このハーメルンに原作者様の新作が投稿されたと聞いて
熟読しておりました。
作者は作者である前に読者なのです(笑)
さて今回は少し時間が遡ります。
でわ、ごゆっくりお楽しみください。
「ウチの大将が来るって?」
豪快にジョッキを呷りバジウッドはニンブルへ尋ねた。
「はい。今し方本国から連絡が来て明日にもお着きになるそうです」
「これはもう一波乱ありそうですね」
グラスのワインを少し飲んでレイナースは言った。
「それで?フールーダの爺様は何か言ってたか?」
「それが何も」
「ふ〜ん。俺たちにも秘密なのか、爺様も何も聞かされてないのか……まあ、アレコレ詮索しても始まらねぇや」
バジウッドは追加のジョッキを頼んだ。
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「ラナー、妾じゃドラウディロンじゃ。居るのか?」
ドラウディロンはラナーの部屋をノックする。
「どうぞ」中からラナーが返事をする。
「どうかされましたか?」
「うむ。明日ジルが来るとメイドたちが騒いでおったのでな。何か聞いておるかと思ったのじゃ」
「その事でしたら予定通りですのでご心配なく」
「やはり知っておったのじゃな。最初からの計画かえ?」
「来る、と言う所までは計画ですが、その先は私も聞いておりません」
「ふ〜ん、ジルめ何を企んでおるのやら」
「あの人の事ですから来る以上はタダでは帰らないでしょうね、わざわざ出向くのです。本来であればローブルから御礼に行くのですから」
「そうじゃの〜」
2人は黙って思案を巡らせた。
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「レメディオス、ケラルト。明日ジルクニフ皇帝がお見えになります。何かを言ってくるでしょうが、現時点ではそれは予測出来ません。何か思いつく事はありますか?」
「政治の難しい事はわかりませんが、単純に礼金の請求では?」
「私はローブルの併呑を要求すると考えます」
「やはりその2つが直ぐに思いつきますね。しかし相手はあの鮮血帝、思わぬ手が出てくると思います。2人とも心して迎えて下さい」
(ジル、一体何を考えているの…)
カルカは軽い溜息をついた。
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一夜明け、王宮正面に先触れが現れた。
「バハルス帝国ジルクニフ・ルーン・ファーロード・エル=ニクス皇帝陛下が間もなくお着きになられます!御開門を願うー!」
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「久しぶりだな、カルカ」
「貴方もね、ジル」
思いもかけない2人の言葉に周囲は驚愕する。
それを他所に2人は暫し見つめ合い、静寂が玉座の間を支配する。
「先ずはお礼を言わせて下さい。この度は我が国の危機をお救い下さり感謝します、民になり代わり御礼申し上げます」
「受け取ろう。大事無く、私も安堵している」
「この様な場所ではゆっくり話が出来ません。良ければ場所を変えませんか?」
「良いのか?私は構わんが」
「今から陛下と2人で席を外します。レメディオスとケラルトは皆さんをおもてなしして下さい。それと帝国の騎士の皆さんもどうか2人きりにして下さい」
「と言う訳だ、心配要らん。ここで待て」
そう言い残し2人は部屋を出て行く。
「どうなってるんだ?」
レメディオスは首を傾げる。
「さあ……私にもさっぱりわかりません。ただ……」
「ただ?」
「どうもお2人は以前から親しい様な……」
ケラルトはそう言ってチラリとフールーダを見た。
「爺さん、何か知ってるんなら聞かせろよ」
ブレインは堪らずフールーダに問いかけた。
「ふ〜む。知っていると言えば知っている。知らんと言えば知らん」
フールーダは髭を撫でながら答えた。
「フールーダ様、勿体つけずに」
今度はラナーが急かす。
「うむ。まだ陛下もカルカ殿も今の地位に就く前の話じゃ。ある貴族主催で舞踏会が開かれての、そこで初めて会ったと聞いておる。ただ知っておるのはそこまでじゃ。儂も2人があの様な呼び方をする仲とは少々驚いておる」
一同は主役2人が出て行った扉を黙って見つめていた。
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「まさか貴方が来るとはね」
カルカは中庭のベンチに腰掛け隣を薦めた。
「意外だったか?」
ジルクニフは勧められるままに座り足を組んだ。
「だって滅多に国から出ないと聞いているもの。それに……こんな弱い国、秘書官1人を寄越せば簡単に併呑出来る、違う?」
カルカは少し寂しそうに下を向いた。
「君に会いに来た、と言ったら?」
「皇帝に成ると嘘が下手になるのかしら?」
カルカは意地悪く微笑んだ。
ジルクニフは溜息を付き、そしてカルカを見つめて言った。
「君こそ女王様に成るとそんなに意地悪になるのかい?昔の君は……」
「止めて頂戴。お互いあの頃とは違うの。今は国を代表する立場、己の感情を殺して国を想わないと」
「では何故誘った?」
「……それは」
「正直に言おう。私はこの国を海洋進出の拠点にすべく手を貸した。恩を売るためにね。そして君には……」
「貴方の妃になって国民感情を和らげ円満に併呑へと導く」
「分かっていたのか…」
「貴方は昔から野心家。求める物は全て手に入れる。私もそんな物の1つ、貴方の駒」
「違う!そんな気持ちじゃ!」
「無い、と言い切れる?」
「……それは」
カルカは始めてニッコリ微笑んだ。
「やっぱり貴方は嘘をつくのが下手ね、昔とちっとも変わらない」
「からかっているのか?」
「いいえ、違うわ。嬉しかっただけ」
「………」
「あの夜、後継者として招かれた私たちは、取り入ろうとする貴族たちの対応に疲れ果てていた。歯の浮く様なお世辞、値踏みする様な視線、つまらない会話。我慢出来なくてとうとう私は会場を抜け出した。分かっていなかった訳じゃない、でも現実はもっと生々しいものだった」
「そして今の様に中庭で座っているカルカを見つけた」
「そうね。これからやって行けるのか、不安が一気に押し寄せたの。其処へ貴方が現れた。嬉しかった。そして頼もしかった。自分も同じ境遇なのに、心配して探しに来てくれた事、私と違ってそんな貴族にも堂々と渡り合っている姿がね」
「私だって必死だったのだぞ。余裕なんて無かったさ」
「貴方は私の目を真っ直ぐに見て言ったわ、これぐらい乗り越えなくて民を導いて行けるのか?とね」
「そう…だったか」ジルは照れた様に言った。
「そして言ったのよ、もしこのまま継ぐのが嫌なら俺の妻になれ、俺がバハルスもローブルも見事治めてみせる」
「俺はずっと1人だった、親や兄弟も全てが敵だったんだ。そしてカルカに出会った。互いに何も知らない筈なのに何かを感じたのだ」
「やっと本当の事を言ってくれた」
「お前に嘘など言った事は無い。あの時の言葉も本心からだ。そしてそれは今も変わらない」
「従えるの?」
「違うと言っているだろう!1人の男としてお前に横に居て欲しい、それだけだ」
「なら2人で何処か知らない土地へ行きましょう。そして新しい生活を始めるの」
「そんな事が出来るならとうの昔にやっている。1人の男と言ったがそれは同時にバハルス帝国の皇帝でもある。多くの民の人生を背負っている。お前なら分かるだろう?」
「私の分も背負ってくれると言うの?」
「ああ、背負ってやるとも。で無ければ此処へは来ん」
カルカの瞳から大粒の涙が零れ落ちた。
「嫌…なのか?」
カルカは何も言わずに頭を振った、そして瞳を閉じた。
ジルクニフはカルカの肩を抱き寄せ、そっと唇を合わせた。
すると後ろの茂みが微かに動き暗闇から声がした。
「これは激ヤバ」「超ド級スクープ」
そして影が2つ音もなくその場から立ち去った。
「「親分!てぇ〜へんだぁ!」」
トイレから出て来たラキュースは驚いて振り返ると
其処に双子の忍者が居た。
「誰が親分よっ!てか、貴方たち何処へ行ってたの!ガガーランが心配して探してたのよ?」
「このニュースで全て帳消し」「メガマックス盛り」
「なんなのよ!さっぱりわからないじゃない」
「「実は…カクカクシカジカ」」
「エーーーっっっ!!!それホント?!」
「4つの目で見た」「4つの耳で聞いた」
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「レイモン、ローブルの一件は聞いたかえ?」
「これはカイレ様、先程連絡を受けました」
「此度のバハルスの、いや、ジルクニフの動きじゃ。お主はどう見る?」
「単純にローブル欲しさ、では無いでしょうな。我々の包囲網を作ろうと画策していると見るのが妥当でしょう」
「やはり帝国兵に偽装してのガセフ暗殺計画を根に持っている」
「我が国に対する不信感、ですか?」
「うむ。元来、スレインとバハルスの関係は悪くは無かった、寧ろ良いと言えただろう」
「それがカルネ村以来最悪になってしまった」
「そうじゃ。今回もまたカルネ村の影がちらついておる」
「もはや目を瞑る訳にはいかない、と?」
「手遅れに成る前にの」
「カイレ様もそれ程にカルネ村を?」
「考えておる。この世界の理を変えてしまうやも知れん、最もこれは儂の勘でしかないのじゃがな」
「それともう1つ。ローブルでクレマンティーヌに似た者の目撃情報も上がっておりました」
「クインティアの片割れか……そのクインティアも竜王国の報告がどうにも歯切れが悪かった。出来の悪い妹と違い、よもや兄の裏切りはないであろうが……」
「あの1人師団に限って…まさか…いやいや、有り得ません」
「その、まさか、が立て続けに起こっておるのが現状じゃ。
ニグンの敗退、王国と帝国の無血和平成立、ビーストマン殲滅、そして今度は亜人連合に圧勝。どうじゃ?まさか続きであろう」
「………分かりました。最高会議を招集し対応いたします。クインティアにも監視を付けましょう」
「頼んだぞ。文字通りこれが老婆心であれば良いのじゃが……」
2人は互いに口には出さないが、得体の知れない何者かの圧力を感じていた。
お疲れ様でした。
カルカ様、結構強気でしたね。
ジル君は少し押され気味でした。
お似合いだと思うんですよ?
若くして重責背負っちゃったし、
苦労が分かり合えるんじゃないかと。
じゃあまた、よろしくお願いします。
ありがとうございました。