「やぁっ!」
アスは気合を入れて、最後の一匹を薙ぎ払う。巨大な目玉がぐしゃりと潰れて溶けていくと、ようやく辺りが静かになった。
見れば、他の戦士はもう戦闘を終えているらしい。だったらこっちを手伝ってくれればいいのに。
「つ、疲れたぁ~!」
渓谷中に響き渡りそうな声を上げて、アスは思わずその場にへたりこんでしまう。
上がった呼吸を整えていると、途端に遠くから鋭い叱責が飛んできた。
「アス、そんな雑魚にいつまでかかってるんだ!」
「雑魚ったって、これだけいたら時間ぐらいかかるよ…全く、ヤアヤ姐は厳しいなぁ」
「あんたがそんなにだらけてちゃ、あたしもユバ様に顔向けが立たないんだよ!」
「はいはい、っと」
杖を頼りに、アスは小柄な身を起こす。今日の編成では妖の者はアス一人で、残りの二人は弓の者に槍の者と、比較的身体能力に優れたものが集まっている。
妖の者は足が遅いのは分かり切ってるんだから、二人と足並みを揃えられないのも仕方がないじゃないか。
「アスちゃん、おっつかれー!」
「うわ、急に抱きつかないでよ」
「えー、アスちゃんの反応つまんなーい」
背後からぶつかる様な勢いで飛びついてきたのは、弓の戦士のユウムナだ。
アスよりもさらに華奢なユウムナだが、これだけの数の魔物を狩っても平然としている。
日光にきらきらと輝いているユウムナの白い髪は、天のウルの変異の証だ。
ユバの一族の戦士は皆人間離れした膂力を持つが、突然変異によって生まれた者は、普通の戦士よりもさらに飛びぬけた戦闘能力を授けられている。
そんなユウムナに思いきり抱きつかれても顔をしかめる程度で済んでいるのは、ひ弱な妖の者とはいえ、アスもまた戦士の一人だからだ。
「なんかさ、今日のヤアヤ姐、いつもよりイライラしてない?」
「そうかなー? アスちゃんがさぼってたからじゃないのー?」
「さぼってないよぉ…」
うめくように答えながら、アスは重たい杖を脇に置いて思いきり伸びをする。
「いやあ、今日もよく働いたなぁ。さっさと都に帰って、祈り人たちに癒してもらおう」
「またナーダちゃんのところ? いいなーいいなー!」
「ユウムナも誰かに会いに行けばいいじゃん」
「だって私、契りができないから相手の子がつまんないよー」
「おい二人とも、いつまで喋ってるんだ! 狩りが済んだらさっさと帰るよ!」
遠くから飛んでくるヤアヤの叱責に適当に応じながら、アスは戦闘の痕跡を振り返る。
狩りと言っても、持ち帰れる獲物があるわけじゃない。瘴気に侵された魔物の肉なんか食べたら、せっかく治った祈り人もみんな病気になっちゃうだろうし。
つまんない戦いだったなぁ。そう思うのは、心の中だけにとどめておく。
またヤアヤに怒鳴られるのは勘弁してほしいところだった。