれは、ありえたかもしれない事柄なんだよ」
「?」
ラウラはエーリアスが言っている事を理解できなかった。
首をかしげるラウラを見て、エーリアスは微笑む。
「ま、これだけじゃ、ふわふわした会話にしかならない。だけど、さっきまでの話は前置きでしかないんだ。今から俺が言うお話を理解するためのね」
「…………」
ラウラは黙るしかなかった。
心の底では察している。
だけどそれは、あまりにもバカバカしくて認めたくない。
それはただの陰謀論だ。
「お察しの通り、数々の世界滅亡の大予言や問題を解決してきたのは世界の裏側の人間たち。そして、今現在も、人類滅亡の危機に陥っているのは確かである、ということ」
「人類の……滅亡……? 何をバカな――」
「それが本当の事なんだ。霧島レポート、という言葉を聞いた事はあるかい?」
そのレポートの存在は聞いた事がある。
ラウラも男性操縦者である織斑一夏と葵春樹の調査と共にとある任務を受けていた。
それが霧島レポートについての調査だった。
だが、それについては何一つ情報を掴むことが出来なかった、本当に存在するのかも怪しい幻のレポートだ。
「言葉だけなら。その内容までは分かりません」
「そうだろうね。なんせ、霧島レポートには人類滅亡の予言が書いてあった。そしてそれはとある存在によって隠ぺいされたんだ」
「隠ぺい? なぜそんな事をしたのですか?」
「だって、都合が悪いからね。自分たちが企んでいた計画が敵にバレてしまった。だから慌ててレポート隠ぺいして、著者をこの世から消し去った」
「一体誰に……?」
ごくりと、ラウラは固唾を飲んだ。
なぜかは分からないが不安が募る。聞いてはいけない事を聞かされる気分になる。
「それは――」
その言葉をエーリアスが吐き出そうとしたその瞬間、ドイツ軍基地が揺れた。
眩い白い光がチカチカと点滅し、目が明けていられない程の閃光と、鼓膜が破れそうな程の轟音が鳴り響く。
(な、何が、起こった……?)
ゆっくりと、そのまぶたを開く。
そこに映った光景は地獄だった。どこかに連れていかれたのではないかと思える程に、その光景は豹変していた。
積み重なった瓦礫と、吹き出すようにして何もかもを焼き尽くす業火があった。
「エーリアスさん無事です、か?」
ともかく今はエーリアスの安否を確認するのが先だ。
ラウラが呼びかけると、軽快な声が聞こえてくる。
「無事だよ。それにしても、霧島レポートの内容をよほど隠したいみたいだね。俺が話そうとした瞬間にこれだよ。早く俺を殺さないからこんな事になる」
ははは、というこの状況には似合わない軽い笑い声が聞こえてくるが、ラウラはそんな彼の状態を気にしている暇がなかった。
だって、目に入ってくるのはありえない光景だったから。
「な、なぜ……誰も乗っていないシュヴァルツェア・ゲーベルが我がドイツ軍を攻撃している……?」
そして、その中の一機が、キャノン砲の砲身をこちらに向けてきたではないか。
ラウラはすかさず専用機である
「大丈夫ですか、エーリアスさん」
「もちろん。ありがとう、ラウラ・ボーデヴィッヒさん」
「いえ、当然の事です」
「けどもね、別に俺はラウラに助けられなくても大丈夫さ。いくぞ!」
その瞬間、ラウラは信じられないモノを目撃した。
それはあまりにも唐突で、不可思議で、不条理。
彼が割れた窓から飛び出し、そこから現れたのは、どこまでも純粋な白だった。