今日もどこかでELダイバー   作:アルキメです。

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ウマ娘にモチベーションを吸われていたので初投稿ですわ。


42人目『シヅナ』

 お金がなければ人は生きてはいけない。

 それなら自給自足をすればいい、と言う人もいるだろうが、現在の利便性の高い文明に馴染みきった人間には、それは容易いことではない。

 多ければ多いほど困ることはないし、少なければ少ないほど死活問題として関わってくる。

 それがお金というものだ。

 無論、それはGBNでも同じである。

 円やドルの代わりにビルドコイン――通称を『BC』と呼ばれ、利用されているゲーム内通貨は、リアルのように死活問題に関わるほど重要性のあるものではないにせよ、ないならないで困ることが多い。

 モビルスーツとして再現されたガンプラに乗れて、広大なディメンションを自由に探索できるというのに、人間はかようにお金という呪縛からは逃れられない。

 だから、そうしたお金に纏わる感情からELダイバーが生まれたって何ら不思議なことではないのだろう。

 クルミは小さなアイテムショップの商品棚をぼやぼやと覗きこみながら、そんなことを考えていた。

 彼女がいるのは『カウキアキナイネン』という店名のアイテムショップだ。

 ガンダムXの世界観を再現した『ディメンション・A.W.』の侘しい小さな村の片隅に建てられた個人のお店である。

 GBNでは前身のGPD同様にガンプラバトルが主流であるため、BCを稼ぐ場合やダイバーポイント、あるいはフォースポイントを貯める場合は基本的にガンプラバトルというのが常識だ。

 しかし、バトルを好まないダイバーがいるのも事実であるため、アイテムの売買やアトラクションによってBCやポイントが稼ぐことができるようにもなっている。

 そのためか、今でもGBNのあちらこちらで商いを始めるダイバーも多く、またリアルでもお店を経営しているところがGBNに進出してくるという、VRゲームの中でも恐らく最大規模の盛り上がりをみせていた。

 かつて誰かが言った『VRはもう一つの世界である』と言葉は、確かな説得力を持ち始めていた。

 

「ほんで、買うの買わへんの? ただの冷やかしなら帰ってほしいんやけど」

 

 木製のカウンターの向こう側で退屈そうに本を読んでいた少女がいつまでも商品を眺め続けるクルミの様子に堪えかねたようで、苛立たし気に声をかけた。

 縁のない半円の眼鏡をかけた猫口の少女は、ブラウンカラーの髪を後ろ手に二つに編んで、背中まで垂らしているのが特徴的だった。

 サラやメイとはまた違った、袖の大きなゆったりとした和風サイバーチックな衣装が薄紫のライン模様を歪めて揺れる。

 彼女の名は――シヅナ。

 42人目のELダイバーであり、『商売事』に関する感情から生まれたとされている少女だ。

 ELダイバー言えば今やサラやメイ、チィやセツといった一時の騒動の中心となった存在が有名だが、そういったものに極力無縁を通していたシヅナは彼女たちのように有名ではない。

 と、言うのも当初はセントラル・エリア・ロビーで小さな雑貨店を構えてはいたが、通う客足は品物を購入することよりもELダイバーであるシヅナ自身を一目でも見てみようというダイバーばかりで、ろくに商品に手をつけてはくれなかった。

 彼女はそうした好奇な目に晒されるのが堪らなく苦手だったようだ。 

 だから一度、店を畳んでこのような辺鄙な片田舎とも言える場所でお店を開いているのだ。

 そういった上辺の事情だけを聞けば同情の余地はあるのだが、実際のところはと言うと――

 

「買う、買わない以前にさ、これ何?」

「何って、MS少女のデータキットやけど? 存じておりまへんの?」

「いや存じてるよ!? 私が言ってるのはこれ!」

 

 クルミは目の前の商品を指差しながら、苦い顔でシヅナを見た。

 指の先には可憐な少女が陸戦型ガンダムの装甲を纏ったガンプラが展示されていた。

 それだけならまだ良いが、問題は値札にあった。

 本来なら数字の羅列が書かれているはずの値札には、筆で書いたような達筆で『非売品』と書かれていたのだ。

 そう、シヅナは自身が製作した商品に愛着を持つことが多く、値札に『非売品』と書いては見せびらかす目的で店頭に並べているのだ。気分次第では要相談で売ってくれることもあるらしいが。

 だから売れない。売れるわけがない。あまりにも商売に向いていない。

 本当に商売事に関する感情を起因に誕生したELダイバーなのかと疑問を抱くほどに。もはやチィに一任させたほうがいいのではないだろうか。

 因みにデータキットとはGBNで組めるガンプラのことであり、フォースネストに飾れる家具系アイテムとして数えられている。

 その気になればプラ材アイテムから完全なオリジナル――即ちフルスクラッチも製作できるようになっている。

 ここでしか発売されていないデータキット限定のガンプラもあり、人気によってはリアルでも発売されるということもままある。

 

「ええ出来やろ?」

「それはそうだけど、これじゃあ閑古鳥が鳴くわけね」

「ちゃんと売れる品も置いてあるんやけども」

「いやそれだってジャンクパーツばかりじゃない」

 

 店内の片隅に置かれた木箱の中には雑に積まれた大小のジャンクパーツが埃を被っていた。

 ジャンクパーツと言えばGBNで最も知れ渡るハズレアイテムであり、リサイクルでもしない限りは使い道がないとされている。

 一応、ジャンクパーツそのものを使用した強化パーツなども作成できるようにはなっているが、そういったものは大抵性能が極端に低かったり、発動確率があまりにも微妙だったりと『テム・レイの回路』とどっこいどっこいの効果しか発揮できない。

 ただ、時たま『3%の確率で機体性能を90%引き上げる』といった、これまた極端な成功品が誕生することもあるので、分の悪い賭けが嫌いではないダイバーからは妙な人気を得ていたりする。

 最も、ジャンクパーツ自体は普通にプレイしていれば入手するのに困らないものなので、ここでわざわざBCを払ってまで買おうとする物好きはいない。

 

「失礼な。ちゃんと相談してくれれば売ったりもするで」

「因みに最近何か売れた?」

「……ない」

「ほらやっぱり」

「言うてお気にのばっか欲しい欲しい言うてくるんやもん! そら売れるわけないやろ!」

 

 頬を膨らませるシヅナに、クルミは「はいはい」と適当に聞き流す。

 

「あ、でもちゃーんと売れる品も作ってあるで」

 

 言って、カウンターの棚から取り出したのはオレンジ色にピカピカ光る集積回路のようなアイテムだった。

 テム・レイの回路のような形状をしているが、中身はどことなく近未来チックだ。

 

「装甲値50%の向上に加えて、何と実弾系射撃武器の射程と弾速が30%もアップや! どや!?」

「おぉー、すごいすごい。それで、値段は?」

「ざっと3000万BC!」

「……値段設定下手すぎない?」

「だ、だってずっと非売品か100BCぽっちのジャンクパーツしか売ってこなかったやもん! どない値段にしたらええかわからんねん!」

「商売下手すぎない?」

「言わんといて! 正論は時に人を傷つけるんやで!?」

 

 「わぁー!」と大袈裟な泣き真似をするシヅナ。

 彼女のことをそれなりに知っているクルミは、それに対して動じるようなことはない。

 肩を軽く竦めて、それはそれとしてといった気持ちで出来の良いMS少女たちを見やる。

 いずれもMS少女も、よく見ればガンダムシリーズの主人公のような雰囲気があり、モデルが誰かなのかを何となく察することができた。

 

「ちょっと! 何か言ってや! 流石に放置されるんは辛いんやけども!」

 

 耐えかねたのか、シヅナが勢いよく顔を上げて怒鳴る。

 バンバンと両手でカウンターを叩いたが、思ったよりも堅い材木で構築されたカウンターに逆に手を痛めてひぃひぃと呻く始末であった。

 

「あーもうやってられんわ。……それにしても」

 

 両手をプラプラと揺らしながら、シヅナはクルミの持っている鞄に目を向けた。

 中身には定期健診用の道具が入っていることを、彼女は知っている。

 実は既に受けた後だったからだ。

 勿論、どのELダイバーも必ず受ける注射も受けていた。

 一々ELバースセンターに通うってもらうよりも、抽出したデータ――人間でいう血液を回収して、それを調べたほうが効率が良いらしいとのことだが。

 

「何で注射なんやろな。もっと痛くないやつがあってもええんちゃう?」

「上が言うには“同じ人型なのだから、我々と同じ道具で対応すべし”ってことらしいけど」

「変なところで拘るなぁ。上だけに、上からっぽい言い方も気に入らん」

「向こうは情報でしかELダイバーを判断していないからね。いくら共存やら理解を求めても、そうそうに許容できるほどまだ器用じゃないのよ。実際、ELダイバーの存在の知名度なんてGBN以外じゃまだまだ低いほうだから」

「そんなもんか」

「そんなものよ。こればかりは時間とこっちでどうにかするしかないの」

「ま、ウチはええねんけど。そやそや、実は受注生産っちゅーのやろうと思っててな」

「へぇ? お値段は?」

「要相談!」

 

 二ッと笑って人差し指と親指でCの字を作る。BCのCを意味するものだ。

 ただ実際、受注という形でビルダーとして活動しているダイバーもいるので、クルミから何かを言うことはなかった。後は彼女の問題なのだから。

 

「良いと思うよ」

「せやろ~」

 

 適当に肯定すると、シヅナはさらに子供のような笑みを作った。

 壁にひっかけた時計から鳩の鳴き声が鳴り、午後を報せる。

 

「お、時間や!」

 

 シズナは棚からレトロなラジオを取り出し、ガチャガチャを操作する。すると、

 

『ドーモドーモモード! 今週も始まった心形レイディオ~! お届けするのはご存知窓辺のモクシュンギク……』

 

 聞こえてきたのはミスターMSの声。とすればそれは彼がパーソナリティを務めるラジオ番組だ。

 あの男、意外にも手広く色々なことをやっている。

 クルミは特段興味があるわけでもないので、雑多なBGM程度に捉えてもう暫くMS少女を眺めていたが、

 

「うわーはっはっはっは! い、今のボケはあかんて! 腹捩れるわ!」

 

 シヅナの大笑いが耳朶を打った。

 そういえば彼女はELダイバーの中でもとりわけ笑いのツボがズレていることを思い出す。

 特にミスターMSのボケが想像以上にツボに入るらしい。ついでに言えば彼のファンだったりする。

 

「ひぃー……ひぃー……おなか、おなかいたい……ぅふ、アッハッハッハ!」

 

 バンバンバンとカウンターを叩いて気持ちよく笑うシヅナを見て、クルミも釣られてほほ笑んだ。

 ミスターMSのラジオ番組が終わるまでの一時間、シヅナの笑い声が絶え間なく響き渡るのだった。  




バクシン! バクシンです!

【シヅナ】
 42人目に発見・保護されたELダイバー。
 お金に纏わる『商売事』に関連する感情から生まれたとされている。
 一人称は『ウチ』 二人称は『アンタ』『キミ』『〇〇ねぇ/にぃ』『〇〇のお嬢/〇〇のお坊』など、
 縁のない半円の眼鏡と猫口の特徴的な少女で、背中にかかるほどのブラウンカラーの長髪を後ろ手に二つ結びにして垂らしている。
 袖の大きい着物めいたサイバーチックな衣装を着ており、薄紫のライン模様が飾られている。
 ガンダムXの世界を再現した『ディメンション・A.W.』の辺鄙な片田舎とも言える場所で『カウキアキナイネン』というアイテムショップを開いている。
 自身が製作したアイテム(主にMS少女)に愛着を湧かしてしまい、商品棚に並べられているのはほとんど非売品。
 売ってくれることもあるらしいが、要相談な上に気分次第なため、売れ行きは無いも同然である。
 ジャンクパーツを100BCで投げ売り販売しているが、普通にGBNをプレイしていれば入手にさほど困らないので売れない。
 たまに有用な強化パーツも販売するが、値段があまりにも高く設定されているので買い手がつかない。
 その商売下手さゆえに、他のELダイバーから心配されている。
 勿論、閑古鳥が鳴いているため稼げるわけがなく、恥を忍んで堂々とELバースセンターや他のELダイバーたちにたかりにいっている姿を度々目撃されている。
 総じて言えば『商売事が好き』であって、商売そのものが上手というわけではない。


【モビルドール・シヅナ】
 シヅナのモビルドール姿。
 フィンのような柔軟な袖パーツを武器とする。
 モビルドールの中では小型であり、小回りが利く分、防御力は低め。
 眼鏡はセンサーパーツとして組み込まれている。

【MS少女シリーズ】
 過去に実際に販売されたものを除き、殆どはGBN限定のデータキットとしてのみ実装されている。
 シヅナの製作したMS少女はオリジナルタイプであるため、一点ものである。
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