過去の仲間に悩みを打ち明け、そして叱咤激励された翌日。りほは朝から取り組んでいた作業を終えた。
「よし! Ⅲ号突撃砲の仕様変更、完了だよ!」
「おぉ! ありがとうございます!」
感激した様子でお礼を言うのは、仲間たちからエルヴィンと呼ばれている女子。Ⅲ号突撃砲を駆るカバさんチームの車長を務めている。
戦車道全国大会の準決勝の相手は、昨年の優勝校であるプラウダ高校だ。しかも試合フィールドは雪原で、ソ連戦車を使う向こうにとっては庭も同然である。だからこそ、寒冷地に適応した状態へ変更するための作業を朝から行なっていたのだ。
「先輩ー! こっちも終わったッスよー!」
「おーう、ご苦労さん!」
今回は流石に整備する車両数が多いので、『~ッス』が口癖の後輩も呼んで整備を行なっていた。特にⅢ号突撃砲は車体の関係で、雪に身を埋める事が予想されるため、かなり大掛かりな作業となっていた。
仕様変更の作業を終えると、プラウダとの試合から初参加となる戦車を見る。
「フランス戦車、ルノーB1bisか。B1重戦車の改良型が大洗にあったとはねぇ」
「でも、相手はソ連戦車ッス。IS-2とか不安ッスけど……」
「そこは、かの『ジャンヌダルク』の加護があるよう祈るしか無いさ」
90発以上被弾しても戦闘を続けたと言われるルノーB1bisの逸話を思い出していると、その戦車に乗る3人が挨拶をしに来た。
「車長の園みどり子です。こっちは操縦手の後藤モヨ子と、主砲砲手の金春希美です」
「「よろしくお願いします!」」
彼女達は、この大洗女子学園の風紀委員だと言う。独特な名前に内心驚きつつも、りほも挨拶を返した。
「派遣整備士の西住りほだ。と言っても、大会の時は整備スタッフをやってるけどね。初陣の相手は強豪だけど、全力で行きな!」
「「「はい!」」」
そこへ、今度は姪のみほがやって来た。
「りほお姉ちゃん。新しく見つかった戦車なんだけど……」
「はいはい、今見に行くよ」
次にりほが向かったのは、実はかなり前から修理を続けている戦車である。彼女と共に修理作業をし、りほの事を師匠と呼ぶ自動車部。その部長のナカジマが呼び掛けに応えた。
「よーっす。ポルシェティーガーの調子はどうだい?」
「今回の試合には参加できませんねー。まだ砲弾も届いて無いですし」
恐らく大洗のチームの中では最高の火力を誇るであろう戦車である。何せ『ティーガー』の名の通り、この戦車の砲は
だが、推進機構の面でトラブルが発生しやすいという短所を併せ持っている。
このポルシェティーガーは、実は結構前に戦車を探していた際に発見された。しかし、地上へ引き上げるための作業において転落事故が発生し、その為の修理に追われていたのである。
「すまないねぇ。ポルシェティーガーはあたしも修理の回数が多くないんだ。力不足で本当に申し訳ないよ」
「そんな、謝らないで下さい! でも、師匠ですら経験が少ないなんて、秋山さんが『レアな戦車』って言ったのも頷けますね」
「むしろ、20年前の大洗がこれをどうやって運用してたのか知りたいくらいさ」
残念ながら修理が間に合わず、プラウダ戦での参加はお預けとなってしまった。自分の力不足に、りほはただ顔を悔しく歪めることしか出来なかった。
試合前日の夜。りほは声をかけていた。
「みほちゃん」
「? なーに?」
「明日は因縁のある奴との戦いになる。けど……」
「大丈夫だよ、りほお姉ちゃん」
「みほちゃん……」
「今の私には、りほお姉ちゃんだけじゃなくて、みんなも居る。それにお姉ちゃんと約束したんだ。必ず勝ち上がってくるって」
いつになく強気な姪の表情に、りほは一瞬ポカンとした。そして笑みを浮かべる。
「……そっか。頼れる仲間がいるんだもんね。心配は不要か。なら、全力で行ってきな!」
「うん!」
突き出したりほの拳を、みほはコツンと軽くぶつける。そして自室へと戻っていった。
「成長してるねぇ、本当に」
りほは嬉しそうに呟くのだった。
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