徹夜で戦車を修理した翌日。りほは布団の中に居た。
「りほお姉ちゃん、学校行ってくるね?」
「うーん……行ってらっしゃーい……」
ドアの隙間からみほが顔を覗き、小声で挨拶する。一方りほは気だるげな声で返事をし、プラプラと片手を振った。今日は修理依頼もなく、大会に関する会議もない。新人への教官役も入っていない。
これは、西住りほの休日の話である。
午前10時。布団から出たりほはパジャマ姿のままトーストを齧り、テレビをつける。
『次の特集は……』
「そろそろ、ニュースの特集で戦車道の大会が取り上げられる時期になるか」
スクランブルエッグを食パンに乗せて、ケチャップをかけて食べる。りほのお気に入りの食べ方だった。
「ふぅ、暖まる。みほちゃんも野菜の切り方とか上手くなったね」
汁物は、みほの作ったコンソメスープ。スープの素を使ってるとは言えキャベツとモヤシが入っていてボリュームは抜群。姪もだいぶ料理が上手くなってきたことに、りほは感心した。
軽めの朝食を終えたら、食器を片付けて冷蔵庫の中身をチェックする。
「マーガリンそろそろ無くなるから、後で買わないと。げっ、ビールも無くなるじゃん……」
彼女にとってビールは必要不可欠。買い物を決意した。
学園艦上の街を、りほは自転車で駆け抜けていた。海の潮の匂いは彼女を穏やかな気持ちにさせる。
「(天気も良くて、絶好の買い物日和じゃないか。みほちゃん達は……確か自衛隊から戦車道教官が来るらしいな。何人か候補いるけど、誰だ?)」
杏から聞いた話では、戦車の修理が終わり次第、教官を招いて実際に戦車を動かしたり、砲撃や装填なども学ぶ計画らしい。
りほも整備士と言う関係上、試運転として操縦することもある。その為、りほが戦車の操縦のノウハウを教えることも可能だ。だが、生徒の身内が何から何まで面倒を見ると、生徒達の社交的な意味で良くないだろう。礼儀を学ぶと言う意味では外部からの講師も必要なのだ。
ちなみに、仕事の関係上、自衛隊に所属する戦車道関係者のことも彼女は知っている。しかし心当たりが多すぎる為に、誰が教官としてみほ達の元へ訪れたのか分からないでいたのだった。
その後、帰宅したみほから話を聞き、自分の後輩である事が発覚した。
別の日、陸上自衛隊戦車道部隊の車庫にて。
「よぉ、亜~美~」
「げぇっ!? りほ先輩!?」
「みほちゃんから聞いたぞ~? お前操縦の仕方とか教えなかったらしいじゃねえか、えぇ?」
「え、えっと、その……」
「しかも
「パ、パフォーマンス的な演出で、はい……」
「おっしゃ、10式持ってこい。戦車乗りのあり方を戦いで教えてやる」
「嫌ですよ! 先輩の戦いはガチじゃないですか!」
「当たり前だろ。“戦車に関しては常に本気と全力で挑む„があたしのモットーだからな」
「嫌ぁぁ! 誰か助けてぇぇ!」
りほに襟首を掴まれてどこかへ連行される亜美の姿は、まさに『ドナドナ』の仔牛のようだったと、後に隊員は語った。
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