西鹿児島発・寝台特急「なは」新大阪行きである。西鹿児島駅を19時05分に発車する。7号車は、個室ツインの列車である。高木昭は、女と一緒に乗り込んだ、ベットは2段になっている、二人並んでシートに座った。
発車前に、ドアがノックされた。
「車掌でございます。車内改札をさせていただきます。」
高木は、切符を持って立った。ドアを開ける。
その時女は、窓の外を見ていた。改札して、
「よい、ご旅行を」
と言って、車掌が去る。ドアはロックする。ここで2人きりになる。新大阪には、明日の9時26分に着く。
高木は、42歳になる、厄年である。彼は会社員である。そろそろ課長になりたいところだ。
だが、まだ課長補佐だった。会社のために夢中になって働いた来た。女房が38歳、子供が2人、なかなか、浮気する機会もなかった。
もちろん、ツイン個室を予約するには、20日くらい前にしないと席は取れない。つまり鹿児島で拾ってきたというような女ではない。
東京の場合は、寝台特急「はやぶさ」に乗って翌朝には西鹿児島に到着するが、新幹線「ひかり」の場合は博多から特急「つばめ」に乗って西鹿児島へ行くことが出来る。
ピィーッ!
と、警笛を鳴らし、山陽で朝を迎えた。
9時26分、寝台特急「なは」は定刻通り新大阪へ到着した。
「やっと、大阪か。」
「えーと、えーと、26番ホームか。」
新大阪駅・26番ホームに、新幹線「のぞみ6号」東京行が止まっていた。午前9時52分に着いて、2分停車で54分に発車する。
ホームには、発車のベルが鳴っていた。
車掌の藤原は、車内改札に回っていた。4号車に入る。そこに中年の男が、のどを搔きむしり苦しんでいた。
「お客さん、どうしました。」
ベルが鳴り終わり、列車がガタン、と揺れた。近くの客たちは立ち上がる。男は床に這い、すでに動かなくなっていた。
「死んだ。」
と、誰かが言った。
車掌は、男の首筋に触れた。
手首も握って見た、脈はなかった。
「すみません。触れないでくださいよ。」
と言って車掌は走っていく。しばらくしてもう1人の車掌を連れてきた。
「どうします。」
「亡くなっているのか。」
「ええ、亡くなっているようです」
あと15分ほどで京都駅に着く。病人ならば京都駅で降ろす。死んでいれば終着駅の東京まで運んでいかなければならない。それが決まりである。
「どうやら、毒物による死ですね。」
1人の車掌は連絡のために走る。もう1人の車掌がやって来る。死んだ男の隣には、40ばかりの女が坐っていた。
その女は、どうしたらいいかわからずにうろうろしている。他の乗客も、立ち上がって見ている。
「あたしは、どうなるのよ。」
「すみません。別の席を探しますから、それに第一発見者ですし、お話もお聞きしたいので」
「冗談じゃないわ。第一発見者は、あなたじゃないの。」
女は、車掌を指さした。
「ええ。でも。隣に座っていらしたのですから」
「あたしは、何も知らないわよ」
「どうだったのですか、話していただけますか。」
「あたしは、窓際の席で座っていました。そこにこの人が来て坐ったんです」
「発車のベルはなっていましたか」
「ええ、鳴っていました。あたしのあとから乗って来たんです。ちょっと頭を下げて、座ったと思ったら、苦しみ始めました。そのときに、車掌さん、あなたが来たんです。あとは、あなたがご存知のはずです。」
「東京までですか」
「そうです。ちょっと仕事で」
「そうですか。」
新幹線は、京都駅に着いた。
私服の鉄道公安隊員が2人乗り込んできた。車掌が案内してくる。
「死体は、ここですね。」
「ええ。」
「どうですか。」
「これは青酸だな。」
「えっ、という事は毒殺か。」
「はい、毒殺と思われます。」
「とにかく、東京の方へ連絡しましょう。」
「分かりました、すぐに報告してきます。」
「頼む。」
新幹線300系の事件については「新大阪発 21時18分の死角」にも登場しています