強い少女
朝陽がカーテンの隙間から射し込む。部屋に目覚まし時計のアラームが鳴り響くが、部屋の主は目覚めそうにない。
「やっぱりケーキは、苺のショートケーキが良いな……」
誰かとケーキ談義でもしてるのだろうか。寝返りを打つことはあっても、起きる気配がない。アラームはまだ鳴り響いてる。
すると、廊下から足音が近付いてきた。ドアが開くと女性がドカドカと入ってきて、一気にカーテンを開ける。
「起きろぉー!」
「う、ううん……」
部屋の中が明るくなり、女性は大声で少女に呼び掛ける。しかし少女は、眩しいのを嫌がるかのように布団に潜った。
「起・き・ろって……言ってんだろうがぁー!」
「うわぁぁぁ!?」
掛け布団を容赦なく剥がされ、突如襲い来る冷たい空気に少女……みほは飛び起きた。
「おはよう、みほちゃん」
「あ、あはは。おはよう、りほお姉ちゃん」
西住みほと西住りほ、2人は大洗学園艦のアパートで生活していた。
黒森峰から転校することになったみほだが、西住家全員は彼女の事が心配だった。何せ黒森峰が10連覇を成し遂げられなかった事は、マスコミにも盛大に取り上げられている。みほが仲間を助けるためにフラッグ車を飛び出したと言うことは報じられなかったが、ネット界隈でも取り上げられたため、どこで彼女の事を知られているか分からない。転校先でもその件について何か言われないか不安があったのだ。
その結果、りほが同伴することになった。彼女の仕事は、戦車の修理や整備の依頼があった学校へ行き万全な状態にする派遣整備士である。戦車道連盟所属ではあるが、依頼があれば何処からでも行けるため自分が適任だと言ったのだ。
本当は母親のしほや、姉のまほ、父の常夫や使用人の菊代も行きたかったが、それぞれが大事な役目を持っている。それを放棄するようなことになっては、却ってみほが遠慮してしまう。よって、りほが適任となったのだった。
「ハンカチとちり紙は?」
「持ったよ!」
「教科書」
「持った!」
「筆箱は」
「持った! もう、心配しすぎ!」
「はいはい、ゴメンって。じゃあ行ってきな」
「うん! 行ってきまーす!」
朝食を終え、身だしなみを整えて元気に登校する姪に、りほは手を振って見送った。
りほは派遣整備士であるが、なにも戦車の整備だけが仕事ではない。
「コラァ! 軍手やらないと危ないってさっき言っただろうが!」
「す、すみません!」
「貸出用のやつが工具室にあるから取ってこい! ダッシュ!」
「はいぃ!」
戦車道連盟の整備場。そこでりほは教鞭を取っていた。
新社会人や新入生など、何かと新しくなる春の季節。戦車道連盟にも当然の事ながら新人が入ってくるが、連盟が特に多く募集しているのが整備士である。現在の戦車道は、車輌保有数が多い学校の大会出場が浸透しつつある。しかし、安全性も含めて完璧に修理するのは時間が掛かる。スタッフの数が少なければ、他の撃破された戦車を回収しても、修理の手が届かなくなってしまう。だから必然的に整備士の募集が多くなるのだ。
りほは、連盟に所属するメンバーの中では古参の1人である。長く戦車に関わってきた腕を買われて、こうして新人整備士たちの教官を務めることもあるのだ。
「本日はここまで! 今日やった内容は復習しとけよ!」
「「「「はい!」」」」
「解散!」
「「「「ありがとうございました!」」」」
緊張がほぐれた様子で解散する新人達を見て、自分もあぁだったなと、りほは昔を思い出していた。
「(今頃みほちゃんは、友達とか出来てるのかねぇ)」
その頃、大洗女子学園にいるみほは、授業中にも関わらず物思いに耽っていた。
「(戦車道をやれって言われたけど、どうしよう……)」
昼休みの時、生徒会の会長である角谷杏が現れ、「次の必修選択科目、戦車道とってね」と言われたのだ。
戦車道が嫌いと言う訳ではない。だが今の自分は、どんな戦車道をやりたいのか分からない状態であり、そのような状態で戦車道をやって大丈夫なのだろうかと言う不安があった。
「……住さん。西住さん?」
「は、はい!?」
「ボーッとしてましたけど、大丈夫ですか? 保健室に行きます?」
「あ、いえ、大丈夫です。すみません……」
その様子を心配そうに、五十鈴華と武部沙織が見ていた。
授業を終えた後、生徒会による戦車道のオリエンテーションがあった。かなり戦車道を推してるらしく、履修した生徒への待遇も、食券から始まり遅刻の取り消しなどとても豪華である。
「(どうしてそこまで推すんだろう?)」
みほの疑問をよそに、選択必修科目の記入用紙が配られる。そこにまで大きな文字で戦車道と書かれている辺り、どうしても取ってほしいと言う意思が見られる。
「(……うん!)」
みほは決意した。
その日の夜。夕飯を食べ終えたみほは、学校であったことをりほに明かした。
「戦車道を取るぅ!? 大丈夫なのかい……?」
まさか姪が再び戦車道を取るとは思わず、大きな声を上げてしまう。しかしみほはボールペンで既に戦車道に丸をつけている。
「どうしてあそこまで推すのか分からないけど、きっと何かあるんだと思うの。それに……」
「それに?」
「新しく始まる戦車道なら、きっと私も、やりたい戦車道を見つけられるかもしれないの!」
友達が出来たことと同じくらいに目を輝かせるみほに、りほは安心した。最初こそ、戦車道を取るように迫って彼女を追い詰めていたら、殴り込みをかけようかと思っていた。
しかし、みほは思っていた以上に強かった。新しく見つめ直せるとポジティブに捉え、また戦車道をやりたいと言っている。ならば自分は応援する立場だろう。
「そうかい。何か困ったら、いつでも言いなよ?」
「うん!」
その日りほは、お祝いとして缶ビールをもう一本開けた。
家族みんなが支えた結果、みほちゃんは保健室に行くことは無く、むしろ戦車道をまたやろう!と決意しました。
読んでいただき、ありがとうございます。次回もお待ちください。