我、終焉の観測者!   作:胡椒こしょこしょ

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俺はあの日を確かに見た。
だから非日常があるのだと信じたいんだ。
故に、俺は_____終焉の観測者。


異常なきセカイ、狂いだすミライ

朝、目が覚めるとそこには仮初の皮を被った日常。

何も知らぬ者たちが安寧の時を貪る。

だが、俺は違う。

この世界の真理に気づき、アクセスした俺には....この世界の平穏がどれだけ儚く平穏な物か知っている。

 

「...やれやれ、定刻通り...か。ここまで律儀に時間を守るなどアウトサイドディメンションでの戦闘の日々を思い出せば随分と丸くなったものだ。ククク......。」

 

我、終焉の観測者にして最後の鍵である六分儀流死風。

目覚めの時だ....。

 

まずは穢れを纏った身体を浄める為にも歯磨きと洗顔。

そして活動を始める為のエネルギーチャージの為にも朝餉を頂くとしよう。

その為にも....。

 

「ふっ、獣畜生とはいえ生命の始まりの相を持つ。であれば我が取り込んでやる!はぁぁぁああああ!!!!」

 

声を上げて卵を割り、フライパンで熱する。

勿論それでは終わらない。

俺に死角はない。

パンの準備も出来ているッ!!

 

焼き上がった目玉焼きを乗っけると、我が手ずからトースターで灼いたパンで挟み込む。

そして口に運んだ。

 

「ふふ....美味であるぞ!!!」

 

そう叫びを上げると俺は制服に着替えて外に出る。

俺の仮初の姿は高校生。

やれやれ....学び舎で勉学に励むただの子供の振りをするのは疲れるぜ。

 

 

 

 

『当研究都市ではソーラーシステムの配備による省エネルギー推進計画を本格的に進めていくと見解を出しており....』

 

電光掲示板から声が聞こえる。

街を見回すと自分と同じように高校の制服を身に纏った者たち。

やれやれ....世界の裏で何が起きているかも知らずに呑気なものだ。

しかし....それが平和という物なのかもしれないな。

たとえ仮初といえどもそれを味わる権利は誰にでもある。

 

「クックク....安心しろ。貴様らの安寧は俺が守ってやる。ふふふふ....ファーハハハハ!!!!」

 

「何一人で笑ってるですかぁ~?」

 

急に背後から声を掛けられてビクッとする。

振り返るとそこにはランドセルを背負ったツインテールの女児が立っている。

 

「な、なんだ貴様かロリっ子よ.....。フッ、なぁに。選ばれし者としての誓いをな.....」

 

「周りから凄い冷ややかな目で見られてましたよぉお兄さん。笑われてましたぁ~。」

 

彼女は俺の言葉を最後まで聞くことなくそう言ってくる。

周りを少しちらっと見ると同年代くらいの女学生がこちらに指をさしていた。

それだけでなく冷ややかな目線が刺さる。

 

「ふ...ふははは、我は神に選ばれし観測者。奴らは今は理解できないだけなのだ!いずれラグナロクが来た時に我を頼ることになろう!」

 

「そうやって妄想を垂れ流すのはやめた方が良いって前に私言ったんだけどなぁ~?」

 

彼女はとうとうニヤニヤと笑みを浮かべながら上目遣いで見てくる。

 

「も、妄想ではない!!!ロリっ子よ、お前にはまだ速かったようだな。だが安心しろ、貴様にもいずれ分かる時が来る....。」

 

俺は彼女にそう言っておいた。

妄想とはっきり言われたからこそ咄嗟に否定してしまったのだ。

それにしても、この研究都市ではこの時間は既に小学校は始まっていそうだが....。

 

「そ、そんなことより!....小学校はどうしたんだ?この時間は始まってそうだが......、もっと急いだほうがいいんじゃないか?」

 

そう言うと彼女は顔を曇らせる。

 

「私....小学校行きたくなくて。」

 

「何っ!?小学校に行きたくない....だと!」

 

その顔からして様々なことを考える。

このように子供が言う時には大抵いじめが関わっている。

虐め。

経験がないわけではない。

あれはとても酷いものだ。

被害者の心に一生のトラウマを残す。

それはたとえ状況から抜け出しても残るのだ。

目の前の小学生はどちらかと言えばこの時点でJCギャル、悪く言えばメスガキっぽい見た目だ。

どちらかと言えば嫌な事してくる側の見た目である。

いや、だが見た目で判断してはいけない。

彼女のあの表情を見たら分かる。

目の前の女の子は現時点でも味わっている途中なのだろう。

どう声を掛けたら良い物か...。

 

「そ、そうか....なら学校には行かなくてもいいんじゃ....いや、でもそれを部外者である俺が勝手に勧めてしまっていいのか?でも彼女は苦しんでて......」

 

迷っていると、彼女の後ろから一人の少女が走って来る。

 

「ひめのちゃ~ん!なんでいきなり一人で走って行っちゃうの~、はぁはぁ.....」

 

見ると眼鏡をかけた気の弱そうな女の子。

その子が彼女の隣に立つ。

すると姫乃は隣の女の子に笑いかける。

 

「ごめんごめん、ちょっと顔見知りの人を見かけちゃって.....」

 

「急に走り出してびっくりしたんだよぉ!...あっ、こ、こんにちは.....」

 

ぷんぷんと怒った様子を見せる少女。

しかしその少女は俺に気づくとおずおずと頭を下げる。

人見知りなのだろう。

いや、それより....

 

「どういうことだ....?学校に行きたくないって....」

 

俺は戸惑う。

当然だ。

そういう子は得てして友達がいない物だ。

しかし目の前の少女、姫乃には友達がいる様子だ。

そして小学校に行くことも大して抵抗を持っていないように見える。

すると彼女は悪戯を見つかったかのように舌をぺろっと出す。

 

「あぁ、アレ嘘だよ?こう言ったらお兄さん心配してくれるかなぁ~って。この子は私の友達の茜。可愛いでしょ~。」

 

そう言って彼女は茜に抱き着く。

茜の方もどこか照れた様子だ。

 

「なんだ...そうだったのか安心した。嘘を言うのはいかんぞ。...それとよろしく頼むぞロリっ子2号ォ!俺の名は六分儀流死風。終焉の観測者である!!」

 

目の前の顔見知りの少女が何ともなかった。

確かに嘘を吐いたのは褒められないが、嘘だったのだ。

彼女が楽しく学校生活を送れているなら問題ない。

 

「えっ、えっえっ...なにこの人。」

 

少し引いたような目で俺を見つめてくる茜ちゃん。

姫乃はそんな彼女に笑いかける。

 

「面白いでしょ?すぐこんな恥ずかしいことするんだよこのお兄さん。」

 

「なっ、貴様ぁ!我を愚弄するか!子供とはいえ許さんぞ!」

 

俺が言うと、姫乃が茜の手を引く。

 

「わぁ~怒ったぁ!またねお兄さん、私達学校だから....。」

 

「わっ、ちょっ姫乃ちゃん!そ、その...さようなら....?」

 

ニヤニヤと笑いながらも走り去っていく姫乃。

それに手を引かれつつも、不思議な物を見るような目で俺を見つつ、別れを告げる茜。

小学生に弄られたのだ。

....少し、傷ついた。

 

「....フッ、子供とは残酷な物だからな。....学校行くか。」

 

一人呟くととぼとぼと歩いていく。

 

 

 

 

 

 

 

学校、昼休み。

皆が安寧の時間を貪る中、しかし俺は一人で確かにある場所に向かっていた。

我らの始まり、物語の到達点へと。

 

そしてその部屋の前に着く。

そこには立て札で『文芸部』。

そのドアに手を掛ける。

 

「皆、刮目せよ!王の帰還だ!!!!」

 

そう言うと、部屋の中を見る。

そこには黒髪の少女が一人。

深層の令嬢のような近寄りがたい雰囲気を醸し出しながら本を手に持っている。

そしてこちらに一瞬目線を向けると溜息を吐いた。

 

「ぬぅぁんだ!その態度は!!プリィィィストよ!!!」

 

「変な名前付けないで。」

 

彼女はぴしゃりと俺に言い放つ。

しかしめげることなく俺は歩いていき、近くの席に座る。

 

「相変わらずつれない女だぁ....すぃかぁし!我は知っているぞ、貴様がここに居るわけを!それは再び我と相まみえる為....。」

 

「教室に居ずらいからよ。あなただってそうでしょう?」

 

....コイツ、かなりストレートに言ってきたな。

せっかく俺が言いづらいことをオブラートに包んでやろうというのに。

何気に浮いていることを再確認させられて心抉られたぞ。

てか自分自身も傷つけていないか?

 

「...相変わらずここは我と貴様の二人だけか?」

 

「えぇ、昼休みにも来るなんて私とあなただけよ。良かったわね誰とも心通わせることのないあなたが一人共通項を見出せる女を見つけたのだから。喜んで見せなさい私の前で。」

 

そう言うと彼女は本を机に置いた。

 

「...読まないのか?」

 

「同じ部屋に理解しがたい中二病患者がいるもの。頭が痛くなってきたから本はやめるわ。」

 

「中二病ではない!!我は終焉の観測者!六分儀流死風だぞ!!!」

 

俺がそう言うも、彼女はハイハイと流す。

くそゥこいつめ....慣れて来たのか扱いがおざなりになっている。

 

「お茶...いるでしょ?」

 

「当たり前だぁ!貴様は眷属だぞ、常に我に粗茶を献上するのが道理だろう!」

 

「聞かなきゃよかったわ。」

 

そう言うと彼女は急須にポッドで熱湯を入れる。

そしてチェスを出してきた。

 

「せっかく二人居るんだもの。暇つぶしにこれでもやりましょう?」

 

「ほう、未来を見通す我に勝負を挑むか。良い度胸だな。木っ端微塵にしてやろうぞ!!!」

 

「初めて1か月の初心者が随分と偉そうね。わからせてあげるわ。」

 

二人はそう息まくと、盤上に駒を置き始めたのだった。

 

 

「チェックメイト。」

 

「んあぁぁぁぁ!!!!」

 

4度目の勝負、俺は全てにおいて負け越していた。

圧倒的な経験の違い。

それが俺と彼女の間に埋めることのできない実力の隔たりを生み出していたのだ。

 

「ふふ....良いわね、苦しむ人間を更に追いやるのは。」

 

「貴様ぁ!それでも人の子かぁ!!!!」

 

得意げになって俺のキングを手の中で弄る。

くそう....初心者相手に無茶苦茶だ.....。

俺がジト目で見ると、彼女は更に好戦的な視線をこちらに向ける。

 

「これは序列を変える必要があるんじゃないかしら?六分儀さん。私が4回も勝っているわけだし、心も折れたでしょう?それならこれからは貴方が私の眷属で、私が貴方の主人へと....」

 

目の前の少女が何を言わんとしているか察すると俺は勢いよく席から立ち上がる。

それは許容するわけにはいかないからだ。

 

「ふざけるなぁぁぁ!!吾妻綾香よ、もう一度ッ!もう一度勝負だ!!!俺は負けてない、折れなければ負けたことにはならない!!!」

 

「いいわ、勝者として受けてあげる。」

 

彼女は愉快そうに笑みを浮かべると駒を再度並べ始めた。

次こそは絶対に勝つ!

そうしてまた一局始める。

昼休みのおわりがどんどん近づいて来ている。

そんな時に彼女が急に口を開いた。

 

「妄想っていうのは勝手な理想の押し付けよ、控えた方が良いわ。」

 

「...それはどこの知識人の受け売りだ?」

 

彼女は時たまこういう時にどこぞの文豪とかが言った格言とかを教えてくれたりする。

しかし彼女は俺を見ずに言葉を続ける。

 

「私の言葉よ、ソースも私。」

 

珍しく彼女はそう言う。

俺はくつくつと笑みを浮かべる。

 

「ほう....いつも俺に対して知識面でマウントを取って来るからな、自分の言葉で話すとは珍しいではないかプリィィィストよ。まっ、どのようなマウントを取ろうとしても終焉の観測者である俺には勝てぬがなっ!俺の知能指数は53万だ。」

 

「...そんな言葉はチェスでまともに勝ってから言いなさい。自身の中の都合のいい幻影の押し付ける、それが妄想。だからこそ私にはその行為が醜く映るわ。貴方はその兆候が酷い物、それに貴方は顔も何もかもが平々凡々なのだからその中二病さえなかったらすぐに馴染めるわ。悪いことは言わないからやめなさい。」

 

彼女はそう言ってくる。

彼女なりに俺の事を思って言ってくれたのだろう。

そうでなければ彼女は俺の交友関係を心配したりしない。

そんな人の良い人間ではないと分かっているからこそ断言できる。

だけど!それでも!!

 

「ご忠告痛み入る...とでも言うとでも思ったかプリィィィスト!我は周りにどう思われようと自分を曲げることはしなうぃい!!逆に貴様はどうなのだぁ?貴様も、浮いてるではないか!!!」

 

『....は変わらず...まま.......』

 

その光景を振り払うかのように俺は話を切り替える。

すると彼女は余裕綽々と笑みを浮かべる。

 

「私は貴方とは浮く理由が違うわ。私は見た目も中身もオーバースペックだから烏合の衆の中で浮いてしまうの。掃きだめの中の鶴の気持ちが分かるわ。」

 

「はきだ...鶴?なんて......?」

 

俺が聞くと彼女は呆れた顔をする。

 

「貴方ってそうやって難しい言葉とか使おうとする割に頭が悪いわね。」

 

コイツ、聞き返したくらいで....。

学校の成績だってそこまで悪くないはずだ!!

出鱈目なことを言うな!

 

「な、なんだとぉ!?成績は悪くないんだぞ!訂正しろ!!」

 

「嫌よ、はいチェックメイト。」

 

そう言うと彼女は一手打った。

そんなすぐ詰ませられるわけが.....は?

 

「そ、そんなバカな.....俺が勝てなかった!?」

 

「逆に勝ったこと自体が少ないじゃない。」

 

「ええい、うるさい!!」

 

彼女の言葉に被せて声を上げると、予鈴が鳴る。

すると彼女は席を立つ。

俺は手を伸ばした。

 

「待て!勝ち逃げする気か!!!俺は序列再編など認めないぞ!!」

 

そう言うと呆れたように溜息を吐くと、彼女は微笑を浮かべる。

 

「続きなら放課後に部活があるからすれば良いでしょ?授業が始まるじゃない、お分かりかしら劣等生君?」

 

そう言うと手をひらひらと降りつつ部室を出る。

1人残った部室の中。

直ぐに教室に向かってもよい。

しかしこの雰囲気では.....。

 

「クッフフフフ....ハーハァハハハハ!!!これで終わったと思うなよ、プリィィィスト!今まさにこの空間から我の快進撃が始まるのだ、精神統一,,,,極東機関からの承認を確認。パンツァー・サンガ、展開!!!」

 

手を広げて誰も居ない静寂を目を閉じて五感で感じる。

これだ.....これこそが、我の絶対領域だ。

この感覚を味わえなくなるなんて考えたくない。

俺は....中二病で良い。

 

暫く時間が経つ。

俺は笑みを口元にくっきりと浮かべると部室を出る。

そして腕時計を見た。

 

....これ、授業遅刻するわ。

 

一種の諦観のような物を抱きつつ、俺は廊下を走りだした。

廊下は走っちゃいけない。

だが、そんな決まりなど終焉の観測者である我が守るはずがないであろう!!!

 

「....はぁ。」

 

ただ溜息を吐きつつ、どう言い訳するか考えていた。

 

 

 

 

 

夜。

特売に遅れないように学校帰りにスーパーによって他にも買う物がないか物色した帰り。

辺りはすっかり真っ暗になっていた。

 

俺の暮らしているアパートは路地の内側に入る。

正直暗くて人通りも少なく、夜になると不気味な雰囲気な場所だ。

 

事実、俺以外に人は誰も居ない。

まぁかなり古いマンションだから人もあまり住んでいないし、そりゃそうか。

 

家へと帰路の途中。

ふと、思い返す。

俺の言う言葉は全てが出鱈目だ。

オカルトなんてものは本当はなく、陰謀論も詭弁でしかない。

裏の世界なんかなくて、この世界は見ているこの世界の様相しか存在していないのだと。

分かってはいる。

しかし、どこか期待してしまうのは俺がまだガキだからだろうか?

 

「...信じたいよな。ちゃんとあるって。どこか俺たちの知らない領域がまだ世界にはあるって。」

 

じゃなければ俺が昔見た光景は、ただの白昼夢になってしまう。

青白く瞬く光。

その光が失った俺を照らしていた、あの光景を。

 

あの日のことを思い返した矢先、何か肌が粟立つような悪寒を感じる。

前を向くと、小石が宙に浮いている。

そんなことはあり得ない。

それこそオカルトや何か出ない限り...。

 

「ひっ!ゆ、幽霊!?み、見ちゃった....いや、目撃したというのか!?死霊の存在を!」

 

一瞬素のトーンでビビっちゃったが、なんとか持ち直す。

だが、膝はガクガク。

遂に出たと走り出したくなるのは請負だ。

そして次の瞬間、雷が落ちたかのような光とどさりと何か重い物が落ちる音。

 

「ひぃぃぃぃ!!!ごっ、ごめんなさいごめんなさい!デカい態度取って悪かったから!!」

 

なんなんだ、青白い光纏った幽霊とか居んのかよ!!

なんかドサリって音がしたし!

クアンタム〇―ストしている自殺霊かよ!!!

 

あっ......腰抜けた。

これ逃げれんわ。

 

膝はガタガタ。

奥歯はガチガチと音を立てており、嫌な汗が噴き出す。

何時漏らしてもおかしくない状態だった。

 

そして光が収まっていく中、そこにはライダースーツに身を包み、ヘルメットのような物を被った女性的な体のラインをした人物。

ライダースーツの所々は破けており、柔らかな質感の肌と鮮烈な赤い液体が滲む傷が見える。

 

「こ、これは.....人?てことは....は、ハハ....そんなまさか俺が......」

 

そう理解すると笑みが漏れだした。

人、そして今までここにはいなかった。

これはテレポーテーションとしか言えない。

こんなモロオカルトな物を見るなんて....目の前の人物は超能力者なのか!?

一人でテンションが上がるのも束の間、目の前の人が怪我していることが頭をよぎる。

 

こんな笑っている暇はない!

血とか出てるし、とにかく無事か確認しないと!

 

抜けた腰を何とか起き上がらせて、恐る恐る近づく。

 

「救急車を呼んだ方が良いのかこれは....、いやその前に意識があるか確認か。お、おい....大丈夫か?俺の声が聞こえるか.....?」

 

そう言いつつ、彼女の頭のすぐ近くで屈む。

声は聞こえない。

....いや、もしかしたらヘルメットで籠って聞こえないのかもしれない。

そう思ってヘルメットにゆっくりと手を掛けたその瞬間。

 

「ッ!!!」

 

「ひょえっ!!!な、なんだ貴様は急に!!?」

 

手をがっつりと目の前の倒れている女?に捕まれる。

案外力が強く、また突然だった為驚いてしまう。

するとその女は俺にもはっきりと聞こえる、かつ苦しそうな声で言葉を紡いだ。

 

「救急車はやめ.....ろ、放っておい.....」

 

そのまま気を失ったのか俺の手を掴んだ手はぐったりと力なく地に落ちた。

 

「なんだっていうんだ....救急車はやめろとか.......。」

 

後に一人残された俺は困惑していた。

しかし、ある事が思い浮かぶ。

 

「救急車を呼ばれたら困る。身元が割れたら困るのか?....つまりは本格的にどこかの組織から逃げてきた超能力の可能性もあるのか......いやそんなわけ.....でも、目の前でテレポートを見たし......。」

 

周りを見てもどうみても虚空から湧いてきたようにしか見えない。

なればこそ俺の前から嘯いている超能力者、裏に居る機関の影にちょうど合致するシチュエーションだった。

だからこそ、俺は....。

 

「放っておいてとか...嫌でも怪我してるしな。応急処置くらいはしないと....それに詳しく話を聞いてみたい。...い、いや違う!こほん、...自身の幸運に感謝するんだな、ヘルメットゥ!終焉の観測者であるこの六分儀流死風の慈悲を賜ろうというのだからなっ!」

 

なんとか体裁を整えるとぐったりと横たわっている彼女を背負う。

声を聞いたが若干ハスキーだったが、女性で間違えないだろう。

年上の女性かな?まぁそこはいいや。

背負うとライダースーツ越しに伝わってくる女性の柔らかい感触に一瞬ドギマギしてしまう。

 

「クク....フハハハハ!!!俺は六分儀流死風!!!人ではない!当の昔に人らしき感情を置いた形を持った事象。このような些末事に囚われるなどあるわけないのだァ!!!」

 

そう叫んで、邪念を振り払うと人一人の重みを感じつつ、階段を頑張って上がっていき、自分の部屋の鍵をポケットから出す。

そして部屋に転がり込むように入ると、最近物騒なので戸締りをしっかりとして彼女を背負ってリビングに入る。

 

毛布などが無造作に捲られたベッド。

そこに彼女を置いた。

外に寝転がったりしていたし、そこが気になるが怪我人なのだからそこらへんは気にしないようにしよう。

 

「さて...リペアキットは何処へ.....」

 

救急箱を探す。

棚を物色していると棚の二番目の引き出しに入っていた。

中を見てみると消毒や包帯、絆創膏が入っていた。

 

それをベッド近くに持っていくと傷の様子を見ることにする。

頭部にも怪我をしているかもしれない。

 

「傷の有無を確認する為だ。断じてそれ以外に意図はない!」

 

誰も見ていないにも関わらず言い訳するようにそう言ってしまう。

それはやはり、傷もそうだが一重にどのような人物か気になるという好奇心もあるからだろう。

 

そう思ってヘルメットを外す。

するとそこには目鼻立ちが整ったどこか精悍さやカッコよさを感じられるような美女。

髪はくすんだブロンドでロング。

そんなワイルドにも見えるような綺麗系の美女が目を閉じて静かに寝息を立てていた。

 

「....って、何をしている六分儀流死風!傷の手当だろバカモノがっ!!」

 

一瞬その端正な顔に見惚れてしまったが、首を横にブンブンと振って気持ちを切り替える。

頭からはどうやら出血はないようだ。

ではライダースーツの破けたところを見てみるか。

 

傷。

これは....ライダースーツを着たままでも包帯を巻いて良いのだろうか?

圧迫すれば良いからそこら辺は関係なさそう。

それに流石に女性の服を脱がすのは気が進まない。

しかし同時に主張が激しい胸や尻、そしてむっつりとしていながらしっかりと筋肉も付いているように見える足は俺の目を激しく惹きつける。

 

「そうだ....服の上からでもよいと黙示録にはある。邪な思考よ、立ち去れ!!立ち去るのだ!!!ルシファーよ、立ち去れぇい!!煩悩退散!煩悩退散!!」

 

まるで霊を祓うかのように叫ぶ。

ここで手を出してしまえば人として何か終わりな気がしたからだ。

俺はあくまで彼女の傷の手当と話を聞くためにこの部屋に入れている。

断じてよからぬことをする為じゃない!

 

そう葛藤しつつ、包帯で慣れないながらも携帯で調べながら手当していく。

これだけで今日は日が暮れそうだ。

飯の材料....買って来たんだけどな。

...まぁ夕食なら一食抜いても構わないか。

 

そう思って俺は手当を続けるのだった。

 

 

 

 

 

 

虫の音が聞こえてきそうなほどの夜。

とある部屋にて一人の少女が携帯に耳を当てていた。

 

『それで、要観察対象である咲州祥太郎の様子はどうだった?なにか能力の発現などの兆候は見せたか?』

 

成人女性の声が少女にそう問うと、彼女は表情一つ変えずに答えた。

 

「いえ、今日もそんな様子は微塵もなく、私にチェスで負けて悔しがっていたわ。とても可愛くておかしくなりそうだったわね。体育が今日あったから匂いも濃かったわ。」

 

『...そ、そう。変化はないのね。』

 

彼女の返答に電話相手の女はどこか動揺した様子だった。

しかしすぐにさっきの厳格な声音で続ける。

 

「活性粒子値がこれまでに見たことない程高い。貴方の報告による精神との関連性も気になるわ、引き続き監視を続けなさい。いいわね。」

 

そう言うと、彼女は微笑を浮かべる。

 

「言われなくても目を離したりしないわ。絶対に、ね.....。」

 

『そ、そうね!感心だわ!それじゃ今日はゆっくり休みなさい。....休みなさいよマジで?』

 

どこか念押しするようにそう言うと電話が切れる。

それを確認すると机に携帯を置いて、鞄を漁る。

そしてある物を取り出した。

 

それは巾着袋。

体操着などを入れる巾着袋だった。

氏名欄には〝咲州祥太郎〝の文字。

 

「怠い業務連絡が終わったもの、安らぎの時間だわ。...こういうことしてると、つくづくロッカーに鍵を掛けた方が良いし、体操服はその日の内に持って帰った方が良いって思うわ。まぁ私はそうされると困るのだけど。」

 

そう淡々と所感を語ると、巾着袋を開ける。

そこにはぐしゃぐしゃと無造作に入れられた使用済みの体操服。

その巾着の内部に鼻を近づけるとすんすんと匂いを嗅ぐ。

 

「...流石に一日ではこの程度ね。前にあの男が持って帰るのを忘れて月日が経ったものは頭の奥が熱くなるほど良い匂いがしたのだけれど。」

 

そう言うとまるで宝物を広げるかのように体操服を取り出して広げる。

そして鼻に密着させると思い切り息を吸った。

 

「っすぅぅぅぅ.....ハァァァ~、スンスン.......流石に気分が高揚してくるわね。生物の雌の部分に直接働きかけてくる匂いだわ。フェロモンって本当に感じ取れるものなのね。」

 

どこか病的な様子でしきりに匂いを嗅ぎ、焦点の定まらない暗い洞のような目で笑みを浮かべて嗅ぎ続ける。

そしてひたすら嗅ぎ続けると、立ち上がり服を脱いでいく。

誰も居ない部屋の中で衣が擦れる音が微かに響く。

 

そして服を全て脱ぐと、体操服に袖を通していく。

ズボンも履き、見た目は体操服に身を包んだ女子高生だ。

それが他人の、しかも男の物であることを別にすれば。

 

彼女はモジモジと内股になり、自分の体を抱く。

彼の匂いを身体で感じ、包み込まれている為まるで抱かれているようだった。

 

「凄いわ....凄いわね。これ私がこんなことしてるなんてあの男はこれっぽっちも思わないでしょうね。そう考えると余計に興奮してくるわ。今日はこのままおっぱじめようかしら。そうなったらもう性交渉と言っても過言ではないわ。責任取ってもらわないと。急にそんなこと言ったらどんなこと言うのかしらあの男は....『この六分儀流死風の伴侶になるだと!?おのれプリィィィストめ!身の程を知れ!!』....いや、逆に普通に戸惑って素のテンションになりそう。」

 

学校に居た時には見せないような幼い少女のような無邪気な笑みを浮かべながらも彼女は身体を抱いてぶつぶつと彼について勝手な妄想を一人部屋で吐露し続けていた。




主人公がいつか見た青い光。
彼は気づいていないんですけど、女が虚空から現れた時にも青く光っているんですよね。
あっ.....(察し)
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