プロローグ/虚空の刀
腹立たしい。
あんなに大口を叩いていたのに進歩がまるでない。助け出すと誓ったのに僕はまたしても何の情報も得られぬまま、のうのうと飯を食べて、糞をして、
男は木刀を持ち、窓から照らされる月の光に当てた。
最初はなまくらな剣でも、叩き上げればそれは鋭い刀となる。それが僕の名前の由来だ。
僕は最初、この名前が好きだった。何とカッコいい名前だろう、と。何と素晴らしい名前だろう、と。
それでも今ではこの名前が大嫌いだ。
名前負けどころではない。力を手にしても、誰も救えなかった。
仲間を危険に晒したまま、見つけることさえも出来ずに彷徨している。
「………力、か」
剣持はそう呟くと、木刀を長いバッグの中に入れ、ベッドで眠った。
朝だ。
いつものように平和なような朝が来る。あんなことがあったなんて嘘のような眩しい朝だ。
剣持はムクりと起き上がると、そのまま朝食の食パンを焼き始める。
「………」
剣持は焼けたパンを皿に移し、そのまま噛る。何も言わずに咀嚼音だけが部屋中に響く。
朝食を食べ終わると、制服に着替え歯を磨く。
制服を着ているが、あれから学校へは行っていない。服をあまり持たない剣持にとって、制服が私服のよう扱いになっているのだ。
剣持は木刀が複数入っているバッグを肩にかけると、玄関のドアノブに手をかける。
「…行ってきます」
自分以外誰もいないはずの家にそう呟き、ドアノブを回す。ドアの隙間から朝日の光が漏れ、自分を照らしてくる。目を細めながらドアを開け、空を見上げる。
本当に良い天気だ。僕の憂鬱な心に反して遠い空が澄んでいる。
気分が上がるような空の色に、何故か無性に腹が立っていた。
「………クソ」
マンションの廊下をツカツカと歩き、階段を下っていく。
結局、誘拐した奴の手がかりは、全員が謎のエンブレムをつけているという事だけだ。何処にも売られていないところを見るとその組織だけの特注品なんだと思う。こんなに探して手がかりがエンブレム一つしか見つけられないことに憤りを感じる。
取り敢えず片っ端から自分の足で探すしかない。
剣持はそう決めてから2ヶ月間、探し続けていた。
正直言って心が折れそうだった。ずっと探し続けても見つからないこの状況に、少しずつ神経をすり減らしていっている。
「ママー、置いてかないでー」
剣持の前に黄緑色の髪色の少女が通りすぎていく。
七才くらいの子だろうか、ママに手を引かれ一緒に歩いていった。
その瞬間、剣持の顔は曇天から一瞬にして、晴れやかな表情になっていく。
「フフ、やはりロリは僕の心を晴らしてくれますね」
剣持はその家族の微笑ましい姿ににこやかになっているのではなく、あくまで少女単体ににこやかになっているのだ。
そう、剣持は生粋のロリコンである。
今まで何度も心が折れそうになる度に、少女の姿が剣持を心の底から救ってくれた。
剣持はさっきまでの陰鬱な空気を感じさせず、足をスキップさせながら探し始める。
「さて、昨日はあそこまで見たから今日はこの地区か」
マップを見ながら進んでいく。マップにはマジックで今までの記録が書き記されていた。
探すこと二時間、全然見つからない。
今まで起きた失踪事件を辿るにここら辺だと思っていたが、どうやら外れだったみたいだ。
諦めて引き返そうとすると、建物と建物の間の路地裏から呻き声のようなもやが聞こえてきた。
剣持はそのまま路地裏に入っていく。
もしかしたら何か手がかりが見つかるかもしれない。そんな淡い期待を胸に入っていくが、それは淡い期待とは違うものだった。
スーツを来た赤髪の男?がパーカーを着た一般人を馬乗りし、銃を突きつけているとこらだった。大方銃を突きつけている方はマフィアかなんかだろう。
この街ではこういう事件もたまにある。誘拐事件に比べればそんなにないがそれでも一日に数件はあるらしい。
剣持はバッグから木刀を一本取り出すと赤髪の男?に向けた。
「その銃、放してやってくれませんかね?マフィアだかなんだか知らないけど、迷惑なんですよ」
「あ?」
赤髪の男は剣持を見上げ、睨み付けた。