戦車道全国大会の決勝戦が、始まろうとしていた。
「いよいよ、か」
大会運営スタッフ達は、モニター等の機材チェックや、強豪校と無名校の戦いを見るために集まった観客の誘導など、忙しなく動き回っていた。その中でりほは一人、この戦いの行く末を案じていた。
「(姉妹対決でもあるが、みほちゃんにとっては文字通り負けられない戦い。大洗学園艦の存続と言う大きなプレッシャーがある……。去年の全国優勝10連覇とはまた違う重荷を、あの子は背負ってるなんてね)」
「西住さん。こちら、今回の出場する戦車のリストです。目を通しておいてください」
「あいよ」
スタッフから渡されたリストに目を通し、黒森峰女学園の出場戦車を見る。が、1輌だけあるその戦車を見て驚愕する。
「っ! 本当に投入するなんてね……。やっぱり、まほちゃん達も本気と言うことかい」
一方の大洗女子学園は、新たに追加された三式中戦車チヌとポルシェティーガーと合わせても、8輌のみ。決勝戦では最大20輌まで投入できるため、実質20対8という絶望的な戦力差があった。しかも、相手の戦車は火力と装甲が秀でている上に、全国大会常連校と言うこともあって、生徒の練度も高いと言える状態だ。
「…………苦しい戦いになるな」
「姐さん。整備スタッフ、回収スタッフ共に全員集合したッス。試合開始前の激励、お願いします」
後輩の声に振り返ると、様々な会場で役目を果たしてきたであろう整備士たちが、りほに注目していた。その様子はどこか緊張している。おそらく、今年の決勝戦の結末が分からないからだろう。
りほは姿勢を正し、軽く咳払いをすると、気を引き締めつつ口を開く。
「今回はいよいよ、全国大会決勝戦だ。片方は去年の雪辱を晴らす優勝、もう片方は廃校が掛かった、どちらも譲れない戦いになるだろう。
……静かにしろ。大洗女子学園がここまで来たのも、単なる才能だけじゃなく、廃校を阻止すると言う思いがあったからかもしれない。
だからこそ言う。
あたし達整備士が出来ることはただ1つ。撃破された戦車と生徒に労いの声をかけ、そして戦車を直すことだ。今年の大会は、戦車道の歴史が変わる瞬間に立ち会うのだと、そう言う心意気でそれぞれの役目を果たせ! 以上!」
その瞬間、整備士たちは一斉に姿勢を正し、りほに対して敬礼した。りほも敬礼で返す。その瞬間、試合開始のブザーが鳴った。
「持ち場につけ! 行動開始!」
「「「「おおおおおおおお!!」」」」
雄叫びを上げながら、スタッフ達は持ち場へと走っていった。
その頃、観客席ではミチコにカナエ、アカメといったりほの知り合いが集まっていた。
「改造屋は、今日は休業かい?」
「当たり前だろう、アカメ。君こそ良いのかい? プラウダOG会の会長たる君が此処にいて」
「他の席を見てみなよ~。大洗と試合をした学校の隊長達がみんな見に来てるんだ。OGが見に来てもおかしくない、て言うか黒森峰OGが2人もいるんだから今更だろ?」
「残念ながら3人よ」
凛とした声が聞こえた方へ顔を向けると、そこにはしほの姿があった。
「おやおや、西住流家元のご登場か」
「カナエ、相手は先輩なんだから口調気を付けろよな! あ、西住先輩コーラ飲みます?」
「いただこうかしら」
キザっぽく言うカナエを、ミチコが諌めながらしほにコーラを手渡す。一口飲むと、シュワシュワとした炭酸の刺激と暴力的な甘さが、暑くなり始めたこの季節に丁度いい。
「ところでさ、アカメ。大洗と試合した学校の隊長達が来てるって言うけどさ、アンツィオの連中が見えねえぞ?」
「…………え?」
「彼女たちはマイペースだ。前夜祭でもやって、寝てるんじゃないかな」
「あり得そうで何も言えないね~……」
気楽そうに話をしているが、全員の視線は、試合の状況を知らせるモニターに向けられていた。
「……大洗は、これで負けたら廃校になるんだよな?」
「文科省の役人とそう約束した……らしいな」
ミチコの言葉にカナエが返し、しほが続ける。
「無名の高校が、全国大会常連校を次々と打ち破り、そして決勝戦に上り詰めた。これだけでも十分注目されているのだから、もし廃校にしようものなら様々な方面からバッシングが来るでしょう」
「この戦いはまさに、戦車道の歴史のターニングポイントなのかもしれないね~」
あれこれ言うが、自分達はここから行く末を見守るしかない。かつて戦車道で青春を謳歌した大人たちは、後輩たちの戦いへと目を移した。
読んでくださりありがとうございます。アニメ版本編は最終回に近付きつつあります。更新は不定期ですが、どうか気長にお待ちください。