ポケモン剣盾の世界に転生したと思ったら原作から5年後のガラル地方だった件 作:ヤコト
「…夢じゃない、みたいだな…」
お決まりの頬をつねるヤツも試してみたが、やはり効果はない。突きつけられた状況を受け入れることができず、激しく頭を掻き毟る。
あたりを見渡たすとそこにはベッド、クローゼット、デスクにパソコン。テレビのモニターにゲーム機のSwitchが置いてあった。至ってごく普通の部屋だった…まったく見覚えがないことを除けば。
しかも、それだけじゃない。クローゼットの中に手鏡が置いてあったのだが、そこに映った自分の姿が、自分の知る自分ではなかったのだ。そこに映ったのは12〜3歳に見える目がパッチリとした少年。ポケモン好きの冴えない20代ではなかったのだ。
そして寝ぼけながら手にしたスマホ、これも自分が普段使っているものではなかった。さらに開いていた動画サイトも、一見ユーチューブに似ているが、別物。さらにさっきの生放送、配信者は"マクロコスモス"とあった。
「まさか最近流行りの異世界転生ってヤツ…?オイオイ…」
どうやら本当にポケモンの世界、それも剣盾のガラル地方に転生してしまったようだ。…だがどうしても気になるところが多々あった。さっきまで流れていた生放送のことだ。
放送の流れは原作と同じだった。リーグ委員長がチャンピオンを紹介して、その後チャンピオンとそのライバルとのエキシビジョンマッチ。だが、その流れを演じる"演者"が違った。…そう、あれではまるで…。
「…剣盾の未来の話、みたいな…。」
と、そこへ下の階から声が響いた。
「アカシヤ〜〜!!あなたいつまで寝てるの?もうすぐ約束の時間よ〜〜!!」
アカシヤ?まさかこの世界の自分の名前だろうか?…いつまでも部屋に引きこもっていても仕方がない。部屋を出て、階段を降りていった。
「あなたぐっすり寝てたわね。引越しの疲れが溜まってたのかしら?」
知らない女性…。だが、まあなんとなくこの人が"どんな人"かは察せられた、気がする。この世界がポケモンの世界ならこの登場の仕方は、十中八九母親だろう。なんとか上手く情報を聞き出せないだろうか。
「ゴメンゴメン…。…ところで、この町ってなんて名前だったっけ?」
「ガラル地方のハロンタウンよ。これから住む町の名前ぐらい、ちゃんと覚えなさい?:」
ハイ、確定。正直もう分かってたことだが、思わず苦笑いが出る。そして、ハロンタウンか。剣盾の最初の町だな。ポケモン最初の町の例に漏れず、かなりのどかな町だ。
「てか、あなた博士からポケモンをもらう約束があるでしょ?のんびりしてないで早く行ってきなさいよ。」
…えっ?ポケモン?もらえるの?本当に?本当だったら子供の頃からの夢が叶うわけだが、こんなにあっさり、いいんだろうか。
と、そこへ。
「お邪魔しまーーす!!アカシヤ君いますかーー!?」
ノック音とほぼ同時にドアを開け、大きな声と共に、突然女の子が家に上がり込んできた。
「こんにちは。アカシヤなら、ここにいるけど…。」
お母さん(だと思われる人)から指をさされた。女の子のキラキラした視線がこちらへ向く。
「博士に頼まれて、アカシヤ君を迎えに来ました!!」
「あら、博士のお使い?助かるわ〜〜 アカシヤ、いってらっしゃい。」
「はい!!行ってきます!!!」
自分の代わりに、女の子が答えた。
女の子に手を引かれ、なされるがままに家を出て、道なりに外を進んでいく。
肌寒い空気が体を包み込んだ。外の世界にはもう至る所にポケモンが溢れていて、思わず目を奪われる。
「…ガラルのポケモン、珍しい?」
前を走る女の子が目移りしている俺に気づいたのか、足を緩めずに聞いてきた。
「…すごいね。」
そう、答えるしかなかった。のんびり牧草を食べているウールー、その周りで走り回っているワンパチ、柵の上にとまりさえずるココガラ、木の影できのみを取り合うホシガリス達。ゲーム機の中じゃない。現実に、目の前にポケモンがいる。感動で言葉が出なかったのだ。
すると女の子が足を止め、こちらを振り返った。短めの金髪に動きやすそうな格好。いかにも元気そうな、12歳位の少女だ。
「君、ポケモン、好き?」
「うん、大好き。」
自分が答えると、女の子は眩いばかりの笑みを浮かべた。
「だったら、今日からもっっと、すきになれるよ!!
だから、行こ! ホップ博士の所に!!」
そこからまた走って数分もせず、ゲームでも見覚えのある庭に小さなバトルコートがある家が見えた。そこの門にやはり見覚えのある男が立っている。
…"ホップ"だ。あのホップ。ゲームで一緒に旅をした、親友にしてライバル。そのホップがこちらに気付くと、笑顔で大きく手を振ってきた。
「おっ、来たか! お前がアカシヤだな! ようこそガラルへ! オレはポケモン博士の助手、ホップだぞ!」
「ホップ博士、言われた通りアカシヤ君を連れてきました!!」
「ありがとな、エビネ! …それはいいけど、お前ちゃんとアカシヤに自己紹介したか?いきなり家に上がり込んで、攫ったりしてないよな?」
「あっ、しまった!!」
「したのか…。」
うなだれるホップ。…よく見ると、顔はそのままだけど、ゲームでやった印象よりかなり背が伸びている気する、それに何より白衣を着ている。女の子もホップ博士、とよんでいたし、やはりここは剣盾の未来の世界なのか…?
「ゴメンね!挨拶が遅れちゃった!アタシ、エビネ!ポケモントレーナーでーす! 以上!!」
金髪の元気っ娘は、エビネ、というらしい。さっきのマリィの件があったが、今度こそ完全に知らない人だ。
さて、自己紹介を返さないとだが、自分の名前、アカシヤでいいんだよな…?
「俺は、アカシヤ。ガラルに引っ越してきました。よろしく。」
我ながらなんとたどたどしい挨拶。…転生しても、コミュ障は治らないのが辛いところだな。
「よし! じゃあアカシヤ! 今日からガラルで新しい道を歩むお前を祝して
オレからポケモンを1匹プレゼントするぞ!」
ホップが自分の鞄からモンスターボールを3つ取り出すと、次々に外へポケモンを繰り出していった。
「さあ、出てこい!
草のポケモン サルノリ!
炎のポケモン ヒバニー!
水のポケモン メッソン!」
3匹のポケモンがそれぞれにこちらの様子をじっと見つめてくる。
「さあ、どの子を選ぶんだ?」