提督「手を出してはダメだダメだダメだ…(ブツブツ」 作:笑顔号
これから時折、このような形の投稿も行います。
私の名前は朝潮です。この鎮守府に着任して、2年と7ヶ月ほどになります。
私が着任した頃はまだ30名ほどの艦娘しかいない頃でした。その頃の司令官はまだやっと一通りの仕事をこなせるようになったばかりで、数少ない先輩の方々と一緒になって仕事をこなしていました。私も真面目さを買われて着任して暫くは提督の近くで書類をこなすことが多くありました。あっ、けして海に出ていない、ということではありませんよ?ただ、まだ練度も低い私ではやれることも少なく、少しずつ訓練して行くしかありませんでした…。
そんな日々を送って3ヶ月ほど。深海棲艦による大規模侵攻が起こりました。この鎮守府にとってこのような大規模侵攻は初めてのことで流石に古参組の戦艦・空母の方々もこの時ばかりはかなり緊張していました。提督もそれに気付きなんとか緊張をほぐそうとしていましたが、硬さが出てしまい結果として初戦は大敗。出撃艦の12隻のうち2隻を除いて全て中破以上の被害。
この戦いは他の鎮守府の援軍によって事なきをえましたが、この敗戦には流石に提督も精神的にきたみたいでした。結局この敗戦によってその後私たちの鎮守府は護衛任務などの裏方に徹することとなりました。
「今回の侵攻は無事乗り越えることが出来た。2ヶ月近くよく働いてくれた。しばらくは敵の侵攻も落ち着くことだろう…。明日以降1週間ほどは鎮守府近海の哨戒のみ行う。完全に1週間休暇とすることができないのは申し訳ないが、出来るだけこの期間に疲れを取ることに専念してくれ。以上」
なんとか大規模侵攻は乗り越えましたが、私たちの鎮守府は大きな戦果を上げることもなく、苦い経験となりました。司令官の言葉にやっと乗り越えた、との安堵する声が見受けられましたが、やはりほとんどの方はどこか悔しそうな顔をしていました。
それから1週間は司令官は秘書もつけることもやめ「みなは今、休む時だ。」と言い、基本執務室に来ることも禁じ、一人で執務室に籠りました。司令官も今回のことで考えることもあるだろう…と私たちはそれぞれ哨戒と休息に徹しました。
その半ば休暇期間の6日目。
2日前に一度だけ執務室に食事を届けるために司令官と顔を合わせました。少しやつれた様子でしたが、司令官が「大丈夫。」だと言うので深くは尋ねませんでした。しかしそれがいけなかった…。
私は鎮守府近海の哨戒の完了の報告のため執務室に向かいました。司令官はこの期間の報告は「問題なければ必要はない。また来週まとめて報告書を受けとるから各自で作成・保管しておいてくれ」とのことでしたが、数日前の顔を見て、少し心配だったので執務室を訪ねました。
コンコン
「朝潮です。哨戒任務のご報告に参りました!」
…
しかし、執務室からの返事がありませんでした。睡眠・不在などなのかもしれませんでしたが、少し嫌な予感がよぎり私は執務室に入りました。
ギィィ~
「失礼します…。司令官?ご不在でしょうか…?」
その時の執務室はとても静かだったことは覚えています。入り口からだと司令官の姿は見えませんでした。
しかし中へ行くと…
「…っ!司令官!」
机の陰で司令官が倒れているのを発見しました。
司令官の倒れた原因は睡眠不足とストレスからくるものでした。司令官はこの1週間、ほぼ寝ることなく艦の育成から作戦立案の研究、編成や遠征など全てのことを一から練り直していたそうです。
提督が目を覚ましたのは次の日の昼頃でした。
「……ここは…?」
「司令官!気付いたのですね!」
それから提督は医師の検査を経て数日間は安静することが義務づけられました。その後他のみなさんも心配していたため、それぞれ少し話しをして気がつけば夜になっていました。
私たちは数日間提督が無理をしないよう、誰か一人は司令官の元につくと決め、その日の夜は私が担当することとなりました。そこで私は司令官と色々話しました。
「…司令官。なぜここまで無理をなされたのですか?」
「…すまない。」
「そんなに私たちは頼りなかったですか…?」
「…違うんだ。そんなことは無い。私が…私が無力なだけだ…。」
司令官はまだかなり滅入っていたのか、普段はほとんど口にしない弱さを私に話し出しました。
「私はここに来て1年近く経った。私はまだまだなのは分かっている。だが少しずつ上に立つ人間としての自信も出てきていた。それが今回の作戦で…朝潮も分かっただろう?何も出来なかった。結局私は何をしてきたんだろうな…。」
そんな司令官に私はなんとか、そうじゃない!と伝えようとしました。
「司令官は充分やることはやりました!確かに大きな戦果は挙げることが出来ませんでした。でもそれは私たち艦娘が力不足だっただけです。だから提督は何も悪くありません!」
しかし提督は…
「そんなことはない!君たちは本当によくやってくれた。あの敗戦だって私の考えた作戦がずさんだったのだ…。全て私のせいだ…っ。」
司令官はそう言うと俯きました。
「司令官…。」
「そして何よりも私のせいで君たちが沈んでしまうことが恐ろしいのだ…。あの敗戦の日、私の着任して間もない頃からそばにいた加賀が、榛名が、羽黒が…それに他の者達も轟沈寸前まで叩きのめされた。帰ってきた彼女達を見た時、私は…こんな姿にしてしまった私を、無力な私を恨んだ。そして同時に彼女達がいなくなってしまうかもしれない、ということを恐れた。だからこそ、私は彼女達を沈めないよう、もっと私自身が有能になろうと、育成・戦術・資材・艦娘のケア・設備・開発全てを考え直した。その結果が、これだ…。私はどうすれば…どうすれば良いのだ……っ」
司令官は泣いていました。司令官は仕事を手伝わせることなどはあってもここまで弱さを見せることはありませんでした。それほどに司令官の心弱っていました。
私はそんな司令官を見て、私たちの気持ちを正面からぶつけました。
「…司令官。…今、司令官は周りのことが見えていますか?」
「っ……っ…?。」
「みなさん、司令官が倒れたと知った時どうしたと思いますか?全員が一目散に医務室に駆け込んできたんです。みなさんそれは凄い顔をして駆け込んできました。そして皆一様に提督への心配はもちろん、これからもこの人がいないとダメだ、と言うんです。」
「…!」
「確かに今回大敗しました。けれどだからと言って今までが無駄ではありません。みなさんの信頼とここまでのこの鎮守府の成長は全部司令官のおかげです。」
「……。」
「そして司令官は、私たちを引っ張っていく立場であります。そして今、司令官はそうであろうと焦っています。だけど今の司令官は私たちのことが見えなくなっています。そうじゃないんです。もっと私たちを頼っていいんです。もっと私を頼っていいんです。引っ張るだけが良い司令官ではありません。支え合って上を目指すのも立派な司令官です。それで良いじゃありませんか!」
「いいのか?こんな頼りない私で。」
「いいんです。司令官も仰っていたではありませんか!「私達は家族」だと。もっと頼ってください。」
「…っ。ありがとう朝潮…。」
ギュッ
提督は感極まり私を抱きしめました。そんな提督を私も力強く抱きしめ返しました。
この時から私は今まで司令官についていくようにしていたのを横に並んで支え合っていくようになりました。
そしてこの頃から私は司令官のことを意識するようになりました。この人を支えていきたい、と。
そして、今日も司令官は…
「水無月!次はボクの番!」
「えーっ。まだ水無月の番!」
「二人とも。逆方向に腕を引っ張るのは止めような。」
司令官は私たち駆逐艦の相手をよくつとめています。口では困ったふうに言うこともありますが、とても幸せそうな顔をしているので朝潮も幸せです。
でも司令官。いつかは、私にだけその顔を向けて下さいね?私はいつまでも司令官の横でその時を待っています。
はい。少し大人な朝潮のお話でした。(少し朝潮っぽくないかもですが…)
朝潮はどこか提督についていく忠犬ようなイメージがあるのですが(個人的に)、提督を支える良妻、という感じにしてみました。これまで駆逐艦イチャイチャ話だった中、かなり真っ当な話となったと思います。題ともイメージが違うので「時々真面目」のタグも追加しようかと思います。
今後も硬めと緩めの話が混在すると思いますが、暖かい目でご覧頂けると幸いです。