骨と卵   作:すごろく

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どうも、作者です。

このハーメルンに原作者様の新作が投稿されたと聞いて
熟読しておりました。
作者は作者である前に読者なのです(笑)

さて今回は少し時間が遡ります。

でわ、ごゆっくりお楽しみください。


その33 恋心。

「ウチの大将が来るって?」

豪快にジョッキを呷りバジウッドはニンブルへ尋ねた。

「はい。今し方本国から連絡が来て明日にもお着きになるそうです」

「これはもう一波乱ありそうですね」

グラスのワインを少し飲んでレイナースは言った。

「それで?フールーダの爺様は何か言ってたか?」

「それが何も」

「ふ〜ん。俺たちにも秘密なのか、爺様も何も聞かされてないのか……まあ、アレコレ詮索しても始まらねぇや」

バジウッドは追加のジョッキを頼んだ。

 

ーーーーー

 

「ラナー、妾じゃドラウディロンじゃ。居るのか?」

ドラウディロンはラナーの部屋をノックする。

「どうぞ」中からラナーが返事をする。

「どうかされましたか?」

「うむ。明日ジルが来るとメイドたちが騒いでおったのでな。何か聞いておるかと思ったのじゃ」

「その事でしたら予定通りですのでご心配なく」

「やはり知っておったのじゃな。最初からの計画かえ?」

「来る、と言う所までは計画ですが、その先は私も聞いておりません」

「ふ〜ん、ジルめ何を企んでおるのやら」

「あの人の事ですから来る以上はタダでは帰らないでしょうね、わざわざ出向くのです。本来であればローブルから御礼に行くのですから」

「そうじゃの〜」

2人は黙って思案を巡らせた。

 

ーーーーー

 

「レメディオス、ケラルト。明日ジルクニフ皇帝がお見えになります。何かを言ってくるでしょうが、現時点ではそれは予測出来ません。何か思いつく事はありますか?」

「政治の難しい事はわかりませんが、単純に礼金の請求では?」

「私はローブルの併呑を要求すると考えます」

「やはりその2つが直ぐに思いつきますね。しかし相手はあの鮮血帝、思わぬ手が出てくると思います。2人とも心して迎えて下さい」

(ジル、一体何を考えているの…)

カルカは軽い溜息をついた。

 

ーーーーー

 

一夜明け、王宮正面に先触れが現れた。

「バハルス帝国ジルクニフ・ルーン・ファーロード・エル=ニクス皇帝陛下が間もなくお着きになられます!御開門を願うー!」

 

ーーーーー

 

「久しぶりだな、カルカ」

「貴方もね、ジル」

思いもかけない2人の言葉に周囲は驚愕する。

それを他所に2人は暫し見つめ合い、静寂が玉座の間を支配する。

「先ずはお礼を言わせて下さい。この度は我が国の危機をお救い下さり感謝します、民になり代わり御礼申し上げます」

「受け取ろう。大事無く、私も安堵している」

「この様な場所ではゆっくり話が出来ません。良ければ場所を変えませんか?」

「良いのか?私は構わんが」

「今から陛下と2人で席を外します。レメディオスとケラルトは皆さんをおもてなしして下さい。それと帝国の騎士の皆さんもどうか2人きりにして下さい」

「と言う訳だ、心配要らん。ここで待て」

そう言い残し2人は部屋を出て行く。

 

「どうなってるんだ?」

レメディオスは首を傾げる。

「さあ……私にもさっぱりわかりません。ただ……」

「ただ?」

「どうもお2人は以前から親しい様な……」

ケラルトはそう言ってチラリとフールーダを見た。

「爺さん、何か知ってるんなら聞かせろよ」

ブレインは堪らずフールーダに問いかけた。

「ふ〜む。知っていると言えば知っている。知らんと言えば知らん」

フールーダは髭を撫でながら答えた。

「フールーダ様、勿体つけずに」

今度はラナーが急かす。

「うむ。まだ陛下もカルカ殿も今の地位に就く前の話じゃ。ある貴族主催で舞踏会が開かれての、そこで初めて会ったと聞いておる。ただ知っておるのはそこまでじゃ。儂も2人があの様な呼び方をする仲とは少々驚いておる」

一同は主役2人が出て行った扉を黙って見つめていた。

 

ーーーーー

 

「まさか貴方が来るとはね」

カルカは中庭のベンチに腰掛け隣を薦めた。

「意外だったか?」

ジルクニフは勧められるままに座り足を組んだ。

「だって滅多に国から出ないと聞いているもの。それに……こんな弱い国、秘書官1人を寄越せば簡単に併呑出来る、違う?」

カルカは少し寂しそうに下を向いた。

「君に会いに来た、と言ったら?」

「皇帝に成ると嘘が下手になるのかしら?」

カルカは意地悪く微笑んだ。

ジルクニフは溜息を付き、そしてカルカを見つめて言った。

「君こそ女王様に成るとそんなに意地悪になるのかい?昔の君は……」

「止めて頂戴。お互いあの頃とは違うの。今は国を代表する立場、己の感情を殺して国を想わないと」

「では何故誘った?」

「……それは」

「正直に言おう。私はこの国を海洋進出の拠点にすべく手を貸した。恩を売るためにね。そして君には……」

「貴方の妃になって国民感情を和らげ円満に併呑へと導く」

「分かっていたのか…」

「貴方は昔から野心家。求める物は全て手に入れる。私もそんな物の1つ、貴方の駒」

「違う!そんな気持ちじゃ!」

「無い、と言い切れる?」

「……それは」

カルカは始めてニッコリ微笑んだ。

「やっぱり貴方は嘘をつくのが下手ね、昔とちっとも変わらない」

「からかっているのか?」

「いいえ、違うわ。嬉しかっただけ」

「………」

「あの夜、後継者として招かれた私たちは、取り入ろうとする貴族たちの対応に疲れ果てていた。歯の浮く様なお世辞、値踏みする様な視線、つまらない会話。我慢出来なくてとうとう私は会場を抜け出した。分かっていなかった訳じゃない、でも現実はもっと生々しいものだった」

「そして今の様に中庭で座っているカルカを見つけた」

「そうね。これからやって行けるのか、不安が一気に押し寄せたの。其処へ貴方が現れた。嬉しかった。そして頼もしかった。自分も同じ境遇なのに、心配して探しに来てくれた事、私と違ってそんな貴族にも堂々と渡り合っている姿がね」

「私だって必死だったのだぞ。余裕なんて無かったさ」

「貴方は私の目を真っ直ぐに見て言ったわ、これぐらい乗り越えなくて民を導いて行けるのか?とね」

「そう…だったか」ジルは照れた様に言った。

「そして言ったのよ、もしこのまま継ぐのが嫌なら俺の妻になれ、俺がバハルスもローブルも見事治めてみせる」

「俺はずっと1人だった、親や兄弟も全てが敵だったんだ。そしてカルカに出会った。互いに何も知らない筈なのに何かを感じたのだ」

「やっと本当の事を言ってくれた」

「お前に嘘など言った事は無い。あの時の言葉も本心からだ。そしてそれは今も変わらない」

「従えるの?」

「違うと言っているだろう!1人の男としてお前に横に居て欲しい、それだけだ」

「なら2人で何処か知らない土地へ行きましょう。そして新しい生活を始めるの」

「そんな事が出来るならとうの昔にやっている。1人の男と言ったがそれは同時にバハルス帝国の皇帝でもある。多くの民の人生を背負っている。お前なら分かるだろう?」

「私の分も背負ってくれると言うの?」

「ああ、背負ってやるとも。で無ければ此処へは来ん」

カルカの瞳から大粒の涙が零れ落ちた。

「嫌…なのか?」

 

カルカは何も言わずに頭を振った、そして瞳を閉じた。

 

ジルクニフはカルカの肩を抱き寄せ、そっと唇を合わせた。

 

すると後ろの茂みが微かに動き暗闇から声がした。

「これは激ヤバ」「超ド級スクープ」

そして影が2つ音もなくその場から立ち去った。

 

「「親分!てぇ〜へんだぁ!」」

トイレから出て来たラキュースは驚いて振り返ると

其処に双子の忍者が居た。

「誰が親分よっ!てか、貴方たち何処へ行ってたの!ガガーランが心配して探してたのよ?」

「このニュースで全て帳消し」「メガマックス盛り」

「なんなのよ!さっぱりわからないじゃない」

 

「「実は…カクカクシカジカ」」

 

「エーーーっっっ!!!それホント?!」

 

「4つの目で見た」「4つの耳で聞いた」

 

ーーーーー

 

「レイモン、ローブルの一件は聞いたかえ?」

「これはカイレ様、先程連絡を受けました」

「此度のバハルスの、いや、ジルクニフの動きじゃ。お主はどう見る?」

「単純にローブル欲しさ、では無いでしょうな。我々の包囲網を作ろうと画策していると見るのが妥当でしょう」

「やはり帝国兵に偽装してのガセフ暗殺計画を根に持っている」

「我が国に対する不信感、ですか?」

「うむ。元来、スレインとバハルスの関係は悪くは無かった、寧ろ良いと言えただろう」

「それがカルネ村以来最悪になってしまった」

「そうじゃ。今回もまたカルネ村の影がちらついておる」

「もはや目を瞑る訳にはいかない、と?」

「手遅れに成る前にの」

「カイレ様もそれ程にカルネ村を?」

「考えておる。この世界の理を変えてしまうやも知れん、最もこれは儂の勘でしかないのじゃがな」

「それともう1つ。ローブルでクレマンティーヌに似た者の目撃情報も上がっておりました」

「クインティアの片割れか……そのクインティアも竜王国の報告がどうにも歯切れが悪かった。出来の悪い妹と違い、よもや兄の裏切りはないであろうが……」

「あの1人師団に限って…まさか…いやいや、有り得ません」

「その、まさか、が立て続けに起こっておるのが現状じゃ。

ニグンの敗退、王国と帝国の無血和平成立、ビーストマン殲滅、そして今度は亜人連合に圧勝。どうじゃ?まさか続きであろう」

「………分かりました。最高会議を招集し対応いたします。クインティアにも監視を付けましょう」

「頼んだぞ。文字通りこれが老婆心であれば良いのじゃが……」

 

2人は互いに口には出さないが、得体の知れない何者かの圧力を感じていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




お疲れ様でした。

カルカ様、結構強気でしたね。
ジル君は少し押され気味でした。

お似合いだと思うんですよ?
若くして重責背負っちゃったし、
苦労が分かり合えるんじゃないかと。

じゃあまた、よろしくお願いします。
ありがとうございました。

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