我、終焉の観測者!   作:胡椒こしょこしょ

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渇望した非日常は程近く、されど伸ばした手から零れ落ちる。


彼女ガ起キル刻

夜遅く。

家に運び込んだ女性の手当をするだけでかなりの時間が経過していた。

現状は深夜。

慣れないことをしただけあってかなり疲れているが、それ故にお腹も減っている。

だが、疲労から手の込んだ物を作る元気もない俺は今日はお粥で済ませようと米を研いでいた。

 

「フッ....我はただ仮初の世界を破壊する為に生まれた存在.....直すことには向いていない.......。随分と魔力を使ったものだ......。」

 

こんな時間にまでなった疲れを慣れないことをしたことでの魔力の疲れとして悦に浸る。

するとリビングの方で微かに布が擦れるような音がした。

米を研ぐのを一旦やめて、リビングの方を一旦見に行く。

 

「ん、んん....ここは......?...ッ!!」

 

するとベッドに寝かせていた金髪の女性が目を開ける。

寝起きで寝ぼけているのか周りをキョロキョロと見回している。

そして俺の存在に気づくと、さっきまでのどこかふわふわとした様子が嘘のように、警戒した様子で目を見開き、掛布団を握りしめて後ずさる。

が、しばらく俺の顔を凝視すると体から力を抜く。

 

「なんだ.....気ぃ失う前に近くに居たガキか。」

 

「が、ガキとはなんだ!ガキとは!!....ふっふふ、良いのかそんな態度で。我はこの世の終わりすらも見通す終焉の観測者!その名もっ!六分儀流死風!!貴様を手当てした男だ。名を覚えておくのだなっ!」

 

いつも練習しているポーズの内の一つを取って、目の前の女性を指さす。

そう言うと、彼女はどこか面食らった顔をした後に噴き出しだす。

 

「お、お前....プフッ!...初対面の人間に何言ってんだ?....やべぇなお前」

 

「な、なにがやばいのだ何が!我は自分の名前を言っただけだ!!笑われることなど何一つしていない!!」

 

もちろん本当の名前ではない。

...いや、でも本当の名前にあたるのはこの世を忍ぶ仮の名前。

我が真名は六分儀流死風!

よって間違いではない!!

 

すると目の前の女性はどこか気だるげな様子で口を開く。

 

「へぇ...笑われることは何一つしていないねぇ......。まぁ確かにその大仰な挨拶の仕草がなければ普通の自己紹介なのかもな咲州祥太郎君?」

 

....コイツ、今俺の本当の名前を当てた?

いや、確かに目の前の女は俺の本名を言い当てた。

な、何故だ....?コイツ、こういう能力なのか......?

 

「き、貴様!何をした!?何故俺の名前が分かったんだ!!?」

 

目の前の女の能力かと思い、身構える。

そんな俺の様子を見ると、彼女は笑って机の上を指さす。

見るとそこにはやりのこした課題があった。

 

「別にアタシは何もしていない。ただそこのノートやら教科書に咲州祥太郎と書いていたから呼んでみただけだ。気を失った後は周りを良く見ることにしてるからな。....まさか初手で偽名ぶつけられると思わなかったけどな。」

 

まさかさっきキョロキョロしていたのは周りの情報を収集だったとは。

俺の目から見たら寝ぼけてボッーとしているようにも見えたのだが。

というよりぶっ倒れてすぐそんなことが出来るということは慣れているということ。

そしてさっきの警戒した様子。

これはどこかの組織から逃げてきた超能力者であるという仮説の信憑性が増してきたぞ!!

....てか気絶するのに慣れるとか大丈夫なのか?

そういう意味では少し心配にもなった。

 

「ぬ、ぬぅぅぅ....やるではないかヘルメットゥ!観測者である我が目を欺き小細工をしようなど.....」

 

「そういえばアタシが寝てる間になんかしたか?もしかしたら乳とか使われていたりして....」

 

俺が歯噛みしつつも、彼女に対して称賛の言葉を送ろうとした瞬間、彼女はそれをスルーしてとんでもない事を言い始める。

ライダースーツのファスナーと開いて胸元を見ようとする。

胸元が晒されそうになった為、俺は咄嗟に顔を背けた。

 

「な、なにを言うか痴れ者めっ!!我は終焉の観測者、感情などという人間的な感情は形を得た事象である俺には存在しない!!俺がしたのは手当だけだ!断じてそんな変な事はしていない!」

 

そう言うと彼女は自分の身体などに顔を寄せて匂いを嗅いだりする。

そしてその時に足元の包帯に気づく。

 

「あー...まぁ変な匂いはしないしな。それにその様子だとガチでチェリーっぽいし、信じてやるよ。....いや、倒れた女が目の前に居るのに勿体ないことしたなお前。」

 

「貴様なんてことを言うんだ......。」

 

倒れた女が言う言葉とは思えない。

目の前の女のハチャメチャな発言に唖然としていると、彼女は笑顔を見せる。

 

「まぁでも態々手当してくれたのはありがと。それじゃあアタシは....。」

 

立ち上がろうとする彼女。

しかしそれに手を広げて通せんぼする。

ここで帰らせるわけにはいかない。

俺はこの世界にも確かに非日常が存在すると信じたい。

だからこそ、目の前の非日常の証拠を何も聞かずにみすみす逃すわけにはいかない!

 

「待てっ!話はまだ終わっていないぞ!この世界は等価交換、我が手当をした以上、貴様には見返りを献上する義務があるっ!!」

 

俺がそう言うと、彼女はニヤリと不敵な笑みを浮かべる。

その瞬間、少し背筋がぞわっとした。

 

「へぇ....そういうことか。悪いが倒れている間ならまだしも、起きている間に初対面の奴に身体を許す程軽い女じゃない。だからこそ退かないなら.....」

 

「だぁかぁらぁ!なぜそう言う方面に話が行くのだ!てか一瞬なんか気圧するのはやめろ!!ちょっとびっくりしただろ!!!....我はただ聞きたいだけだ。貴様の組織のこと、能力の事を!!」

 

そう言うと、彼女はさっきまでの面白がるような目つきから一転、感情を伺わせないような目つきで俺を見据える。

 

「...何の話か分からないな?」

 

...ほう、あくまでとぼけるか。

だが、俺は確かにこの目で見たのだ。

突如虚空から彼女が現れたのを。

 

「あくまでしらを切るか。...だが我が神通眼は確かに捉えたぞ。小石が浮き、辺りがビガビガと青白く光ったと思ったら貴様が虚空から現れたことを!!」

 

そう言うと、彼女は嘲笑するように鼻を鳴らす。

 

「ハッ、ただの見間違い...錯覚じゃねぇの?」

 

「...かもしれない。だが、俺は自分の感覚に自信を持っている。あの時見た物は本物だ。トリックでも錯覚でもない。長らく求めてきた世界の裏、その物だとな!」

 

そうだ。

確かに俺はこの目で見た。

一瞬幽霊かと思ったくらいに摩訶不思議な光景。

それがトリックや錯覚とはとても思えない。

 

そう言うと彼女は面倒臭そうな表情をする。

 

「あ~、なんだ....道理で変な奴だと思ったらそういうことかよ。めんどくせぇ.....態々手当までしちゃってさぁ。...んで、それがなんだよ中二病君。」

 

「ちゅっ!?.....いや、今は良い。貴様は虚空から光と共に現れた。アレは一体なんなんだ!?超能力者か!テレポーテーション!?」

 

俺が詰め寄ると彼女は溜息を吐いて口を開く。

 

「あー、あれはマジックだよ。マジック。マジックの練習でミスっちまって気絶したの。なぁこれで良いだろ?」

 

「いや流石にそれは無理があるだろ.....、ならばなぜ我を見た時に救急車を呼ばせなかった!何か身元が割れたら困ることがあるのだろう!?さっきも俺に気づいた時に警戒してたしな!」

 

そう言うと彼女は面倒そうに頭を掻くと、立ち上がる。

そして俺の目を真っ直ぐと見据えて口を開く。

 

「ハァー、知らねぇ。そんなこと言った覚えがねぇな。というか気絶して目を覚ますと知らない男が居たら誰だって警戒くらいするだろ。....てか知らない奴が倒れてたなら関わんなよ。もしかしたら痴話喧嘩だったり、怖いお兄さんが出てくるとか面倒ごとに巻き込まれるかもって思わなかったのか?」

 

「だから我は目の前で貴様がワープしてくる瞬間を見たと言っているだろ!!...それにたとえ貴様が言うように何か複雑な事情がある人だとしても傷ついているなら助けるべきだ。無視して良い理由にはならないだろ。」

 

面倒ごとだとしても、その人が困っていると思ったら助けようとするべきだ。

たとえそれで自分が困ることになっても。

俺は助けなければいけない。

変わってはいけないから。

 

「ふーん、あっそ。....じゃあそんなマジメ君にははっきりと言ってやるよ。」

 

そう言うと、彼女は俺の髪を突然掴む。

そして顔を寄せる。

ガンつけられているような様相だった。

彼女の視線が目に突き刺さる。

 

「な、なにを....っ!?」

 

「もうやめとけ。詮索するな。....どうやらお前には説明して納得してもらうのは無理みたいだからな。これはれっきとした忠告だ。そんな吹けば飛ぶような軽い好奇心で首を突っ込むな。」

 

言い聞かすような口調。

しかしその言葉には有無を言わさない迫力が伴っていた。

これ以上聞けばどうなるか分かるだろう?とは言わんばかりに。

その迫力に身体が強張る。

 

その様子を見て笑う。

笑ってはいるが、目は笑っていない。

俺の様子を余すことなく見ている。

いつ俺が何をしようとしても対応できるように見ている。

俺にはそんな気がした。

 

「...お前が知りたいのはそういう変なのがこの世界にちゃんとあるってことだろ?ならアタシの様子を見て察したんじゃねぇか?...ならそれで良いだろ、ちゃんとあるって分かって満足したろ?これ以上はやめとけ。これ以上首を突っ込むなら.......」

 

すると彼女が俺の耳元に顔を寄せる。

そして感情を窺わせない冷たい声で言葉を紡ぐ。

 

「私も、考えなくちゃいけなくなる。」

 

「ッ!!....」

 

ギュィィと喉仏が鳴った。

その声の冷たさは所謂殺意に該当するもの。

殺意を向けられることなんかこの現代日本に生きてきてなかった。

だというのに、漠然とそれが殺意と似た物であると察した。

それ故に急に怖くなったのだ。

 

目の前の女性は既に俺の超能力や組織などの話を否定しなくなっている。

それ故に彼女の耳元で囁いた言葉が頭から離れなくなる。

考えなくてはいけなくなる。

それはつまり彼女はこれ以上俺が首を突っ込めば害することも視野に入れている....のかもしれない。

確証は出来ないが、俺にはそう感じられた。

彼女が言うようにヤバい案件、自分の目の前に居る女性の背後にはそれがあるように確かに感じられる。

足が小刻みに震える。

 

「...ぷっ、フフ...ハハハ!ビビらせて悪かったな。まっ、手当してくれたのは本当ありがとな。」

 

彼女はそんな俺の様子を見て、吹き出すように笑うと俺の頭をぐしゃぐしゃと雑に掻き撫でる。

それはまるで子供を褒める時の頭を撫で回すかのようだった。

頭を撫でられると想起してしまう。

だからこそ、俺は彼女の手を払った。

 

「や....やめろ!お、わ、我は終焉の観測者だぞ!そんな幼子にするように撫でて良い存在ではない!!!」

 

一瞬怯んだことで素が出てしまいそうになるが、なんとか六分儀として言葉を放った。

そんな俺を微笑まし気に見る彼女。

 

「ハハハ....まっ、そんな風にしてるためにも余計なことには首突っ込むなよ。....あと、もし追うなら分かってるな?」

 

「....っ、あぁ。」

 

「....そうか。良い子だ。」

 

そう言うと彼女は玄関の方へ歩いていき、そのまま外へ出てしまった。

部屋の中、一人残される俺。

時刻は既に深夜だ。

そんな中、俺はただある事実を繰り返し自分の中で再認識していた。

 

「...本当に、あるんだ。裏の世界、迷信と笑われている非日常が、本当に......」

 

自分が焦がれていた非日常の存在。

その存在の確認が取れたことに呆気に取られていた。

彼女のあの態度。

関わるなと拒絶したことで更に信憑性が増している。

 

「クックク....クククク.....ハッ―ハハハハハ!!!あった!あったのだ!!見たか無知蒙昧なる者たちよ!踏み込んではいけない領域、ダークサイドゥの存在を!我は、観測したのだ!!!この終焉の観測者が捉えられぬ物などない!その証左を!!!フハハハ!!ハッハハハハ!!!」

 

まるで先ほどの彼女に気圧されて出せなかった六分儀を彼女が居なくなったことで存分に出していく。

能力も組織の詳細も分からない。

しかし超能力や組織の存在の有無は何となくだが分かった。

これは大いなる進歩だ!!

しかしそう喜びつつも、心のどこかで引っ掛かっていた。

あの時、彼女は所々を怪我していた。

つまりは今彼女はそこそこ危険な状況ということではないだろうか?

そんな彼女をただそのままこの家から送り出してよかったものか.......

 

首を振ってその思いを振り切る。

彼女が関わるなと言ったのだ。

それに彼女は気絶したら周りを見るようにしていると言ってた。

そのような状況に慣れていたということだろう。

ならば不慣れでただの素人でしかない俺に何が出来るというのか。

却って足を引っ張りかねない。

...それに命の危険もあるかも。

俺は少し恐怖を感じていた。

普段触れられない物に触れたことで高揚感と共に、その未知に対する恐怖も抱いていたんだ。

 

「....何を恐れている、六分儀流死風。貴様は世界の終りすらも見据え、皆を救いへ導く終焉の観測者。この程度の事実で怯えていては何も出来ないではないか。」

 

そう自分を糾弾することで自身を鼓舞する。

もう、彼女はここにはいない。

ならばその危険性云々自体は考えないようにしよう。

 

『....は変わらず...まま.......』

 

不意にあの時の情景が頭をよぎる。

やめろ...俺は見捨てたんじゃない。

ただ、迷惑になるかもしれないから手を引いただけだ。

俺は、何も変わっちゃいない。

 

不意に想起した光景を頭から振り払おうとしつつ、玄関のドアの鍵を閉めようと向かっている矢先に、シンクに乗っかっている炊飯窯が見える。

そこには研いでる途中の米が放置されていた。

 

「あっ.....。」

 

ご飯を作ろうと思って、途中だったことを忘れていた。

....水に入れっぱなしにしてたけど、水っぽくなってたら嫌だなぁ。

いや、でもどうせお粥にするのならどっちみち変わらないか。

 

そう思いながらも、扉の鍵を閉める。

そしてなんとなく思っていたことを口にした。

 

「...我は形ある事象、故に性欲などないが.....しかし、その美貌だけは認めてやろうぞ。」

 

思い出せば出す程綺麗な人だったと思う。

どこか男っぽく粗野な言動が目立ったが。

それに改めて思い返せば、よく分からない人ではあったが、まるで包み込むかのような寛容さがあったようにも思える。

あれが大人の女性という物だろうか?

 

「....今日は色々あって疲れた.....。さっさとご飯食べて寝よ。」

 

なんというか情報量が多すぎて少し疲れた。

それに明日も学校がある。

既に深夜になっているので、早く寝ないと明日の授業が不安だ。

そう思うと、窯の中の水を捨てて炊飯器にセットする。

 

そしてご飯が炊けるのを待っていた。

 

 

 

 

 

 

「フッフフフ....ククク......。」

 

「....何一人で笑っているのかしら?気持ち悪い。」

 

放課後。

文芸部にいち早く訪れた俺は椅子に座る。

今日は遅刻してしまい、厄日だなぁと思っていたがそれと同時に昨日起きた出来事を思い返して笑みを浮かべる。

結末はなんにせよ裏の世界、非日常に俺は触れた。

それはあの日見た光景の証明にもなり得るように思えて。

 

そんな俺をジト目で見る少女。

そんな少女に対して口を開く。

 

「なに...貴様には分からんさ。遂に不明領域にアクセスした我の高揚感はな!」

 

「あー、はいはい。凄いわね。気が散るから少し静かにしてくれないかしら?」

 

彼女は本を見ながら、そうすげなく言う。

どうやら俺の言葉をいつもの戯言だと思っているようだった。

....だが、それならそれで構わない。

世界の真相に気づいているのはここでは俺ただ一人。

...なんだかカッコイイではないか。

 

「フフ....悪かったな。くっははは!!!」

 

「日本語が通じないみたいね。...もういいわ。」

 

そう言って彼女は本を置いて席を立つ。

向かう先は棚。

おっ、またチェスか。

今度こそは絶対に勝つぞ....。

 

そう思っていると部室のドアが勢いよく開いた。

 

「こんにちわ~!あっ、中二先輩もこんちわっす!」

 

入ってきた少女は元気溌剌に俺にも手を挙げて挨拶する。

オレンジがかったボブカット。

しっかりとした眉根に照り返す陽光のように眩しい笑顔。

その物腰から人からさぞ好かれるだろうと思わせるような少女がそこには居た。

 

「フッフッ....来たかコードネームゥサンライトォ―ゥ!!しかぁーし!我が眷属の一人であるというのなら少しでも主君より早く来ようとせんかバカモノめぇ!!」

 

「言っている意味がわかりませぇぇん!それに先輩たちはクラスで居場所がないから来るのが早いだけですよねっ!!!」

 

俺が指を突きつけて言うと、彼女も笑顔でそれに答える。

あくまで快活な様子で俺に毒を吐く。

それを言ってはおしまいだろ。

正論は有史以来人を傷つけることはあっても、人を癒したことはないんだぞ!

...知らんけど!!

 

「...相変わらずうるさいわね。それにそこの六分儀なんたらさんとは違って私は優秀さ故よ。恥じるつもりはないわ。」

 

吾妻は心外と言った様子で彼女に言う。

...その言い方だとあたかも俺は恥じるべきだと言わんばかりだ。

 

「おい訂正しろプリースト!我だって恥じるべき理由で俗世と隔絶しているわけではない!これは我が終焉の観測者であるからこそ、他のものには卓越した我の思考を理解できないだけだ!!」

 

「そういうのを浮いてるって言うんですよっ!そういえば先輩、学校に来るとき面白いことになってましたね!」

 

彼女は笑顔でそう言ってくる。

滅茶苦茶ストレートに言ってくるじゃんこの子。

相変わらずではあるが、こちらの心を笑顔で抉ろうとするのをやめて欲しい。

 

そう思いつつも、彼女の面白いことになってたという言葉に疑問符が浮かぶ。

はて....面白いこと?

しかも俺が?

そんなことあったか.....?

 

すると彼女はこちらにスマホの画面を見せてくる。

そこには男子高校生が女子小学生であろう少女にランドセルを渡している様。

...あ、これって。

 

「...おかしな人だとは思ってたけど、そこまで行くとドン引きよペド分儀君。」

 

吾妻はジト目で俺を見る。

ぺ、ペド分儀.....!?

我が真名をなんて名前に......

ていうかコイツら誤解している!

それはそういうアレではなくて.....!

 

「ま、待て貴様ら、貴様らは勘違いして.....」

 

「ヤバいっすよね先輩。まさか先輩が小学生に行くなんて.....後輩に優しいのも年下が好きだからなんすかぁ?でも声掛けは洒落になりませんよ!」

 

満面の笑みで俺にそう言ってくる。

コイツら...言わせておけば.....。

 

「貴様らは勘違いしている!それは.....」

 

「寝言は寝て言いなさい。...それにしてもその画像どうやって撮ったのよ?目の前のペド分儀君は遅刻したのよ?」

 

「あっ、私も遅刻しました!先輩と“お揃い”で遅刻したんですよっ!!だから寝言?が出たのかもしれませんねっ、“先輩”!!」

 

二人は俺のことを無視してお互いに話をしていた。

 

「貴様ら、わざと我を無視しているだろ!!!」

 

俺が言うと、彼女たちはこちらを見る。

 

「あら、どうやらペド分儀君が陳述してくれるみたいじゃない。」

 

「どんな苦しい言い訳が出てくるのか楽しみですっ!」

 

「貴様らぁ....これはただその子が困ってたみたいだから話を聞いていて.....。」

 

信じてもらえないかもしれない。

そう思うと、変な汗が出てくる。

同級生にそういう趣味だと勘違いされるなんて一番勘弁したい。

ただでさえ浮いてるのにそこまで行くと俺の学校生活が終わってしまう!

なんとか誤解を解かないと....。

そう思って俺が話し始めると彼女はそれに被せて話をする。

 

「木に引っかかたランドセルを取ってあげてたんですよね。そのせいで完全に遅刻したんですけど。」

 

「...まぁそんなことだと思ってたわ。」

 

「知っているなら最初から言えェ!!なぜ我を追い詰めるような言い方をした!?」

 

部室に俺の悲痛な声が響き渡る。

勘違いされてめっちゃ焦ったんだぞ!

冷や汗掻いたわ!!

 

「えぇ~、だって先輩って困らせた方が面白いじゃないっすか!」

 

「....まぁそこには同意するわ。」

 

「貴様らァ!!!!」

 

俺が叫ぶも、彼女は俺を無視してまた話し始めた。

 

「それにしてもランドセルが木に引っかかっているとかあるのかしら?普通。」

 

「でも事実先輩は木に登ってその子のランドセルを取っていましたよっ!投げて遊んでたんじゃないですかっ?そういう不思議な子だって居るっすよ。」

 

「...人の事散々振り回したんだから少しくらいアフターケアがあっても良いのではないか?」

 

ポツンと会話から取り残される。

これは酷くないか?

すると、吾妻がこちらを見て口を開く。

 

「少し弄りすぎたみたいね。お詫びにお茶でも淹れるわ。」

 

「なら私は先輩の肩でも揉みましょうかぁ?これでもお爺ちゃんとかに上手いって褒めてもらってるんすよねぇ!」

 

「....き、貴様ら......はぁ、もういい、疲れた。」

 

肩を落として席に座った俺の近くにぴょこぴょこと歩み寄ってくる後輩。

彼女は火野坂日葵。

一年下の後輩だ。

振る舞い的には人好きのしそうな少女であるが、実際には物臭で腹に一物抱えた辛辣な少女である。

この部活に入ったのだって楽そうだからという理由だ。

 

「どうっすか?上手いっすよね?」

 

「あぁ,,,,まぁ確かに.....。」

 

確かに火野坂の肩揉みは上手い物である。

俺の様子を見た火野坂は笑って言った。

 

「よかったぁ~先輩がすぐ機嫌直してくれて!マッサージで機嫌直してくれるんならいくらでもやりますよっ!」

 

「...その言い方はまるで俺がチョロいみたいではないか!...というより貴様、そう思っているな!!我は来るべきラグナロクを見届ける終焉の観測者、六分儀流死風であるぞ!この程度で御しきれるか!不遜だ不遜!!」

 

「はぁい、ごめんなさぁい!」

 

そう言うと彼女は悪びれもせずに舌を出す。

コイツ.....ッ!

 

一つこの後輩について分かっていることがある。

それは俺が舐められているということだ。

クソッ....友達が一杯居るからってぇ......!

友達を作ると人間強度が下がるって誰かが言ってたぞ!!!

よって俺の方が強い!

 

「...下らないことしてないで座りなさい。もう一度言うわ火野坂さん、至急そこの席に座りなさい。」

 

「わかりましたっ!いや~先輩の出すお菓子はおいしいから楽しみっすね!」

 

そう言ってわくわくとした様子を隠そうともしない火野坂。

見ると今日は紅茶のようだ。

足元にはモノポリーの箱が置かれていた。

...前から思っていたが傍から見たら文芸部とは到底思えないのだが。

火野坂は楽な部活というのが理由だけあってほとんど本は読まない。

目の前の吾妻は読書家であるが、俺が居るとすぐに読むのを止めてしまう。

...それって俺のせいじゃん。

 

「...フッ、罪な物だな。こうして我が影響を与えるとは。我はさしずめ七つの大罪が一つ、『怠惰』であったというのか....。」

 

ニヒルに笑って独り言を言う。

すると吾妻は呆れた顔、そして火野坂は変らず笑顔を俺に向ける。

 

「一人で何を言っているのかしら?」

 

「一人でぶつぶつ言うくらいなら壁とでも話しててくださいねっ!」

 

「貴様ら少し我に対して当たりが強くないかっ!!?」

 

二人は息の合った様子で俺の心を抉ったのだ。

というより主に抉ったのは火野坂だが。

なんだ壁とでも話してろって、どんな物食ったらそんな言葉思い浮かぶんだよ!

 

こうして部活での時間は過ぎていく。

口にした紅茶はどこか果物の風味がした。

紅茶はよくわかんないけど、分かる人にはフレーバーとか分かるものなのだろうか?

相も変わらず舐めた態度の火野坂。

しかし、自分の立場で自分のような人間と相対した場合、軽んじない自信がない。

だからこそ、せめて先輩として広い心を持って彼女を見逃そうと思ったのだった。

 

 

 

 

ツマラナイ。

何もかもがツマラナイ。

 

今日もいつもと同じ日常の中、学校へと向かっていた。

毎日毎日繰り返し。

本来の自分の生活を考えてみると、まるで鳥かごの中に押し込められたよう。

私には日々が色褪せて見える。

 

それでも学校に行っている理由。

それは....。

 

「あっ、先輩だ。」

 

その理由の人を偶然見かけた。

六分儀流死風、本名咲州祥太郎。

私の部活の先輩で、自分の事を終焉の観測者とか自称している痛い人だ。

 

その人を見かけてから周りの風景に色が付くような感覚がした。

この人は面白い。

見ていて良く分からない人だから。

その癖本人はあまり賢くないのか裏も表もないように思える。

というより表が痛々しいのだが。

 

分からない人と接するのは面白い。

新鮮に思えるから。

 

「...なにしてるんだろ。」

 

彼はこちらに気づくことなく歩いている。

私は気づかれることなく、携帯を持って彼を撮りながら後を尾けた。

これにも慣れた物だ。

 

歩いている彼を追いかける私。

きっと彼はこちらに尾行されているなど気づくこともないのだろう。

そう考えるとどこか満たされていくような自分が居た。

 

後を尾けていると、彼はなにやら公園の方をチラチラと見ている。

そこには木の傍で泣いている一人の小学生くらいの少女。

木には場違いにもランドセルが引っかかっている。

 

...あっ、声掛けに行った。

スマホを確認すると既に遅刻ギリギリだ。

私としてはこっちの方が面白そうだから遅刻しても良いのだが、彼は良いのだろうか?

やっぱりあんな痛い振る舞いして浮いているだけあって、彼の中でも学校の優先順位は低いのだろうか?

それなら私と同じである。

 

見ていると、彼は変なポーズし始める。

...それは流石に初対面の小学生女子は引くのではないだろうか?

そう思っていると、その少女は首を一度傾げた後そのまま話を始める。

結構マイペースな子のようだ。

彼もスルーされたからか、どこか背中から哀愁が漂っていた。

彼は彼女の話を屈んで視線を合わせながら聞いていると不意に笑顔を浮かべて立ち上がる。

そして木の方に歩みを進める。

 

....あの人、登れるのかな?

普通に落ちちゃったりして。

心配していると、彼は木に手を掛け始める。

...割と登れてる。

そういうイメージなかったのでかなり新鮮である。

 

彼はランドセルを取ると、そのまま降りて行き、その少女に渡していた。

少女はどこかボッーとした様子だったのが、笑顔を見せて彼にお礼を言っていた。

そこでカメラアプリでその様子を画像に残す。

 

「....先輩の新しい一面、私だけが見た一面を手元に残させてもらいましたよ、先輩は私に見られたことも知らないですよねっ?....先輩?」

 

時計を見て、どこか肩を落としてその場を後にする。

そんな彼に見つからないよう所へ移り、画像を見る。

見方によっては声掛けに見えなくもないな。

これを使えば部活の時間に先輩を弄れそうだ。

そう思うとさっきとは違って学校に行く気が湧いてきた。

 

しかし部活か。

部活では先輩を弄って遊べるのと共に、一緒に居る女の様子を見なくてはいけなくなる。

仕事なのでしょうがないが、かったるくてしょうがない。

あの人正直苦手なんだよなぁ....。

まぁ仕事なんだからやるんだけど....。

 

既に時間は始業を大幅に過ぎている。

少女は彼が見えなくなると、ゆっくりと学校へと歩みを進め始めた。




起き上がった女性。
六分儀君は非日常の存在を知るも、深く立ち入ることは出来ず彼女は姿を消しました。
...まぁその内すぐにまた会うんですけどね?多少はね?
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