なんだかんだで和解に至った鈴木さんと竜王です。
しかし、和解による平和と騒動が起こるのは、また別物です。
常にニュースに溢れている。
それがカルネ村ですから。
でわ、ごゆっくりお楽しみください。
その日、城塞都市エランテルは蜂の巣を突いた様な大騒ぎになっていた。
何しろ白昼にかなりの低空でドラゴンが飛んだのだ。
泣き叫ぶ者、一心に祈りを捧げる者
持てるだけの荷物を抱え逃げ出す者
その全ての人々はこの世の終焉を予感した。
「おい、ちょっと低過ぎないか?」
「買い物があるから適当な所へ下ろしてくれと言ったじゃないか」
「そりゃあ食料とか酒とか買うとは言ったが…見てみろ。地上は大騒ぎになってるじゃないか」
「そんな事言ったってあの鎧姿じゃ何も食べられない」
「ホント、面倒臭い男だなぁ…あ!そこそこ!ほら広場があるだろう。あそこへ着陸だ」
「龍遣いが荒いなぁ…」
ツアーは極力ゆっくりと着地する。
「とーちゃーく!」
ちびっ子は大喜びだ。
「どうする?ツアーと俺はここで待ってた方が良いだろ?」
「…そう…ですねぇ。このまま街で買い物って訳にも行かないし…」
(この父娘はどこか頭のネジが飛んでる)
キーノは心の中で確信した。
「では父上。私たちで買い出しに行って参ります」
「おう!頼む。それとちびっ子たちにも何か欲しい物があれば買ってやってくれ。街に出るのは初めてだからな」
「わーい!じぃじ、大好きー」
「買い物!買い物!」
「君のそう言う甘やかしが将来世界の理を変えてしまわないか心配だよ」
「まだそんな事言ってんのか?爺さんが孫に何か買う度に世界が変わってたら大変だろう?馬鹿馬鹿しい」
「じゃあ、行ってきまーす!」
そう言い残して一行は街へ繰り出した。
「ところでツアー。過去の連中ってのはどんな奴らだった?」
「酷いもんさ。仲間割れをして殺し合う連中も居た」
「プレイヤー同士でか?」
「ああ」
(フレンドリーファイアが効いていない?)
「どうした?」
「いや…プレイヤーの居た世界では同士討ちは出来ない様になってたんだ」
「それは興味深い情報だねぇ」
「ちょくちょく違う所があるんだよ。大体は同じなんだけど…」
鈴木とツアーは互いに情報交換をして時間を潰していた。
ユグドラシルの事、リアル世界の事、始原の魔法と階位魔法、そして周期的に起こる転移現象。
鈴木もツアーもある程度は知っていたが、知らなかった事も多かった。
しかし共通して答えが出せないのはやはり転移の事だった。
「その…サービス終了日…だったかな。その日がポイントだね」
「リアル世界では終了日の翌日ってのは来ている筈なんだ。俺には分からんがね」
「こちらの百年の時間軸はリアルでは同時」
「そうだな…だから恐らくは"サービス終了日翌日"は大騒ぎになっている筈だ」
「君のリアル世界での身体はどうなっているんだろうね」
「死んでるだろう、間違いない」
「……複雑だねぇ。なんと言って良いか、とりあえずご愁傷様」
「なんだそれ?とりあえずって何だよ」
「それでプレイヤーってのはどれぐらい居たんだ?それとレベルだったか、それはどれぐらいなんだ?」
「過疎ってたけど…それなりに居ただろうな。正確な数までは分からんが数千…は」
「そんなに!」
「しかし全員が転移するとは限らんだろう?実際、数千の人がこんな事になれば国が動いて原因を究明する。そうすれば元に戻る可能性もないとは言えん」
「時間軸か…厄介だねぇ」
「そうだな。仮に原因が分かって元に戻せたとしても転移そのものは止められない…。俺が何年か後に突然戻されても、やっぱり百年後には他の誰かがやって来る」
「もうサービス終了日は過ぎてしまっているからねぇ」
「流石に時間旅行はまだ出来ていない。あとは…」
「ん?まだ何かあるのか?」
「この事例が数十人規模なら隠蔽されて終わりだ。俺たちはあの世界では使い捨てだからな」
「聞いてはいたけど酷い世界だねぇ」
「だからこそ、だよ。縁あって来たこの世界を地獄にはしない。これはツアーとの約束がどうのこうのではなくだ」
「君とゆっくり話せて良かったよ。僕も少し視点を変えて見てみる事にしよう」
「殲滅や蹂躙は簡単だが、屍の上に立ってどうする?後に何が残ると言うのだ。俺は御免だね」
「息子が言ってたぞ、親父は寂しがり屋だって」
「…アイツ、そんな事を…」
鈴木は何故か嬉しそうだった。
ーーーーー
「ちょっと買い過ぎじゃないですか?」
パンドラズアクターは山積みの食糧を前に腕組みしていた。
「だってお義兄さん…ツアーさんあの身体ですよ?どれだけ食べるか分からないじゃないですか」
「そうだぞ、ぱんくん。十分なもてなしが出来なかったら村の恥だ」
「そう言うもんですか?」
「そう言うもんだよ。お義父さんも言ってるじゃないか、おもてなしの心こそが日本人の真骨頂だって」
(いつから私たちは日本人に…)
「それにしても今日は人が少ないわねぇ…」
「そう言われて見れば…何かあったのかな?」
エンリとキーノは通りをキョロキョロと見渡す。
「ママーあれ食べたい」
ちびっ子は屋台の串焼きを興味深そうに眺めていた。
「おお!串焼きじゃないか…久しぶりだなぁ。ヨシ!おばちゃんが買ってきてやる」
キーノは嬉々として買いに出掛けた。
「おっちゃん、串焼き8本」
逃げ出す用意をしていた店主は後ろから呼びかけられて振り返る。
「で、出たぁ〜!」
死人の様な蒼白い顔色の女が2人、卵の様なツルンとした顔の男、それに何より驚いたのはフワフワ浮かんでいる5人の子供だった。
「客に対して"出た〜"はないだろう…お化けじゃあるまいし」
「た、食べないで!お願いします!」
「食べるためにわざわざ来たんだ。それを食べないでとは一体どう言う了見だ?ひょっとして私が小さいからって馬鹿にしてるのか!?お金もちゃんとあるし、言っとくがお使いじゃないぞ?私はちゃんとした大人だ!」
興奮してドンドン声が大きくなったのでエンリたちも心配になってやって来る。
「どうしたの?何怒ってるのよ」
「どうしたもこうしたも…店主が私を子供扱いして馬鹿にするのだ!」
キーノは半泣きになっている。
「妻を侮辱するとは良い度胸ですね…もっと太い串を頭から刺して差し上げましょうか?」
「ちょっとお兄さん!過激過ぎだって!」
「キーノお姉ちゃん大丈夫?」
「意地悪されたの?」
「イジメダメゼッタイ」
「おじちゃん悪い人?」
「許さないよ?」
「やっちゃおう!」
「コラ!またアンタたちは調子に乗って!喧嘩はお話し合いしてからだって、じぃじがいつも言ってるでしょう?」
「ふぁ〜い」
「あのぉ〜…お取り込み中すいませんが…私は食べられてしまうのですか?」
「「はぁ〜?」」
ーーーーー
「あー!やっと見つけた!エンリさん!」
串焼き屋の前で騒いでいると都市長のパナソレイが息を切らせてやって来た。
「あら、パナソレイさん。そんなに走って大丈夫ですか?心臓止まりますよ?私みたいに」
「エンリちゃん、それシュール過ぎ」
ゼイゼイと息をしているパナソレイには2人の会話は耳に入っていない。
「まぁ落ち着いて。水でもお飲みなさい」
パンドラズアクターは店から勝手に水を汲んできてパナソレイに手渡す。
パナソレイはそれを一気に飲み干し大きく息をした。
「ふぅ〜。ありがとうございます、お陰で落ち着きました…ってそうじゃないでしょう!」
パナソレイは飛来したドラゴンの事や街に恐ろしいアンデッド集団が買い物をしていると通報があったなどと一気に捲し立てた。
「それが皆んなエンリさんの関係者なんですか!?」
「……みたいです」
「と、兎に角。公館まで一緒に来て下さい。そこでお話しを伺います」
「えー!買い物の途中なのにー!お父さんたちも待たせてるし…」
「…お、お父さんって"あの"お父さん?」
「あのもそのも父は1人です!」
「おい!都市長!用事があるならお前の方から出向くのが、筋ってもんだろう」
「この子は?」
「この子じゃない!私だ!私。蒼の薔薇のイビルアイだ!」
「またまたぁ。イビルアイさんはいつも変な仮面つけてマント着てるんですよ?」
「あ!今。変って言った!私の仮面を変って言ったぁ!」
「おやおや、またもや妻を泣かせる不届き者ですか?そのまま顔の皮を剥いでデスマスクにしてあげましょうか?」
「だから!お兄さんはホラー過ぎるってば!」
無限ループで繰り返される会話に
串焼き屋の店主は悪夢を見る様だった。
ーーーーー
「それは悪い事をしたな、許してくれ」
鈴木はパナソレイにペコリと頭を下げた。
「そんな!どうか頭を上げて下さい!ちょっとした行き違いですから!」
(確かに今までのプレイヤーとは違う)
鈴木の行動を見てツアーはそう思った。
「ツアー、お前も謝れ」
「何故、僕が謝らねばならんのだ!僕は白銀の竜王だぞ!」
「あ〜〜、そう言う事言っちゃう?良くないよね〜」
鈴木は白い目でツアーを見る。
「人に迷惑かけたらちゃんと謝らないと駄目だよ?竜のおじちゃん」
「そうだよ。ごめなさい、しないと」
「おじちゃん、大人なのにいけないんだぁ〜」
「わたしたちも一緒に謝ったげるから、ね?」
「さぁ、ごめんなさい、しよ?」
五つ子が畳み掛け母親がトドメを刺す。
「ツアーさん、子供の教育上良くないんで謝って下さい」
追い詰められるツアー。
(かつてこれ程窮地に立たされた事は無い!)
「ごめんなさい」
ーーーーー
固唾を飲んで遠巻きに様子を見ていた都市の住民たちは
ツアーの謝罪を聞いて歓声を上げ駆け寄って来た。
「竜王様、カッコいいです!」
「やっぱり竜王様は我々の味方だ!」
「竜王様、万歳!」
食べられると思っていた人々はツアーとの和解に安堵し
口々にその潔さと懐の深さを称賛した。
(え?なんで?威厳とか無くなったんじゃ…)
思いもつかなかった展開についてゆけない。
「馬には乗ってみよ人には添うてみよ、だ」
キーノは抜群のタイミングにサムズアップする。
「キーノ。クリティカルヒットですよ」
パンドラズアクターは優しく愛妻の頭を撫でる。
その様子で、更に住民たちの緊張は緩む。
恐怖の竜王と死の魔王、魔界アンデッドの集団。
この世の終焉は直ぐそこまで来ていたのだ、仕方ない。
「パナソレイ様!お願いがあります!」
意を決した様子で1人の男が前に出る。
「なにかね?」
「…その方達は一体どなたなのでしょう?」
その言葉で鈴木はハタと思い立った。
(別に隠れてた訳じゃないけど…このままってのも良くないよな)
エンリに目で合図をすると、合点承知とニッコリ頷く。
(さすが、我が娘。皆まで言わずとも…)
「ここでお祭りをしましょう!」
「「「えーーーっっっ?」」」
お疲れ様でした。
良いですねぇ。
こう言うドタバタ喜劇。
大好きです♪
筆が…作者はスマホ執筆なので、指が進みます。
世の中色々ありますし、めっちゃ暑いですし
ラムネみたいにグイッと楽しんで下さいね。
じゃあまた、よろしくお願いします。
ありがとうございました。