エンリって少女は不思議です。
ある物語では、重要人物が好意を持っているから重要な人物。
ある物語では、将軍と呼ばれる戦士。
ある物語では、主人公の大切なパートナー。
どれもシックリするんですよね。
無理が無い。
とっても白紙なキャラクターだと思います。
そんな1人のエンリのお話です。
でわ、ごゆっくりお楽しみください。
「ここでってエンリ…それはいくらなんでも…」
行き当たりばったりの人生を送ってきた鈴木も
流石に度肝を抜く発案に狼狽える。
「いいじゃないですか!丁度食べ物も沢山買い込んだし。ここは広いですし…お披露目。そう娘たちのお披露目です!」
「なら、俺たちも何かもって来るよ!」
「おうよ!大したもんはねぇーけどもって来るわ!」
威勢のよい若い者はもう飛び出した。
「よーし!そうと決まったら…お父さん、村から皆んなを連れて来て下さいな」
(この決断力と行動力…かつての守護者統括以上ですね)
パンドラズアクターはかつての仲間を思い出した。
「ホントに良いのか?連れて来てイイんだな?」
「ハイ!お願いします!」
鈴木はゲートを開きその中に消えていった。
ーーーーー
「と言う訳だ。直ぐに用意してくれ、待たせるとエンリが怒る」
「ったく…ウチの村長はナニ考えてんだか…」
ブレインは呆れて座り込もうとする。
「アナタ!なに座ろうとしてるの!ほら、立って立って!ガセフさんと荷造りして頂戴」
ツアレもまた行動力に長けていた。
「一体何が始まるんだ?」
ジルクニフやカルカ、薔薇の面々など客人勢は状況が全く飲み込めずに居た。
「ウチのお義父さんがあの様子だと村長はもう誰にも止められませんよ。流れのままについていきましょう」
クレマンティーヌは全てを察して娘たちにも指示を出す。
「わーい!お祭り!お祭り!」
ネムとウー&クーは大喜びだ。
「妻がすいません」
ンフィーは皆に頭を下げる。
「ンフィーさんのせいじゃないですよ」
「そうですよ。この村に居る限りサプライズはお約束ですから」
セリーとアルシェもそう言って倉庫へ食料を取りに行く。
「婆さん、賑やかじゃのぉ」
「ほんに、ボケとる暇もなくて嬉しい限りじゃ」
テラスでお茶を啜っていた年寄り2人は、これから始まるイベントに子供の様にワクワクしていた。
「あのぉ〜、陛下…私どもは…」
レイブンは突然襲って来た嵐に成す術もなく途方に暮れていた。
「知るか。と言うか、私にも何が起こっているのかさっぱり分からんのだ」
「ご一緒成されば良いではないですか。領地こそ違えど同じ国の民です。交わって悪い事はないでしょう」
「お妃様がそう仰るのなら…」
「あそこのパナソレイは知らぬ訳ではなかろう。カルカの言う通りだ、行って損はない」
「準備完了っ!」
「良いチームワークだ!」
鈴木は満足そうに再びゲートを開いた。
ーーーーー
「なんか…ドンドン人増えてね?」
キーノはエンリの袖を引っ張った。
「お、お祭りは人が多い方が…も、盛り上がるから…」
少しエンリも不安になって来る。
(昔、村でお祭りやった時と大分違うなぁ…。なんかヤグラとか建ててる人も居るし…。でも今更やっぱ止めましょうなんて言えないよぉ〜)
「ママー、凄いねー」
「お店とかもいっぱい出て来たよー」
「あ!さっきの串焼き屋さんだー」
「そ、そーね…」
(どうしよー…ちょっと自己紹介してご飯食べてワイワイやるつもりだったのに…)
「ところでエンリ。挨拶とか考えてんのか?」
「あ、挨拶っ?!」
「そりゃ、言い出しっぺだし、村長さんだし、この子らの母親だし、エンリが最初の挨拶しなくてはな」
「お父さんかツアーさんで」
「駄目駄目。あの2人が人前で挨拶なんかする訳ないだろう?」
「そんなぁー!私そんな挨拶なんてした事ないですぅ〜」
「しかしなぁ〜、他に挨拶出来るような………ぱんくん誰か居るかなぁ?」
「そうですねぇ…父上は絶対そんな堅苦しいのはお嫌いなのでやりません…だったら…ジルクニフ殿では?」
「おお!流石私のぱんくん!そうだ!そうだ!適任者が居たじゃないか!」
「助かったぁ〜。一時はどうなるかと思いましたよ」
「ねぇ、ツアーのおじちゃん」
「なんだ?」
「おじちゃんの国でもお祭りする?」
「う〜ん。僕は参加した事が無いからなぁ…」
「お祭り嫌いなの?」
「好きとか嫌いじゃなくて参加した事がないのだよ」
「可愛そう…」
「君たちのお母さんはお祭り好きみたいだね」
「ママは賑やかなのが好きだって言ってたよ」
「そうなのかい?」
「うん。ワイワイやってると辛い事も忘れるって」
「………」
「ママはね。私たちを産んだ時に死にかけたんだって。それでねじぃじが呼び戻してくれたって」
「………」
「じぃじはね。ママの本当のお父さんじゃないんだよ?」
「それは知ってる」
「でもね。ママは今は本当のお父さん以上だって。だから私たちには本当のじぃじなの」
「………」
「おじちゃんには家族は居ないの?」
「そうだね…居ないね」
「じゃあ寂しいから私たちの家族になるとイイよ」
「イイのかい?」
「うん!だって村の人は皆んな違うけど家族だもん。おじちゃんだって家族だよ!」
無邪気に笑う五つ子に必死に涙を堪えた。
(最終決戦兵器…か。確かにこれは無敵だ)
ーーーーー
ゲートが開き中からゾロゾロと村人が現れる。
「こりゃ凄い!」
「盛大ですねぇ!」
「アレが竜王?」
口々に勝手な事を言いながらツアーたちの所へ集まってくる。
「これは初めまして。私はバハルス帝国皇帝のジルクニフ・ルーン・ファーロード・エル=ニクス。こちらは妃のカルカだ」
「これはどうもご丁寧に。僕はツァインドルクス=ヴァイシオン。白金の竜王と言った方が良いかな?」
「何だ?何だ?2人して堅苦しい挨拶なんかして…名刺交換でもするのか?」
笑いながら鈴木もゲートから出て来た。
「ったく…これが大人の礼儀ってもんだ」
「そうそう。いきなり来てこんな騒動に巻き込まないんだよ、オ・ト・ナ、はね」
「おいおい、共同戦線か?穏やかじゃないぞ?」
3人はガッチリと握手をする。
「スゲー絵面だな」
ブレインは目をまん丸にして見つめている。
「ドラゴンと人間と骸骨が握手なんて御伽噺でも嘘くさくて読んで貰えんよ」
ガセフも瞬き1つしないで見つめている。
「都市長、この光景…」
遅れてやって来たアインザックとプルトンは目の前の奇跡に
言葉が紡げられない。
「奇跡だよ。我々は今奇跡を見ているんだ」
見れば集まった人々も全員その風景に釘付けになっていた。
誰も何も話さない、数千の人間がただ静寂の中に居た。
「あのぉ〜、挨拶、頼んでも?」
エンリの天然も奇跡に近かった。
ーーーーー
「いやぁ〜!流石!皇帝陛下!」
挨拶問題も無事にクリアーしてエンリは既に酔っていた。
「良い挨拶だったな、ジル」
「なんのツアー、慣れだよ、慣れ」
愛称で呼び合う2人に目を細める鈴木。
「父上、結果として妹の作戦は大当たりでしたね」
「そうだな。見ろ。他の娘たちもエランテルの住民と打ち解けて…あんなに対人恐怖症だったのにな」
「エルフシスターズもそうです。ここには誰一人エルフに差別的な態度を取る者は居りません」
「孫は?俺の天使たちはどうだ?上手くやっているか?」
「それが先程面白い光景がありました…」
〜〜〜〜〜
フワフワと浮かぶ五つ子は忽ち子供たちの人気を博した。
しかしそこは子供の事、ヤンチャな者も居る。
「お前たちアンデッドなんだってな!俺たちを喰うのか?」
「そんな事しないもん!」
「ちゃんとご飯食べてるもん!」
「嘘つけ!アンデッドは生きてる人間を襲うんだぞ!」
「違うもん!襲わないもん!」
「襲うのも居るけど私たちはそんな事しないよ?」
次第に声が大きくなって周りの大人も騒ぎに気づく。
「あのね、坊や。この子たちはおばさんの子供なの。だから仲良くしてやってね」
「おばさんもアンデッドじゃん!やーい、アンデッド家族!」
「ゴメンね。おばさん、この子たち産む時に死にそうになっちゃってそれでアンデッドにして貰ったの。だっておばさん死んじゃったらこの子たちの面倒みられないでしょ?だから死ねなかったの。それでねおばさんのお乳あげてたらこの子たちもアンデッドになってしまったの。だからおばさんのせいなの。だからこの子たちを虐めないで、お願い」
すると1人の恰幅の良い女がその子供に近づくや否や拳骨を一つ落とした。
「いってぇー!母ちゃんいきなりナニすんだよ!」
「やかましいよ!直ぐにその口を閉じないともう1発食らわすよ!ったく!図体ばっかり大きくなって頭ん中は空っぽなんだから…そのくせ口は達者で。母ちゃん情けないよ!いいかい、よくお聞き。母親ってのは死ぬ気で子供を産むんだ、そのためには自分の命なんて惜しくも何とも無い。だけどね、その子に乳もやらないと子も死んでしまう、だからそうならないために必死になるんだ。このお母さんがどんな気持ちでアンデッドになったか、それでその結果子供までアンデッドになっちまって今どんな気持ちか…あたしゃね、他人事ながら胸が張り裂けそうだったよ。それを…アンタって子は!母ちゃん、情けないよ…」
そこまで一気に言うと女は泣き出してしまった。
周りの母親らしき女性も目頭を押さえている。
「母ちゃん…ゴメンよぉ。俺…あの子たちが人気者だから…ちょっとからかってやろうと…」
「母ちゃんに謝ってどうすんだよ!相手が違うよ!」
「…あの…その…おばちゃん、ごめんなさい。そんでお前らもゴメン…」
エンリは涙を拭い笑顔を見せる。
「ありがとう。これからも仲良くしてやってね?」
「ごめなさいしてくれたからお友達だよ」
「おい!いいもん見せて貰ったなぁ!」
「うわっ!きったねぇな!鼻水拭けよ!」
「そんなお前だって顔がグシャグシャじゃねーか」
2人を見かねたクレマンティーヌが声をかける
「どっちでもイイけど見苦しいから顔洗って来てね?」
〜〜〜〜〜
「最後の3人のクダリは必要?」
「オチを付けませんと」
「いやなんなのオチって…でもまぁ結果オーライじゃないか」
(母ちゃん最強伝説だな)
鈴木は東の方を向きそっと手を合わせた。
ーーーーー
「じゃあそろそろお開きにするか!おーい!エンジェルズ、集合ぉ〜!」
「はぁ〜い」
「えーと。今夜はよく集まってくれた、感謝する。それで…なにもお返し出来ないが俺…いや私の可愛い孫たちの練習の成果を披露したい。是非、楽しんでくれ」
「エンリちゃん、何が始まるの?」
ツアレが寄って来る。
「…いや、それが私も初耳で…」
「皆んな、何か知ってる?」
ガセフを始め娘たちも全員首を横に振る。
「ヌシは何か知っておるのか?」
「ふ〜む…多分…アレだと…」
「なんじゃハッキリせんの」
「儂も見た事は無いのじゃ…ただ新しい魔法の使い方とかなんとか」
「せーの!」
「私たちは」
「カルネーズ・エンジェルです!」
「今日は」
「本当に」
「「「「「ありがとうございました!」」」」」
それを合図にショーは開幕した。
「ワイデンマジック!フォグストーム!」
広範囲に霧が立ち込め神秘的な雰囲気になる。
「ワイデンマジック!ファイヤーシャワー!」
広場の外周に火柱が立ち上がる。
「ワイデンマジック!フラワーカーペット!」
突然足下から色とりどりの花が咲く。
「マキシマイズマジック!クリスタルタガー!」
無数の水晶塊が宙に舞う。
「マキシマイズマジック!サンダーショット!」
同じ数の細かい雷の矢が的確に水晶を細かく砕く。
「ワイデンマジック!マキシマイズマジック!」
「サンシャインブレイク!」
5人の詠唱で砕かれた水晶は光を乱反射して
キラキラと輝く。
霧が立ち込め、仕掛け花火の様な火柱があがり
足元に花は咲き乱れ、空には水晶が光る。
それは夢の世界だった。
集まった人々はただ口を開け立ち尽くす。
「やったね!」「イェーイ!」
「大成功!」「バッチリ!」「天才現る!」
ハイタッチで上空でケラケラ笑いながら舞う幼女たち。
人々は天使を見た。
「我が至高の孫たちに喝采せよっ!」
「すっごい良いショーだったのに…台無しです、お父さん」
「残念ながら妹に同意せざる得ません、父上」
「…いや…あれは…人気のキメ台詞でな…」
「何処の誰に人気か知らんが…サトルよ」
「僕も詳しい事は分からないけど…サトル」
「クッ!殺せ!」
ーーーーー
一夜のうちに幾度も奇跡が起きたその広場は
そのまま"奇跡の広場"と呼ばれた。
ショーの最後を台無しにした鈴木は
ピニスンに頼み込んで
広場外周に様々な果物の木を植えて貰った。
専門の職員が付いて四季折々の果実が成り
持ち帰りは出来ないがその場なら誰でも食べて良い決まりになった。
鈴木はと言うと咲き乱れた花を縫う様に芝生を生やした。
真ん中に噴水をと進言したが、エンリにそれが行き過ぎなんです!とまた叱られた。
鈴木は心の中で黒曜石製のベンチを出さなくて良かったと思った。
因みに、あの夜のカルネーズエンジェルは鈴木の命名だったので勿論全く定着しなかった。
お疲れ様でした。
如何でしたか?
読者それぞれが色んなエンリ像をお持ちです。
それはこうあって欲しいと言う希望と言えるかも知れません。
妊娠、出産してからエンリの出番が増えました。
本作にとって大イベントだからなのですが
そればかりではありません。
ひょっとしたらエンリを母親にしたかったのかも知れません。
だから特にそれを削ろうとも考えていません。
じゃあまた、よろしくお願いします。
ありがとうございました。