虚空の刀と紅の錬金術師   作:黒蜜黄粉

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プロローグ/紅の錬金術師

 ありえない。

私に起こった事象も、それに対して私がとった行動も、全てがありえない。

何故こんなことになってしまったのか?私は秘密裏に入手してきた資料を片手にブラックコーヒーを飲む。

私が全力で二ヶ月も探し回って、ゲットできた情報が二つだけ。

一つは組織の構成員はみんな謎のエンブレムをつけているということ。そしてもう一つは組織の構成人数。下っ端も含めて全員で二百六十五人。

たったそれだけの情報だ。

 

「……はぁ」

私は持ってきた資料を放ると、コーヒーを一気に飲み干した。

今あいつらはどうしてるのか分からない。もしかしたらとっくに死んでいるのかもしれない。私の大切な親友は一体どこへ行ったのだろうか。

 

私が迂闊だった。

あの時、近くで誘拐事件が多発していることは知っていたのだが、まさかヘルエスタ王国相手に誘拐を企てるなんて思わなかったのだ。

誘拐されたのはヘルエスタ王国の近衛兵数名、そして私の友人であるヘルエスタ王国第三皇女、リゼ・ヘルエスタと、同じく友人の地獄から来たと言われている戌亥とこだ。

あの時私が間に合っていたら、救えたかもしれない。いや、あの時あの場に私がいても救えたかどうか分からない。

今の私は色々な錬金術を死に物狂いで取得したが、あの頃の私はただ、好奇心のままに楽しく錬金術を学んでいたに過ぎない。その私があの時いたとしても多分、被害者が一人増えるだけだろう。

私はあの時、何かがあっても戌亥が守ってくれると思い油断していたのだ。

事件現場から争った形跡が無かったので、戌亥には薬を注入して眠らせたと考えるべきだろう。食べ物に入っていると戌亥の犬並みの嗅覚で気づかれるので、直接注射器で注入したのだと思われる。

 

直接注入したのは偶然なのか?

普通なら抵抗される考慮も入れて食べ物に入れたりするのが自然だ。

なのに直接打ってきたということは戌亥の鼻が良いことを知っていた?

戌亥の存在はヘルエスタ王国の国民はもちろん、従者達にも知られていないのだ。

「………」

 

身内の反抗である可能性が高い。

では誰が?リゼのお兄さん?いいや、ありえない。

リゼのお兄さんはこんな事をする人間ではないだろう。

ただ、あの事件をきっかけにチャイカ・ブラウンはヘルエスタ王国に戻ってきてないのだという。

今はリゼの父親が国王をやっておられるが、いつまで続くか分かったもんじゃない。

考えれば考えるほど、手がかりの無さにイライラしてくる。

一旦外に出て気分転換でもしようか。その方が頭もリセットされるかもしれない。

私はコーヒーカップを流し台に出すと、スーツのままドアノブに手をかけた。

 

 

空が気持ちいい。呆れるくらいの快晴だ。

それに比べて私の心はどんどん曇っていく。

町行く人々は皆、笑顔で歩いている。中には仕事なのか忙しそうに走っている者もいるが、それでもこの町は表は平和なのだろう。

はあ、ここにリゼと戌亥もいたらな……。

そんなことをふと考えてしまう。

外に出たのも、もしかしたらあの二人に会えるかもしれないという淡い希望からなのだろうか?

大きくため息をつき、前を見るとふと、ある男が目に飛び込んできた。

その男は見た目は普通の赤い上着にジーパンという格好なのだが、耳についているイヤリングに目を奪われた。

そのイヤリングは今私が探している組織のエンブレムだったのだ。

 

アンジュはその瞬間、前の男の襟を後ろから思いっきり引っ張ると、路地裏まで引っ張って連れていった。

自分の力だけでは無理なので、錬金術で自分の筋力を上げたのだ。

「お、おいなんだてめぇ!!離しやがれ!」

私は「離せ」と叫ぶ男の足を引っかけ、床に叩きつけた。

「おい、お前…今噂でやってる誘拐事件の複数犯の一員だな?」

「……だとしたらどうするよ?殺すか?ただの一般市民が!」

アンジュはため息をついた。

「……そうだな、確かに無理だな……()()()()()

私はそう言って、錬金術で拳銃を創り出した。

「!?」

その拳銃を男の頭に当てる。

「生憎、私はもう表の人間じゃないんでね。死にたくなかったら言うこと聞きな」

「な、何が目的だ!?」

「とぼけるなよ、そのエンブレム、分かってんだろ?テメェの所属している組織の詳細情報、全部ここで吐きやがれ」

男は「下っ端なんであまり知らないけど……」と前置きすると、情報をアンジュに開示していった。

結局わかったのは、その組織は外からギャングを雇っていることと、身代金目当てではなく、ただ誘拐して、被害者をいたぶって楽しんでいるだけの様らしい。

その男は「ただ……」と話を続け始めた。

「あくまで噂だが、組織は被害者を人体実験に使って、強化人間を無理矢理作っているだとか何とか……」

「強化人間?」

「……そこまでは知らねぇよ。ほら話したんだから早くどけよ!」

「そうだな……」

そう言ってアンジュは、拳銃の引き金を引いた。

その瞬間、自分の首もとに冷たい何かが触れる。

「……」

拳銃?いや、木刀か。

舐めてる……と言いたいが、この世界じゃ木刀でも素手でも平気で人を殺せる。

組織の仲間か、あるいは……。

 

「その銃、放してやってくれませんかね?マフィアだかなんだか知らないけど、迷惑なんですよ」

「あ?」

私は振り向いた。

今の言葉で組織の仲間という線は消えた。

その男は私を睨み、木刀を首元へ向けていた。

 

まるで世界そのものを憎んでいるような、そんな目だった。

 

 

 

 

 

 

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